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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第二話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/12 22:22
Der Freischütz 第二話 「初めての……」




前話より数か月……一九四十年

私こと狩谷司は半年の訓練を経て船に揺られ海を渡り、スオムスへ派遣されている真っ最中だ。
半年というのは短いと言われるかもしれないがウィッチの二十歳前までしか戦えない事を考慮し、できるだけ早く前線に出れるようという考えがあっての事らしい。
中には碌に訓練を受けずに前線に出る例もあるそうだ。
何も訓練を受けずに戦場に出るとは正気の沙汰とは思えない。居るのなら顔を見てみたいものである。


一九四〇年現在、欧州の状況は芳しくない。オストマルクに続きカールラントは五月にベルリンが既に陥落し、現在カールスラントとオストマルクに隣接するガリア、ヴェネツィア、オラーシャにネウロイが大挙して押し寄せてきている。
人類が築き上げてきた戦争の歴史から鑑みて攻勢正面を多面に増やすことなど考えられない戦法だが、ネウロイはそれを実行してきた。
この為、こちらも多面攻勢に対応する様ウイッチの数を増やさなければならない。
そのあたりも訓練期間が短くなった要因の一つとして間違いないだろう。


「しかし配属がスオムスとは……」


いきなり配属が激戦区ではなかったのは素直に喜ぶべき事だろうが……。
やはり配慮があったのだろうかと思い。あの優男風の大尉との最初の会話の一言が思い出される。


『君には海軍の新たな広告塔となって欲しい。正確にはその候補の一人なのだが』


優男風の大尉、石間清治(いしま きよはる)の話はこうだった。現在扶桑海軍は新しいウィッチの広告塔を探している。
扶桑のウィッチの中で広告塔といえば陸軍出身の穴拭智子が有名である。
自分は軍属になる前は友人やラジオで名前を聞くだけで詳しく知らなかったがここ半年でかなりの事情を知った。
通称「扶桑海の巴御前」で自称は「白色電光(の)穴拭」。
白色電光穴拭というとなんだか語呂的に某機動戦士を思い出してしまうのは自分だけであろうか……。
――とにかく彼女は有名だ。プロパガンダ色が凄まじい映画、「扶桑海の閃光」にも本人役で主演して国民に絶大な人気を得た。
扶桑軍に入隊する幼き魔女たちの志望動機の6割近くが彼女に憧れてというものだそうだ。
しかしそれが問題となった。彼女に憧れて入った魔女たちは彼女の戦い方を真似ようとする。つまり単機による近接空中格闘戦をしようとする傾向にあるが、その戦い方は現在の対ネウロイ戦で言えば悪手に分類される。


ネウロイは度重なる人類――いや魔女との戦いを経て学習してきた。ネウロイの大型化や小型種の連携を始め、さまざまな行動を取るようになり初期のウィッチ達のドックファイト戦法はよほどの実力者でないかぎり通用しなくなった。
それだけではない、飛行型から派生し陸上で活動する戦車型ネウロイや、光線ではなく視認しにくい小型の弾丸を高速発射するタイプまで割と初期から出現してる。
あの学習能力といい、雲の様な巨大な巣といい、何かとBETAを連想させるがグロくないだけマシである。


話が逸れたがとにかく穴拭智子に憧れて軍に入ってくれるのは軍部の目論見通りだが、彼女の戦闘スタイルまで真似ようとするのが問題なのだ。
ある程度は訓練で矯正できるが我が強い者は前線までそのスタイルを貫こうとする。――そして自身だけではなく同じ隊の仲間まで危険に巻き込む。


