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No.24592の一覧
[0] とある世界達の反逆戦争(とある×シャナ×東方×ネギま)[雷](2011/04/02 15:36)
[1] 第一話『焰と時』[雷](2011/02/14 17:36)
[2] 第二話『焰と時・Ⅱ』[雷](2011/02/14 17:36)
[3] 第三話『焰と時・Ⅲ』[雷](2011/02/14 17:37)
[4] 第四話『焰の悩み・道と神』[雷](2011/02/14 17:38)
[5] 第五話『時と道の激突』[雷](2011/02/14 17:39)
[6] 第六話『最凶と最弱』[雷](2011/02/14 17:40)
[7] 第七話『世界と全ての生き物よ』[雷](2011/02/14 17:42)
[8] 第八話『灼熱の揺らぎ』[雷](2011/02/14 17:43)
[9] 幻想郷・プロローグ『始動』[雷](2011/02/14 17:34)
[10] 幻想郷・第一話『地の人形』[雷](2011/03/01 15:36)
[11] 幻想郷・第二話『虹の翼』[雷](2011/03/06 12:03)
[12] 幻想郷・第三話『天さえも知らぬ思いを』[雷](2011/03/09 16:19)
[13] 第九話『子供に振り回されるのは大人の役目』[雷](2011/03/25 17:47)
[14] 第十話『すれ違い都市』[雷](2011/03/31 14:00)
[15] 第十一話『電撃姫と木の演奏者』[雷](2011/04/02 15:37)
[16] 第十二話『炎と時』[雷](2011/04/06 16:50)
[17] 第十三話『そして物語は加速する』[雷](2011/04/12 16:59)
[18] 第十四話『ジャッジメント』[雷](2011/04/18 14:44)
[19] 第十五話『龍族とジャッジメントと』[雷](2011/04/30 12:31)
[20] 第十六話『悪人と善人』[雷](2011/05/04 17:56)
[21] 第十七話『──前の平和』[雷](2011/05/08 16:31)
[22] 第十八話『自覚』[雷](2011/05/12 11:57)
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[24592] 第十話『すれ違い都市』
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:418c9935 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/31 14:00



第十話『すれ違い都市』

















「ただいまー」
「あれ?おかえりなんだよとうま」

十月十八日の朝。
第七学区の学生寮。
その一室で寝転がっていた白いシスター、インデックスは普段よりも遥かに早い家主の帰宅に、不思議そうな顔をしながらも取り合えずおかえりと言った。
答えるように、玄関の方から廊下を歩いて来る足音が鳴り響く。

「あー、結局今日遅刻寸前に滑り込んだ意味無かったなぁ」

鞄を適当に床に放り、全身の筋肉を伸ばすように背伸びする家主こと上条当麻。
夏服から衣替えとなった制服の上着をぶかつかせながら、うーんと唸り、

「ぷはぁ」
「とうま、おっさんぽい」
「上条さんは現役高校生ですよー」

失礼な、と反論する青春ばりばりの上条。
そんな上条に、インデックスは彼が帰って来たことについて尋ねる。

「なんでとうま今日はこんなに早いの?今日は休みじゃないんだよね?」

彼女の知識上では今日は十月十八日。
祝日ではなく、上条は夕方まで帰らない筈だ。
インデックスには自分の知識を疑う必要が無いため『確か~』などという言葉を使う必要は無い。
それに対し、上条はツンツン頭を右手で掻きながら、

「なんか突然休みになった」
「?」

要領を得ない答えに、インデックスは更に不思議そうに小首を傾げる。
上条自身も納得がいっていない、もしくは理解出来ていないようだ。
ガラステーブルの前に座り、頬杖をつくその表情は、惚けた悩み顔。

「機材の故障がどうこうってことで休みになったんだけど……小萌先生も、なんとなくにしか納得出来てないって顔してたし……本当は、もっと別の何かがあったのかもな。アレイスターが何かしたとか」
「よく分からないかも……でも、今日はご飯が早く食べれそうな気がするんだよ」
「その予感は間違ってると言おう」

そんなー、とガラステーブルに頬をつけるインデックス。
頬杖をついた上条と向かい合う形となり、ここにダルダルダメ人間が二人生まれた。 
二人とも、暫くボーッとお互いの雰囲気を感じ取りながら沈黙を守る。
やる事が無く、ぼんやりと漂う雲のように、ただ黙って時が過ぎて行く。
インデックスも上条が何も言わないせいか、口を開くことはない。
久しぶりの二人きりなのに、不思議と会話が始まらない。

