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No.24056の一覧
[0] 【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】[Shinji](2010/11/06 21:29)
[1] ■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■[Shinji](2010/11/08 03:20)
[2] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■[Shinji](2010/11/10 22:56)
[3] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/04/11 13:30)
[4] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/05 12:03)
[5] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/06/11 09:59)
[6] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/18 02:59)
[7] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■[Shinji](2011/10/22 04:01)
[8] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■[Shinji](2012/04/16 20:41)
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[24056] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/05 12:03
――――仇討ちを求めるカトリ・ケイロンが一人の聖職者と運命的な出会いをした、その翌日の昼前。


「…………」


彼女は王都プロンテラの少し西に位置する"地下水道"の入り口付近でアヤト・カツラギを待ち続けていた。

それにしても何故、よりによって男女の待ち合わせの場所が人気の少ない"地下水道"なのかと言うと、
最初はプロンテラ西の入り口で待ち合わせようとアヤトが提案したのだが、カトリは絶賛家出中である。

よって人通りの多い西口前では従者に見つかってしまう事を考えて、下水道を選択して今に至るのだが。


「……来ぉへん」


既に待ち合わせの時間から2時間が過ぎようとしているのだが、一向にアヤトは姿を現さないでいるのだ。

まさか本当に来ない? カトリは昨日……アレから色々と彼の世話になっていた分 ショックが大きかった。

アヤトはGH行き決めると、先ずは"攻略に揃っていれば安定して狩れるスキル"を聞きいて来た事に対し。

彼女が"その質問"をする彼の雰囲気の違いに少々 飲まれながらも、全てを習得している事を告げると……

カトリにとっては"全て覚えてなければ拒否される"と思っていたが……彼にとっては左程 重要では無い。

全て覚えていなければ"覚えている魔法での戦法"で対抗すれば良く、それ以前にカトリは全て覚えていた。

よって心底ホッとしたカトリの反面、アヤトは内心で歓喜しており続いて"ペア狩り"の攻略法を解説する。

実際に行ってみなければ分からないとは言え、予め告げて置かなければ何も出来ない事を避ける為にだ。

その大まかな"攻略法"はカトリにとっては冗談でも聞いているかの様だったが、不思議と信憑性を感じる。

詳しい理由は省くが、その時の彼女にとってアヤトは無条件で信用してしまう程 頼り甲斐が有ったのだ。


「やっぱり……冗談やったんかなぁ?」


――――これから言う内容は君達の"常識"を考えると、滅茶苦茶な事だとは思うけどね。


"攻略法"を告げる際、苦笑しながら そう話を切り出したアヤトの表情を思い出しながらカトリはボヤく。

アレは冗談。自分は遊ばれたダケ。2時間も待ち人が来なければ普通は諦めるべき……間違いない考えだ。

だがレストラン(割り勘)を出た後にも続きが有り……カトリはアヤトに一つの"肩に掛ける物"を借りた。

それは"壁に沿いながら歩けば姿を消せる"装備であり自宅から明日に備え装備を取って来る様 言われる。

何処で"そんな装備"を彼が手に入れたかは謎だったが、ソレが有ったからこそ彼女は大騒ぎ中の家に侵入。

そして言われた通り"生命力が上がりそうな盾や服や靴"を持って来て、アヤトは真剣な表情で装備を吟味。

結果 名家"ケイロン家"には彼の望む装備が有った様で、今は彼女のカラダに装備され準備は万端である。

ちなみに他に持ってきた(アヤト吟味 済みの)余剰分の装備はカトリの"四次元ポケット"に収まっており、
そのポケットは王都プロンテラから直接"カプラサービス"が依頼され王立&王宮騎士団に配布されるモノ。

故にカトリは思いの他 軽装であり、カオと上半身を覆う"フード"を被りつつアヤトを……以下 同文だ。


「……うぅッ……」


≪――――じわっ≫


しかしながら。幾ら待ってもアヤトは来ないので、とうとう泣きが入って来たカトリ・ケイロン19歳。

通りすがりの衛兵に白い目で見られながらも棒立ちする自分が、段々と惨めに感じて来てしまったのだ。

幾ら此処が過去に"古の魔"が出現した重要な場所で有るとは言え……此処は紛う事なき下水道の入り口。

流石に"こんな場所"から何回目のリトライと成った"敵討ち"の出発をするのは精神的にキツい物が有る。

その為 見た目は物静かに佇む魔術師に見えてフード越しに涙を毀れるのを我慢していたカトリだったが。


≪たったったったっ……≫


「カトリ!!」

「……ッ!?(アヤト様っ?)」

「悪い悪いッ! マジで遅くなった!!」

「そ、そうですよ? 何時まで待たせて――――」


唐突に背後から聞きたかった者の声が聞こえてカトリは体を震わせた……のだが、其方には振り返らない。

恐らくアヤトに泣きそうだった自分の顔を見られたくないのだろう。そうすれば本当に見限られてしまう!

