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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第十六話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/03 15:33
Der Freischütz 第十六話 「わが今生」





私こと狩谷司は、魔法という力が常識として存在するこの世界にて二度目の生を受けて以来、さまざま疑問を持ったが、根本的かつ素朴な命題は未だに解決はしてない。


『この世界はどこにあるのだろうか?』


それが命題の名だった。
私は二つの世界を知っている。
前世の世界と現在の世界。
未来の世界と過去の世界。
魔法のない世界と魔法のある世界。
二つの世界は、細部は違うが極めて相似していた。
――ならば二つ世界の繋がりは、二つの世界の位置関係はどうなっているのだろう?


同じ宇宙の中に二つ世界は別々の惑星として存在しているのだろうか?
それとも並行世界という、極めて近く限りなく遠い距離の壁に隔てられ隣り合わせに二つの世界は存在しているのだろうか?
はたまた、どちらかの世界が滅びた後にもう一度、始まった世界がもう一つ世界なのか?


――結局のところはいくら仮定したところで無意味なのだ。
この命題の答えはきっと、宇宙の遥か彼方に存在している。
宇宙の誕生の秘密も分からない現段階では、『屏風の虎をどうやって追い出せばいいのか』と真面目に考えているのと同レベルの状態だ。

昔、誰かこう述べていたことを思い出す。

『世界とは一つであるが、世界を観測する者達の認識は一人一人が異なっている。一人一人が違う世界の認識を持つ為、一つである世界は、同時に無限にも存在している』
この命題も同じだ。
真理という箱の中の猫を見ることができないから、箱の猫の中がどうなっているのか想像するしかない。
箱の中身が空けられないかぎり、解釈は無限に存在し、可能性は無尽蔵に存在する。
故に結論は何度やってもこう行き着く。

『語りえぬものについては、沈黙しなければならない』と……。

つまるところ――、今まで語った言葉遊びには何の意味もないということだ。


――さて、そろそろ私が何故こんな電波的かつ一四歳チックな、非生産的思考に逃避したかを語らなければなるまい。
哲学的な思考の燃料となったのは、まず間違いなくブリタニアに着くまで乗船していたカールスラントの母艦の中、ベッドで養生していた私が暇な時間を潰すために読んでいた哲学書であろう。
哲学書はベッドのあった部屋に備え付けられたもので、フリードリヒ・ニーチェやルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン、イマヌエル・カントなどのドイツ……ではなくカールスラント人哲学者が書いたものであった。


初等教育のころから授業があったブリタニア語はともかく、カールスラント語に関しては軍に入ってから習い始めたわけだか、どういう訳か、私は凄まじい勢い習得し、日常会話からある程度読み書きのようになってしまっていた。
今思うに、目覚めてはいなかったがその頃から伯爵の恩恵に与っていたのだろう。
それに加えて、ゼーロウ高地での戦闘時に魔力とともに知識を吸収したためか、発音はともかくとしてカールスラント語の読み書きに関してはネイティブといって差し支えない状態となっており、難しい言葉が延々と連なるカールスラント語の哲学書もスラスラ読めてしまった。


その時の私は虚脱《けんじゃ》状態で無心で本を読んでいて気付かなかったが、もしカールスラント語で書かれた哲学書などスラスラ読んでいるところを見られていたら、今よりさらに穴拭大尉やビューリング少尉にさらに怪しまれただろう。
虚脱時にフォローしてくれていた伯爵には感謝してもしきれない。


逃避の燃料はそんな所だ。
では逃避の引き金、火種となったものは何かというと……、


「――いや、お恥ずかしながら私は父と不仲でしてね、父は私を税関事務官にしたがっていましたが、私は古典教育が学びたかったですよ。それで反対を押し切り、父が強く推していた学校を振って、自分の望んでいた学校に入学したんですよ。あの頃は本当に大変でした。フーリドリヒ4世が作ってくださった苦学生の助成制度のおかげ何とかなりましたが、あれがなかったら両親がお金を出してくれない状態であの学校には通えなかった……」


やや訛りのあるブリタニア語が私の耳に響く。
一室にて待機していた私は、同じ部屋に居るとある人の話を聞いていた。
私に事務的な説明を語った後に彼は、待機で暇をしていた私にいろいろなことを語ってくれた。
男の人の語りは上手く、何気ない会話でも私は話に引き込まれていき、気付けば彼の話は自分の身の上になっていた。


