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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第十話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/19 09:17
Der Freischütz 第十話 「忘れないで」




私、エイラ・イルマタル・ユーティライネンは最近調子がおかしい。
自分でこんな事を言うのはおかしいとは分かっているんだが、調子が良くない具体的な理由が分からない私にはこう表現するしかなかった。
ただ私に分かるのは、――ツカサを見ている時に私の調子は悪くなることだけなんだ。

そんな私は現在、ツカサに付き添って射撃訓練所に来ている。
……整備兵も加えてだが。


「軍曹、頼まれてたサイドアームの具合はどうだ?」


「こいつの形式は?」


「モデル・シュネルフォイヤー、リベリオンの代理店が付けたモデルM712って名前や1932年に製造されてたからM1932でも呼ばれてる。悪名高かったライエンフォイヤーの改良型だ。安心しな、欠陥は完全に改められてる」


「作動方式は?」


「ショートリコイル・フロップアップ方式。当然フルオート、セミオート切り替え可能。切り替えの面倒は……まぁ、ウィッチなら普通とは逆にフルオート一択か」


「使用弾薬は?」


「7.63mm×25マウザー弾。弾倉はこのタイプだと10発か20発の着脱式マガジンが一般的だが、見ての通りウイッチ用の特別製30発着脱式マガジンもある。その代わりにそれを使うと元々手ぶれが酷くて低いフルオートの命中率が重量増加でさらに悪化するが……、ウィッチには関係ねぇか。普通の兵士がフルオート射撃するにはストックが必須だってのに」


「パーフェクトです!! 9mmルガー弾タイプも捨てがたいですけど牽制用のサイドアームズとしてこれほど携帯性と速射による火力の優れた銃はありません。さすがモーゼルC96!」


弾倉を装着し、撃鉄と安全装置を降ろしたツカサは拳銃を構えながら整備兵と仲良く談笑している。
なんでだろう?
その様子を見ていると酷く胸がざわついて胸が痛くなってくる、


「嬢ちゃん、じゃねぇ軍曹、どこで覚えてきたか知らないがその呼び方は間違ってるぞ。まず呼び名はモーゼルじゃなくてマウザーだ。それにC96ってのは民間販売用の形式で軍用ではM96だから呼ぶならマウザーM96だな」


「あっ!! すいません。つい間違えてしまって……」


困った様な笑みを整備兵に向けて浮かべるツカサ。
その笑みを向ける先が私でない事が何故か私を苛立たせる。
いつから私はこんな風になってしまったんだっけ?
確か数週間前、ツカサが倒れた時に何か夢を見てそれから私はおかしくなったと思うのだが。


「……まぁ、いいが。俺としてはカンプピストルも軍曹と相性がいいと思うが……それはM24型柄付手榴弾を二、三発も持てば補えるか。せっかく戦闘脚も載せ換えたDA601Aエンジンをカリカリまでチューンしたんだ。出力も上がってる、もう少し積載量も増やしても大丈夫だろうよ。――しかし、カリヤ軍曹はホントにカールスラントの兵装と相性がいいというか縁があるというか……」


「4分の1はカールスラントの血が入っているので、そのおかげかも知れません。それにストックを使わない場合でもこう撃てば結構当たりますよ」


するとツカサはモーゼルとかいう拳銃を今までの構えから横に寝かせ、連射して撃ち始めた。


「反動を殺さずに利用して横方向に弾をばら撒く……。水平撃ちか、確かにそれなら命中率を上げれるな。誰かに聞いたのか? それにマウザーの扱いも手慣れてるな」


「バゾク――いえ、カールスラントのバイク乗りの兵士がこういう撃ち方をすると聞いたもので。マウザーの扱いに関しては扶桑でもライセンス生産されたものが一部採用されていますからそれを扱った事があるんです」


「なるほど、そういう事か」


最初にバゾク?という言葉をツカサは呟いたが小さい声だった為、どうやら整備兵の男に届かなかったらしい。
バイクを言い間違えたのか?
それはどうでもいいけど、会話の輪に加わろうとしてもなかなか話題についていくことができずにうまく割り込めない。
そうしてツカサと整備兵の会話を指を咥えて眺めていると私の視線に気付いたツカサは声をかけてくれた。


