真・恋姫†夢想 とんでも外史 ~北郷 一刀 意識群~ ■ そして外史は始まるのだ???「流れ星……? 不吉ね」朝の陽光に紛れて空を切り裂く彗星を見上げて、美しい金色の髪をまとめた少女はそう言った。揶揄でもなんでもなく、そう思った。そしてそれが正しく、大陸に落ちた不幸だとは、流石に神ならぬ彼女は知り得ぬ事だったのである。 ■ 荒野に立つポリエステル目覚めた時、彼の視界に広がったのは見渡す限りの荒野と地平線。先に見えるちょっとした山岳のようなものが、中国を連想させるがどうにも此処に自分が居る経緯が把握できなかった。だが、思ったほど、彼には動揺は少なかった。それは、祖父が口を酸っぱくして教えてくれた『冷静を保つ』という事を思い出していたからかもしれない。とはいえ、如何に冷静であろうとも、現実として荒野に放り出されてしまうとぼやきの一つが出てしまうのは仕方が無いだろう。「どこだ、ここ……っ!?」胸中をため息と共に吐き出すと、途轍もない頭痛。一瞬にして、見たことも無い景色、人、世界が脳裏にフラッシュバックしていく。余りに突然で、不可解な出来事の連続に、北郷一刀はついにその膝を折って蹲った。「ぐぅっ! こ、これは……?」脳裏には今も、間断なく様々な情報の断片が送られてくる。『華琳!』『春蘭!』『秋蘭!』心なしか、幻聴まで聞こえてくる。『桃香!』『愛紗!』『鈴々!』いや……とても幻聴とは思えない。頭の奥底から、ガンガンと響くように訳の分からない名前のようなものを叫ばれて一刀をその場で頭を抱えてしまう。『雪蓮!』『蓮華!』『冥琳!』叫びは止まず、むしろ大きくなり頭痛は治まる気配が無い。全身に酷い汗を掻き、空いた手で胸を掻き毟る。自分の身体に、何か途轍もない変化が起きたことだけは分かるが、それ以外は何も分からない。『麗羽!』『美羽!』『月!』『恋!』『白蓮!』『貂蝉!』『美以!』『翠!』そして、良く分からない危機を感じて頭がフットーしそうな一刀は、荒野の真ん中で獣のように咆哮した。「あ"あ"あ"あああ"ああ"ああ"ぁぁ"ぁ"ぁあ"あ"ぁぁあ"あぁ"ああ"あ"ああ"あ"あ!!!!!!」 ■ アニキ達の幸運誰も居ないと思えるような荒野の片隅で、三人の男が咆哮を聞き汗を流していた。「あ、アニキ! 本当にあいつを襲撃するんですかい!?」「な、なんか身の危険を、か、感じるんだな」自分の隣に居る二人の舎弟の言葉に、アニキは心の中で頷いた。ハッキリ言って、目を付けた男は近づくに連れて異常な様子なのが分かったのである。いきなり蹲ったと思ったら、頭を掻き毟るわ胸をまさぐり始めるわ挙句の果てに虎のような声量で咆哮を上げて今では地面をゴロゴロと無様に転がって移動しているのだ。ぶっちゃけ、アニキ的には既に関わりたくない相手になったのだが曲りなりにもアニキは舎弟を二人持つ、一人の男でありリーダーであった。ここでイモ引いちゃ格好がつかない、と思いながらも今は地面に向かって頭突きを繰り返して唸り声を上げる男に向かうのはなんというかこう、嫌だった。「アニキ!」「あ、アニキ!」「うう……い、行く、いや……」人知れず、一人の男を危地に追いやりながらも、一刀の奇行はしばらくの間続いた。結局、アニキは意地やプライドよりも、保身に走ることになる。これがこの上なく正答であったのは、彼らが知る由も無いだろうが。アニキ達にとって、この選択は確かに幸運といえたのでは無いだろうか。 ■ 北郷 一刀は静かに暮らしたい「ハッ……ハッ……!」荒い息を吐いて、大の字で寝そべる一刀。永遠に続くかと思われた頭痛は、しかしあっさりと引いた。いや、正確にはめちゃくちゃ苦しんで時間の感覚がおかしくなり、死を覚悟するほどの苦悶を味わったがそれでも、今では全然という訳ではないが引いている。しかし、一刀にとって本当の戦いはこれからだった。頭痛が引いたのは良い、ディモールト良い!しかし、もう一つの謎の声達は止むことが無かったのである。『もう一度、俺は帰ってこれたのか! また華琳に会えるのか!』『やりなおせるのか、雪蓮! 今度は君を……必ず守る!』『桃香! 愛紗! そんな……せっかく皆と頑張ってきたのに、戻ってしまったのか……っ!』