「それで……、その学校を出た後はどうしたんですか?」


私はせかすように彼に話の続きを聞いた。
彼に対して、ある種の確信を抱きながら……、


「その後は、先ほども話した通り、ウィーン美術アカデミーを受験し、何とか一回で合格して入学しました。本当にあの時は運が良かったと思います。あそこは楽しい思い出も、苦い思い出もたくさん詰まった場所です。今はもう存在しないと思うと、寂しい思いが込み上げてくる」


既にウィーンの存在していたオストマルクは陥落しており、アカデミーは既に瓦礫と化しているとのことだ。
彼にとって美術アカデミーが、挫折の象徴ではなく青春の証であるということが、私にはある種の感慨を抱くほどに驚きであった。


「美術アカデミーを卒業した後は、しがない画家兼小説家をやりながら生計を立てていました。一流とは言えませんでしたが、それなりに生活は送れました。リヒャルト・ワーグナーの歌劇場に夢中になって通いつめて、食事を切り詰めた時期をありましたな……。今思うと本当に懐かしい」


「……軍に入隊したのはいつ頃ですか?」


「第一次ネウロイ大戦時です。カールスラントの一員として戦わねばならないと使命感を燃やして入隊したもの、与えられた役職は伝令兵でした。それほど危険な任務をこなす回数も少なく、その時の階級は“伍長”止まりです。転機は大戦後に起こりました」


彼は自身の“ちょび髭”に手を当てながら、思い出していくように私に語っていく。


「大戦が終わった後、私はしがない元の絵描き兼物書きに戻ろうと思ったのですが、懇意にしていた上官に引き留められたのです。『軍の広報で働いてみないかと?』と彼は言いました。私に絵心とある程度の文を構築する能力を持っているのを知っていたから薦めてくれたのでしょう。私は喜んで頷きました。そうして今、私はカールスラント軍広報にいるわけです。私にとってこの仕事は天職でした。『広報には人を煽る力が必要とされる』と、入った当初にさんざん言われましたが、どうやら私はその力が人よりあったようで、気が付けば成果を上げていき軍広報部でも上の立場の人間になっていました。――人生とは分からないものですね」


「《ええ、私も今あなたの話を聞いて、とても強くそう“実感”しました》」


ちょび髭の似合う彼、アドルフ・ヒットレル広報担当官の言葉に私はブリタニア語ではなく、カールスラント語にて返答した。


「《驚きました。カールスラント語が喋れるのですね》」


「《ええ、浅学なモノなので上手く話せているか不安ですが……》」


「《いえ、とても綺麗な発音でカールスラント語を話されています。自信をお持ちください、フロイライン》」


歌劇場で出てくる主役の騎士のように、芝居がかった雰囲気でヒットレルさんは言った。


「《そんなおだてないでください。ヒットレルさんは本当に話し上手ですね》」


「《これでも広報担当の人間ですから》」


茶目っ気のある笑顔を浮かべる彼に、私も笑みを返したが内心では心臓が破裂するほどに脈打っていた。
そもそも発端は扶桑海軍からの指示を受けて、カールスラントの広報に協力するためにブリタニアのカールスラント大使館に向かったことだった。
あれだけ派手に活躍すれば、プロパガンダの一つや二つに協力しなければいけないことはについてはある程度予想はしていた。
だが、予想をしていない事態も起こったのだ。
大使館の中で私の広報担当するメンバー代表として、ヒットレル広報担当官を紹介されたときは一瞬、完全に思考回路がフリーズし、そこから哲学への逃避にはしった。


本当に、今までの人生の中で一番驚いたかもしれない。
最初の頃はあまりの事態に私の脳内で元祖伝説の戦士である白黒二人が『びっくりするほどプリッキュア!! びっくりするほどプリッキュア!!』と叫びながら、乱舞していた。
つまりは……ぶっちゃけありえなかった。
ぶっちゃけ伯爵のドラキュラカミングアウトよりよっぽど驚いた。

(本当に、正真正銘、――ぶっちゃけありえない)


《そうか……? 主の世界でこの男がカールスラント、いやドイツ第三帝国の総統だったのは事実であろう。だが、この男は主の知っている男とは歩みが違う別人だ。こういうこともある、ただそれだけのこと。別に女性化して支持率100%のアイドル総統なったわけではないのだから、そう驚くことではない》


(それなんてドクツ第三帝国)


