0083年11月13日、午前0時34分38秒。本来の歴史の流れどおりならば北米、サンベルトに落着したコロニーは軌道上で撃破され、地球へのコロニー落しは阻止された。
もっとも、コロニーそのものの落着、特に北米、アサバスカ盆地への落着が避けられたことによる地上の核物質汚染こそ無かったものの、地上に落着したコロニーの残骸による被害は生じている。しかし、コロニーがサンベルト、もしくはアサバスカへ落着していたときに予想された被害ではなく、最も大きい被害は地上へ突入した最大級の残骸が落下した、北米ワシントン州にとどまった。当初予想されていた億を超える被害が劇的に低減されたことは連邦軍の功績とされ、喧伝材料とされた。
特に、コロニー落下最終段階で造反したジオン残党部隊を撃破した連邦軍新型ガンダムの活躍は、一年戦争時のガンダム神話の再来として強く宣伝され、連邦軍の強さと宇宙にまだ根強く残る親ジオン派への攻撃材料となった。このガンダムに関する詳しい情報を、連邦政府はまだ公開していない。もっとも、これからも公開される事は無いだろうが。
連邦軍はジオン残党軍によるこのテロ活動を宇宙における連邦軍の活動強化のために用いることに決定。テロ活動の首謀者であるエギーユ・デラーズ中将の名前から命名された、この所謂"デラーズ事件"のため、連邦議会においてはジオン残党の更なる取締りを求める声が強まることになる。
「顧みよ! 今回の事件は、地球圏の静謐を夢想した一部の楽観論者が招いたのだ。デラーズ・フリートの決起などは、その具体的一例に過ぎない!また先月の13日、北米大陸の穀倉地帯に大打撃を与えかけたコロニー落しを見るまでもなく、我々の地球は絶えずさまざまな危機に晒されているのだ!」
0083年12月4日、バスク・オムの演説が響く中、地球連邦軍本部ジャブローの長い廊下を歩いていたジャミトフは一人の男と出くわした。MPの監視下に置かれたその男は、胸のバーと首及び肩の階級章を剥奪され、これからどこかに移送されるようだ。
ジーン・コリニー元大将。コンペイトウ襲撃事件で艦隊の指揮権を手放し、ジオン残党との内通を疑われた男だ。ジャミトフも元はコリニーの参謀長であったため連邦軍憲兵隊の捜査を受けたが、0081年以来コリニーの元を離れ、アフリカでの治安維持任務に力を注いできたため、関係ないもの、という判断を受けて職務に復帰していた。
「ジャミトフ……」
「閣下、今回は」
ジャミトフはそれだけをいってコリニーに一礼すると、その場を去った。両脇を抱えていずこかへコリニーを連行する、銃を抱えたMPの方は見ない。下手にかかわりを見せて再捜査の対象となるのも願い下げだった。何しろ、連邦軍憲兵隊の判断はともかく、ジオン軍残党と連絡を取っていたことは事実だからだ。下手に再捜査を受けて、それを明るみに出すわけにもいかない。ジオン残党のデラーズ事件最後の動きは、今のジャミトフを失脚させるには充分な理由だ。
「地球!この宇宙のシンボルをゆるがせにしないために、我々はここに誕生した!地球!その真の力を再びこの手に取り戻すため、我々、“ティターンズ”は立つのだ!」
バスクの演説が終わったらしい。将兵からの歓呼が響くが、別段何の感慨も沸かなかった。ジャミトフからすれば計算されたアジテーションとデマゴーグ、プロパガンダによる当然の結果でそれほど驚くべきことではない。しかし、正直ジオン残党があそこまでの動きを見せるとは思わなかった。こちら側に伝わってきた情報は星の屑とかいうコロニー落としだけで、水天の涙などという生物兵器の散布作戦は全く伝わっていなかった。
ミューゼルに借りを作ったか。ジャミトフはそう思わざるを得ない。組織の拡大を考えながら、徐々に活動領域を増やしていく他は無いだろう。ルナツーを確保してL3ポイントサイド7を基地化し、連邦への反体制運動が始まろうとしているL4ポイント、サイド2、サイド6を宇宙での管轄範囲として権力の拡大を行う。地球においては、現在のアフリカから徐々に欧州、北米へと活動の範囲を広げていけばよい。
