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No.24056の一覧
[0] 【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】[Shinji](2010/11/06 21:29)
[1] ■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■[Shinji](2010/11/08 03:20)
[2] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■[Shinji](2010/11/10 22:56)
[3] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/04/11 13:30)
[4] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/05 12:03)
[5] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/06/11 09:59)
[6] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/18 02:59)
[7] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■[Shinji](2011/10/22 04:01)
[8] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■[Shinji](2012/04/16 20:41)
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[24056] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/11 13:30
――――ミッドガルド大陸の頂点とされる50代目の女王、リディア・ルーン・ミッドガッツ。


即位して間もない18歳の少女(?)であったが、まさかの出現となった"古の魔"の撃破に成功した。

しかもダークロードの討伐により著しく弱体化した王立騎士団での撃破である事から、評価も上々である。

またリディアと同様 王立騎士団長に任命されたクレア・ジュデックスも多くの武勲と支持を得れていた。

よって、ひとまずミッドガルド大陸には平穏が訪れリディアとクレアは互いに職務に追われる事となる。


――――"ドッペルゲンガー"の撃破から3ヵ月後。プロンテラ城内の"謁見の間"にて。


「……それでは貴方には"グラストヘイム古城"の哨戒を御任せ致します」

「だが"ダークロード"が倒れたとは言え油断するなよ? 極めて危険な場所と言う事は変わらんからな」

「ははッ! 御任せくださいリディア様・クレア様。
 "ケイロン家"の誇りの掛けて、必ずや使命を成し遂げて御覧に入れます!!」


さて今現在 王座に座るリディア&横に控えるクレアの元で、十数人の騎士達が跪いて指示を受けていた。

何故なら王女リディアの職務の一環において、王都プロンテラより定期的に各地に軍を赴かせる事……

つまり各都市と連携してでの魔物の間引きが必要であり、これは毎月 欠かさず行っている最優先事項だ。

だが派遣されるのはリディアの直属であるエリート中のエリートと言える"王立騎士団"では無く、
ひとつ下のランクである"王宮騎士団"なのだが、指名を受けた騎士達には名誉な事には変わりない。

何せ絶対数が多い"王宮騎士"の中で直々にリディアがクレアのアドバイスも踏まえて選出するのだから。

そんな中で最も難易度が高いとされる"グラストヘイム古城"の哨戒を任された王宮騎士小隊長……

王立騎士団員に成るのも近いと噂の、最も前で跪く"ケイロン家"の騎士は勇ましくリディアに応えた。

"古の魔"に備える為。また敬愛するルーン・ミッドガッツ49世の娘で有る彼女の力に少しでも成る為。

今の段階ではリディアに近づく事さえ許されないが、王立騎士団員に加われば僅かとは言え可能になる。

故に名家とも言える"ケイロン"の王宮騎士小隊長は仲間達と共に"グラストヘイム古城"に赴いたが……


「隊長ッ! "深淵の騎士"……沈黙した様です!!」

「何とか倒したか……十分想定内では有ったが、やはり苦戦したな」

「はい。隊長が居て下さらなければどうなっていたか……」

「奴の攻撃力は尋常では無いからな。いくら私でも皆の的確な支援が無ければ倒す事は出来なかった」


――――グラストヘイム古城。


王都プロンテラの西に位置する魔法の都市ゲフェンより、更に西に存在する魔物達の巣食う巨大な城。

かつて人類がゲフェンを制圧した際、グラストヘイムを支配する"ダークロード"との大戦争が起こった。

その人間と"グラストヘイム騎士団"との戦いは何年も続き、長年を経て遂にダークロードの敗北で終結。

だが結局 城の制圧はダークロードの怨念により至らず、今も古城からはモンスター達が沸き続けている。

そんな中で最も脅威とされる魔物が"深淵の騎士"であり、ダークロードの意思を最も継いでいる存在だ。

巨大な馬に跨り大きな槍を持ち、その武器から繰り出される一撃は並みの騎士を一撃で死に至らしめる。

また大型のアンデット騎士で有る"カーリッツバーグ"を常に何体も従え、朽ちた鎧に魂が入った魔物……

"レイドリック"をも操る能力を持っており、それらの魔物一体でさえ並みの冒険者では太刀打ち出来ない。

流石に"古の魔"に次ぐクラスの魔物"ダークイリュージョン"を何体も従えるダークロードよりはマシだが、
何より主の怨念を全うすべく"深淵の騎士"は魔物達を従えて街を襲うと言う特性を持っているのである!