歓喜の声を上げる者、新たな決意を抱く者、良く分からないが、嘆いている者。他にも『ああ、麗羽のやつ、大丈夫かな、心配だ……』など心配する声を上げる者や『この辺は蜂蜜あるかな……』などと暢気な声を上げる者や『貂蝉……くそ、お前が居ないと俺は……』と、悲観している者が頭の中で大合唱を始めたのである。たまらないのは、頭痛に喘いで物理的干渉を受けた一刀である。押し寄せる幻聴が留まることを知らずに、むしろ天井のぼりだ。ふと、声が止む。一刀はようやく幻聴が止んだのかと、深く息を吐いた。「なんだよ、なんなんだこr『うおおおお! 自分の意思で動けないっ!?』『なにぃ!?』『マジだ! 俺の身体なのに俺がうごかねぇ!?』『どういうことだ! 俺じゃないのか!?』『それよりも、さっきから聞こえる幻聴はなんだ!?』一斉に喚きだした幻聴たちが、再び一刀の頭の中で騒ぎ立てる。この時点で、温厚で優しいと言われる男、北郷一刀は久しぶりにブチ切れた。「うるせぇぇぇよぉぉぉぉ! なんなんだよ、この声はよぉぉぉ! 超いらつくぜぇ~~~! クソックソッ!」もう頭のほうから聞こえてくる幻聴は、母なる地球へのヘッドバンディングでさえ退けたので彼は怒りに任せてそのまま地面に、しこたま足を振り下ろした。地団駄を踏むことくらいしか、今の彼に出来る抵抗は無かったのである。 ■ 星風凛、ぶらり旅継続「なぁ、あれは何をやっているのだろうな?」「さぁ~? まともな神経では無い狂人かも知れませんね~」「酷く興奮をしていますね、こんな何も無いところで……何をやっているのでしょうか」「それは最初に私が聞いたのだが……ふむ、まぁいい、我等は先を急ぐとしようか」「そうですね~、特に放っておいても問題は無いでしょうし、先を急ぎましょうか~」「そうですね」一刀を遠方からチラチラと見ながら、3人の少女達は旅の続きへと戻っていく。ほんの少しだけ、彼が何をあんなに憤っていたのか気になりつつも基本的に面倒は避けたほうが、旅を続けやすいことに聡明な彼女たちは気付いていたからである。仮に、彼に構っている間に最近にあったと噂される陳留の刺士の物取りに巻き込まれては溜まった物ではない。そう判断され、哀れ一刀は荒野に放置されることになった。 ■ 呼称、北郷一刀意識群「つまり、俺は俺で、お前たちは一度、俺の前にこの世界を経験した俺って事か?」自分で言っていて頭がおかしくなりそうだった。ようやく冷静さを取り戻した一刀と、脳裏に突然住み着いた大勢の俺の脳内 in 俺。脳内の俺たちも、当初から比べて随分と落ち着いていた。暫し話し合って分かったことを纏めると、脳内に居る声達は全員が『『『『『『『『『俺は北郷一刀、字は無いから好きに呼んでくれて構わないよ』』』』』』』』』』と、合唱した。誰一人として一字一句、タイミングすら狂わずに会わせてきた。リアルサラウンドというレベルじゃなかった。とにかく、彼らはこの荒野に突然降り立った自分と同じ名前を名乗った。しかも、さっきから騒いでいた原因は、前にも同じ事を経験をしているからだと話してくれた。そして、この荒野が広がる場所は、遥か昔の三国志と呼ばれる舞台でありその有名武将たちと、脳内の北郷一刀は共に過ごし、乱世を過ごしたという。脳内のある俺は天下を取った、ある俺は天下二分計をその手に掴みとり大陸に平和を導いた……とにかく、脳内に居る俺の分だけ物語の数があり、活躍があり、そして結末があった。それは、話を聞くうちに、とても作り話や嘘を言っているのでは無いと分かってしまう。つまり、自分が極度の精神病に陥ってなければ、脳内の彼らの話は真実という事になるのだ。「……はは、何言ってるんだよ、お前ら、正気なのかよ……」『俺は冗談でこんな事は言えないよ』『俺も……それに、君だってもう、疑ってなんかいないんだろ?』脳内の彼らは、実に北郷一刀という人間を分かっていた。そりゃあ同一人物なのだから、分かっていて当然なのかもしれないが正直言って、自分には黄色い救急車が必要だと言ってくれたほうが安心できた。こんなこと、とてもじゃないが受け入れられる筈が無い。