ジャミトフの前に大きな空間が広がる。建造ドックに出たのだ。目の前には、今までの連邦軍の主力艦艇とは全く異なった設計の船が横たわっている。ジオン軍より接収した宇宙巡洋艦ムサイの設計思想を援用した、新型巡洋艦アレクサンドリア級だ。いままでのサラミス級とは異なり、完全にMSの運用を主眼として開発され建造された。12機を搭載し、単艦でのMS運用力はペガサス級に匹敵する。
ジャミトフはそのまま艦に乗り込む。MSデッキでは新型MS、リーオーに搭乗予定のパイロットたちが整列、敬礼して出迎えた。ジャミトフも答礼して其処を通り過ぎる。背面部にブースターを取り付けた宇宙用リーオー。生産性も整備性も操縦性も良い、まさに汎用の機体。供与された機体の性能を見た時には、一時GP社、そしてミューゼルの正気を疑ったものだ。こんなにも良すぎる機体を送ってくるからには、ティターンズによる地球圏の"治安悪化"を本気で考えているのではないか、と。
現在、地球各所に展開するジオン残党軍との戦闘の為に局地用のリーオー改造機を設計中らしいが、あまりにも軍備拡大が過ぎるとこちらにもコントロールできなくなりそうだ。いや、却ってそれが狙いか。バスクの演説の際にTVに映った居並ぶ軍人を見た時、地球至上主義者との関係が深いせいか、宇宙に出たことが無い如何見ても役立たずのごろつきが多かった。流石にアレクサンドリアにはそういうことは無い、と思いたい。ジャミトフは自分の艦隊にトレーズを配置する事を心に決める。あの男が戦場を上手く取りまとめてくれなければ、あの時我々はあの"二機目の騎士"と戦うことになっていただろう。
艦橋に入った。旧アルビオンクルーが出迎え、敬礼する。ジャミトフはそれに答礼すると、艦橋からドックを見渡した。同型艦らしい数隻が建造を同時並行で進めている。月面、フォン・ブラウンで完成した一番艦アレクサンドリアの成功を受け、ここジャブローでは2番艦から6番艦までが建造されることになっている。ルナツー工廠では、更なる発展改良型の研究も進んでいるとのことだ。
ティターンズの発足が決まって以来、宇宙部隊の本部をルナツーに、地球部隊の本部をキリマンジャロにするように交渉を続けているが、コンペイトウの襲撃でルナツーが微妙な結果になりつつある。まずはコンペイトウの修復を議会に働きかけ、宇宙軍総司令部の移動を願うことになるだろう。
ジャミトフは艦橋クルーに背を向けると艦橋を後にした。
第80話
全てが終わった日、11月13日早朝に大気圏突入の結果北太平洋に降下し、そのまま偵察衛星を避けるために海底を移動して樺太に着いたのが翌日夜。そこからプラントの転移装置で月に戻り、なんとか0083に関わる全てのイベントをこなし終えたトールは、0083年12月18日午後6時である今、ゼブラ・ゾーンのアンブロシア基地にて、アクシズ先遣艦隊の帰還を見送っていた。ちなみに、バスターレーザーの発射とその後の連邦軍の追撃を避けるための大気圏突入でガンダム・チートは見事大破。またぞろ"出撃=損傷"のジンクスが発動したことにキットはお怒りである。
まぁ、レーザーの威力が高まる前に熱崩壊を起こした結果、発射直後にレーザーの強化に使ったタオーステイル12枚が全損融解。熱崩壊の余波でガンダム・チートも左腕左足及び左半身全損と大被害なのだから怒りも当然である。ところで熱崩壊を起こさなければ理論上、バラン星までとはいかないけれども惑星の衛星クラスならばぶち抜き可能なまでに高まっていたと言うから正直頭が痛い。どちらにせよ、完全な決戦兵器としてしか使えなくなってしまった。ああ、何に乗ろう。
結局、あの後にコントロール艦を沈めた敵からの攻撃は無かった。大気圏に突入してしまったのも、トラクター・ビームが捉えきれなかった残骸を破壊するためで、機体の破損もあって攻撃を受ければ苦戦間違いなしだったが、なぜか攻撃を仕掛けてこなかった。振りなおしたら此方の出目が良かったから今回は撤退した、と見たいが如何だろう。