よってソレが"GH古城"への遠征が重要視される理由でもあり、任せて頂けると言うのは名誉な事なのだ。

とは言え"深淵の騎士"は"古の魔"と比べれば弱く十分 王宮騎士団でも撃破できる存在なのが救いだが……


「ともかく"深淵の騎士"は倒せましたし、今回は十分に良い戦果を挙げられました」

「うむ。コレで遂に私も王立騎士に成れる日が来ると言うもの……!!」

「あはははッ。隊長はリディア様に御執心ですからね~」

「!? そ、そうでは無くてだな……先日の戦いで人員不足となった王立騎士団を支える為に……」


――――"古の魔"で無ければ"そうでない相応"の恐ろしさが"深淵の騎士"の様な魔物には存在する。


≪パカラッ、パカラッ、パカラッ……≫


≪ガシャガシャガシャガシャ、ガシャンッ!!≫


「なっ!? た、隊長! アレを見て下さいッ!」

「ば、馬鹿な……"もう一体の深淵の騎士"……だと?」

「とにかく迎撃しませんとッ! 各員――――!!」

「……ッ……いや、疲労し切った今の状況でマトモに戦えば……多くの犠牲者が出る事は避けられん」

「だったら どうすれば良いって言うんです!?」

「私が囮になろう。皆は此処から脱出してくれ! 皆で奴と刺し違えるよりは安いモノだ」

「そ、そんな!? 正気なんですかッ? 隊長!!」

「リディア様……私が御仕え出来るのは、どうやら此処までの様です(……そして)」

「隊長!? 隊長おおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」

「(御先祖に負けぬ偉大な魔術師になるのだぞ? ……カトリ……)」


非常に強力では有るが必ず一体しか出現せず、倒せば当分の間 出現しなくなる"古の魔"とは違い……

"一般の魔物"と該当されるモンスターは"深淵の騎士"程の存在でも2体以上 出現する事も有るのである。

よって前例の無かった"深淵の騎士"との連戦を強いられた"GH古城"の王宮騎士小隊は止むを得ず撤退。

2体目の撃破を諦め……将来を有望視されていた"ケイロン家"の長男を犠牲に残りの隊員達は生還した。


「はァ~!? に、兄さんが死んだって……そんなん嘘やろ!?」


――――彼の両親は勿論の事。妹であり"ケイロン家"の長女でもある、魔術師の女性を残して。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■








