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No.24249の一覧
[0] 異人ミナカタと風祝 【東方 オリ主 ダーク 恋愛(?) 『境界恋物語』スピンオフ】[宿木](2011/08/22 21:18)
[1] 異人ミナカタと風祝 序の一[宿木](2011/02/03 01:20)
[2] 異人ミナカタと風祝 序の二 弥生(夢見月)[宿木](2011/01/18 22:37)
[3] 異人ミナカタと風祝 序の三 卯月[宿木](2011/01/18 23:01)
[4] 異人ミナカタと風祝 第一話 卯月(植月)[宿木](2011/01/23 00:18)
[5] 異人ミナカタと風祝 第二話 卯月(苗植月)[宿木](2011/09/09 14:54)
[6] 異人ミナカタと風祝 第三話 卯月(夏初月)[宿木](2011/02/02 23:08)
[7] 異人ミナカタと風祝 番外編 ~八雲と橙と『御頭祭』~[宿木](2011/04/02 22:16)
[8] 異人ミナカタと風祝 第四話 皐月[宿木](2011/04/06 22:52)
[9] 異人ミナカタと風祝 第五話 皐月(早苗月)[宿木](2011/04/11 23:39)
[10] 異人ミナカタと風祝 第六話 水無月[宿木](2011/06/29 23:34)
[11] 異人ミナカタと風祝 第七話 水無月(建未月)[宿木](2011/07/03 22:49)
[12] 異人ミナカタと風祝 第八話 水無月(風待月)[宿木](2011/07/08 23:46)
[13] 異人ミナカタと風祝 第九話 文月[宿木](2011/07/15 23:08)
[14] 異人ミナカタと風祝 第十話 文月(親月)[宿木](2011/08/22 21:30)
[15] 異人ミナカタと風祝 第十一話 文月(愛逢月)[宿木](2011/08/28 21:23)
[16] 異人ミナカタと風祝 第十二話 文月(文披月)[宿木](2011/09/02 02:37)
[17] 異人ミナカタと風祝 第十三話 文月(蘭月)[宿木](2011/09/12 00:51)
[18] 異人ミナカタと風祝 番外編 ~『御船祭』と封印と~[宿木](2011/09/17 20:50)
[19] 異人ミナカタと風祝 第十四話 葉月[宿木](2013/02/17 12:30)
[20] 異人ミナカタと風祝 第十五話 葉月(紅染月)   ←NEW![宿木](2013/02/17 12:31)
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[24249] 異人ミナカタと風祝 序の一
Name: 宿木◆e915b7b2 ID:075d6c34 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/03 01:20




 異人ミナカタと風祝 序の一






 人間は意外と頑丈なのだと思う。
 簡単に死ねないから、そう思う。




 左の手首から先が無い状態で、僕は冷静にそんな事を考えていた。
 真っ黒い、赤黒い、しかし鮮やかな赤い色が、僕の腕から流れて地面に広がっていく。
 衣服を伝い、赤く染めながらも滝の様に流れる血は、留まる事を知らない。
 どろどろと、だらだらと、バケツを引っ繰り返したかのように、流れ落ちて行く。
 痛みは無い。痛みは感じない。
 けれども、視覚から与えられる情報は、確実に僕を蝕んでいく。
 痛い筈なのに、痛くない。痛みを欲する訳ではないけれども、その非常識が、重く重く、のしかかる。


 ――――あははっ


 遠く遠く、小さな笑い声が聞こえた。
 幻聴では無い。錯覚でもない。確かに耳に、声が聞こえた。
 声の出所は何処か、と思った。目の前の減少から目を反らす為にも、一歩足を進める。
 ドサリ。
 と。
 今度は。
 右足首から先が、欠損していた。
 一歩踏み出した格好の僕に、置いて行かれる様に残される足。五本の指から踝までが、はっきりと。
 飴細工の人形の足が、壊れる様に。
 砕けた硝子瓶に似た断面を、煌めかせて。
 ポツリ、と片足が取り残される。
 ……気持ちが悪い。
 そして、その地面に堕ちたままの足は、僕の目の前で腐敗した。
 時間を速めたかのように、時の中に取り残したかの様に、腐食する。
 色が落ち、黴が生え、変色し、臭いと共に形が崩れ、筋肉と骨が現れ、最後には泥の様な塊に成って消える。
 心臓の鼓動と共に、生命の源が流れる場所が、更に増えた。
 ……気持ちが、とても、悪い。
 この状態で、痛くないと言う事実が、僕の精神に圧力を懸ける。


