0079年10月4日。現在地はシアトル市内。
目の前ではホワイトベース隊の攻撃を受けたガウが炎上し、その矛先をドーム球場に横たえたホワイトベースにむけている。予定通りだ。
「ガルマ、聞こえていたならば、君の生まれの不幸を呪うがいい!」
展開しているザクⅡ三機のうち、1機が撃破され、1機がガンキャノンと正対。1機残ったシャア少佐のザクからの通報で急行したガルマ航空部隊が、ホワイトベースが背後に来るような位置関係にシャアの誘導でおびき出される。そして一斉砲撃。TV版、「ガルマ散る」そのままの光景だ。
しかし、かなり意外な光景になっている。
降下した三機のザクに立ち向かったのはガンダム2号機とガンキャノン。そう、話どおりなら出撃していないガンキャノンが出撃しているのだ。ホワイトベースの監視をさせているヘルマンからの通信だと、ガンキャノンがさらに一機、ガンタンクも1両出撃している。一体誰がアムロと一緒に戦っている?
現在、私は生身のままでジープに乗りつつこの戦況を確認している。軍服ではなく、平服の上にポンチョを羽織っているだけだ。身体能力としては、この作戦に入る前にポイントを使ってガンダムファイター能力を付け加えたから死ぬ確率は少なくなっただろうが、流石に直撃はまずい。一日で復活できるとは言え、ストーリー展開が時間単位になってくるこういった話の流れでは、一回死んで月に戻ると、都合1週間は動きが取れなくなってしまう。
おぅ、後方からの射撃に気を取られたザクがガンダムのバズーカで沈んだ。しかし、ホワイトベースの射撃の腕もなかなかだ。上手く面制圧射撃になるようにしてあるから、一定空域に入り込んだドップに撃墜が連続している。MS隊のガウに対する集弾も良い。ホワイトベースの射撃が面制圧になっているのに対して、上手くガウに対する射撃を集中させている。
「なに、不幸だと!?」
「そうだ。君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ……はっはっは……」
「シャア!謀ったな、シャア!」
よし、お決まりのセリフが出た。
「ゲルト、ガルマを確保して脱出!暴れるようならスタンガンで気絶させろ!」
「了解!」
ブラスレイター・フェニックスへと変身したゲルトがすばやくジオン軍の制服を脱ぎ捨て、ガルマに対して腕に融合させたスタンガンの電極を当て、気絶させる。脱出用のハッチから空中に身を躍らせた。ホワイトベースの砲撃は特攻をかけるガウを避ける事に集中するあまり、数が少なくなっている。
「着地!ガルマ大佐は無事!」
「よし、変装させて死体袋に詰めた後、麻酔をかけてバンクーバー島へ移動!そこでハルシオを待て!乗ったら樺太で会おう!」
「了解!」
後始末はつけねばなるまい。
「何処まで今の私でやれるか……見せてもらう。ガンダム!」
隠してあったゲルググのところまで戻ると、私はゲルググを起動させた。
第16話
現状、ここでガンダムと戦う必然性はない。しかし、ランバ・ラルがいないことでこの後に恐らく違った展開を見せることになるだろう―――そして、それは恐らくTV版よりも凄まじいことになるだろう―――ことを考えると、アムロの能力を把握しておく必要がある。
勿論、理由はそれだけではなかった。まだNTとして覚醒したばかりのアムロが相手だが、彼のように戦場で苦労し、自分の力で能力を勝ち取った人間とは違い、私自身はチートポイントで能力を勝ち取ったに過ぎない。自分の実感として、何処まで自分の能力がNTに通じるものかを知っておく必要がある。特に、この先にシャアとの戦いを避けられない可能性があるとするならば。
シャアが後退するのを確認したと同時に、ホワイトベースへの帰還を開始したガンダムにアサルトマシンガンを発射する。
「まだいた!?それに新型?」
「アムロ!ホワイトベース発進、各機、アムロを援護!機体を収容後、すばやくここを離れる!すぐにジオンの援軍が来るぞ!カイ、ハヤトは援護射撃!ヤザン少尉……頼みます!」
一機のガンキャノンがこちらに向かってくる。射撃が正確!?よくもここまで!ヤザンが帰ってこなかった理由がこれか!
