建国の元勲にして大勲位のブジン大公と大公妃サビーネの娘、公女ヘーネ・フォン・ブジンの幼少期の評価は、
かわいらしい容姿とぽややんとした穏やかな性格が褒められることが殆どで
『聡明な女性だった』といった偉大な父の頭脳を受け継いだと見られるような評価をされる事は全く無かった。
その、何と言うか、有体に言ってしまえば、余り頭のいい女の子では無かったらしい…
■天才と凡人に皮肉屋■
帝立フェザーン学園では、新帝国の未来を担う次代の人材を育成することを目的に設立されたこともあって、
非常にハイレベルな講義を学生に行なうことで知られていた。
そのため、天才と程遠い存在の凡人は、落第点を取ってしまわぬ様に必死で勉学に勤しむ必要があった。
無理して、自分のレベル以上の学校に入ると苦労するのは、今も昔も変わらないらしい。
「ふひぃ~、ようやくテスト終わったよん。また、赤点で追試地獄になるのかな?」
機械的なチャイムの音を聞きながら、机に突っ伏した少女は、席に座ったまま足を宙に浮かせてパタパタと動かしていた。
また、テストが最悪の結果を自分に与えることになると確信し、その表情を涙目状態にしていた。
「ヘーネさん、きっと大丈夫ですよ。みんなで一緒に
あれだけ頑張ってテスト勉強したじゃないですか(ザマァ)」
「フェー君、でも、難し過ぎて全然分からなかったよ。絶対だめだよ」
「ふん、結果が伴わないのは、ただの勉強不足だ。普段から準備を怠っていなければ
テストの直前になって俺達に泣きつく必要も、追試に怯える必要もなかったのだからな」
「それは、そうなんだけど、アー君、きびしい…」
なんだか言葉は慰めているのだが、何故か馬鹿にしている感じのするフェリックスに、
至極ごもっともな辛辣発言をするアレクによって、
ますます凹まされたヘーネは、いつもの陽気さをすっかり失っていた。
もっとも、それで反省して、授業を真面目に聞いて予習と復習を怠らない様に行動を改めれば良いのだが、
何か美味しモノを食べたり、楽しいことがあると、過去の失敗などふわ~っと抜けて行ってしまう彼女が、
劣等生から優等生とジョブチェンジすることは、非情に難しそうであった。
そして、そんな進歩の無さが、努力する天才を苛立させることになる事を、聡明とは程遠い頭の持ち主の少女は察することが出来ない。
「先ず何度も赤点を取り続けることが問題だ。失敗をすることは仕方がない
だが、それを改善しようとせず、同じ失敗を繰り返すのは愚劣であり、低能だ」
「はい、アレク様(オモエモナー)」
「ふ~んだ!アー君も偉そうなこと言ってるけど、このまえ父さまに
コテンパンに負けてたくせに!アー君のうんち!ばぁーか、死んじゃえ!」
ただ、凹んでいる少女に更に追い打ちをかける少年の方も大人気なかった。
既に半泣きだった彼女は泣きながら、幼い悪態を吐いて教室から走り出て行ってしまう。
自分なりに頑張ってテスト勉強した結果が散々だった上に、
慰めてくれると甘い期待をしていた友人からのキツイ言葉が余程堪えたらしい。
「おっ、オレは悪く無いよな?」
「はい!アレク様(シラネ)」
残された不甲斐無い少年達は、ただ立ち尽くすだけの役立たずであった。
■高みへ…■
はぁ、勉強手伝ってくれたアー君にお礼を言うどころか、悪口言っちゃった。
テスト出来なかったのも、私の頑張りが足りないだけなんだよね。
やっぱり、明日会った時に素直に『ごめんネコ』って言おうっと!
うん、失敗したら反省すればいいんだ!