『かつて武子君が智子君に対してした危惧が扶桑所属の魔女全体規模で起こっているとは皮肉な事だな』

そう石間大尉は言っていた。


陸軍は何とか事態の打開を図る為、カールスラントで義勇軍として戦っている加藤武子やスオムスの穴拭智子その人の現在の活躍が隊の仲間との連携あっての勝利と強調して国民に宣伝しているが一向に効果は上がらない。
例え映画であろうとその戦いを一度、目に焼き付けてしまった者にはいくら穴拭智子達、エースの活躍が仲間との連携によるものだと謳ってもその仲間たちというのはエースを引き立てるおまけにすぎないのだろう。
それに扶桑の魔女いや巫女達の先祖は多数の敵に対し単機で戦い、巫女同士ではお互いに名乗りを上げて一騎打ちをしたという。
そうした血が彼女達の戦い方に確実に影響している節もあるのだ。


そうした現状に痺れを切らした海軍は新たな広告塔を立てることにした。
単体ではなく隊単位で活躍する存在。
アイドルならソロではなくユニットで活躍する広告塔というわけだが、私はその件に関して絶賛選考外となってしまった。
理由は私が創設しようとしている広告塔の隊に入ると私だけが目立ってしまうからだ。
まず容姿、私の外見は外国人なのだ。地元でも港の方に行くと外人さんに間違われて話掛けられる事もあるほどに。
それに年齢――身長は変わらなくとも年齢は他の候補の子達と比べて2,3若い。
極めつけは私の固有魔法、自分が思うに後方からの遠距離射撃に使えば援護に最適かと自分で思ったのだが、訓練をしていく過程で戦い方次第では単機で大型を倒す事も十分可能でありうるというお墨付きを教官からもらってしまった。
私が入れば広告塔の隊の均一性を崩してしまう。
結局の所、私は海軍の求めていた新たな広告塔とは対極に位置する存在だったという訳だ。


私を推薦してくれた石間大尉には申し訳なく謝罪した事もあったが石間大尉はいつもの様なやさしそうな笑みを浮かべてこう言った。
『確かに君は今海軍が求めている広告塔像とは違ったが君には光るものがある。それを感じたからこそ君を海軍に推薦したんだ。前線に出れば君は素晴らしい活躍をしてくれると思う。年齢的にいきなり国境線沿いの激戦区はきついだろうから智子君が居るスオムス辺りが望ましいが……。とにかく個人としては君を応援しているよ』

最初は頼りなく思えた大尉だが、入隊してから海軍中でも相当な切れ者で海軍の情報部とも懇意にしているという話を聞いた後は不思議と心強く感じた。
今回の欧州への補給に合わせた単身でのスオムス行きも彼が根回ししてくれたのではないかともっぱらの噂だ。


しかし配属先がスオムス義勇独立飛行中隊とは……。ここは例の彼女、穴拭智子中尉が率いていた部隊だ。
それはいい、それはいいのだが……私は輸送艦の護衛に編成されている航空母艦の中である話を聞いたのだ。
発端はあまりに暇すぎる船の中で普段の乗員が一体何の話をしているのかと伯爵を憑依させて聞き耳を立てたことにある。

『だから本当なにだって穴拭中尉は…………』

『やめましょうよそんな話、穴拭中尉や……義勇中隊の方に失礼ですよ!!』

どうやら穴拭少佐や彼女の隊の事を話していると分かったその時の私は、ラジオをチューニングするように彼らの声の波長に耳を合わせた。
すると……


「お前が何と言おうとな穴拭中尉は女好きなんだよ。百合だ百合、武語(元の世界でいうところの英語)で言う所のレズビアンって奴だ」

えっ!! どういう事?


「だからそう言う根も葉もない話をするなと言っているんだ!! だいだい何の根拠があってそんな話を……」

「忘れたのか、俺はほんの数ヶ月前まで、整備兵としてスオムス義勇独立飛行中隊が居るあのカウハバ基地に居たんだ。部下の迫水ハルカ飛曹とジュゼッピーナ・チュインニ准尉が夜な夜な穴拭中尉の部屋に入っていき……吹雪がない静かな夜には数刻と立たずボロな造りの宿舎からは噛み殺したような喘ぎ声が聞こえてくる。あの基地では日常茶飯事な出来事だったよ」


