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No.24056の一覧
[0] 【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】[Shinji](2010/11/06 21:29)
[1] ■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■[Shinji](2010/11/08 03:20)
[2] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■[Shinji](2010/11/10 22:56)
[3] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/04/11 13:30)
[4] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/05 12:03)
[5] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/06/11 09:59)
[6] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/18 02:59)
[7] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■[Shinji](2011/10/22 04:01)
[8] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■[Shinji](2012/04/16 20:41)
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[24056] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/18 02:59
――――時計塔管理人がオウルバロンの"まさか"の行動により、ポータルの中に突き飛ばされた直後。


「こ、こら~ッ! バロン!! 何て事するんだ!? これじゃ戻れないじゃないかッ!」


第三者による不可抗力とは言え、アヤトに抱き付いた状態で時計塔前に招待されてしまった管理者は。

初めて人間に触れた事による恥ずかしさを拭う意味をも兼ねて地団太を踏みながら使い魔に言葉を送る。

実を言うと管理者は時計塔を離れた事は有れど、夜に空を飛べるオウルバロンに掴まって抜け出していた。

つまり管理者は自分の足で時計塔に戻れないと言う事であり……こうなっては夜を待たねば帰れない。

生憎 仕様として時計塔内部にはポータルのメモが出来ないので使い魔に迎えに来て貰う意外 無いのだ。


「ボクは時計塔の外には出ちゃダメなんだぞ!? それをどうして"あんな事"をしたんだよッ!」

『…………』

「黙って無いで返事くらいしたらどうなんだッ! ボクは怒ってるんだからね!?」

『…………』

「いやいや君。そもそもオウルバロンって……」

「喋れないのでは無かったんですか?」

「――――あッ」


さて此処は時計塔の入り口と言えど衛兵の目も有る為、階段の脇 辺りと言う場所を選んだのが幸いした。

時計塔は"刻を告げる街アルデバラン"と言われてるのも有り観光客が多いが、丁度 死角だったのである。

よってアヤトは管理者が落ち着くのを待つと、先ず一緒に衛兵に今回の事件の終了を告げようと提案する。

対して街に"まとも"に出た事すらない管理者はアヤトに付いて行くしかなく、2人の背を追い掛けてゆく。


――――30分後。時計塔付近に建っている衛兵の詰め所にて。


「……と言う事で時計塔の内部を調査して来ましたが……」(アヤト)

「特に魔物が暴れていると言った様子は有りませんでした」(エリス)

「ふむ。つまり"入り口の衛兵"を襲った魔物 以外は攻撃して来なかったと言う訳ですな?」

「そうです。第4階層まで上がりましたが、間違い御座いません」

「ソレを聞いて安心しました。ですが前例が無かった事なので、後ほど調査隊を送るとしましょう」

「妥当かと」

「いくら緊急事態とは言え巡礼中の聖職者殿の手を煩わせてしまって申し訳有りませんでしたな」

「いえいえ。一般の者には公開されていない時計塔の内部を見せて貰えたダケでも良い土産話ですよ」

「では少ないですが、此方の資金は御布施として利用して頂ければと」


≪――――ジャラッ≫(約10万ゼニー)


「そんな!? 流石に貰えませんよ」

「どうか受け取って下さい。聞いた話によれば貴方達が居らねば"彼ら"は死んでいたと言う事です故」

「…………」(管理者)

「エリスッ」

「はい。それでは遠慮なく頂きます」

「有難う御座います。それでは私は是(これ)にて」

「御勤めご苦労様です」

「(流石は珍しい男性の聖職者だけ有って話が分かる者だった様だな)」


≪――――バタンッ≫


アヤト達3人はアルデバランの守衛隊長とテーブル越しに向かい合って今回の結果の報告を済ませていた。

内容としては事を荒立てない為、自分達が内部で多くの魔物と交戦した事は言わず証拠隠滅を図っている。

またアヤトは相手を安心させる為に"真面目な聖職者"を装っており、それが功を奏し報酬まで貰えた模様。

コレは嬉しい誤算であり、アヤトとエリスは守衛隊長が立ち去ったのを確認すると互いに溜息を漏らした。


「上手く誤魔化せたみたいですね? アヤトさん」

「そうだねェ。まさか資金も貰えるとは思わなかったよ」

「コレもアヤトさんの"人柄"の御蔭ですね」

「いやエリスが美人だったからじゃない?」

「も、もうッ。アヤトさんったら……(嘘でも嬉しいですけど)」

「ともかくだ。今から宿でも取って夜を待たないとなァ」

「話はソレからですね」

「そんな訳で管理者さん? もう暫く俺達と一緒に……んッ?」

「どうしたんですか?」

「…………」

「どう言う事だオイッ! この娘……目を開けたまま気絶してるじゃねーか!!」

「え、ええぇぇ~ッ?」


一方"真面目な顔をして黙っていれば良い"と言われた管理者だったが、先程から緊張しまくりだった結果。

当に心の糸が切れていた様で、アヤトに揺さぶられる事で目を覚まし彼にペコペコと頭を下げて謝罪した。

だが仕方ない。ループを除き人間を見る事 自体 初めてだったのに、唐突に街中に放り出されたのだから。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


――――そして2時間後。


「モグモグ……うわッ何コレ? モグモグ……ほんと何なのコレッ? ……モグモグ……ぐすッ」

「普通のハンバーグ・セットなんだけどねェ?」

「喋るか涙を流すか食べるかの一つにした方が良い気が……って、聞いていませんね」

「有り得ないんだけど。モグモグ……ホント有り得ないんだけど……モグモグ――――ンぐっ!?」

「ちょッ! 大丈夫かい? ホラ水。そんなに詰め込まなくても食事は逃げないぞ?」

「ご、ゴメンなさい……えっと……"食べ物"って、こんなに美味しかったんですね……知りませんでした」

「君が"食べなくても良いって体"ってのは本当だったんだなァ」

「はい。ボクのカラダは時計塔の魔力で維持されていますから食事も飲水も必要無いんです」

「納得」

「で、でも……もっと食べても良いですか? ……無理にとは言わないんですけど……」(チラッ)

「そんな顔されちゃ断れる訳ないだろ? 臨時収入も有ったし遠慮は要らないさ」

「すみません。追加の注文 御願いします」

「(嗚呼……この時点で思い残す事は無いかもだけど……今回も死ぬ気で頑張ろう!!)」


宿を取るとアヤトとエリスは当然の流れで食事に入り、管理者は乗り気はせずとも場を共にしたのだが。

誕生後 初めての"食事"による感動により、食事<会議と言う価値観が一瞬のウチに反対になってしまった。

しかも"今回"での決意も束の間。管理者は食い過ぎで倒れてしまい、結局 会議は明日持ち越しになった。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


――――数時間後。就寝前アヤトの借りた個室(女性2人は相室)にエリスが訪ねて来ていた。


「最後の冒険の場所を探しに来たつもりが……予想外の結果に成りましたね」

「うん。時計塔を"あんな娘"が管理してたなんて驚きだよ」

「それもそうですが問題は"古の魔"について ですッ!」

「……不安かい? エリス」

「そう思う以前に間も無く戦うと言う実感が湧きません。村や街を1日か2日で滅ぼしてしまう古の魔。
 対して古の魔を討伐する人智を越えし力を持つ英雄……最近までは、御伽話のような存在でしたから」

