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No.24056の一覧
[0] 【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】[Shinji](2010/11/06 21:29)
[1] ■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■[Shinji](2010/11/08 03:20)
[2] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■[Shinji](2010/11/10 22:56)
[3] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/04/11 13:30)
[4] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/05 12:03)
[5] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■[Shinji](2011/06/11 09:59)
[6] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■[Shinji](2011/06/18 02:59)
[7] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■[Shinji](2011/10/22 04:01)
[8] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■[Shinji](2012/04/16 20:41)
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[24056] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/10 22:56
――――この物語の舞台であるミッドガルド大陸。其処で栄えるルーンミッドガッツ王国。


広大な面積をほこり、十数の都市と数十の街や村……そして数百の集落や部族が存在している。

同時に大陸に存在する魔物の種類も数も非常に多く、常に襲われる脅威に晒されて居ると言えた。

そんな波乱の大陸ミッドガルドの頂点に位置するのが王都プロンテラであり、強力な騎士団を持つ。

何処かしらで魔物達が群れ人々を襲えば、近隣の街と協力して討伐し一定以上の繁栄を許さないのだ。

だが魔物は常に湧いて来るモノであり……長い歴史の中で それぞれの根源は未だに解っていない。

よって此処までの大陸に成長したのも、人類はプロンテラから始まり少しづつ領土を広げたからだ。

絶える事なく生まれて来る魔物の脅威が有れど、歴代の王が務めたこからそ今に至っているのである。


「クレア・ジュデックス」

「ははっ!」

「本日もって汝をルーンミッドガッツ王立騎士団の団長に任命する」

「有り難き幸せ」

「初の女性団長と言う事で周囲からは厳しい批判も有るだろうが、汝は相応の実力を持っている。
 先ずは焦らず"結果を"出してゆく事だ。そうすれば自然と周囲は汝を認めざるを得ないだろう」

「……はっ」


そんな数十代目と言えるルーンミッドガッツ国王。彼も最近 迄は大陸で1・2を争う武人であった。

だが先日の"討伐"で"ダークロード"を撃破した際 永続的な呪いを掛けられ、戦う事が出来なくなる。

同時に王立騎士団のトップも戦死してしまったので、急遽 副団長で有ったクレアが就任したのだ。

彼女は国王の側近として当然 討伐に行きたかったのだが、彼の娘で有る"姫"の傍に居ろと言われた。

即ち"もしもの事が有ったら国と騎士団を頼む"と言う意味で有り、その頼みを断れる筈が無かった。

此処で話が変わるが……時にミッドガルド大陸には手が付けられない程 強力なモンスターが現れる。

先日で言う某所で現れた"ダークロード"の事であり、大陸の人間はソレらを"古の魔"と呼んでいた。

何故なら遠い昔に撃破されたと言う記録がシッカリと残っていると言うのに、再び唐突に現れるから。

よって常に各都市と連携して"古の魔"の負の魔力を監視する際、現れれば被害が出る前に打って出る。

その為 今回も敏速な対応により早くも"古の魔"は討たれたが、予想通りの被害だったと言う訳だ。

だが……昔と比べれば、精鋭とは言え討伐に向かった者達が殺されたダケで済んだとも考えられた。

例えばオークの英雄を放置した時は、やがて数千の魔物達を従えて街を襲ったので戦争になった。

また熊が巨大化したような"古の魔"に対する対応を遅らせた結果、村を僅か一晩で轢いてしまった。

そんな前例が有るからこそ、歴代全ての者が強い力を秘めているルーンミッドガッツのトップが動く。

だから大陸の人間達はルーンミッドガッツ国王を支持・支援するので有り、常に其の実力が問われる。

されど今回の討伐で王立騎士団のトップが初の女性団長に代わってしまい王国のトップも同様の予定。

それが何を意味するかは近いウチに身を引く、現ルーンミッドガッツ国王が一番理解している。

彼は まだ40代前半で有り、肉体の衰えが遅い"この世界"の仕様を考えれば今だ現役の筈だった。


「……さて置きだ……汝も分っているだろうが……」

「存じております。間も無く私に続き、リディア様も王国の頂点として……」

「うむ。未熟なのは百も承知だが……そうせねば周囲が納得せんだろうし、先代に申し訳が立たん」

「……ッ……」

「すまぬな。私が呪いに冒されなどしなければ、まだまだ現役で有ったと言うのに……」

「と、とんでも御座いません! "古の魔"の中でも最上位の力を持っていたダークロードッ。
 それを見事に討たれ生還を果たしたダケで、私としては十二分な戦果だと思っております」

「ははは。確かに今 考えれば、生きて帰れた事すら不思議とも言えるな」

「それ故 後は我々に御任せを。確かに"古の魔"に抗うには再び騎士団を立て直さねばなりません。
 恐らく何年かは掛かるでしょうし、新たに出現すると思われる脅威に対する心中もお察し致します。
 ……とは言え、其の程度の猶予は有りましょう。よって今は姫を周囲に認めて頂く事が先決かと」

「ふ~む、それも……そうだな。以前の"古の魔"の出現は私の生まれる前の事だったと言う話だ。
 次の出現が早くて5年と見積もっても、其の頃には"リディア"も立派に成長している筈だろう」

「其の通りです」

「ならば余計な心配は止めて汝達に任せてみるとするか! ……ところで」

「はい?」

「汝は来年には25だろう? 今日も縁談の話が多く届いているが、いい加減 受ける気は無いのか?」

「なっ!? わ、私は骨の髄まで王立騎士団の人間です!! そんな事に現を抜かす気は有りませんッ」


――――この数日後。先代に代わり"リディア・ルーン・ミッドガッツ50世"が即位するのであった。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■







