接近するドラッツェを上手くいなし、ビームライフルに備え付けられているジュッテを使って撃墜したGP01はソロモン近海でジオン残党軍と接敵し、現在交戦に入っている。アルビオンはソロモンのWフィールドに展開し、トロイホースはNフィールド、艦隊の直上付近に展開している。
「ここも違う、ガトーは何処にいるんだ?」
「こちら警備艇4号敵の襲撃を受け……うわっ!」
そこに敵に攻撃を受けたらしい味方の通信が入る。コウはGP01を操ると、その報告の入った宙域に機体を回す。早く探さないと、観艦式を行おうとしている艦隊が攻撃を受けてしまう。レーダーに反応。今度はザクだ。2機編隊で共にマシンガンを装備しているらしい。味方のマーカーがそちらに向かう。三機編隊だから、ベイト中尉の部隊らしい。そちらに機体を向けると横合いからベイト小隊を援護する体勢をとる。
「ウラキ!後ろだ!」
ベイト中尉の通信。背後から迫る新たな機影。脚に増加ブースターをつけたらしい高機動型ザクが迫っていた。そのままスパイクアーマーで体当たりするが、逆にスパイクのほうがへこんでいる。ルナ・チタニウム製の装甲を、超硬スチール合金のアーマーでは傷つけられなかったらしい。しかし運動エネルギーの伝達がGP01を突き飛ばす。
「くうっ!」
運動エネルギーを背面部のユニバーサル・ブースト・ポッドで相殺したGP01は、そのままブースターを加速して一旦は離されたザクとの距離を詰めると、コクピット直上にビームライフルを当て、射撃。ザクは直後に爆発した。
「ウラキ!撃墜された警備艇の方に向かえ!其処にガトーがいるはずだ!キース!お前はウラキを援護しろ!」
バニングからの通信にコウは頷くと、機体を警備艇が撃墜されたNフィールドへまわす。GP01のスラスター出力を使って一気に加速するキースが遅れるが、今は仕方ない。
「了解しました!コウ・ウラキ少尉、これよりNフィールドに向かいます!」
「うわっ、コウ、置いていくなよ!チャック・キース少尉もわかりました!」
第52話
「この海から何度、連邦の目をかいくぐって出撃したことか……」
ガトーはGP02にソロモン近海の暗礁宙域を進ませながらつぶやいた。遠くに見えるのは懐かしいソロモンの影。自分の古巣が見える。もっとも、一年戦争初期に親衛隊に所属を移したため、過ごした期間はわずかだったが、自分のパイロットとしての初の任務をこなした場所でもあるため、感慨は深い。
「こちら警備艇4号敵の襲撃を受け……うわっ!」
通信回線に敵の通信が入る。どうやら、陽動部隊はうまくやっているらしい。GP02の周囲を固めるサイクロプス隊が、直衛のカリウス軍曹の部隊と共に散開する。どうやら、新たな敵の警備艇を見つけたようだ。通信を送る前にガルバルディのビームライフルが敵機を撃墜した。
「すまんな、大尉」
「少佐、お早く。時間が押しています」
一発で敵機を撃墜したシュタイナー大尉に礼を送るが、すぐさま返答が帰ってくる。確かにそうだ。まだ任務が終わったわけではない。急いでこの機体をソロモンに向かわせねばならない。このときのために、私の3年間はあったのだと思う。残骸を越えて移動したところに反応。機械音らしきノイズが通信に入る。
「自動砲台!?」
「気付かれたか!?」
カリウスのリック・ドムⅡがMMP-80マシンガンを構え、即座に撃墜する。しかし、それに反応したらしい近辺の自動砲台が次々と装備しているらしいミサイルとビーム砲を放ち始めた。即座にサイクロプス隊が散開し、次々に自動砲台を撃墜する。発見の知らせを送る前に撃墜できたようだが安心は出来ない。
そのとき、また一つ残骸を越えたGP02のカメラに今まで出くわしたのと同じ自動砲台が映る。砲台の上下に設置されたカメラがピントを接近する機体に合わせると同時に、近くの砲台を通じて撮影した映像をコンペイトウへ送り始めた。最初こそは高速で移動しているために画像が鮮明にはならないが、ピントが合わさり、カメラに機体が視認される。