「……アレイスター、か」

突然、気の抜けた表情のまま上条はそんなことを言い出した。
脈絡が無いその言葉と単語に、シスター少女は眉を潜める。

「……?」
「いや、考えてみりゃ、俺は凄い奴と話してたんだなって」

上条は苦笑で返す。
あの男にも女にも子供にも老人にも聖人にも罪人にも見える、学園都市のトップ、かつての世界最高の魔術師。
目的のためならば、どんなことでもすると宣言した者。
そして実際に、幾つもの命を葬り去った者。

「今更だけど、随分俺は場違いな気がするんだよ」

苦笑のまま、しかし言葉は重く告げる。世間ばなしにしては、かなり重い声。
昨日の戦い。
異世界の者。
完全な足手まといだった、自分。
ただの異能を打ち消すだけの右手しか無い上条当麻という存在は、この舞台には似合わない。
彼等のように戦うための強い理由というものが、上条には無かった。
彼は基本的にハッキリとした戦う理由を得てから戦う人間だ。
昨日の夜、シャナを助けに行ったように。

何時の間にか、彼の顔から笑みは消えている。
インデックスの表情も、真剣なものとなっていた。

「世界、って言われてもやっぱり俺には想像出来ないし、敵がどういうのかっても分からないと、戦う気も起きない。そんな中途半端な俺が、この『戦い』に手出ししていいのかなって、さ」

アレイスターは本気で世界を救おうとしていた。
シャナには強い信念が感じられた。
だけど、自分にはなにも無い。


だから、弱く、足手纏いになる。


「……って、悪い。折角休みなのに、空気悪くなっちまったな」

自分で漂わせてしまった重い空気を払うように、彼は笑う。
平和な空気が、これでは台無しだ。
心中で僅かに悔やむ。
そして、目の前の少女へと何処か暗い笑顔を向けると、

「……と、とうまが私に弱音を吐いた……っ!?」
「おぉいっ!?結構真面目だったんですが!?」

体を半分後方に引くぐらい驚いていらっしゃった。
さながらその姿は異常に怯える小動物。
空から降ってくる魚でも見たかのような驚きように、上条はツッコミを入れるが、




「だって、とうまって何時も私に何も言わないんだもん」




「っ──」

金槌で殴られたような衝撃があった。
不貞腐れたインデックスを見て"弱気"になっていた彼は思う。
そうだ。自分は彼女に、こんな風な弱音を見せたことは今まで無かった。
単純に上条自身が強い心の芯を持っていた、というのもある。

だが、本当の理由は、違う。

この白い少女に、弱い部分を、汚い部分を見せたく無かったからだ。
『彼女の信じる上条当麻』であり続けようと。
その緑の瞳に浮かぶ絶望を見たくなくて。
その笑顔が歪むのが見たくなくて。
その心が苦悩に埋め尽くされるのを見たくなくて。


──あの、完璧過ぎる笑顔を二度と見たくなくて。


だから、『上条当麻』は『上条当麻』であろうとしたのに。

(何やってんだ、俺は……!)

何故、この少女に、よりにもよってこの白い少女に弱音を吐いてしまうのだ。
弱気になっていた自分を罵倒するように、上条を強い後悔の念が襲った。
歯を音がするくらい食いしばる。

「でも、嬉しいな」

が、そんな彼を優しく包むように、少女から言葉が紡がれた。
穏やかな風にも似たその言葉に、彼は目をインデックスに合わせる。
インデックスは、笑っていた。
それは、素直な喜びの笑みだった。
だが一転して、表情は悲しみとなる。

「昨日シャナの所へ行った時もそうだよ。とうまは何時も何時も何も言わないで誰かを助けるために、何処かへ行っちゃう。仕方がない時も多かったけど、やっぱり、心配だよ。何も言わないから、何時か幻みたいに消えちゃいそうで」
「……インデックス」

悲しそうに語るインデックスを見て、上条は名前を呼ぶことしか出来なかった。
全く反論出来ない。
彼女の言っていることは全部正しくて、上条当麻の事情と勝手な思いでの答えだから。
自分勝手な、思いの押し付けだから。

「……」
「でもね」

だが。
更に落ち込む上条に、彼女は聖母の笑みを持ってして語りかける。

「私はそれでもとうまを信じてる。とうまは私が『いってらっしゃい』って言ったら、どんな目にあっても必ず『ただいま』って帰って来てくれるって」

言葉に揺らぎはない。
信じてる、という気持ち通りの言葉は、上条の精神へとしみ渡って行く。
絶対的な思いの力が、上条当麻という人間を精神的に力強く、支える。

「だからとうま。一つだけ約束して。絶対に、何があっても大丈夫だって」
「──あぁ」

上条も笑みに対して笑みで返す。
そこに先程までの陰りはなく、何時もの彼らしい"強い"笑顔が浮かんでいた。
彼は口を開いて、約束する。
絶対的な、誓いの言葉を。

「約束する。絶対に、どんな事になっても、どんな奴等と戦っても、必ずお前の所に帰って来る」

その言葉は上条にとって当たり前のものだった。
例えどんな困難だとしても、この少女も元に笑顔で帰って来ると。
何処までも白い彼女を、必ず守り抜いて見せると。
その二つの思いを込めた誓いを、言葉として宣言する。
それだけで、心にあった迷いは完全に消え去っていた。

