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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第三話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/21 20:35
Der Freischütz 第三話 「北の善き魔女と古き夢」


「――では貴方の使っているキ60はBf109系列の機体が使用している液冷魔道エンジンと同型の物が積んであるのですか……。確かに機体の構成がBf109に似ていました。けどキ系列ということは扶桑陸軍が開発したストライカーユニットですよね? 何故、海軍のあなたが……? あっ!! すいません。出過ぎた事まで聞いてしまって」


場所は目的地だったオラーシャの港にあるとある食堂。そこで私は初実戦の際に救援に駆けつけてくれた小隊の隊長、アレクサンドラ・I・ポクルイーシン准尉に質問攻めを受けていた。
本来ならばすぐにでも補給船から積み荷を降ろし私もその補給物資と共にスオムスに向かうはずだったのだが、私が遭遇したネウロイの件でゴタゴタがあり積み荷が降ろせない状態で足止めを食っていた。
そんな中、艦長の計らいで数時間だけオラーシャの港を回る許可を頂き船から降りた所、偶然アレクサンドラ・I・ポクルイーシン准尉に遭遇し港町を案内してもらっていて現在に至るわけだ。

「ポクルイーシン准尉は先程からストライカーユニットの事に関して楽しそうに話していますが、好きなのですか?」


現在キ60の話をしているが96式艦上戦闘脚改の話から始まりキ27、キ43『 一式戦闘脚「隼」』、キ44ときて現在の話題となっていて、付け加えるならそれらについて話すポクルイーシン准尉は何というか恍惚とした表情をしている。


「私の父が機械技師で私も幼いころから機械を弄ってましたから機械弄りが趣味なんです。後、さっきから何度も言っている通りサーシャって呼んでください。隊の仲間もみんなそう呼んでますから。」


にこりと笑う彼女を見つつ、私は注文した紅いスープを口に運ぶ。食堂のボルシチの味は私に確かな前世のロシアと現在のオラーシャの繋がりを感じさせた。


「別にキ60の事は機密ではありませんのでお答えできます。キ60はキ61とほぼ同時期に開発が始まったのですがキ60がカールラントから取り寄せた液令魔道エンジンを搭載したのに対して、キ61は取り寄せた魔道液冷エンジンを参考にしてエンジンから開発を始めましたが、開発が遅れた為にキ60だけ先にロールアウトし性能評価を行いました。そこで不採用となり陸軍の倉庫でお蔵入りしてた所を海軍が陸軍から移譲してもらったんです」


「移譲ですか?」


「はい、重戦闘脚であるキ60を零式艦上戦闘脚の改修や次世代機の開発の参考にする為に」


「けれど扶桑海軍は開発した最新鋭機、零式艦上戦闘脚は軽戦闘脚ですし、話に出てきた陸軍のキ61も同じく軽戦闘脚として開発されていると聞いています。格闘戦に重きを置いている扶桑のウィッチの戦闘脚としてはあまり参考にならないのでは……」


彼女の意見はもっともだ。零式艦上戦闘脚は傑作機というべき軽戦闘脚で後継機や改修機の参考に試作の重戦闘脚を持ってくるのはおかしく思えるはずであろう。
だが、


「零式艦上戦闘脚は軽戦闘脚であり長い活動時間と高い運動性を両立し魔力量消費効率も大幅に良くなりました。欧州派遣部隊でのベテランウィッチ達も高い評価を下しています。しかし防御力、展開できる魔力障壁の強度が他国の次世代機と比べて高くありません。欧州激戦区での戦いを考えると軽戦闘脚よりも重戦闘脚の様な防御力や機動性の高い機体が必要だと扶桑海軍は感じてきているのです」


そうなのだ。零式艦上戦闘脚の高性能は前世のゼロ戦と同じく、防御力を犠牲にして成り立っている。要するに悪く言えば紙装甲(前世ほどではないが)。防御の無さを空戦機動でカバーできる『当たらなければどうという事はない』的な熟練ウィッチはいいのだが、そうでない新兵のウィッチが零式艦上戦闘脚の防御の薄さが致命傷を招く可能性がある。
カールスラントの事実上の陥落により欧州での戦いは激化し、前線からは多少の活動時間や運動性は犠牲にしても攻撃力や防御力、機動力を確保したいという意見も出ている事もあり。扶桑海軍は今後の開発の参考に重戦闘脚であるキ60を持ってきたのだ。その提案や移譲の交渉に深く変わっていたのが石間大尉である事を聞いた時は私も驚いたけど。


