◆以下の事にご注意ください。◆
本SSは本編のストライクウィッチーズの二次小説とは全く関係ありません。
なのはのPSPゲームが出たぐらいに書いていたなのはSSです。無くしていたUSBから発見。懐かしかったので掲載してみました。
すぐに消す予定でしたが、とりあえず残しておきます。
続きはありません、この一話のみです。
それでもよろしい方はスクロールしてお読みください。
遥か未来の話だ。
数百年で勢力をさらに大幅に拡大していった時空管理局は徐々に肥大化し、横柄で傲慢な組織へと変わっていった。勢力拡大に伴う侵略紛いの次元侵攻、現地世界住民に対する圧政。いつの世もそれは当然ながら対立、反抗するモノを生む。
反時空管理局運動の発生及び、複数の世界が母体となった反管理局組織が誕生。旧時代の第97管理外世界に存在していたアメリカとソ連の様な対立構造が作り出された。
その後、ゴルバチョフでも出てきてくれたならば良かったのだがが、自体はキューバ危機よりよほど最悪最低の事態となる。
管理局は無警告でアルカンシェル数発発射。それにより反管理局陣営だった国、いや世界が一つ消し飛んだ。
それは燻っていた火薬に火を付けるには十分すぎる火力であり、数百年ぶりの次元大戦に始めるには十分すぎる威力の祝砲だった。
少なくともその砲火が八神隼人のターニングポイントになったのは間違いない。
新暦XXX年 ミッドチルダ上空
「嫌な花火だ」
隼人は吐き捨てるように呟いた。質量兵器のマズルフラッシュやら殺傷設定の魔力光やらが輝いては消えていく、辺り一帯は銃声や魔力の放出音に加え、人々の怒声、悲鳴や狂った笑い声が絶え間なく響いており、異様な熱気に包まれていた。
「胸糞悪い。大昔にあったっていうベルカ戦争もこんな感じだったのか?」
独白に対する答えはない。ただ知己であった者の声が聞こえた。
「F.A.T.E-PMS-01に告ぐ。今すぐ降伏して、管理局に戻るというのなら私が弁護しましょう。だから……」
凛とした声が響き渡る。栗色の混ざった金色の髪に、オッドアイ、黒いバリアジャケット、加えて七色の魔力光を持つ人物など俺は一人しか心当りは存在しない。
「F.A.T.E-PMS-01なんて記号は俺の名前じゃない。今の俺は八神隼人だ。それにしても……思い込んだら一直線、やっぱりお前の愚直さはオリジナルにそっくりだよ、F.A.T.E-PMS-02。いやオリジナルと同じく不屈のエースオブエースと呼んだ方がいいか? それとも管理局名物の聖王人形?」
「……………っ!!」
隼人は軽口を叩きながらも、構えを解かない。相棒である装着融合型デバイス、サイクロンスピードにはいつでもフルドライブモードに移行できるように指示してある。元よりそんな為にここに戻ってきた訳ではないのだ。
「どうしてですか、あなたは元々こちら側の人間でしょう? 何故反管理局陣営にあなたが居るのですか!! 私達が何の為に生み出されたのかあなたは忘れたのですか!? なのにナゼ……何故、貴方は其処にいるの!!?」
隼人は彼女、F.A.T.E-PMS-02の激情に面食らう。この様に激情をぶつけられる事は彼女の同僚で同類であった時にはなかった。故に人形の様に思えた彼女にこの様な激情をぶつけられるとは思いもしなかったのだ。
あんぐりと開いた口を引き締めると、自然と笑みがこぼれた。
「何だ、ちゃんと怒れるじゃねーか!! 誤解してたわ、訂正するよF.A.T.E-PMS-01! テメーは人形なんかじゃねぇ。……だが立ち塞がる以上、オマエは俺の敵だ!!」
溢れ出た言葉は臆病者の己からは想像もできない熱血漢のセリフだったが、今はこれでいい。行き場のなかったか感情を吐き出すにはこれくらいでちょうど良かったのだ。
「…………分かりました。ならば力づくであなたを連れ帰ります」