――――プロンテラの王城・謁見の間。


「御疲れ様でした、リディア様」

「有難う……クレア」


ようやく本日の職務を果たしたルーンミッドガッツの王女、リディアは王座で疲れの色を表していた。

そんな彼女を王立騎士団長のクレア・ジュデックスが気遣い……コレが謁見の間の何時もの様子だ。

うちリディアは18歳と言う年齢で、父が呪いによって退いた事により唐突に王女とされてしまう。

容姿としては質量の有る長い金髪をツインテールに繕い、まだ幼さが見え隠れしている美しい女性だ。

さて置き。今迄は主に貴族との付き合いと聖職者の修行を毎日の様に行っており……簡単に言えば、
前者が"謁見の間での面会"に代わったダケなのだが、流石に即位したばかりだと言う事も有ってか、
大陸各地から連日リディアの事を祝う者達が訪れて来ており、気持ちは嬉しいが正直疲れ果てていた。

だがプロンテラの民ダケでなミッドガルド全体が自分に期待してくれている事を痛感した彼女は、
元から真面目な性格も有ってか、常に謁見中は笑顔を絶やさず彼女に対する評価は上々であった。

実力としても相当なモノで有り……リディアは歴代の英雄達の血筋をシッカリと受け継いでいる。

若輩ながら才能(初期パラ)の高さ故に既に"ハイプリースト"の称号を授かる日も近いと言われる程だ。


「今日は50名でしたか……流石に多過ぎましたね。明日は数を少なくする様 申して置きましょう」

「気遣いダケ貰って置きます。この程度こなさぬ様では王女としての示しがつかないでしょうから」

「……御立派です」

「でも確かに疲れましたね。またクレアの淹れてくれる美味しい紅茶が飲みたいわ」

「私の淹れたモノなどで宜しければ、幾らでも入れさせて頂きます」

「ふふふ。クレアって……わたくしよりずっと家事も美容も得意なのに、どうして未だに……」

「!? そ、それは仰らないで欲しいと言っている筈ですッ!」


一方 主君であるリディアを気遣うクレアは、金髪を若干 短く切っており左のサイドテールが特徴的。

幼い頃から姫の世話をしている姉のような存在でも有る為、戦いダケでなく家事全般も得意だった。

武力としては旧王立騎士団長を越えていたとも言われていたが、騎士では滅多に見ることの無い女性。

故に存在を軽視されており、退役が近い元・王立騎士団長の推薦が有っても周囲が納得しなかったが、
先日の"討伐"で団長が戦死した為……彼の代わりを担える者がクレアしか居ない事から受勲された。

そしてリディアも王女として即位した為に、多くの女性達に夢を希望を与えたのは周知の事実である。

よって未だ"古の魔"に抗うのは未熟とも言える2人だが、いずれ立派な王女と団長に成長できる筈だ。


≪――――ダダダダダダダダッ!!!!≫


「リディア王女!! クレア団長ッ!」

「えっ?」

「一体 何が有った? 騒々しい。王女の御前で有るぞ?」

「大変ですッ! つい先程 近隣の都市に"古の魔"の存在が確認されました!!」

「えぇ!? そ……そんなッ!」

「ば、馬鹿なッ! 幾らなんでも早すぎるぞ!?」


――――だが"古の魔"は時と場合を選ばない為、新たな恐怖がミッドガル大陸を覆おうとしていた。




……




…………




――――王都プロンテラの西方に位置する魔法の都市ゲフェン。


遙か昔……この地は死・闇と言った類(たぐい)の魔物に支配されており、人々の恐怖の対象だった。

しかし英雄達の活躍によって、魔物を率いていた"古の魔"は倒され……彼らは其処に村を造った。

其処は やがて魔術を極めんとする人々の訪れる地となり、魔法ギルドが存在する等 大きな街となる。


≪……ッ……だが……我は滅びる事は無い……人間がいる限り……必ず、再び復活を……≫


だが最初に倒されたゲフェンの"古の魔"が最期に告げた様に、何度も街は魔物達の脅威に晒される。

地下のダンジョンは決して魔物が外に出て来る事は無かったが"古の魔"が復活すると話が変わった。

魔物は獰猛になり・死体は蘇り・魂は実体化した幽霊と姿を変え……日夜 街を襲う様になるのだ。

ソレらは幾ら倒してもキリが無く、発生を防ぐには迷宮の奥に居座る"古の魔"を倒すしかなかった。

その魔物の名はドッペルゲンガー。現れる度に姿を変え、驚異的な力で勇者達を轢き殺す闇の頂点。

そんな脅威が潜む迷宮の入り口に、リディアとクレアは多くの騎士や神官を従えて訪れて来ていた。


「先日の討伐から日が浅いと言うのに、再びミッドガルドは"古の魔"の脅威に晒されてしまいました」

『…………』

「今はダンジョンより湧き出て来ている魔物を、魔術ギルドの皆さん達が抑えてくれていますが、
 いずれは被害が拡大してしまうでしょう……故に其の前に現状を打破しなくてはなりません」

『…………』

「故にコレより迷宮に侵入し"古の魔"を討ちます。それ以外に事態を治める方法は無いのですから。
 しかし……わたくしが未熟・若輩で有るが故に……皆を命の危険に晒してしまうかも知れません。
 ですが皆の力を貸してくださいッ! ルーンミッドガッツ王国に暮らす人々の平和の為に!!」