――――王都プロンテラの冒険者ギルドにて。


「なんでやねんっ!?」


≪――――バアアァァンッ!!!!≫


「ちょっと落ち着いて下さいって」


平日であれ休日であれ、大陸 最大級の施設だと言う事も有ってか多くの人々で賑わうプロンテラ支部。

主に依頼を受ける・納品しに来る冒険者 及び依頼をする者。そしてカプラサービス等 従業員が大多数。

だが冒険者達の寛ぎ&情報交換の場とも言える事から酒場と宿も兼用しており一般客の姿も確認できる。

そんな"何時ものギルド"な筈だったのだが、今日は問題が起きている様であり一人の女性が喚いている。


「コレが落ち着いて居られるかいなッ! ウチの依頼が聞けんとは どう言う事や!?」

「あのねェ御嬢さん。聞けない以前に無理なんですよ」


幸い大手ギルドと言う事も有り受付カウンターも多いので大事にはなっていないが、かなりの剣幕だ。

見た目は黒髪の短髪で緑の"とんがり帽子"を被り、毛皮のマントを羽織っている為"ウィザード"と分かる。

瞳も黒いので口調を考えれば"泉水の国アマツ"出身とも考えられるが、詳細は見た限りは不明である。

ちなみに"アマツ"とは簡単に言えば、東洋の国……江戸時代 辺りの文化を想像すれば良いのは さて置き。

ウィザードと言えば"魔"を司る一次職"マジシャン"の上位と言える職業であり、魔法のエキスパートだ。

魔法の都市ゲフェンでも無ければ お目に掛かれる機会は少ない上に、此処まで若い者も極めて珍しい。

だが冒険者ギルドに置けるマナーは弁えていない様であり、カウンターを強く叩きながら捲くし立てる。


「何でムリなんやねん!? ただウチと一緒に古城に行く冒険者を拵えてくれ言うとるダケやろ!?」

「それが無理なんですって。そんな場所に命張って迄 行く物好きなんて居やしませんよ」

「其処を何とかって言うとるんやッ! 報酬なら此処に……1000万ゼニー用意しとるんやで!?」

「それでも無理なモンは無理なんですよ……幾ら大金を積まれたからって引き受ける事は出来ません」

「ンなもん納得できんわ! アンタじゃ話にならん、責任者 呼んで来いッ! ウチが直接 話つけたる!!」

「だったらハッキリ言いますけどね……グラストヘイム関連の依頼は全て法律で禁止されてるんですよ」

「な、なん……やて……?」

「ギルド設立 直後から古城 関連の依頼は数多く有ったそうですが、成功率は当時1割を割っていました」

「!?!?」

「よって余りにも危険と言う事で、当時の冒険者ギルド・マスターとミッドガッツ王との相談の結果……
 全ての哨戒はプロンテラの騎士団が担うと言う事で今に至ってるんですよ(言わせんなよ恥ずかしい)」

「……ッ……」

「ですから、お客さんが無理に討伐なんかに行かなくても一月後にはまた、王宮騎士団が派遣されますよ。
 今のルーン・ミッドガッツ50世……リディア様は御熱心ですから、心配される事は有りませんって」

「(兄さんも素晴らしい方やって言うとったし……)そうなんやけど……そうなんやけどな……?」

「それに一千万ゼニーは確かに大金ですが、古城で戦える十分の面子を集めるにはソレでも足りません。
 どうしてもと言うなら"その辺の者"にでも頼んでみたら どうですか? 非公式ならお咎め無いですし」


このウィザードの名は"カトリ・ケイロン"19歳。先日 戦死した王宮騎士小隊長の男性の妹である。

かつて偉大であり大陸一の魔法使いとされた"カトリーヌ・ケイロン"に迫る魔力を持つと言われており、
黒髪は古くから栄える"ケイロン家"に嫁いだアマツ出身の母から遺伝子を強く受け継いだ為と見て良い。

しかしケイロン家は長く女児に恵まれず、男として生まれれば兄の様に騎士として英才教育をした事から、
両親は彼女の誕生を非常に喜び、偉大なる先祖を肖って"カトリ"と名付け魔法職としての道を歩ませた。

だがカトリは兄と共に騎士として戦う事に憧れる時も有ったが、数年前 魔法の才能が遂に開花し始める。

それに自然と気付けた彼女は、最近は兄離れも進んでおり将来を考え真面目に修行していたのだが……

まさかの兄の戦死を聞いて居ても立ってもおられなくなり、敵討ちを決意してケイロン邸を飛び出した!