「了解したぁ!ルナツーでの借りを返してやる!」
面倒見が良い性格上、軍人でもない若者たちが戦うホワイトベースを見捨てられなかったのだろう。ライラ少尉は負傷もあってマチルダの補給で帰って来ていたが、ヤザンは樺太寄港までホワイトベースに残ると言い出したのだ。
「ガンキャノンとは、いい選択だ!」
ゲルググのスラスターを吹かすとまずはガンキャノンに接近。中距離砲撃戦用のMSだが、ヤザンは上手く肩、脚を用いて接近戦にも対応してくる。しかし、接近戦用の武器がないことは致命的だった。
「まだ甘い……それっ!」
ビームサーベルを回転させて前に突き出していたビームライフルとキャノン砲の砲身を切り落とす。切り落とすと同時に頭部に蹴りを入れようとしたときにそれは起こった。
「こなくそぉ!」
ヤザンが切り落とされたのもかまわず、短くなったキャノンを撃ったのだ。一発は外れ、一発が頭部に近づいていた右足に命中。損傷自体は少ないが、機体のバランスを崩す。上手い、流石だ。この数日でかなり腕を上げている。
「アムロ、行けぇ!」
「わぁーーーーーーっ!」
ビームサーベルを構えたガンダムが迫る。シールドで防ぐが、流石に熱量にはだんだん耐え切れなくなり、Z.O合金製のシールドが融解を始めた。このままではシールド裏面のミサイルに誘爆しかねない。
「良くやる!」
すばやくガンダムの足元にミサイルを全弾撃ち込み爆発させると、爆風を抑えるために身をかがめたガンダムの背部を蹴って距離を取る。爆風が収まったと同時にシールドを構え、ビームサーベルをこちらに向けて突進してくる。
「ヤザン少尉は後退してください!ここは僕が!」
「無理するなアムロ准尉!ホワイトベース、砲撃!俺を巻き込んでかまわん、撃て!アムロ、後退しろ!」
ホワイトベースの方も当然二人、もしくはヤザンを見捨てるという選択肢はない。
「砲座!前方の敵MSに向けて精密照準!アムロやヤザンに当てるな!カイ!ヤザン少尉を回収して後退!ハヤトは砲撃!右舷メガ粒子砲、狙え!いそげっ!」
このままここにとどまっていては砲撃の良い的だ。ゲルググを前進させてガンダムと刃を交える。ビームサーベルのエネルギーがはじけ、火花を散らす。
「まだこの時点では、対応できるか!」
少々厳しいかもしれないが、今の時点でのアムロの能力には充分対応できそうだ。背後に回るとガンダムを蹴りとばす。調子に乗って追撃でもかけてやろうと思った瞬間だった。
「よくも、ヤザンさんをっ……」
一連の無駄のない動き。それと共に発生するプレッシャー。操縦桿を持つ手が凍る。クソ!?動かそうという意志が腕に伝わっていないのか!?プレッシャーの正体って、他人の思考に干渉することで相手の動きを止めることか!?
「こ、こなくそおーーーーーーーーーーっ!」
ガンダムがエネルギーを残したままのビームサーベルを投げた。刃を出したままのそれがコクピットへ向かう曲線を描いている!うえっ、直撃!?え、反応が遅い?まだ戻っていないのか!?クソ、動け、動け動け動け動け動けっ!
「ラースエイレム!」
ラースエイレムを使い、数秒間時間を止める。避けてはアムロに疑問に思われかねないと、焦りつつも冷たくなった頭で判断し、脚のスラスターに直撃させ、爆発を起こす。ゲルググはバランスを崩して瓦礫にたたきつけられた。ただ当たっただけではなく、脚部のスラスターに直撃したようだ。
「これが、NT能力か?……プレッシャーというのか!? マジで機体が止まったぞ!?クソッ、この段階でRFゲルググ持ち出してチート機能まで使わねばならんなど、洒落にならん!さっきのビームサーベルの投擲も、……サイトロンの補助を受けているのにっ……」
距離が取れたことでこちらに射撃が集中し始める。ガンダムも追撃をあきらめて後退に入ったようだ。ここまでか。
「パイロットLvを5まであげてこの体たらく……クソッ。本格的にポイントのみでの戦力向上も考えなくてならないな……というか、本当にシロッコまで能力あるのか?」
ゲルググのスラスターを吹かすと瓦礫を上手く利用し、その場を離れる。このまま先に向かったゲルトを追ってハルシオで樺太に向かおう。実感した。宇宙世紀のパイロットは化け物だ。ポイントを使ってさらに強くなる、自分を鍛えなおす、政治面など対応が出来ない面での介入に重点を置く。……今回得られた教訓は多い。今の時点の能力で光る宇宙に介入しようなど、世迷言だとわかったのが一番の収穫だ。
クソッ!