「言葉は不要……ってな。サイクロンスピード、フルドライブモードに移行!!」
『 《了解しました、フルドライブモード起動。IS(インヒューレントスキル)、【思考加速】との連動を開始……連動を確認。システムオールグリーン》』
どうしてこんな事になった……何てことは隼人にはもう考えられなかった。ただ思考が加速していく刹那、出撃前の光景が頭を過っていた。
数時間前……
「まさか。こんな事になるなんて夢にも思ってなかったわよ。まぁ、私としては一秒でも早くあの忌々しい神様気取りの管理局から抜けだしたかった訳だからいいとして……。アンタはどうなの? 02に比べれば盲信的じゃなかったにしても犬の様に尻尾を振ってたじゃない」
紫の長い髪を弄りながら、隼人と同じく管理局を離反した彼女は言った。口調はいつもと変わらずきついモノであったが、彼女の金の瞳はひどく揺れている様に見える。彼女にも彼女なりの苦悩があるのだろう。
「相変わらず毒舌だな00、いや今はラスト・スカリエッティだったか……」
「そういうアンタは八神隼人で決定なの?」
「あぁ、今の俺は八神隼人。だから管理局の次世代人造魔導師製造計画で製造されたF.A.T.E-PMS-01なんて犬の尻尾は、あの時のアンカンシェル発射時に蒸発して死んだんだ」
「じゃあ、私も同じね。F.A.T.E-PMS-00なんて管理局の豚どもの奴隷はあの世界と共に消滅した。今いる私は反管理局組織所属のラスト・スカリエッティ、それ以上でも以下でもない。……ありがとう隼人、少しは気持ちが軽くなったわ」
「……どういたしまして」
彼女……ラスト・スカリエッティの感謝に対して隼人は頷いた。
F.A.T.E-PMS、それが管理局が再び開いたパンドラの箱の名前である。勢力拡大とともに、管理局は人材……とりわけ魔導師の不足が目立つ様になった。占領した管理外世界からの徴用だけでは不足を補う事が出来ず、だからといって反管理局組織の台頭を黙って見逃す訳にもいかない。
そんな中。時空管理局は一つの結論に行き着いたのだ。
『優秀な魔導師がいなければ、造り出せばいい』
かくして、数百年前のパンドラの箱は開かれた。
ジェイル・スカリエッティの残した膨大な研究データやプレセア・テスタロッサが完成させたプロジェクトF.A.T.Eおよび過去のJS事件で活躍(暗躍)した人物の遺伝子データを利用し、試作のF.A.T.E-PMS-00を完成させ、その後にF.A.T.E-PMS-01、02が誕生。
隼人は自称の通り、歩くロストギアと呼ばれていた八神はやての遺伝子データを元に造られた人造魔術師で、ラストもその名の通りスカリエッティの遺伝子を元に作られた同類だ。プロジェクトF.A.T.Eの売りであった記憶転写に関しては反乱を防ぐためにオミットされており、代わりに様々な社会常識や特殊な技能を頭にインストールされている。
F.A.T.E-PMS計画で製造された人造魔導師はスペックだけ考えればF.A.T.E-PMS-00、01、02共に成功との事だが、02の製造過程のイレギュラー(オリジナルとは逆の性別になるよう、設計された筈が同じ性別となった事。聖王の成功クローン体の遺伝子を組み込んだからうんぬんと研究者達は愚痴っていた)とラスト及び隼人の強い自我の発現、さらには予想以上のコストという問題が発生し計画は凍結された。
今はどうなっているのか隼人にも分からないが、計画はそのまま凍結されているならF.A.T.E-PMS計画成功個体は隼人とラストと02の三人のみという事になる。
「それにしても、ミッドチルダの首都クラナガンに奇襲なんて本当に正気の沙汰とは思えないわね」
「相手もそう思っているからだろ、狂気の沙汰ほど何とやらだ……。それに反管理局側は劣勢でこのままいけばジリ貧。挽回が利くのは今だけだからな」