『ははっ!』


"古の魔"が出現したと言う報告を受け、一瞬リディアは困惑せど直ぐ様 王立騎士団の精鋭を集める。

同時に配下のプリースト達にゲフェンへのポータルを開く事を命じるが……其処はクレアが止めた。

何せリディアは激務で疲労しており、ゲフェンの魔術師達も持たせると言うので気持ちに甘えたのだ。

また多くの重臣たちはリディアが戦地に赴く事 自体を心配しており、本来は行かせたくなかった。

何故ならリディアは一人娘で有り、彼女が死んでしまえばルーン・ミッドガッツの血筋が途絶える。

しかし。歴代の国王・王女達は今以上の過酷な境遇で、血筋を絶やす事無く脅威と戦い続けており、
それを知っている彼女が"古の魔"に対して恐れを抱くワケにはいかず、勇ましさも引き継がれていた。

だが身の程は理解している様で、力を過信しておらずクレアを始め部下の力を借りる気は有る様子。

よって重臣達は"古の魔"の撃破が困難なら最悪 自分達が犠牲になる事で血筋を絶やさぬ様 影で指示。

対して王国の繁栄で無く"自分自身の未来"を心配する様な彼等に、騎士達は皮肉でも言いたかったが。

言われずとも王女を守る為ならば命を投げ出す覚悟は十二分に有るので、真剣に述べる彼女に対し、
騎士&神官達が剣・杖を天に掲げながら勇ましく応えた事で、ソレが戦い(突入)の合図とも言えた。


「では神官達は速やかに騎士達への支援を開始して下さいッ!」

「ブレッシング!!」(STR・DEX・INT上昇)

「ブレスッ!」

「速度増加!!」(AGI・移動速度上昇)

「スピード・アップ!!」

「マグニフィカートッ!」(SP回復速度2倍)

「マニピカット!!」


「我々は必ず勝ちます団長ッ! ツーハンド・クイッケン!!」(攻撃速度上昇)

「全員に掛かった様ですね……ならば戦いの鐘を鳴らすのです!!」

「はいっ! ――――エンジェラス!!」(VIT上昇)


≪ゴオオオオォォォォーーーーンッ!!!!≫


今回の討伐に参加するのは"前回"の半分程度の25名前後であるが、選りすぐりの勇者達である。

さて基本的な支援をリディアと神官達が掛け終えると、最後に一人の神官が"エンジェラス"を掛ける。

そのスキルを使うと全員の頭上で鐘を鳴らすエフェクトが発生するので、士気の上昇の意味が有った。

同時に味方PT全員の減算DFEを上昇させる効果が有るが、専ら後者の仕様は理解されていない。

だが士気の上昇 自体は間違いなく行われた様で、リディア達はクレアを先頭に迷宮に侵入してゆく。


『おおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!』


――――彼女達の目的は只一つ。"古の魔"で有る"ドッペルゲンガー"の討伐……それダケである。




……




…………




……ゲフェニア・ダンジョン上層。


≪――――ザシュッ!!!!≫


「ふんっ! 物怪の類が我々を止められると思うなよ!?」

「ですが、浅い階層に迄 中位の魔物が……やはり間違い無いのですね」

「最もです。普段は駆け出しの冒険者の鍛錬の場でも有ると言うのにッ」

「(お父様……わたくし達を見守っていて下さい)」

「リディア様」

「はい?」

「恐れながら私に対しての支援が切れております」

「す、すみません!」

「(やはり動揺されているか……無理もない。何せコレが初陣なのだからな……)」

「ブレッシングッ! 速度増加!!」




……




…………




……ゲフェニア・ダンジョン中層。


「な、何だ……この数は!?」

「!? ぐわああぁぁっ!!」


≪――――ドドォッ!!!!≫


「クッ! 大丈夫か!?」

「す、すみません団長……不意を突かれ……ゴフッ!!」

「喋っては いけませんっ! 今すぐ治療を!!」

「回復に集中している余裕は有りませんリディア様!! 先ずは死霊の群れを倒す事が先決ですッ!」

「で、ですがっ!」

「止むを得ん……1人は直ちにポータルを開いて、同時に負傷者を回収しろ!!」

「ははっ!」

「残りの神官は直ちに聖水による加護を寄越せッ! 通常の攻撃で奴等は倒せん!!」

「畏まりました……アスペルシオッ!」

「アスペルシオ!!」(3分の間 武器に聖属性付与)

「それでは今度は此方から仕掛けるぞ!? 全員 突撃せよ!!」

「うおおおおぉぉぉぉっ!!!!」

「くたばれッ! 化け物ども!!」

「("古の魔"と出会うまで脱落者は出したく無かったが……我ながら浅はかなモノだ)」




……




…………




……そしてゲフェニア・ダンジョン下層。


「此処が最下層へと続く階段……ですね」

「はい。ようやく此処まで来れた様です」

「残ったのは……えっと、20名ですか」

「想定外の事態が有ったと言うのに、良く遣ってくれていると思います」

「そうですね。皆さんには感謝しませんと」

「ですがリディア様。感謝して頂くのは"ドッペルゲンガー"を倒してからです」

「一理 有りますね。それでは参りましょう」

「ならば私が先に降りますので、その前に再支援の指示を」

「わ、分りました(……また忘れてしまいました)」

「皆は常に警戒を怠らぬ様に!! 支援中だからと言って魔物は待ってくれんぞ!?」

『――――ははっ!』


3つのエリアで構成されるゲフェニア・ダンジョンのうち、既に2つを攻略したリディア一行。

その際 非常にモンスターが密集していた場所が有った為に5名の脱落者を出してしまったが、
巧みに両手剣を操り的確に指示を出すクレアの健闘も有って、リディアを影で支援していた。