「移譲されたキ60は計三機で、二機は本国で様々な実証試験を行い、残りの一機である私の機体は実戦でのテストを行っているという訳です。一応、移譲後に陸軍から海軍に仕様変更の改修があったのでキ60試作戦闘脚改と言う事になるのですが私はキ60とそのまま呼んでます。その後陸軍でもキ60を見直す動きが出てきていて、陸軍に残っているキ60をキ61に合わせて再度調整中という話を聞きました」


ちなみに海軍の広告塔部隊から外された後、いきなりキ60の貸与が決まったのでキ60が来るまで96式艦上戦闘脚改から陸軍機のキ27に練習した後、キ60を穿き始めた。本当は同じ陸軍機の重戦闘脚であるキ44を使って練習を行いたかったが、前線への投入の為都合がつかなかった。


「そうだったんですが……」


ポクルイーシン准尉、いやサーシャさんはオラーシャアン《ロシアン》ティー(※本場じゃジャムを入れるのは全然一般的ではない)を飲みながら納得したという表情をしている。


「それにしても……」


サーシャさんはカップを皿の上にゆっくり置くと……、


「オラーシャ料理の事をよく知ってるんですね。扶桑のウィッチはメニューは読めてもメニューに書いてあるオラーシャ料理がどんなものか分からないと先輩ウィッチの方から聞いたことがあったんですが……」


ギクリ……とスープに持っていったスプーンを硬直させる。そういえば扶桑ではオラーシャ料理には影も形もなかった。ただ前世では料理好きだったのもありロシア料理もそれなりの知識がある為、案内された店のメニューを見てすぐに即決してしまった。
サーシャさんがそれが適当でないと考えたのは俺がパンやスープに魚料理などをバランスよく注文したからだろう。。
もう少し悩んで料理を決めていたらどんな料理か分からないんだと勘違いされてサーシャさんに声を掛けられ気がついたかもしれない。


「――以前、本で見た事があるんです。私は料理が趣味なんでそういう本を良く見てますから、そこで知った料理を注文しただけです。それより救援の時、穿いてたストライカーユニット。あれってMiGですよね。オラーシャの広報の写真で見た時は試作機製作中ってありましたが完成したんですか?」


日本人(扶桑人ではなく)が誤魔化しの時に使う典型的な笑みを浮かべながら話題を変えると、サーシャさんはいきなりどよんとした雰囲気に変わった。


「あの~、聞いちゃいけない話でしたか?」


「……そう言う訳じゃないです。あの機体の事は各国にもう伝わってますから。――あの機体、MiG51っていうですが欠陥があって正式採用できない機体なんです。」


「欠陥ですか?」


「はい,一定以上の速度に達するとその……、空中分解を引き起こしてしまうんです。MiG設計局は他の設計局と共同で新規の機体を開発していますが並行してMiG51の設計の一部を変更する事で欠陥を改善できないかと腐心しています。陸軍から出向してきた私達が再設計機の評価試験を行った所、結果は芳しくなく。空中分解には至らなかったものの最高時速に達すると機体が異常振動を起してしまいました」


……最高速度で空中分解というフレーズに衛星軌道上を幻影の様に疾(はし)っていった某ツインマッドのMSを思い出したが、よくよく考えたらあの話は第二次世界大戦中のゴーストファイターの話にインスパイアしていた事を思い出す。そういえばこの世界にもHe 100というストライカーユニットはあるのだろうか? あるとしたらカールスラントなのだが……。

しかし……


「こう言っては失礼なのでしょうけど、よくMiGの評価試験の任務をお受けになりましたね。事故が起こるかもしれないと怖くなかったのですか。それにそんな機体で救援なんて……」