「エイラもせっかく付いて来たんだがら撃ってみたいよね。いいですか?」


「射撃許可申請は通してあるし、嬢ちゃん達が撃ちたいなら俺は構わねぇさ」


「じゃあ、こっちに来てエイラ」


私は誘いを受けてツカサの傍に寄った。
ツカサは私に銃を持たせると、私の背中に寄り添い、覆いかぶさる様にして拳銃を持った私の手に自分の手を重ねてくる。


「エイラはこのマウザーM96の事、どこまで知ってる?」


体はぴったりと密着しているわけじゃないけど、ツカサの吐息は確かに私の耳を撫でた。
顔を赤くしながら、ツカサの声が耳に響くたびに何故だか私は幸せな気分になる。


「いや、全然分かんない」


「じゃ、まずこのマウザーM96は自動拳銃だけど、グリップ部が弾倉を兼ねているわけじゃなくトリガーの前にマガジンハウジングが来てるの。だからグリップの形が他の自動拳銃と違って四角くなく丸みを帯びてる。この独特の形から『箒の柄(ブルームハンドル)』って呼ばれてるんだ。このグリップは小柄な体格の人でも握りやすく、ウィッチにも扱いやすいって人気なんだよ。逆に体の大きい人だとグリップが小さくて銃を撃つ時の手振れが大きくなるけど……。操作方法は――撃鉄(ハンマー)はこっちでその横についてるのが安全装置(セイフティ)。セレクターは真ん中のボタンを押しながらのフルオートとセミオートの切り替えが面倒で……。あとマガジンを詰めたら、後ろのボルトを引けば…………」


ツカサの言ってることの意味は右から左に突き抜けていったが、その声の響きは私の頭の中に心地よく染みわたっていった。






……………………………………………………………………………………………………
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……………………………………







私こと、狩谷司は上機嫌で基地を移動していた。
腰に下げた新品革製のホルスターにはマウザーM96が収まっている。
数週間前の夜間戦闘を機に、武器が対装甲ライフルだけでは拙いのでないかと考えるようになった私は、他の先輩ウィッチや交流のある整備兵の人達と相談し、補助兵装を持つことになった。
私がお釈迦にしてしまった魔導エンジンも新調と同時にチューンしたらしく出力が上がっており、積載量を上げる事はできるが携帯性の利便を考え、他のウィッチと同じく拳銃を要請したがまさかモーゼルC96、いやマウザーM96が自分に貸与されるとは思ってもみなかった。
マシンピストルの元祖ともいえるこの銃(ルガーのフルオートもだが)は前世の知識では第二次世界大戦時、ドイツで短機関銃の代わりとしても使用されており、短所であるフルオート射撃での振動による命中率の低下はウィッチの魔法力でカバーできるので相性もいい。
まだ11歳の自分がこんな拳銃を持っていることにも複雑な感情を抱きつつも、おもちゃを貰いたての子供のように喜びを隠せない。
それが今の私の心境であった。


《主が貸与されたのがモーゼルC96とはな……。これはもう一丁片手にモーゼルを持って、全く無駄のない無駄なポーズで『俺は魔術師……』と言ったり、モーゼルC96に加えてルガーP08を持てば『泣き叫べ――今夜ここに、神はいない』とかできる――》


(やらないから。そんなスタイリッシュ電波お兄さんやキチ○イ電波の真似、絶対しないから――、それとこいつはマウザーM96だから)


突如として頭に響いてきた声に私はそう返答した。


《同じであろう、主の記憶ではモーゼルC96が一般的な呼称なのだからな。……しかしやってくれないのは残念だ》


私の返答に対し、私の使い魔である“伯爵”はさらに言葉を返してくる。
伯爵、私が使い魔にしたコウモリはただのコウモリではなかった。

『ざっくばらんに言えば――我は化物だ。だが安心しろ、取って食うようなつもりはない。主には恩もあるし、何より気に入っている。《オレサマ オマエ マルカジリ》的な化物ではなく、《――力が欲しいか? 力が欲しいなら……くれてやる!!》系な化物だと思ってくれればいい。――っ! 物理反射が鬱陶しいな』