ゴクリ……と片方の士官が喉を鳴らす音を私は確かに聞いた。何なんだこの会話は!?
この二人がわい談の様な話をしているのはいい。海の男というのは男だらけでずっと海に居るせいでアッチの気に目覚める事が多いと聞く。
そういう事態を防止する為に本能的に女性の少し卑猥な話題を男同士で話し合う事でガス抜きをし自身の正常性と健全性を守るのは仕方のない事だ。
しかしこの話題は何だ!! 穴拭中尉が女好き!? そんな話は聞いていない。
ウィッチはその能力を守る為に男性と接触を極力しない環境でウイッチ同士つまり女性同士で長期間生活する。
そしてその中で女性同士の倒錯的な関係に至る事もあると聞いたが自分の隊の隊長が、あの巴御前の穴拭智子がそうだとは夢にも思わなかった。


「しかしあの穴拭中尉が一体何故?」

「スオムスを行く前は恋人はキューナナ(キ27飛行脚)みたいな人だったからな。やっぱり原因はスオムスへの配属だろ。扶桑海戦で活躍した同期はみんなカースラントに派遣が決まったのに一人だけ当時はネウロイなんて襲来していなかったスオムス。そこでの挫折が中尉を変えたんじゃないか。あとミカ・アホネン大尉の影響もあったかもしれない」

「ミカ・アホネン大尉?」

「金髪ロールでデコが広いスオムス空軍飛行中隊隊長さ、。あの人も女好きだが穴拭中尉とは桁が違う。あの人自分の部下を妹って呼んでてさ。部下の子達には自分をお姉様って呼ばせてるんだがその妹達と乳繰りあってるんだ。しかも誰が居ようと何処であろうと。こっちがハンガーでせっせとBf109Eを整備してるってのに隣で《妹》の耳に舌を入れてたのを見た事もある。あの人にとっちゃ男なんて手足の生えたジャガイモくらいにしか見えてないんだろうよ」


また一つ知らなくてもいい事実を知ってしまった。
ミカ・アホネン大尉の名前も知っている。渡された資料の中、配属予定の基地のウイッチの名簿欄に彼女の名前を見た記憶があるのだ。
アホネンって何だが間抜けな名前だなと印象に残っていたがそんな人だったなんて……。


「しかし……それがもし本当ならあの狩谷軍曹は御気の毒だな。そんな百合百合しい隊に配属されるなんて」

「あぁ……、純朴そうで何も知らなそうな子だったからな。それがもしかしたら穴拭中尉やアホネン大尉の手で――」


ゴクリ……と彼ら二人が喉鳴らす音を聞いて、これ以上聞きたくないと伯爵の憑依を解く。

(もう嫌っ!!)

りっちゃんが書いてくれた激励の手紙だけが唯一の癒しであると思えた私は手紙を読み返すことで現実逃避することにした。



…………………………
…………………
………



『しかし本当の本当にその話は確かなんだな?』

『う~ん、そう言われると……アホネン大尉の話は断言できるが穴拭中尉の方は……、でも喘ぎ声は確かに聞いたし迫水ハルカ飛曹本人がよく『穴拭中尉は女好き』とか『昨日の夜も穴拭中尉はずっと私を放してくれなかった』っていってたから確かだと思うぞ』



…………………………
…………………
………



スオムス カウハバ基地 スオムス義勇独立飛行中隊指揮所


「後数日で扶桑の新しいウィッチが着任するのね。これでやっとウルスラの抜けた穴を埋めることができるわ」


元倉庫のさびれた建物の中で穴拭智子はそう呟く。
既にウルスラ・ハルトマンは隊を抜け、南リベリオンにあるノイエ・カールラントの研究機関に入っていた。
ウルスラは考案していた新技術をまとめたモノをしかるべき所に送っていたのだが、それが目に留まり採用が決まったそうだ。
採用通知が届いた後のウルスラの変化は隊の中も驚くものであった。暗く陰鬱した雰囲気は消え去り、明るく朗らかな雰囲気へと変わったのだ。
本人の話曰く、それが本来の地であったらしいが希望していた研究職を双子の姉であるエーリカ・ハルトマンのウィッチとしての資質から『お前も姉のように才能があるはず』だと周囲に無理やり軍に入れられ段々とあの陰鬱とした性格になってしまったらしい。
それから事ある事に姉であるエーリカと比べられ、何とか研究職に就こうと新型航空爆弾のテストを行ったが功を焦りすぎた為に失敗。自分の所属していた飛行一個中隊を壊滅に追い込んでしまい自暴自棄になっていた所、スオムスへ転属になったと語っていた。