「……どうすりゃ良いんだよ、俺に、何をしろっていうんだよ」『そうだな……とりあえず、魏、いや今は陳留の刺士をしているだろう曹操に会いに行こう』『おい、待て、魏の。 ここは呉に行くべきだ。 曹操の傍は彼にはきっと辛い』『いや、幽州に向かおう。 桃香なら絶対に受け入れてくれるからさ』『なんだと、この野郎、呉も蜀も魏に負ける。 それに華琳の傍は辛くなんか無いって、自分を成長させてくれる最高の女の子だよ』『あ? どう考えても魏の方が死亡フラグたってるだろ、それに呉だって、冥琳や祭達のおかげで成長は出来るよ』『おい、二人とも争うなよ、魏も呉も、少し血の気が多すぎるよ』『じゃあ俺の居た麗羽……袁紹のところにしたらどうだい?』『『『『『それは無い』』』』』『なっ、お前らな、麗羽だってやる時はやるんだぞ……ちょっと、馬鹿だけど、可愛いんだぞ』『月の所にしよう、それがいい』『ああ、月か、可愛いよな、守ってあげたくなるっていうか』『『『『そうだな! 特にあのメイド姿が!』』』』『じゃあ月のところに……』『俺としては、もう一度白蓮を助けてあげたいな……』『え、お前、白蓮の陣営だったのか?』『ああ、白蓮……一所懸命でさ、支えてあげたくて、頑張って大陸の半分は取ったけど 最後の決戦で俺は死んだから、どうなったのか分からないけど、な』『『すげぇ! 詰みの状態で良く大陸の半分を……』』『……今の俺なら、きっとその位は』『呉は寝とけ、夢でなら勝てるかも知れないから』『売ったなこの野郎、買ったぜ魏の!』『やめろよ! 見苦しいぞお前ら!』『蜀の、お前はちょっといい子過ぎるだろ!』『なぁ……皆、南蛮は』『『『『『『あそこは暑いからな、嫌だよ』』』』』』……シリアスに悩む一刀(本体)を他所に、わいのわいのやり始める脳内俺達。この会話で気付いたが、魏と呉の仲がすげぇ悪い。いや、気にするのはそこではなくて。「あのな、一言いっとくけど、曹操とかなら分かるけど真名……?だっけ。 それで話されても俺には全然わからないぞ」『そうだったな、俺達はこっちで慣れてるから……』『それに、俺は呼んでも良いって言われた子以外の真名は呼んでないからな、一応』『『『『『『まぁ、基本だよな』』』』』』 「ぜってーお前らこの時代に染まってるよ!?」『……へへ』「照れるなっ! 別に褒めてねぇし!?」なんだか悩むこと自体が無駄に思えてきた一刀(本体)である。良くも悪くも、脳内に住み着いた俺達のおかげで、寂しく無かったというのもある。そこまで考えて、一刀(本体)は現実に帰れたら、医者にかかる必要があるのではないかと本気で心配したのだが。『それより、ここに何時まで居たってしょうがないよな』『そうだな……それで、俺を動かせる俺は、何処へ向かうんだ?』「俺は……そうだな」脳内の俺達の会話を聞いていて、一つ疑問に思ったことがある。魏や呉、蜀を初めとして、大きな勢力の名前は一通り上がった。けれど、今現在のこの国の名を挙げる人物は一人としていなかった。「なぁ、一つ聞いていいか?」『『『『『『『『『ああ』』』』』』』』』「三国志ってことは、帝って……いや、漢王朝はあるんだよな?」 ■ 曹操、荒野で将星を見る既に時刻は夕刻を過ぎ、夜の帳が落ちようとしていた。結構な数の兵も動員したというのに、結局犯人はおろか、手がかりすら掴めなかった。完全に見失ってしまったのである。知らず、彼女は唇を噛み締めて握る拳は震えた。それは、珍しく彼女の失態であったからだ。「華琳様」「春蘭、戻るわよ」「……御意」それだけ言うと、華琳は馬へと跨り、荒野を駆けた。過去は戻らないのだ。この失態は必ず取り戻す。気持ちを切り替えるように、手綱を握る手がふいに緩まる。「華琳様、どうされました?」「……秋蘭、あれは何かしら?」「は……」尋ねられた秋欄と呼ばれた女性は、華琳の視線の先に顔を向ける。少し小高い丘の上で、一人の青年が岩場に腰掛けて夜空を見上げていた。黒い髪に、見たことも無いような白い服をその身で包み、ともすれば何処かの良い所の貴族のようにも見える。やや、泥に塗れた格好ではあったが、それがワイルドな雰囲気を醸し出していた。その横顔は、少し憂いを帯びており、こう言っては珍しいと言われてしまうだろうが、少し格好いいとも思った。