「またか!」
熱感知ミサイルが放たれ、ガトーのGP02は回避運動を開始する。しかし、その回避運動のせいで遠距離攻撃兵器を持たないGP02の姿は完全にカメラに捕らえられてしまった。ガトーは舌打ちするとビームサーベルを引き抜き、自動砲台を破壊した。しかし、それと同時に上空から数本のビーム光がGP02めがけて降り注ぐ。
「ええい、今度は上空からか!」
GP02を発見したらしい連邦のジム小隊、それに後方から迫る、黒い機体―――いや、濃い緑色の機体が見える。他のGMたちが推進剤の光を蒼く走らせながらこちらにスラスターを吹かせ向かってくるが、緑色の機体は手近な残骸や隕石を足場に、飛び石伝いにこちらに向かってくる。護衛を勤めるサイクロプス隊とカリウス軍曹の小隊が射撃を開始するが、GMには直撃しても緑の機体には当らない。
「アレが核を装備したガンダム!」
東方不敗マスター・アジアのクーロンガンダムだ。但し、ガンダムではないと偽装している為、機体名称はクーロンとだけ呼ばれており、大分時代がかった外観もあってか、トロイホース艦内ではかなり微妙な視線で見られていたことは言うまでも無い。トールから中佐待遇の遊撃部隊として配属されているため、コンペイトウ鎮守府の決定した空域を守っているネオ少佐、セルゲイ中佐の部隊とは分かれていたため、この空域に即座に向かってこれたのである。
当然そのような事どもを気にするマスター・アジアではない。彼の前にあるのは核ガンダム―――GP02の核攻撃阻止だけ。変則的極まりない軌道を取りつつ、徐々にGP02との距離を縮めてくる。ガトーは包囲網を即座に壊囲することができないと悟ると、ビームサーベルを抜いて手近なジムに接近する。
「手間取っては……大事に障る!」
ビームサーベルで即座に一機のジムを切り払う。胴体部分を溶断され、ジェネレーターにビームのエネルギーが引火して爆発。爆発の衝撃波を避けるためにシールドに身を隠すGP02。しかし、その隙を狙ってクーロンガンダムが迫り、蹴りを放つ。シールドに当たり、大きく後ろに後退するGP02。距離が開くが、逃すまいとクーロンガンダムは残骸や隕石を足場にしながら飛び石伝いにGP02に迫る。
「なかなかやるな若造!ガンダムファイト……レディ……」
「ゴー!」
クーロンガンダムがGP02へ第二撃を放とうとした瞬間、シュタイナー大尉のガルバルディがクーロンガンダムに体当たりし、隕石に押し付ける。そのままスラスターを全力で吹かすと、激突した隕石ごとGP02から離れるコースをとって距離を稼ぐ。この機体の危険性はかなりのものだと即座に判断した結果だ。
「少佐!お早く!時間がありません!」
「大尉!すまん!」
その言葉と共に離脱を図るGP02。機体を押さえつけるシールドを合気道に近い動きでいなし、ガルバルディを交すとクーロンガンダムは後を追おうとするが、ガルバルディ2機が前に立ちふさがり、後を追わせない。いなしたシュタイナーのガルバルディが後ろにつき、2機の包囲を突破した場合に備える。三機は共にビームサーベルを抜いた。
「ミーシャ!バーニィ!少佐を援護!ここは俺たちに任せて行け!」
「隊長!」
「了解しました隊長!バーニィ、行くぞ付いて来い!」
通信が入ると共にGP02に追随するケンプファー。プロトケンプファーのほうも数秒逡巡した後、ケンプファーに続いて離脱を始める。スラスター出力に余裕のあるケンプファーらしく、速度はGP02に次ぐ速さだ。しかし、
「逃さん!」