現在、大規模な陽動作戦が進行しており、ミッドチルダの防衛にあたっていた管理局部隊の一部を別の次元世界に引き込んでいる最中である。陽動が完了次第しだい別動隊がクラナガンに転移し、管理局本局を制圧、または破壊する。
しかしながら、仮にこのまま陽動が成功しても残りの魔導師部隊の他に防衛用に量産されたガジェットドローンやこちらから鹵獲した質量兵器を運用している部隊がまだ存在する。
だがF.A.T.E-PMS-01及び02に関する問題(聖王のクローン体や八神はやての遺伝子の無断借用等)により発生した管理局と聖王教会の不和をついて取り付けた裏取引により、聖王教会はこちらに協力する手筈になっていし、加えてガジェットドローン関しても……
「ラスト、鹵獲したガジェットドローンの調整はどうなった?」
「私に流れるオリジナルの遺伝子が怖くなるぐらいにバッチリよ。それに分解して分かったんだけど制御回路から中枢のチップまでオリジナルが量産したガジェットドローンと一緒。あの管理局の無能ども、で工夫って言葉を知らないみたい。改造したこっちのガジェットドローンがあればあっちのコントロールは簡単に奪える」
「ガジェットドローンのコントロールを奪って、相手が動揺した隙を突けば何とか本局になだれ込めるか……」
「だけど、首都の魔導師部隊にはF.A.T.E-PMS-02が残ってるわ」
「できれば陽動に引っ掛かって欲しいが、そんなうまくいく相手でもないか……。まぁ、出てきたら俺が相手をするしかないだろう」
正直、敵う相手とは到底思えない。F.A.T.E-PMS-02は性別に関するイレギュラー以外を除けば管理局に最高傑作と言われるほどの能力を持ち魔導師ランクSSS+にして固有技能【聖王の鎧】を保有する。唯一の救いといえばアレが殺傷設定の魔法を使わないという事だろう。
だが戦場で戦闘不能になれば他の管理局員に止めを刺されるの必至なので、結局に命を失うことに変わりない。
「私もガジェットドローンのコントロールが安定したらすぐに援護にいくから、とにかく時間を稼いでおいて」
「分かった。そういうのは一番得意だ。それにお前が調整してくれたサイクロンスピードもあるしな。後は作戦開始を待つだけだ。ラスト、仮眠を取るから作戦開始時刻の前に起しに来てくれ」
最後の晩餐ならぬ、最後の睡眠になるかもしれないから……と隼人がラストに告げると『相変わらずね』と呆れられた。不思議と自分が死ぬかもしれないという恐怖は湧いてこない。もうそういう場面には数十回と遭遇している為、慣れてしまったかもしれない。
隼人は仮眠室に向かう為、向きを変える。
「待って隼人……」
「何だ?」
後ろからラストに声を変えられ隼人は歩みを止める。
「ずっと聞きたかったんだけど。なんで隼人は私達のオリジナルが暮らしていった時代の事に詳しいの? アンタ時々、オリジナルの事をまるで見てきたように話すし。管理局を作ったいう最高評議会の三人が新暦75年までずっと変わってなくて脳味噌だけだったとか、広域次元犯罪者だった私のオリジナルのジェイル・スカリエッティが最高評議会が作り出した存在でマッチポンプだったとか、どれもアンタの与太話だと思ってたけど、この前管理局のF.A.T.E-PMS計画関連施設を強襲したときに吸いだしたデータにその事を示唆する文書が最重要機密として混じってた。どこでそんな事知ったの?」
隼人は一瞬、ピクリと肩を揺らしたがすぐに言葉を返した。
「知りたいなら作戦から帰ってきた後にベットで教えるよ」
口から出た言葉を場を茶化す為の冗談だった、元より隼人とラストはそんな甘い関係ではない。
ただ、いつものように顔を真っ赤したラストが隼人に怒り、それに合わせて隼人が逃げればそれでこの話は終わり。
そのハズだった……
「――いいわよ、聞いてあげるわ…………ベットの中で」
