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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第一話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/06 20:37
Der Freischütz 第一話 「狂人を探せ!! あるいはウォーリー的転生者の憂鬱」




転生者、それは前世の知識を持って異なる時代、異なる世界に生まれ変わる者の事を指し示し、物語の中では大抵のその転生者が持つ前世の知識が有益かつ重要なモノとして転生者の力となり物語をいい方向へいい方向へと持っていく。


これは至極当然な事の成り行きであり、たとえ己自身にその様な非常識な事態が振りかかったとしても、その法則は不変のモノとして当然の如く自身に作用する…………、――――そう思った時期が私にもあったのだ。


「ねぇ、りっちゃん……」


現在、何故だか分からないが転生し、年端のいかない少女として第二の人生を送っている私は、端正といっていい自分の顔を歪めながら幼馴染であるりっちゃんにいつものごとく尋ねてみた。


「それってやっぱりパンツじゃないかな?」

「何言っているの司ちゃん。いつも言ってるけどこれはズ・ボ・ンだよ、ズボン。司ちゃんってやっぱり変わってるよね」


いや、変わっているンはソッチだよと、私は純白のパンティを純真そうな顔でズボンと言い張る少女に眩暈を覚えた。上半身はともかく、下半身にそれしか穿いていないのにりっちゃんはまるで羞恥を知らない。
おそらく『パンツじゃないから恥ずかしくない』と本気で思っているのだろう。


しかしながらこれこそが今、私が住む国の……いや、世界のグローバルスタンダードなのだ。


私の第二の人生を送る事になった世界は前世と大分違っていた。前世に照らし合わせるなら私、狩谷司が生まれたのは第二次世界大戦頃の日本になるのだろうがまず国名が大日本帝国や日本国ではなく扶桑皇国となっており、史実(前世)より積極的に海外進出を行っていて、大規模な海洋貿易国家になっている。他にもリベリオン合衆国(アメリカ)、ブリタニア連邦(イギリス)、帝政カールスラント(ドイツ)など国家の名前や在り方なども大なり小なり前世の歴史とは異なっている。


そもそも第二次世界大戦すら起こっていないが、その原因には史実はないデタラメな侵略者の存在がある。


――ネウロイ、それこそが現在の全世界共通の敵となっているモノの名称である。
私なりの表現で言い表すならば前世でやったゲーム、マブラヴに登場したBETAを機械兵器チックに置き換えた存在である。BETAとはいろいろな点で共通点があるが、回収した資源を宇宙に送る様子もないので資源回収ではなく、特定の知的生命体を抹殺するために異星人が造った自己増殖型キリングマシーンなのではないかと私は勝手に妄想している。

これで戦術機とか登場してくれれば、不謹慎だが心が躍ったと思うがこの世界の工業能力はそこまで進歩していないので、そんなものはどこも開発してはいない。

だが代わりにとんでもない技術を使った、とんでもない兵器が対ネウロイ用に開発された。
その名はストライカーユニット。名前だけ聞けばカッコイイのだがその実態はいろいろな意味でのトンデモ兵器だ。


『魔力を動力とする魔導エンジンを搭載した魔女専用装備』


魔女や魔法、これがこの世界では当たり前のように存在し、なおかつネウロイに対して有効である事実に私は神の悪意を感じた。(特に魔法が女性にしか使えず、使用時に使い魔の力を使う為に尻尾と耳が生える事や、年齢的な意味やxxx的な意味で大人になると魔法力が弱くなって魔女じゃなくなるあたり、確実な悪意を感じる)


しかし、今やこの世界では私もデタラメの代名詞である魔女なのであまり深くは突っ込めないが……。


話を戻そう。ストライカーユニットには航空型、陸戦型が存在するのだがその形状は機動性や魔女の持つ固有能力(火炎を出すとか、姿消すとか、投射したモノを自在に操るとか、とにかくすごいチート)及び魔導シールド(魔女が出す、すごいシールド。ネウロイの攻撃を実弾、ビームを問わず防げる。大人になったり大人の階段昇ったりすると使えなくなるらしい。ストライカーユニットを扱う魔女の引退は魔導シールド展開の可否で決まるとか)の耐久力と大きさを考慮した結果、極限までの小型化がされ、ストライカーユニットは馬鹿にでかい長靴の様になり(それでも他の航空機や戦車に比べればよほど小さいが)、その形状通り長靴の様に履く事で装着する。

