<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25145] 第四話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/13 22:03
Der Freischütz 第四話 「十色十ウィッチ」



「狩谷司軍曹。現時刻マルキュウマルマル(9:00)を以てここカウハバ基地に着任しました」


ピシッとした動きで目の前に居る女性に対し私は敬礼する。
カウハバ基地についたのはほんの十数分前。格納庫にキ60が運ばれたのを確認した後、指令部へ着任の報告に向かったのだ。


「扶桑からようこそ。基地司令部、ハッキネン中佐です。」


眼鏡を掛けたハッキネン少佐という女性はなんというか理知的なイメージを漂わせていたが声を聞くとより一層その印象が強まった。しかし目の前の女性はクールビューティーというよりさらに冷たいオーラを放っている。
挨拶の後、何か話があるかと思ったが特になく何やら忙しそうな様子であった。
私は用意された軍用車によって『義勇独立飛行中隊』の指揮所まで直行というカタチとなったのだが……


「――ここが本当に『スオムス義勇独立飛行中隊指揮所』なの?」


……何というか想像と違った。
『各国選りすぐりの精鋭集団』という宣伝については石間大尉からもらったスオムス義勇独立飛行中隊各隊員のスオムス転属前の詳細書によってやや誇大表現というのは分かっていたけれど、それでも扶桑の穴拭智子中尉やブリタニアのベテラン、エリザベス・F・ビューリング少尉、ロマーニャのエース、ジュゼッピーナ・チュインニ准尉がいるのだ。
それにスオムス義勇独立飛行中隊は創設から現在まで誇張ではない戦果を築きあげてきたというのに……。


(ボロっ!! 元は倉庫とかだったでしょ! ホントにここであってるか? ……でも屋根の下に掛かった看板に扶桑の文字で『スオムス義勇独立飛行中隊指揮所』って書いてあるし)


達筆な字だ。義勇中隊にいる扶桑人は穴拭智子中尉と迫水ハルカ飛曹だが、書いたのは穴拭中尉なのだろうか?
その横にはやや小さく武語(ブリタニア語)で同じ内容が記述されている。
――しかし不自然に破壊せれた箇所が修繕されているのが見てとれるが……。確かここカウハバ基地はネウロイに一度占領されたらしいけど。
疑問を抱えつつも恐る恐る中へ入って見ると……


「「「「着任おめでとう~~!!」」」」

「わっ!!」


いきなり大声を出されて尻もちをついてしまう。地面についたお尻を押さえつつ顔を上げるとそこにはスオムス義勇独立飛行中隊の面子が全員居た。
よく見てみるとやや年季の入った黒板に、これまた扶桑語と武語で『祝着任、狩谷司軍曹』と書かれているのを確認できる。
そこでやっと脳が認識に追いつき、中隊の皆さんがサプライズの歓迎をして私を驚かせたのだと理解した。


「あっ、大丈夫なの!?」


慌てた様子で転んだ私に穴拭中尉が手を出す。手を差し出す穴拭中尉を見て、ふいに中尉の風評を思い出し手を掴む事に一瞬躊躇したが、それでも差し出された手を掴まなければ変に思われると思い差し出された手を掴んだのだが……


「えっ、何!?」


穴拭中尉は私の手を掴むと一瞬体をブルっと震わせ、次の瞬間思い切り私の掴んだ手を振り払った。
突然の事に私は座ったまま呆然とし、振り払われた手に視線を注ぐ。
(どうして手を振り払われた? 私嫌われてる? それだったら最初から手を差し出す意味が分からないし……もしかしてワザと手を差し出して振り払われた? もし噂が本当なら嫌われていた方がいいのかも知れないけど……何で? 私何かした?)
穴拭中尉が他の隊員にジト目で睨まれ、「ごめんなさい。わざとじゃないの。何だか手を繋いでる時に寒気がして思わず手を放しちゃっただけだから」と言っているのにも気付かず、思考の殻に篭ってしまった私。
だがいくら考えても結論は出ず。この時はまさか穴拭中尉に流れる邪を払ってきた先祖の巫女(魔女)の血が憑依させておいた伯爵に反応したとは夢にも思わなかった。
カフハバ基地についてそのまま檻の中に放置というのはさすがにまずいと思った判断が引き起こした出来事なので必然と言われれば必然だったのかも知れないが……