 ――――あはははははっ


 声は、やはり聞こえている。
 先程よりも近いその笑い声は、歪んだ色を抱えていた。
 何処か狂った様な、酷く僕を苛む様な、耳障りな笑い声だった。
 ぐらり、と体が傾ぐ。
 血を流し過ぎたのだろうか。体が動かず、そのまま僕はどう、と倒れてしまう。
 苦痛は何も感じないくせに。
 か細い体は衝撃に軋み、ただの呼吸すらも難しい。
 僕を受け止めた地面は、何処までも黒く、澱んだ、まるで泥を煮詰めた様な色をしていた。
 地面よりも柔らかく、水よりも固く、汚泥か、泥濘か、あるいは干潟か、沼のような感覚がした。
 僕を引き摺り込むのではない。捉えて離さない罠の様な感触を、全身で感じてしまう。


 ――――あはははははっ、あはははは、はははははっ


 狂った声と共に、軽い衝撃が走った。
 足先から首元までの感覚が消える。
 痛みよりも冷たさを。
 無反応には視覚情報を。
 ただ、現象を脳に刷り込む様に、事象は進行した。
 体が、剥がれていく。
 順番に、小さく成っていく。
 そうして、僕の体は、足先から順番に解体されていく。
 爪先。甲。踵。踝。脛。膝。太腿。股間。腰。下腹。掌。鳩尾。手首。腕。肘。胸囲。肩。首。
 まるで見えないピーラーが、僕を足元から一枚一枚、薄く剥いでいくかのように。
 ダヅン! ドヅン! と体が切り離され。
 ブチリ、グチリ、と肉や神経が斬り離され。
 もう流れようにも、流れない血だまりの中。
 後に残るのは、長い黒髪の頭。
 僕の生首だ。


 ――――あははははは、あははははははっ! ははははっ! あははっははははっははははっ!


 哄笑。嘲笑。そんな言葉と共に、笑い声の主が、目の前に進み出た。
 そして、首だけに成って転がる僕を、抱え上げて。
 少女は。
 耳に囁く様に、語った。


 ――――もっと
 ――――もっとだよ


 柔らかい、幼子の声。
 深い水底か、昏い闇の中か、別の世界から響く様な、声。
 あどけなさと、残酷さが、混ざり合った、楽しそうな声だった。


 ――――そんな程度の苦しみじゃあ、駄目だ
 ――――その程度の苦痛じゃ、全然、ぜえんぜん、駄目だよ
 ――――ぜんぜん、たらない。まだまだ、もっと、もっともっと、受けるんだよ
 ――――お前の抱える罪は、そんな物じゃあない
 ――――お前が受けるべき報いは、こんな優しい物じゃあないんだ


 容姿だけは幼く、けれども、何処か老成していた。
 口調だけは舌足らずで、けれども、何処かしゃがれていた。
 外見だけは可愛らしく、けれども、それは人間ではなかった。


 ――――辛い?
 ――――苦しい?
 ――――逃げたい?
 ――――泣き叫びたい?
 ――――死んだ方がましかもしれない?
 ――――だろうねえ。だってその為に、やっているんだ


 狂気とは、こう言う事をいうのかもしれない。
 何かに狂った相手は、こんな風に動くのだろう。
 ああ、“これ”が原因か。
 この少女が、“こうしている”相手なのか。
 それを、感じ取る。


 ――――お前を殺す為じゃない。お前を苦しめる為に、やっているんだもの
 ――――その身に楔を打ち込み、磔にしても止まらない
 ――――地獄が生温い仕打ちを、お前に振りかけよう


 触れる肌から、感じられる空気の全てで。
 情報は、効かない視界と、動かない脳の中に、刻まれる。
 これが、×××××だ。


 ――――涙が枯れるまで泣くと良い
 ――――どうせ、涙など出る筈が無いんだから
 ――――涙が枯れる程度じゃあ、許せる筈が、無いんだから


 子供ゆえの無邪気さの中に、煮詰めた様な悪意を滲ませて。
 大人ゆえの穢さの中に、悪魔の如き残酷さを孕ませて。
 優しく、愛おしく、まるで慈しむ様に僕の頭を撫でながら、猛毒を囁いて、逃がさない。


 ――――けれどもねえ、駄目なんだ
 ――――お前を苦しめても、こっちの心は、満たされないんだ
 ――――お前は生贄だ
 ――――この私を生かす為の、奴隷なんだ
 ――――逃がさない
 ――――逃がさないよ、絶対。
 ――――絶対に、逃がしてなんか、やらないんだ
 ――――この手から、逃れる事が出来ると思わない事だ


 ゆっくりと、僕の頭を持ち上げた少女は、目線を合わせた。
 可愛らしい、蛙帽子を被った、美少女だった。


 ――――ああ、次はどうやって、お前を苦しめようか


 楽しそうに、彼女は哂う。


 ――――叩き殺し、殴り殺し、斬り殺し、刺し殺し、突き殺し、焼き殺し、溺れ殺し、轢き殺し。
 ――――獣の牙で、鳥の爪で、魚の群れで、蛇の毒で、虫の害で、菌糸の苗として。
 ――――その指先から、足の先まで、余す処なく、全てを責め抜き、苛めぬいてやろう
 ――――断頭台か? 絞首刑か? 飛び降りか? 火刑か? 機械で二つに切断しようか? 生きたまま焼こうか?