他の騎士・神官達もリディアに被害が及ばない様にする為。時には体を張って彼女を守っている。

だが……此処からが本番で有り"ドッペルゲンガー"が居座っていると思われるのは、次の階層だ。

よって支援を済ませ再度"アスペルシオ"をも受ける事で、クレアは慎重に階段を降っていった。

ちなみに武器に聖属性を付与して貰うのには理由が有り……通常の武器で幽霊は斬れないからだ。

またアンデットや闇系の魔物が多いゲフェニア・ダンジョンでは非常に有用な属性なのである。

さて置き。緊張と不安を胸に3階層目に足を踏み入れた一行は、信じられない光景を目にした。




≪――――ボコッ!!!!≫


「("こっち"の仕様的に湧き過ぎだろッ! コレ!!)」




「えぇっ!?」

「ぼ、冒険者……だと?」




何と!? 黒い僧服を着た男が、鈍器(火スタナー)を片手に人魂の様な魔物を殴っていたのだ!!

相手にしていた数は3体であり……されど幽霊(ウィスパー)の攻撃に怯む事 無く反撃を繰り出す。

殲滅の速度はクレアと比べれば遥かに劣ってはいたが、見た目と戦い方のギャップに皆が言葉を失う。

そんなウチに全てのウィスパーが倒され布へと姿を変えると、今度は"グール"が2体 近付いて来る。

そのグールはアンデットながらパワーが有り、二次職でも無ければ前衛でも厳しい相手なのだが……




「ターン・アンデット」(一定確率で不死属性 即死)

『!?!?』


≪――――バシッ!!!!≫


「(効いた? ラッキー)」

「(す、凄いッ!)」




冷静に手前のグールにターン・アンデット(TU)を当てる事により、早くも数を残り1体に減らす。

そして武器を そのまま魔物の攻撃を避けながら殴り、アッサリ2体目のグールを始末してしまった。

するとドロップが残されたので彼が布を拾ったりしていると、ゲフェニア・ダンジョンの強敵が出現。

見た目は可愛い悪魔の姿をした小さな魔物(デビルチ)なのだが、その攻撃力と俊敏さは尋常では無い。

しかも闇の魔法を使う事でも知られており……デビルチは黒い僧服の男に攻撃魔法を放つのだが……




「…………」

『……!?』


「さ、避けたのか?」

「でも……動いて……」




男は其処から動いてないのにダメージを受けた様子は無く、ソレは彼が闇属性の服を着ていたから。

それを知る筈も無いリディア達は既に加勢を忘れているが……デビルチは前述の様に接近戦も得意。

故に距離を詰めると手にするトライデントで可愛い仕草で突こうとするが、あくまで男は冷静だった。




「ブレッシング」

『!?!?』




何故か戦闘能力の向上に繋がる魔法をデビルチに掛けてしまい、リディアとクレアは目を丸くさせる。

だが悪魔系の魔物には戦闘能力を低下させる効果(仕様)が有り……敵が悶えている隙に武器を変更。

同時に盾もポケットに放り込んで新たなバックラーを取り出すと、直ぐ様 装備し次なる行動を取る。




「アスペルシオ」

「なッ!(自分自身に使うだと?)」

「……(何て器用な戦い方を……)」




彼は持ち替えたチェイン(対悪魔)に聖属性を付与すると、再びデビルチを殴る作業に移ったのだ。

対してリディア達の常識では、聖職者が自分自身に聖属性を付与して攻撃する事など有り得ない。

本来は先程の様に支援で使うのが定石であり、プリーストの攻撃方法は魔法による手段に限られる。

よって"そうである"リディアにとっては特に衝撃的であり、そんなウチにデビルチは倒された模様。

そして運良ドロップした"オリデオコン原石"を拾った辺りで、ようやく彼はリディア達に気付いた。

そのプリーストとは言うまでも無く"アヤト"であり……世界中の旅を始めて3ヶ月辺りと言った所。


「えっと……貴方達は?」

「えっ? あ、あの……わたくし達は……」

「……(おぉ~ッ。中々の上玉)」

「リディア様ッ! 気を付けて下さい!! どう考えても怪しいですっ!」

「!? な、何故なのです?」

「考えても見てくださいッ。この様な魔物の巣窟に一人で居るなど、絶対に何か有ります!!」

「……と言う事は……」

「貴様。ドッペルゲンガーか?」

「はぁ? 俺が……DOP?」(ドッペルゲンガーの事)