「珍しいお客さんですね」
そんな考えでアクシズ艦隊を見つめていたが、背後に生じた気配にトールは話しかけた。
「君の前に出るには、私もそれなりの覚悟がいったのだよ、ガ…ミューゼル少将」
4年ぶりにトール・ガラハウ……いや、トール・ミューゼルに再会したシャア・アズナブル―――クワトロ・バジーナは前置きの会話を始めた。
「近くに住んでいる、とはいうものの、中々に会いに行く機会も無くてね。無沙汰をしてしまったかな」
「戸籍が無いのに来れるわけが無いでしょう、クワトロ・バジーナ大尉」
ほぅ、流石にエゥーゴの動きにもおさおさ目配り怠り無いというわけだな少将。それでこそ、反対を押し切って話を持ち込みに来た甲斐があるというものだ。しかし、この話に最初に賛成をしてくれたのが私にとって最も意外な人物だったのが驚きだったが。
エゥーゴ、正式名称"反地球連邦組織"の形成は0083年12月初旬に、デラーズ・フリートの起こした"デラーズ事件"を機に結成された対ジオン残党鎮圧部隊ティターンズが、主にサイド2を管轄として反地球連邦政府運動を取り締まり始めてから、というのが公式の話だ。そして現在サイド1、サイド3、および月は独立国家の内政に干渉しない、内政不干渉の原則を楯にティターンズの介入を拒み、そうした領域でエゥーゴは徐々に広がりを見せている。ティターンズは早速の獲物として、過激派の名前と共にエゥーゴの取締りを開始した。そうした意味で、エゥーゴはその名の通り、"反地球連邦運動"であった。
しかし実際のエゥーゴはその略称と異なり、ジオン残党だけではなく地球連邦に反感を持つスペースノイドが一年戦争後のスペースノイドへの地球連邦の一部宥和政策―――"基準に達した"地域の政治的独立―――の条件を緩和させるための政治勢力として結成された。それゆえに、短期間で支持は広範に広がりもしたのだ。特に、独立の条件を満たさないとして一年戦争後の独立を諦めさせられた、サイド2以下の各サイドでは、ジオン残党とほぼ同じか、それ以上の支持を受けている。
勿論そうした行為は連邦軍の管轄にこれ以上ないくらい抵触するが、流石のティターンズといえども、地上以来数百年の歴史を持つ原則を破るわけにもいかず、治安担当区域とされたサイド2、サイド6(要するにL4ポイント)で活動する他は無い。しかし、その活動がだんだんと熱を帯びるであろうことも確かだ。
「ララァ少尉は?」
「先日、Nシスターズへの移民の手続きを。時期がよくなり次第、火星移民に入らせようと考えている。実は、子供を作ろうとせがまれてね。落ち着く先の安全を重視したい。頼めるかな」
トールの目が見開かれる。面白い反応だ。実際、ララァからその考えを伝えられた私の反応とそっくりなところが笑えて仕方が無い。パイロットなどと言う人種に息子ができると言うことの意味を知っているのだろう。この男は、褒むべき女性を妻に愛人にと抱えているにもかかわらず、そうしたところには行き着かないでいる。
危うい、と見るべきなのか。いや、違うな。クワトロは結論した。自身のしている事を考えるならば、子など作るべきではないと感じているのだろう。しかし、それでいつまでも女性が納得するだろうか。などと考えたところで自嘲した。私も、ララァ相手で無ければ子供を作ろうなどと考えたかどうかは怪しいところだ。
「それはかまいません。……本当につくるつもりですか?」
「男ならエドワウ、女ならアストライア。そういう風に、名づけるべきだと。本気だよ」
名前を告げたときに目の前の男が頭をかきむしり始めたのには笑えた。しかし、ここまでララァに見せたとおりの反応を返してくれるとは。全く、この男はどこか私と似ているところでもあるのだろうか、と思わざるを得ない。考えてみれば、そういうところにアルテイシアも好感を抱いたのではなかろうか。……だからこそ、か。しかし兄としては複雑な気分だ。相手は既婚者。いや、人の事を言えた義理ではない。それに、この先どうなるかもわからないのだ。
「……で、本日はどんな御用で」