さらにストライカーユニットとの干渉を避けるために下半身の露出を大幅に防ぐような服を着用出来ないうえ、魔法使用時に生えてくる尻尾に干渉しないようパンツ(ズボン)に切れ目を入れるか、超ローライズを穿かなければならない。

ストライカーユニットを装備した各国の機械化航空歩兵の写真を見てきたが、どれも性質の悪いコスプレにしか見えない。
我が母国、扶桑皇国に至ってはストライカーにミニスカ巫女服だとか、お尻に尻尾用の切れ目が入ったスク水の上にセーラー服や軍服とか各国からさらに抜きん出ている。
さすがHentaiの国、日本もとい扶桑。ストライカーユニットの開発に成功したのも扶桑の博士であった所に片鱗を感じさせられる。
年端のいかない少女にイメクラ紛いの格好を強いるとは開発した故人宮藤博士はきっと、よほどの変態紳士だったのであろう。

けれど魔女、ウィッチ達はその格好に全く羞恥を感じていない様なのだ。
それどころか世界中の成人していない女性の殆どがパンツの事をズボンと主張し、それしか穿いていない事はザラで扶桑の女学校の制服はセーラー服+スク水orブルマorパンツが一般的という変態的な常識がまかり通っている。
前世に存在した大きいお友達が見たら血涙を流しそうなカッコをした少女達が戯れている様子を割と簡単に見る事が出来る。
しかしながら自分がその様な恰好をしなければいけないとなると別の意味で血涙を流したくなる。
――本当に責任者が居るのなら出てきて欲しい。


この世界で生まれた人間は生まれた時からこの世界の常識に沿って生きているからいいだろうが、異邦人たる私は違う。なまじ前世での規範や常識が染みついている分、そのような格好に凄まじい抵抗感を感じる。これほど前世の記憶を恨めしいと思う事になると誰が予想した。
故にこの世界では私こそが狂人であり、私こそがウォーリーを探せ!!でいう所のウォーリーなのだ!! 
まぁ、私はウォーリーよりも遥かに目立ってしまうのだが…………。


「……………………」

「やっぱり司ちゃんて、どこいっても目立っちゃうね」


私とりっちゃんは今、学校から家へ下校する最中なのだが、会う人、会う人が必ず私を見てくる。
私にはそれがまるで自身の格好(セーラー服にスク水)をおかしく見られているように思え、羞恥心を煽られるが、目立つ真の理由は私の容姿だ。
日本人ばなれしたブロンドの髪(でもお年寄りから白髪に間違われる)に金色の瞳。つまるところまったく日本人に見えない容姿が私を悪目立ちさせているという事なのだ。


私自身の親は容姿、国籍も合わせ両方立派な日本人であるのだが(ただし父は写真でしか見たことがない)、祖父がカールスラント人であるので隔世遺伝のクォーターということになる。
――何というか私はあらゆる意味で異端だ。


「じゃ、りっちゃん。また明日」

「うんまた明日ね、司ちゃん」


私はりっちゃんに別れを告げると駆け足で自宅に帰る。 
我が家である古い木造建築の家の玄関に着くと、靴を脱いで母親と祖母に帰宅を伝えた。


「母さん、ばっちゃ、ただいま」

「あら、お帰りなさい司」

「おや、今日はやけに早いじゃないかい」


母と祖母は口々に言葉を返す。私の家は父親に祖父、男兄弟もおらず我が家の家族構成はこれだけだ。
狩谷家は代々魔女の家系であるのだが同時に生まれてくる女子は男運に恵まれないというジレンマを抱えている。祖母はカールスラント人の男性と、かなり深い関係になり子供まで儲けたが、様々な事情から周囲に結婚を反対され引き裂かれてしまったし。
母は結婚してすぐに父と死別してしまった。我が家の魔女は代々そんな感じで、その男運の無さは呪いに匹敵するほどだ。
だが前世で男性であった私は結婚することなど微塵も考えていないので、あまり関係のない事ではある。
私の代で狩谷の血が絶えるのは、正直忍びないが、私が男とコンバインするなど毛ほども想像できないので仕方がない……。