こぶしを強くシートにたたきつける。コンソールの一つにひびが入った。肉体強度がガンダムファイター並に強められているのだから当然だが、今はそんなことは気にすることもない。
自分の慢心さ加減に腹が立ってし様がなかった。良いMSとチート機能を使って浮かれていたのだ。サイトロンの思考を読み取る特性をつかってもあの投擲には対応できなかった。簡単だ。相手にしてきたのが艦艇に訓練未了の二人のオールドタイプでニュータイプじゃないから?
いや、そうじゃない、私自身だ。問題なのは。チート機能を使って、それが使えない同類に力を振るって調子に乗っていたのだ。クソ、顔から火が出そうだ。
わかるべきことも、今の段階で知るべきこともかなりわかったのが収穫だが、精神的にはかなり、来たな、コレは……。確かに、これほどの能力が宇宙に出るだけで得られるというふれこみなら、ジオニズムが広がるのも無理はない。しかし、これでは。
「これでは、オカルトもいいところだ!」
どうやら、素の私自身は根っからのオールドタイプらしい。
潜水艦ハルシオにもどり、ホワイトベースに先行して樺太に戻ると、「トロッター」艦長としてエイパー・シナプス大佐が着任していたため、基地の指揮権を一時委譲。損傷したゲルググと共に、ワープ機能を利用して月面へと帰還した。ガルマは、早速コールドスリープ状態に落すと、翌日届いたイセリナ・エッシェンバッハと共に木星へ送付する。敗戦が決定した段階で覚ませば良いだろう。
流石にキシリア機関の目があったため、反ジオン軍のゲリラを援助していたエッシェンバッハ、ロサンゼルス市長の身柄はどうにもならない。イセリナにしても、娘一人捨て置いてもかまわないとキシリアが判断し、イケナイ気持ちを出したキシリア機関の男性がハリウッドの高級住宅街でことに及ぼうとした段階で確保しただけの話だ。勿論、代わりの死体と、反ジオンゲリラの仕業に見せかけて住宅は吹っ飛ばしておいたが。
10月6日。目の前のTVからは予定通りのギレン閣下の演説が響く。
「我々は一人の英雄を失った、しかしこれは敗北を意味するものか!? 否!始まりなのだ。地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか?諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ!一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して何度連邦に踏みにじまれたかを思いおこすがいい!ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由の為の戦いを神が見捨てる訳はない」
そして、お定まりのセリフ。
「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!?」
「シャアのせいだよ」
とりあえず突っ込んでみた。流石にこんなことを他の人間には聞かせられないから、アムロに負けたショックを言い張って閉じこもった部屋でのことだ。視界の一定部分がつねにピンク色に占められ、部屋のそこかしこにオレンジ色が目に付きますが。あれ?おかしいな。鍵かけたのに。
ガルマ国葬は予定通り行われ、ドズルがガルマの身の安全を守れなかったとしてシャアの軍籍を剥奪しようとしたが、キシリアが介入し、「戦死確率が高い」と言い張って、キャリフォルニアベース所属の潜水艦隊司令に抜擢した。もはやどうなるかは疑うべくもない。
しかし、月面でのハマーン&プル中隊とのエンカウント率が異常。敵の存在を感知する能力を人の居場所を感知する能力として……ああ、F91でもシーブックが使ってたな。つか、バイオコンピューターの補助無しで出来るんですか。やっぱりNTはチートだろと改めて思いました。
それに、自分の状態を確認したら、基礎能力と経験は別らしく、MS戦闘経験なんていう、新しいステータスまで出てくる始末。詐欺じゃないか、これ?そりゃシロッコクラスの能力あろうと、Lv.1じゃボロ負けも納得だよ!