「本当にごめんなさい。 でも本当に悪気があった訳ではないのよ。信じてちょうだい!!」


「それはもう分かりましたから頭を上げてください」


結局、何故穴拭中尉に手を払いのけられたのか(その時には)分からず、穴拭中尉の必死の謝罪によりワザとではない事だけはしっかりと伝わった。


「――それくらいにしておけトモコ、新人にもワザとではないともう充分伝わっただろう」


長髪に黒いコートを着た女性が穴拭中尉の肩に手をおく。カウハバ基地の司令部で会ったハッキネン少佐と同じくクールな印象を受けるがハッキネン少佐と違い、冷たさというよりどこか飄々とした印象を受ける。


「あなたは……」


「エリザベス・F・ビューリング少尉だ。よろしくカリヤ軍曹」


そうだ名前はエリザベス・F・ビューリング少尉、元はオストマルク国際ネウロイ監視航空団で戦っていたブリタニアの熟練ウィッチ。
ビューリング少尉は私に近づき手を差し出す。それ見た私はさきほど手を振り払われた感触を思い出し、手が固まったが「大丈夫だ。こいつの様に払いのけたりしないよ」との言葉に握手に応じる。
近づいてみて初めて気付いたがビューリング少尉は全身から煙草の匂いを漂わせていた。けれど不快というわけではなくどこか安心させる匂いであった。


「次はわたしね、リベリオン海軍所属のキャサリン・オヘア少尉でーす。どうぞよろしく~。あっ、お近づきの印にコーラ飲むね?」


(コーラだ!!)


差し出されたコーラを受け取るとごく自然な動きで喉を鳴らして飲んでいく。あまりの懐かしさに涙が出そうだ。
私は思わず一気に飲んでしまう。


「ありがとうございますオヘア少尉。久々に飲む事ができました」


「えっ、カリヤ軍曹はコーラ飲んだことあるね? トモコもハルカもソーダは飲んだことがあってもコーラは飲んだことはない言ってたけど」


(あっ、しまった。また……)


「…………実家の近くに港があるのですが、そこで知り合ったリベリオンの人がよく飲ませてくれたんです」


「Oh~、そうだったんですか~。だったらもっと飲んでいいね。リベリオンから補給で届いたばかりヨ」


どうやら誤魔化せたらしい。……しかし食べ物や飲み物の事になると何かしらボロが出ることが多い、気をつけなければ。
サーシャさんの時と同じ誤魔化しスマイルでオヘヤ少尉から二本目のコーラを受け取ると私は心の中でそう胸に刻んだ。


「あの~、私はエルマ・レイヴォネン中尉です!! 遠い扶桑からの派遣、スオムス空軍の一員として歓迎します」


「狩谷司軍曹です。こちらこそどうぞよろしくお願いします!!」


ピシッとした姿勢で敬礼するレイヴォネン中尉に同じ様に姿勢を正し敬礼する。
何となく雰囲気的に優しそうで、義勇飛行中隊の中では灰汁が薄そうだなと思ってしまう私。
それにしても……、ほぼ無意識の内に以下の行動をしていた自分に気付き、扶桑海軍の訓練が身に染み込んでいることを改めて実感したが……。


「ひゃっ――」


いきなり胸を掴まれ背中に誰かが密着し為、私は思わず可愛らしい悲鳴を上げてしまう。
あまりの恥ずかしさに顔を赤らめながら振り返るとそこにはロマーニャ空軍所属のジュゼピーナ・チェンニ准尉がいた。