それは誰だってあんな暗い性格になると智子は思った。
昔の自分ならただの敗北主義者と切って捨てたかもしれないが今は違う。
誰だって完璧という訳ではない。人には何かしら欠点があったり過去に傷を持っていたりする。だからこそ仲間と協力する事が大切なのだ。
智子はその事をここスオムスで強く深く認識した。


「……しかし新しく来る狩谷って子も灰汁が強そうな子ね」


配属に先んじて届いた彼女、狩谷司の履歴に目を通す。


「まだ11になったばかりらしいけど体重や尊重を見ると14,5歳に見えるわ。見た目は欧州の子っぽいのに両親どちらとも扶桑人って……、祖父がカールスラント人なのね。それにしても綺麗な子だわ、まるでお人形みたい――はっ! 何考えてるの智子!! 馬鹿馬鹿!! 私の馬鹿!!」


私はノーマル、私はノーマル、私はノーマルと念仏でも唱えるように呟く智子であったが部下であるハルカやジュゼッピーナ准尉と幾夜も熱い夜を過ごしている彼女の言葉に何ら説得力はなかった。
けれど少なくとも彼女の精神衛生を正常に保つ上で必要な儀式的かつ形式的な行為ではあった。


「気を取り直して……あっ、この子料理が趣味で得意って書いてある。ウチの隊じゃ料理できるのは少ないから助かるわね。へ~、この子固有魔法持ってるんだ。えーとこの子の固有魔法は……」




同時刻……


「――繰り返す、6時方向敵大型ネウロイ発見。現在敵の距離は4000」


船の中で何度も警報が鳴り響き、伝令は敵ネウロイの襲来を告げている。
現在の地点は終着点であるオラーシャの港まで後数時間と言う所、そこから陸づたいで鉄道等と輸送機を使いスオムスのカウハバ基地に行く予定だったのだのが唐突に奴等は現れたのだ。
待機任務中だった私は傍らにある自分の愛機と武器に目をやった。


「いきなりの実戦、ウィッチは私一人。恐らくこの距離ならオラーシャからのウィッチ増援を頼んでも最低十数分はかかる……」


やれるのか? 実戦経験のない私に……。
いや、やるしかない。
今ここで一番ネウロイと戦えるのはウィッチであるこの私なんだ!


私は自分を奮い立たせると急いで準備を始めた。





「えぇいっ!! こんな所にまで大型ネウロイが来ているとはオラーシャの連中は何をやっていた!?」


航空母艦の中で艦長は悪態をついた。無理もない、自分達も危機に陥っているがすぐ眼と鼻の先にはオラーシャがあるのだ。それをここまで侵入を許した事に艦長は憤りを感じていた。


「艦長、真後ろから現れた事を考えると、おそらく敵はオストマルクからオラーシャとの国境を避けて南東から海に出たのではないでしょうか。そこからオラーシャへ北上している最中我々と接触したのかと。あくまで想像ですが」

例えそうだとしても今ここにいるネウロイはオラーシャ周辺に張り巡らされた監視の目をすり抜けてきたということになる。偶然かあるいは意図的なモノか。
艦長に進言した副官は前者であってほしいと願った。

「どちらにしろ我々が抜かれれば、次はオラーシャが標的となる。なんとしてでもここで食い止める。ここでおめおめと行かせれば扶桑海軍の名折れぞ!!」


「艦長、発進準備が整いました。昇降機を上げてください!」


唐突に響いた声に艦橋の艦長や副官とその他一同は驚くが瞬時にその声が乗艦していたスオムス派遣予定のウィッチ、狩谷司軍曹だと分かると彼女が自己紹介で言っていた事を思い出した。