「MiG51を穿く際は足に厳重な保護を施して、背中にはパラシュートを背負って行っていました。確かに怖かったですがオラーシャではストライカーユニットの開発は難航し、正式採用化された機体は未だにありません。現在オラーシャが運用しているストライカーは他国の旧型がほとんどなのが現状で。MiGが他局と共同開発しているMiG60は共通フォーマットこそ完成しているものの、実用化にまだまだ時間がかかります。私は少しでも早い正式採用機の導入を願ってMiG51の試験飛行に志願しました。最初は一人で行くつもりでしたが小隊のみんなも『隊長だけに任せておけない』って付いてきてくれて……。本当に私その時、嬉しくて……」


その時の様子を思い出してか、感極まったようでポロリと涙を零すサーシャさん。
こちらの会話の内容が届いてない為か、店を切り盛りしている熊の様な胆っ玉母さん系の女性はこちらをギロリと睨みつけてきた。どうやら私が彼女を泣かしたのと勘違いしたらしい。


「サーシャさん、これで涙を拭いてください。綺麗な顔が台無しですよ」


黒ジャケットのポケットからハンカチを取り出すとサーシャさんに渡した。何とか場を取り繕おうと自然に出た言葉が『綺麗な顔が台無しですよ』とは恥ずかしい……。
だが感極まっていたサーシャさんの耳には意味のある言葉として響かなかった様子で「ありがとうございます」とハンカチを受けとるだけだった。


「……涙を拭いたら落ち着きました。ごめんなさい、仲間の言葉を思い出したらあの時の気持ちを思い出し涙を流してしまいました。救援の件ですが……、その時ちょうど海上で実銃に弾を込めた銃を持っての機動性試験を行っていたもので……。MiG開発局としても欠陥が改善されてないからこそ、データをきっちり取って次に生かしたいと思っていますから。そこで偶然扶桑海軍の艦からの救援を受け救援に向かいました。本当なら海軍のウィッチ隊が来る筈だったのですが距離が近かったことや実弾装備の状態など偶然が重なり私達が来たという訳です。オラーシャのあんな所にネウロイが出るなんて初めてですから、とにかくすぐにでも状況を確認する必要もありましたし」


成程と……私は得心する。なぜ陸軍所属のサーシャさんが救援に来てくれた理由や後続で来たオラーシャ海軍のウィッチのストライカーが他国の物であった事など疑問に思っていったのだがそういう事情があったのか……。


「納得しました。やはりあそこまでネウロイが接近してきたのは初めてなんですか?」


「えぇ、あそこの航路は現在の扶桑―オラーシャ間だけではなくアフリカ―オラーシャ間での補給ルートでもあるので上層部も大騒ぎしています。このままではオラーシャだけではなくネウロイのアフリカ大陸侵攻も現実味を帯びてきたわけですから……」


ますますマブラヴ染みてきたと私は勝手に思う。このままF-4って名前のジェットストライカーが出てきたり、翼がベーンブレードになっているSu設計局製の機体に乗るスカーレットツインとかいうコンビが出てきたり、扶桑で将軍家専用の超高性能近接格闘戦仕様の機体が出てくるまで戦いは続くのだろうか?
分からない。開戦当初はまだしも扶桑海戦でのウィッチの戦いぶりとストライカーユニットは確かな希望を人類に示した。
しかし現状での人類はネウロイに勝利できていない。オストマルクに続き、カールスラントは首都ベルリンが陥落。欧州はゆっくりではあるが確実にネウロイの侵攻を許している。
まぁ、BETAの侵攻後ほどではないが一度ネウロイの瘴気に包まれた土地は動植物が生きられない土地となりウィッチ以外では侵入できず、瘴気を払うにはネウロイとその巣を消滅させる以外に手段がないのだ。
そんな考えを巡らされていると、この世界でアインシュタイン博士の名前を全く聞かない事を思い出した。もしかするとこの世界にはいないのかもしれない。
この時代の時点であの兵器が誕生しない事は良い事であると自分は思うのだが。

――ふと自分の頭の中から現実に回帰してみるとサーシャさんは落ち込んだ表情をしていた。


「どうしたんですかサーシャさん? 何か気に障る事を私しましたか?」


「いえ、せっかく案内を頼まれてお食事できる所に連れてきたのに私が話をふった所為で機械や軍関係の重い話ばかりにしてしまったから。女の子が普通にする様な内容ではないですし……。ずっと黙りこんでいるのでもしかして不快な思いをさせてしまったのではないかと」


「いえそんな事全然ありません。ただ考え事していただけです!」


「……本当ですか?」


さっきの涙で涙腺が弱くなっているのか再び泣きそうになっているサーシャさん。
熊のみたいな食堂のおばちゃんは武器にできそうな肉切り包丁を見ながらこちらを睨んでる。滅茶苦茶怖い!!