「何を言うんですかクレア。この方は今 魔物と戦っていたのですよ?」

「!? た、確かに そうでしたね……では貴様はニンゲンで間違い無いのだな?」

「見ての通り只のプリーストですよ」

「只のだと? 貴様の様な聖職者が居るかッ!」

「……(何この人!? 美人だけど怖ッ)」

「いい加減にして下さいクレア。何時もの貴女らしく有りませんよ?」

「す、すみません」

「……ともかく……今 聞いた話によると……」

「な、何ですか?」

「貴方達はDOPを討伐しに来たって事で間違い無いんですね?」

「……ッ……其の通りです。ですから後は わたくしたちに任せて下さい」

「ふ~む……(まァ物凄い人数だし大丈夫だろ。倒して貰えれば俺の狩りも安全に成るし)」


≪じ~~~~ッ…………≫


「ぅうッ?」

「何なんだ貴様ッ! 先程から無礼で有るぞ!?」

「あッ。すんません」

「い、良いのですクレア……と言う事ですから、貴方は直ぐに引き返して――――」

「じゃあ討伐の方。頑張って下さい」

「えっ!? あ、あのッ! 其方は出口の方向では……!!」

「リディア様。お待ちを」

「如何して止めるのですッ? クレア!!」

「アレはドッペルゲンガーの罠かもしれません。私も人の事は言えませんが……どうか此処は冷静に」

「で、ですが……もし本当に人間の方だったら……」

「されど考えて見て下さい。奴はリディア様を知らない素振りでした。やはり信用できません」

「とは言え わたくしを妙な表情で見ていましたし……恐らく頼り無いと思われたのでは……?」

「どう言う事です?」

「あの方は恐らく凄腕の冒険者なのでしょう。それ故に"古の魔"が現れたゲフェニアに訪れた」

「恐れながら理解しかねます」

「つまり……わたくし達の代わりにドッペルゲンガーを倒しに来たのではないでしょうか?」

『!?!?』

「勝手な推測ですが……改めて考えて見て下さい。あの方は わたくし達よりも先に此処に居た。
 ……と言う事は、わたくし達が通って来た時より更に険しい道のりを通過して来たのでしょう」


「た、確かにッ」

「そうなのか?」

「!? お、お前達ッ!」


「ソレが正解だとすれば……わたくし達は魔物を"殲滅"して頂けた事を彼に感謝せねば成りません。
 何故なら この程度の被害で此処に到達できたのは全て"あの方"の御蔭と言う事になるのですから」

「そう言えば……奴は自分の実力の半分も出していない様な気がしました」

「はい。まるで何か作業をしているかの様な戦い方でした」←其の通り

「し、しかしッ。我々は奴が"古の魔"を倒すのを黙って見ているワケにはいきません!」

「其の通りですね」

「(だが入り口の殲滅には感謝せざるを得んな……)では各員ッ! 再支援を行え!!」

『――――ははっ!』


たった一人で。しかも"このタイミング"でゲフェニア・ダンジョンに挑もうとする聖職者の男。

結局リディア達は彼を一流の冒険者と認識し、ソレは3階層まで潜れた"結果"が証明していた。

だが実際のアヤトはリディアの事は無論・ゲフェンに"古の魔"が現れた事さえ全く知らなかった。

……と言うか"こちら"では古の魔とか言われているドッペルゲンガーはゲームでは2時間湧き。

されど倒されなければ放置されるので、この世界の事だから最初から居そうだな~と考えていた。

ソレは討伐PTが来たと言う事で正解であり、王女を見ていたのは何処かで見た様な気がしたから。

対してリディアは"頼りない"と思われたと考えた上に、逆にアヤトに感謝する推測までしたのだが。

アヤトが此処まで来れたのは道中の魔物をスルーしたからで有り、全く交戦などしていなかった。

その結果 階段付近で纏めてしまった魔物達がリディアの部下を負傷させたので彼はむしろ加害者だ。

3階層目の入り口でアヤトが戦っていたのも、何とか成りそうだった故に倒し切ったに過ぎない。

勿論 迷宮の更に奥を目指したとは言え、DOPを発見したら即 逃げる気 満々だったのだが……

それすらリディアとクレアは"古の魔"すら一人で倒す実力と自信が有るのだと勘違いしていた。

しかしながら。手柄を彼に渡すつもりは無い様で、リディア達は気を改めてDOPを追うのだった。




……




…………




……幸いアレから大きな湧きは無く、ダンジョンの3階層目を進む事15分後。


『…………』

「お、お父様?」

「……叔父様……」


アヤトが去った逆の方向へと慎重に進んでゆく中。遂に古の魔で有る"ドッペルゲンガー"が出現する!

そんな"今回"のDOPは、頭部以外を全身鎧に身を包んだ"若き頃のリディアの父"の姿をしていた。

故に思わず彼の事を呟いてしまうと、DOPは口元を歪め……まるで父の退役を嘲笑うかの様だった。

直後 複数のナイトメア……物理が通用しない念属性の馬のモンスターを召喚して此方に嗾けて来る!


『ブヒヒイイイイィィィィィンッ!!!!』


≪――――ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ!!!!≫


「王の身を装うとは……絶対に許せんッ! ツーハンド・クイッケン!!」

「皆さんッ! 誇り高きルーン・ミッドガッツ49世の姿を真似る"古の魔"を討つのです!!」


――――だが瞬時に正気を取り戻したリディア達の士気は逆に向上し、クレアが突貫すると。


「ボウリング・バッシュ!!!!」


――――敵1体を弾き飛ばし後方の敵をも巻き込んだ範囲攻撃をする事で、一撃で馬達を全滅させた。


「ひるむなッ! 私に続けェ!!」

「がああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

「ルーンミッドガッツ王立騎士団に勝利を!!」

『…………』


しかし続いてDOPは周囲の魔物達を招集すると再び嗾け、王立騎士団と激しい戦いを繰り広げる。

一方クレアは王の姿をしたDOPと対峙するカタチとなり……自然と足が震えているのを感じた。

いわゆる生まれて初めての武者震いであり、クレアの胸の中では高揚感と恐怖感が入り乱れていた。




「コンセント・レイション!!」(攻撃&命中上昇・防御低下)




――――よって女性の身で有りながら唯一ロード・ナイトの称号を持つクレア・ジュデックスは。




「オーラ・ブレイド!!」(DFE無視の追加ダメージ付与)


≪キュイイイイィィィィン…………ッ!!!!≫




――――最大限の力を持って"ドッペルゲンガー"を討つべく、自信に補助のスキルを掛けた。




「はああああぁぁぁぁっ!!!!」

『…………』


≪――――ガキッ!! ガキッ!! ガキッ!! ガキッ!! ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫




ブーストを終えるとクレアは跳躍してDOPに飛び掛かり、両手剣による激しい斬撃を繰り出す!!