同時に有りっ丈の(自己)資金を持ち出し、手持ちの宝石などをも全て売り払っての依頼だったのだが。

1000枚もの紙幣を見せても足りないどころか討伐自体"不可能"らしく、受付に言われて周囲を見る。

すると話を聞いていたと思われる野次馬(冒険者)達は苦笑しながらカトリに"お手上げ"のポーズを取った。

当然ながら殆どの冒険者には名誉や誇り等は無く、死なない程度に食い扶ちを探す者が大半なのである。

ソレは某 殴りプリーストも該当されるのは余談として。カトリは厳しい現実と言う物を突き付けられた。

故に彼女は正当な依頼は無理と悟った様で、先程の勢いは何処へやら肩を落として背を向けると呟いた。


「……ほな、邪魔したな」

「有難う御座いました~」


流石 王都プロンテラの冒険者ギルド員だけ有って、最後まで"冷静"な対応だったと評価できるだろう。

コレ以上 五月蝿ければ奥の傭兵が取り押さえた可能性も有るが、カトリは其処まで馬鹿では無い模様。

いきなり拒否された時は怒り心頭であったが、彼女も王宮→王立魔術師を目指す期待の新星なのだから。


「おい」

「ああ」


――――だがカトリは迂闊であった。冒険者ギルドに来るのは決して"まとも"な人間ダケでは無いのだ。




……




…………




……数分後。


「ふん……ハナから期待なんぞ してへんかったけど、どうすれば良ェんかなァ……」


冒険者ギルドを出たカトリは、トボトボと街中を歩きながら考える。どうすれば兄の仇を討てるかをだ。

報告によれば場所はグラストヘイム古城・魔物は"深淵の騎士"と言う事は分かっているので情報は十分。

だが途轍もなく強い魔物なので相当な人数を集める必要が有り当然 命の保障など微塵にも無いのは明白。

その上また一月経てばリディアは新たな王宮騎士団を派遣するだろうし、モタモタしていては倒される。

本来で有れば諦めて討伐隊に倒して貰うのが一番だが、生憎カトリは其処まで諦めの良い女では無かった。

持ち前の性格も有り何が何でも自分で仇を討ちたいと思っており、討伐隊に混ざるなど持っての他だった。


「ともかく絶対諦めへん……この金つこうて兄さんのカタキとったるんや……って」


故にカトリは今から魔術師ギルドや商人ギルドは勿論、暗殺者ギルドにでさえ行く気で兄の仇討ちを誓う。

確かに王都プロンテラの貴族から見れば一千万zは決して大金ではないが、庶民から言えば大金である。

つまり地方を巡れば必ず自分と共にグラストヘイム古城に赴いてくれる者達が見つかると信じていたが。


≪――――ゴソッ≫


「えっ? 無い……無い!? な、何でや!? 間違い無く此処に入れとったのに……!!」


大金を無駄に持って冒険者ギルドに行った上に注目を少なからず浴びていた事から予想外の事態が起こる。

何時の間にか金を掏(す)られていた様であり、カトリは街中の路上で大きく動揺し醜態を晒してしまう。

本来の彼女なら容易く気付けた筈なのだが……今はそれ程 兄の仇討ちに御執心だったのは間違いない。

だが資金が無くなれば只でさえ絶望的だった"可能性"が限りなくゼロになるのはカトリでも容易に分かる。


「くうっ!」


≪――――ダダダダッ!!!!≫


その為"怪しそうな者"を探すべく駆け出すのだが……最早 意味が無い事であり"そうする"しかなかった。

ともかく走らなければ前に進めそうに無かった為であり、やがてはソレすら疲労が溜まれば止まるだろう。

よって案の定 走りに走った彼女は、街の外れで体力が尽き両手を両膝に肩で息をして浅はかさを悔やむ。


「うぅっ……アホや……グスッ、ウチはホンマもんのアホや……! こんな時に何も出来んドコロか……」


その表情は涙目で有り……直ぐ汗と同時に別の水滴も地面を濡らす。コレが最近2回目の悔し涙である。

同時に頭に被っていた"とんがり帽子"も中腰になっていた事により、自然と地面に落ちようとしたのだが。

気付いていながらも抗わないカトリに対し、彼女に素早く近付いた人影が落下する帽子を掴んでしまった。


≪――――パシッ≫


「おっと」

「えっ?」


――――その人物とはビレタを被り黒い修道服に身を包んだ、自分と同様 黒髪の聖職者の男性であった。


「どうしたんだい? そんな所で」

「聖職者……さま?」

「ともかくコレを」

「あ、有難う御座います」


≪すぽっ≫


「ふ~む」

「……(み、みっともないトコ見られてしも~たな……)」

「それにしても」

「は、はい?」

「なかなか良い帽子みたいじゃないか」

「!?!?」

「ソレを被ってると、何となく"知識"が増す気がしないかい?」

「そ、そうそう……そうなんですわッ! 間違い有りません!」


自分を見下ろしている聖職者は落ち様としていた帽子を丁寧に手渡して来たので、彼女はソレを被り直す。

すると唐突に彼は自分 愛用の"とんがり帽子"を褒めてくれたので、思わずカトリは驚愕してしまった。