突然の爆弾発言に隼人は盛大にズッコケた。いつでも逃げられるように足に力が入れていたのが裏目に出てしまい、バランスを崩してしまったのだ。
「……今なんて言った?」
「ベットの中ですっぽりじっぽり聞いてあげるって言ったの!! 何か文句ある?」
顔だけ振り返ってみると、ラストは当初の予想の通り顔を赤くしていたが、その表情はいつも怒りの発露とは様子の違うものである。
隼人はややテンパリつつも、彼女に反射的に聞き返す。
「いや、ホントにマジで?」
「こっちは大真面目よ!! だから……、だからアンタもちゃんと生き残りなさいよ」
ラストの真剣な表情を見て、隼人は彼女との邂逅を思い出した。
まだラストがPMS-00と呼ばれていた時の彼女は何事にも無関心でまるでこの世の全てに興味がない人形の様であったが、今ではそんな面影はどこにも存在しない。
「何よ? 人の顔をジロジロ見て」
「いや、何でもない……。ひと眠りしてくるわ」
何とも言えない感慨を抱くつつ、隼人は仮眠室へと歩みを進める。
心の中ではそろそろ自分のあり得ない身の上を話してもいいかなという思いが湧ていた。
二三歩、歩みを進めた後、再び立ち止まり……
「ラスト……」
「何?」
「大丈夫、切った張ったは苦手だから危なくなったらすぐに逃げるよ」
振り向かずそう呟くと、隼人は再び歩き出した。
………………………………………………………………………………
(ラストにはああ言ったものの、状況は最悪だな……)
F.A.T.E-PMS-02に偉い口を叩いた割に隼人は逃げの一手だった。
自身の装着融合型インテリジェンスデバイス、サイクロンスピードの解析結果によれば、相対しているF.A.T.E-PMS-02はさらなる超絶強化をされているとの事である。
『《F.A.T.E-PMS-02は自身のリンカ―コア以外からも膨大なエネルギー供給を受けています。反応パターンからロストロギア、ジュエルシードとレリックをデバイスに複数内蔵している模様》』
(確か一期の全く反映されなかった設定にジュエルシードを格納する事でレイハとバルディが強化されるってのがあったが、これはもうそんなレベルじゃないな……)
計測された魔力値は魔導師ランクSSSオーバーを振り切っている、つまり通常の想定測定値をオーバーしているのだ。こちらとあちらとの力関係は凄まじい隔たりが存在している。笑えほどに絶望的だ。
距離を取ればバスタービットとバスターモードの相手デバイスからの十字砲火で、近づけばベルカ式近接格闘のレンジに入り、膨大な魔力を込められた拳によって普通ならとうの昔に意識を刈り取られていただろう。ただそうならなかったのはひとえにF.A.T.E-PMS-02と戦いの相性が良かったからだ。
速度……、それこそが八神隼人の最高の武器である。
F.A.T.E-PMS-01として製造された時に附随された先天固有技能【思考加速】は元々、現場でのとっさ状況判断を行う為のモノであったが、管理局を抜けてから幾戦かの戦いを経て、隼人は高速戦闘に利用できないかという考えに至った(つまりはクーガーの兄貴バリの動きがしたかった)。
……しかし。
「アンタと02は私と違って生体部分の機械化と強化処理を行ってないから、高速戦闘なんてしたら負荷で体がミンチになった挙句、摩擦で火達磨よ。それとも改造処理する?」
これを聞いた時、隼人は大いに絶望した。高速戦闘したけりゃ全身改造とか……やめろショッカー! ブッ飛ばすぞ!! ほんと【お断りします】である。
そんな失意の中、隼人は某特撮ヒーローからある妙案を得た。
装着している間だけ戦闘機人になればいい……と。
隼人の案をラストが形にして出来たのがサイクロンスピードである。デバイスに備わった疑似ユニゾンデバイスとしての特性、融合能力を利用し融合時に隼人の体を機械の体へと変化させるのだ。骨格と筋肉は人口のモノへ、五臓六腑は人工臓器に挿げ変え、感覚器を強化し、全身をバリアアーマーにて覆う。