「御伽話ねェ」

「ですが今の時代の私達には身近な存在なのかもしれませんけど」

「あァ。確かに考えてみれば今年の"ハティー"で古の魔は3体目……有り得ない出現数だよな」

「はい(だからアヤトさんが現れたのも……古の魔に襲われる人々を救う為と言っても良いかもしれない)」

「でも安心してくれて良いよ。勝算は有るからさ(……そもそもオウルバロンが居りゃ負けるとか無いし)」


始めはアヤト本人が"壁"をする予定だったが、共闘するオウルバロンに代わって貰えば支援に集中できる。

また時計塔管理者が着ている衣装と同様に"セージ"の魔法を使いこなす事が出来れば、間違いなく楽チン。

それにエリスの火力が重なるのだから現在のアヤトはグラストヘイムに行く時以上に楽天的に捉えている。

だが"古の魔"に対する価値観が正反対なエリスは、アヤトの言葉を聞いて安心すると共に惚れ直していた。


「本当に流石ですアヤトさん」

「そりゃどうも」

「で、でも……そのッ……相手は"古の魔"ですから……何が起こるか分かりませんし……」

「うん?」

「少し"勇気"を私に分けて貰えればと……思うんですがッ」

「……って何を遣りゃ良いんだい?」

「そ、そそそそれは――――」(キス☆して欲しいらしい)


≪――――ガチャッ!!≫


「アヤトさんッ! エリスさァァん!!」

「きゃっ!」

「うおッ? びっくりした。どうしたんだい? 管理者さん」

「な、何だか急に"お腹"が痛くなって……ボクどうしちゃったんですか!?」

「腹が痛いとな?」

「今迄"こんな事"無かったから……理由が全然分からなくって……」

「(気を取り直して)やっぱり管理者の彼女が時計塔を出たのがダメだったんでしょうか?」

「まさか。さっき自分で"離れ過ぎなければ大丈夫"って言ってたじゃないか」


≪――――じわっ≫


「あうぅぅう……やっぱり"食事"なんてしたモンだからカラダが拒否反応を起こしたんじゃ……グスッ」

「腹が痛くって?」

「初めての食事?」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「アヤトさんエリスさん助けて下さい……ボク"こんな事"で死にたくないですよォ」

「案内してやってくれエリス。後は任せた」

「はい。行きましょう? 管理者さん」

「えっ!? ど、何処に行くんですかッ? アヤトさんの魔法無しで治るんですか!?」


――――そして十数分後。顔をトマトの様に真紅にしてエリスとトイレから出てくる彼女の姿が有った。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■








翌日の午前10時。アヤトは作戦会議(ハティー戦)の為、彼の借りた個室にエリス・管理者を集めている。

尚 往復の能率を考え管理者は時計塔に帰るのは諦める事にしており、管理は簡易的なモノに留める模様。

本来 一刻も早く戻るべきなのだが、やはり"アヤト&エリスと一緒に居たい"と言う思いが強いのだろう。


「それじゃあ早速 始めるとしようか」

「はい」

「で、では最初にボクの分かっている"ハティー"の情報を出来るだけ多く伝えたいと思います」

「宜しく頼むよ」

「先ずは出現ポイントですが、時計塔を中央に北に12745・東に16445の地点に出現するとの事。
 時刻は丁度2日と2時間12分34秒後で、風は北西より時速12メートル。気温は氷点下2℃で……」

「????」

「わけがわからないよ」

「えェっ?」

「え~っと……今の話だと明後日の12時過ぎに湧くって事で良いんだよね?」

「そ、そうですけど?」

「だったら30分前"その場所"に案内してくれれば問題無いよ」

「わ……分かりました。なら次に"ハティー"の特徴についてを……」

「先に言って置くけど全長や体重は要らないからな?」

「あうッ」

「……って本当に分かってたのかよ!?」

「時計塔の"情報収集力"と言うのは凄いんですね」

「……ッ……」

「管理者さん?」


――――此処で彼女に"嘘を言う事"による罪悪感が芽生えたが気を取り直し本来 知らない情報を述べる。


「な、何でも有りません……話を続けますけど、ハティーは"ハティーベベ"を考えるに巨大な狼の姿の筈。
 全身は氷で覆われており、生半可な攻撃は通らず……再生の力も有るので"古の魔"相応の耐久でしょう」

「ふむ」

「当然 攻撃にも優れていて速度は遅いとの事ですが、噛み付かれると致命傷なのは間違い有りません。
 また水属性の魔法をも使いこなし、殆ど詠唱する事も無く"ストーム・ガスト"を放ち周囲を凍らせます」

「ほう」

「更に魔物を招集する特徴も持っていて戦いが長引くと"サスカッチ"や"ハティーベベ"が現れるでしょう。
 そうなる前に倒さないと勝ち目が無くなると思います(……それ以前でもボクじゃ勝てなかったけど)」

「大体把握させて貰った。それなら少なくとも氷結対策は万全にしないとな」

「相手が水属性なのは間違い無い様ですし私は"風の矢"を多めに持っていく必要が有りそうですね」

「えっ? あ、あのッ! 今の話で"何か"感じたりはしなかったんですか?」

「何かって?」

「その……えっと……相手が相手ですから、怖かったり驚いたりとか……」

「まァ多少は緊張するけどね。今の話で色々と見えて来たし何とかなるだろ」

「そう言う事です」

「……(まるで最初のボクみたいだけど、2人とも本当に強かったし本当に大丈夫なのかな?)」

「じゃあ今度は"君の事"を聞かせて欲しいんだけど?」

「ぼ、ボクの事を……ですか?」

「見た感じ"それなり"の魔術の心得でも有るんだろ? 味方を知る事も戦うに当たっては重要だからね。
 オウルバロンは戦った感じ"ハティー"に対して時間稼ぎは十分 出来そうな強さなのは分かったけど」

「でも……ボクなんかの事を聞いても役に立つかはどうか……」

「そう謙遜するなって。使えるスキルによっては戦いも楽になるだろうからさ」

「……ッ……じゃあ……えっと、先ずは使える攻撃魔法の事を……」


"ハティー"の仕様を既に理解しているアヤトにとっては、むしろセージだと思われる管理者の方が重要だ。

もしセージの魔法を使いこなす事が出来れば、ボス戦の難易度がグッと下がるのは間違い無いのだから。

対して"ハティー"に1000敗 以上している自分が何故 必要とされているか分からない時計塔の管理者。

しかし共に戦うと言う事から教える必要が有るのだと自分に言い聞かせてスキルを告げてゆく事 数分後。

管理者は1次職のマジシャンのモノを始め"セージ"としての魔法の大体を使える事が判明したのだが……?


「……使えるのはソレで全部かい?」

「は、はい」

「整理すると、1次職の魔法は"セイフティウォール"と"ストーンカース"(一定時間石化付与)を使えない。
 だけど時計塔の管理者(セージ)として扱える魔法が幾つか有って、更に詠唱のキャンセルや移動が可能。
 特に敵の詠唱をキャンセル出来る"スペルブレイカー"は有用だね。コレが有るダケで大分楽になるよ?」

「そうなんですか? アヤトさん」

「あァ。初めて聞く魔法だけど(嘘)上手く使えば完封も狙えると思う」

「実際(余裕が無くて)使った事が有りませんから、良く分かりません」

「……とは言っても!」

「えっ?」

「実を言うと他にも使える魔法が有るんじゃないかい?」

「ど、どうしてですか?」

「何回か"言いたそうで言わなかった"っぽい仕草が有ったからね。さっきから気になってたんだよ」

「確かに私も感じました」

「!? そ、それは――――」

「間違い無いみたいだな。では実際のトコロどうなんだい?」

「その……頭の中で覚えてはいるんですけど……どうしてか使う事が出来ない魔法が幾つか有ります」

「つまり"セイフティウォール"も"ストーンカース"も覚えてたけど唱えられないから黙ってたりした?」

「…………」(コクリ)

「成る程ね。こっちとしては言ってくれた方が良かったかな?」

「す……すみませんッ! ボクは黙ってる つもりじゃ無くって……いえ、実際は黙ってたんですけど……」

「気にしなくても良いよ。そんなワケで残りの魔法も全部 聞かせて貰えるかい?」

「分かりました(……そうだよ……最初で最後の挑戦なんだから、話せる事は全部言わなきゃ!)」


管理者が"覚えているのに黙っていた"のには理由が有り、今迄のループで試しても唱えられなかったから。

だがアヤトは方法を知っており、それらの魔法は"特定のアイテム"を使用する事により唱えられるのだ!

