おはようございます、皆様。新婚生活を満喫しているミツコ・イスルギ……ミューゼルです。
現在時は宇宙世紀0079年10月30日朝6時。朝6時の連邦軍樺太基地ですの。隣にいるのはこの基地の司令で連邦軍のMS開発を取り仕切っている夫のトール。つい先日、お得意様から夫に変更いたしましたの。意外と体、逞しいところは評価出来ますわ。
10月12日に約束を取り付けた?私は早速連邦軍のゴップ大将に報告すると一緒に、結婚の根回しと問題にならない様に手はずを整えていただけるなら、連邦議会のグリーンヒル派に献金させていただくことを確約してあげましたの。ゴップ大将にはとても喜んで頂いた上に、せっかくの慶事に戦争のため、お祝いにいけないことを御詫びしていただきました。
軍需企業の専務が、連邦軍の軍需関係の方と結婚なんて問題がありませんこと?なんて水を向けてみますと、軍需関連企業は何社もあるから、早々独占に近いことをしなければ大丈夫じゃよ、と太鼓判を押してくれました。
それからが大変でしたの。連邦軍の方々から次々にお祝いの連絡が舞い込んできまして、わたくしと言うものを射止めたトール・ミューゼルという名前は、連邦財界に広く知れ渡ることになりました。夫は頭を抱えていましたけど、名前が大きくなれば影響力も強まりますし、面倒だったら他の名前に変えたら?と言ったところ頭を抱えてうんといってくれましたわ。
副官のカトル少尉さんが、「それって、うんうんうなりだしたの間違……」とか言い始めましたので、にっこり笑顔で銃を突きつけるとおとなしくなってくれましたの。流石夫の副官。空気を読む能力は夫以上ですわ。以後仲良くしてくださいましね?
財界に与えた影響力が大きくなったこと、連邦軍の技術関連の部署とつながりが明確になったことで、軍需の世界で我が太洋重工の先行きは明るくなりましたの。それに、夫に関わっていけば、後々火星や他の天体のテラフォーミング市場にも食い込めることは確かですし、木星での行動も自由です。宇宙の軍需を仕切る夢も、いいえ、それだけではなく、宇宙に冠たる大企業になるのも、この世界なら適いそうですわ!
あ、そうそう。ジオン側に現地妻がいるらしいですが、先に既成事実を作ったほうが勝ちなのは何処の世界でも変わりませんの。まぁ、夫の顔もありますし、わたくしよりも先に夫と関わっていた面もございますから、週に4日は譲って差し上げてもかまいませんとはおもっていますけど、順番は守ってくださいませね?あと、ふさわしい人間かどうか、調べさせていただきますわ。まぁ、出る杭は叩けともいいますでしょ?
話がまとまりましたので、早速札幌郊外に待機させておいた、武装エレカを小樽港から樺太に向けて積み出しましたの。勿論、千歳空港に待機させておいた社のミデアでも並行して輸送させましたわ。おかげで、樺太基地には移動式の有線対MS用ミサイルランチャーを装備した高機動車が多数配備され、我が社が開発させておいたジム用ビームライフルを運ばせたところ、不思議なことにジム・コマンドとかもうします新型の電力供給口と規格があいまして、ビームライフルの運用が可能になりましたの。全く不思議ですわ。
これには夫もびっくりでしたわ。まぁ、ジム用のビームスプレーガンを見ておりますから、どんな規格かは存じておりますし、樺太にはたくさんのお友達がおりますから、そのお友達から伝えてもらいましたことも中には入っておりますが。おほほ……そんなスパイだなんて。婚約者の素行調査なんて普通ですわよ?
あ、そうですわね。話がそれましたわ。13日には樺太に入りまして、夫の部下の皆様に自己紹介をさせていただきましたところ、皆様にはびっくりされましたわ。一昨日には何もなかった夫の指に、銀色の指輪が光っているんですから。……別に変なものなどついていませんわよ?そんなものをつけるなんて趣味を疑いますわ。だって、わたしの指にも同じものが光るんですのよ?