全身を覆うアーマーは外部から大気中の魔力を取りこむことも出来るし、AMFなどが拡散されている場所ではアーマーの機密性を上げ、内部で魔力をやり取りする事により干渉を最小限に防ぐ事も出来る。
さらに全身の補助制御を新規に装備された人格搭載型AIが行っており、元がアームドデバイスとは思えない魔改造ぶりといっていい。
元々F.A.T.E-PMSとして拡張性を持たせてある隼人の体は機械との親和性は抜群である。
これにより、隼人は不可能であった超高速戦闘を可能とした。
現状で隼人がF.A.T.E-PMS-02とそれなりに戦えているのは9割方、ラストが造ったこのデバイスのお陰と言っていいだろう。
とにかく隼人はF.A.T.E-PMS-02の攻撃を避けて、避けて、避け続けていた。
1秒を10秒に、10秒を100秒にと。ISにより思考と感覚は限界まで加速され、強化された体はそれに追従する。隼人は相手デバイス本体とビットから放出される無数の極光を、まるで針の合間を抜けていくかの如く回避する。
いくらF.A.T.E-PMS-02の砲撃が強力でも、いくら膨大な魔力を込めたベルカ式格闘術が必殺あっても……、当らなければどうということはないのだ。
そもそも前提条件として隼人はF.A.T.E-PMS-02に勝つことなど考えていない。ただ時間を稼ぐ事しか考えていない隼人を倒すことは現状のF.A.T.E-PMS-02には容易ならざることであった。
……だが、こう着状態の現状に痺れを切らしたF.A.T.E-PMS-02は己のデバイスに新たな指示を下す。
「ルシフェリオンビート、バスタービットのパターンをA16、形態をバスターモードからガントレッドモードに変更。それと魔力による肉体強化と感覚強化を199%まで引き上げて」
『《了解しました》』
轟と、F.A.T.E-PMS-02に纏わりつく大気が揺らめいた。次の瞬間、雷光の様な速度でF.A.T.E-PMS-02は隼人との距離を詰め、必殺の拳を振るう。
隼人は一瞬驚いたが、それでも自身の最高速を持って攻撃を回避する。続けて光刃を展開した無数のバスタービットが間髪入れずに隼人を貫こうとするがそれも全て迎撃した。
けれど……
「これでもダメみたい。ルシフェリオンビート、これ以上時間を掛けれられないからレリックを一つ開放して。それと魔力による肉体強化と感覚強化をさらに530%に」
『《ですがマスター、そんな事をすればマスターに負荷が……》』
「いいからお願い」
『《……分かりました。レリックウェポンシステム、リリース。加えて肉体と感覚をさらに530%ブースト》』
さきほど比べ物ならない大気の放流がF.A.T.E-PMS-02の周りに渦巻く。
放出される強大な魔力によってF.A.T.E-PMS-02の姿は陽炎のように揺らめいた。
「死なないように手加減するけど、骨の数本はいくと思うから謝っておきます、ごめんなさい。でも安心して……毎日病院に見舞いに行くから」
『《ソニックムーブ》』
そして最速は覆される。
凄まじい魔力の光を伴って、F.A.T.E-PMS-02は容易く隼人に接近した。限界まで加速された知覚でも動きを捉えるのがやっとの速度でだ。音はF.A.T.E-PMS-02の後からやってくる。
「……っ!?」
さきほど攻撃を凌駕する速度で拳は振るわれ、隼人は回避する事ができず両椀で全面をガードした。展開していたプロテクションは障子に張った紙のように容易く突き破れる。
「終わりです」
すさまじい魔力の篭った一撃は前面のガードごと隼人を撃ち抜こうした。
しかし……
「サイクロンスピード、 アーマー内の圧縮魔力を急速解放しろ! それとカートリッジを一番から五番まで発動!!」