されど"古の魔"であるDOPは彼女の剣撃が見えている様で……両者ともに引かぬ攻防を続けた。

だがDOPの方が若干スピードが遅い様で、僅かにだが装甲にダメージを与え続ける事が出来ている。

しかし。全ての攻撃を受け止めている筈のクレアの表情が見るみるウチに苦痛へと変化していった。

"コンセント・レイション"により攻撃力は上がっても、反面カラダに掛かる負担が大きくなるのだ。

よって今は優勢な様に見えても、クレアの体力が尽きてしまえば一気に押し込まれるのは明白である。


「(い、一撃一撃が重過ぎる!? コレでは相手を削る事は出来ても私が先に潰される!!)」

「イムポティシオ・マヌス!!」(攻撃力上昇)

「ひ、姫様!?」

「頑張ってください!! クレアッ! キリエ・エレイソン!!」(物理攻撃を無効化するバリア)

「クソッ! 負けてたまるか!!」

『…………』

「ヒールッ!」

「ならば今のウチに……パリイング!!」(敵の攻撃を一定確率で受け止める)


――――だがリディアの支援で体勢を立て直したクレアは、防御に徹しながら相手を削る方法を選ぶ。


「キリエ・エレイソンッ!」

「オート・カウンター!!」

『……!?』


それは前方にいる敵からの攻撃を完全防御した後に、防御力を無視した攻撃を放つスキルによるモノ。

この戦法は非常に有効だった様で、クレアは少ないカラダへの負担で確実にDOPを削ってゆく。

元々のDOPの攻撃速度も有ってかダメージ効率も良い様であり、クレアは優勢を実感していた。

……とは言えオート・カウンターの連用は精神力を多く使うが、コレでDOPを倒せれば十二分。

されど"古の魔"は殺られるのを待つばかりでは無い様で、再び口元を歪ませると奥の手に移った。




「(此処はクレアの精神力を)……マグニフィカート!!」

『…………』


≪――――ドオオオオォォォォンッ!!!!≫


「なっ!? 何だ……コレ……は……!!」

「く、クレア!? どうしたのですッ!?」




DOPはスキル:ハンマー・フォールを使い、クレアをスタン状態にさせてしまい無防備にした!!

しかもリディアが彼女の為に"マグニフィカート"を詠唱した硬直中を選んでおり、狡猾さが伺える。

つまりキリエ・エレイソンのバリアによる支援を受けれなくなっているので、クレアは絶体絶命だ。

対してDOPとしては狙い通りで有り、フラフラと後退する彼女の首を無情にも刎ねようとする!!

一方 周囲の騎士達は神官の支援を受けつつ必死で魔物を抑えており、どう考えても間に合わない。




『…………』

「し、しまった!!」

「クレアーーッ!!」








「リカバリー!!」








「えっ?(体が動く!?)」


≪――――ガシイイィィンッ!!!!≫


『!?!?』




だが神は彼女達を見捨てては居なかった様で、天の助けが現れクレアのスタン状態を解いたのだ!!

それは先程の聖職者によるモノで、御蔭でクレアはギリギリでDOPの剣を防御する事が出来た。

恐らく彼は戦いの気配を察して加勢に来たのだろう。即ちリディアの洞察は間違っていなかった。

やはりダンジョンの奥に進んでいったのは、最初から一人でDOPを倒すつもりだった為なのか……

クレアは一瞬のウチに そう思うと……彼に対する認識を改めると共に申し訳ない気持ちにもなる。

最初から一人で務めていた彼を全く信用しておらず、ましてやDOPと疑ってしまったのだから。

されど"一人"と言う事から、誰よりもミッドガルド大陸の人間達を守りたい者だと言うのは確定的だ。

しかしながら。実際の彼は傍から見ていたが、ゲームより弱い仕様だった為 加勢したに過ぎない。

例えば画面全範囲の筈であるハンマー・フォールの範囲が、かなり狭かったりしたのはさて置き。

予想に反してボス狩りPTじゃ無かったので、苦戦している様だしアシストすっかな~的な感じだ。

……とは言え此処に居た人間達は、皆がアヤトが自分達 以上の志を持つ英雄だと勘違いしていた。

そんな各々の心境を微塵にも察する事 無く、アヤトはリディア達が戦う場所へと近付くと叫ぶ。


「セイフティ・ウォール!!」

「ぅあっ!?」

「其処のLK(ロード・ナイト)さんッ! まだ耐えられそうか!?」

「だ、大丈夫だ!」

「精神的にも!?」

「先程のマグニフィカートが活きている!!」

「だったら……君はMEプリかな?」

「???? えっ?」

「マグヌス・エクソシズム」(範囲内の種族悪魔・属性不死の敵に対してダメージを与える)

「あっ! は、はい。ソレは わたくしの最も得意とする魔法ですけど?」

「だったら詠唱を頼む。今の状況だとMEしか奴を倒す手段は無いからさ」

「……ッ……ですが、詠唱中は無防備に成ってしまうので……先程の様な事が起これば……」

「サフラギウム」(変動詠唱時間の短縮)