「……えへへ」
「……ははっ」

互いに笑い合う、この平和な一時。
この世界(平和)を、壊させる訳にはいかない。
"前の"上条当麻では無くても、彼はそう思う。
戦う理由がハッキリした上条当麻は「うしっ!」と掛け声をかけて勢いよく立ち上がる。

「じゃあ早速シャナを探しに行くか」
「あっ、待って!私も行く!」
「えっ?……そう、だなぁ。来てくれると助かる……」
「……とうま、シャナに昨日のことまだちゃんと謝ってないから、会うのが引けてるでしょ」
「うぐっ!?なな、な、なんのことでせう?」

挙動不審に陥るヘタレなヒーローを見て、インデックスは小さく笑う。
先程までとはまた違った、年相応の少女の笑顔。
部屋を出て、廊下を歩きながらもう一度決意する。


例えどうなろうと、必ずインデックスを守る、と。


「──────」
「んっ?なんか言ったか?」

だからだろうか。
先導するように前を歩いていた、インデックスの言葉を聞き取れなかったかったのは。
問いかけに対し、彼女は、

「……ううん。何でもない!」

と簡単に答えた。
上条の方も、特に追及はしない。

「あっ、そういえばとうまーお腹減った」
「朝食から二時間経ってませんが!?」
「それでもお腹が減ったんだよ!私の胃袋が空っぽで悲鳴をあげてるかも!」
「その悲鳴を変換して頭に噛み付こうとするのは止めて下さいインデックスさん!?」




何故この時にインデックスの"真意"に気がつかなかったのか。
何故『神』と遭遇していたことを"聞かされなかった"のか。
何故インデックスの最後の言葉を聞いていなかったのか。








後に上条当麻は、この時のことを死ぬ程後悔するはめになる。


















「……」

第七学区のとある通りを、無言で噂の少女シャナは歩いていた。
黒いコートのような"夜笠"で身を包み、整然とした歩みで歩を進める姿には視線を向けることすら躊躇われる。
周囲には人が居て、人混みの中を歩いているというのに、抜き身の刀を持っているかのようにその小さな姿が目立つ。
簡素に言うならば、全くもって人混みに紛れていなかった。

「……」

昨夜、上条を送り届けてからずっとこうだった。
部屋に戻ることもなく、睡眠を取ることもなく、食事をとることもなく。
当てもなく街を彷徨う。

(……いかんな)

そんな契約者の姿に危機感を抱くのは、少女の胸元にあるペンダント。
正確には"コキュートス"と呼ばれる神器に意識を表出させる、"天壌の劫火"アラストール。
紅世きっての魔神は、己の契約者でありまるで娘のような彼女のことに気を遣う。

(幾らフレイムヘイズとて休まなければ身が持たんというのに……それさえ考えれない程、精神が疲労しているというのか)

フレイムヘイズは確かに不老不死の存在であり、それに伴って人間が生きるために必要な行為というのが彼等には基本的に必要無い。
飲まず食わずでも活動出来るし、睡眠を取らなくても死ぬことは無い。
だが、元は人間。
もし本当に飲まず食わずで睡眠も取らないでいると、何時か精神のバランスが崩れてしまう。
そして精神のバランスが崩れた者が、まともに戦える筈が無い。

(我が言っても聞かぬのだ。一体何者がシャナを……)

この愚かな行動を止められる者として、アラストールが真っ先に思い浮かんだのは──

(……)

思い浮かんだのは、もう今では絶対に頼れないであろう者だった。
あの、少年。
シャナをここまで変えてしまった原因である、"ミステス"の少年。


ただのフレイムヘイズであった筈の彼女に、シャナと言う名前を与えた、"自ら敵になった"少年。


(……運命とは、何時の時代も残酷なものだ)

似合わないと思いながらも、魔神は思わずには居られなかった。
それだけ、あの少年の存在は大きかったのだ。


胸元で自分の身に秘める"紅世の王"がそんなことを考えているとは知らず、シャナはただ前へと歩を運ぶ。

(あの"始まりの魔法使い"という名前……そしてフリアグネと黒ローブの術師……全体像が見えないけど、敵は組織であると考えた方がいい)