それ故に触媒のアイテム無しに"買出し"すら出来ない管理者が唱えられる筈は無く活かすのを諦めていた。

また原作と違って"セージ"は管理者 以外 存在して居ないらしく、幾ら彼女が調べても分かる筈が無い。

しかしながら。洞察力が人数倍 高い(事で通っている)アヤトなら魔法の謎を解いてくれると期待できる。

よって管理者の口から"セージ"が使用可能な魔法の全てを覚えている事を聞くと、アヤトは口を歪ませた。


「じゃあ心当たりの有る(触媒の)アイテムが幾つかあるから、早速それを持って試してみようか」

「それなら場所を変える必要が有りますね」

「な、なんだか本当に使える気がしてきました」

「特に"例の魔法"を使えれば極めて有利になるからね。何としてでも方法を探そう」

「では早速 出掛ける準備の方を……」

「……ッ……」


≪ぐううぅぅ~~ッ……≫


「……っと遅れた朝食を先に済ませて置くべきだったかな?」

「ふふふッ。その方が良さそうですね」

「あうぅぅう……(ボクって何で"この年"になって何度も恥ずかしい思いしてるんだろう……)」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




……




…………




……2時間後。アルデバランより2キロ程 離れた草原にて。


「それじゃあ宜しく~ッ」

「はいッ! ランド・プロテクター!!」(対象範囲の地面に設置魔法を置けなくする)


≪――――ピキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「こ、これはッ!?」

「出来た!? アヤトさんッ! 出来ました!!」

「成る程。触媒にはイエロー・ジェムストーンとブルー・ジェムストーンが必要だったのか」

「透き通った地面……綺麗ですね」


――――アヤトはワザとらしく管理者にリトライさせる事でランド・プロテクターの詠唱を成功させた。


「凄いッ! コレを設置すれば"ハティー"のストーム・ガストも怖く無いですよ!?」

「アヤトさんの得意な"セイフティ・ウォール"が使えなくなる分 注意する必要も有りそうですけどね」

「その辺はキリエ・エレイソンや回復魔法でフォローするから平気さ……って物凄い範囲だなコレ……」

「そうなんですか?」

「いや(此処だと)見るのは初めてだし実際には分からないけど、君の魔力も絡んでるんじゃないかい?」

「良く分かりませんけど……唱えられたのに感動しちゃいました……(今回がダメでも次に活かせるし)」

「まだ感動するのは早いさ。次の魔法を試してみよう」

「は、はいッ!」


――――続いてエリスの火力を底上げする為ランド・プロテクターに続く"属性場"の詠唱を試させる。


「青と赤のみはダメ……次はイエロー・ジェムストーンのみで試してくれるかい?」

「分かりましたッ! バイオレント・ゲイル!!」(対象範囲で行う全ての風属性の攻撃力&回避率が増加)


≪――――バチイイイイィィィィンッ!!!!≫


「ビンゴ!!」

「や、やったッ! コレも成功するなんて!!」

「……確かに風の力を強く感じる……」

「管理者さん。続けてボルケーノ(火場)とデリュージ(水場)も試してみてくれるかい?」

「御安い御用です!!」


――――アヤトは火水風(土は存在しない)全ての属性場の設置を成功させると属性付与の詠唱も頼んだ。


「フレイム・ランチャーッ! ……どうですか?」

「特に俺のチェインに変化は無いな」

「……黄石でもダメみたいですね……」

「ジェム・ストーンが触媒じゃ無いみたいだなァ」

「ど、どうしましょう?」

「別に火力はエリスの"風の矢"任せだから、属性付与は左程 重要じゃ無いんだけど」

「では諦めるんですか? アヤトさん」

「いや。属性付与なら"属性石"って考えも有るしな……今度はコイツで試してみてよ」


≪――――ポイッ≫


「こ、これは……?」

「レッド・ブラッド」(火属性原石)

「!? 確かにソレなら唱えられるかもしれませんね」

「どうだか。ともかく"モノは試し"ってヤツだよ」

「良く思い浮かびますね……流石はアヤトさんです」

「有難う。そんなワケで遣ってくれるかい?」

「分かりました。フレイム・ランチャーッ!」(対象の武器に一定時間 火属性を付与)


≪――――キュイイイイィィィィンッ!!!!≫


「キタコレ」

「せ、成功したの!?」

「凄い……それなら他の付与も属性原石を使えば出来そうですね」

「じゃあ、早速モロク辺りに行ってサンドマンでも殴って来るわッ! ワープ・ポータル!!」

「え……えぇええ~ッ!?」

「ち、ちょっとアヤトさん!」

「エリスも管理者さんも入ってくれ!! 君の攻撃魔法の威力も検証して置きたいからさッ!」

「モロクって言ったら"砂漠"ですけど……行くしか無さそうですね……」

「きっとアヤトさんは"属性付与"を受けれて嬉しかったんだと思います」


こうして度重なる実験&検証の結果。時計塔管理者は"セージ"の魔法全てを唱える事ができたのである。

生憎 満足にサンドマンを殴り終える前に管理者が直射日光の影響で倒れたので"お開き"となったが……

既に彼にとっては"ハティー"対策は万全と言っても良く、満足気にポータルを開くと帰還するのだった。

そして数時間後。濡れたタオルを額にベッドに横になっている時計塔管理者を、アヤトが気遣っていた。


「……ごめんなさい……ボクの所為で迷惑を掛けたみたいで」

「俺こそ悪かったよ。砂漠なんかを選んで無ければ"こんな事"には成らなかったし」

「でも明後日には"ハティー"が出現するって言うのに、時間を無駄にしてしまって……」

「無駄も何も対策は十分だから気にしなくて良いよ。むしろ明日は休もうと思った位だし」

「そ、そうだったんですか?」

「あァ。だから折角の機会だし、やりたい事をすると良いよ」

「……やりたい事を……ですか?」

「うん」

「何でも構わないんですか?」

「勿論」

「だったらボク……"お買い物"がしたいです……よ、洋服とか欲しいから」

「そりゃ良い案だねェ。エリスとでも一緒に行って見れば良いよ」

「アヤトさんは来てくれないんですか?」

「そりゃ~俺で良ければ付き合うけどね」

「だったら一緒の方が良いですッ!」

「了解。それじゃあエリスが戻ったら頼んでみるよ」

「そう言えばエリスさんは何処へ?」

「風呂。ちなみに君のカラダも彼女が拭いてくれてるから安心して良いよ?」

「な、何から何まで有難う御座います」

「それほどでもない。そんなワケで俺も休むとするよ」

「あッ」

「では御機嫌よ~う」


≪バタンッ≫


「……グスッ……ほ、本当に信じられない……何だか夢みたいだよ……」


――――しかし彼女にとっては夢で有っても良い。今回の出会いは間違いなくループの糧となったのだ。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「だから……また幾ら"繰り返す"事に成っても……絶対にアルデバランを守るんだ……」