再度、伯爵のあの部屋(本人いわくベルベットルームもどき)を訪れた時に、伯爵は見覚えのある携帯ゲーム機に熱中しながら、私に語った――自分は化物であると。
しかしゲームに熱中しながら片手間に語られてもまるで説得力はない。
自分が転生者などという出鱈目な者ではなければ、妄想乙、厨二乙、邪気眼乙の三段活用でバッサリ切っていただろう。
いや、そもそも前世の記憶がなければそんな表現を取る事ができず、自分の正気を疑ったかもしれない。
……もしかしたら素直に信じ込んでしまったかもしれないが。
ともかく、私は知らず知らずの内にその伯爵の恩恵にあずかっていたらしい。
ここ最近の調子の良さは伯爵が蓄えていた魔力の量の増加によるものであった。
他にも様々な恩恵を受けているが、当然様々なデメリットも存在している。
一等厄介なのは他人の血を見ると吸いたくなるという吸血鬼じみた性質だ。
これは伯爵とのつながりの強化と伯爵自身の魔力の増大が原因らしく、伯爵が憑依中の同調を深くしなければ発生しないらしい。
私は無自覚な状態で既に穴拭大尉の血を吸っていると伯爵に聞かされた。
どんな状況でどう吸ったのかも……。
それを聞かされて以来、私はまともに穴拭大尉の顔が見れていない。


「あ、司じゃない。ちょうど良かった」


「――ひゃう! あ、あ、穴拭大尉!!」


後ろから突然張本人に話しかけられて、私は思わず硬直してしまう。


「――? あなた最近調子悪いの、顔も赤いし」


「しょんなこと――、いえ、そんな事ないです。失礼噛みました」


何だよ『しょんなこと』って! どこの萌キャラだ、私は!!
私は何とか取り繕うと、穴拭大尉に何とか顔を合わせる。


「とにかく、ついて来なさい。ハッキネン中佐の招集で、義勇中隊のメンバーは集合だそうよ」


穴拭大尉の言葉にブンブンと首を勢いよく振って頷くと私は大尉の後に続いた。













「――ガリアの防衛線が瓦解しました。緊急の撤退作戦が発令され、ブリタニア、ヒスパニア、ロマーニャ等へ避難を開始しています。ですが撤退準備が整っていなかった為、大いに混乱しているそうですが」


淡々とした口調でハッキネン中佐から伝えられる言葉の羅列に私は唖然とする。
北部の国境線に敷かれた防衛線の崩壊、そこから流入したネウロイの群れ、そしてガリア北部の首都、パリの陥落。
あまりにも突然の陥落の報せを受け、声も出ない。


「それとは別に、カールスラントのビフレスト撤退作戦に関してですがカールスラント国民の避難はほぼ完了に近いと報告を受けました。しかし、その代償として十万のカールラント陸軍が、ゼーロウ高原近くに残っているのが現状で、カールスラント皇帝フリードリヒ4世からは『一兵たりとも見捨てるな』との勅命が出ています。貴女達にも上より指令が届きました。『スオムス義勇独立飛行中隊はリバウを経由し、ゼーロウ高地でのカールスラント陸軍の撤退支援作戦に参加せよ』との事です。詳細に関しては――」


それを聞いた私は今度こそ、グウの音もでない。
ゼーロウ高原近く、ベルリンには新たなネウロイの巣が存在が確認されている。つまりは……


「最前線の激戦区――」


《激戦区での支援作戦、――地獄の釜が煮え立つ音が聞こえそうだな、我が主よ》


伯爵の言葉に私は喉を鳴らし、唾を呑みこんだ。





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「現時刻を持って、エイラ・イルマタル・ユーティライネンと、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンの両名を軍曹に任命し、スオムス空軍第24戦闘機隊への所属を命じます。また基地の移動についてはスオムス義勇独立飛行中隊と同じく……」


「ちょっと待ってくれ!! まだ私達のカウハバ基地への派遣期間は!!」


「――状況が変わったのです。ガリアが陥落一歩手前、オラーシャの戦線も南部が徐々に圧されています。もはや猶予はありません」


ツカサ達が呼び出された後に、入れ替わる形で私とニパの二人が部屋に入ると、私達が基地に着任した時と同じく、冷たくはっきりした口調でハッキネン中佐は宣言した。
驚く私達に、ハッキネン少佐は説明を続ける。
唐突すぎる命令だと私もニパも思った。



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「いつかはカウハバ基地から離れるって分かってたけど、こうも早くなるなんて。せっかくツカサと友達になったのに、離れ離れか……。寂しいね、イッル」


自室に戻る途中、ニパの口から出たツカサという単語に私は思わず反応する。


「ツカサと別れる……」


そう思うと、胸が少し痛くなる。
チクチクする様なこの胸の痛みのワケは、私には分からなかったが、ただツカサとあって話をしなければ解決しないことだけは私にも分かっていた。





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「何を書いたらいいんだ? 母さんに、ばっちゃに、、りっちゃん、門屋店長……」


私は自室で机に向かい、手紙を書いていた。
けれど、どうにも筆が乗らない。
本当にこういう時、何を書けばいいのだろう?