『《了解、緊急解放》』
インパクトの瞬間、隼人はありったけの魔力を解放し、前面の両椀に収束させる。それにより魔力の篭った相手の拳との魔力の反発が生じ、双方弾き飛ばされた。これにより実質的なダメージは皆無となる。
隼人はある程度の衝撃は覚悟していたため、すぐに体勢を立て直せたが内心は穏やかではない。
自身の最速の領域に簡単に踏み込まれてしまった事は隼人にとって大きな衝撃だった。確かに隼人の速度は厳しい修練や、日々の努力といった類のもので高速戦闘を手に入れた訳ではないが、思考加速を持ってしても高速戦闘での動きの制御にはかなりの苦労が存在する。けれど、F.A.T.E-PMS-02は児戯の如く隼人の速度についてきた。
莫大な魔力を使った強引な強化による速度の極大上昇、恐らく体感速度を変化させたわけではなく超絶的な肉体と感覚の強化によりコチラの最高速を見切っているのだ。けれども同じ条件で同様の事をこちらがしようとすれば魔力が暴走して恐らく自滅するだろう。あそこまでの莫大な魔力を制御する事は隼人には不可能だ。
今の隼人には明確な勝利へのビジョンが湧いてこなかった。さきほどまでは逃げて時間稼ぎをすれば済んだが、相手に同じ速度の土俵に立たれた今、それは叶わない。
現在の速度なら、聖王の鎧の自動展開防御より早く攻撃する事ができるが、肝心のF.A.T.E-PMS-02は自身の自動展開よりも早くこちらの攻撃に反応してくる。魔力を使って攻撃を防がれたそこでお終いだ。レリック一つ開放してあの速度だ。これ以上解放されたら勝ち目は完全になくなってしまう。
(どうする、どうすればあいつに勝てる?)
思考加速を極限まで行い、考える時間を引き延ばす。ラストには危なくなったら逃げるといっていたがここで本当に逃げてしまえばコチラの戦線は目の前のF.A.T.E-PMS-02によって覆される。それだけは何としても阻止しなければ……。
(奥の手を使うにしても意表を突かなければ意味がないな。速度では追いつかれたが細かい動作はこっちが上手だ……、こんなりゃイチかバチかだな!!)
「サイクロンスピード、フォーム2への移行の準備を頼む。次にアイツがこちらに接近した時、合図ですぐ切り替えてくれ。それとその後に拳の魔力を……」
『《了解しました。フォーム2での戦闘は10秒が限度です。十分に留意してください。》』
「分かった。――そら来たぞ!」
体勢を立て直したF.A.T.E-PMS-02は先程と変わらぬ速度で接近するが、隼人も加速しているため一度見てしまえば動きはそれなりに見切れる。なにより完全近付かれるの待つ必要はないのだ。
「今だ! サイクロンスピード!!」
こちらに拳が届く前のタイミングで隼人は叫んだ。
『《フェイク・パージ》』
その声と共に隼人を覆っていたアーマーが弾け飛んだ。突然の事態にF.A.T.E-PMS-02は急停止したが、弾け飛んだアーマーが炸裂し、発生した閃光に反射的に反応して体を硬直させる。
フォーム2とは、完全なる速度特化の軽量型フォームで、アーマー内にあった必要機能はパージ前に八神隼人の中に取り込まれ体内の機械率はさらに上昇している。
このフォームでは機能集約とアーマーパージによる軽量化でさらなる高速戦闘を行う事が出来るが、耐久力を完全に度外視した結果、活動限界が十秒になってしまっている。
難点である活動限界や耐久力を伸ばそうとすると結局フォーム1とほとんど変わらない速度しか出せない為、隼人はフォーム2を奥の手としていたのだ。
「もらった!!」
隼人は右腕を突きだし硬直したF.A.T.E-PMS-02に向かって突貫する。
「まだです!!」
F.A.T.E-PMS-02は何とか硬直した体を動かし、とっさに両の手でプロテクションを展開した。