「ピアチェーレ!! ジュゼピーナ・チェンニ准尉よ。よろしくね。 それにしても――ケ・カリーナッ!! 食べちゃいたい」


ぺロリ……と生暖かい湿ったなにかが耳を撫でた。思わず全身の毛が逆立つ。え、私ナニサレテルノ?
(そういえば、穴拭中尉とチェンニ准尉はそういう関係だって船で聞いたけど……、まさか)
そう頭によぎった時、誰かが私とチェンニ准尉を引きはがす。


「こら、この色ボケパスタ女朗!! 私の智子大尉に飽き足らず、私の後輩に手を出すなんてやめなさい!!」


そこには海軍の白い制服を身に纏う迫水ハルカ飛曹の姿があった。


「ハルカったら。ちょっとしたジョークだから怒らないでよ。後、トモコ大尉は貴方だけのものじゃないから」


チェンニ准尉は私から離れたが、離れる直前に耳元で「また今度」と囁いた。
どうやらここがある意味、危険でアブナイ場所なのは確かなようである。


「大丈夫? 私は迫水ハルカ少尉よ」


「少尉? 義勇飛行中尉隊の資料では飛曹だったはず、それに智子大尉って……」


「1週間前に昇進の通達があったの。私は飛曹から少尉、智子中尉は大尉に昇進したのよ。それより本当に大丈夫だった? 気をつけてね。あのパスタの国の准尉はいつもあんな風なの。私は先輩だから何かあったら相談に乗るわ」


優しく微笑んだ迫水少尉はその時の私にとって慈悲深い菩薩の様に思えた。
(頼りになりそうな人、レズだって話もこの人に限っては間違いだったのかも)
……ただチェンニ准尉の激しい洗礼に圧倒されていた私は迫水少尉の『私の智子大尉』やチェンニ准尉の『後、トモコ大尉は貴方だけのものじゃないから』といった重要な発言に加え、私の後ろであった「……あれ、誰ね?(コーラを飲みながら)」、「誰がみても迫水ハルカ少尉だろ。ただし昇進と後輩が出来て舞い上がったあげく自分の事を棚に上げてるが(煙草を吸いつつ)」、「いいじゃないですか、昇進と後輩の登場でハルカ少尉にも先輩としての自覚が出てきたんですから。それにハルカ少尉も初めてできた後輩を慕ってる様子ですし、これで夜のアレが収まってくれたら(微笑ましいと感じている)」、「私、最初はハルカに慕われてただけなのにどうして今みたいな関係になったんだろう(ぽつりと)」、「「「「………………!!(気まずい沈黙)」」」」、「ハルカが食べちゃったら私もつまんじゃおうっと(A・T大尉と同じくポツリと)」という掛け合いに気付かなかった。

断言できる、この時の私の眼は確実に節穴だった……。












「それにしてもトモコとハルカは昇進出来て、なんでミーはできないね?」


ハルカが新人に付きっきりになっている中、唐突にオヘヤ少尉がそう文句を垂れる。


「お前がストライカーを壊しすぎだからだオヘア。整備兵が『オヘヤ少尉はいつも不運(ハードラック)と踊(ダンス)ってやがる』って愚痴を言ってたのを聞いたぞ。それに見学に来たリベリオン武官の『ここでも壊し屋(クラッシャー)オヘアは健在らしいな』発言でそのあだ名もここカウハバ基地で広まっている。昇進したいなら壊したストライカーの分を帳消しするほどの働きをするしかないと思うぞ」


「ビューリングに言われたくないね、自分だって昇進してないのに」


「昇進の話はきている。二階級特進で大尉にしてやるからブリタニア本国に戻ってこいという通達が何度もな。まぁ、あがりを迎えるまではここを離れるつもりはないから断っている。後、一年くらいはここに居るよ。それに……」


ビューリングは「まだ戻って墓参りをする覚悟もできてない」と誰にも聞こえない小さな声で自嘲気味に呟く。煙草を吹かしながら仲間達に目をやった彼女の顔にはどこから寂しいような悲しような表情を浮かべていた。