《別に遺書など書かんでも良いだろ、我が主。後、口調が少し荒くなっているぞ》


「遺書なんて書いてるつもりはないけど、でも何かあるか分からないから書いておかなきゃ……」


少し前に言われた穴拭大尉の言葉を思い出す。


………………………………………………………………………………………………


「まだ11歳で前線に出て2カ月だし、あなたが嫌だというなら私が掛け合ってあげるけど。どうする?」

私の激戦区での戦闘への不安を見抜くように穴拭大尉は私に告げた。

「他のみなさんは?」

「全員参加するわ。ウチの隊で一番怖がりのエルマもあなたみたいに支援作戦への参加を怖がってる。でも言ってたわ――『取り残されたカールスラントの兵士の皆さんは軍の誰かが自分達を助けに来てくれると信じで、避難民の人達を助けて、その場に残ってる筈ですから。今度は私達がその人達を助けてあげないと』って、だから参加するそうよ。ハルカも『智子大尉の行くところなら、例え火の中、水の中、智子大尉の胸の中』とか言ってたけど……これは参考にならないわね」


いつもなら自分と迫水少尉の事を茶化したりは絶対にしない穴拭大尉がそう言ったのは、私を気遣ってくれたからだろう。


「私は貴女の飛行や戦闘を見てきたけど……正直凄いと思ってる。たった二カ月で戦闘脚の扱いもすごく上手くなっているし、今のあなたなら支援作戦に参加しても絶対に足手まといにはならない。この私、穴拭智子が保証するわ」


『だから参加しなさい』とは穴拭大尉は言わなかった。
ただ自信を持ちなさいと私に言っただけであった。


「……一つ聞いていいですか」


「なに?」


「穴拭大尉は怖くないんですか? 支援作戦での戦場はネウロイの巣の眼と鼻の先、多分見た事がないくらいの数のネウロイが現れると思います。――私は怖いです。そんな数のネウロイを相手にすると思うと……すごく怖い」


それは私の偽らざる気持ちであった。
一度死んでいるかといって死ぬのが怖くないわけではないのだ。
だから尋ねたのだろう、ウィッチとして先輩である穴拭大尉に、どうして戦えるのかと?


「怖いかと聞かれたら正直、怖いとは思ってないわ。むしろ嬉しいとさえ思ってるの。私が戦闘脚を穿き始めて、みんなに褒められて、一番を目指して、周りに競争相手が出てきて。その子達と競い合っていたらいつの間にか『扶桑海の巴御前』なんて言われるまでのウィッチになってた。……そして今でも一番を目指している。激しい戦いが繰り広げられる場所でこそ、私の力が優れていると証明できるから、それが私は嬉しいの。誰もよりも優れたウィッチになるのが私の夢だから」


そう語る穴拭大尉には一切の迷いがなかった。
穴拭大尉と違い、私の夢はまだ遥か彼方にある。
少なくともあがりを迎えて退役するまでは叶えるつもりはない、料理人として店を持つ夢。
同じ様に、誰しも夢を抱えて生きている。きっとカールスラントに取り残された兵士達も……。
――そうだ、私はそういうものが守りたくてウィッチになったんだ。
ならば……、答えは決まっている。


「……私も撤退支援作戦に参加します。私は人の命や夢を守りたくてウィッチになりました。穴拭大尉と違って抽象的な理由ですけど、――守りたいから、私は飛びます!!」


「分かった……。貴女の覚悟、しかとこの耳に聞いたわ。安心して、私達は一人一人なら確かに心許ないかもしれない。けど私達は義勇独立飛行中隊、ウィッチではなくウィッチーズなんだから」


穴拭大尉は優しい笑みを浮かべ私に手を差し出す。


「頑張りましょう。――大丈夫、危なくなったら私達が貴女を助けてあげるから。だから貴女もみんなを守りなさい、司」


私は差し出された手をギュッと握り、穴拭大尉に頷いた。



…………………………………………………………………………………………………



「覚悟は決まったけど、何を書いていいかは全然思いつかない……伯爵はどう思う?」


《化物の事など参考にならぬと言っておこう。少し煮詰まっているな。風に当たってくるといい、主》


確かに……と、私は椅子から立って背伸びをする。
伯爵の言う通りか……、まだ点呼時間でもないし。
私は掛けておいたコートを羽織ると、部屋から出て、基地の中を散歩することにした。