私は家に入り鞄を自分の部屋に置くと、家の庭にある使われなくなった土蔵に向かった。


「伯爵、伯爵。帰ってきたぞ」


暗い物置の中でそう告げると当然暗がりで小さな二つの眼が光り、バタバタとした羽音がこちらに向かってくる。


「ピギー、ピギピギ、ピギー」

「こらこら、そんなにがっかなくても、ちゃんと果実を持ってきたぞ。今日は伯爵の大好物の桃だ」


そう言って私は自分の使い魔であるコウモリ、「伯爵」に桃を与えた。


――私と伯爵との出会いは森の中であった。
伯爵はその大きさからコウモリの中でもオオコウモリに分類されると思われるが、前世の知識では本来オオコウモリは生息分布である小笠原諸島と琉球列島にしか存在していないはずだが、何故関東圏の森で倒れていたかは分からない。(前世とここは似ていても別世界なので何ともいえないが)
とにかく私は怪我をしていた伯爵を家に連れて帰り、手当をした。
りっちゃんの母親が稀有な回復能力を持つ年長の魔女だった事が幸いし、回復魔法を使う事で伯爵はみるみる良くなっていった。

今思うと、私はコウモリである伯爵に自己投影を行っていたのかもしれない。
イソップ物語の「卑怯なコウモリ」では蝙蝠は獣と鳥の両方にいい顔をしてしまい、最後にはどちらからも追放されてしまった。
そのコウモリの二重性が私には自身の自己の境界性の揺らぎを象徴しているように思えたのだ。
前世と現在、扶桑とカールスラント、男と女、様々な面で現状どっちつかずの私はコウモリのソレとなんら変わりない。

まぁ、その様に自分の中でも思う所があり、回復した後、私は伯爵を私の使い魔とした。
野生動物を使い魔にした場合には感染症を持つ疑いがあるので、魔法術式を用いた滅菌処理をこれまたリっちゃんの母親にしてもらった。
何というかマジ魔法パネェ。
最近ではこの魔法滅菌処理は畜産にも利用され、無菌豚の生産に成功したそうな。科学に合わせ魔法という伸びしろがある分、色々と便利な世の中だ。


「じゃ、そろそろ出かけるから伯爵。ちゃんとついてこい」

「ピギー!」


私は伯爵に桃を与え終わると、制服に比べまともな服に着替え、帽子を被り、玄関で靴を履き替える。
なお、これら全ては私が今から向かうバイトで稼いだお金で買った物だ。他はおさがりばかりで、女手しかない我が家はあまり裕福といえない現状が表われていた。


「じゃ、母さんとばっちゃ。出かけてくるから」

「粗相のないようにね」

「気を付けて行っておいで」


私は家を出るとすかさず耳と尻尾を出し魔女のしての力を顕現した。
この状態の利点は魔力を消費するがその分、元の運動能力の数倍以上の力を発揮できる所にある。
この状態で走ればバイト先に行くまでの時間が半分以上短縮される。耳と尻尾が出るせいで余計に目立ってしまうのは、走るのに邪魔にならない程度に長いスカートと帽子より解決できたので私はそれほど恥ずかしくはない。

――そういえばこの世界には普通のオリンピックに加え、魔女限定のオリンピックがあるのだが、何故あのような前世の深夜にやっていた如何わしい番組並のアレを公共の電波にのせられるのかと思う。いやマジで本当に……。







「いやー、司さんが居て本当に助かっているよ。司さんが提案してくれた新メニュー『お子様ランチ』は家族連れに大人気でね。最初はご飯の上に旗を立てるのに少し抵抗を感じてたけど、全体としてみれば綺麗だし子供も大喜びさ」