眈々と歩を進めながら、昨日の夜、実際には数時間前に得た情報を整理し、現在必要な情報のみを引っ張り出す。

(昨日のナイフの主だろう、他の第三勢力のこともある……接触して、どうするつもりなのか聞き出すこと……)

そこまで考えて、

「ごめん!通して!」
「っ?」

ドンッ、と突き飛ばされた。
突き飛ばされても後ろに足を下げることで、体が倒れるのを防ぐ。
黒い瞳を自分を突き飛ばした犯人へと向けると、茶色の髪の少女が近くにある路地裏へと飛び込むところだった。
どうやらシャナが路地裏に飛び込むには邪魔だったからのようだ。一瞬見ただけだが、相当慌てていた。

「……」

周囲を見渡すと、人混みに僅かに乱れがあった。
恐らくあの制服を着た少女は、シャナ以外の人間も掻き分けていたのだろう。
視線を路地裏へとやる。

「……」

シャナは小柄な体躯を路地裏の闇へと飛び込ませた。
視界が途端に薄暗くなり、狭ばる。
闇の世界。日が当たらない、無法地帯。
一直線ではない、迷路のように枝分かれした路地裏という別世界をシャナは躊躇なく歩いて行く。
十歩程進んで、唇をゆっくり動かした。

「……アラストール」
「なんだ」

瞬時に返ってきた返事に、言葉を待っていたのかなと思い、しかし表情は冷たいまま尋ねる。

「昨日のフリアグネ、あいつは"生き返ったのではなく、新たなフリアグネという存在を創り出した"って言ってたけど……どう思う?」
「言葉通りの意味なのだろう。あそこで虚偽を混ぜる理由など何処にも存在せん」
「だとしたら、人形っていうのも間違ってない……下手すると、フリアグネが複数居る可能性もある訳ね」
「想像したくはないが、な」

うん、とシャナは軽く頷く。
路地裏に入った理由は、この会話をするためだったのだろう。
用は済んだとばかりに、彼女は歩みを早める。

「……シャナ」

突然、そう呼ばれた。
呼ばれたシャナは返事を返さず、歩きながら次の言葉を待つ。
何を言われるのかと、頭の片隅で幾つか予想するが、

「……いや、なんでもない」
「そう」

その言葉に、思考を初期化した。
言葉を濁したことに、追及するつもりはない。
追及したところで返ってくるのは、虚偽が混ざった曖昧な物と相場が決まっている。

(……でもアラストールが言葉を濁すのは、久しぶりな気がする)

少しだけ興味を持ちつつ、しかし尋ねはしない。
そしてすぐ傍に人の気配を感じ取り、目の前を改めて見て、

「……?」

変な物体(人間)を捉えた。
お嬢様が持つような真っ白い日傘を手に持った、ボサボサ金髪頭の不良だ。
野暮ったい格好した彼は急に立ち止まり、何やら横道へと声を放っている。

(何こいつ?)

不審者感バリバリの男に、シャナは表情を歪める。
路地裏というのは変な者(彼女にとって不良というのは理解出来ない存在)が一杯居るが、この男はそれらから一kmくらいぶっ飛んでいた。
取り合えず邪魔なので、シャナは声を出すために口を開く。

「ちょっと邪魔よ」
「とっ!?」

驚いたらしい男は飛び上がり、壁に張り付いた。
よく見ると、男というよりはまだ少年と言っていい者だった。
何処にでも居そうな、不良フェイス。

「……」

特に何も感じなかったシャナは興味なさげに一瞥して、再度歩き出す。
後ろから少年の視線を感じたが、無視した。
一々他人からの視線を気にしていては、身が持たない。

(……あの者は一体何をしていたのだ……?)

アラストールは割と意味不明不良少年のことが気になっていたが。
そんなことなど露知らず、シャナは反対側の出入り口によって路地裏から体を出す。
太陽の光がすぐさま肉体を照らし出し、皮膚が熱を感じ取った。
大通りのようで、人の量が比べ物にならなかった。
スーツ姿の男性、何処かに電話する金髪の学生、走っている制服姿の少女、多種多様な人間がそこには居た。

「……」

黙って彼女は人の流れに従うように左へと進み、変わらない速度で歩く。

そして、"今更気がついた"自分の腑抜けっぷりに小さくギリッ、と歯切りする。

自分の精神と肉体が疲れているとは気がついていない少女は、ボソリと呟く。


「尾けられてる」
「うむ。何時かは分からんが、路地裏に入る前からだな」


もう一度、気がついてなかった自分に対して、歯切りした。




不安定な彼女は、自分でさえ自分の危機に気がついていない。
一体誰が、彼女の力になるのか。
もしくは……



















時を僅かに遡ること、三十分。

「さて、と……何をしようかしら」

完全で瀟酒な従者と幻想郷に名高き彼女、十六夜咲夜もまた第七学区の通りの一つを歩いていた。
歩いているのはごく普通の一車線道路の歩道で、他にも疎らに人が近くを通って行く。
何時も通りな白と青のメイド服に身を包む彼女は、一際目立つ。
見た目も麗しいため、メイド服でなくても目立っただろう。
ただし、顔はやるせない不機嫌な物となってはいるが。
何故、日光を浴びれば倒れてしまいそうなイメージさえある彼女が外に居るのか?