しかし遅刻は彼が悪い以前に頼っているのはアヤトの方なのだが、違う意味で良いタイミングで来た様子。

つまりカトリの心が折れる直前に現れたと言う事で……こんな時の彼で有っても頼もしく感じたのである。

だが自分は誇り高く気丈な魔術師で居なければ成らず、振り返る彼女は既に何時ものカトリだったのだが。


「いや~、まだ待っててくれて本当に良かったよ」

「えぇッ!? ど、どうされはったんですかアヤト様……その姿!!」

「いや~、ちょっと予定より準備に時間が掛かっちゃってねェ」

「だからって、一体 何が有ったんですか!?」


――――2時間遅れで現れた聖職者様は、目立った傷は無いモノの黒い修道服のあちこちが汚れていた。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■








ようやく合流できたアヤトとカトリは、地下水道の入口を徒歩で離れながら今の件について話す事にした。

話題としては先ず"遅れた理由"が第一に来るだろうが、衣服が昨日より損傷しているのも気になるトコロ。

正直 世間に疎くもあるカトリには想像がつかず、少なくとも1時間や2時間で出来たモノとも思えない。


「アヤト様。何が有ったかは当然 説明して貰えるんですよね?」

「勿論だよ」

「全く2時間も遅刻って……ウチもう少しで待ち合わせ場所を離れる所だったんですよ?」

「それについては本当に感謝してるって」

「じゃあ話して下さいっ!」


――――最初はアヤトが来てくれて嬉しかった様だが、徐々にムカムカして来た(フードを取った)カトリ。


「実はだね。"グラストヘイム古城"のポータルのメモを取って来たからなんだ」

「へっ?」

「本当は昨日のウチには着く予定だったんだけどね……思ったよりもテレポ運が悪くて能率が悪くてさ。
 暗くなって場所の把握が難しくなってからは、結局"速度増加"を掛けて走って今に至るってワケだよ」

「……って事は……アヤト様は一人で"コボルト"や"プティット"の縄張りを抜けたって言うんですか?」

「うん」

「たった一日で?」

「そう」

「しかも一人で?」

「むしろ"一人だからこそ"とも言うかな?」

「は……はァああぁぁ~~ーーッ!!!?」


この世界の常識的に考えて"グラストヘイム古城"とは、到着する事 自体が難しい迷宮だと言われている。

冒険者達にとって"コボルト"も強敵だが、竜族のモンスターである"プティット"は二次職でも苦戦は必至。

よって普通の人間など近付く事すら自殺行為と言えるのに、アヤトは一人で其処を一晩で抜けてしまった。

てっきり先ずは彼に"魔法の都市ゲフェン"にまでワープ・ポータルで送って貰い地図で進路を決定した後。

何日か掛けてGHを目指すか、若しくは王都の何処かでGH行きのポータルを持つ者を探すと思っていた。

よってカトリのポケットの中には指示はされていなくとも2週間分の食料等は詰め込んでいたのだが……

まさかアヤトが自分の為に"GH直行便"を用意してくれていたとは思わず、自然と大声を上げてしまった。

此処は人気が無いので迷惑に成らないのは さて置き。コレなら遅れたのも納得できると言うモノである。

彼がGHへの道程や下準備について何も言わなかったのは、全ては直行便を用意する為だったのだから。

そうカトリは判断する事で、改めて彼が只者では無いと思うと同時に感謝した。遅刻の事やら何処へやら。


「おいおい、昨日から何度も驚き過ぎだって」

「す、すみません。でもウチはてっきりゲフェンから……ほんま手間が省けて助かります」

「感謝なんてしなくて良いよ。そもそも狩場のメモは当然の役割だし」

「当然の役割って……(冗談と捉えた方が良ェんやろか?)」

「ともかく出発しよう。メモは"騎士団の入り口"にして有るからさ」

「え、えぇ~ッ!? アヤト様は古城の中に入られたんですか!?」

「そうだけど? ……いや……正確には"古城の中"じゃなくって"敷地の中"かな?」

「どっちにしろ危険だったんじゃ?」

「内部はヤバそうだったけど、外は左程でも無かったよ。だから転送後は安全だから安心して良い」

「わ、分かりました」

「それじゃあ、カトリの装備は……大丈夫そうだな。良し早速 転送を始めよう」

「えっと! その前に休まれなくても平気なんですか?」

「全然 問題無いよ」

「……うッ……で、でも無理せんといて下さいね?」

「有難う」

「(ほ、本当に底が知れん人やわ……この人とやったら、本当に深淵の騎士を……)」


彼にとって今や"この世界"での狩りは徹夜でネトゲをしていた学生時代と左程 代わりは無かったりする。

また此方に来て間もない頃は絶望より喜びの方が強く、転職したい一心で一週間もの間 野宿をしながら、
ひたすら下級モンスターを狩り続けた事も有り、今やアヤトは"この世界"の軍人より戦いに順応していた。