「どうやら、気分は晴れたみたいね」 「うん!」
笑顔で元気な返事を返した少女に、やさしく微笑む女性は弁当箱からもう一つお手製の玉子焼きを取りだし、ヘーネに与える。
公園のベンチに少女と並んで座る女性の姿を、職場の同僚がもし目撃することがあったら、驚きで目を見開くことになっただろう。
絶対零度の女とも称される女オーベルシュタインが、普段の鉄面皮からは想像もつかないような、柔らかい表情をしているのだから。
ヘインの後見を受けながら、灰銀色の髪を持つ美しい女性へと成長したパウラは、
軍務省参事として正式に任官し職務に精励する日々を送っていたが、
つねに研ぎ澄まされた剃刀の様な鋭さを持って自分にも他人にも非常に厳しい姿勢を崩すことが無いので、
周囲からは当然浮いてしまう事になり、昼食は省内の食堂で同僚と席を共にする事は無く、
この公園のベンチに座って、いつも一人でお弁当を食べると言う有様であった。
「そうだ。ヘーネちゃんが良ければ、これから、私が勉強を教えてあげようか?」
「えっ?いいの?お仕事忙しいのに迷惑じゃない?」
「ううん、大丈夫よ。妹みたいに思っているヘーネちゃんが
苦労しているなら、出来る限りの手助けを、私はしてあげたいの」
「パウラお姉ーちゃん…、ありがと」
以後、誰も寄せ付けぬ冷たい厳しさを持った女性の執務室には
春の陽光と称しても良い雰囲気を持った少し舌足らずな少女が良く訪れるようになる。
そして、厳しくも優しい指導を受けたヘーネは、それなりに学力を伸ばして行くことになる。
「お嬢さんの勉強の方は捗っているのか?」
「ヨーゼフ内閣府参与は余程暇な様ですね。下らない世間話をしている暇が
お有りなら、精力的に参加されている怪しげな会合の議題でも考えられては?」
「相変わらずオーベルシュタイン女史は手厳しいな。一つ訂正して置くが
『民主化審議会』は断じて怪しげな会合では無い。一部の特権階級による政治から
全ての臣民、いや、国民の手による帝政に変革することが、黄金の世界へと至る道!!
私はそれを疑ったことは無いし、その道を進むために私は労を惜しむ気はさらさら無い」
「貴方の大言はもう聞き飽きました。一つ言って置きますが、行き過ぎた
革新が大きな犠牲を生む可能性があることをお忘れ無きように願います
ロべスピエールの尻尾にならぬ様に気を付けて頂ければ幸いです。『大公』閣下」
お互いに24と言う少壮気鋭の官僚でもあり互いをライバルと目し合う『女オーベルシュタイン』と『ヨーゼフ民主大公』は、
今後の帝政の在り方について、国家の創世記に置いては優れた官僚機構を構築し、強力な国家統制を敷き富国に専念すべしというパウラに対し、
民衆の手によって何事も成すことが、『黄金の国家』を形作ると信じて疑わないエルウィンは、
若手官僚の交流会において、意見の角突き合すことが多く、喧々諤々の議論を交わすこともしばしばあった。
そんな二人が、二年後には目出度く結ばれる事になるのだから、世の中分からないものである…
いつものように『仲良く喧嘩しな♪』な状態になった二人を置き去りにして、
ヘーネはとてとてとパウラの執務室を後にする。
難しい話を始めた二人は、いつも彼女の事を忘れて、朝まで議論を続ける事もあり、
律儀に付き合っていたら寝不足になってしまう。
軍務尚書のファーレンハイトやフェルナーにアンスバッハやシュトライトに挨拶をした後、
ヘーネは迎えに来た大好きな父親と手を繋いで家路に着く。
家では大好きな母親がほっぺの落ちるような美味しい料理を準備して待っている。
夕陽に照らされた道を歩く少女と平凡な父親の足取りはとても軽い…
■母は強し■
昨日の非礼を詫びる少女に、自分の非を認める少年が謝罪を返し距離を縮めるのを横目に反吐を吐いた少年は、
下らなくも平和な日々に満足しながら、そう遠く無い未来に大きな『祭り』の到来する予兆を感じていた。
新帝国歴17年、この年、皇師ヘイン・フォン・ブジン大公は39歳、まだまだ引退するには早すぎる年齢であったが、
名誉職に過ぎない皇師以外には公職の全てを辞してから、10年以上も経過していた。
ただ、その影響力は政府や軍部に色濃く残っており、
長年の蓄財と広大な私領の健全経営によって、皇室を凌ぐと言っても過言ではない富力を手にしていた。
~ ローエングラム朝を生んだ男は、もっとも王朝を揺るがす存在であった ~