クーロンガンダムの袖下から伸びるビームの布。マスタークロスがバーニィのプロトケンプファーの脚に絡みつくと、そのまま隕石に叩きつける。背面から叩きつけられたプロトケンプファーは主要スラスター類を全損し、物言わぬむくろとなって宙域を漂い始めた。激突の衝撃で脳震盪でも起こしたらしく、バーニィの機体は動かない。もっとも、主要スラスターを全損しているため、AMBACを使ったとしてもかなり動きにくいだろう。
「バーニィ!あの新型を止めろ!少佐のもとに行かせるな!」
「「了解!」」
編隊を組んで向かってくる三機のガルバルディ。東方不敗マスター・アジアは背後に消えつつあるGP02を気にしつつも、包囲網を狭めて離してくれないガルバルディを見据える。GP02の機影が隕石と残骸に隠れて見えなくなる。
「トールの恐れていた、システムのいっていた整合性という奴か、アクセル!抜かるでないぞ!」
そういうとマスター・アジアは三機のガルバルディに向かって機体を動かした。
「また新型か!」
先ほどの格闘専用の新型を抜けた先には、蒼いカラーリングのガンダムに似た顔をもつ機体が待っていた。アクセル・アルマーのアースゲインだ。カリウスのリックドムが前に出るとガトーに叫ぶ。ガンダムに近い顔つきをしているため、これも連邦の新型機と判断したためだ。いけない。ここで新型相手に時間を稼がれ、攻撃のチャンスを逃してはならない。
「少佐!お急ぎを!コンペイトウへ……いえ、ソロモンへ!」
「頼む!」
「これ以上は行かせねえ!ロケット・ソウルパンチ!ってな!」
ガトーが返事と共に全スラスターを吹かしたのを確認したカリウスは、部下に命じて新型機―――アースゲインとガトーの間を塞ぐ形に出る。合図と同時に三機はマシンガンを一斉発射した。
勿論アクセルの方もガトーがここで戦うよりも核攻撃の方を優先することは見越しているが、護衛とある程度は離さないと追撃戦が出来ない。虎閃掌の実装が「ばれては困る」、と不可能だったため、ソウルゲインから借りる形で実装した玄武剛弾を放つ。もっとも、完全なロケットパンチにしてしまえば誘導技術の出所を疑わせかねないため、有線でコントロールしているというアリバイ作りに玄武剛弾にはワイヤーがつけられている。
放たれた腕部はカリウス機の脚部を破壊。熱核ロケットエンジンを粉砕し、カリウス機の機動を低下させる。カリウス機の動きがスラスター出力の急激な変化に対応できずにコントロール不能に陥る。しかし、すぐに機体のコントロールを回復させるとマシンガンによる射撃戦に切り替えた。小隊所属の2機のリック・ドムⅡもそれに続く。
しかし、その射撃はアースゲインの動きを止めるほどではない。そもそも三機のリック・ドムⅡが装備しているMMP-80マシンガンの90mm機関砲弾ではアースゲインの装甲は貫けない。機動が低下したことで、また他の2機の腕前がカリウスほどではないことで、カリウス小隊の脅威が減った事を確認したアクセルはGP02の追撃を開始する。
「ガトーはやらせん!」
「なんだよその化け物!?」
その言葉と共に放たれる大口径メガ粒子砲。隕石に直撃し、その膨大な熱量で即座に融解、破砕する。溶けかかった隕石がアースゲインに次々と命中し、レーダーに誤反応を呼び起こす。続いて機関砲らしき砲弾がアースゲインの周囲に着弾し、残骸や隕石に命中して破片を散らす。これでは、レーダーがGP02を捉えられない。
「ケリィか!すまん、カリウスを頼む!」
「さっさと行けガトー!お前とまた戦える今日この日を無駄にさせるな!放つんだ、ソロモンへ!」
そういうとヴァル・ヴァロは続けざまにメガ粒子砲を乱射し、アースゲインにGP02を追撃させないように一定空域に縛り続ける。動きが一定空域内で止まった事を確認したケリィはプラズマリーダーを放った。アースゲインを取り囲むように残骸や隕石に突き刺さり、放電用のアンテナを開放する。
「新型の撃墜は狙わん!ただ、足は止めさせてもらう!」
「くそっ!ちょいなああっ!」