「率直に言う。エゥーゴに名を連ねてもらいたい。既に資金面では色々とお世話になっているようだが、それだけでは不足だと考えている。ティターンズを相手にするには、戦力は必要だ。運動が拡大し支持も増えているが、戦力をつくるためには企業の支持が必要になる」
「アナハイム・エレクトロニクスがあるでしょう」
「ガンダム開発計画の封印で技術力はむしろ下がっている。それに対して君のところには、封印指定がされていないMSの技術がある。月での攻防、見させてもらった。既にAKD社、アナハイム社共にエゥーゴへの支援を約してくれている」
「AKD社?」
「フランス系。サイド1に本社を置く宙間作業用ワーカーの会社だ。君のところが小型MSとしてアサルト・スーツとか言うのを売り出しているだろう?あれの巨大版を売り出す、と」
言われた男は急に不機嫌になったように眉間をもみ始めた。そんな会社は知らない。となれば、誰が経営しているかはわかったようなものだ。あの時下がったのは、"整合性"側も戦力の再編が必要だったから、か。
「充分と思うかもしれないが、まぁ、私が実力を知っているのは一社だけなのでね」
鼻息を荒く鳴らしたトールにクワトロは笑いかける。この男の事情は知っている。ティターンズと連邦軍に主力機を収めている企業の重役といってもかまわない男が、その裏で反地球連邦組織に援助する。死の商人も良いところだと思う。しかし、現状でアナハイムだけに頼るわけにもいかない。それに、この男を動かせればジオニックも付いてくる。ジオン軍との協定について得られるところも大きいはずだ。
「今日の私は友人の見送りに来ただけです。仕事の話は後日」
「了解だ。……結局、ガトー少佐はアクシズ行きか」
トールの顔が再度顰められた。あまり良い気分ではないのだろう。自分でもこの物言いが不快感を生むことはわかっていたが、どうしても口を付いて出てしまった。
「うちにおいておいても宝の持ち腐れですからね。ジオン強硬派の権力が増している以上、ドズル閣下にも信頼できる部下が必要でしょうし」
「デラーズ閣下は残念だった」
トールは沈痛な面持ちで頷いた。デラーズは見事、あの戦場の混乱から部隊を撤退させアクシズ先遣艦隊に残存部隊を合流させたところで自害した。この紛争で生じた被害の責任を取る、というのが理由であるが、これ以上、ジオンに付き合えなくなったのかもしれないと今では思うようになっている。
「一体、この一連の紛争は何だったんでしょうね。宇宙に独立国家が出来た今、徐々にそれは広がっていくわけで、ジオンがいまさら独立を掲げて戦争をする意味は殆どなくなっていたのに」
「それでも、人は不満があれば立ち上がる。独立が建前なのは、宇宙に住むものならば肌で感じていることだ」
シャアの言葉を鼻で笑う。不満があるからといって隕石やコロニーを落すのであればそれはもはや狂人の類だ。確かに宇宙移民の政治的権利は拡大するべきであろうが、それを為すためには連邦政府が宇宙に投資した額を回収してからの話になる。彼らの住む大地はただではないのだ。勿論、現在地球で広がりつつある宇宙移民差別主義、とでも言うべき運動は問題なのだが。
「来年には火星植民事業の開始と恒星間移民計画の調査事業が始まる。正直、戦争はごめんです」
今度はシャアがトールの発言に鼻を鳴らす。宇宙移民者の政治的権利拡大と連邦政府によって一部既に始まっているジオン残党狩りを名目とした宇宙移民者の排除活動がエゥーゴの結成原因だが、それが早まったのには連邦政府内に高まる地球回帰論者、地球至上主義者とのバランスを取る事を考えた一派の勢力があるとも聞いてる。つまりは政治的対立の上に橋を渡す形での政権維持を考え、それによる冷戦状態を統治しようと考えているのだろう。
しかし、それは片方が統制を離れればもう片方もそれに対応せざるを得ないと言うことでもある。そしてそれが行き着く先は戦闘だ。シャアは地球連邦内部にある地球至上主義的な考えを楽観視してはおらず、むしろ危険視している。だからこそこの冷戦の行き着く先が熱戦以外の何物でもないと考えているが、それを経なければ人類の革新はありえない、とも考えるようになっていた。