「ふぇっ?」

「ソレなら問題無いよ……俺がちゃんとフォローするからさ。だから一刻も早くアイツを倒そう」

「!? か、畏まりましたッ! ……えっと……」

「生憎 名乗る程の者でも無いさ。ともかく話は奴を仕留めてからにしよう」

「そ、そうでしたね。それでは……宜しく御願い致します!!」

「セイフティ・ウォール」

「はああああぁぁぁぁッ!!!!」


―――― 一方リディアの詠唱により危機感を覚えたDOPは彼女に注意を向けようとするが。


「ふんっ! 貴様には、もう少し私と遊んでいて貰おう!!」

『……!!』


――――クレアに妨害されているので、配下の魔物を2・3体 嗾ける事で詠唱を止め様とするも。


「邪魔させるか!!」

『……!?』

「遠いのは……ホーリー・ライト!!」

『……ッ!』


――――近くの魔物はアヤトに殴られ。届かない魔物は魔法を当てる事でヘイトを取り邪魔させない。


『!!!!』


≪ドオオオオォォォォンッ!!!!≫


「うぐっ!?」

「リカバリー!!」

「お、恩に着る!」

「キリエ・エレイソン!!」

「(信じられん……何と言う的確な動きだッ)」


そして再びハンマー・フォールで怯んだクレアだったが、直ぐ様 回復させてしまい支援は完璧だ。

しかも今は支援を挟みつつも同時にタゲを取った魔物を鈍器で殴り続けており、全く隙が無い。

ゲームをプレイしている彼に取っては頭の中がショートカットなので、むしろ楽に成っている。

されど"この世界"のプリーストの中では、此処まで的確に魔法を操れる者は存在しないだろう。

よって誰にも妨害される事 無く詠唱を終了させたリディアは、遂に大魔法を発動させたのだった。








「マグヌス……エクソシズム!!!!」








≪――――パアアアアァァァァッ!!!!≫








『……!? ……ッ……!!!! !?!?』








直後 全員の目に入ったのは3体の天使のエフェクト。同時に地面に巨大な光の十字架が浮かぶ。

その中央に位置していたDOPは、ガリガリと光の蹂躙を受けて漆黒の装甲を磨り減らしてゆく。

だが"古の魔"は伊達では無く相当な耐久力が有る様であり……必死でモガく事で抗おうとするのだが。


「レックス・エーテルナ!!」

『!?!?』

「ホラッ! 使える人は どんどん撒いてくれ!!」

「そ、そうだわ……レックス・エーテルナ!!」

「私だってッ! レックス・エーテルナ!!」


――――追撃のレックス・エーテルナ(ダメージ2倍)により更にダメージは加速した結果。


『……ッ……』

「き、消えた?」

「倒せたみたいだなァ(ドロップはプレートか)」

「や……やれたんだわ……わたくし達が……」


遂に"古の魔"とされる"ドッペルゲンガー"は倒れ……初の"試練"とも言える"討伐"は成功を収める。

それ故にリディアは一気にカラダの力が抜けてしまい、地面にペタンとヘタり込んでしまうのだった。

ソレはクレアも同様で有り極度の疲労により尻餅をついていると、アヤトは何時の間にか近くに居た。

空気を読まずドロップ品を拾っており、ソレを持ち上げた直後 彼は注目を浴びて居る事に気付く。

此処で彼は以前の癖が抜けていなかった事を後悔する。DOPを撃破したのは自分では無いのだ。

よってアヤトは注目を浴びる中 黙ってリディアに近付くと……鎧を置いて笑顔で手を差し伸べる。


「立てるかい? 手を貸すよ」

「あッ……有難う御座います」


≪――――ぐいっ≫


「何処か痛むトコロは?」

「と、特に有りません」

「それなら良かった。じゃあコレ」

「!?(ど、ドッペルゲンガーの……鎧?)」

「(売ったりして)有効に活用すると良いよ」

「は、はい」

「じゃあ(下見も終わったし)俺は帰るね? ワープ・ポータル」

「!? そ、そんなっ! お待ちになって下さ――――あッ」


アヤトに立ち上がらせて貰ったリディアは、手の温もりを感じた時 不思議と胸が熱くなっていた。

だがドロップを持ち逃げしようとした罪悪感で居た溜まれなかったアヤトは、即ポータルで帰還する。

対して彼の名や目的が気になって仕方なかったリディアは、思わず彼を追いかけ様としてしまった。

だがアヤトがワープ・ポータルに入った時点でソレが消えてしまった事から、追う事は叶わなかった。


「……ふむ……行ってしまいましたね」

「そ、そうですね。まだ御名前を聞いていませんでしたのに」

「一体 彼は何者だったのでしょうか? まるで"古の魔"を討った事が当たり前の様でした」

「!? だとすれば……あの方は既に何度も"古の魔"を撃破しているのでしょうか?」

「可能性は有りますね。ひょっとすると我々の知らない場所で脅威と戦っているのかもしれません」

「随分と高く評価したのですね」

「あの様な戦い方を魅せられては、そう考えざるを得ませんよ」

「では……鎧をわたくしに託してくれたのも……」

「リディア様の事情を知っていたのでしょう。恐らくソレを討伐の証拠にしろと言う意味かと」

「ハァ。何から何まで"あの方"の想定の範囲内だったと言う事なのですね?」

「肯定です。もはやグゥの音すら出ませんね」

「……ッ……」

「リディア様?」

「クレアッ!!」

「ど、どうされたのです?」

「たった今……決めました」

「何をでしょう?」

「どうやら わたくしは、心を奪われてしまった様なのです」

「んなっ!?」

「故にルーン・ミッドガッツ50世の誇りに掛けて、絶対に"あの方"を見つけ出してみせます!!」

「は、はああああぁぁぁぁ~~~~ッ!!!?」


こうして周囲の心配を他所に、リディア・ルーン・ミッドガッツは"古の魔"の討伐を成し遂げた。

しかも即位して間も無かったダケでも凄いのに、18歳で撃破と言う最年少記録をも塗り替えた故に、
クレア・ジュデックスも踏まえて彼女達は国民ダケでなく貴族からも絶大な支持を得る事になった。