後世の史家にそう称される男を野放しにして置く危険性を、誰よりも深く、正しく理解していたのは、摂政皇太后ヒルダであろう。
ヘインに野心が無い事は重々承知しながらも、ラインハルト生前中から何度もその陰に怯えて来た。
だが、信頼する一人の元侍女から齎された情報によって、心の奥に深く根ざした黒い不安は、雲散することになる。
アレク帝と公女ヘーネは夏の終わり頃から『理ない仲』にあると告げられたのだ。
この報せを聞いたヒルダは狂喜乱舞する胸の内を、最大限の自制心を持って抑え込み、
若干震える声で、ブジン大公に直ぐに獅子の泉宮殿に参内するように、冬宮筆頭侍従に命じて伝えさせる。
国家のために、これほど有益で重要な良縁はないのではないか?と些か冷静さを欠いたヒルダは、
巧遅より拙速を尊ぶことを善しとしたらしい。
「こんな夜更けに参内なんて、何かあったのかな?」
「さぁ?何にしても呼ばれたら行かないと後が怖いからな
とりあえず行ってくるよ。もう遅いし、先に寝といてくれ」
「ううん、待ってたいから、起きて待ってる。早く帰って来てね」
齢を重ねても変わらず美しい妻に抱きつかれて相好を崩した男は、食詰の乗る公用車の後部座席に少し覚束ない足取りで乗り込む。
幸せで暖かい見送りが妙に照れくさかったらしい。眠たそうに目を擦りながら手を振る愛娘の姿も、とても微笑ましいものだった。
「相変わらずの仲の良さで結構じゃないか」
「うるせーよ。それより、勝手に公用車回して良かったのか?
ヒルダちゃんに呼ばれてるのは俺だけで、お前は関係無かったんだろ?」
「なに、夜更けに建国の元勲を摂政皇太后が態々呼び出すのだ
国家の大事である可能性を考えて、参内するのが廷臣の務めだろう?」
「そんなもんかねぇ」
全く自分の暗殺を心配してないような親友の態度に苦笑いを零しながら、
烈将と称され、軍務尚書として帝国に重きを為す男は、独自の情報網からヒルダがヘインを参内させようと動いたことを察知し、
念の為、信頼を置ける部下と共に自分もヘインと共に参内することにしたのだ。
獅子の泉宮殿の正門で二人を出迎えたのは、軍務省官房長官アンスバッハ上級大将に、
軍務省次官兼調査局長フェルナー上級大将と軍務省書記長シュトライト上級大将を加えた参謀トリオで、
玉座の間には、統帥本部総長の垂らしに、首席幕僚総監の鉄壁、宇宙艦隊副司令長官の沈黙の三人が雁首揃えて待っている始末で、
最高にハイってやつになっているヒルダであっても、不快を禁じ得ない仰々しさであったが、
建国の大勲位に対する出迎えとして、過剰に過ぎる物であるとは言えないので、
予め参内させていた宇宙艦隊司令長官ミッターマイヤー元帥に、国務尚書として現内閣首班を務めるグルックと共に、
食詰と垂らしに鉄壁と沈黙の、四人が臨席することを特別に許し、ヘインを参内させた用向きを披露することにする。
「年の変わらぬうちに、アレク陛下とへーネさんの婚儀を執り行いたいと思っております」
「「なんだってぇええっーー!!!」
ΩΩΩΩ Ω…
事前に聞かされていた種無しやグルックと違い、
当事者の一人でもあるヘインや、一人の例外を除いた三元帥は驚きの声を珍しく上げた。
アレクもヘーネも14になったかどうかの若年で、帝国に取ってもっとも良縁であったとしても、幾らなんでも早すぎるため、
そのような提案というか、命令がヒルダの口から零れるとは予想だにしていなかった。
「いやいや、ヘーネもアレクも全然子供だし、
そういうことは親同士で決めるんじゃなくて…」
「ブジン大公の細君は、14で御結婚されたと聞き及んでおりますが?
それに、アレク陛下とヘーネさんは最近とても仲が良しいらしく
お互いを好いていると聞き及んでおりますわ。何か問題がありまして?」
透き通るような美しい笑顔で無理を道理とばかりに謳い上げる摂政皇太后の迫力に圧され、
屁垂れのヘインや善良なミュラーは言葉を失い抗弁のする事が出来ない。
沈黙は最小から最後まで黙っているだけの存在であり、
垂らしは久しぶりに自分以外の人間が虚ろな目をする時がきた!とほくそ笑むだけで当てにならない。
最初からヒルダ側の立場として置かれている種無しやグルックに異存はある訳も無く。
ヘインが最後に頼れるのは、やはり食詰だったのだが、
「確かに良縁とは思うが…」「うるさい…。煩いんだよっ!!」
「グチグチ、グチグチと煩く文句言うじゃねーよ。私だってなぁー?