「本当です。私、女の子だけど機械や機械弄りは好きですし(前世は男だったから)。あんまり同年代の子とも話題が合わなかったからこうやって色々話せて私嬉しいですよ。だから何でも聞いちゃってください」


今気付いたがこの食堂内でサーシャさんとした会話はおよそ小学生ぐらいの女の子達がする会話ではないんじゃないだろうか。軍に入ってから1,2歳しか離れていない先輩達とそういう会話ばかりしていたから麻痺してたけど今考えるとかなりおかしい。
いや、しかし私の様に幼い年から従軍している子もいるだろうし、現にサーシャさんは年が12歳なのに会話が成り立ってる訳で……。
思考の袋小路で迷う私は肩を掴まれるという物理的な行為によって引き戻される。意識を戻すと肩を掴み、顔を至近距離まで近づけるサーシャさんが確認できた。


「本当になんでも聞いていいんですか?」


妙な迫力に押されて肯定の意を示すと……。


「良かった。じゃあ――、キ60についてもっと詳しく教えてくれませんか。できればキ61についても特に扶桑で開発中の液令魔道エンジンとか……。後、私前線に出た人から話を聞いてネウロイに有効な動きや戦術を纏めてるんです。司さんが新兵なのは聞きましたがあの最後の至近距離での射撃、前線のウィッチの話でも有効だと聞いたのですが一撃で仕留めるなんて凄い!! 一体どうやったんですか? それに私、固有魔法『映像記憶能力』というのを持っていて一度見たものは正確に思い出せるんですが――あなたの空戦軌道、旋回している途中にスライドする様な動きに変わったりしてましたがどうやったんですか!?」


マシンガンの様に飛ばされるサーシャさんの質問に私は苦笑する。
追加注文を取りつつ、どこからともなくノートと鉛筆を取りだしたサーシャさんの質問に答えていった。
質問にしながらもネウロイとの戦闘に有効な戦法などを教えてくれるサーシャさんとの会話はとても有意義なものだった。ただし結局会話の内容は年相応の物ではなかったが……。









スオムス カウハバ基地 スオムス義勇独立飛行中隊指揮所



「ビューリング、あの報告どう思う」


穴拭智子は隣にいるエリザベス・F・ビューリングにオラーシャ近く、数時間前にあったオラーシャ内海でのネウロイとの戦闘報告について意見を求めた。
ビューリングが「一服いいか?」とポケットを軽く叩く仕草をすると智子は若干ビューリングから離れて、「どうぞ」を返す。智子は使い魔であるキツネの「こん平」を憑依させることにより全身に薄い魔導シールドを張り、煙が届かないようにした。
もう半年近い付き合いになる両者の仕草や、間の取り方は洗練された物となっている。
慣れた手つきでマッチと紙煙草を取り出すと火をつけて紙煙草を咥えてゆっくりと吸い、煙を吹き出すビューリング。


「すごい戦果だな、ウチの新人は……。着任前に大型ネウロイを仕留めるなんて、しかも実質一人で戦った様なもんなんだろ。これで私も楽ができる」


「そうじゃなくて、オラーシャ内海にネウロイが出てきた事の意見を聞きたいの」


「…………欧州全域地図はどこにしまってあったかな」


そうビューリングが呟くと智子は棚の一つからさっと地図を取り出し机に広げた。


「ネウロイはオラーシャ内海のかなり北、本土手前に現れたわ。上の予想では大分防衛戦をネウロイに喰い破られたオストマルクの南東から黒海に出てそのまま繋がってるオラーシャ内海に北上したと見ている。……これって大分ヤバイわよね」


智子は地図のオストマルクに指を指し、その指を黒海、オラーシャ内海へと動かした。


「千年以上前に中東方面の大地が消えて出来たオラーシャ内海、これのおかげで極東オラーシャと扶桑の貿易だけではなく、西側オラーシャとも昔から盛んに行われていた訳だが……」