F.A.T.E-PMS-02は、隼人が自分を倒すために残った魔力を突きだした拳に集中したと予想し、この魔法障壁に隼人の拳が接触した瞬間、さっきやられた様に魔力を収束して反発させ弾き飛ばし、そのまま追撃を入れるつもりであった。
しかしF.A.T.E-PMS-02の予想は大きく裏切られる。
「――これを待っていた。指向性AMFを前面に展開!!」
「えっ!?」
隼人は魔力をまったく込めていなかった右手の拳を開くと、AMFによって前面の魔法障壁の結合を解いた。プロテクションは瓦解し使用された魔力は形を失い放出される。
「AMF解除。続いて放出されている相手の魔力を収束、術式発動!!」
隼人は放出されたF.A.T.E-PMS-02の魔力を右手に収束し、魔法陣を出現させる。その間、わずがレイコンマ1秒以下。いくら肉体と感覚強化して速度を増そうとも、F.A.T.E-PMS-02は細かい魔力操作までは高速化できない。隼人はその隙を突いたのだ。
F.A.T.E-PMS-02が再度、プロテクションを展開しようとしても魔力を放出、形成する過程で割り込まれ、逆に隼人の展開したミッドチルダ式テンプレートに魔力が収束されていく。
「結局の所、どんな盾を貫く最強の矛もどんな矛も通さない無敵の盾も、相手に当てたり防御出来なきゃ意味がない。お前の敗因はそれだF.A.T.E-PMS-02」
隼人は最後に自身残存の魔力もありったけ込めると右手の術式を解放する。
「ディバイィィンンバスタァァァァーッ!!」」
放ったのは皮肉にもF.A.T.E-PMS-02のオリジナルが使っていた収束型魔法砲撃。凄まじい砲撃音に合わせ直撃を至近距離で受けたF.A.T.E-PMS-02は吹き飛ばされた。
「はぁ、はぁ……これで終わったか」
『《フォーム2タイムアウト。アーマー再形成。フォーム2終了から1分26秒は機能回復の為、戦闘の能力が大幅に低下します》』
「分かってる。そもそも魔力切れでこっちは浮いてるのがやっとだよ」
『《ですがマスター、相手はそうでもない様子です》』
「――やってくれましたね。F.A.T.E-PMS-01。正直、貴方の事を過小評価していたいたようです」
爆発の粉塵から現れたのは、なおも膨大な魔力を溢れださせるF.A.T.E-PMS-02の姿だった。
バリアジャケットは半損状態、デバイスにはいくつもヒビが入り、体中に傷跡が見える。だがそれでもなお、その瞳からは不屈の心が燃え上がっていた。
「マジかよ。さすが不屈の戦闘民族。これじゃサイヤ人もびっくりだな」
さすがに隼人もこの様相に笑いしか出てこない。これでは仮に後三つフォームを残していようともどうにもならないように隼人は感じた。
「何を言ってかは皆目見当が付きませんが、ここでお終いですF.A.T.E-PMS-01.」
「いいえ、終わりなのはアンタよF.A.T.E-PMS-02」
無数のガジェットがF.A.T.E-PMS-02を囲むように転送され、同時にAMFバインドでF.A.T.E-PMS-02を拘束した。想定外の事態と隼人との戦いのダメージの蓄積が重なったためか、F.A.T.E-PMS-02はいとも容易く拘束される。
気迫と魔力の量に隼人は圧倒されたが、どうやら相手もそれほど余裕があった訳ではないようだ。
「……F.A.T.E-PMS-00」
拘束されたF.A.T.E-PMS-02はラストの事を親の敵の様な顔で見つめた。その視線に見え隠れする怨嗟と憎悪は裏切りの相手を見る以上の何かがあった。
「助かったよラスト。ベストタイミング」
「ごめんなさい隼人。もっと早く来れると思ったのだけれど……。でも代わりにこの戦いはもうコチラの勝ちよ。管理局のノータリン共、防衛用のガジェットを管理局本局の中央防衛システム直結させてたの。だからコントロールを奪ったガジェットを通じて防衛システムを乗っ取ってやったわ。奴等はこれで何もできない。外もあらかた片づいたし、後の管理局本局の制圧は他の仲間に任せましょう」