それはそれで……うん、絶対にありえない。
想像して顔を歪める私に対し、ヒットレルさんは調子が悪くなったと思ったのか、会話をブリタニア語に戻して心配そうに声をかける。


「どうしました?」


「いえっ!! なんでもありません。大丈夫です」


張り付いた面のように強張った笑みを浮かべつつ、ヒットレルさんに返答した。
丁度のそのタイミングで、部屋のドアが開く。


「お待たせしました。準備が整ましたので一階のホールにお越しください」


報せに来た男性はスーツを着込んでいることから、ヒットレルさん達撮影クルーではなく、おそらく大使館のスタッフだろう。


「おお、やっと“彼女”の方も来ましたか……。では行きましょう、カリヤ・ツカサさん」


ヒットレルさんのエスコートを受けて扉をくぐった私は、ハッ――とあることを思い出した。


「ヒットレルさん、撮影会が終わった後に一つ頼みたいことがあるのですが……」


このタイミングでは少々間が悪いことは承知していたが、今言っておかなければもう機会はないという危惧が私を駆り立てたのだ。


「私のできることでしたら」


私の心中を知ってか知らずか、ヒットレルさんは嫌な顔一つせずに私の急なお願いを聞き入れてくれた。

















(眩しいな……)


無数のフラッシュをたかれながら、私はそんなことを思っていた。
ホールに集合した後、大使館の一室にて現在、宣伝用の写真撮影が行われている。
今回のプロパガンダの趣旨は私のゼーロウ高地での活躍を伝えつつ、ダイナモ作戦で活躍したほぼ同年代のカールスラントウィッチも同時に紹介することで、カールスラント国民の士気高揚と共に第二次ネウロイ大戦勃発以前から同盟を結んでいた扶桑との強い繋がりを内外にアピールするのが目的のようだ。


(それにしても……)


写真に写るポーズを変える指示を受けて体を動かす際、チラリと顔を横に向ける。
そこには黒いカールスラントの制服を纏った金髪の少女が居た。
一歳年上であるらしい彼女は、私と同じく今回のプロパンガンダ役に選ばれたウィッチであった。
カールスラントウィッチ=規律に厳しいというイメージは彼女の遅刻により、即刻私の中で崩れ去っていた。
彼女が時間に遅刻してくれたおかげで、私はヒットレルさんと、ある程度の会話をすることができたので、私は彼女に感謝するべきかもしれないが、『あなたが遅刻してくれたおかげでヒットレルさんと話ができました。ありがとうございます』では意味が分からないし、『あなたが遅刻してくれたおかげで別の世界ではカールスラントの総統閣下だった人と話ができました。ありがとうございます』では彼女には全く理解できないことなるので、やめておいた方がいいだろう。
……加えてだが、私は彼女自身についても気になっていた。


(エーリカ・ハルトマン)


彼女の名前はカウハバ着任直前に目を通した元義勇中隊メンバー、ウルスラ・ハルトマンに関しての書類に姉と記載されていた。
ハルトマン、ドイツ、飛行機乗りと聞けば、私が前世の知識から南部の黒い悪魔と呼ばれたエースパイロット、エーリヒ・ハルトマンのことが思い出される。
そして私の知識が正しければエーリヒの妻の名前がウルスラだったはずなのだが……。
まさかとは思うが、爆撃王、否……爆撃神たるルーデル閣下が女性であったことから、可能性がないわけではない。
一緒に撮影を受けている彼女は終始笑顔であり、まだ二、三しか言葉を交わしていない私には彼女が明るい感じの人物であることぐらいしか分からなかった。




















「いや~、疲れた疲れた。そんで、疲れた後のおやつは格別においしい!」


「そう言ってもらえると幸いです。そのカスタードプティング、私が作ってきたものなんですよ」


大使館の一室にて私とエーリカさんは休憩を取っていた。
いったん休憩時間を挟んだ後に、撮影を再開する予定となっている。
その間に持ってきたプティングをエーリカさんと一緒に頂いている途中であった。