ビューリングは地図上のオラーシャ内海に指で×マークをなぞった。


「オラーシャ内海にネウロイに押し寄せてきたら扶桑からオラーシャ西への航路が使えなくなる。そうしたらスエズ運河を経由してロマーニャやガリヤ、ヒスパニア、それにブリタニアへの航路しか使えなくなるわね」


「いや、そちらも使えなくなるだろう。オストマルクから黒海を抜けてきたんだ。だったらスエズ運河にも来るだろう。そうしたら次はアフリカだな」


「アフリカに敵が来るっていうの!!」


驚く智子であったがビューリングは煙草を吹かしながら何て事はないといった表情で話を続ける。


「オラーシャシャの戦線もだんだん東に圧されているし、オストマルクの下はアフリカ大陸と繋がってる。奴等は寒さや大河や海洋を渡るのを嫌う傾向があるから、オラーシャの戦線がこのまま下がるか突き崩されればエジプトに南下してきて一戦あるだろう」


「今でさえガリア、ヴェネツィア、オラーシャ、スオムスと来ているのにこれ以上の攻勢面を増やすわけ……」


「増やすさ奴等は、――絶対にな。それに奴等は進化を続けている。最初は航空機、次に戦車、そして数か月前には私達ウィッチを摸倣してきた。どうも奴等は自分の脅威となる物を模倣しようとする節がある。それはお前も体感済みだろ」


ビューリングの言葉に智子は数ヶ月前に遭遇した魔女型のネウロイを思い出す。あれから人型ネウロイは確認されていないがアレが大量に前線に出てくるのを想像するとぞっとした。ウィッチの姿をし、ウィッチと同等の力を持つ敵。そんなモノが現れたらこちらの士気がどれだけ落ちることやら。
それに仮にその二つのルートが使えなくなれば扶桑やインド等からの補給ルートはアフリカ大陸の最南端の希望峰を通って、ブリタニアに行くかジブラルタルを通って地中海を抜けるルートしかなくなり輸送にかかる時間はかなり延びてしまう。

「すぐにか数カ月先か分からないがネウロイは確実にエジプトに来る。そうなった時、エジプトの戦力だけでネウロイに太刀打ちできるのか……」


ビューリングの危惧は皮肉な事に、ほんの3ヵ月後現実のものとなる。











――――夢を見ている。
不思議な夢だ。朝起きると見た事全てを覚えていない。
まるで蜃気楼の様。
――ぼやけた霞の様でゆらめく陽炎の様でもある。
でも確かにそこに見えている……、そんな夢を私は見ていた。





――少女が立っていた。
満月の下に、唯一人、ポツリと……。当然の如く存在していた。
私と同じ銀色の髪に、私とは違う紅い瞳をした少女は月下の元に立っているのだ。
――少女は待っていた。狂おしい思いで待っていた。

――まるで恋人を待ち続ける様に。
――まるで親友を迎え入れる様に。

愛しい、愛しい……。愛しくて堪らない自分の怨敵を月の下で待ち続けていた。


「待ちかねたぞ――」


その声は年相応の物だった、まるで小鳥がさえずる様な少女の声だった。
その声色は年不相応の物だった。その声に含まれた艶はおよそ少女のものではなく幾重にも年を重ねた不毛地帯を連想させた。

――少女は笑う、勇猛果敢に迫る宿敵たる魔女の勇気に……。
――少女は嗤う、己に挑む愚かな魔女の蛮勇に……。


「覚悟なさい、伯爵!!」


騎士の様な恰好をした魔女は己が持つ鉄の槍に雷(いかずち)を纏わすと全力で少女に投擲した。
雷の力と魔女自身の怪力が合わさった超電磁投擲法と言うべき驚異の技だった。

神速の如く、空気を貫き滑空する。
神速を越え、少女を貫こうと疾駆する。
それはまさしく稲妻の槍だ。

超常の暴力は確かに少女の胸を貫こうとする。だが――


「遅い――」


少女は槍をごく自然に掴んだ。
化物は槍を当然の如く掴んだ。
ただその行いが不変の理であるかの様に……。


「どうした? その程度か我が宿敵よ。その程度なのか我が怨敵よ。――否、否! 断じて否だ!! 我が天敵たる魔女ならばそんなモノではあるまい。さぁ夜はまだこれからだ。早く! 早く早く!! 早く早く早く!!! 向かってこい! 我が愛しい敵よ!!」