だが この偉業は王立騎士団ダケのモノでは無いが、一部の者達を除いて真相を知る人間は居ない。

そして常に"古の魔"と同等の脅威と戦い続ける一人の英雄にリディアが心を奪われたと言う事も。

またクレアもリディアに感化されて"彼"に対する興味が膨れてゆき……何度か元国王に指摘された。


「畜生ッ! もう一週間もGDに篭ってんのに、全然レアのドロップが無いじゃないか!!」




……




…………




……1年後。プロンテラの隅に位置する下級住宅街。


「とうとう見つけたのですね? クレア」

「はい。此処で間違い無いとの事です」


其処にチンマリと佇む酒場の入り口の正面に、2人の美しい女性が仏頂面で並んで立っていた。

彼女達は一年間掛けて ようやく捜し求めていた男性を発見したのだが……まさかの浮気である。

彼が酒場を経営しているのは良かったのだが、エルフの美女と一緒に仕事をしていたのだ!!

故に2人は機嫌が悪そうなのであり……別に恋人同士では無いが、傍から見ると そう見える。


「……ですがアレを見て……どう思いますか?」

「許せない気持ちも有りますが、容易く諦めては探した意味が有りません」

「それもそうですね」

「ともかくリディア様。重要なのは第一印象ですよ? 我々は争いに来たのでは無いのですから」

「分っています。先ずは"アヤト様"を知る事から始めませんと」

「では参りましょう……叔父様も当たって砕けろと申しておりましたし」

「!? 縁起の悪い事を言わないでクレアッ!」

「す、すみません(……自分の事の つもりで言ったのだが……)」


――――そんなワケでアヤト&エリスの寂れた飲食店に、嬉しい事に2人の常連客が増えたのだが。


「フフッ。申し遅れました。わたくしはリディア・ルーン・ミッドガッツと申します」

「私はルーンミッドガッツ王立騎士団長のクレア・ジュデックスだ。以後宜しく頼む」

「ぶフゥーーーーっ!!!!」

「(……どう言う事なの……)」


――――2人の正体を知ったアヤトは、口に含んでいたジュースを噴き出した上に盛大にコケていた。








■第二章・完■








■次回:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:騎士団■








■あとがき■
久し振りにROの情報サイトを見たらGD3Fのモンスターがゴッソリ入れ替わっていて驚きました。




■補足■


○リディア・ルーン・ミッドガッツ○
当時は18歳のプリースト。及びミッドガルド大陸の王女。やや童顔だがスタイルは結構良い。
聖職者の能力(初期パラ)は非常に高いチート人間だが、実戦の経験が皆無に等しいので微妙。
初の"古の魔"の討伐の際には出会ったアヤトにハートを盗まれてしまい、一年を掛けて探し出す。
そんな彼はエリスと一緒に店を経営しているヘタレになっていたが……やっぱり好きらしい。
故に一週間に2度は城を抜け出して彼の店に通っており、アヤトとの会話を楽しんでいる。
普段は白いドレスを着込んでいるが、戦闘時は女プリの衣装を豪華にした感じの姿で支援する。


○クレア・ジュデックス○
当時は24歳の両手剣ロード・ナイト。他の騎士達は大抵 片手剣 装備で有り大して強くは無い。
対して初期パラに恵まれていたクレアは非常に強力な騎士で有り、20歳の若さでLKとなる。
そんな彼女だが姫の世話をする事が多かった為 家事と美容のスキルが高く、王も評価している。
よって縁談の話を何度も持ち掛けられていたが、自分より強い者にしか興味は無く全て断っていた。
しかしアヤトとの出会いで自分の弱さを痛感し彼に想いを寄せる。自分よりずっと弱いけどね。
姿としては女LKでは無く普通の女騎士の衣装でOK。街を歩く時も同じ格好をしています。


○ルーン・ミッドガッツ49世○
リディアの父親で元国王。40代だがナイスミドルの叔父様。若い頃は超イケメンだったそうな。
娘と一緒に成長していったクレアの事も娘の様に可愛がっており、度々縁談の話を持ち込んでいる。
妻は既に他界しているが、毎週最低一回の嫁をオカズにしてでの自家発電を欠かさない超愛妻家だ。


○古の魔○
要するにゲームで言うMVPモンスター(ボス)の事。ゲームでは1時間で湧くので即 狩られる。
だがアルカディアの世界では10年・20年湧きが当たり前なのでボス狩りPTも存在しない。
されど古の魔は魔物を率いて都市を襲うので、リディアを中心に精鋭達が直ぐに討伐しに行く。
ボスの実力としてはオリジナルより弱くなっているが、アルカディアの人々に取っては普通に鬼畜。
ちなみにダークロードと比べるとドッペルゲンガー自体が弱いので今回は何とかなりました。


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