「私もロマーニャから通達が何度も届いてますけど断ってます。だって昇進したら激戦区に逆戻りで智子大尉とお別れになっちゃいますし。それにカールスラントの子は堅物が多くて全然落ちてくれなかったけどここはウブな子が多くていいです。特にアホネン大尉の部下の子とか……。ビューリング少尉、寂しいなら慰めてあげましょうか、主に今夜あたり」


陽気なチェンニ准尉の発言にビューリングの感傷は見事に打ち砕かれたる。ビューリングは「全くウチの隊は」と笑いを浮かべると「遠慮しておくよ」と答えを返す。


「残念です、でも気が変わったらいつでも言ってください。昔の女なんて忘れるぐらい慰めてあげますから」


その台詞にビューリングは幾夜も続くトモコの喘ぎ声を思い出し、もし自分だったらと想像の中で喘ぐトモコと自分を置き換えてしまう。
想像の中の自分は長い髪を振りしだき、玉のような汗を浮かべて乱れ。泣いて亡き戦友に許しを請いながら何度も何度もチェンニ准尉に撃墜されていた。
カアァっと顔を真っ赤にしたビューリングは顔に手を当てて「Shit!」と小さく呟くと、なんて想像したんだと後悔する。どうやら自分もこの隊にいろんな意味で染まってしまったらしい。
後残り一年でトモコの様には絶対ならないとビューリングは心の中で強く誓った。






「それにしてもカリヤ軍曹は扶桑人なのに何だか欧州の人みたいな見た目をしていますね」


エルマ中尉の発言に義勇飛行中隊の皆さんの視線が再び私に集まる。
ついに聞かれたか……と私は溜息をついた。これについては二度目の人生の中で何度も聞かれた事だ。むしろ初対面の人で聞かれなかった事など数えるほどしかない。親友のりっちゃんも、洋食屋の門屋店長も、海軍の石間大尉も、最近ではオラーシャで仲良くなったサーシャさんにも聞かれた。
穴拭大尉と迫水少尉は気まずそうな雰囲気で私に視線を送る。恐らく書類を見て祖父の部分にカールスラント人としか記入していない所や父の欄に故人と書かているからいろいろ察してくれたのだろう。


「はい、祖父がカールスラント人なもので」


こちらとしては何ら後ろめたい事はないので堂々とした態度で答える。


「Oh! ユーのグランドファーザーはカールスラント人なのね。どんな人ヨ?」


「会った事はありませんが誇り高いカールスラントの軍人だったと祖母から聞いています」


「会った事がないってカリヤ軍曹が生まれる前に死んじゃったってことですか?」


「いいえ、祖父は名門貴族の一員で祖母は扶桑の魔女だったので結婚を周囲に反対され引き裂かれてしまったそうです。写真も残っていないので祖母や祖母の話を昔から聞いている母の話の中でしか私は祖父を知りません」


エルマ中尉の問いにはっきりそう答えると穴吹大尉と迫水ハルカ少尉の気まずい雰囲気が周りに伝播する。エルマ中尉は話題を変えようとし「じゃ、お父さんはどんな人なんですか」と尋ねてくる。


「父の事も母と結婚してすぐ私が生まれる前に死んだので写真の中でしか知らないのですが、優しくて立派な人だったと母が良く語ってくれました」


その返答にこれまた周りの空気が重くなる。だがこういう事は最初に言った方がいいと私は思うのだ。後からいってこちらの印象を変えられるよりよっぽどいい。
私はそのまま言葉を続ける。


「確かに私には父も祖父もいません。家族は母と祖母だけでした。でも父と祖父の分まで、いえそれ以上に母と祖母は愛を注いで私を育ててくれましたから寂しいと思ったことはありません。それに私よりも寂しいと思っているのは母と祖母のはずですから」