ちっとばかし無茶だってことは分かってるんだよ!!そんな事位は!
でもな、今日みたいにお前らがいつも仲良くつるんで、わたしに
わたしとアレクにいつもプレッシャー掛けるから!!わたしだって
わたしだって一生懸命、国を良くしようと頑張ってるのに・・なのに…」
無茶なヒルダを嗜めようとした食詰は、
泣きじゃくりながら、ヘインを重んじ、新帝アレクと自分を軽んじて来たことを糾弾する女性の悲しい叫びに二の句を継げなかった。
アレクが執拗にヘインに勝負を何度も挑んだのも、
臣下である自分達が未だにヘインを見ている現状を打破したかったのだと改めて気付かされた四人は、何も言う資格は無かったのだ。
この場で、答えを返すことが出来るのは、母であるヒルダに対する、父親としてのヘインだけであった。
「とりあえず、まだ納得できないけど、ヘーネがアレクと結婚するって言うなら
俺はそれで良いよ。反対しない。勿論、母親のサビーネの賛成もあっての話だからな」
花嫁の父親が折れた。それ以上話す必要は何もない。
晴れやかな顔で立ち去る男達を、晴れやかな笑顔で見送る強い母親の姿が印象的であった。
■祭りの前に■
宮中に参内した翌日、ヘーネとアレクの婚儀について、妻と当事者である娘と話した父親は、大きな失望を味わうことになる。
大反対を期待したサビーネは、あっさりと娘もそんな年頃になったのだと一人納得し、
ヘインがヒルダに返したのと同じように、当人同士がそれで良いと言うなら問題ないと答えたのだ。
また、娘の方の回答は、更にヘインを凹ませる物で、皇帝との婚儀の可否を問われると、
顔を赤らめてモジモジし始めたヘーネは、『アー君となら、その結婚、したいかも…』と返した途端、
恥ずかしくなったのか、部屋に向かって走りだすほどの恋する乙女振りを見せ、その場に残された哀れな父親は膝から床に崩れ落ちてしまう。
「サビーネ、俺はどうしたら良いと思う?」
「諦めたら?あと、私はずっと傍に居てあげるから
その…、きっと寂しく無いと思うし、大丈夫だよね?」
照れくさそうに微笑みながら抱き寄せて自分を慰めてくる妻のやさしさと温もりに、
親馬鹿なヘインは子離れする決意をすることとなる。
こうして、ヘインの思惑とは裏腹にどんどんと皇家と大公家の合体、
『皇大公合体』と後に称せられる婚儀の準備が、着々と進められることになるのだった。
新帝国歴17年8月1日、宮中に参内したヘイン・フォン・ブジン大公は、皇帝アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム並びに、
その代理人たる摂政皇太后ヒルデガルトに対し、
私領であるブジン大公領並びに旧リッテンハイム侯領、旧ランズベルク伯領の奉還を申し出る。
後に『藩地奉還』と呼ばれる旧態然とした貴族制の抜本的な改革の第一歩を、
帝国最大の貴族たるブジン大公の手によって為された事は、後世においても高く評価された事は言うまでも無い。
その他の私領を持つ貴族達も、ブジン大公家が領地を皇帝に差し出したと言うのに、
自分達が差しださぬ訳には行かぬ状況に追い込まれ、一月後には、貴族の私領は銀河に1㎡も存在しなくなる。
旧王朝ゴールデンバウム朝から人類の発展を妨げていた私領制と農奴制は、完全に終焉を迎えることとなった。
もっとも、それを為したブジン大公の動機が、娘の嫁入りが決まって脱力し、
ほぼお任せの領地経営すらも億劫になって投げ出しただけとは、誰も思わないだろう。
また、領地を失った貴族達が立ち行かなくなる様な事が無い様に、
必要最低限には十分過ぎる利子を生む『藩地俸禄債』の支給と、
それに伴う責務として国政に対する諮問機関として創設された名誉機関、貴族院への出仕が義務付けられる。
後に、帝国臣民による参政院と旧同盟側臣民による民衆院が設立されるのだが、