「それ本当!?  すごくおいしいよ、このプリン。えーとカリアだっけ?」


「ツカサ・カリヤです。ツカサが名前ですが、呼ぶときはどちらでも好きな方で呼んでください、エーリカさん」


「ありがとね、カリヤ。ブリタニアに来るまではずっと撤退戦で、こういう甘いお菓子は久しぶりだったから本当においしいよ」


「お礼でしたら、カールスラント大使館とフリードリヒ陛下に言ってください」


「えっ、どうして?」


首を傾げるハルトマンさんに、私がカスタードプティングを作るまでの経緯を話した。
ことの始まりは私のゼーロウ高地での活躍だった。
ゼーロウ高地から航空母艦に帰還後、私の活躍はいち早く聞きつけた艦長が直々に現れて、『フリードリヒ四世陛下に君の活躍を報告するが、褒賞に何か欲しいものがあったら言ってくれ』と私に言ったのだ。
今考えると……艦長も興奮しており、気の早い話だったが、虚脱状態だった私にはそんな機敏を察知する余地はなく、死ぬかけた時に無性にオムライスが食べたかったことを思い出し、卵が欲しいと艦長に告げた。
私の『卵が欲しい』発言は当然フリードリヒ陛下にも伝わったのだが、その発言は陛下にとっていたく面白いものだったらしく、後日に大使館から大量の卵と一羽の鶏が届いた。
バスケットいっぱいに詰まった卵にも驚いたが、届いた鶏は、なんとフリードリヒ陛下の食す卵を産んでいる鶏と同じ品種のものらしく扶桑大使館を巻き込んでの大騒ぎとなったのである。
軍の任務でいつまた別の場所に転属になるかもしれない私は、使い魔でもない鶏を飼う余裕はなかったので現在扶桑大使館に管理を委託し、フリードリヒ陛下への感謝の手紙を書いた際にその旨も綴っておいた。


妙に偉そうな雰囲気を纏っていたその鶏は、現在扶桑大使館の庭に増設された小屋に居を構えており、フリードリヒ陛下から贈られた鶏として大切に飼育されている。
忘れていたが、大使館の人に促され、その鶏に私が名前を付けた。
名前はDino《ディノ》、その鶏の脚があまりに立派で恐竜の脚のように見えたことからそう私は名づけたのだ。
贈られてきた大量の卵は様々な料理に使い、義勇中隊の一緒に存分に味わった。
約束通り伯爵にもオムライスを振る舞い、それでも残った分でデザートのプティングを作ったのだ。
もちろんプティングなのでゲル化剤で使ったのではなく蒸して作ったものである。
伯爵のことを省き、その経緯をエーリカさんに話しおえると、エーリカさんは再びプリンに手をつけはじめた。


「へぇ~、そういえば私も初めてネウロイを撃墜したとき、エディータにご褒美になにか欲しいものがあるか聞かれて『お菓子が欲しい』って答えたっけ? そんで、ネウロイ50機撃墜祝いのときも同じこと言ってトゥルーデやミーナに呆れられて……」


言葉が急に途切れる。


「エーリカさん?」


顔を注視すると先ほどまで絵に描いたような満面の笑顔とはうってかわって彼女の顔に陰りが見えた。
まるで忘れかけていた嫌な何かを思い出したかの如く、忘却していた茨の棘に触れたかの如く、顔をしかめる彼女に私は新たな話題を振る。


「エーリカさん、そんな気に入っていただけたのでしたら、また作って持っていきます。カールスラントウィッチの滞在場所と義勇中隊の滞在場所は近いのでいつでも持っていけると思いますので」


現在私達が寝泊りしている基地は仮の宿舎であった。
ブリタニア本島から南の突き出た半島にブリタニア防衛のためのウィッチ基地を作っているとのことだが、元々存在していた城の改修や、宿舎の増築のなどの作業が完了する目途はまだ立っていない為、いつまで仮の宿舎で過ごすことになるかは分からない。
ブリタニアの防衛線は本土と欧州の間のドーバー海峡となるので前線に出るウィッチは必然的に同じ場所に纏められる訳だ。


「……うん。ありがとう。こんなにおいしいお菓子だったら毎日でも持ってきてほしいくらいだよ」


一拍ほど間を置いて、エーリカさんは先ほどと同じ明るい雰囲気へと戻ったが、その明るさにはどこか陰がチラつているように私は思えた。
何か、悩んでいるなら相談に乗るべきだろか?とも考えたが、今聞いたところで休憩の間だけでは時間が足りないだろうし、何よりまだ出会ってから数時間しか立っていない私がそんなことを聞いても余計な詮索にしかならないだろうという思いが、私を止めた。