『固有魔法というわけではないのですが使い魔を憑依させた状態で音波に魔力を重ねて遮蔽物に関係なく通常より遠くに声を飛ばしたり任意の場所だけに声を伝えたりも出来ます』


「その声、狩谷軍曹かね? こちらの声は届いているか」

「はい艦長、問題ありません」

「しかし、実戦経験のない君を出すのは……。それに君の装備は支援用の遠距離射撃装備のはず」


遠距離射撃装備のウィッチは精密射撃をする為、空中制動を行う必要がありその場合はネウロイのいい的となる。よって遠距離射撃装備のウィッチが力を十全に発揮するには前衛のウィッチとの連携が必須なのだ。
ここでのネウロイとの戦闘は完全に想定外でありウィッチの装備は彼女が持ってきた自前の物だけで他にない。
そんな状態の彼女を出撃させていいものか思案する艦長であったが……。


「時間稼ぎ位はできます!! 艦長、発進許可を……」

「艦長、オラーシャからの返信が来ました。付近を飛行中だったウィッチの小隊を向かわせたそうです。到着までは約12分!!」

「……分かった。狩谷軍曹、決して無理をするな。到着までの時間を稼げればいい。――昇降機を上げろ!! 狩谷軍曹が発進する!!」

「ありがとうございます艦長!! 狩谷司、これより発進準備に移ります」



昇降機が上がり、私は甲板へと出る。
私の衣服は通常の扶桑海軍ウィッチが着るセーラー服にスカート(軍に入隊して初めて知ったがこの世界ではベルトと言うらしい)だが上にウィッチ用の黒ジャケットを羽織っていおり、手には黒色のオープンフィンガーグローブを着けていた。
ジャケットは自前で購入したものだ。ウィッチは全身に薄いシールドを張る事が出来るのでどんな格好でも風避けや寒さなどとは無縁なのだが上に何かを羽織ってはいけないという規則もないのでこんな恰好している。
正直な所、セーラー服のまま魔法少女みたく飛ぶのが嫌だったのだ。
ただ下の装備は泣く泣く紺のスク水装備を受け入れたが。
……空を飛ぶ際、パンツを見せるかスク水を見せるか究極の選択であった。


使い魔である伯爵は当然憑依させており頭からはコオモリの耳が生え、スク水の切れ目(スカートもといベルトに隠れみえないが)から悪魔の尻尾の様な尾が生えている。
ベルトを肩から下げて両手で保持している武器はPzB39(パンツァービュクセ39)、元いた世界では第二次世界大戦時にドイツが使用していた対戦車ライフルである。
この世界では対ネウロイ用装備としてカールラントが開発したが一撃離脱を好むカールラントのウイッチは眼もくれず、既にPzB39より扱いやすいブリタニア開発のボーイズ対ネウロイライフル(元の世界では対戦車ライフルだが)があり他国のウィッチからも使われず、お蔵入りになったものらしい。
それが様々な諸事情から扶桑に提供され今は私の武器となっていた。


そしてストライカーユニットも通常のモノではない。
キ60試作飛行脚、キ44「鍾馗」をも超える重戦闘飛行脚を開発する為に試作されたストライカーユニットである。
ドイツのストライカーユニットBf109にも搭載されている液冷魔導エンジンを搭載し飛行テストではオリジナルBf109やキ44に比べ速度や操作性では勝っていたが格闘性能の面でキ44に及ばず正式採用に至らなかった不遇の名機。
それを私にPzB39と共に貸与してくれたのも石間大尉であった。
PzB39はどこから持ってきたか分からないし、キ60は陸軍の要請で試作された機体だ。そう考えるとそれを調達してきた石間大尉はますます底が知れないと私は思った。
だが、それらが私とすこぶる相性が良かったのも事実だ。