何故ならコレは兄から贈られた大事な品であり無駄に良く精錬してしまう程 思い入れが有った為である。

とは言え"この世界"の者達は"とんがり帽子"の仕様(INT+2、SP+150)を知らない為、理解してくれない。

彼女も効果は把握して居ないがコレを装備すれば妙に頭が冴えるので、未だに被り続けていると言う事を。

つまり他の連中は"兄の贈り物に良い年して執着するブラコン"としか思わない反面、目の前の男は違う。

瞬時にカトリ本人が感じている帽子の特性を理解したと推測でき、恐らく一流のプリーストなのだろう。

対して謎の聖職者はアヤトなのだが、彼は当然 仕様を理解しており精錬度も高いので言ったに過ぎない。

いわゆる社交礼状であり……彼はカトリの眼差しを受けつつ"本来の目的"を成すべく次の行動に移った。


≪――――ゴソッ≫


「ところでコレ、君のだろう?」

「えっ? あっ! それウチの金……!!」

「"偶然"だったんだけど――――」

「あああ有難う御座いますッ! 何て御礼いうたら良ェか……ホンマ有難う御座います!!」

「よ、喜んで貰えた様で良かったよ」

「(きっと取り返してくれたんやな……何て良ェ人なんや……!!)」


カトリは興奮を抑え切れずアヤトから引っ手繰る様にして札束を奪うと、何度も何度も頭を下げ礼を言う。

彼女は偶然 窃盗を受けた瞬間を見た事から、彼が犯人から資金を奪い返してくれたのだと思ったのだ。

だが実際にはカトリは盗まれておらず……アヤトが最初から尾行をしていた為2人の盗賊は諦めていた。

早くも聖職者が自分達の悪意に気付いてしまい、盗みを働けば彼に捕まって説教を受けると察したのだ。

その為"砂漠都市モロク"から王都に赴いた2人の盗賊は、真面目に依頼を受ける事にしたのはさて置き。

流石に1000枚もの紙幣を一度に盗む事は難しく、カトリは即ち札束を落としてしまったダケである。

対して札束の落下に尾行していたアヤト気付かない筈が無く、走り出したカトリを追い駆けて今に至った。

それはそれでカトリも盗まれると同じ位のマヌケを"しでかしている"が、知らない方が幸せとも言えよう。


「(はてさて……第一印象は良かったみたいだし、どう誘ってみるかな……)」

「(ひょっとして"この人"ならウチの悩みくらいは聞いてくれるかも知れへん……聖職者様やし……)」


では何故アヤトが彼女を尾行していたのかと言うと、偶然 彼女が古城に行きたいと言う話を聞いたから。

ギルドの酒場で食事をして寛いでいる中、突然 関西弁が聞こえて来た時は吹いてしまったのは さて置き。

ゲフェンのダンジョンに篭って約3ヶ月……レベルは上がったが結局DOPを倒したリディア達の様に、
レアを拾えなかった彼は多少資金が苦しくなったので、何か手持ちのアイテムで依頼品を納品できないか?

……と久し振りにギルドを訪れていたのだが、次第点の報酬を受け取る中 大儲けの話が飛び込んで来た!

"グラストヘイム古城"と言えばレアは勿論の事、経験値も魅力的で有るのは余りにも有名なのだから。

しかし死ねばアウトな現状では流石に一人で行く勇気は無かったが、一流の魔術師とのペアなら話は別。

頭装備&あの自信を見るに腕は立ちそうだったので、何とか臨時公平PTに誘えればと尾行したのだ。

だが"この世界の価値観"を考えれば容易に誘えるとは思えないので、アヤトは心の中で言葉を選んでいた。

対してカトリだが……今現在 優しい表情で此方を見下ろしている聖職者が非常に頼もしく見えている。

何せ完全にゼロになっていた絶望的な状況を打破してくれたダケでなく、自慢の頭装備を褒めてくれた!

また男性の聖職者=非常に珍しい=凄腕のプリーストと言う"価値観"から彼に賭けてみようと結論付けた。

聖職者は どんな悩みでも聞いてくれると言う事から例え無理と言われ様が無駄には成らないだろうし……

よってカトリは元々プライドが高い女性で有るにも関わらず、勢い良く頭を下げると叫ぶ様に口を開く。


≪――――ガバッ!!!!≫


「うわッ。どうしたんだい?」

「あの……御願いします!! 少しダケで良ェんでウチの話を聞いて貰えませんか!?」

「君の話を?(まさかの相手からの誘い!?)」

「はいッ! お金返して貰ォて申し訳あらへんけど、他に頼れる人がおらへんのです!」

「……頼れる人……?」

「忙しい中すんませんけど、御願いします!! ど~かウチの事 助けて下さいッ!」

「(意味が分からんが願っても無い)まァ……俺で良かったら話を聞かせて貰うよ」

「ほ、ホンマですか!? 有難う御座います!!」


――――そんな切羽詰った様子のカトリの要望に対し、アヤトが首を縦に振ったのは言うまでも無かった。


「じゃあ君の名前は何て言うんだい?」

「あっ! ウチとした事が……申し送れました、自分は"カトリ・ケイロン"言います」

「!?!?」

「どうされたんですか?」

「い、いや……何でも無い。俺はアヤト・カツラギって言うんだ、宜しく頼むよ」

「アヤト様ですね? 此方こそ宜しく頼んます」

「ではカトリ」(キリッ)