「いきなり『出て行け』だなんて、失礼よねホント」

同居人にお金と適当な地図を渡され、外出を強制されたからだ。
ご丁重に能力を使ってまで咲夜を玄関から投げ捨ててくれた。
全くいい迷惑よ、と咲夜は吐き捨てる。
能力を使えば部屋に戻ることなど簡単だが、それはそれで負けた気がして躊躇われる。
彼女とて、プライドというものがあるのだ。

(……それに、結構真面目な顔してたし)

「出ていかないなら気絶させてでも」という風な雰囲気を全身から放っていた、真っ白な少年の姿を思い浮かべ、ふぅ、と息を一つ。
その表情には、大人(大人では無いが)の余裕が見て取れた。

「やっぱり、昨日のことなんだろけど」

咲夜は頭を働かせる。
「うーん」とあからさまに唸りながら顎に手を当て「私悩んでます」という感情を全身で無駄にアピールしていた。
昨日の夜、結界"封絶"内の情報を持って帰ってからどうも様子がおかしい。
情報を聞く前からおかしかったのだから、きっとあの封絶内での出来事は関係無いだろう。
ならば、自分が彼の近くから離れていた少しの間に何かあったのだ。

「なんでか私には頑なに言おうとしないし……そんなに信用ならないのかしらね」

コツコツと、一定のペースで歩いていた咲夜はふと、途中で立ち止まり、

「でも、深く気にしても無駄か。今は暫く世話になるこの街を見ておきましょう」

トンッ、と微かな音と共に"跳んだ"。
周囲を歩いていた人々には、突然街中でメイドが一人消えたように見えるだろう。
だが、気がついた者も居るかもしれない。
彼女が一瞬にして飛び上がり、二十階建てのビルの屋上へと駆け上がって行く姿を。

「よっ、と」

コンクリートの壁面を靴で蹴り飛ばし、体を上へ上へと押し上げて行く。
物理法則的に、絶対にありえてはならない現象を、彼女は軽々とこなしていた。
やがて数秒でビルの屋上まで辿り付いた咲夜は壁面の角を蹴りつけ、宙を滞空してから緑のフェンスへと綺麗に着地する。
カシャン、と金網が金属質な音を上げた。

「ふぅ……風が気持ちいいわね……」

僅か十センチ程のフェンスの淵に立つ彼女は、服と体が風に揺られるのに身を任せながら都市を一望する。
渡された地図を見た限りでは、この都市は二十三の区画に分けられていてそれぞれ特徴があるらしい。
現在、十六夜咲夜が居るのは第七学区。
学園都市のほぼ中心に位置する、はば広い種類の建物が立ち並ぶ学区。

「……塀に囲まれた、牢獄の街。能力が平気で溢れ返る、別世界」

夢想するのは、遥か遠くに存在するであろう、写真で見ただけの塀。
完全に自由で残酷な世界で生きていた彼女には、どうもこの街の空気は少し合わない。
どちらかと言えば、あの少年が纏っていた重い雰囲気の方が好みだったりする。

「──お嬢様達は、何をしているのかしら」

瞼を軽く閉じて、そう呟く。
ホームシック、とまではいかないが、自分が居ない紅い魔の館がどうなっているのかは、やはりメイド長として気になっていた。

「私の空間操作の効力も消えてるだろうから、狭くなってるのは間違いないし……妹様とかが暴走してなかったらいいんだけど」

実は既に暴走してしまっているのだが、そんなことは如何に完全を自負する彼女でも、知っておけというのは酷だろう。
目の届かないところまで完全を求めるには、彼女の背負う物が重過ぎる。

「うーん……」

とこれまた分かりやすく唸る彼女は、腕を組んだまま瞼を再度開いた。
視力5.0という何もしなくても超人クラスの視力が、風力発電のプロペラと高層ビルが目立つ都市の風景を鮮明に写し出す。
心配するにしろ何があるにしろ、この街に暫く世話になることは確実なのだ。
地上を歩く人々と、空を飛んでいる飛行船を眺め続ける。