まぁ、女性特有の優しさか、こういったときになにも言わずにいてくれるのはとても有難い。レコアさんあたりに「男は、女性を抱きしめるための道具としか!」とか批判されそうだ。だけど、そりゃあなた、惚れた男がシャアやシロッコっているところでどうよ?そもそも男って、甘えたがりだから、何も考えずに女の子に抱きつきたくなることもあるよ?許してくれるかは別問題だけど。……ああ、だから抱き枕市場が成立するのか。あ、いい匂い。
「よしよし」
「よしよし」
「よしよし?」
プルシリーズに慰められながら聞くギレン演説はシュール過ぎました。
さて、予定通り不死身の第四小隊がアリューシャン列島、アッツ島近海でホワイトベースに合流し、陸戦型ジム3機と陸戦型ガンダムで構成される戦力を受領させると、10月中に「ブランリヴァル」を樺太に移動させるから、三隻編成でオデッサ作戦に参加するよう、レビル将軍から通達が来る。
第13独立部隊の指揮官が私にされてしまったので、「トロッター」を旗艦とし、「ブランリヴァル」の艦長をヘンケン少佐(昇進)に御願いした。シアトル戦で指揮を取っていたのが如何見てもパオロ艦長ではなくブライトだったのは、大気圏突入から、北米でのガルマによる迎撃の間にブリッジに被弾し、パオロ艦長が負傷していたためと判明。ただし、史実のような重態ではなかったが、大事を取ったと説明された。ちょうど良いので樺太でパオロ艦長を降ろし、ブライトを大尉に昇進させて艦長に正式任命する。
ペガサス級の艦籍番号は、強襲揚陸艦型でSCV、宇宙戦闘用の改装を受けたものでSCVAと混乱しているが、この歴史では一番艦ペガサス、二番艦ホワイトベース、三番艦トロッター、四番艦サラブレッド、五番艦ブランリヴァル、六番艦スタリオン、七番艦トロイホース、八番艦アルビオン、という命名順となり、艦籍番号も改装が終了次第、SCVAに統一されるとのことだった。
現在、第13独立部隊にはそのうち三隻が配属されているが、四番艦サラブレッドが月面近海での通商破壊任務に予定されている他は、六番艦までの建造が始まっている。七番艦以降が未定、と言うことだったので、樺太工廠での七番、八番艦の建造を提案。ジャブロー工廠ではビンソン計画を主眼にサラミス・マゼラン両級の建造を進めるように提案した。
恐らく、オデッサ作戦にはホワイトベース、トロッター、ブランリヴァルの3隻で出撃することになるが、そうなると樺太基地の管理を誰に任せるか、と言う問題が生ずる。プラントが存在する樺太基地の管理を連邦軍の軍人に任せるわけには行かないため、シトレ大将を通じて特務作戦集団より何人かの軍人を融通してもらうとして書類を調えてもらった。
「で、私が呼び出されたわけか」
「まぁ、そう言うことになります。旦那さんは?」
カティ・マネキン准将は鼻を鳴らした。
「あいつのことです。新型のMSのところにでも行っているのでしょう」
そうおっしゃられますが、どうみてもドアの後ろに誰かがいるような気配がありますが。流石犬属性。あの根性は見習うべきなのだろうか。腕は確かなんだが……。
「流石にパトリック・マネキン中尉にMS隊の指揮をお願いするわけにも行きませんので、本基地の防衛に関してはネオ少佐と協力して事に当たってください。プラントの使用に当たっては量子通信システムを用いて私まで許可を求めるように」
「了解しました」
久しぶりにキャラクターを獲得。基地司令として使える人材は、レディ・アン氏の暴走が怖かったのでマネキン准将に御願いし、流石に寂しそうだったので不死身のコーラも一緒に。ネオと組ませて防衛を御願いする事とした。まぁ、エンデュミオンの鷹に不死身さんがいればどうにかなるだろう。
第三次降下補給で送られたMSにゲルググが含まれ、オデッサ作戦にまで一部が参加するだろうことを受けて、早速後期生産型ジムとしてジム・コマンド地球用の生産を開始し、第一に我が部隊への配属、余剰生産分が生じてから、アジア側から進撃するグエン中将のアジア方面軍へ導入することを伝達する。
MSの性能向上型の出現が早まったことで、一年戦争を数で押した連邦らしく、ゲルググやギャンといった高性能機に比するMSが連邦側には少ないところが問題として生じてしまうが、コレは仕方ないのかもしれない。最悪、ジムⅡの投入で収まる事を願うしかないだろう。
今回は、マネキン夫妻にポイントを使った以外はやはり、自分のパイロット能力を上げるように用いた。