だが生憎 彼のみぞ知る"狩場や魔物の知識"や"装備の特性"を最大限に活かしても超えられない壁は有る。

即ちリディアとクレア……そしてカトリの様な"英雄"達であり、性能はゲーム内の廃人達を優に上回る程。

それ故にアヤトは甘い汁を吸おうとしている為、徹夜によるポータルのメモなど普通に朝飯前であった。

しかしゲームと違い数分で済むメモの筈が十数時間を要したが、彼は遅刻して悪かったとしか思ってない。

よってカトリの心配をアッサリと流すと、開けた場所で歩きを止め……当たり前の様に魔法を展開させる。


「ワープ・ポータル」

「…………」


≪シュイイイイィィィィンッ……≫


「ささッ、消える前に入って入って」

「…………」

「んっ? どうしたんだい? カトリ」

「あ、あの……えっと、アヤト様?」

「うん?」

「恥ずかしい御願いなんやけど手ェ握って、一緒に入って貰っても構いませんか?」

「!? 別に良いけど?」

「ほんなら失礼しますッ」


≪――――ギュッ≫


此処でカトリは彼に"まさか"の御願いをするが、コレは何となく先にポータルに入るのが不安だったから。

実を言うと"ワープ・ポータル"は一定時間が経過or術者が入る事で消えるのだが、悪用する方法が有る。

つまりカトリが入った後にアヤトが入らなければ、カトリをGH古城に置き去りにする事が出来るのだ!!

……とは言え市販アイテムの"蝶の羽"を使えば街に戻る事が可能だが裏切られると相当ショックは大きい。

当然アヤトに置き去りにする気は皆無だが、カトリは"それ"が怖かった様で手を繋ぐ事で回避したかった。

このカトリ・ケイロン。何気に冒険者ギルドを頼るのは王都での最後の手段で、色々と挫折が有った模様。

その為 信用できると思い込んでいるアヤトで有っても、再び離れてしまうのが非常に怖かったのである。

対してアヤトは"手を繋げば同時に転送できる"と言う"この世界の仕様"を斬新に感じつつ足を踏み出した。


「(やっぱ俺って信用 無かったのかな~?)」

「(コレで安心して入れるわ……でも自分が情けない限りやで……)」


――――ウィザードの卵と胡散臭いプリースト。互いに地味な"擦れ違い"をしながら。




……




…………




……数分後。


「此処がグラストヘイム騎士団……」

「流石に他のダンジョンとはワケが違うって感じかな?」

「はい。雰囲気だけで飲まれてしまいそうですわ……」

「違い無いね」

「そ、それではアヤト様?」

「うん。俺が先行するからカトリはゆっくり後ろを付いて来てくれ」

「了解です」

「指示は都度 俺が出すから言われた通りにしてね?」

「分かりました」


アヤトの言う通り転送先は"GH古城"の騎士団エリアの入り口だった様で有り、改めて驚くのも束の間。

彼より直ぐ様"フル支援"を受けると早速 建物の中に足を踏み込んだアヤトの背中を慌てて追い今に至る。

そんな内部は常人ならば失禁しそうな程の威圧感が常に充満しているが、本当に2人ダケで来てしまった!

故に今更ながら不安になるカトリであったが、元より赴く事を決めていたし此処はアヤト信じるしか無い。

そう自分に言い聞かせスタスタと臆する事無く進んでいくアヤトに神経を集中させつつ付いて行くと……


「むっ? 早速お出ましか」

「あ、あれは――――!?」


≪ガシャガシャガシャガシャ、ガシャンッ!!≫


「レイドリックだな」

「来ますよ!? ウチはどうすれば良いんですッ?」

「昨日言った通り、単体はファイアーボルトの詠唱を頼む」

「は、はい!」


一体の"レイドリック"が此方に気付いた様で、重量級モンスターながらも俊敏な動きで距離を詰めて来る。

レイドリックとは騎士団では一般的な魔物だが……臆する事が無い上に何気に素早い両手剣持ちの全身鎧。

それダケで一般人など何も出来ずに真っ二つにされるのは間違いなく、二次職でも一人では苦戦する相手。

故にレイドリックの勢いに引き気味のカトリで有ったが、アヤトは相変わらず冷静で盾を構えて迎え撃つ。


『……!!』

「おっと」


≪――――ガキイイィィンッ!!≫


『!!!!』

「遅いなッ」


≪――――ブゥンッ! ブウウゥゥン!!≫


「(す、凄いッ! 正直 半信半疑やったけど、ホンマに相手しとる……!!)」

「(ふ~む。ファイアーボルトLv10の詠唱速度は、普通ってトコかな?)」



アヤトは接近して来たレイドリックの、2m近い巨体から繰り出される斬撃を先ず容易く防御してしまう。

そして今度は回避行動に移り……再び驚愕するカトリの反面、彼も彼で自分が"戦える事"に安心していた。

ちなみに反撃をしていないのは、撃破は可能だが能率が悪いので今回はカトリの火力に頼る事にした為だ。

よって現在のアヤトは"片手杖"を持っており、攻撃を捨て防御・回避・そして"支援"に徹そうとしている。

さて置き。此処で重要なのはカトリの能力であり、魔力や詠唱によって狩り方にも大きな違いが出てくる。

最悪 カトリが弱かったら必要最低限のフォローを任せて気合で"深淵の騎士"を倒す予定であったが……?