貴族院と合わせた三院制による議会制が帝国に芽吹くのには、もう十年と幾許かの歳月を要す事になる。
「領地を失うことは惜しく無いのかだって?自分達の帝国の物になるだけなのに
何を惜しむって言うんだ?ただ単に所有者名のラベルが変わっただけさ
どのみちオレの手元に入って来るお小遣いの金額が変わらないなら、些細なことだろ?」
全ての領地を失う英断を下したブジン大公のニュース記者に対する返答は、
彼が私欲に乏しく、ユーモアに溢れた人物であった事を、後世の私達に教えてくれる。
彼が踏み出した小さく大きな一歩が、今も広がり続ける広大な宇宙での人類の繁栄を生んだ事を、
私達は伝説では無く、歴史として学んで行かなければならない。
■新たな時代の始まりと物語の終わり■
新帝国歴17年10月10日、獅子の泉宮殿で銀河一盛大な婚儀が行われようとしていた。
その規模は、先帝と摂政皇太后の婚儀を凌ぐものであり、皇帝の母の並々ならぬ決意を感じさせる式典と言える。
この日以降、ヒルダは摂政の職を辞し、アレクが名実ともにローエングラム朝の唯一無二の支配者になることも決定していた。
ちなみにヘインの皇師の任もこの日で解かれる事が、ひっそりと決定していた。
ただ、そのような些少なことは、幸せな花嫁と花婿に取ってはどうでも良いことであった。
「閣下、会場へ向かう準備が整いました」
「いつまでも愚図っていても仕方ないでしょう。さっさと行きましょう」
「やっぱり中止に出来ないかな?何なら食詰や垂らしを誘って謀反を起こしてでも…」
埒も無い事を言い始めて家から宮殿に向かおうとしないヘインを強引に公用車に押し込めたのは、
ブジン家を含む四姉妹一家の家宰とも言える立場のアンスバッハ上級大将と、
ヘインと長くデスクを共にしてきたフェルナー上級大将だった。
【アンスバッハ上級大将-元帥】 帝国歴446年-新帝国歴48年
ブラウンシュバイク公爵家の家宰としてリップシュタット戦役に参戦し、キルヒアイス上級大将、死後元帥を暗殺する。
同時に自殺も図るがブジン大公に阻止され、公爵家の忘れ形見でもあるエリザベートの後見として生きる様に諭され、
以後はブジン大公に忠誠を尽くし、彼の副官として回廊外会戦やバーミリオン会戦で勇戦し、功をあげる。
また、軍務省官房長官を大過なく務め、ヘイン、オーベルシュタイン、ファーレンハイトと、歴代の軍務尚書を善く助けた。
新帝国歴30年、長年の功績が認められ元帥に昇進、翌年に退役する。
退役後は四姉妹一家の執事として、幸せな余生を過ごす。
【アントン・フェルナー上級大将-元帥】帝国歴460年-新帝国歴67年
ブラウンシュバイク公爵家の謀臣、リップシュタット戦役に先立ちラインハルトの暗殺を謀るも失敗、
拘禁後は転向し、軍務省調査局長、後に軍務省次官を兼務してヘイン、オーベルシュタイン、ファーレンハイトと、歴代の軍務尚書を善く助けた。
また、オーベルシュタインとヘインの関係を最も正確に書き残した人物として評される。
『最も仕えやすかった上司はファーレンハイト元帥
最も楽しかったのは、二人の上司と働いていた頃だな』
新帝国歴30年、長年の功績が認められ元帥に昇進し、新帝国歴44年にミュラーの後を継いで軍務尚書に昇任する。
新帝国歴49年退役する。
「閣下、全くヒヤヒヤさせないで下さい。花嫁の父親が欠席なんて困りますよ」
「ヘインさん、サーちゃんもヘーネちゃんも待ちくたびれていますよ」
「…、…(ニヤリ)」
「分かってるって!取りあえず、こっちで良いんだな?そんじゃ、後で!」
フルスロットル飛ばした公用車が正門を潜り抜け、飛び込むような勢いで入った宮殿の正面玄関では、
既に礼服やドレスで着飾った将官や閣僚に、その妻女で溢れていた。
そんな中で、バッタリとあったミュラー夫妻と沈黙家族に挨拶を交わしながら、
花嫁たちの居る控室のある二階に向かって、ヘインは慌ただしく螺旋階段を駆け上がる。