「はい?」

「もしかして君の両親は凄腕の魔法使いだったりするのかい?」

「えっと……父は元・王立騎士団員で母はアマツの良ェとこの出だったダケみたいですけど、
 ご先祖様にウチと似た様な名前のド偉い人がおったとは聞いとりますが……それが何か?」

「それなりに"聞いた名前"だったからね。まさかと思って確認してみたダケさ」

「さいですか(……やっぱり御先祖様はウチと違って有名なんやなァ)」

「じゃあ場所を変えよう。大金の事も有るし何処で狙われてるか分かったモンじゃ無い」

「わ、分かりました……確かアッチの方にレストランが有った筈なんで……」


カトリーヌ・ケイロン。実態はアヤトのプレイしていたゲームで登場する、最高クラスのモンスター。

また普通の魔物として沸くダケでなく……MVP(ボス)としても出現すると言う特性を持っているのだ。

その力は絶大であり、普通のタイプで有れど倒せれば高Lvモンスターの20倍以上の経験値を得れる。

当然 一筋縄ではいかないが、MVPの方にもなると手が付けられない程 強く放置される事の方が多い。

此方の世界で存在するかは分からないが、カトリの先祖として居た事から魔物では無い可能性が高い。

それ以前に"古の魔"として沸き街を襲われると勝てる気がしないが……逆に"仲間"としてならどうか?