「いえ、私は盛り付けを提案しただけですから、後は門屋店長の腕があっこそですよ」

「いやいや、司さんも若い内からそんな謙遜が出来るとは……やはり将来が楽しみだ」


私は現在、港の近くに存在する、とある洋食店で働いていた。
前世では学生時代に同じような洋食店で働いていた私は偶然この店を見つけ、前世での思い出に浸っていたのだがそれが門屋店長にはひもじい思いをしている栄養欠乏児に見えたらしく心配になって私に声を掛けてくれたのだが……。
――いつの間にやら洋食についての話になり、私は調子に乗って前世で働いていた店でおやっさんに深くきつく叩きこまれた洋食のノウハウを門屋店長にひけらかしてしまった。


洋食はこの世界ではまだまだ新しいジャンルのものであり、その道を試行錯誤を繰り返して進んできた門屋店長にとってその内容は大変衝撃であったらしく、私は肩を激しく揺すられ質問攻めにあった。
しかし私は知識の出所を一切の秘密とした。前世ですなんて本当の事も言えず、下手に嘘を吐けば後でボロが出て事態が余計にややこしくなると考えた私は口を噤んだのだ。
変わりに私は門屋店長にこう持ちかけた。『私の知識について一切追求せずに私を雇ってくれるなら私の持っている知識を詳しく教えます』と……。


正直、家の経済状況を考えて働きたいと思っていた事もあったのと、前世では料理人になって自分の店を持ちたいとの大望を抱いていた私である。(勿論、叶わぬ夢であったが)
何としてでも雇って欲しかったのだ。
結果として私は門屋店長に雇われ無理のない範囲でこの店で働くことになった。これが約一年前の出来事……。
正直、まだまだ短い第二の人生の中であの時こそが前世の知識が一番役に立ったと感じた場面であった。


「司さん、オムライス一つ頼むよ」

「――分かりました」


私は慣れた手つきでフライパンを準備する。こういう立ち仕事は小学生がやる様なモノではないが私には魔法というとっておきのチートがある。
衛生の為、尻尾と耳を頭の布巾とエプロンで隠し、足りない身長を店長に作ってもらった台の上に乗って補い作業に従事する。フライパンを片手で扱うのに必要な力も魔力が補ってくれる。
最初は自身の魔力量が少なく途中でキッチンの仕事ができなくなってしまう事がしばしばあったのだが最近では魔力量にも余裕が出てきてるし、十数年近いブランクも近頃はそれほど感じる事もなくなっていた。
現在小学生である私が働いている……、この事についても前世であれば色々な法律に引っ掛かかっただろうが子供の内から仕事をこなしている人間はこの世界では珍しくもない。
魔女の仕事など十代から二十歳くらいなので、かなり早い内から従軍していたりもするし。







「ごくろうさん、司さん。最近はお客さんもいっぱい来るようになったし僕一人じゃ大変だからね。はい、これはいつもの賄だよ」

私が仕事を終えると門屋店長は欠かさず賄を出してくれる。
この洋食店は基本門屋店長が一人で切り盛りしており、私が仕事を終えた後も門屋店長は仕事が続いているのにもかかわらずにだ。
私はもう少し時間を延ばしてもいいといいうのだが、門屋店長は子供をそんな時間まで働かせられないと頑なに拒否させられた。
――かといって申し訳ない事を理由に賄を断る事は、成長期真っ盛りの私の胃袋が絶対に承諾しなかった。
最近、私は急速に背を伸ばし、10歳過ぎでもう145cmに届くかというほどの伸びっぷりだ。
おそらくいい物を食ってる事と私に色濃く表れているカールスラント人の血が理由だろう。


私は遠慮なく賄にありついた。
一度は家族に申し訳ないと鋼鉄の意志で断っていた時期もあったが、それからは小さな鍋にシチューの残りをいれて持たせてくれて、残ったパンの耳を油で揚げて砂糖を塗したモノを持たせてくれるようになり門屋店長の言葉にも押され、私は賄を食べる事がほぼ習慣となった。

しかし魔法を使ってガス欠の私がガツガツ食べているところを門屋店長に見られていると、やはり何だか申し訳なく思えてくる。
(何だがいろいろ催促したようで本当にスイマセン門屋店長)
そう心の中で呟きながらも私の手と口は決して止まることはなかった。