……




…………




……そして"古の魔"が湧く当日。アヤト達は管理者の案内で"ハティー"の湧く現場へとやって来ていた。

また出発前に昨夜 時計塔を抜け出したオウルバロンと合流しており、僅か3名(+1匹)での討伐である。

さて置き。管理者より湧き5分前と告げられると各々は昨日 購入した上着(氷点下 対策)を脱ぎ捨てた。

ちなみに管理者にとって、昨日の"お買い物"は長い人生の中で最高に幸せな一時だったのは間違い無い。


「そろそろだな……では手筈 通りに行くぞ!? 先ずは"属性場"だッ!」

「はいッ! バイオレント・ゲイル!!」


≪――――バチイイイイィィィィンッ!!!!≫


「集中力向上!!」(一定時間DEX&AGI上昇)

「続いてLPだ!」

「ランド・プロテクタァァー!!!!」


≪――――ピキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「管理者さん、あと何秒だ!?」

「残り30秒です!!」

「了解ッ! ブレッシング!! 速度増加!! イムポティオ・マヌス!! 更にマグニフィカート!!
 ついでにグロリアッ!(PT全員のLUK30上昇)……エリス!! 全力で撃ち抜いてくれよ!?」

「分かりましたッ!」

「そしてオウルバロンは……キリエ・エレイソンッ! 防御に集中してくれ!!」

『…………』(コクリ)

「き……来ますッ!」


≪――――ボコオオオオォォォォッ!!!!≫


『ウオオオオォォォォーーーーンッ!!!!』

「出やがったな!?」

「ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!!」

『グガアアアアァァァァーーーーッ!!!?』

「す、凄い……効いてるッ! それに範囲魔法が来ない!?」

「まだまだよ!? ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!!」

「その調子だッ! 近付かれる前に出来る限り削っちまえ!! レックス・エーテルナ!!」

『オオオオォォォォッ!!!!』

「詰めて来たぞ!? オウルバロン!!」

『……!!』


≪――――ガコオオオオォォォォンッ!!!!≫


「ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!!」

「絶対に手を休めるんじゃァないぞッ!? レックス・エーテルナ!! レックス・エーテルナ!!」

「……ッ……(す、凄過ぎる……コレなら本当に……でも……ボクは何度も……)」


"ハティー"が少し離れた距離に出現すると、先ずはエリスが物凄い勢いで必殺の"DS"を連発した!!

対して早くも装甲を削られたハティーはストーム・ガストを放とうとするが、設置魔法により不発する。

その間もDSの連発は続いているので、ハティーは距離を詰めると先ずオウルバロンに攻撃を仕掛けた。

だがバリア魔法のキリエ・エレイソンが効いている為に効果的なダメージは与えられず十分に壁が可能。

よって完全に優勢に事が運んでいるのだが……それでも、管理者は実物を見ると不安に感じてしまった。

其処で"結果によっては絶望"なので本来 使っては成らない管理者としての能力を使ってしまったのだが。




≪勝率を計算中――――現在処理中――――完了。敵の殲滅率100.0000%≫


「!?!?」




実を言うと"ハティー"の出現と同時に処理していたのだが、結果が判明したと同時に管理者は驚愕した!

勝率が現時点で100%なら後はアヤト・エリス・オウルバロンが頑張れば間違いなく勝てると言う事。

当然 事前にバイオレント・ゲイルとランド・プロテクターを唱えた事も勝率には影響しているのだが……

時計塔管理者は今の結果により胸が熱くなるのと同時に途轍も無い高揚感を覚え改めて杖を握り直した。


『グウウウウゥゥゥゥッ!!!!』

「あの動きは……回復魔法!? させるもんかッ! スペル・ブレイカー!!」

『……ッ!?』

「うェっ!?(か、回復魔法は無詠唱だろ!? 何で妨害出来るんだ!?)」

『ウオオオオォォォォン!!!!』

「(今度は"速度減少"か……)必死なのは良いけど無駄だよ!? スペル・ブレイカー!!」

『……ッ!!』

「ダブル・ストレイフィング!! ダブル――――アヤトさんッ! 手が止まっていますよ!?」

「あ、あァ……悪い!! 皆その意気だッ! キリエ・エレイソン!!」

「ボクが居るからには直接攻撃 以外は許さないよ!? バロンッ! もう少しダケ耐えて!!」

『…………』( `・ω・´)b


本来で有れば無詠唱の魔法をキャンセルするなどネタの領域である。だが連発するダケで効果は有った。

しかし管理者は1000回以上"古の魔"に挑んでいる事から、ハティーの行動パターンは全て把握済み。

よって本来の管理者としてのスキルも相まって1フレーム単位でスキルを割り込ませる事が可能だった。

本来ボスに対しては10分の1の確率でしかスペル・ブレイカーは効かないが、魔力に依存するらしい。

……とまあ、そんなウチにエリスの攻撃によって"ハティー"の装甲は次々と削れてゆき最期の時が来る。

対するアヤト側の被害としてはキリエ・エレイソンによりオウルバロンは殆どダメージを受けていない。

故に後は魔法の触媒やエリスの精神力回復に使用したアイテムの消費程度で有り、正に100%の勝率。


『ウオオオオォォォォーーーーンッ…………』


≪――――ズウウウウゥゥゥゥンッ!!!!≫


「良しッ! 倒した!!」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

『…………』(黙ってシルクハットのズれを直している)

「お、終わったの……?」


――――結局 今回のハティーは殆ど抗えず倒れ、コレが初めて現れた"古の魔"の呆気ない最期であった。


「"アイス・ファルシオン"を落としてるしね……死んだのは間違い無いよ」

「さ、流石に草臥れました」

「エリス! お疲れ様~ッ」

「それにしても……出来てしまうモノですね」

「コレも作戦の勝利さ。しいて言えば管理者さんとオウルバロンの御蔭だな」

「間違い無いと思います」

『…………』(ポリポリ)

「……やッ……」

「あれっ? どうしたんだい? 管理者さん」








「やったああああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

「う、うおわーーーーッ!!!?」


≪――――ガバッ!!!!≫(抱き付き)








「勝てたッ! 勝てた勝てた勝てた!! 守れたッ! ボク達がアルデバランを守ったんですね!?」

「あ、あァ……その通り……って、大袈裟だって! (当たってるから)少し落ち着いてくれよッ!」

「ふぇっ!? す、すすすすみません!」

「ともかくコレで本当に一件落着ですね」

「そうなるなァ」

「ところで初めての"古の魔"の事を報告しなくても良いんですか?」

「(折角のドロップを没収とかされたくないし……)色々と面倒だから別に良いさ」

「そうですか? 私も堅苦しいのは苦手ですから無理にとは言いませんけど」

「じゃあ"古の魔"の死体は見つけて貰える様に適当に噂を流すって事で、アルデバランに帰るとしよう」

「戦ったのは数分ですけど早く休みたいですね」

「同意……ってワケでワープ・ポータルを開くけど……流石にオウルバロンは無理だよなァ」

「街が大騒ぎに成ってしまいますね」

「だったらバロン? 明日に成ったら迎えに来てくれる?」

『…………』(コクリ)

「壁をしてくれて本当にアリガトな? 御蔭様で助かったよ」

『…………』(ニコッ)

「それではアヤトさん」

「あァ。パーッと祝勝会と行こうッ! ワープ・ポータル!!」

「(コレでボクは"永遠"から開放されるんだ……嬉し過ぎて涙を我慢するのでやっとだよ……)」

「随分と上着が濡れてしまったわ。帰ったら乾かさないと」


――――エリスは上着を拾って そう呟くと、何事も無かったかの様にポータルの中へと消えていった。


「そう言えば俺も忘れてたな……ホラ管理者さん。君の上着だよ?」

「あ、有難う御座いますッ」

「じゃあ早く入ってくれるかい? そろそろ消えちゃうからさ」

「分かりました。じゃあバロン? また後でねッ!」

『…………』(コクリ)