原作のカトリーヌの強さを考えると、同じor迫る魔力を持っていそうなカトリは申し分無い存在である。

よってアヤトは何とか古城での臨時PTに誘って儲ける為。カトリは仇討ちに必要な知識を借りる為。

互いに大きく擦れ違う中 話は進んでゆき……2人は寛げそうな場所を求めて並んで歩き出すのだった。




……




…………




――――30分後。王都プロンテラの一般的なレストランにて。


「と言う訳で、ウチは一刻も早く"深淵の騎士"を倒して兄さんのカタキを討ちたいんですわ」

「敵討ちを……ねェ」

「でもアヤト様は聖職者やから、こんなウチを軽蔑したりされますか?」

「そんな事は思わないさ。それ以前に別に俺は立派な人間じゃ無いって」

「そうなんでっか?(でもウチの勘が凄い人って言うとるんやけど)」

「まァそれは良いとして……まさか"深淵の騎士"を倒すのが目的とはねェ……」


カトリと共にレストランに足を運んだアヤトは、互いにドリンクのみを注文すると彼女の話を聞いた。

どうやら目の前の魔術師は"特定の魔物"を撃破する為ダケに、グラストヘイム古城に行きたいとの事。

その"深淵の騎士"は確かに強力なモンスターでは有り、アヤトが一人で戦って勝てる相手では無いだろう。

完全にタイマンなら勝機は有るが、奴はカーリッツバーグを従えるので三体以上が相手では確実に詰む。

しかも"グラストヘイム古城"は原作で狩場として魅力的だった為、彼が既に調べていた情報によると……

"この世界"の深淵の騎士は絶対数は少ないがレイドリックをも従えるらしくアヤトは狩るのを諦めていた。

――――しかしながら。"カトリーヌ・ケイロン"の血を引くウィザードとのペア狩りなら話は全く違う。

自分が敵を頑張って釣って彼女に"大魔法"を撃って貰えれば、深淵の騎士の取り巻きなら容易く倒せる筈。

それは相当な経験値 効率にも繋がり、更にレア・アイテムが出れば申し分ない臨時公平PTと言えよう。

とは言え事故死の可能性も高い危険な場所と言う事から、何時ものアヤトであらば行かないだろうが……

最近まで同じダンジョンに3ヶ月間一人で篭っていた事も有り、何となく効率を求めたい気分だったのだ。

だが"深淵の騎士"が出現する場所は何処だったか……GH古城は幾つものマップで構成されるダンジョン。

よってアヤトは原作の記憶を漁る意味で首を捻っていると、彼を見るカトリはカラダを小さくさせていた。


「……(うぅ……やっぱウチの言うとる事は無謀なんかなぁ?)」

「じゃあ目的の"深淵の騎士"はGHの何処に居るんだい?」

「えっ? えっと……確か"グラストヘイム騎士団"の2階って話です」

「成る程。騎士団の方か……ふぅ~む(古城エリアじゃ無い分 少しは楽そうだなァ)」


現在のアヤトは既にGHに行く気マンマンであり場所を聞いたのも只 狩場を確認したダケで他意は無し。

だがカトリの方は違う捉え方をした様で、難しい顔をしている彼が真剣に悩んでいる様に見えてしまった。

故に改めてカトリ自身も"今喋った事"を振り返ってみると、確かに知恵を借りるドコロの話では無かった。

古くから代々続く"王宮騎士団"の選りすぐりの部隊が一体 倒して帰還するのがやっとだった深淵の騎士。

それを僅か一千万zの資金を元にゼロからPTを編成した上、一ヶ月以内に撃破 出来る様にして欲しい?

正直 無茶な相談であり、幾ら大金とは言え王宮魔術師"見習い"のカトリが用意 出来る程度の額なので、
もし彼女の兄ほどの能力を持つ貴族の騎士をGHに連れて行くべく雇うとなれば一千万zでも足りない。

つまり腕の立つ者を"命ごと"雇うのには途轍もない大金が必要であり、場所が場所で有れば尚更である。

そう考えれば……ミッドガルド大陸の為に命を掛けて戦う騎士達が民に支持されるのは当然と言えよう。

ならば更に強大な"古の魔"を撃破するべく努力を欠かさなかった歴代の王達が愛されていたのも頷ける。

さて置き。アヤトはそのまま、今後の予定を考えている的な意味で黙り込んでしまっていたのだが……

対して彼を眺め続けているカトリは、無茶な悩みに時間を使わせてしまって申し訳なくも思ってしまう。

彼は思っての通り"良い人"なのか真面目に知恵を貸そうとしているが、やはり無理なのはムリなのだから。

だが……カトリは既に諦めの心境の反面、何処かで彼の言葉を期待している自分も居るのを察していた。


「(ダメだしされたら、されたで構わへん。最悪グラストヘイムには一人でも行ったるさかいッ!)」

「(話によるとカトリは家出中の身みたいだし……出来るだけ早いウチ出発した方が良いなァ)」

「(でも……人に相談したのは初めてやったし、真剣に聞いてくれたダケでも感謝せにゃアカんな)」

「(だとしたら"善は急げ"って事だな。早速ポータルの場所をメモって来るとするか!!)」


≪――――ガタッ≫


「あっ……」

「んんっ?」

「(そんな!? やっぱり……知恵を貸す以前に話す事すら無いとでも言うんか?)」

「(し、しまったッ! 俺とした事が……!!)」


そんな行き違いの中アヤトが唐突に席を立ったので、カトリが声を漏らすと彼は我に返って視線を降ろす。

すると視界に飛び込んで来たのは涙目で自分を見上げる彼女の姿であり……アヤトは己の行いを悔いる。

何故なら今の自分は効率に酔いしれており、兄の仇討ちを望む彼女の心境を全く理解しようとしなかった。

それなのに何を空気を読まずに席を立ったのか。カトリは涙を流してまで辛い思いを話してくれたのに!