Side/門屋店長


こうして司さんがせわしなく食事をしている所を見ていると普通の無邪気な少女に見えるのだが、実はそうではない事を僕は知っている。
司さんに初めて会ったのはもう一年も前になる。
ガラス越しにこちらを見る司ちゃんを僕は最初に見た時、見た事もない華やかな料理を見て腹を空かせているただの子供と思っていた。
今思えば、彼女の瞳は郷愁や羨望の感情を映していたのかもしれない。
興味本位で開店前の店から出て彼女と言葉を交わした時、私は人生の中で最高の衝撃を受けたと思う。
もちろんそれはこれからも変わる事はないだろう。
彼女の口から出たのは洋食に対する深い造詣、知識に加えて洋食について十年以上勉強してきた僕が全く知らない調理法に料理。
それらが嘘やデタラメでない事は僕が積んできた経験が告げていたし実際にそうであった。


ところが彼女は知識の出どころを僕には一切話してくれなかったし、追求しない事を条件に僕に雇って欲しいと頼んできた。
僕はその条件を飲んだのだが、一度どうしても気になり彼女のいない間に司さん家を訪れ家族にそれとなく聞いてみたが、返ってきた答えは驚くべきものだった。

「娘は洋食の『よ』も知らない様な子なのですがちゃんとやっていけてるでしょうか?」

僕はとっさに否定の言葉を出しそうになったが何とか抑え、「そうなのですか」と話を合わせた。
すると彼女の母親は自身の家が貧しい事、娘に全く贅沢をさせてやれないことを僕に語ってくれた。
その上で、できれば彼女の仕事が拙くとも何とか彼女を使ってやって欲しいと僕に告げたのだ。
彼女の祖母から聞いた話もほとんど変わらなかった。


確かに司さんは最初の頃は拙い所があったが、少なくとも全くの素人でもなかった。
ならば彼女はどこで洋食について学んだのか?
分からない事は他にもある。
彼女は最初の僕の店に入った時、彼女はぼそっと小さな声で『レトロな店、懐かしい』と呟いた。
レトロとは一体どういう意味なのだろう、それに何故懐かしいなどと言ったのだろうか?
他にも彼女がお客に出せない残りものの材料を使って作った焼きギョーザなる料理も大変おいしいかったが、同時に大変に完成された料理に思え、彼女に自分で考えたのか尋ねると『いいえ、チューカ料理です』と答えたのだが、僕がチューカ料理とは何かと聞くと彼女はハッとなって口を噤んでしまった。


魔女と言うのは古くから各国で神秘の象徴とされてきたが、彼女の料理についての知識の深さは掛け値なしに魔的だ。
僕は約束を破ってでも彼女の秘密を知りたいと時々思うのだが、そうしてしまうと扶桑の昔話にある鶴の恩返しの様にどこかへ消えてしまうのではないかという不安に駆られる。
願わくばずっと僕の店で働いてくれればいいとそんな傲慢な事を考えるが、そうもいかない事は僕にも分かっている。
彼女は小学校を卒業した後、魔女、――いやウィッチ養成学校に行くと決めていると言っていた。
彼女は経済的な事情から普通に進学していくのは困難であるが、ウィッチ養成学校へ入れば様々な支援を受ける事ができる。
けれど同時にウィッチ養成学校を卒業すれば危険なネウロイとの戦いを行っている前線に向かう確率が非常に高い。
ストライカーユニットを駆使して戦場で戦うか、魔女の力を使い後方支援に回るか。
多少の違いはあるものの、どちらも同じく前線への赴任であり死の危険と隣り合わせなのに変わりない。


人類が初めてストライカーユニットを駆使してネウロイを撃破した扶桑事変。
それを題材として製作された映画は扶桑国民の精神を大いに高揚させ、多くの幼き魔女が感化を受けて軍へ入っていった。
聞いてみた所、彼女はその映画を見ておらず、憧れでウィッチになった訳ではないという。
ならば何故?と彼女に尋ねた所、彼女は困った表情でこう答えた。