第18話
ベッド脇で下着姿でどこかを向いてしゃべっているミツコさんをおいて服を調え部屋を出た私は、明後日に迫ったジオン軍の攻撃をどうするかを考えざるを得なかった。というよりも、そちらに無理やり思考を向けていたと言っても過言ではない。やっぱり黒か、という感想もおいておく。
……まぁ、抱えていた生理的な問題には解決がつきましたけど。
実際、賢者モードとは良く言ったモノである。落ち着いて考えてみると、MSばかり考えていて、それ以外で可能な対策の方まで頭が行っていなかった。太洋重工からミツコさんが持ち込んだ車両群は、移動式の対空砲や対MSランチャー、対空散弾など、防空用に数がほしいものばかりだった。ここのところ、どうやら前々からこちらのことを監視していたらしいと推測できたが、やはり恐ろしいと思わざるを得ない。こちらの見落としを上手く塞いでくれている。
……まさか、あの言葉どおり、本当に夜があんなことになるとは思いもしなかったのだが。専務業でストレスがたまっているのだろう。痕が残っていなきゃいいけど。ミツコさん、半袖チャイナなんて好んで着るから、扱い難しいのに。
頭の中の桃色パウダーをどうにか振り払い、ジオンに戻った時にどうするか、恐らく確実に待っているだろう地獄を想像しつつ司令室にはいると、かなり微妙な表情で部隊の方々が迎えてくれた。
「少将!うちと同じく今日も元気にヤ……ブッ」
とりあえず、空気を読まないことこの上ないパトリック・マネキン中尉を基地司令とクロスボンバーしたところで会議を始める。どちらがネプチューンマンでどちらがビッグ・ザ・武道かという問題もあるが、今は如何でもいいだろう。撃墜されても帰ってくるのだから、肉体言語ぐらい如何と言うこともあるまい。
連邦軍が確保しているアンカレジから南下して陸路バンクーバーを経由してキャリフォルニアベース近くに入ったスパイ(バイオロイド兵)からの報告(量子通信)によると、ヒープ攻撃隊は、明日10月31日の夜にキャリフォルニアベースを出発し、11月1日払暁、樺太に対する攻撃を開始するとのことだ。
輸送距離が長いため、ガウの強みである爆弾投下は、その分を推進剤にまわしているそうだから心配する必要はないとのこと。但し、翼におさめられたメガ粒子砲は脅威だ。上空から砲撃してくるメガ粒子砲対策を話そうと思っていたら、現実に帰ったらしいミツコさんが入ってきた。流石に連邦軍の制服だ。
恐ろしいことに彼女、連邦軍の軍籍まで確保していたのである。階級は中佐。
階級をおそろいにしたのに、すぐ離されるなんて思いもしませんでしたわ、とか言っていたが、絶対に嘘だ。あの目は完全にこちらが将官になることを見越していた目だ。将官には当然参謀が複数名つくから、その中の一人に居座ることを考えていたことは間違いない。
そこまで考えてホッと胸をなでおろした。今のところ参謀役になってくれる女性士官は既婚のマネキン准将のみ。他に佐官で女性の参謀待遇の者はいない。MSパイロットやオペレーターに女性は多いが、彼女らとは働く場所が違う。
「二号さん以降には必ず面接をさせていただきますわ」とか言っていたが、面接する前に絶対に何かをする気なのは明らかだ。何でこんな事まで心配する羽目になっているんだ。
「大丈夫ですわよ?メガ粒子砲については解決済みですわ」
へっ、と顔を上げた。
「持ち込んだ対空砲の砲弾に、撹乱幕散布用の砲弾も用意しておきましたから、上空からの砲撃については無視してかまいませんわ」
なんと用意のいいことで……呆れた視線をミツコさんに向けるが、他の列席者、特にMSパイロットたちはため息を吐いて感心している。おいおまえらだまされるな。この女性について今抱いた思いは思考の誘導を受けているぞ!