祖父と引き裂かれたばっちゃも結婚してすぐに父と死別した母も、何も父や祖父の事を知らない私より何倍も辛い筈だ。
胸に両手を当てて眼を閉じれば母とばっちゃと過ごした日々の事が鮮明に思い出される。第二の生を受けて約十年、私を育ててくれた家族。
私は最初から前世の私だったわけではなく、少しずつ前世の記憶が染み出す様に溶けあい今の私があるのだ。
前世の私と母とばっちゃに育てられたこの世界での私が溶け合う事で今の私があるのだから、母とばっちゃが現在の人格の土壌を生みだしたと言えるだろう。
だからこそ今の私が居る事を母とばっちゃに感謝しなければならないのだ。

――そうこう回想していると目の前には眼をウルウルと潤ませる穴拭大尉と迫水少尉の姿があった。


「……何ていい子なの。11歳になったばかりで従軍してきて苦労したのね。安心して私が何でも助けてあげるから」


「いいえ面倒見るのはこの私、迫水ハルカです!! 私の後輩なんだからこれだけは智子大尉といえど譲れません。先輩の私にいつでも相談してね。辛いならこの私が慰めてあげるから」


「わーい。智子大尉、面白そうだから私も混ざりますね」



穴拭大尉と迫水少尉、それにチェンニ准尉が私に抱きついてきた。苦しくて息が……、っ! 何かやわらかいのがあたってるし! ちょっと!! そんな所弄らないで!!


「……何やってるんだ。自己紹介はトモコ以外終わったしそろそろ倉庫の車のエンジンも温まってきただろうから、後のカリヤ軍曹の入隊歓迎は街の酒場に行って……」


ビューリング少尉が言い終える前に基地のサイレンがけたたましい音を上げる。


「……どうやらカリヤ軍曹の歓迎を私達より早くネウロイがやってくれるらしい。主役をエスコートしてさっさとパーティー会場へ向かうぞ。メインディッシュの食い残しは主催者に失礼だ。――骨も残さず喰らいつくしてやろう!!」


口端をつりあげ皮肉そうに笑みを浮かべるビューリング少尉に義勇飛行中隊の皆は苦笑し、同意する。
三人に解放された私も苦笑いを浮かべると義勇飛行中隊の皆の後ろについて指揮所を出た。






格納庫のハンガーに行くと既にキ60は発進準備が整えられていた。他の義勇飛行中隊のメンバーもそれぞれのストライカーを穿いていく。
私はキ60の暖機をしてくれた整備員に礼を言うといそいでキ60を穿いた。
既に憑依させていた伯爵を顕現して、自身の魔力を最大まで高める。
最初は少しずつ、次第に多く。まるでアクセルペダルを踏み込んで車の調子を確かめるように魔力をキ60に注ぎ込んでいく。
聞きなれたキ60戦闘脚のエンジン音とプロペラ音は私にコンディションを伝えてくれた。


「みんな発進準備はできた?」


複数のストライカーユニットの音に負けない穴拭大尉の声がハンガーに響き、皆もそれに応えていく。


「扶桑三番、OTR(オン・ザ・ランウェイ)です」


最後に私がそう返答すると智子大尉の「スオムス義勇独立飛行中隊全機離陸開始!!」の掛け声と共に私達はカウハバ基地を飛び立った。






「そういえば聞いてなかったけど司軍曹は何の戦闘脚を穿いてるの?」


「キ60試作戦闘脚・海軍改修仕様です穴拭大尉」


「キ60って陸軍機じゃない。それに海軍改修仕様って」


空での移動中にキ60について尋ねてきた穴拭中尉は驚いた様子でキ60について尋ねようとしたが、耳につけた通信機に通信がきたようで「基地に帰ったらまた教えて」と言うと元に位置へと戻っていった。