「(そろそろバロンとも時計塔の皆とも"お別れ"なんだね……だけど、もう思い残す事は無いや……)」


3人はポータルでアルデバランに帰還すると、先ずは新たな宿屋を探してチェック・インを済ませる。

だが管理者は今夜にも一旦 時計塔に戻ると言う事で"祝勝会"は適当なレストランを探してから行った。

その為 食事の質が上がったので管理者は今回も食事に夢中になったがアヤトは快く注文を許してくれる。

理由として"アイス・ファルシオン"を話し合いの結果 彼が貰っても良いと言う事に成ったのが大きいが。

後々 考えればエリスが"アヤトさんならば使い方を間違えないでしょう"みたいな話をしていた為に、
結局は売れず彼の(四次元)ポケットの中で暫くの間 眠り続ける羽目になってしまうのは さて置いて。

食事が早くも"今回"が最後なので食べたいメニューを目移りしつつも選び、幸せな一時を過ごしたが。

アヤト&エリスと交わした会話の内容も時計塔管理者にとっては興味深く、非常に楽しいモノだった。

互いが"イグドラジルの実"を求めた"世界樹"での出会いから始まり、2人で攻略した幾つもの迷宮の話。

それらの話を外の世界を知らな過ぎる彼女が気に掛けない筈は無く……出来れば自分も冒険してみたい。

しかしながら。管理者は千数百回ループした身で有る事から"諦め"は心得ており今更 泣き言は考えない。

"憧れ"や"望み"と言う小さな川が幾つ重なろうと、死の運命と言う巨大なダムが全てを制しているのだ。

故に2人に別れを惜しまれない為にも、管理者はヒッソリと時計塔で最期を迎えるべきだったのだが……


「おっと。もう"こんな時間"だなァ」

「そろそろ"オウルバロン"が迎えに来る時間なのでは?」

「み、みたいです」

「だったら早く会計を済ませよう!」

「急いだ方が良いですよ?」

「その前に……えっと……アヤトさん?」

「何だい?」

「ちょっと言いたい事が有って……明日の夜に、また時計塔に来てくれませんか? 勿論エリスさんも」

「別に構わないけど?」

「右に同じです」

「だったら同じ時間にバロンを迎えに行かせますので、必ず来て下さいねッ?」

「あ、あァ」


……だが管理者は最初で最後の"我侭"を言ってしまいアヤトとエリスに看取って貰うと言う事を望んだ。

ちなみにアルデバランの街に出てしまったのはオウルバロンの所為なのでカウントには含まれて居ない。

さて置き。死ぬ事は既に受容しているとは言え、彼女は2人にとって只の管理人で終わるのが嫌だった。

短い間だとは言え折角 一緒に戦ったのだから、仲間として記憶の片隅に自分を残して欲しかったのだ。


「彼女は何を伝えたいんでしょうか?」

「それよか真剣な顔をされたから驚いたな」

「……何か胸騒ぎがしますね」

「やっぱ一件落着には成らないってか?」


――――対してアヤトとエリスは万が一の事を考え、万全な準備で翌日の招待に出向くのであった。




……




…………




……翌日の深夜。時計塔4階層。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「あれっ? オウルバロンは何処に行ったんだ?」

「また何時の間にか居なくなってますね」

「ひょっとしてハメられたとか?」

「まさか。私達を殺す気なら空から落とせば良かったんですから」

「違いない」

「どうします? アヤトさん」

「徘徊してる魔物は襲って来ないのも変わらないし……適当に歩いて回ろう」

「仕方有りませんね」

「では支援開始!(何処かにレアなアイテムが落ちてる可能性も有るだろう!)」

「御願いしますッ(あの娘に"何か有った"と言う事態を考えているんですね?)」


昨日 時計塔管理者が言った通り、オウルバロンに掴まる事で4階層目まで来れたのは良かったのだが。

ふと気付いたら案内役のオウルバロンが居なくなり、5階層(屋根裏)を訪れてみても誰も居なかった。

その為 アヤトとエクスは"時間を潰す"と言う選択をし先日は攻略だったので今回は見学と洒落込んだ。

だが魔物は多く徘徊せど管理者の姿は発見できず……結局2人は適当な安全そうな場所で休む事にした。

そのまま更に数時間が経過し、昼が完全に過ぎてしまった辺りでアヤトは立ち去る事を考えたのだが……


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「14時の鐘が鳴ったか……」

「やっぱり居ないみたいです」

「どう思う? エリス」

「最初は問題が有ったのかと思いましたが、内部の雰囲気も魔物達の様子も変わり無いですから……」

「引き上げるべきなのかなァ?」

「ですが"あの時"の彼女の様子を考えると判断しかねます」

「う~ん。時計塔に(原作みたく)簡単に入れるなら迷ったりしないんだけどな」

「困りましたね…………ハッ!? 誰か近付いて来ます!!」

「な、何だってェ!? だったら再支援を――――」




「それは必要 有りません」


≪――――ザッ≫


「管理者さん!?」×2



このタイミングで探していた時計塔管理者が ようやく姿を現したので、アヤトとエリスの声がハモった。

だが現在の"彼女"は出会った時の朗らかな雰囲気とは違い……表情は真剣で何か神秘的なモノを感じる。

……とは言え"姿そのもの"は同じな故2人は違和感を覚えざるを得ないが、コレが気付いた直後の彼女。

つまり死ぬ時は時計塔管理者として逝こうと割り切り残りの"2時間"を今の様子で努めようとしている。


「お待たせして本当に申し訳有りません。話を告げるのは、どうしても"この時間"が良かったので」

「い、いや別に構わないんだけど」

「何か雰囲気が変わった様な……」


≪――――コツンッ≫


「……それでは私に付いて来て下さい」

「ちょっ!? やっぱり何か変だなァ」

「何にせよ……行くしか無い様ですね」


――――こうして管理者の後を追う事 数分後。4階層の中心 迄 来ると彼女は此方に振り返り口を開く。


「先ずはアヤトさんエリスさん。この度は時計塔……及びアルデバランの人々を古の魔より救って頂き、
 本当に有難う御座いました……御二人の力で非常に多くの命が救われ、街の平和が維持されたのです」

「は、はあ」

「……いえ」

「ですが"それダケ"では有りません。御二人は私の"永遠"に続く筈だった絶望からも救ってくれました」

「永遠? 絶望? なにそれ」

「……どう言う事ですか?」

「分からないのも当然でしょう。ですから御話したいと思います。私が抗えぬ脅威に対して選んだ道と、
 代償として定められた逃れられぬ運命を。少し長くなってしまうかも知れませんが……御願いします」

「それが一昨日の"言いたい事"ってワケなのか?」

「ならば聞くしか有りませんね……始めて下さい」


アヤトとエリスの同意を得られると、管理者は少しだけ口元で笑みを作った後 自分の境遇を語り始めた。

……時計塔を管理してゆく中……古の魔ハティーの出現に呆気なくアルデバランが壊滅してしまった事。

それを回避する為に自分の命と引換に"タイム・リワインド"を使い、一週間の時を遡(さかのぼ)った事。

しかし"古の魔"は余りにも強力で如何なる手段でも勝てず、1562回ものループを繰り返していた事。

よって絶望していて使命すら放棄していた時。アヤト&エリスと出会った結果、遂に古の魔を倒せた事。

全てを包み隠さず打ち明け……話を終えるとエリスは勿論、流石のアヤトも開いた口が塞がらなかった。

今や定時に鐘を鳴らす観光名所でしか無い時計塔に管理者が居たと言うダケでも驚きだったというのに、
平和の裏で管理者は何度も何度も孤独な戦いを繰り返していたとは……想像しろと言う方が無理な話だ。