「あとは地下搬入口ですわね。潜水艦の使用予定がないのでしたら、防潜網を仕掛けた上で機雷源にしておきましょう。今から時限式に仕掛けていけば、戦闘が終わったあたりで自爆してくれますし。基地内に入らないように色々細工も出来るでしょう?」
ため息を吐いてイスに深く腰掛けた。どうやら、私は完全に頭がいかれていたらしい。こんな簡単な対策すら思い浮かばないようではおしまいだ。かなり、アムロ准尉との戦闘や、肉体的欲求がたまっていたりと、負担となっていたらしい。かなり落ち込む。ミツコさん、あなた優秀すぎます。
「司令官は方針を定めてどっしりと構えるものですわよ。こんなアイデア、出した所で実戦に役立つかはわかりませんもの。やっただけ、変なことが起こる可能性もなくはないのですし」
気を入れ替えるべきか。
「確かにそうだな。撹乱幕を上空に散布してしまっても、風で流されるから継続して打ち上げる必要がある。それに、上空に散布すると言うことは、こちらも基地内での戦闘でビームライフルの使用が制限される。後期型じゃないガウでの降下だから、陸戦用MSにドムがいない。けど、もし海中からゴッグが上がってくれば、対抗策が少ない」
ミツコは良く出来ました、とうなずいた。
「MS戦闘用のバズーカはホワイトベースに格納してある分だけですの?基地にはあります?」
ネイズン技術少尉が口を開いた。
「あるにはありますが、ゴッグの装甲を考えると有効な打撃かは微妙なところです」
「ガンダム用ビームジャベリンの規格を手直しして、ジム用に変更してありますので、ある程度、距離を以て有効に戦えるとは思います」
そう発言したのはテム・レイ技術大尉。10月15日付で、正式に樺太基地配属のMS開発研究課主任を拝命していた。実際話してみると、サイド7からのガンダムの運用に深く関わってきただけでなく、父親としてアムロの相談にも乗っていたようだ。
テレビ版などでは技術にのめりこんで家庭を省みない父親として描かれているが、そもそも戦争を前にした軍隊でそんなあまっちょろいことを言ってはいられない。開発に役立つ人材がいるのなら、予算と権力と肉体の限界が許す限りこき使うのが基本方針だ。
しかし、一旦開発され、しかも開発施設が襲撃を受けて使い物にならなくなり、脱出した先の船でやることなどMSの整備ぐらいしかないとくれば、当然メカニックである以上、パイロットと多く接する機会を持つようになる。技術士官であるとはいえ、軍人である以上は軍人としての教育を受けているわけで、戦争と言う事態に放り込まれたアムロを精神的に支えてくれてもいるようだ。このあたり、テム・レイの性格と言うのは、ほとんどが酸素欠乏症に陥ったところか、仕事に疲れてストレス満杯のところで印象が構成されているのかもしれない。
勿論、日本に来たことで母親のカマリア・レイとも再会し、無断で軍に入れたテム・レイを責める一幕もあったが、懇切丁寧に国際法と戦時法を説明すると、納得はしていないが、仕方のないことだったとは理解してくれたようだ。
あとは本人の気持ち次第なのだが、下手に面倒見の良いヤザン少尉が面倒を見、怪我から復帰したライラ少尉が戻ると、原作でマチルダ・アジャンに向けた恋心をライラに向けよった。好きな人、助けてくれた人が戦うから、戦う、とある意味純粋に戦いに向かっている、ということは良かったのかもしれない。
というか、完全にシアトルで敗北した理由はヤザンの訓練の結果だろう。UC最強のオールドタイプがUC最高の素質を持つNTの一人に訓練を施せばそうなる可能性は高い。まさか、早々にそうなるとは思いもしなかったが。とかなんとか思いながらアムロを見ると、先ほどからミツコさんに視線が固定されている。何処を見て……ブッ!?
「とりあえず、このぐらいで会議は散会しよう……」
「ジャベリンの方はどうします?」
話をはぐらかされた格好になったテムがたずねる。いやおじさん、僕それどころじゃないんです。
「それは大尉の好きにしてくれて良い。相性の良いパイロットがいたら持たせてくれ」
それだけ言うと司令室からミツコさん以外の人たちを追い出す。アムロ君が名残惜しそうにこちらを見ていたが、とりあえず無視だ無視。
「どうしましたの?そんなに慌てて」
「スカートの裾から見えている。中佐、コレからは冬になるから、ジャケットとロングパンツにした方がいいな」
そう言われるとミツコさんも気づいた様で、かなり顔が赤くなっている。こういった反応は、あの会話から感じられるようなどす黒い雰囲気は感じないから、女性と言うのはつくづく怖いと実感させられた。
「准尉がジロジロ見ていたのはそういうことでしたのね。興味があるのかしら?」
「少なくとも、『密会』や『ハイ・ストリーマー』にはそう書いてあったな」
ミツコさんはそう聞くと声を立てて笑った。
「変なことばかり覚えていますのね?でも嫌いでなくてよ、そういう記憶力は」
手に終えんと手を上げた。あ……ちょっと……ココ……
なんか、桃色具合がかなり進行していないか、と思えて仕方ないが、何とか直前にジオンに顔を出すべく、10月30日、あの後で戻ってまいりました。
そして、地獄の門がアイタッ!