「こちら穴拭大尉です。アホネン大尉、――えっ!! 分かりました。今回は私達が前衛を務めます。――みんな、編隊を変更するわ!  扶桑一番(私)と扶桑二番(ハルカ)と扶桑三番(司)で三機編隊(ケッテ)。ブリタニア一番(ビューリング)とロマーニャ一番(ジュゼピーナ)、スオムス一番(エルマ)とリベリオン一番(オヘア)で二機編隊(ロッテ)よ。アホネン大尉の第一飛行中隊は今回、後方支援に回るそうなので私達が前衛を務めます。――目標が見えてきたわ、全機散開!!」


穴拭大尉の声に合わせ、私達は散開し指示通りに編隊を組む。
目視して確認できた敵の数は艦上戦闘機のカタチをとる小型ネウロイ『ラロス』(十中八九、旋回性と防御の上がった改型だろう)12機と中型爆撃機のケファラス3機が編隊を組んでこちらに向かってくる。
穴拭大尉と迫水少尉の後ろに追従する私は装備している対ネウロイ大型ライフル、PzB39を構えると即座に発射した。大尉と少尉の間をすり抜けケファラスに取り巻くラロス改の一機に向かって飛んでいく。
標的となったラロス改は優れた旋回性を活かしこちらの弾を避けようとするが、こちらも避けさせるつもりは毛頭ない。


「――曲がれ」


そうであれと自らに暗示を掛けるように言葉に出すことで私の魔弾は最大限の力を発揮する。
一直線に滑空していた7.92mm弾の軌道はラロス改の旋回に合わせるように唐突に弧を描き、弾丸は先端のプロペラを模した部分から後方へとネウロイを突き抜け、もう一体のラロス改の側面主翼の付け根から侵入すると内部から分厚い装甲を抉るように滑り、やがて静止する。
貫かれたネウロイは両方ともコアを抉られており、まるで砕けたガラス細工の様に消滅した。


「「……すごい」」


「穴拭大尉、迫水少尉。ラロス改は私がやります。大尉達はケファラスを!!」


穴吹大尉は頷くと、随伴である迫水少尉を連れてケファラスの一機へ接近する。私はケファラスの残りの随伴ラロス改二機に銃口を向けるが……。
突然の発砲が側面から私を襲い、急いでシールドを張る。視界を横へとずらすとそこには新たな十二機のラロス改編隊が居た。

(しまった。――急いで穴拭大尉達と合流を!!)

合流を果たす為、魔道エンジンの出力を上げるが十二機のラロス改の内、四機が行く手を阻む。
後方のアホネン大尉の中隊に援護を期待しようにもどうやらあちらも新手と戦っている様だ。
いくらウィッチとはいえど、12機にネウロイに囲まれて四方八方から撃たれたら……。
額に嫌な汗が浮かぶ。このままじゃ、私は…………。


(――我が名を呼べ、我が主よ)


死を予感させたその時、私の中の何かのイメージが走った!!
紅い双眸、以前どこかで私はあの瞳を――――。
十二機のラロス改に囲まれつつある中、私が何かに魅入られ静止していると……。


「こら! そこの長髪、ぼうっとしてんな!!」


「危ないから、ちょっとどいていてください」


私を取り囲んでいたラロス改の内の二機に魔力の篭った銃弾が雨のように降り注ぎ、撃墜される。
ハッ!となり私は援護に来てくれたウィッチ二人に目をやる。幼かったサーシャさんの同じくらいに見えるから私と同じ十一歳くらいか?
穿いているストライカー、あの寸胴なフォルムはリベリオン製ストライカー、バッファローか!
既にリベリオン本国ではF4Fワイルドキャットの登場で旧式化したストライカーだが自国のストライカーを持たないスオムス軍に貸与されている筈。
ということは一部仕様が変更されているスオムス空軍輸出用のType/B-239。


「でもイッル、やっぱり指示を無視して前に出てきて良かったの?」


「いいんだよニパ。あんな百合大尉の話をイチイチ聞いてちゃ戦場に出た意味がないじゃないか。『前に出ないで後ろから戦闘を見てなさい』って、私らは見学に来た訳じゃないっての!」