その言葉と共に放電を開始するプラズマリーダー。三機の発振機が強力な電圧の、即席電子レンジを作り出す。アースゲインは回避を試みるが脚を捕らえられ、電撃に掴まった。アースゲインの電子機器が悲鳴を上げ始め機体のコントロールを失わせ、一部の気体が吸収しきれない電力はアクセル自身にも伝わり、動きが出来ない。そこに、ヴァルヴァロがクローアームを伸ばし、その手にアースゲインを捕らえて隕石に叩きつける。
「しまった!?」
「舐めるな!ヴァル・ヴァロだぞ!」
クーロンガンダムとアースゲインの防衛線を突破したガトーはシールドの裏側からアトミックバズーカ用の砲身を取り出すと片に構えた本体とドッキングさせる。螺子式の自動接続システムが働き、砲身をバズーカに固定する。装填された核砲弾が薬室に送りこまれ、発射態勢が整った。
「待ちに待ったときが来たのだ……多くの英霊が無駄死にでなかったことの証の為に!」
そのまま機体の全スラスターを目一杯に吹かすと、ソロモンへの接近を再開する。その速度は任務の必要に充分応え、GP02に速度を与える。進撃するGP02が第5艦隊の輪形陣の外延部に到達した。前進配置をされていたピケット艦が迎撃のための砲撃を開始するが、ガトーはそれを避け続ける。敵中に入り込んでの核攻撃を前提としたGP02は、核攻撃直前の機動性を確保するために各所に大型のスラスターを装備しているため、回避は容易だった。
また、目の前にいる艦隊は主力となり始めている新型のサラミスではなく、一年戦争前半の設計で作られた旧型のサラミスだ。旧式ゆえにピケット艦として配置されているわけだが、ミノフスキー粒子下での砲撃戦に対応しているのがOSやFCSなどのソフトウェアだけになっているため、砲撃に精度がない。放つが次々にかわされる。
そのまま艦隊の直上にGP02を移動させる。全力出力のスラスターが生む激しいGが体に襲い掛かるが、ガトーに気にした様子はない。これぐらいのGなど、これから起こることの重要性に比べれば如何と言うことはない。目標は、観艦式の観閲艦である、第5艦隊の旗艦。新造戦艦バーミンガムだ。
狙いをバーミンガムの艦橋部分に当て、照準が固定されるのを待つ。こちらの動きを捉えきれていないのか、不可思議なことに連邦艦隊からの対空砲撃は驚くほどに少ない。ふ、3年の平和とわれらスペースノイドへの優越感が、連邦をしてこうも腐らせるか!
「再びジオンの理想を掲げるために、星の屑、水天の涙成就の為に。ソロモンよ!!私は帰ってきたァ!!」
「させん!」
「何!?」
真下から伸びるビームの光。布状のそれは砲身に直撃する。直撃の衝撃直前に引き金は引かれており、薬室から砲弾が砲身に送り込まれ、砲弾背後の推進剤に点火。砲身内部を砲弾が進み、今まさに砲口から発射されんとしたときに激突は生じた。しかし、吐き出された砲弾との相対速度から、射撃そのものは当然として、狙い通りのコースから大きく射線を反らすことは出来なかった。
「しまった!?」
「ちぃ!砲撃を反らせなかったか!」
砲身に直撃したそれは爆発することこそなかったが、砲身を上に跳ね上げる。直撃と同時に放たれた砲弾はそのコースをわずかに変化させ、第5艦隊の旗艦からその弾道を逸らしていく。
下から現れたのは先ほどサイクロプス隊と交戦に入ったはずの緑色の機体。なんだと!?この短時間でサイクロプス隊の包囲網をかみ破ってきたと言うのか!?ええい……いかん!核砲弾の衝撃波が来る!ガトーは攻撃を覚悟し、シールドに身を隠す。砲撃のために姿をあらわにしたため、ソロモン周囲の暗礁宙域から離れている。この近くに身を隠せるような場所は無い!
ガトーのGP02にクーロンガンダムがまさに手刀を放とうとした、まさにそのとき。コンペイトウ近くに位置を占めていた、分遣艦隊の旗艦らしいマゼランの近くで轟音が生じた。勿論、宇宙で音は聞こえないが、その音は確かに響いた。
次の瞬間、ソロモンを中心に閃光が生じた。