プラントに設置したパッシブジャンプゲートをくぐった瞬間、月面で待ち伏せていたハマーン&プル中隊に捕獲。強すぎるNT能力がもたらす思い出リーディング機能でプライバシーは破壊されました。
しかも間の悪いことにシーマ艦隊および遊撃隊が帰還&休暇中。現在、会議室に入れられて、本来なら誰も入る事のない、机で囲まれたあのスペースで正座しています。
「弟と一ヶ月会っていなかったら結婚だと言われた」byバラライカ
「弟と半月会っていなかったら結婚だと言われた」byシーマ
「婚約者が一日離れていただけで既婚者になっていた」byハマーン
あなたたちとは別に半月でなくとも通信で連絡は取り合っていたでしょうが、とか、ところでいつ僕はカーン家と婚約を取り交わしたのでしょうか?と内心では突っ込みを入れているが、流石に口には出せない。どんな事情であれ、通信で伝えなかったのはまずかった。と思ったら、内心リーディングをかましてくれたハマーン様が密告を開始。
……黙秘権はないそうです。
但し、感じたことが100%相手に伝わるNT能力は、少なくともコミュニケーションの一手段としてはものすごい利便性があるなぁと感じました。だからといって理解にまで達しないのは、私がここで正座をしているのを見ていただければ理解していただけると思いますが。やっぱりNTになったからといって人が革新するとか言うのは嘘だよなぁ。
「ハマーンのリーディングで、お前にも若干の情状酌量の余地があることはわかった」
なぜか上座に座っているソフィー姉さん。流石にシーマ姉さんも手が出せないらしい。
「まったく、進めていた計画が台無しだ。忙しい中をぬって準備を整えてきたというに」
「あれかい!?年齢がある程度はなれているのがいけないのかい!?」
悪役っぽく(実際そうだが)笑いを浮かべるソフィー姉さんに、アラサーを気にして年齢の違いを思うシーマ姉さん。あのね、年齢なんて持ち出したら、僕今100歳超えてますけど?
「なんにせよ、今からの二ヶ月が大事だと言うことはわかっている。シーマ、ハマーン、いいな?」
久しぶりに葉巻をくわえたソフィー姉さんの言葉に全員が直立不動で答えた。あ、ロベルタまで。おーい?張さん、あれみんなどうしたの?おめめをそらさないでよ。ぼくのせいじゃないよ?
「この件は一年戦争後に棚上げだ。戦争が終わった後で、泥棒猫と一緒に心逝くまで話し合いをしようじゃないか」
首をものすごい勢いで縦に振る列席者たち。字が違うような気がしてならない。
「でもねぇ、お前たち。男はそう言う生き物さ。タマっちまえばツっこむしかない。こいつは頭が回るし、女性の趣味もなかなかだから、さぞ期待できる女傑だろう。楽しみで仕方がない!そうだな、軍曹!」
「はい、大尉殿!」
「トール」
「イ、イエッサー、マイシスター……」
今の彼女に逆らってはいけない。私の持つ弱いNT能力でさえそう感じることが出来る。……ああ、時が見えるとはこういうことか!?……飛んでくるのがこの3人とか、シュールすぎる。
「そいつがどういう奴かは良くわかった。こちらも対策を取らさせてもらう」
「ヤー」
「シーマ、手伝いな!ハマーン、捕虜の尋問任せたよ!」
恐ろしい事態になってしまった……どうしよう。
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キャラがどういう人間を知るのかに、google様の助けを借りることが読者の皆様には多いかと思いますが、お付き合いください。