「(詠唱完了や)ファイアーボルトッ!!」

『!?!?』


≪――――ガガガガガガ……ッ!!!!≫


「(レイドリックが一撃!? しかもボルトが"6発"しか当たって無いのにだとォ!?)」

「ふぅ……(流石はアヤト様や! 王宮騎士でも苦戦するレイドリックの攻撃を捌けるなんて)」

「カトリ」

「はい?」

「次にレイドリックが現れたら3本のボルト(Lv3)を飛ばすダケで構わないからね?」

「へっ? あァ……"レックス・エーテルナ"を掛けるんですね?」

「そう言う事」

「ホンマ凄いです。普通そんな余裕を出すなんて無茶 思いますけどアヤト様なら出来そうな気しますわ」

「俺にとっては君の魔力にも驚きだけどねェ」

「あはは。ウチはそれダケが取り柄ですから」


≪――――ギリッ≫


「……っと新手が来たみたいだな」

「れ、レイドリックアーチャ!?」

『…………』


≪――――ヒュッ≫


「ニューマ!!」(遠距離攻撃無効の設置魔法)

「……あれっ?」

「カトリッ! アイツはボルトを2本で試すぞ!?」

「わ、分かりました!」

「レックス・エーテルナ!!」(対象への次の攻撃のダメージ2倍)

「(ウチは今 慌てて何も出来んかったのに……ああも動けるなんて本当に――――)」

「(本当に魔力は親譲りだったんだな。こりゃ~凄い効率が期待できそうだぜ!!)」

「(――――頼りになる人やったんや!!)ファイアーボルトッ!」


何と彼女の"ファイアーボルト"の7発目を受ける前にレイドリックが沈んだので相当な魔力が有るらしい。

つまりレックス・エーテルナを掛ければ3本のボルトで倒せると言う事であり、極めて効率が良くなる。

それにより、相当な士気向上を受けたアヤトは"レイドリックアーチャー"はどうかと試してみたのだが……

レイドリックよりもタフでは無いアーチャーは4発分のボルトで沈み、カトリのチートっぷりを実感した。




……




…………




……30分後。


「騎士団の2階に到着か~」

「此処に"深淵の騎士"が居るんやな……」

「ともかく慎重に進んで行こう」

「アヤト様の指示に従いますわ」


幾ら火力が高くとも場所が場所な為に2人は慎重に歩みを進め、主に単体のみを順当に撃破していった。

その際 背後からレイドリックが出現する事も有ったが、全てアヤトがタゲを取っていたのは余談として。

やがて階段が見えて来たので、其処を上り切った事で目的地のGH騎士団2階に辿り着いたと断定できる。

ちなみに"この時点"でカトリの信頼度は更に上がっており、今や言われた指示を疑う事すらしない程だ。

対してアヤトもカトリの次第点の詠唱速度と途轍もない魔力の高さにテンションが鰻登りになっている。


「……んっ?」

「!? な、なんやアレ? 物凄い数が屯(たむろ)してはりますね……」

「ざっとレイドリックが10、カーリッツバーグが5ってトコかな?」

「ついでにアーチャーも2・3体おるみたいです」

「"深淵の騎士"は居ないみたいだなァ」

「不幸中の幸いってトコですね……見つかる前に離れた方が……」

「それじゃ~カトリッ! ストーム・ガストの詠唱を頼むよ!?」

「えっ? はい。分かりました――――って、アヤト様ああぁぁッ!!!?」


≪――――だだだだだっ!!≫


『!?!?』

『……!!』

「気付きやがったな!? さあ……追いかけっこ(列車)の始まりだ!!」


≪ガシャガシャガシャガシャ、ガシャンッ!!≫


「(何考えとるんや!? こんな状況で範囲魔法の詠唱なんて、出来る筈が無いやんか……!!)」

「サフラギウム!!」(変動詠唱時間の短縮)

「……っ!?」

「なにしてるんだカトリ!? 早く詠唱してくれッ!」

「は、はい!(……でも何もせんかったら轢き殺されるダケや……やったる!!)」


何とアヤトは20体近い魔物達の中に走って行き、此方に連れて来ると言う信じられない事をした!!

それにカトリが呆然としていると、彼は追って来るレイドリックの攻撃を避けながら此方に支援をする。

故に彼女は慌てて詠唱に移ったとは言え……あの数は常識に考えると、どうやっても一人では捌けない。

しかしアヤトは違い、時には"ニューマ"でアーチャーの矢を遣り過ごし、時には盾で防御してしまい……

更に足の遅いアンデットの"カーリッツバーグ"をも距離を離し過ぎない様に釣る事で一箇所に纏めている。

"その場所"とはカトリが範囲魔法を設置しようとしている"中心"であり、現在進行形で剣撃を回避中だ。


「おっと!! 危ねッ!? ……ちぃッ!」

『……ッ!』


≪――――ガコオオォォンッ!!!!≫


「あ、アヤト様!?」

「(流石に避け続けるのはキツいな)セイフティ・ウォール!!」

「(もう少しで詠唱は終わる……でも良ェんか!? このまま撃ったら巻き込んでまうッ!)」

「まだか? カトリッ! そろそろ限界なんだが――――」


此処で今更だがゲームとは違う仕様が存在し、大魔法は味方を敵 諸共巻き込んでしまうと言うのが常識。

よってカトリは詠唱してはみたモノの、直前になって最も重要な事に気付くが、彼も当然 理解している。

つまり相応の対策を考えているらしく諦めずに敵の攻撃を捌いているので、カトリはヤケクソ気味に叫ぶ!