「あの飛行船、目が悪い人には意味が無いんじゃ……」

などと素朴な疑問を言葉にしながら街中を覗いていた咲夜だが、

「ん?」

一つの通りに、一人の少女を見つけた。
結構な距離があり、小さな黒い点にしか見えないが、魔力によって視力を強化。
そしてその姿が紅い瞳にはっきりと写り込み、口元を緩める。

「へぇ……丁度いいわ。手土産には持ってこいね」

フェンスの上で可憐な、それでいて裏側にナイフを光らせる強き笑みを浮かべ、彼女は足を空へと踏み出す。
何もない、空気しかない空間を普通のこととして足は通過し、


世界が、音が無い灰色の世界へと移り変わる。


咲夜の能力『時を操る程度の能力』により、世界の時が停止した瞬間。
人々の動きが、空飛ぶ鳥達と飛行船が、街頭のテレビ画面が、警備ロボットが、者と物に限らず全てが縫い付けられたように止まっている。
この世界で動けるのは咲夜だけであり、彼女以外の存在は誰一人として動けない。
人間が持つには、余りに巨大な能力。
もし学園都市でこの能力が測定出来るのであれば、間違いなくレベル5になるだろう。

「それでも、無敵ではない」

ビルから重力に引き摺られて落下しつつ、咲夜は呟く。
彼女は知っている。
自分の能力が、其処まで凄くはないことを。其処まで異常ではないことを。
紅い魔の館の住人達にコテンパンにされ、更には巫女や魔法使いにもフルボッコにされたのだから。

(……訂正、向こうがもっと異常なだけだわ)

腕を斬られても平然と笑ってたり、全周囲に魔法障壁を張ったり、時を止めた後に出現したナイフを余裕で躱す、などという巫山戯た動きを思い出し、心の中で訂正を加えた。




さて、十六夜咲夜の能力『時(空)間を操る程度の能力』というのは完全無欠な能力ではない。
時間を戻すことは出来ないし、停止した物体を動かせても破壊することは出来ないし、何より時間停止の時間さえ其処まで長くはない。連続使用もかなり難しい。

戦闘中では、精々多めに見積もって、十秒。

普段なら掃除をしたり、弾幕を張ったり、主人の元に駆けつけるためにしか使われないこの力。
だがしかし、それでも相手は動かずに十秒動けるというのはかなりのアドバンテージだ。

「っと!」

空中を術によって高速飛行し、直線上にあるビルの一つにぶつかりかける。
体を反転させてビルの壁面へと着地して、魔力で強化した足で蹴る。
ドンッ!!という音が静寂の世界で大きく響き、それと同時に銃弾の如く咲夜の体が空を翔る。
空を飛ぶなどということを街中などですれば空飛ぶメイドさんとして注目の的になっただろうが、この世界で動けるのは彼女ただ一人なのだ。
故に誰の視線も気にしないまま、少女は飛び続け、

「解除、と」

通りの道端に着地してから、能力を解除した。
灰色の世界に色が戻り、す人々の活気と賑わいが戻って来る。
突然咲夜が現れたことに周囲の──主に学生は驚くが、能力という物があるこの街では「能力なのか、凄いなぁ」で納得出来てしまう。
そのため、咲夜をメイドさんとして注目する者は居れど、実際に声をかけたりする者は居なかった。

「……」

咲夜は壁に寄りかかり、横目で遠くを見る。
気配はあえて殺さない。
こんな街中で気配を殺している方が、逆におかしいから目立ってしまう。
目的の人物は、五十メートル先に居た。
黒い髪と黒いコート。
髪の毛の色が違ったが、間違いなく……

(昨日の少女、なんだけれど……何か変ね)

どうも、身に纏う雰囲気が違う。
昨日の夜は正に『完成された戦士』としてのイメージを感じていたのに、今日は全くそういった物が感じられない。
ただ敵を切り過ぎて、野晒しにし過ぎた刀の雰囲気。
ボロボロになって、今にも折れてしまいそうな印象を与えて来る。

「細かいことはいいか。取り合えずは、後を尾けさしてもらいましょう」

だが無論のこととして、彼女が求めているのはあの少女の力ではない。
少女と一緒に居た、あのツンツン頭の少年の力だ。
少なくとも、あの得体の知れない力に関しての情報は手に入れたい。
時折歩みを止めたり視線を外したりしつつ、咲夜は前方を歩く少女に対しある一定の距離を保つ。

「当てもなく彷徨ってるって感じね。さて、一体何がしたいのやら……」

追跡をしつつもそんなことをぼやく、瀟酒なメイド。
彼女は無駄な行動・行為というのが大嫌いであり、遊びならばともかく真面目に動くならばそれなりの動きをしなさいよ、と余計な悪態をつく。
近くの飲食店のガラスケースを見ながら少女の方を見ると、誰かに体当たりされたところだった。
茶色の髪の少女にぶつかった彼女は、倒れずに堪えていた。