「しかし、それなのに君はエゥーゴを援助している」
「ティターンズにはリーオーを回した関係がありますしね。MSの注文はアナハイムやそのAKD社とやらにどうぞ。うちはエゥーゴから注文を受け付ける気はありませんよ。暇がありません」
「ガンダム―――君のところが一番開発経験を持っている。是非、頼みたいのだが」
ガンダムという単語を聞いてトールは顔を歪めた。その表情の変化を、ガンダムを開発しつつもジオン軍として戦った経緯からガンダムに対して複雑な思いを抱いているのか、はたまた、と想像を逞しくする。実際、エゥーゴの象徴としてのガンダムは必要な存在であり、デラーズ事件の経緯を考えれば、あの事件の最終局面で活躍した二機のMS―――二機の"騎士"―――を開発した能力・技術・設備を持つGP社との連携は必須だ。
問題は、そのGP社の最高責任者が私に対して複雑な感情を持っているということか―――シャアはその考えに苦笑した。人の事を言えた義理ではない。
「本格的に動くといってもまだ時間はあるだろう。おいおい考えていく、ということでよろしいですか」
「確かに。まだ組織を作る段階だからな」
アクシズ先遣艦隊がデラーズ・フリートの残存勢力を引き連れ、アクシズへの航路を取ったところでトールは身を翻した。見送りは終わったのだ。先ほどから一度もこちらを見ない相手に対し、シャアは鼻で笑うとそのまま宇宙へ視線を向けた。
ふと、ガラスに映った迎えに来たらしいあの少女が目に入った。一年戦争の際、こちらに見せた敵意は消えており―――いや、こちらの存在を視界にいれていないのだろう。それに―――――
それに、再会と無事を確かめ合っている男女の邪魔など、今はするべきではないだろう。どうやら、あの二人にも私たちと同じ何かがあったようだ。失い得ないものを持っているが故に、其処に絆が生まれるのだ。強さではなく弱さゆえに、というのがまた皮肉ではあるが。
シャアの視線を気にする事無く、トールは迎えに来たらしいハマーンと抱擁を交し合った。シャアは知らないが、正式に退院できたのはトールがアンブロシアに向かった翌日で、そこからすぐに後を追ったのだ。トールは集中治療室で眠るハマーンを見舞って以来、連邦軍少将としての通常業務と事件の事後処理に忙殺されていたため、意識を取り戻したハマーンとの再会は、これが初めてになる。再会の喜びもひとしおだった。
シャアは寄り添う二人の横を通るとデッキを後にした。
世にデラーズ紛争と呼ばれる、0083年年末の三ヶ月にかけて起こった一連の事件は、ここに終焉を迎えた。ガンダム開発計画についての技術的成果は封印され、開発元のアナハイムに残っていた情報も封印の際に大部分が接収された。後に、このガンダム開発計画の情報が取り戻され、その一部がエゥーゴと呼ばれる反地球連邦政府運動の際に用いられることになる。
ここで、関係するもの、及び組織のその後について、簡単に筆を裂こう。
ジョン・コーウェン中将。ガンダム開発計画の責任者。ガンダム開発計画の所産であるGP02によるコンペイトウ核攻撃の責任を取って少将に降格後退役。指揮下に編成予定となっていた第三軌道艦隊となるはずだった戦力は、そのまま第9艦隊に編入された。
ジャミトフ・ハイマン少将。第9艦隊司令。0084年1月を以て第9艦隊がティターンズに改編され、ルナツーを司令部として発足した。第9艦隊の戦力に、コンペイトウ事件で戦力が低下した第5、第7艦隊と第三軌道艦隊の戦力を編入され二個艦隊規模となった大兵力は、ジオン残党軍を多数抱えるとされるサイド2、サイド6からなるL4ポイントを担当する。
バスク・オム大佐。ティターンズ第一艦隊司令に進んだが、味方の犠牲を是認するその姿勢は問題とされ、昇進までには進んでいない。その姿勢は当然部下にも伝播し、ティターンズは連邦軍に比して同階級でも先任権を得るだの、通常の命令系統に属していないなどの軋轢を増していくことになる。