「えぇい、ままよ~ッ!」

「テレポート!!」


≪――――パッ!≫


『!?!?』

「ストォォーム・ガストォォッ!!!!」(指定した地点を中心に広範囲にわたって吹雪を巻き起こす)


≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫


ストーム・ガスト。これは水属性の範囲魔法であり、3ヒットした後は相手を凍らせる特性を持っている。

だが魔力の高さも有り、レイドリック(+アーチャー)は勿論カーリッツバーグも3発の時点で沈んでいた。

本来であれば発動の時間は暫く続くので、凍ったら即割る事で更に3ヒットさせダメージの底上げを狙う。

しかし必要が無かった以前に、味方にも範囲魔法が当たると言う仕様から狩人以外には難しい条件である。

つまりカトリ様々と言う訳であり、テレポにより彼女の背後に現れたアヤトは抜群の効率に歓喜していた。


「見事に片付いてるな」

「こ、これ……ウチが殺ったんか?」

「大正解」

「そうなんか~、コレだけの数を……ってアヤト様!!」

「うん?」

「何て無茶な事をされるんですか!? 万が一敵の攻撃が当たってたら、どうするトコだったんです!?」

「そんな事 言われても当たらなければ、どうと言う事は無いさ」

「そ、ソレはそうなんですけど……2度目はゴメンですからね? 正直寿命が縮みましたわ」

「あははは、悪い悪い。一度やってみたかったんだよ」

「でも……礼は言っときますわ」

「何でだい?」

「こうも爽快だった瞬間は、生まれて初めてかもしれません」

「それならカトリには"素質"が有るかもねェ」

「素質? ま、まァ……"一流"の聖職者様に褒められて悪い気はしませんわ」

「(列車による大量の撃破のって意味だけどね)」

「ともかく深淵の騎士を探しましょう。爽快よりも今は敵を討って"スッキリ"したいんです」

「了解~」

「(コレならアヤト様が居れば楽勝やな……ウチの火力も十分みたいやし、絶対に殺したる!!)」


大魔法が消えた頃には、レイドリック(+アーチャー)の残骸とカーリッツバーグの骨だけが残っていた。

コレにより騎士団2階の魔物の大半が撃破された事になったのだが、非常にリスクの高い一瞬と言える。

アヤトにとっても、思い返せば一つミスしていれば重症は必至だった為 今度は手堅く行く事にした模様。

しかしながら。今の快進撃はカトリの自信を飛躍的に高めてしまった様で、危機感が大きく衰えていた。




……




…………




……更に30分後。


「レックス・エーテルナ」

「ファイアーボルト!!」


≪ボヒュヒュヒュ――――ガガガッ!!!!≫


「(超効率)」

『!?!?』


≪――――ガシャンッ≫


「コレで何体目のレイドリックやろか?」

「なかなか現れないなァ」

「まぁ、邪魔するなら蹴散らすダケですわ」

「違いない」


アレからは大きな沸きも無く、2人は順調に2階を攻略して行き幾つかのエルニウム結晶を拾っていた。

エルニウムとは防具の精錬で必要不可欠な素材……と言うのはさて置き。既に間違いなく黒字と言える。

しかもカトリはドロップは全てアヤトに譲ると言っているので、表には出さないが内心歓喜なアヤト君。


「……んっ? 何やあのモンスターは」

「あ、あいつは――――!!」

「(射程範囲内やな)こっちには気付いてへんし……殺ったるで!!」

「ちょっと待て、カトリ!!」

『……!?』


そんな攻略中……カトリが初めて見るモンスターが登場! 巨大なカードの姿をした"ジョーカー"である。

ゲームと違って極めて数が少ない事からアヤトより強敵と話は聞いていたが、危険性を認識できなかった。

その為かジョーカーが背を向けていたのも有り、アヤトの指示を受ける前にカトリが詠唱を開始すると……


≪――――ゴォッ!!!!≫


「なっ!?(は、速いッ!?)」

「ちぃぃっ!!(詠唱反応か)」


ジョーカーは唐突に体(カード)内で"背中を正面に変える"と一直線にカトリに向かって突撃して来る!!

このカトリの勝手な行動は、攻略当初のカトリからは想像出来なかった事でアヤトは内心で舌打ちする。

自分も自分でカトリの火力による効率に酔いしれており、ジョーカーとの遭遇に対する警戒を怠っていた。

だが遣らかした事は仕方ないので、彼は驚異的な移動速度を持つジョーカーの進行方向をギリギリで塞ぐ。

ソレと同時に既に持ち替えていた"命中率を重視させたチェイン"を振るってタゲを取ろうと試みたが……


≪――――ブゥンッ!!≫


「嘘っ!?(念属性!?)」

『……!!』

「えっ……」


≪――――バコオオオオォォォォッ!!!!≫


GH騎士団での強敵ジョーカー。このモンスターは驚異的な移動速度を持つ上に魔法と打撃にも優れる。

更に回避率も異常に高く、アヤトが普通の武器で攻撃しても攻撃を殆ど当てる事が出来ないと言う始末。

故に命中率を上げる必須武器を予め用意して置いたのだが、ジョーカーには更なる特性が存在していた。

それはバリアチェンジ。属性を定期的に変化させる事が可能であり、現在は物理無効の相性だったのだ。

よって当たっていた筈のアヤトの攻撃は空を切り、ジョーカーの攻撃が無防備のカトリに直撃してしまう!