しかも1562回も死んでいるとか……普通の人間だったら10回目の時点で気が狂ってしまうだろう。

挙句の果てに待っている運命が"死"とか正直 全く笑えないので、2人は口を詰まらせるしか無かった。


「ま、マジかよ……繰り返して繰り返して、ようやく倒せたってのに?」

「"後1時間程度"の命しか残って無いなんて……あんまり過ぎるわッ!」

「ふふふッ。でも私はソレで満足しているんです。本来はアルデバランの人々を守れるダケで良かった。
 それなのに人間との出会いに始まり、食事や買い物に加えて仲間との協力……本当に楽しかったです」

「なに言ってんだッ! 楽しいのは"これから"だろ!? それダケで"幸せだ"なんて欲が無さ過ぎる!!」

「そうですよ!! 美味しい食べ物は更に幾らでも有るし、面白い話も沢山 残って……それなのにッ!」

「分かっています。されど私は時計塔の管理者……本来 外に出る事は許されず静かに使命を果たす身。
 そんな"人ならざる者"で有る私が最期は人間に看取って貰おうと考えた。それダケで"奇跡"なのです」

「……クソッ……」

「そんな事って!」


幾ら"この世界"では無限の可能性を持つ彼でも、定められた運命は変えられず悔しさで拳を握り締める。

だが管理者は微笑んでおり2人の様子を見て"やはり言って良かった"と考え運命に身を任せる事にした。

即ち後はタイム・リワインド終了による"死"を待つダケと言う事で、何も思い残す事は無かったのだが。


『…………』


≪――――ひょいっ≫


「きゃっ!?」

「オウルバロン!?」

「い、何時の間にッ」


――――何時の間にか管理者の背後に現れていた"オウルバロン"が、彼女を強引に"お姫様抱っこ"した。


「!? な、何をするんだよバロンッ! 来ちゃダメって言ったじゃないか!!」

「(まさかのカリスマ・ブレイク!?)」

「(やっぱり偽りの顔だったみたいね)」

『…………』


≪のっし のっし のっし のっし≫(歩く音)


「えぇええっ!? ちょっと! 何処に連れて行くって言うのさ!? ボクは後1時間12分で……!!」

「あ、アヤトさん……どうするんですか?」

「追うしかないだろ」

『…………』

「放して!! 放してよッ! 折角 真面目に遣ってたのに、こんなの酷いじゃないかーッ!」


――――オウルバロンの手(?)の中で無駄な抵抗をする管理者。何だか色々とブチ壊しであった。




……




…………




≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


仕方なくオウルバロンの背中を追ってゆくと、時計塔の1階層目に迄 降りてしまい管理者が色々と抗議。

だが聞こえているのか・いないのか彼女の使い魔は1階層を進んでゆくと"とある地点"で立ち止まった。

其処は地面や壁に大小の時計が鏤(ちりば)められているエリアで、ウチ1つの時計の針を操作すると……


≪ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!≫


『…………』( `・ω・´)b

「おォ~ッ! 隠し階段が有ったのか」

「何故 今になって"こんな場所"に案内するんです?」

「えっ!? い、いえ……ボクも知りませんでした」

「時計塔の管理者なのに知らなかったのかい?」

「は、はい。そもそも"時計塔の地下"が有った事すら……」

「……って事は……」(チラッ)

「バロン……君って一体……」

『…………』

「とにかく入ってみようぜェ」

「時間も余り有りませんしね」

「……ッ……残り58分です」


何と管理者でさえ知らなかった"時計塔の地下"への入り口が出現し、アヤト達3人は驚くしか無かった。

だが管理者の寿命を考えると急がなければ成らず、かつ"オウルバロン"は意味が有って教えてくれた筈。

よって言いたい事は多々有るのだが、今は保留し3人(+1匹)は"時計塔の地下"の迷宮の攻略を開始する。


「キリエ・エレイソン!!」

「ダブル・ストレイフィング!!」

「ソウル・ストライク!!」(念属性の単体 攻撃魔法)

『…………』( `・ω・´)

「思ったより敵が強いじゃないか」

「油断できませんね」

「だけど"古の魔"と戦った時の事を考えると手応えが無いかな?」

「当たり前かと」

「ですよねーッ」

「そ、それにしても此処は一体……相変わらずボクの管理外みたいですし」

『…………』

「まァ謎に関しては"目的地"に着かないと解けないっぽいな」

「では急ぐしか無いですね。残されているのは何分ですか?」

「えっと……残り42分ですね」


オウルバロンを前衛に魔物達を蹴散らし地下4層目に到達すると、始めは迷宮を彷徨ってるかに感じた。

だが数分後に朽ちた置き時計を探し当てると、その時計の針を操作する事で閉じられていた扉を開ける。

すると置時計の内部には1冊のボロボロの本が眠っており……オウルバロンは此方に視線を向けて来た。

どうやら"これ"が彼(?)の見せたかった物だった様で、先ずはレアに五月蝿いアヤトが本を開いてみる。


「どれどれ」

『…………』


≪――――パラッ≫


「うぅ~む……」

「どうですか?」

「悪い全く読めん。武器としての効果も無いみたいだし……読んでくれエリス」

「分かりました」


≪――――パラッ≫


「何て書いて有る?」

「すみません……少なくとも私の部族には無かった文字ばかりですね」

「だったら君だなァ」

「ぼ、ボクですか? ……あッ! 結構 汚れてますけど、何とか読めそうです」

「良かった。それなら慌てずに解読してくれよ?」

「はい――――えッ!? …………………………………………………………これって嘘だよね? バロン」

『…………』

「どうしたんだ~? 何か分かったのかい?」








「時計塔の管理者として生きているボクが――――人間だったなんて」

「!?!?」×2








目的の書物はアヤトでは読めず、エリスでも同様。だが時計塔管理者ならば読む事が可能だったらしい。

よって自然な流れで解読に移る彼女だったが、書かれていた内容とは衝撃的な内容の連続で言葉を失う。

そんな中で最も彼女が驚いたのが"時計塔管理者は人間だ"と言う事であり、思わず口に出してしまった。

コレは無意識に出た言葉でありオウルバロンの方を向いていないが、更なる展開が管理者を待っていた。


『偽りでは有りませんよ? 御嬢様』

「!?!?」

「今何か言ったかい? エリス」

「いえ何も……と言うか……」

「うぇえぇ!? ば、バロンッ! 君って喋れたの!?」

「なん……だと?」

『はい。ですが今迄 喋るのを許されていませんでした』

「時計塔の地下と書物の内容の事も有るし、話してくれるんだよね? ……ボクが一体"何"なのかを……」

『良いでしょう。その為に此処まで御案内したのですから』

「それって俺達も聞いて良いの?」

「も、勿論ですよッ! 此処まで最後まで来たら付き合って貰いますから!!」


――――何とオウルバロンは人並み以上の知識を持っていた様でシルクハットの位置を直すと語り出す。


『"この地"には時計塔が出来る以前から知識・技術・そして魔術に優れていた者達が暮らしていました。
 ですが各地で"古の魔"が誕生する様に成ってから魔物の動きが活発になり、頻繁に襲撃を受けました。
 それに対し"力"の無い我々は始めは知識を活かす事で抗う事が出来ましたが魔物は無限に誕生します。
 故に昔は魔物の強さも今のアルデバラン周辺とは桁違いだった事から、後は滅ぶのを待つダケでした』

「そ、それでッ?」

『襲撃が重なるに連れて仲間達が死んでゆく中……我々は一族の血を絶やさぬ方法を必死で考えました。
 其処で幸いだったのが"この地"の近辺が縄張りである古の魔が当時は存在しなかったと言う事でした。
 つまり湧き続ける魔物に対して、此方も"無限の戦力"で対抗すれば永遠に"この地"守り続けられる……
 ですが気付いた時には既に遅かった様で、作成が可能な文明は有れど人員と時間が不足していました」

