イゼルローン失陥!!神聖不可侵の領土を叛徒に侵された衝撃は
帝国軍三長官が揃って辞表を提出するという形で、表に現れていた…
天才と凡人は能力を異にしているが、不思議と同じ場所に立つことが多かった。
今回も、国務尚書リヒテンラ-デ候を通じて、二人は皇帝の前に立たされる。
正確には、皇帝が金髪を呼び、国務尚書がヘインを呼んだという形ではあるが
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皇帝が軍務尚書・統帥本部総長・宇宙艦隊司令長官の辞表を金髪に見せ、
『どの職がほしい?』とやるきなさげに聞いている。
横の国務尚書は青筋ぴくぴくだ。高血圧で倒れないか少し心配だ・・・
やっぱり、金髪はどのポストもいらないと皇帝に答えたようだ、
与えられるものに価値は無いか、相変わらずプライドの高い奴だ
その答えに対して国務尚書が、三長官の俸給返上で勘弁する案をだして話がまとまった。
一つぐらい俺にポストが回ってくるかもと、少し期待していたので残念だ。
皇帝に三人とも下がれといわれたので部屋を出る。ここからが本番だ!
金髪には野暮用があるといって、その場で別れて来た道を引き返す。
そう、何もいわずに黙って大人しくしていたのは、この瞬間を待っていたからだ!!
俺は金髪の間抜けと分かれダッシュで国務尚書の爺を追いかける。
そう、皇帝のバラ園に入りアンちゃんとの面会を直訴するためだ!!
いまなら金髪と赤髪も妨害できないだろう。
…爺が超はやくて追いつけませんでした…
仙人じゃないかと思うぐらいの速さで駆け抜けていきやがった。
俺は足だけは人並み以上に早かったはずなのに…釈迦力爺恐るべし…
だが俺は諦めない、少々時間を食うが、窓から外に出て温室に潜り込む事に
■薔薇園■
「怖れながら陛下、ご不興を被るのを覚悟の上で申し上げまするが」
『ローエングラム伯のことか?それともブジン候のことか?』
『余が、アンネロ-ゼの弟に地位と権力を与えすぎ、
その知己の門閥貴族を肥大化させすぎる事についてであろう?』
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暗愚と思われた皇帝は、ラインハルトとヘインが簒奪を企む可能性について
国務尚書が憂慮していることを言いあてるのみでなく、
意外に明晰な言動でその事実を話した事によって、彼を驚かせた。
そして、皇帝は滅びすら容認する発言と低く乾いた笑いで彼を戦慄させた。
もしも、国務尚書が横で必死に温室のガラス板外そうと、格闘しているアホの姿に気付いていたら
彼の心配の種は、少なくとも半分は減っていただろう…
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かって~、このガラス丈夫すぎ!!蹴っても叩いてもひびも入らんぞ。
もう、頭に来たね!バールのような物で修復不能なぐらいに抉じ開けてやる
ムシャクシャしてカッとなった、ブジン候の力を思い知らせてやろう!!
うん、開けて入ったのはいいけど誰もいないね。
どうみても骨折り損のくたびれもうけです。でも、ただでは帰りたくないな
そう言えば薔薇の花は高いって聞いたことがある。花束用に持って帰ることにしよう。
愛を込めてアンちゃんに送ってあげよう。直接渡せないのは本当に残念だが仕方が無い…
…余ったのは、魔獣にでもくれてやろう。手土産代が浮くからちょうどいいな。
ホントは行きたくない。でも、圧力や暴力に立ち向かえるほど俺は強くないのだ…
くそっ!!こんな目にあうのも全部、口髭親父の野郎が悪いんだ!!
俺に好意を寄せている女性が全く現れないのは、魔獣を押し付けるため
リッテンハイム家が妨害しているに違いない。そうこれは陰謀だ!!
絶対内乱で痛い目に合わさせてやる。そうキルヒアイスにおしおきさせてやるぞ!!