とても尊しそうに。
とても滑稽そうに。
少女の姿をした化物は魔女に向けて笑みを浮かべた。


「――っ! あなただって魔女でしょうに!!」


腰から剣を抜いた魔女は憤る様にそう叫んだ。


「違うな、間違えるな。――私は血を吸う怪物だ。私以外が私をそう定めた。――私は血を糧とする化物だ。他でもないこの私がその運命を受け入れた。だから私はヒトなどではない!!」


魔女の斬撃をどこからともなく出した深紅の剣で防ぐ。
その剣戟は舞踏の様に。
その剣戟は演奏の様に。
ただただ純粋な闘争を具現させる。


少女/化物は長い時を経て、数え切れない魔女と戦ってきた。自身の魔導障壁をランスへ纏わり付かせていた魔女。自身の放つ矢を無数に増やす事が出来る魔女。姿を動物に変える事が出来る魔女。一瞬で別の場所に転移する事が出来る魔女。自身の体を超高速で回復する魔女。異国から渡来してきた白と赤のいでたちをした魔女もいた。


少女/化物はその全てを打ち倒し、血を自分の糧とした。生き残る為に……。

ただ生きる事に疲れ果てるその時まで……。


「なっ……!!」


魔女の剣は少女/化物の心の臓を貫いた。
全く意図せず。
全くの不意に。
まるで少女/化物の方から貫いてくれと言わんばかりに胸を突きだした形となった。
魔女は急いで剣を抜こうとするが、深紅の剣が魔女の剣を両断した。
少女/化物を貫いた剣は杭のように少女/化物の胸に残る。


「なんでっ……!?」

「――これでゆっくり眠る事が出来る。そう永遠の眠りに……」


穏やかで満ち足りた表情をした少女に、魔女は駆け寄る。


「答えなさい伯爵!! 何故一度倒して血を吸った私を生きて返した? それだけではありません、他の魔女達も!! 民を虐げ、暴虐を働く者をあなたは殺したかもしれませんが、無辜の民に何一つ手を出さなかった。どうしてです!? 答えなさい! 伯爵!!」


「……さぁ、貴様の様な人間には分からぬさ。何故なら私はヒトではなく化物だからな……」



魔女の問いに少女がそう答えると深い眠りについた。

長い長い眠りに……、彼等が襲来するその時まで……。



……………………………………
…………………………
………………



「あれ、ここは……」

そうだ、鉄道で移動した後、今度は空中輸送艇に乗り換えてカウハバ基地に向かっている最中だった。
それで仮眠を取って……。
何か夢を見ていた気がするけど何の夢を見てたんだろう?
思い出せない……。


「あっ、伯爵! また外に出てる」


最近になって伯爵は用意した籠の中から抜け出してしまうようになったのだ。
元から賢いと思っていたが困ったものだ。まぁ、抜け出しても眼の届く範囲にいるからいいのだが……。
やはり広い土蔵で飼っていたから狭い籠の中はお気に召さないのだろうか?


私は伯爵を籠に戻すと再び眠りについた。



髪に隠れてみえない首筋に二本の牙が突きたてられた痕がある事など全く気付かずに…………。











後書き


更新遅れると思ったけどそんな事もありませんでした。(ただ正月明けは本気で忙しくなるので今度は本当の本当に更新がかなり遅れます)

読んだ後、読者は『最後あたりのパートだけ話が別モノだ』と言う。(JOJO的な意味で)
作者がどんな漫画が好きかも大分分かったでしょう。


後、アフリカの☆(誤字じゃありません、わざとです)読んだら設定で乖離してる所や矛盾してる所がありましたがパラレルだと思って許してください。お願いです(切実に)。
ちなみに世界の地形は穴ぼこだらけの小説版を準拠しています(中○とか中東あたりにでかい穴が空いてる。オーストラリアなんてコロニー落としみたいな跡がある)。


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