トール・ミューゼル少将。84年第二四半期に月第一艦隊司令から、連邦軍月方面軍司令、中将に昇進する。デラーズ紛争後期においてはジオン残党軍によるグラナダ・マスドライバー基地占拠を即座に殲滅し、更にそれが月第二艦隊をデラーズ・フリート追撃に出す戦力差の中でのものであったこと、及び、的確な補給部隊の運用でコンペイトウからの退避部隊を援助したことが評価されての結果であった。
"ソロモンの悪夢"ことジオン軍少佐アナベル・ガトー。アンブロシアより戦艦グワデンにてジオン残党拠点アクシズへ向かう。0084年8月12日到着。そのままドズル・ザビ大将指揮下に加わる。地球圏にいまだ残存する残党との協力体制を背景にしていると噂され、アクシズ内の強硬派及び穏健派の争奪の的となった。
コウ・ウラキ連邦宇宙軍少尉。11月13日午後20時21分。胴体だけとなったGP03ステイメンと共に静止軌道宙域で回収される。事件後、ドック艦ラビアンローズでのGP03強制徴集が連邦法違反に問われるが判決は無罪。戦時昇進の中尉登録を抹消の上、北米オークリー基地へ転任となったが、0084年、月への移民を申請。極冠恒久都市N5に居住、84年編制の月方面軍所属となる。
ジョシュア・ブリストー少佐及びアンソニー・パーマー大尉。第32戦闘中隊はデラーズ事件中の不明機との戦闘により壊滅した。しかし、84年の連邦軍改組と共に再編制され、ティターンズに参加。補充要員を加え、現在はキリマンジャロ基地所属である。
アントン・カプチェンコ中佐。戦後、ムサイ級巡洋艦"キンメル"艦橋から回収された書類により、コロニー迎撃戦後半になってからレーザー砲艦への最初の攻撃を仕掛けた部隊が、通称"ゴルト隊"と呼ばれ、指揮官の名前がカプチェンコという名の中佐であることが判明した。0084年1月12日、静止軌道上で残党部隊の捜索掃討活動にあたっていたティターンズ所属巡洋艦"ブルネイ"が金色のリック・ドム改造機を回収。遺物よりカプチェンコ中佐搭乗機と断定されるが、行方不明のままである。
ゼロ・ムラサメ少尉。0083年11月13日、コロニー残骸迎撃の戦闘を連邦軍投入の新型ガンダムと共に行っていたところを最後として、彼のRX-78NT1FAフルアーマー・アレックスは消息不明となった。半年後、静止軌道上のデブリ回収業者が損傷・遺棄された同機を発見するが、コクピット・ブロックに直撃弾を受けており死亡判定が下された。
デラーズ紛争は、歴史上第二のコロニー落とし作戦であり、且つ又コロニー落としが避けられるものとなったと確認された作戦でもあった。ブリティッシュ作戦の際、落着するコロニーを最後まで撃破することが適わず、連邦軍作戦本部にはコロニー落下が始まり、その軌道が変更できない状況に追い込まれてしまえば阻止行動をとろうとも結果は同じであるとする風潮が生まれかけていたが、これを払拭した歴史的事実は大きい。
特に、コロニー落着をソーラ・システムとプラズマ・レーザー砲艦の混成部隊で撃破する作戦を立案したジャミトフ・ハイマン及びトール・ミューゼル両少将の評価は高く、ジャミトフ少将のティターンズには高い期待がかかることとなる。これに対し、ミューゼル少将の功績は、アナハイム・エレクトロニクス社のドック艦ラビアンローズで軍規違反ギリギリの強制徴発に踏み切り、処遇が取り沙汰されていたエイパー・シナプス大佐の問題と相殺される形で等閑に付された。
但し、ジオン残党軍の支作戦である"水天の涙"作戦がその後の調査で生物兵器の散布作戦であったことが明らかになると評価は一変する。この結果としてNシスターズ駐留の第一艦隊、フォン・ブラウンの第二艦隊とグラナダの第三艦隊をあわせた、連邦月方面軍が編成された。後に、"月連邦"の形成と惑星間移民はこの時に始まったと記録されることになる。
------------To be Continued "Gundam Cheat Destiny"?