時刻は夜だが、スオムスが極に近い為、まだ明るい。
夜風に当たるというよりは、気を紛らわすために鈍った体を動かしているといった感じだ。
しばらく私が基地の周りを歩いていると、建物の壁にもたれ座っている人物を発見した。
その人は、PzB39の修理とアドバイス以来、いつも私の相談に乗ってくれる整備兵だった。
良く見ると片手には空の酒瓶がある。
どうやら酔っぱらってダウンしているようだ。


「大丈夫ですか? このままここで寝ていると風邪ひきますよ」


少し腰を屈ませ、近くで声を掛ける。


「あっ、嬢ちゃんじゃねぇか。いや~、久しぶりに浴びるほど飲んじまったら、このザマでな。外の風に当たっていた所だ」


掛かった息は予想通りに酒臭く、口調も若干呂律が回っていない様子だ。


「部屋まで送ります。(お願い、伯爵)」


《了解した、――さぁ始めるザマスよ》


伯爵は若干の茶々を入れつつも憑依した状態から顕現する。
もう怪物というよりも怪物くんといった感じだ……ネタ的に考えて。
耳と尻尾を出した私は肩を貸して、立ち上がる様に促した。
整備兵がしぶしぶといった様子で立ち上がろうとした時、整備兵のコートの内ポケットから、何かがヒラリと落ちた。


「え、写真――」


地面に落ちたソレを拾い上げ、見るとモノクロの写真には二人の男が複葉戦闘機をバックに写っていた。
一人は目の前の整備兵だ、もう一人はパイロット服を着ているからおそらくこの戦闘機のパイロットか?
それにしても、肩を組み、笑顔を浮かべてとても仲良さそうに写っているな。


「この写真――」


そこまで言って私は言葉を止めた。


整備兵が私の持っている写真に向けていた表情は、さきほどまでの気のいい酔っぱらいのモノではなく、酷く痛々しい、何か傷を抉られたような苦渋に満ちた顔だったのだ。


「す、すいません! これ、見ちゃいけないものでしたか!?」


慌てて謝ろうとすると、整備兵は私の手からゆっくりした動作で写真を取り戻すと、肩を持っている私に「悪い、座るから離れてくれ」と言う。
私が肩を離すと、整備兵は再び壁に持たれて、自身の手に持った写真に目をやる。


「軍そ……いや、嬢ちゃん。これは唯の酔っ払いの戯言だが聞いてくれるか?」


「はい……」


何かあったのかは分からないが、私は聞かなければならないと、強く感じた。
いや、自分自身が聞きたかったのかもしれない。


「――昔々、いやたった一年と少し前の事か。俺は元々オストマルク出身でな、オストマルク空軍で軍用複葉機の整備をやっていて。そして――アイツもそこに居た」


整備兵が言っているのは恐らく一緒に写っていたパイロットの事だろう。


「ガキの頃から腐れ縁で俺達は両方とも空に、飛行機に憧れを抱いていた。俺の夢が飛行機の整備でアイツの夢は飛行機のパイロットで、お互い夢に向かって走り続けて、夢を見事に叶えた。アイツの乗った戦闘機を俺が整備する。……本当に夢みたいな事だったよ。そして本当に夢みたいに終わっちまったんだ」


立っている私には、座って顔を傾けている男の表情は分からなかったが、つらい表情をしているぐらいは容易に想像できた。


「あの日突然。奴等が……、ネウロイが現れて。全てを奪っていった。俺の故郷も、俺の家族も、そしてアイツも! 何もできなかったんだ、俺は! その癖、自分だけ生き残っちまって。辛くて苦しくて、忘れたかった。でも忘れられねぇんだ。アイツの笑顔を、夢を忘れるなんて俺にはできなかった。……笑えるだろ、いい大人がこんなに情けなくて――」


「笑えなんてしやしません!!」


私は思い切り声を張り上げる。

《周りに音が拡散しない様に遮断した。安心しろ、聞こえているのはその男のみだ》

どうやら伯爵が配慮してくれたらしい。
ありがとう、と伯爵に伝えつつ私は言葉を続けた。


「誰も、あなたの事を笑うなんて事はできませんし! 誰もあなたを笑う権利なんてありません!! それに忘れるより、忘れないことの方がずっと強いんです。辛いから、苦しいからって全部なかった事にしてしまうのは、とても悲しい事だから……。だから忘れないでください。その人が生きていた事を、それがその人の生きた証になるから」