そう聞いて隼人は辺りを見渡す。戦闘に集中して気付かなかった戦闘も大分、小規模化していた。
「何だか、気が抜けてきた。ラスト、俺早く基地に戻ってシャワー浴びてベットで寝たい」
「取りあえずは……F.A.T.E-PMS-02を司令のとこまで連れていくましょう。ガジェットと防衛システムのコントロールも移譲しなきゃならないし。……それが終わったら基地に戻って一緒にシャワー浴びてベットに入りましょ」
そういうとラストは隼人に寄りかかり、自身の豊満な胸を惜しげもなく押し付けた。
「うわっ! ラスト、何でお前そんなに大胆になってるんだよ!!」
「別に……。ただやっぱり隼人と一緒に居られるのはうれしいな~と思って」
謎のデレモードに隼人が困惑している中、口を閉ざしていたF.A.T.E-PMS-02が突如として口を開いた。
「……な、なんで!! どうして……どうしてですかF.A.T.E-PMS-00!! なんでアナタがF.A.T.E-PMS-01に抱きついているのっ!!」
突然の怒声に隼人は驚いたが、ラストは身動ぎもせず、当然のように隼人を引き押せると隼人の背中に手を回した。
「なんで……って言われてもそういう関係だからとしか答えられないわよ。聞いてたでしょF.A.T.E-PMS-02、私と隼人はベットやシャワーを共にしてる仲なの。そうよね隼人」
はぁっ? 何言ってるんだよと隼人は口に出そうとしたがラストから念話で『いいから頷きなさい隼人!! どうせ基地に帰ったらそういう関係になるんだから今頷いても一緒でしょ』と有無を言わさず怒鳴られ、隼人は反射的に頷いた。
「……っ!! そんな、……嘘」
「嘘じゃないホントの事よ」
隼人の肯定とラストの言葉にF.A.T.E-PMS-02は瞳をいっぱいまで見開くと、やがて顔を下に向けた。そこからは無数のしずくがこぼれでいた。F.A.T.E-PMS-02から先ほどまで感じられた覇気は見る影もなく消滅する。
その様子をラストは満足そうに見届けると仮想キーボードを展開し、F.A.T.E-PMS-02を捕縛したガジェット達に指示を出した。
「大丈夫なのかラスト? アイツ泣いてるぞ」
隼人はF.A.T.E-PMS-02を心配するが返ってきたラストの言葉は冷たいものだった。
「いいのよ、ただF.A.T.E-PMS-02の根底にあった不屈の心の芯が折れちゃっただけだから。ずっと現実を見えてなかったあの子にはちょうどいいわ。それより早く司令の所に連れて行ってさっさと基地に帰りましょ」
隼人がF.A.T.E-PMS-02の方からラストに方に向き直り、『そうだな』と言おうした時、後ろのF.A.T.E-PMS-02の魔力反応がいきなり膨れ上がった。
「……認めない、みとめない、ミトメナイ。そんなわけない、ウソ、絶対にこんなハズじゃなかった。どうしてなんでこんな事になちゃったの!? 私の方が先に好きなったのに!? 私の方が先に想ってたのに!? 嘘、絶対に……ウソ」
なおも魔力反応は増大し、AMFバインドは弾け飛び、ガジュット達は爆発する。
「そうだ、あの時の任務。……あの時の任務の担当が00と01でなければ……。――帰りたいあの時に、戻りたいあの頃に、そう私は戻りたいだ。……もっとずっと最初に、始まりの時間に、始まりの場所に」
その言葉に呼応するかのごとく、魔力量はさらに爆発的に上昇をみせる。
『《解析終了、どうやらデバイス内部のジェルシードとレリックが暴走しているようです。次元振が発生します》』
「ラスト、急いでここから退避を!!」
「ダメ、間に合わない!!」
そうしてF.A.T.E-PMS-02を中心として発生した光は瞬く間に隼人とラストを包み込む。
彼らはその時代から消失した。
続……かない。