……それからはお互い事を話し合った。
エーリカさんの父は医者、母がウィッチで、幼いころはアジア方面で生活をしていたこともあるらしい。
ますますエーリヒ・ハルトマンと印象が被るなと思いつつ、妹さんであるウルスラさんの話題を振ったのだが、語りだした最初は明るかったのに、思い出したようにまた暗い雰囲気になった。
何故だが分からないが、妹に関する話題がNGであることだけは察した私はまた別の話題を振ることで何とか暗い雰囲気から脱却することができたのだった。
楽しい会話の時間はあっという間に過ぎ、湯気の立つほどの熱かった紅茶が冷めてしまった頃に休憩時間は終わりを告げる。


「じゃ行きましょうか、エーリカさん」


「もうそんな時間か……。あっ、そういえば忘れてた」


何か思い出したらしいエーリカさんが私の近づく、ヒョイっと、ごく自然な形で私の両の手を握り、顔を近づけてきた。


「ゼーロウ高地での活躍、私も聞いてるよ。カールスラントのみんなを助けてくれてありがとう」


一瞬のことで呆気に取られているうちにエーリカさんは私から離れ、「先に行くよ」と部屋から出て行く。
エーリカさんの言葉が頭に届くのにそれから二、三秒かかった。


「『みんなを助けてくれてありがとう』……か」


むしろあの時の活躍は、彼らを助けられなかったからこそできたものだった。
助けられなかった人達の力が、私を助けたのだ。
そのことを思うと、私はエーリカさんの言葉を素直に受け取ることができなかった。


《主よ、皆が待っているぞ》


「……そうだった!」


感傷を自分の胸の中に仕舞い込むと、私は急いで撮影場所に向かった。









…………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………
……………………………













「「「「では、乾杯!!」」」」


カールスラント大使館近く酒場で、複数人の声が響く。
とうの昔に撮影は終了し、酒場ではスタッフ達の労いを兼ねて、飲み会が開かれていた。
まぁ、お題目などはどうでも良かった。
祖国が陥落し、落ち込む気分を払拭するために、酒を飲んで盛り上がればいい……と皆がそう思っていたのだ。
やれカールスラントのビールはこうだったと、いちいち文句を付けながらも皆が浴びるようにビールを飲む中、ヒットレルだけは一人チビチビと酒を煽っていた。
元々ヒットレルは酒も煙草も控える主義であったが、広報部に来てからは付き合い程度には酒を飲むようになっていた。


アルコールを喉に流し込みながらヒットレルが思いを馳せるのは、いつもならばノイエ・カールスラントへと疎開した妻のエヴァや可愛がっていた姪のゲリ、数頭の愛犬など家族のことなのだが、今日に限っては違っていた。
ツカサ・カリヤ、欧州人のような見た目を持つ扶桑のウィッチの少女についてヒットレルは思案する。
初めに対面したときは、彼女が丁寧に挨拶することから、年の割に礼儀のしっかりした子だとヒットレルは思ったのだが、会話をする時間を持ちその印象はさらに変化した。
彼女は礼儀正しいだけではなく、教養も深かった。
思いのほか、会話が弾んだために、つい何時もの癖で子供には分からないような引用を会話に混ぜで喋ってしまったのだが彼女はその引用に反応し、引用元までヒットレルに指摘してきた。


(まさかな……)


広報担当を任されてからヒットレルは、カールスラントの上層階級の情報にもそれなりに耳が聞くようになっていたが、その上層階級である噂が広がっているのを耳にしていたのだ。


『詳細が分からぬツカサ・カリヤのカールスラント人祖父は正体はとあるカールラント貴族』


『今回のツカサ・カリヤの手柄は、隠し子である彼女の為にその祖父が手を回してでっち上げたもの』


活躍がねつ造というのは完全なやっかみ、根もない噂だった。
多くの将兵やウィッチが彼女の活躍を目撃し、報告している。
確かに出鱈目な戦果であったが、ウィッチの中にはときに奇跡としか言いようのない活躍をするものが出てくるのが常であり、多大な戦果の報告はさらに過大となることが戦争ではよくあることだ。
たまたま今回は彼女、ツカサ・カリヤにも当てはまっただけのことだとヒットレルは認識していた。
ただ、とあるカールスラント貴族の隠し子というのは噂だけはヒットレルの中で合点がいったのである。
対面する前に、ヒットレルが読んだツカサ・カリヤの詳細書類から想像した彼女は、経済的に困窮して軍へ入隊し、多大な活躍を果たしたシンデレラのような少女であったのが、対面を果たし後のヒットレルは彼女がどこかの令嬢のようなイメージを抱いていた。
それも陰で祖父から何らかの援助を受けていたならば納得がいくと、ヒットレルの頭の中でツカサ・カリヤに関する勝手なバックストーリーが完成していく。
その内容は完全な出鱈目《ファンタジー》小説のようなものだったが、残念ながらそれを指摘するものはいなかった。
妄想の筆を頭の中で振るっていたヒットレルは、その途中、ただ一つ不可解だったことがあったのを思い出す。