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畏れ多くも皇帝陛下が丹精込めて作った薔薇を盗み、温室を破壊した不届き者の噂が
宮廷中を駆け巡るものの、捜査の目がヘインに向けられることは無かった
これは宮廷付きの憲兵の無能さだけが原因では無く、
ランズベルク伯しか知らないような地下通路を使ってヘインが逃走したことと、
侯爵が手土産代惜しさに犯行に及ぶという、だれも思いつかないような動機が原因であった
しかし、大胆不敵な犯人を知った者も僅かながら存在した…
そう、何度もその薔薇を受け取っているアンネロ-ゼとその話を聞いた金赤である。
金赤は、その大胆不敵で痛快な犯行に大いに満足するとともに
薔薇を隠すなら薔薇の中と、証拠を完全に隠滅する鮮やかな手腕に舌を巻いていた
そして、花束を贈られたもう片方の女性も、何故か真実に辿り着いていた。
彼女の侍女が覗いていたからなのか、真偽は定かではないが…
彼女はこのネタを使い、ヘインを脅し賺し、最終的には腕力を用いて
数ヵ月後に迎える14歳の誕生パーティへの出席を、ヘインに確約させる。
また、彼女は贈られた薔薇を挿木にして大切に育てるようになる。
これ以後、ジョウロを片手にニコニコと水をやる令嬢を覗くことが、侍女の朝の日課となった。
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要塞失陥の衝撃がようやく収まった8月、新たな衝撃が帝国にもたらされた。
フェザーンから同盟が帝国に対して、大規模な侵攻作戦を企てていると情報が入ったのだ
その後、対応策について国務尚書は大いに頭を悩ませた後、
叛徒迎撃の任を開設後十分に陣容を整えた、ラインハルトの元帥府に当たらせる事にした。
■元帥府だよ!全員集合!!■
元帥府からの緊急招集を受けた提督たちは、
我先にと血気に逸る心を抑えながら、ラインハルトの下に集おうとしていた。
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元帥府の前で双璧と遭遇、礼儀で軽く声をかけてみることに…
「よっ、たらし!!女誑かすのに飽きて出勤か??」
『卿は相変わらずのようだな。いや、もてぬ男の僻みがより増したか?』
『ヘイン、ロイエンタール止さないか!ささっと行くぞ』
小粋な挨拶に、憎まれ口を返しやがった。
くそ、女誑しの野郎、俺よりもてるから調子に乗ってやがるな
種無しがいなかったら、軍服にこっそりガムつけてやったのに
いつか、クナップとグリルをお前の幕僚に推薦してやるから、覚えとけよ
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部屋に入ると挨拶というより怒声に近い声をかけられた
『おそいぞ!!ヘイン、待ちくたびれたぞっ!!』
「静かにしろ、ちょっとは上官を敬うとかないのか?」
『ハッハハハ、細かいことを気にするな平民閣下の名が泣くぞ?』
「わかったから、バシバシ背中を叩くな!!ほんとに泣くぞ!!」
相変わらず声がでかくて乱暴なやつだ。
まぁ、今度こっぴどく怒られて縮こまるだろうから許してやろう。
■
優等生軍団の方は、すでに赤髪の前に勢揃いして談笑中のようだ。
どうでもいいけど、芸術家がインチキおじさんに見えるのは俺だけだろうか?
おまけにルッツとワーレンの区別がつかんのも俺だけか?
似ているわけじゃないけど、地味ーズ属性が原因で区別がつかんぞ
早く腕を千切って貰わないといかんな
ケンプは典型的な堅物のおっさんだな、なんか話すと疲れそうだし
近づくと親父臭が漂ってきそうだから、極力寄らないようにしよう。
これで、元帥府のメンバー勢揃い、帝国領侵攻作戦に対策会議のはじまりはじまり~?
『閣下、参集した諸提督全て揃いました…』
オベルベルッベルベールシュタインメッツリンガーイエスブルッツ!?!?
なんで、こいつが金髪の横に立っているんだ?義眼の話は何も聞いてないぞ?
もしかして、俺の知らぬとこで歴史が一ぺージってやつか?
なんか、お先真っ暗でヘインこまっちゃう♪
■踊らない会議室■
ヘインがバットトリップしているなか、同盟軍8個艦隊、総勢3000万の侵攻作戦に対する
対応策が練り上げられていく、会議の流れは原作通りで、敵を領土深くまで誘い込み
同盟軍の兵站に過大な負担をかけ、物資の不足と疲労が極限まで達したときに
反攻作戦を開始し、各個撃破殲滅する案が採られた。
また、その同盟軍の物資不足をより早めるために
ラインハルトは辺境領土から食料を根こそぎ持ち去る策を立案した。
そのとき『赤ん坊のミルクが無い』というセリフを思い出したヘインは、
乳幼児用のミルクや食料、病人や栄養失調者用の栄養剤、点滴等は残し、
地中等に隠しても大丈夫な、缶パン等の隠し保存食を与える修正案をだした。
赤髪も大いに賛同し、へインの修正案が採られることとなった。
この瞬間、ブジン家が保有する食料品メーカー証券の値上がりが確定し
ヘインは棚ぼたで大儲けすることになるとは全く気付いてはいなかったが…
それにいち早く気付く事になるのは、遠く離れたフェザーンの黒狐だった。
一見すると、民衆の支持と財力をノーリスクで得た様に見えるヘイン
彼の脳細胞に警戒すべき存在として、ヘインの名前が刻み込まれることとなった。
■
会議は終わり、反攻作戦が開始されるまで各員準備に励む中
ヘイン作戦の成功ではなく別の問題に思いを巡らせていた。
勝利が確定している戦いより深刻な問題について…
同盟の物資が枯渇するまで50日弱、9月の魔獣の誕生日まで30日弱…
ヘインは出征を理由にしたドタキャンに、一縷の望みを繋いでいたが
その希望的観測はあっけなく崩れ去ったというわけだ・・・
代案として、だれか別の女をエスコートして難を逃れようと目論むが、
現皇帝の直孫で、門閥貴族の雄リッテンハイム家のご令嬢に
ケンカを売る度胸がある女性がどれだけいるだろうか?
そもそも、ヘインにそこまでして手にいれる価値はあるのか?
様々な要因が合わさり、彼の目論見が上手くいくことはなさそうだった
近く、めでたい発表があるらしいという噂が漏れ聞こえる中、
ヘインは近い将来の同盟軍以上に、絶望的な戦いをつづけていた。
ヘイン・フォン・ブジン候・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~