そのジョーカの一撃は超加速の遠心力も加わり……ゲームよりも遥かに重そうな破壊力を持っていた模様。


「カトリッ!?」

「(そ、そんな……ウチ……死ぬんか?)」


≪――――ドドォッ!!!!≫


対して まるでサッカーボールの様に吹き飛ばされたカトリは、意識が飛ぶ直前。瞬間的に死を覚悟した。

そして意識を手放すと同時に、およそ十数メートル後方の地点の地面に落ちると抗う事無く回廊を転がる。

ソレが止まったと思うと彼女はジョーカに右腕を向けた状態で仰向けに倒れており、血の池を広げていた。

言うまでも無く今の一撃は"致命傷"だった様であり、幾ら魔力が高くても所詮 体力は人間の女性 相応だ。


「……なんてこった……」

『……ッ!!』

「うおっ!?」


≪――――ガコオオォォンッ!!!!≫


『!?!?』

「効くかよ、そんなもん」

『…………』

「魔法も無駄だ。闇属性の服 着てますが何か?」


しかしながらだ。いくら強敵ジョーカーと言えど、アヤトがタイマンで負けるような相手では無かった。

そもそもカトリを置いて逃げる選択肢すらハナから無く……先程と同等クラスの打撃を容易く防御する。

対してジョーカーは、あの魔術師とは相場が違うと瞬時に判断し闇魔法を放つが当然対策 済みであった。

されど念属性と言う特性が有り、現に彼の攻撃が無効だった事から強気に攻撃を繰り出して来るのだが……


『……!!』

「セイフティ・ウォール」

『!?!?』

「アスペルシオ」(3分の間 武器に聖属性付与)


命中重視の武器に変えても念属性には意味が無く、属性武器を持っても逆に攻撃を当てる事が出来ない。

ならばソレを両立させてしまえば万事解決であり……コレは殴りプリーストだけが可能な特権であった。

よってアヤトは火力が微妙とは言え、ジョーカの攻撃を捌きつつ確実に相手の装甲を削っていっている

反面 狡猾とは言え"逃げる"と言う選択肢が無いジョーカーは、もはやアヤトに対して何も出来なかった。


『…………』

「時間が無いんだッ! くたばりやがれ!!」




……




…………




……1時間後。


「うぅッ?」

「…………」

「あれ? 此処は……って、アヤト様?」

「目が覚めたみたいだな」

「あ、あぁ~ッ!? もしかしてウチは――――」

「思い出したか? カトリはジョーカーの攻撃で意識を失ってたんだ」

「……と言う事は……アヤト様がウチを蘇生してくれたんですか?」

「うん。生憎"リザレクション"には大きな精神力と詠唱時間が要るからしんどかったけどねェ」

「り、リザレクションを!? こんな危険な場所で……」


――――カトリの言う様にゲームと比べると、蘇生魔法の詠唱は相当な余裕が無ければ出来ない仕様だ。


「ははは。今回ばかりは流石に骨が折れたよ」

「ホンマ凄いですわ……どうやってジョーカーやレイドリックを遣り過ごして……」

「遣り過ごす?」

「そうですわ。そもそも火力はウチしか居らへんかったのに……えッ……」

「どうした? カトリ~?」

「な、なんやこれ……何でアチコチにレイドリックやカーリッツバーグの残骸が有るんですか?」

「そりゃ俺が倒したからに決まってるだろ?」

「???? アヤト様が?」

「うん」

「沢山死んどりますけど、全部一人で?」

「周囲の安全の確保は最重要事項だろ?」

「……なッ……んな……」

「今度は何だい?」

「んなアホなああああぁぁぁぁ~~ーーッ!!!!」

「うわっ!? びっくりした」


目を覚ましたカトリはアヤトに蘇生して貰った事を知ったのは良いのだが、問題なのは"その方法"である。

攻撃職で無い彼では自分を一撃で倒したジョーカーを、此処から振り切る事ダケでも大変だったのは確実。

なのに術者によっては命を削るとまで言われている"リザレクション"を掛けてまで自分を蘇生してくれた。

この魔法は心臓が動いている事が絶対条件だが……詠唱時間がハンパでは無く当然その間は無防備である。

……とは言えセイフティ・ウォールやキリエ・エレイソンを駆使すれば比較的に安全では有るのだが……

其処まで頭の回っていないカトリは気付かない以前に、更なる衝撃の事実にまたもや大きな声で驚いた!!