「魔導エンジン始動開始……」


私は魔法陣を展開しキ60に魔力を吹き込んでいく。キ60もそれに呼応するように回転数を上げていった。


「狩谷司、これより発進します」


その言葉と共に甲板を駆け、私は空へと飛翔した。


私は大型ネウロイの注意を引く為、急いで艦隊を離れPzB39を構える。
元の世界では単発・ボルトアクション式だったPzB39だが航空戦でウィッチが使う事を考慮してかボーイズと同じく五連発・ボルトアクション式の機構になっておりさらに私の意向でバレル部を切り詰め、取り回しを良くしている。
それでも全長は元の162cmから140cm、私の身長ほどのサイズだ。
その化け物の様なライフルをネウロイへと向けた。
現状でもPzB39の有効射程圏内だが大型ネウロイを貫通させたいならもう少し近づかなければいけないしショートバレルにした分、命中性能も悪く反動もボーイズより酷い。遠距離射撃が得意なウィッチでもこの銃で敵に当てるのは至難の技だろう。
ただ、それはセオリー通りの話ならばだが……。


私は狙いもつけず、移動したままでPzB39を発射した。
7.92ミリの弾が初速1452m/sという凄まじい速度で発射され大きな反動が私を襲うが魔力で強化された力で無理やり抑えつけ、そのまま構わずボルトを引き排莢を行い次弾を装填し再び発射する。

狙いの付けられていない二発の弾は確かにネウロイの方に向かうが、このままいけば命中する事はまずありえない……はずだった。


「曲がれ――」


真っ直ぐ飛んでいるだけの弾は、突如としてまるで生きてるかの如く、ぐにゃりと向きを変える。
弾はまるで獲物を見つけた二頭の猟犬が如くネウロイへと喰らいつく。
着弾時、爆裂と煙が発生し煙が晴れた後、そこには表面装甲が二か所剥離したネウロイの姿があった。


「……やっぱり距離を詰めるか弾に込める魔力の量を増やすかしないと奥まで貫通しないか」


ネウロイの装甲が修復されるのを観察しながら私は呟く。
私の固有魔法――、それは移動物体の方向操作。攻撃系、念動系、感知系などに大別される固有魔法の中では念動系に属すモノで正確に言えば自身の魔力の込めた物体の力の向きを操作するという能力だ。
ただ物体の質量に比例して必要な魔力量が多くなるのであまり巨大なモノの向きを変えることはできない。
ジャガイモを投げた時もこの能力で向きを変えたのである。
駆逐艦の攻撃に反応したネウロイも二発の弾でこちらをより脅威と判断したらしく艦隊から離れこちらに光線を放ってきた。


「じゃ、時間稼ぎといきますか」


私は充分距離を取りながら光線を回避していき、PzB39で再び牽制を開始する。
シールドを張りつつ、大型ネウロイの周りを飛んでいく。距離も取っているからか殆ど光線は当たらなかった。
光線がシールドを捉えた時、最初はおっかなびっくりであったがシールドが完全に光線を弾くのを見て安心できた。
しかしながらやはりキ60の速度は凄い。まだ十数回の使用だがそれでも練習で使用していたキ27に比べれば段違いの出力である事は体感できる。
ただ重戦闘機の宿命かキ27に比べて旋回(格闘)性能で劣っているが、それは私にとって些細な問題にすらならなかった。
再び来る光線に対し私は旋回しての回避行動を取る。
旋回して光線を回避していくが途中で旋回中の自分を光線が捉えそうになるが旋回途中から横へ滑る様な動きに切り替え避けきった。


「こうゆう動きにも応用できるから便利だな、固有魔法って」


そうなのだ。私は自身の動きの向きを操作する事によって光線を回避したのだ。
訓練学校時代、飛行訓練最中に私はふと思いついた。
魔力を込めたモノの向きを変えられるなら魔力の源である自分自身の向きも操作できるのではないか?と。
目論見は見事成功する。
ただ持続使用は魔力消費量が大きいので向きを変える時の補助として使用するのが限界だが、それでもより自分の思った通りに空を飛ぶ事ができるようになった。(しかしながら教官からは『皆は泳ぐように空を飛んでいるがお前は空を滑るように飛んでいる。そのままだと正しい飛行の基礎が身についてるか分からない』と言われ封印した時期もあるが)