「だったら滅びちまったのか?」

『いえ。我々は最終手段として生き残り全員の命と引き換えに多大な魔力を凝縮させ触媒に当てました。
 その結果"無限の構成"を始めとする様々な機能を持ったダンジョンの作成時間を大幅に短縮させられ、
 やがて此処に残ったのが"時計塔"で有り……我が一族の唯一の生き残りで有る"御嬢様"だったのです』

「し、信じられない……!」

「そんな謎が有ったのかよ」

「で……でもバロンッ! ボクが人間だったら寿命が有るじゃないか!! コレも時計塔の力なの!?」

『はい。いくら時計塔が完成したとは言え機能させるには"管理者"が存在しなければ意味が有りません。
 よって族長の娘で有り魔術師としての能力に極めて優れている"御嬢様"が、その役割を担ったのです。
 されど長くに及ぶ管理を任せる身に人間の精神を持たせる事は出来ず……先ずは記憶を削除しました。
 代わりに管理者としての使命と知識を詰め込んで、時計塔の魔力を用いて生命を維持させる事により、
 "御嬢様"は人の身ながら"時計塔の管理者"として生まれ変わったのです。後は話す迄も無いでしょう』

「ま、まァ人間で良かったんじゃないか?」

「でも酷過ぎます……折角 人間だと知れたのに時間が僅かにしか残されて無いなんて……」

「アハハハ。以前のボクだったら驚いたってレベルじゃ無かったのかもしれないけど、仕方無いです。
 一族の血は潰えちゃいそうですけどアルデバランを守れて"人間として死ねる"ダケで満足ですから」

『それに関しては勘違いをされていませんか? "御嬢様"』

「へっ?」

『残念ながら"タイム・リワインド"を使われた事により、時計塔の"歴史"は間もなく終わりを告げます。
 ですが"御嬢様"は時計塔から得ていた魔力を失うダケに留まるので、死んでしまう訳では有りません。
 当然 管理者としての情報収集能力と不老不死と言う特性は失われますが……今では些細な事でしょう』

「!?!?」

「え~っと……つまりだ。彼女は後5分で死ぬワケじゃ無いんだな?」

『その通りです』

「…………」(ポカーン)

「す、凄いッ! 良かったじゃないですか!! 死なないッ! 生きれるんですよ!?」

「んん~っ? でも……何か色々と変じゃないか? どうして"今更"になって"ネタ晴らし"をしたんだ?
 一族の血筋を絶やさない事ダケが目的だったら、アルデバランが出来た時点で人間に戻るべきだった。
 逆に時計塔の管理のみを優先させるなら、オウルバロンが"御嬢様"を突き飛ばしたのは有り得んだろ」

『それに関しても話して置くべきでしたね。本来 我々の一族は非常に誇り高く……プライドも高かった。
 故に私は"御嬢様"に子を宿すに相応しい者が現れる迄 管理を続けて頂くと言う命をも受けていました。
 其処で現れたのがアヤト様とエリス様で有り、貴方達は"御嬢様"を絶望の淵から救って下さいました。
 先程の話は私も聞いておりましたが……よもや"御嬢様"がタイム・リワインドを使用していたにせよ、
 此処まで過酷な運命を強いられていたとは予想外でした。ですから御二方には本当に感謝しています』

「い、いや感謝はともかく……今のは俺の聞き間違いかなァ?」

「彼女がアヤトさんの……(こ、こここ子を宿すですって!?)」

『誤解なさらず。それに関しては全て"御嬢様"次第であり、アヤト様に強制する気も一切 御座いません。
 あくまで私の役目は今の時代の人間が我々と共に歩める程に迄 成長したのかを見極めるダケでした故』

「それで"御嬢様"をポータルの中に突き飛ばしたってワケかい!」

『…………』(ニコッ)


――――そして"この顔"である。真面目な事を言ってる"オウルバロン"だが見た目は巨大なフクロウだ。


「でも俺は そんなに立派な人間ってワケじゃ無いんだけどね」

『御謙遜を。我々の技術の象徴で有る時計塔を瞬く間に抜け"御嬢様"が自ら接触した程の魅力の持ち主。
 その"結果"を目の当たりにした時点で既に我々としては完敗だったと言えます。御見逸れしましたよ』


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「……って時間が来たのかッ?」

「ど、どうなるって言うの!?」

「――――うぐっ!? ああああぁぁぁぁッ!!!!」

「ちょっ! 何か苦しんでるけど大丈夫なのかよ!?」

『心配には及びません。人間に戻るに当たり時計塔より授かった魔力が瞬時に抜けているダケです』

「それって普通にヤバいんじゃ?」

『初めての感触に驚かれているのでしょう……そもそも本来は何も感じない筈だったのですが……』

「其処で思ったのですが、人間に戻る事で過去の記憶が蘇ると言う事は無いんですか?」

『残念ながら完全に削除した物を復元する事は出来ません。"御嬢様"本来の魔力は残っていますがね』

「はァ、はァ、はァ、はァ……」

「平気かい? 治まったみたいだけど」

「は、はい。やっぱり何とも無いみたいです」

「それなら良かったけど……"そっち"はダメっぽいなァ」

「話を聞く限り予想はしていましたが……残念ですね」

『…………』

「えっ!? そ、そんな!! バロンッ! バロオオォォン!!!!」


時計塔(元)管理者は少しダケ全身が白く輝くと同時に、纏っていた光が分散したに過ぎなかったのだが。

オウルバロンは時計塔の寿命と同時に消え去ってしまう様で有り……既に下半身の殆どが消滅していた。

当然 体の消失は現在進行形で続いており、(元)管理者は涙を浮かべて悲痛な叫びを投げ掛けるのだが……


『まさか私などが"御嬢様"に涙を流して頂けるとは……もう何も思い残す事は御座いません』

「駄目ッ! ダメだよ!! ボクが人間に戻るのは取り消しッ! だからバロンは消えないで――――」

『では"御嬢様"……さようなら。今後は名前を持ち、人間として幸せな生活を送って下さい』(ニコッ)


≪――――バサッ≫


「ば、バロンッ!? 嫌だ嫌だ嫌だ!! うぐッ……うわああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

「…………」

「…………」


オウルバロンは消滅し地面には彼のシルクハットとマントが残された。ちなみにレア・アイテムである。

それに(元)管理者は駆け寄り両膝を折って拾うと、両腕で抱きしめながらボロボロと涙を流して叫んだ。

気付いた時には傍に居り、末永く自分の事を見守ってくれたオウルバロン。強いて言えば自分の家族だ。

それを失った(元)管理者の悲しみは計り知れずアヤトとエリスは彼女に掛ける言葉が見つからなかった。

さて置き。こうして時計塔は魔力を失った事で、地下を含めて魔物達は消滅し鐘の音も消えたのだった。

よって先日の魔物の暴走は時計塔の寿命が原因とされ……数ヵ月後には内部も一般公開される事となる。

また"刻を告げる街"と言う事で鐘も街の人間の手によって鳴らされ、管理者は全ての役目を終えたのだ。




……




…………




……十数分後。


「落ち着いたかい?」

「は、はい。みっともない所を見せちゃって御免なさい」

「とんでもないです」

「ともかく晴れて人間に戻れたんだ。どうしようか? コレから」

「私としては何か"呼び名"を考えた方が良い気がします」

「確かに有った方が良いなァ。何時までも"管理者さん"じゃアレだし」

「!? だ、だったらアヤトさんが付けてくれませんか? ボクの名前」

「えぇッ!? 何で俺が!?」

「駄目……ですか?」(じわッ)