イッル、ニパと呼び合う二人の少女は両手で保持した短機関銃・スオミKP/31を構え発砲し、私を囲んでいたラロス改を追い払った。


「救援感謝します。私はスオムス義勇飛行中隊所属、扶桑海軍の狩谷司軍曹です」


「……なんだ、同郷かと思ったけど独立中隊のメンバーか。百合大尉の命令違反の言い訳に『同郷の魔女の危機を見過ごすわけにはいけなかった』とか言おうと思ったけど……まぁ、義勇軍の魔女でも変わらないな」

イッルと言われたどこか少年っぽい印象を受ける少女はこれまた少年のような容姿をしたニパという少女を引き連れ、私の死角をカバーするような位置で静止する。


「私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン、こっちは……」

「ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン、親しい人からニパって呼ばれてる」


私は体勢を立て直すと再びPzB39をネウロイに構え直した。


「エイラさん、ニッカさん。貴方達は第一飛行中隊の所属なんですか?」


エイラさんが言っていた百合大尉というのは女好きって噂のミカ・アホネン大尉だと思うのだが……。


「あんたの方が年上っぽいし、敬語はいいよ。エイラって呼んでくれれば。後、私達の所属は第一飛行中隊じゃない。まだ訓練兵だ。ウィッチ養成学校の突然の思いつきで『訓練課程の最後として実際の戦闘を体験して来い』って言われてはるばるカウハバ基地に来たんだ。なぁ、ニパ」


ニッカさんは頷くとKP/31の射線をエイラさんに合わせ、ラロス改をもう一機撃墜する。
訓練兵の実戦投入ってもう何でもアリだなウィッチって……。百合な魔女もいるんだからおっぱい星人の魔女もいるんだろうか?
思考の連鎖が訳の分からない方面に向かっていた私だが、エイラさんの声にて正常な思考に引き戻される。


「お前、ツカサとかいったけどまだ戦えるな。私とニパの後ろに付いてこい。即席の三機編成(ケッテ)で艦上戦闘機モドキを攻撃するぞ」


「――分かりました」


穴拭大尉達と分断された今、単機での行動は危険と判断し、エイラさんに随伴する。
エイラさんの空戦機動は凄まじかった。ニパさんも訓練兵とはいえない動きだがエイラさんはその動きの二、三段上をいく。
まるで未来が見えているかのようにラロス改の機銃の雨を回避していく。
元の世界とこの世界でも一部の人間から『空飛ぶビヤ樽』と烙印を押されたストライカーとはとても思えない。
陽の光に反射して煌めくバッファローはまさしく『空飛ぶ真珠』に相応しい機体であった。
私達三人は即席の編隊であったがラロス改を次々撃破し、標的を大物の大型爆撃ネウロイ、トゥーバリュフに移す。


「ち、硬てぇな!」


エイラさんは愚痴りつつニッカさんと共にトゥーバリュフの表面装甲を弾丸で引きはがしコアを探し、私はそれの援護をする。


「見つけた。背中の真ん中にある紅い装甲部分の下だ」


「分かりました。私が表面装甲を引き剥がしますから、二人はコアを頼みます」


二人が頷くのを確認するとトゥーバリュフの上まで高度上げ、二発の弾丸を発射する。二発の弾丸はネウロイの光線を交わしつつ軌道を変え、目標の場所に着弾した。


「今です!」


着弾と同時に二人のKP/31が剥離した装甲部に火を噴く。KP/31のドラム式マガジンから計71発の弾が全て吐き出されんばかりに発射され。やがて数発がネウロイのコアに確かに到達した。


「「やった(ぜ)」」


大物撃破を喜ぶ二人、しかしネウロイは最後の手土産と言わんばかりに一発の光線を発射する。
エイラさんは反射的な動きでそれを避けるが、後ろに居たニッカさんの片方のストライカーを掠めた。


「えっ!!」


破損した影響か片方のストライカーのエンジンが停止し、バランスが取れずに急落下した。


「おい、ニパ!!」


急いでエイラさんは降下しようとするが新たなラロス改の攻撃に降下するタイミングが遅れる。

――こうなったら私が……!!