何と周囲を見渡すと彼女の周囲にはジョーカーは勿論 レイドリックを中心とした残骸が広がっているのだ。

つまりカトリを蘇生する為に此処に留まってくれていたと言う事であり、命を掛けて自分を守ってくれた。

実を言うと詠唱を邪魔されるのが怖かった彼が一匹づつ釣り殴り倒したダケなのだが、彼女の認識は違う。

自分の魂すらも奪おうと群がる魔物達をたった一人で抑えてくれたと推測し、まさに彼はヒーローである。


「(なんや……最初からアヤト様は一人で騎士団で戦える実力が有ったんやな……それをウチは……)」


≪(コレならアヤト様が居れば楽勝やな……ウチの火力も十分みたいやし、絶対に殺したる!!)≫


「(自分の実力と勘違いして調子に乗った挙句……自業自得やし生きてたのが不思議な位やで……)」

「ところでカトリ」

「は、はい?」

「カラダの方は大丈夫かい? 蘇生はともかく回復は即効でしたけど、結構血が流れたからさ」

「御陰様で何とも無いですわ。何時でも行けます」

「それは良かった。じゃあ改めて"深淵の騎士"を探そう」

「分かりました……そ、その前にですけど……」

「何だい?」

「今の時点でアヤト様には一生分の借りができましたわ……ホンマ何と礼を言ったら良いか……」

「大袈裟 過ぎるってば。それ以前に礼は"深淵の騎士"を撃破してからにしてね?」

「す、すみません」

「(……嗚呼……心臓が止まってりゃアウトだったし、瀕死にさせちまうとかマジで無いわ!)」

「(もう……不思議と"深淵の騎士"には負ける気がせんな……だって、アヤト様が居るんやから……)」


――――さて置き。そんな2人が目出度く深淵の騎士を撃破できるのに、そう時間は掛からなかった。


≪パカラッ、パカラッ、パカラッ……≫


「!? 居たか……」

「深淵の騎士ッ!?」

「まだ近付くなよ? セイフティ・ウォール」

「はい。エナジー・コート」(精神力を消費して物理攻撃ダメージを軽減)

「サフラギウム!! では詠唱開始だ」

「了解や」

『……!?』

「ほらほらッ! こっちだ!!」

「ストーム・ガストッ!!」


≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫


『!?!?』

「他は沈んだが流石に"深淵の騎士"は落ちないか」

「でも凍っとりますね」

「(ボス属性じゃないしな)まァ呆気無いけどトドメと行こう。レックス・エーテルナ」

「……ッ……(この余裕……きっとアヤト様にとっては"深淵の騎士"すら雑魚なんやな……)」

「君の魔力なら倒せる筈さ。例の魔法で冥土に送ってやると良い」

「(でも関係あらへん……この人が居らへんかったら、絶対に仇を討てんかったんやから)」

「(ダメだカトリ無双でもテンション上がんねェ……もう上級の狩場はコリゴリだよ……)」

「コイツでトドメや!! ユピテル・サンダァァーーッ!!!!」(電気球体を敵に向けて発射)


≪――――カカカカカカカカカカカカッ!!!!≫(12Hit)


『……ッ……』


≪――――ドオオオオォォォォンッ……≫


「グッジョブ」

「や、やった……やった!! 遂に殺ったでェ!? 兄さああぁぁん!!」


――――この後リディアより再び王宮騎士団が派遣された際。当然"深淵の騎士"の姿は何処にも無かった。




……




…………




……1年後。


「どうした? カトリ。何故 未だに浮かない顔をしている?」

「やっぱり話してはくれないのですか?」

「す、すみませんクレア様・リディア様。コレばかりは言えんのですわ」

「(……兄の死は既に乗り越えているとの事だが……)」

「(以前のカトリ以上に修行に熱心らしい分、気になりますね)」

「(……嗚呼……未だに気になるなんて、やっぱ諦め切れとらんのかなあ?)」


アレから"深淵の騎士"を倒して帰還したアヤトとカトリは、直ぐに解散してしまい何時の間にか今に至る。

理由としてはアヤトがカトリを瀕死に追い込んでしまった事で相当な罪悪感を感じてしまった事が大きい。

何せ自分が調子に乗っていた事により判断を誤り、カトリにジョーカーによる直接攻撃を許したのだから。

……とは言えカトリは何とも思っていない上に感謝しているが、実を言うと"回避する方法"は多々有った。

最も無難な手段としては事前のキリエ・エレイソンか直前のセイフティ・ウォールを張れば良かったのだ。

しかしアヤトは鈍器でのタゲ取りを選択してしまい当たり所が悪ければ彼女が死んだ可能性も十分に有る。

その不甲斐無さにより彼はカトリから逃げる様に別れ、低級狩場で鬱憤を晴らすと言う逃避に出たりした。

ソレにより彼女はアヤトと再会する事も無く元の生活に戻る羽目となると、改めて魔法による修行を開始。

結果 努力が猛スピードで実って、極めて珍しいウィザードの"王立騎士団員"と成ったワケなのだが……

ケイロン家に戻った際は真っ先に両親の号泣で迎えられてから、どうも以前と違って覇気が感じられない。

彼女を知る者達は、その理由として真っ先に兄が戦死した事から成るモノだと思う事で納得したのだが、
当然 沈んでいるのには別の原因が有り……カトリの母親のみ何となく大まかな彼女の心境を察せた模様。