暫し秋蘭と呼ばれた少女は男を見やっていたが、華琳に尋ねられて居た事を思い出すと、簡潔に言った。「男のようです」「……ふふ、少し鬱憤を晴らす機会が訪れたかしら、行って見ましょう」「あっ、お待ちください華琳様! 一人では危険です!」ああ、また悪い癖が出たのだろうか、と秋蘭は思いながらも前を駆ける華琳と自身の姉、春蘭に追いつくために、一つ手綱を引き絞るのであった。 ■ 証明式:種馬*n=xxxその頃、北郷一刀の意識群は、洛陽へ行く道すがら、小高い丘で休憩を取っていた。そして、脳内で花を咲かせていたのである。『な、だから俺はその時にゴマ団子を持って行ったんだよ』『へぇ』『それで、どうなったんだ?』『はは、俺の浅はかな考えに甚く嬉しがってくれて、いい雰囲気になったよ』『押し倒したのか?』『『『『『『え、合意も無しに押し倒すとか、駄目だろ』』』』』』『なんだそれ、話聞く限り、雰囲気的に押し倒せるよ、その位の勢いがないと』『しかし無の、俺としては押し倒すよりも押し倒される方が、その、萌える』『俺も俺も』『だよな』『でも、押し倒すのも楽しいかもな』『あー、そういえば麗羽は押し倒されたい願望が地味にあったなぁ』『『『『mjk』』』』『まぁ、むこうの麗羽はね、此処ではどうだか分からないけど……』「なぁ、童貞の俺に、そういう話をするの、無遠慮だと思わない?」本体が身体全体に影を作りながら力なく呟いた。『『『『『『『『『大丈夫だよ、俺達がついている』』』』』』』』』「納得していいのか疑問だ……」『……よし! やっぱ帝なんて良いから魏に行こう!』『今の話で盛りやがったな、魏の』『うるせぇ! どうせお前ら全員そうなんだろ!』『『『『『『『『ふっ、まぁな』』』』』』』』』童貞(本体)は、このハモリに本日二度目の怒りを爆発させた。「うぜぇええええええ! リア充共爆発しろっ! 俺だって、俺だってやってやる! ヤッテヤルぞ!」 ■ 華琳様の正しい直観力「っ!?」突然立ち上がり、丘の上で咆哮する男。その余りの剣幕に、華琳は一瞬とはいえ身体を硬直させた。そして、硬直が解けた瞬間に気付く。何か、嫌な汗が吹き出るのが止まらない。全身に寒気が走り、絶対的な本能から警告が発せられ華琳の身体に命令し、彼女はその場で反転した。走る勢いを殺さずに、しかして馬に負担もかけずに反転した様は流石に見事であった。「えっ!? 華琳様!?」「なっ! 華琳様!?」これに驚き、慌てて馬首を返す羽目になったのは華琳の背中を追っていた春蘭と秋蘭である。一目散に、まるで一騎当千の猛将に追われる総大将の如く、背を向けて馬を走らせる華琳。ようやく追いついた春蘭がその顔を覗き込むと、なぜか頬を染めつつ顔面を真っ青にし、唇を震わしているという器用な表情をした華琳を見ることになった。その敬愛の精神から、春蘭は主の様子に不安を募らせて声を上げる。「どうしたのですか! 華琳様! ご気分が優れないのですか?」「やばいのよ、春蘭……あそこに居たら、何かヤバイという直感があるわ! 頭から爪先まで食われる自分が脳裏に過ぎって消えない! に、逃げなくちゃ! 逃げなきゃ食われるわっ!」「な、速っ!? 華琳様! 華琳様ぁぁぁぁぁーーーー!」後に、華琳こと、曹操は語った。占いも何も信じないけれど、あの場に居た北郷は何か得体の知れない化け物に見えた、と。そして、彼女の感覚はおそらく、正しかったことだろう。これは、12人の北郷一刀が合わさって最強になったように見える、一つの外史の物語である。 ■ 外史終了 ■――――――――――――☆☆☆~10秒で考えた僕の一刀意識群の詳細だよ編~☆☆☆[本体] 今外史の主人。 種馬予定。[魏の] 魏ルート一刀。 種馬経験。[呉の] 呉ルート一刀。 種馬経験。[蜀の] 蜀ルート一刀。 種馬経験。[無の] 無印一刀。 種馬経験。[仲の] 袁術ルート一刀。 種馬経験。[袁の] 袁紹ルート一刀。 種馬経験。[董の] 董卓ルート一刀。 種馬経験。[肉の] 貂蝉ルート一刀。 貂蝉経験・卑弥呼経験。[南の] 南蛮ルート一刀。 種馬経験。[馬の] 馬家ルート一刀。 種馬経験。[白の] 白馬ルート一刀。 種馬経験。