「うぐッ!」

「彼女を人間にしたのは半分はアヤトさんの所為なんですから、責任は取ってあげましょうよ」

「ご、誤解される様な表現するなよ……とは言っても簡単に浮かぶモンじゃ無いぞ?」

「ボクはアヤトさんが考えてくれた名前なら、何でも構いません!!」

「……だったら……時計塔・管理者・トケイトウ・カンリシャ……う~ん……」


此処で予想外にもアヤトは(元)管理者の名前を考える事に成ってしまい、腕を組んで色々と悩んでいる。

本来 記憶を消される前の名前を使えば良いのだが、書物には彼女の本名らしい記述は無かったのである。

よって気乗りはしないが真剣に考える事にはした様で……エリスと(元)管理者が見守っている事 数分後。


「"ケイト"ってのは、どうだい?」

「それで良いです!」

「即答なのかよ!?」

「でも良い名前だと思いますよ?」


――――この瞬間 時計塔の管理者は消え緑の髪と瞳を持った"ケイト"と言う人間の少女が誕生した。


「(それにしても……結局 今回も売っても良さそうなレア・アイテムは無しかよ~ッ!)」




……




…………




……1年後。下級住宅街のアヤトの店にて。


「わたくしは"お好み焼き"で御願いします」

「私は今日もヤキソバを頼む。大盛りだ!」

「ウチはペコペコの空揚げ定食を頼んます」

「御注文 有難う御座いま~す。ケイトッ! (エリスは買い物に行ってるから)宜しく頼んだよ~!」

「分かりました!」


憧れの人間となったケイトだったが意外にも王都プロンテラに戻ると言う2人には付いて行かなかった。

何故なら数百年 欠かさず見守り続けていた"アルデバラン"での生活を先ずは送ってみたかったからだ。

その為 彼女はアヤトとエリスに1週間ほど掛けて一般常識を教わると、先ずは冒険者ギルドに登録する。

続いて(四次元)ポケットを使ってアヤトに預けていた時計塔のアイテムを売却して賃貸住宅を確保した。

その際 ケイトは時計塔のレア・アイテム全てを所持していたのでアヤトが羨ましがったのは さて置き。

こうして彼女は冒険者として1年の間 生計を立てる事で今に至り、既に2次職と成ったワケなのだが。


「それにしてもアヤト様に、あんな可愛い妹様が居らしたなんて」

「中々の魔力を持っている様で有るし王宮騎士団に欲しい位だな」

「(胸に関しては圧倒的に負けとるけど)ウチも油断しとれんなァ」

「はいッ! 御待ち遠様でした!!」

「(ケイトは仕事の覚えが早くて助かるぜ)」


ギルドにケイトの家族の有無を聞かれた際。何を間違えてか彼女はアヤトの義理の妹に成ってしまった!

それは彼女の苗字が直ぐに思い浮かばなかったのと、オウルバロンに子を宿す云々の話を聞かされた為、
ケイトに対しての気恥ずかしさから提案した所……彼女が大賛成してしまった事で強引に決定となった。

だがケイトは子供を作る方法を知らない為に賛成したに過ぎずリディア達に紹介した際に地雷をかます。




「ボクはケイト・カツラギ。アヤト兄さんの妹です! 職業はウィザードで最近ランクBに成りました!」


「(ケイトってば何時の間に……既に俺よりも高いじゃないか……)」


「それとボクの将来の夢はアヤト兄さんの"お嫁さん"に成る事ですッ! どうか宜しくお願いしま~す!」


「!?!?」×3


「ちょッ! おまっ!?(バカーーーーッ!!!!)」




さて置き。ケイトはアルデバランもだが、アヤトとエリスも大切な存在で有り一緒に暮らす事を望んだ。

つまり前述の"1年間"とは予め決めていた期間であり、最近 手紙の遣り取りを経て此方に移って来た。

その際 アルデバランのギルド員には引き止められ……ゲフェンの魔法ギルドからも勧誘されていたが。

"全て"を蹴ってケイトは此処で働く事を望み、今はエリスと同様メイド服の姿で店を切り盛りしている。

そんな彼女は働く様に成り一ヶ月も経っていないのだが、記憶力が良く既に戦力として成り立っていた。

アヤトとしても只 同然で働いてくれる事から素直に感謝しており、気持ち常連客も増えて来た気がする。

今更だが彼の店の料理は斬新で美味いのだが、コストが掛かり下級住宅街の市民には高い為 客は少ない。

また地味なリディア達の工作も有り、地位の高い人間は"この店"の存在に気付いてすら居ないのである。


「あっ!? いらっしゃいませーッ! こんにちわ!!」


――――だがケイトにとっては全く関係無く"家族"と共に人間として生きれる今が本当に幸せだったが。


「ところでケイト様」(コソコソ)

「何ですか~?」

「"古の魔"と言うモノを御存知ですか?」

「はい。知ってますけど?」


――――王女の使命を理解して居ない彼女が"ハティー"について暴露してしまうのは時間の問題だった。








■第四章・完■








■次回:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:伊豆■








■あとがき■
時計塔編終了ッ! 今回でアヤトの1年間の旅が終わり冒険中に会わせたかったキャラも全員出せました。
つまり第一部・完! ……となったので以後 続くのなら食堂(酒場)経営中での話になるんだと思います。
今回に置いては、もっとコンパクトに纏めたかったのですが無駄に長ったらしく(48KB)なって恐縮です。




■補足■


○ケイト・カツラギ(時計塔管理者)○
主人公の義理の妹で好奇心旺盛で活発な少女。ループを含むと二千年近く生きてるが肉体年齢は17歳。
精神年齢となれば更に下がるも非常に記憶力が良く天才と言える存在である。しつこい様だが巨乳です。
魔力はリディアやカトリには及ばないがアヤトよりは高く、身体能力にも優れており結構な実力を持つ。
よって一人の際は四属性の"本"を武器とした前衛として戦い……同時に降り注ぐ魔法は強力。(職業特性)
また支援役としても優秀で"属性場"の展開範囲は非常に広く、大きさも自由に縮小可能なチートっぷり。
更に特性を知っている魔物に対しては"古の魔"を含め無詠唱の魔法すら妨害する事ができる手腕を持つ。
だが問題は"その実力"を積極的に活かそうとはせず、人間としての生活を満喫していると言う事だろう。
将来の夢は"アヤトの子を産む"事なのだが実現 以前に方法を知る事でさえ当分先になるのは間違い無い。
ちなみに"この世界"にセージは存在せずギルドではウィザードとして登録中。装備は時計塔セット一式。


○セージ○
ROで存在する2次職業。デザインが神。本作では人数が多いとチート過ぎるのでケイトのみが該当者。
失われた古代の職とか思って頂ければ良いかと思います。スペル・ブレイカーは本作ではボスにも特効。
しかし発動まで0.7秒のディレイが有るので無詠唱の妨害は不可能な筈だが、ケイトは何故か出来る。
とは言え時計塔管理者では無くなった事で必ず成功するとは限らず、ハティー戦のみ真価が発揮された。




■葛城君の旅路■

1年目01ヶ月 "葛城 綾人"登場

2年目01ヶ月 プリーストに転職

3年目01ヶ月 本格的な一人旅開始

3年目03ヶ月 "ドッペルゲンガー"撃破

3年目06ヶ月 "深淵の騎士"撃破

3年目09ヶ月 世界樹を攻略

3年目12ヶ月 "ハティー"撃破

4年目01ヶ月 食堂(酒場)の経営開始

4年目03ヶ月 第1章のラスト 及び リディア&クレア入店

4年目06ヶ月 カトリ入店

4年目12ヶ月 ケイト入職 ←いまここ


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