……とは言えアヤトの存在は微塵にも気付かないだろうが……カトリは頑なに口を閉ざして修行を続けた。

苦し紛れの"俺の事は内緒にしといて"と言う頼みを忠実に守り、再会の暁には肩を並べられる事を夢見て。


「……むぅ……」

「困りましたね」

「リディア様。口に出すのは如何なモノかと」

「あら? わたくしとした事が」

「(こ、この空気はアカんな……)ところで今から行く店の料理は、そんなに美味しいんですか?」

「うむ。中々だぞ? 特に私は"ヤキソバ"と言うモノが気に入っている」

「それに其処のマスターが、とても素敵な方なのですよ?」

「へぇ~ッ……リディア様から"そんな言葉"が聞けるとは思いませんでしたわ」

「もうカトリ。わたくしの事を何だと思っているんですか?」

「フッ。何にせよ良い気分転換には成るだろう」

「ワザワザすみません、ウチなんかの為に……」


そんな王立騎士団員のカトリ・ケイロンは今現在。リディア王女&クレア団長と共に王都を歩いていた。

一見 綺麗どころが3人歩いている様にしか見えないが、プロンテラの絶対権力者とも言える面子である。

さて置き。事の始まりは王立騎士団に配属するも未だ元気の無いカトリをクレアが心配しリディアに報告。

結果"それでは一緒に食事に参りましょう"と言う鶴の一声で気乗りしないカトリを引っ張り込み今に至る。

……とは言えカトリにとっては悩みの解決には成らずとも、彼女達と食事を出来るのは名誉な事だった。


「気にすることは無い。我々は仲間なのだからな」

「今回はカトリの事……色々と聞かせてください」

「わ、分かりました」

「さて。ようやく着いた様だな」

「今は空(す)いている様ですね」

「(あれェ? こんな"小さな店"で本当に合っとるんかッ?)」


――――そんなコンナで目的地に到着したのだが、奥から現れたのは意外な人物であった。


「いらっしゃい。何名様ですか?」

「!?!?」

「今回は3人だ。空いているか?」

「それなら此方のテーブル席にどうぞ」

「もう……"アヤト"様! わたくし達に そんな他人行儀な歓迎は要りませんわッ」

「それはさ? ……ホラ……周囲の視線が痛いからと言うか……」

「わたくしは構いませんのに」

「俺が構うの!!」

「リディア様、ともかく席へ参りましょう」

「……ッ……」


≪――――ドクンッ≫


「仕方有りませんわね」

「3名様 ごあんな~い」

「はーい!!」←エリスの声

「何をしている? カトリ。行くぞ?」

「……ぅあッ……ひぐ……」


≪――――じわっ≫


「ど、どうしました? カトリ」

「あれっ?(何処かで見た顔が……)」

「……ゃと……様……!!」

「……ってかリディア? 今この娘の事を"カトリ"って呼ば――――」




「アヤト様ああああぁぁぁぁ~~ーーッ!!!!」

「どわっ!?」


≪――――どっ≫




何とウェイターっぽい姿で現れた男は、カトリが一年間 一時も忘れる事が出来なかった聖職者だった!!

それにより彼を完全に認識した直後。彼女は泣きながら彼の名を叫びつつ抱き付き、胸の中に顔を埋める。

ソレと同時にアヤトの"ぬくもり"を感じた瞬間……カトリは彼に対する想い(悩み)が吹き飛んだ気がした。




「(そうだったんや……やっぱりウチは、アヤト様が"好き"やったんやな……)」

「も、もしかして君は……カトリッ? あの時のカトリ・ケイロンなのか!?」




……こうしてカトリ・ケイロンは一年前の本来の明るさを取り戻すに至り、以前の様に"多弁"となった。

その為 誰もが今迄の悩みが"恋をしていた"故の暗さと考え、ソレが実った事での今の彼女だと推理する。

だが実際に聞いてみると意外にも"悩み? それは中々恋が実らん事かなァ?"と笑顔で返って来たらしい。




「(あ、新たなライバル……?)」




―――― 一方。厨房から様子を伺ったエリスは、アヤトに抱き付いて泣いているカトリ見て頭痛を感じ。




「あらまあ」

「ほお……」




――――更に"その様子"を引き攣った笑顔で見守るリディア&クレアを見て、店の安否を気遣っていた。








■第三章・完■








■次回:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:伊豆■








■あとがき■
騎士団編終了! これでハンター・プリ・ウィズと出たので順不同でナイト→BSorアサと続く予定です。
クレア・ジュデックスが騎士ポジと思われた方も居るでしょうが、騎士役は別のキャラを考えています。
ちなみに"この世界"の仕様ではHFを食らいスタンに成ったクレアや、背後から矢を受けた鳥のように、
無防備な状態で敵の攻撃を食らえば大抵即死します。逆にアヤトの様に防御すれば被ダメは2桁だったり。


■追記■
06月05日誤字修正&リディアの口調が変だったので直しました。PV数が意外に高くて嬉しいです。


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