『撮影が終わった後、ヒットレルさんと一緒に写真を撮っていただいてもよろしいでしょうか』


彼女は何故か、ヒットレルと一緒の写真を撮ることを希望したのだ。
そのときは気をよくして、何も考えず了解したが、よくよく考えると何故自分と一緒の写真を希望したのかヒットレルには分からなかった。
わが軍の若きエースウィッチであるエーリカ・ハルトマンと共に撮った写真の一部は選りすぐって彼女にも渡されることになっていたのだから、記念撮影にしてもおかしかったのである。
結局、ヒットレルは上手い理由を思いつかず、今度彼女自身に会ったときに聞いてみようということで考えを纏めた。


(今度、エヴァに送る手紙の話題に……いや、よそう)


妻への手紙に今回のことを書こうと思ったが、ヒットレルは直ぐにそれを思い直す。
ヒットレルの妻であるエヴァは情緒面で少々……いや多少に不安定なのだ。
まだエヴァと恋人だったとき、ヒットレルは可愛がっていた姪のゲリと不適切な関係にあるとエヴァに疑われたことがあった。
全くの事実無根であったが、疑心暗鬼に陥ったエヴァはついには拳銃自殺を図ろうし、ヒットレルは慌ててそれを止めることなった。
それが切っ掛けで結婚したことはヒットレルが墓まで持っていきたい秘密の一つである。
結婚後もことあるごとにエヴァはヒットレルの浮気等を疑い、ストイックな行動で出ることがあった。
それだけ自分のことをエヴァが愛している証拠であり、好ましいことだと自分に言い聞かせていたが、時々は……愛が重いと感じることも。
そんな妻であるから、ウィッチと一緒に写真を撮ったと手紙に書くだけでも自分の浮気を疑うのではないかとヒットレルは考え、手紙のことを考え直したのだ。
その日の夜、ヒットレルは不思議な夢を見た。
自分がカールスラントの総督閣下になるという荒唐無稽な夢であった。
夢の最初で暗闇から、そんな三文小説のような世界へとヒットレルを誘ったの、誰かの右手であったが、その手は一緒に写真を撮ったときに手を繋いだ少女、ツカサ・カリヤのモノに似ていたと、夢から覚めた後、ヒットレルは気付いたのだった。



























後書き



今回は難産な上にほとんど話が進みませんでした……ORZ


次回は……すごく、未定です(更新日的な意味で)


後、SS書いてて気づきましたが、設定通りならゲルトの妹のクリスは4年くらい昏睡状態ってことなるですね。
そりゃシスコンにもなるわ。








補足

アドルフ・ヒットレル

ちょび髭が似合うおじさん。奥さんは少しヤンデレ気味。
本SSに登場するアドルフ・ヒットレルは空想上の人物であり、実在の団体・人物とは何ら関係はありません。


エーリカ・ハルトマン

アニメ、ストライクウィチーズの主要キャラの一人、EMT《エーリカ・マジ・天使》。
元ネタの人物は第三帝国の黒い悪魔ことエーリヒ・ハルトマン。
本SSでエーリカが落ち込んでいた理由は、仲間であるミーナやトゥルーデが落ち込んでいるのに自分が何もできないからと感じているから。(また自分の妹であるウルスラから、意識の戻らないトゥルーデの妹、クリスを思い出し、そこでも落ち込んでいる)


エディータ


カールラント空軍のウィッチ、エディータ・ロスマンのこと。略して呼ぶとエロスry
元ネタの人物はドイツのエドムント・ロスマン。


トゥルーデ


カールラント空軍のウィッチ、ゲルトルート・バルクホルンのこと。
アニメ、ストライクウィチーズの主要キャラの一人。元ネタの人的に考えて自動車の運転は鬼門。
元ネタの人物はドイツのエース、ゲルハルト・バルクホルン。


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