『後悔したくないんです。出来る事を出来ないと決めつけて諦めるのは、――もう御免だから』

その時の彼女の顔は年端のいかない少女の顔ではなく、人生を長く積み重ねてきた大人の顔だったと僕は記憶している。
本当に不思議な事だと僕は思う。
あの扶桑人離れした容姿に、時々見せる大人っぽい仕草や言動。それに今の様に賄を食べている時の年相応の無邪気な様子。
それに彼女の神秘性が合わさり、彼女の魅力を大きく高めている。
僕がもう少し若ければ……、などと馬鹿な考えをするくらいに彼女は魅力的なのだ。

『(願わくは彼女の未来に幸有らん事を……)』

食事を取る彼女を見ながら僕はそう強く願った。








「では気を付けて帰ってくださいね、司さん」

私は店長と数度言葉を交わした後、洋食店を出て帰路に就いた。

最近、店長と共有する話題はもっぱら、ネウロイの欧州侵攻についてである。店長は私にいかに欧州が現在危険で危機的状況にあるかを語り、従軍は命がいくつあって足りないから小学校を卒業したら内で本格的に働かないかと持ちかけてきた。

話が飛躍しすぎではないかと思うかもしれないが、家計があまり芳しくない我が家では補助の出るウィッチ養成学校以外進めないので政府の、軍属のウィッチにならないならそこからもう自分で働かなければならない。
そういった子供も現在の扶桑ではさほど珍しくないが、いざ自分に身に関わってくると嫌なものである。
洋食店で働くのは好きだが、一生あそこで働きたいかといえばNOである。
何というか最近、店長の私に対する態度は怪しいものがあるのだ。
3日前だっていきなり『そういえば海外のウィッチに30歳も年の離れた将校と恋愛結婚した子がいるそうだよ。君はどう思う?』などと聞いてきた。
その時に店長の言葉にはやけに熱が籠っていた様に思える。
さらには卒業して内で真剣に働く事を考えてくれたら給料も上げると、まだ10歳と数カ月の私にしつこく言ってくるのだ。
正直、狙われているとしか思えない。
生理的にも道理的にもアウトである。
童顔で優男で前世のアニメやゲームキャラに強引に例えるならカーキャプの桜父とか白詰草話のツナカワの様な容姿の店長だからこそ余計に私を心配にさせた。
雇ってくれた恩を仇で返すようで悪いが小学校卒業までのらりくらりとかわしながら軍学校への入隊までもたせよう。
私は心の中でそう誓っていた。


軍属となり、前線でネウロイと戦う事に恐怖を感じないかと問われるならば全く怖くないわけではない。
だが、それ以上に軍属のウィッチになる事が私には魅力的であった。
待遇はべらぼうにいい。
衣食住は一切保障されるのに加え、給料も破格で前世の価値で年収400万からでエース級のウィッチとなると1000万を超える事もある。
そして階級はしょっぱなから軍曹、これは男性軍人がむやみにウィッチに粉を掛けさせないようされた処置であり、私にとっても大変ありがたいものだ。
他に色々な特典があるのだがそれは割愛する。
それに私がウィッチになりたいと思った一番の理由は、後悔したくないからだ。


人類種の天敵たるネウロイの天敵足り得る魔女。
私はその一人としてネウロイと戦える力を持っている。
ただ戦える期間はわずか20歳ほどまで。
その間にネウロイと戦っていなければ恐らく私はずっと後悔するだろう。

戦えるだけの力、やれるだけの能力を持っておきながらなぜ戦わなかったのかと。

思えば前世の人生は後悔の連続だった。
言い訳ばかりでいつも半端、何一つやりとげられない、やろうとしない情けない自分。
料理人になるという夢も自信のなさを言い訳にして結局、自分から目を背けたのだ。
そんな私であるが、何の因果か第二の生を受けて今、ここに生きている。

一度はなくした命だ。
だからこそ重要で尊いモノだということを我が身にしみて理解している。
だが……、――いやだからこそ、その命を守る為に戦わなければならないと私は思うのだ。


「でも、できれば今からでも入隊して、戦場に出ても死なない程度の技量を身につけておきたいな。それに若い内から入った方が給料を多く貰えるし、貴族やお偉いさんとの人脈を築いておいて退役後にコネで店を出す為には入隊は早い方がやはり有利だと思うし。私が今からウィッチとして軍に入隊するには誰かお偉いさんの推薦が必要だけれど……」