とにかく浮かび上がった感情を何とか言葉に変換する。
言わなければならないと強く感じたから。


「嬢ちゃん――」


顔を合わせ見つめ合う。
そうして初めて、自分が凄まじく臭い台詞を吐いたことに気がついた。
滅茶苦茶恥ずかしい、穴があったら入りたい。


「すいません、ガキの癖に調子に乗って。人の気持ちも考えないで」


「いや、そんな事はねぇさ。そうか、俺はなかった事にしたくなかったから、忘れられなかったんだな……。ありがとう嬢ちゃん」


整備兵は写真をしまうと一人で立ち上がった。


「すっかり酔いも醒めた。おかげで一人で帰れる」


そういうと整備兵を私に背を向けて、私から離れていき一旦立ち止まり……。


「嬢ちゃん嬢ちゃん、言ってすいませんでした軍曹殿。侮辱罪は勘弁してくださいよ」


それだけ言って、その場を後にした。
良かった、どうやら調子は戻ったようだな。


《中々に臭い台詞を吐いたな。『恥かしい台詞禁止』と言いたくなるくらいに》


「じゃ、私は『ネタな台詞禁止』と言っておく。それに今の私はまだ子供で14歳も越えてないから許容範囲」


《屁理屈だな、転生者》


「そうだね、怪物くん。でも外に出ろってアドバイスのおかげで何を書いたらいいかは思いついた。『――忘れないで』。それだけ書ければ、後は前に手紙を出した時と一緒でいい」


《我は怪物だから、良く分からぬが、簡潔なのは良い事だろう》


私は伯爵に「そうだね」と言葉を返すと、手紙を書く為に自室に戻っていった。






……………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………
……………………………………






「ツカサ、あの私………」


私はツカサと別れる前に、二人で話がしたくてツカサを呼び出した。
本当ならニパと一緒の方が良かったのかも知れないけど、私は何故かそうするのが嫌だった。
何を言えばいいのか、自分でも分からない。
でも、何か言わなきゃ――。
立ちつくしている私の不安を見抜くように、ツカサは私に微笑んだ。
そしてごく自然な形でツカサは私を抱きしめる。


「大丈夫だよ、イッル」


「ちょ、ツカサ!!」


「離れ離れになっても私、イッルの事を忘れないから。だから忘れないで、私のこと」


「ツ、ツカサ?」


ツカサに抱きつかれたことに驚いて、すぐには分からなかったけど、ツカサの声が若干震えていた事に気付いた。
しかし気遣う間もなく、ツカサは私から離れるといつもの調子に戻っていた。


「きっとまた会えるよ。どれだけ離れても、海と大地は空で繋がっているから、私達がその空をネウロイから守る限り、また会える。――だから約束しよう。また会おうって」


差し出された手を掴む。
すると不思議な事に、今まで抱いていた胸のモヤが消えていった。

『また会おう』

その言葉が私の胸を満たしていく。


「ところでイッル、私に何が言いたかったの?」


「それは……うん、私もツカサと同じだ。私もツカサに同じ事が言いたかった」


「だからまた会おう」と私は返事をする。
また会う頃には、この気持ちの正体が分かっているかもしれないし、全く別の気持ちを抱いているかもしれない。
でもどうなろうと、またこの空の下のどこかで、会おうというこの約束だけは、必ず果たそうと私は誓った。


「約束だかんな」


「うん、約束だよ。イッル」


























後書き

今回はパンツという訳ではないが、自分でも書いてて恥ずかしかった。
ダラダラ書いても仕方ないので話を進めていき、次はリバウの話となります。
穴拭智子と坂本美緒の二人には面識があるという設定をどこかで聞いたのですが、どこで面識があるか知ってる人がいたら教えてください。次の話に関わってくるのでお願いします……ORZ





補足

・モーゼルC96

史実ではドイツで開発された拳銃で20世紀前半で最も知られた自動拳銃。
ネジを使わない独特の構造で、生産に手間がかかる為、値段も高く、第二次世界のドイツでは徐々に二級線兵器となる。
中国でもコピー品が生産されており、当時の中国軍人や馬賊が使っており、司がSS中でやっていた水平射撃は「水平なぎ撃ち」や「馬賊撃ち」と呼ばれ、これには当時の日本軍も苦しめられた。


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