反面カトリは聖職者様からも自分は見放されたのだと錯覚した為に、自然と涙が出てしまったのだが……

彼女の涙を違う意味で捉えたアヤトは混乱するばかりで、着席すると苦し紛れに以下のような事を言う。


「そんな顔をしないでくれ……心配しなくても君の"お兄さん"の無念は必ず晴らすさ」

「えっ?」

「だから明日には発とう。勿論 目指すは"グラストヘイム騎士団"だ」

「……って事は……まさかアヤト様も協力して下さはるんですか!?」

「何か問題でも有るのかい?」

「そ、そう意味じゃあらへんけど……確かに"大聖堂"の力を借りれれば……」


アヤトは今の空気を変える為に話題を明日の件に変える事にしたのだが、更なる食い違いが生じた模様。

彼は2人で行くつもりで言ったのだが、カトリはGH古城にペアで行くと言う発想など最初から無かった。

よってアヤトの力で大聖堂の"モンク"や"クルセイダー"を傭兵として貸し出してくれるのだと考える。

だとすれば、どちらとも非常に強力な職業なので彼女にとって頼もしい味方となるのは間違いないだろう。

……とは言え経費も相当 高いだろうが……足りない分は一生掛けてでも払うと言う決意が彼女には有る。

その為カトリは自分の考えが思い違いだった事を喜ぶと同時に、協力を決めた彼に素直に感謝したのだが。


「大聖堂のチカラを借りるって?」

「は、はい。其処の兵隊さんをアヤト様に回して貰えるなら……」

「いやいや。そんな事をする必要は無いさ(……そもそも俺 顔なんか広くないし!)」

「へっ? じゃあ、何をどうやって"深淵の騎士"を――――」

「はははッ、そんなの決まってるだろ? 俺と2人ダケで行くに決まってるじゃないか」

「え……ええええぇぇぇぇ~~ーーッ!!!?」


カトリが思うにGH古城に行くには最低10人以上の頭数が必要であり、更に質も要る事が問題であった。

だが目の前の聖職者は"たった2人"で行く気だった様で驚きの余りカトリは大きな瞳をパチクリとさせた。

何と言う無謀な発言。自分も無茶な相談をした事は分かっているが彼の言う事も常識を大きく外れている。

しかしアヤトの価値観から言えば"臨時公平PT"は基本的にペア狩りが多く、GH古城でも例外では無い。


「そんなに驚く程の事だったかい?」

「あ、当たり前ですわ……その発想は有らへんかったです」

「なんと」

「えっと……アヤト様は腕が立ちそうな感じですし、ウチかて魔法には それなりの自身は有ります。
 それでも流石に2人で行くのはキツい思いますけど……こんな頭数で大丈夫なんですか?」


彼女の世界の常識から言えば、たった2人で"GH古城"に赴くなど"心中しに行く様なモノ"である。

故に当たり前の質問をしてみると、地味に先程から目立つカトリの胸元から視線を逸らしていた彼は。

今を"好機"とワザとらしい仕草で彼女の方を振り向くと、無駄に爽やかな笑みを浮かべて言うのだった。


「大丈夫だ、問題ない」


――――お前それが言いたかったダケだろ!! だが彼を見つめるカトリには無駄に格好良く見えたと言う。


「(嗚呼……やっぱり この人は、只者やないんわ……)」








■後編に続く■








■あとがき■
転生2次ながらカトリの魔法で秒殺されたのは良い思い出。実は名前をハヤテにしようか迷いました。



■補足■


○カトリ・ケイロン○
当時は19歳のウィザード。リディアと同様INTの数値が馬鹿みたいに高いのでチートキャラの一人。
詠唱に限っては普通のレベル(未熟)なので、二十歳には王宮魔術師として仕えれる様に日夜修行していた。
しかし兄の戦死を聞き、ブラコンでも有った彼女は"深淵の騎士"を倒すべく旅立つ事を決意し今に至る。
どうやらアマツ出身の母の血を強く受け継いでいる様で……黒の短髪でありエセっぽい関西弁を話す。
元ネタは知る人ぞ知るカトリーヌ・ケイロン。雑魚なのに下手すれば一部のMVPモンスターよりも強い。


○グラストヘイム古城○
ROで言えば中の上のレベルに当たるダンジョン。監獄を除けば基本ソロで行ける場所では無かった気が。
だがペア狩りなら結構な効率を叩き出せるので、監獄2・騎士団2には私もLKで良く行っていました。
MVPモンスターのダークロードは無詠唱で広範囲の大魔法を放ってくるので、鬼畜の強さとして有名?


○深淵の騎士○
グラストヘイム古城の恐らく1・2を争う強敵。カーリッツバーグ2匹を従えるので基本タイマンは危険。
範囲攻撃のブランディッシュ・スピアの威力が恐ろしくプリの支援が有っても湧きが重なれば落ちる事も。
ただ弱点は足の遅さなので振り切るのは簡単。でも5年以上前の事なので今は仕様が変わっているかな?


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