私はほぼ垂直に真っ逆さまにニッカさんを追って降下する。


「おい、そんな角度で下がったら後で上昇できなっ」


途中でエイラさんを追い抜かす時に何か聞こえたが関係ない。今はニッカさんを助ける事だけ考える。
全力で降下していった私はニッカさんを捕捉した。背中に背負っているPzB 39の先端がニッカさんに当たらないように注意しながら近づき両手で抱き寄せる。


「――曲がれ」


ほぼ垂直に下へ向かっていた進行方向を固有魔法にて無理やり上へと変更していく、少しずつ少しずつバランスを崩さないように下降から上昇へと軌道変更した私は空へと戻っていた。
途中で上昇に加わったエイラさんも含め、私達三人は元の高度に戻っていく。


「……ニパ、お前も運がないと思ったけど初陣で墜落するとはな」


「私もそう思う、まさか油断している所に攻撃受けて地面にキスしそうなるなんて……、ありがとうツカサ」


明るい少年のような笑顔に、思わず見惚れそうになる。


「いえ、私も助けてもらいましたしお互い様ですよ」


なんとか平静を保ちニッカさんに答えた所、エイラさんが意地の悪い笑みを浮かべ。


「ニパ、そうやって抱きかえられているとまるでお姫様みたいだな、さしずめツカサは王子か」


その言葉に私とニッカさんは思わず顔を赤くした。
エイラさんに対し、私とニッカさんは反論しようとするがエイラさんに遮られる。


「どうやら戦闘が終わったみたいだ。百合大尉と赤白服のウィッチが近付いてくる。大尉に説教を食らうと思うから弁護してくれよツカサ。私とニパはお前を助ける為にしょうがなく先行したって」


悪戯小僧のような笑みを浮かべたエイラさんを見て私は若干乾いた笑いを浮かべると、ウィッチにもいろんな人が居るんだという事をカウハバ基地一日目にして深く実感した。












後書き


今回も急いで書いたおかげで予想より早く書けました。しかし今後はどうなるか……



補足



・バッファロー

史実ではアメリカのブリュ―スター社により開発された艦上戦闘機。
運用開始当初、ドイツ第三帝国のBf109に敵わないが黄色人種の日本人には勝てる筈と人種差別的な観点から極東、シンガポール、マレーシア戦線に配備されキ43や零戦と交戦したがほとんどが撃墜、日本軍パイロットから『空飛ぶビヤ樽』と蔑称を受けることに…………どうしてこうなった!!
しかしフィンランドに輸出された性能を落としたB-239型計43(44?)機は1941年6月から1944年頃まで働き、実に444機の敵機を撃墜し『空飛ぶ真珠』と呼ばれた。
この差は一体どこから出たやら……。


・スオミ KP/-31

フィンランド国防軍が使用していた短機関銃。スオミ KP/-26の改良型。71発のドラム弾倉に加え、20、40、50発の箱型弾倉も使用可能。銃口初速は396m/s、発射速度は750~900発/分。冬戦争(ソ連のフィンランド侵攻)時、フィンランドの善戦に一役かった武器。
かなり優秀な武器であったが欠点は重い事(6kg以上の重量でドラム弾倉を装着すると全部で7kgを超えた)。


・エイラ・イルマタル・ユーティライネン

ストライクウィッチーズ本編の主要キャラの一人。
まだ運命の人には出会う前。


・ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン

公式キャラ。
通称ニパ、ついてないカタヤイネン。後の第502統合戦闘航空団所属。同じスオムス空軍に容姿が似てるハンナ・ウィンドがいる。


・その他登場人物

小説版ストライクウィッチーズ・スオムスいらん子中隊をよろしく!!


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.037128925323486