そしてどうやら少女は、横道に入るらしい。

黒髪を靡かせて、薄暗い路地へと飛び込んで行く小さな体を見て、

「……バレた?」

急な方向転換に一応警戒しつつも、横道の前を一度ワザと通過してから様子を見る。
特に待ち伏せの気配は感じられない。

「……」

何時でも時間停止とナイフを抜き放つ心構えをしてから、路地裏へと踏み込んだ。
薄暗い、湿った空気で満ちた場所。
そこに黒髪の少女の姿はない。

「……」

無言で咲夜は歩を進めて行く。
暗闇の中で白い彼女の姿はそれなりに目立つが、それを気にすることはなかった。
辺り一帯から、人の視線を感じなかったから。

「見失ったかしら?いや……」

テクテクと、咲夜は真っ直ぐ進み続け、そして、

「精々身代金目的で浚うとかだよな……あんな見た目十歳の幼女をまさか──」
「あら、貴方ロリコンさん?この都市では変態は珍しく無いのかしら?」
「うぉぉおおおおおおおおおおっっ!?」

先程からなにやら幼女だのなんだの呟いていた不審者Xへと話しかけた。
そう、不審者。
日傘を持った不良スタイルの少年という、似合わないにも程がある、正に不審者というのに相応しい者だと咲夜は思う。
分かりやすく驚いてくれた金髪頭の少年は、咲夜の姿を見てボソッと一言。

「……メイドさん?」
「それ以外に何に見えるの?ロリコンさん」
「あのすみませんその呼び方マジで止めてくれませんかね!?軽く死にたくなるんだけど!」

ロリコン呼ばわりはやはり男性にとって精神的にキツイらしい。
初対面だというのに容赦無い男のツッコミに、微笑を顔に見せる咲夜。
この街は面白い人が多いな、と適当に考えていると、相手が自分の顔を食い入るように見つめているのに気がついた。
疑問に思い、こういった場合には決まり事の台詞で問う。

「私の顔に何か付いてるかしら?」
「っ!わ、悪ぃ」

「何か変なのかしら」と、自分の姿に今一度疑問を持つメイド。
しかし今はそれどころではない、と思考を切り替える。

「ところで、こっちに女の子が来なかったかしら?長い黒髪の子なんだけど」
「長い黒髪……その子ならあっちに行ったけど」

迷いない動きで、不良少年は道の先を指差した。
やはりあの黒髪の少女はそれなりに目立つらしい。
何となくだが、納得する。
だが、納得がいかない部分もあるのも確かで、

「人混みに紛れこむつもり?尾行がバレた?でもそれなら封絶を、いや、誘われている?」
「……あのー?メイドさん?」
「あっ。ごめんなさいね」

どうやらまた思考の渦にはまり込んでいたらしい。
業務用の笑顔を声をかけてくれた少年に向けると、初心なのか頬を掻きながら顔を逸らしていた。
思春期らしい彼の態度に、咲夜はクスッと笑ってから、

「では、御礼に手品を一つ」
「へっ?」

間の抜けた言葉に構わず、彼女はお決まりの言葉を続ける。
用意するのはトランプと唯一の能力。

「種も仕掛けもございません──では、さようなら」

パチン、と指を鳴らす。
瞬間、世界の時は止まり、咲夜は間抜けな表情の少年を置いて走り出す。
恐らく時が戻った時には、瞬間移動したようにしか見えないだろう。
彼女のみが出来る、自慢の曲芸である。

「──見つけた!」

大通りへと飛び出し、目指すは黒髪の少女。
それにしても、と彼女は笑う。
周囲の時が戻って行くのを感じながら、この街の幻想郷とは違った面白さに笑っていた。

「やっぱり、退屈しなさそうねこの街は」

隣をツインテールの少女が走って行くのを見やりながら、十六夜咲夜は体を動かす。
どんな手土産を持って帰れるのか、少しワクワクしながら。




ちなみに。
この時彼女がもう少しだけ不良少年に付き添っていればこの後の話もまた違ったのだが、所詮ifの話である。


 












『よォ、土御門。オマエ今何処に居やがる』
「そっちから掛けて来るなんて、珍しいこともあるもんだぜい。こりゃ明日は槍の雨かにゃー?」
『御託はいい。サッサと質問に答えろ』
「今はイギリスから時速七千キロで帰って来た所だから、出来れば手短にお願いしたいにゃー」
『……情報を寄こせ。オマエが知ってること、全部残らず』
「……なにかあったのか?随分とマジじゃないか」
『嫌な"モン"見ちまったンだよ。俺にとって、イヤ、違ェな。"誰にとっても嫌な存在"ってのをな』
「オーケー、まぁどちらにしろ此方から連絡を入れようとしたとこだからな。丁度いい」
『……なンだと?』