そうな取りとめのない考えをはしらせながら帰路についていると・・・・・・

「ドロボー!! 待てこら! 待ちなさい!!」

声を耳に届いたのとほぼ同時に横を誰かが凄まじい勢いで通り過ぎるが魔力である程度強化された視覚は確かにその横顔を捉える。私は瞬時に眼球に魔力を込め、過ぎ去っていく人物を捕捉した。夜ではあるが蝙蝠である伯爵と同調しているおかげかはっきりくっきり相手を映しだす。見えたのはヒゲの濃い厳つい中年で、手には不釣り合いで高級そうな鞄を抱えている。

「こらっ!! 鞄を返しなさい」

ヒゲ中年の通り過ぎた道の方から二度目の声が聞こえた。

……なるほど事情はだいだい察する事ができた。 おそらく声の主が本来の鞄の持ち主であり、あのヒゲは盗人という訳だ。

私は門屋店長にもらったジャガイモを入れた袋を地面に置くと、おもむろに一つ取り出す。手に持ったジャガイモの形を握って確認し逃げた盗人に目を向けた。

「大分離れたけど、届かない距離じゃないな。 ……門屋店長ごめんなさい!」

息を大きく吸い込むと、私はジャガイモをオーバスローで盗人めがけて投擲した。

それは出鱈目なフォームだった。前世も合わせて野球など数えるほどしかした事のない私である。しかもボールではなくジャガイモの投擲。

だがジャガイモは凄まじい勢いで盗人めがけ飛翔する。魔女としてのありったけの力を込めてのオーバースロー、ジャガイモはただ物理法則に従い、込められた力の通りに空気の壁を喰い破るように突き進んだ。

けれども、いくら距離が届こうとコントロールがなければ意味がない。次第にジャガイモは横にずれ、盗人に後、少しという所で進行方向は完全に壁の方に逸れた。

しかし……


「――曲がれ」


魔女は理を超越する……。

壁に向かっていた筈のジャガイモが直角に軌道を変える。横の向きを変え、下へと。法則を無視した魔の二段変化。その時、確かにジャガイモは、――魔球と化した。

まるで吸い込まれるように、地を踏み抜こうとする盗人の足と地面の間にジャガイモが滑り込む。盗人は思いっきりジャガイモを踏み、盛大に転倒した。地面に倒れこんで動かなくなったが、強化された聴覚は確かに盗人の鼓動を捉えていた為、私は取り乱すことなく逆方向に向きを変える。

「待て! 待ちな……」

「盗人なら100メートルほど先でのびています。そう焦らなくても鞄は取り戻せますよ」

私は息を切らせた身なりの良い男性にそう声を掛けた。








「いや~、職業柄ウィッチにはよく会うんだけど、あんな所を助けられるなんて……。ところで君は何処の所属なんだい?」

盗人を警察に送り届けた帰り道、私のとなりには鞄の持ち主だった男性がいた。
話を聞いた所、どうやら海軍の軍人で大尉だそうだ。
眼鏡を掛けており、どこか頼りない優男の様な印象を受ける。
相当若く見えるのに実力者か七光か……。

「いえ、軍属ではないです。まだ小学五年生ですし」

「えっ、小学生なの?」

驚かれた。
無理もない。同い年の子はみんな130cm台なのに対して私の身長は145cm、中学生ぐらいの高さだ。
その所為で学校でも目立つのだが――女学校だからまだいいが何か親が見に来る行事は止めて欲しい。
特に運動を伴うようなものは……、運動会なんて親達の目線がこちらに集中する上、服装がぱっつんぱっつんの制服+ブルマorスク水なので気が変になりそうになる。
身長と比例せず胸がまな板なのが唯一の救いだ。

「小学5年――か。しかしあの能力を鑑みればむしろ……、いやあの話が出た後にこんな巡り合わせがあるなんて、よし」

(あの話? 一体何の?)

そうこう思っている内に両腕を包むように掴まれ、軍人さんは顔を思いっきり近づけてきた。

「君、海軍に入らない?」

「えっ、……えーと。はい?」

――思えばこれが私の人生のターニングポイントであった。


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