「だいたいパターンは読めてきた。あそこからなら至近距離まで近づけるけど……」


もう十分は経過しただろう。オラーシャからの通信が正しければすぐに援軍が来てくれるはずだが……。
私は聴覚を研ぎ澄ます。小型のプロペラ音が数機、だんだんとこちらに近づいてきているのが分かる。


「…………来た!!」


その声と共に無数の火線がネウロイを貫いた。


「オラーシャ陸軍所属のアレクサンドラ・I・ポクルイーシキン准尉です。救援に来ました」


「扶桑海軍所属の狩谷司軍曹です。救援感謝します」

現れたのは4人の魔女だった。使用してるストライカーは恐らくMiG系列の機体だと思われる。
名乗り出た子は幼い印象を受けたが、階級や増援に来た他の三人に指示を送っている事から小隊長なのだろう。
若いのに大したものだと考えてから、自分も若い事に気付き苦笑した。
しかし増援が来たならアレを試してみるべきかな。教官からお墨付きをもらった一撃必殺を……。


「ポクルイーシキン准尉、少しの間敵の注意を惹きつけてくれませんか? 私に考えがあります」


「え、……はい分かりました。無茶はしないでください」


オラーシャの4人の魔女達は散開して敵大型ネウロイの注意を引き始めた。
私は現在装填している弾頭に魔力を込めていき、さきほど近づけると確信したルートからネウロイに急接近していく。
(予想通りここからなら弾幕が薄い)
魔導エンジンの出力を最大限にして一気に接近し、PzB39の銃口を直接ネウロイの装甲に当てる。


「これで…………!!」


限界まで魔力を込めた弾丸が対ネウロイライフルから発射される。
弾は兆弾することなく、まるで障子を突き破るかの如くネウロイの中へと侵入し勢いは全く衰えていない。
通常は真っ直ぐ飛ぶ事しかない銃弾は魔女の恩恵を受ける事により魔弾と化し、高速で掻き毟る様にネウロイの中を蹂躙していく。
やがて内部を突き進んだ弾丸はコアへと至り、そのまま突き破った。


コアが消滅した事によりネウロイは自己崩壊を起こし崩れていく。


「これが実戦……」


驚いた様子で近づいてくるオラーシャのウィッチ達と粉々に砕け散るネウロイを交互に見つめながら初めて(の実戦を)を実感した。









二話にして難産でしたORZ、年明けは忙しいので次の更新はかなり遅れます。申し訳ありません。

この小説の現在時系列はいらん子中隊本編より数ヵ月後、アニメ一期の4年前です。

補足


・ボーイズ対戦車(ネウロイ)ライフル
史実ではイギリスが開発した対戦車ライフル。
全長は157.5cm、使用弾頭は13.9mm弾、重量16kg 銃口初速は前期型で747m/s、後期型で884m/s
アニメ・ストライクウィッチーズではリネット・ビショップが使用。

・PzB39(パンツァービュクセ39)
史実ではドイツが開発した対戦車ライフル。
全長は162.0cm、使用弾頭は7.92mm弾、重量11.6kg  銃口初速は1452 m/s
この小説本編の主人公が使用しているが機構が単発・ボルトアクション式から5連発・ボルトアクション式なってたりバレルが切り詰められたりしているので、もはや別物。

・キ60試作飛行脚

史実のキ60試作戦闘機が元ネタ。
ただ、史実での試作機の完成は昭和16年(1941年)の3月。

・アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン

公式キャラクター
未来のオラーシャ陸軍親衛第16戦闘機連隊長でその後、第502統合戦闘航空団(ブレイク……もといブレイブウィッチーズ)所属。

登場時の階級は捏造設定。


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