「"グループ"大集合だ。楽しくてクソったれなボランティア活動に精を出そうか」













一方。
とある、第七学区の廃墟ビルでは。

「くっ!?」

ボンッ!!と、爆音が腹の底まで響いた。
吹き荒れた爆風に背中を押されつつ、少女は前へと転がる。
コンクリートの硬い床の感触が、体中で感じられた。

「げほっ、げほっ……ほんっと、容赦無いわね!」

転がって壁に背を付き、悪態を付く。
しかし襲撃者が答える訳がないというのは、彼女にだって分かっていた。
なので右手を、"茶髪"の彼女は振るう。
振られた手から、一条の閃光が音を置き去りにして飛び出した。
それは、"雷"。
青い電流が、砂埃を引き裂くように駆け抜け、爆散。
ドゴンッ!!と、何かに莫大な電気がぶち当たった時の轟音が、彼女が居る廃墟ビルを細かく揺らした。

「──そういう貴方は、随分とお優しいようで……」

だが轟音の余韻と砂煙を拭き散らすように、小さな小さな声が場に響く。

「私の"演奏"から逃れるのは、そうた易いことではありませんよ……?」

現れたのは、一人の女性。
長い髪に、肩にゆったりとした膨らみがある何処かドレスを感じさせる上着にミニスカート。
瞼はギリギリまで閉じており、それでもしっかり、目の前の雷を放った少女を見つめていた。
だが一番の特徴は、耳の上から生えた"角"。
木製の飾りに見えるその角は、しかし何処にも違和感が無い。

「はっ、演奏とはよく言うわね。私の方が百倍上手く弾けるわよ」

それら全体を視界に納めつつ、彼女は一点を睨んで言う。
睨んでいるのは、角少女が持って居る見た目"バイオリン"のような楽器。
ただし、それがただの楽器では無いことは先程までの追撃で判別している。

「おや?貴方も楽器を弾くのですか……?」
「普通の楽器だけれどもね。お嬢様はなんか楽器を弾けないといけないらしいわよ、世間様的には」

軽口を叩き合いながら、ゆっくりと彼女は立ち上がる。
所々に付着した砂埃を払いつつ、周囲に火花を漂わせ始めた。
二人以外に誰もいない何もない、殺風景な一室にバチバチッ!と帯電の音が鳴る。

「大人しく降伏して頂ければ、これ以上危害を加えなくて済むのですが」
「私が大人しく従うと思う?」
「でしょうね」

会話はそこで呆気なく途切れ、




廃墟ビルの元玄関から、巨大な爆炎が吹き出した。









十月十八日。
本日最初の戦闘は、学園都市の超能力者"御坂美琴"と、異世界の人形の配下"調(シラベ)"。



















戦いは更に巨大な物となってゆく。
あらゆる命達は総じて巻き込まれ、
そして、何かのために戦う。



















おまけスキット




スキット15「夢を壊す罪人には天罰を」


浜面「さぁて、次はどうしようかフラン」

カモ「いや、不良の兄さん、俺っちを紐で縛りながらその台詞はちょっとぐええっ!?」バタバタ

フラン「あはははっ!カモ面白ーい!」

カモ「いや、嬢ちゃん!?これ割りと洒落にならなぐぇぉおおおっ!?」

浜面「黙ろうな、エロおこじょ。テメェなんかに感謝した俺の心をしっかり癒してもらわなきゃなぁ……」

カモ「じゃ、じゃあ、俺っちの秘蔵写真でおごぉぉおおお!!」



スキット16「自動車」


カモ「げほっげほっ!!た、助かった……」

浜面「フラン、自動車に乗ってみたくねぇか?」

フラン「自動車って?」

浜面「あの街中で走ってる機械のこと」

フラン「あれ乗れるの!?うん!乗ってみたい!」

浜面「よし。じゃあ早速、自動車見つけてこいつの紐を括って来る」

カモ「……あのー兄さん?一体何をするつもりで……?」

浜面「実験だよ」


浜面「エロおこじょが一体どれくらいのスピードでなら挽肉になるかの」

カモ「うぉおおおおおおおおおおおいっ!?」ズルズル……















今回は前回の話の裏側を中心とした話で、次回は皆をスルーしまくってた御坂美琴のお話です。
前回と合わして読んで頂いた方が、分かりやすいかも……?
本当は浜面達の話も入れるつもりだったのですが、時系列順にすると変になるので。


伏線も展開もアレな作品ですが、次回も読んでいただけると嬉しいです。
ではまた、次回。










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