 どうすれば楽しいのかと考える様に、少女は回った。
 優雅に足を跳ばし、くるりくるりと、泥の中で弧を描く。
 僕の頭を抱いたまま。
 僕を相手に踊る様に。
 撒き散らした体を蹂躙しながら。
 血と泥の中で、楽しそうに。


 ――――拒否なんか許さない
 ――――逃亡なんか、認めないさ
 ――――お前は全てを受け入れるんだ


 持ち上げながら、彼女は言った。
 まるで鞠を捧げ持つ様に、彼女は僕の首を持つ。


 ――――髪の先から爪の先まで、私は逃すつもりは無い
 ――――その身体の全ては、私のモノなんだよ
 ――――もっと、満たさなければ
 ――――もっともっと、満たさなければ、いけない


 陶酔した、甘露にも似た、言葉だった。
 熱く、浮かされた様な、引き摺りこまれる様な、災厄が形になるようだった。


 ――――もっともっと、もっともっと

 ――――もっともっともっともっともっともっともっともっと

 ――――もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!


 その呪詛にも似た、怨念にも似た言葉は。
 言葉よりも、既にノイズとして、襲い掛かる。


 ――――もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!


 あははははははっ! と、彼女はワラッた。
 その目の中に、終わりの無い、深淵を見せながら。
 消える事の無い、紛れもない負を込めながら。
 ケラケラと。
 ケロケロと。
 彼女は高揚の気分のままに、声を上げた。


 ――――その絶望に舌鼓を打たせて貰おう
 ――――心が壊れるまで、お前は私に隷属し続けろ
 ――――その精神が蹂躙され、砕け散るまで
 ――――あははは
 ――――あはははははははっ!
 ――――それがお前の、背負う罪だ
 ――――お前が私にした事への、その結果だよ!


 そして少女は、その幼い顔には似合わない、大口を開ける。
 赤い長い蠢く舌と、白い歯の中に見える牙。
 その大きな瞳が、まるで爬虫類の様に感情を見せないまま
 ぎょろり、と四つの瞳孔が、僕を見据えて細まり。


――――グチャグチャ、ベキャグチャリベキャ、バキ、クチャグチャグチャグチャグチャッ!


 そんな擬音を持って、彼女が僕の頭を、咀嚼した所までは、覚えている。




     ●




 「ッ――――!」

 そして、目を覚ました。

 「…………」

 見慣れた木目の天井が、其処には有る。
 ぼう、と星明りに映る室内は、静かに重く、空気が固形化をしたかのようだった。
 太陽が昇る前、人も獣も草木も眠りし、夜半の事。
 乱れた己の息と鼓動、そして玄関に置かれた柱時計の針の音だけが、耳触りだ。

 「――――ッ、ハ、ッ」

 夢だと認識した、途端。
 精神の疲労と記憶が、体へと刻み込まれる。
 全てが体感として戻され、体の奥底から悲鳴が走る。
 不整脈が、起きた。

 「――――、ッ!」

 抑え、胸元から競り上がる衝動。そして、乱れた呼吸。
 咳をすると、喉からは破けた様な音がした。
 額と背中に浮かぶのは、冷や汗と、体が悲鳴を上げる脂汗だ。悪夢と、治る事の無い病魔は、体を常に苛んでいる。

 「……く、――――ッ! ゴ、ホッ!」

 断続的な苦痛が、止まらない。
 枕元。震えるか細い腕で、常備薬に手を伸ばす。水差しからコップを注ぐのももどかしく、御盆に少量が零れるが気にしない。何時でも飲める状態だった錠剤を掴み、喉奥に流し込む。

 「――――ハ、あッ」

 飲み乾し、その雫が顎から寝間着へと伝わる感覚。ひやり、と走る冷たさを感じながら、ごろり、と仰向けに転がった。乱れていた息も、心臓の鼓動も、直に治まる。
 はあ、と荒い息のまま、目を閉じる。眠れない事は承知の上だった。
 涙目のまま薄く眼を開けば、其処には、平均より遥かに細い、青白い腕が有る。消えない病に途切れぬ悪夢。常に害意に犯されているからか、健康と言う言葉は一番、縁が無い。
 思わず。

 「……辛」

 小さく。
 掠れそうな声で呟く。
 けれども、声を聞いてくれる相手は、誰もいない。
 声をあげても、手を貸す相手など、誰一人として、居ないのだ。
 家族や親戚、友人から同級生まで、誰もが皆、傍から消えて行った。
 悪夢を見ても、体が悲鳴を上げても、手を差し伸べる存在など、唯の一人も、無い。






 それが、いつもと同じ。

 御名方四音の、変えられぬ日常だ。








(2010年11月11日投稿)


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