【ナイトハルト・ミュラー元帥】帝国歴461年-新帝国歴75年
リップシュタット戦役時にローエングラム陣営に属し、勝利に貢献する。
その後、ブジン元帥府に席を置き、要塞決戦では手痛い敗北をヤンに味あわされるが、
それ以後は、大きな敗北も無く鉄壁ミュラーの名に恥じぬ戦い振りでヘインを善く助ける。
統帥本部幕僚総監を長く務めた後、新帝国歴30年、勇退するファーレンハイトの後を受けて軍務尚書の任に就く。
新帝国歴44年に退役し、以後は士官学校付き特別軍事顧問として後進の育成に力を注ぐ。
また、私生活ではブラウンシュバイク家の忘れ形見にしてフリードリヒ四世の孫娘エリザベートと結ばれる。
彼女との間には二男一女に恵まれ、幸せな家庭に恵まれたことが伝えられる。
後に帝国宰相となるフェリックスと末娘が結ばれる事になるのだが、
父親の様な垂らしにならないか、娘の事を心配して四六時中見張りを立てていたのは笑い話である。
【エルンスト・フォン・アイゼンナッハ元帥】 帝国歴449年-新帝国歴61年
沈黙提督の異名で知られるヘインの心の友、『二人の間には言葉が要らない』とブジン大公の言として伝わる。
公式の発言記録として残されているのは、
ウルヴァーシ事件の首謀者にブジン大公が仕立て上げられた際に、『チェックメイト』と呟いた一言のみである。
長く宇宙艦隊副司令長官を務めた後、新帝国歴41年に退役する。
「遅刻癖は相変わらずだな。晴れの舞台にお前が居なくては話にならんからな」
「お嬢様とヘーネお嬢様の愛らしいお姿は、このカーセが
余すことなく記録しますので、どうかご心配なくお任せ下さりませ」
「やれやれ、自分の婚儀を思い出して頭が痛くなるな」
「うん☆それどういう意味かな?」
「もう、今はお喋りしてる場合じゃないのに!ヘインさん、早く部屋に入って下さい」
「分かったって、マコちゃん!そんなに押さなくたって入るって!!」
少し呆れた感じの食詰に、高性能ハンディカムを手にしながら鼻血を噴出させそうになっている相変わらずの侍女に、
随分前の自分の結婚式を思い出して眩暈に襲われる垂らしに、それを不服に思ってポーチから鋭利な刃物を取り出す眉毛と、
花嫁たちが待つ控室の前は、ヘイン一味が勢ぞろいと言う形で喧騒に包まれており、
彼等のお目付け役を自負するマコ・ゼッレは、それに巻き込まれかけるヘインを手際よく花嫁の待つ部屋へと送り込んでいた。
【オスカー・フォン・ロイエンタール元帥】帝国歴458年-新帝国歴55年
金銀妖瞳の垂らし、ヘインと関わったのが運の尽き、人生の墓場に送り込まれてしまう。
ただ、一男三女を設けた眉毛ことエルフリーデとの家庭生活は、浮気問題とは無縁の非情にハートフル(笑)な物であったらしい。
複雑な家庭環境で心に傷を負った男を癒したのも、また家庭であったようだ。
彼の息子でアレクの親友となったフェリックスは、後の帝国宰相として帝国議会初代首相のヨーゼフと共に、
帝国議会創世記を支えた偉人の一人として数えられている。
統帥本部総長、後に新領土総督、ヘインの叛乱収束後、再び統帥本部総長に復職し、
アレク帝以後は、軍令改革に精励し、軍管区制と大胆な軍縮に功績を挙げる。
新帝国歴25年に退役し、後は眉毛の尻に敷かれる幸せだが、少し情けない余生を過ごす。
ちなみに次女は、親友の種無しミッターマイヤーの養女となっている。
【アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト元帥】帝国歴456年-新帝国歴59年
ブジン大公の親友にして、オーベルシュタイン元帥に次ぐ腹心とも言える部下。
リップシュタット戦役に置ける烈将会戦は、彼の異名たる『烈将』を銀河に知らしめた戦いであり、
彼が認めるヘイン・フォン・ブジンに挑む戦いでもあった。
ブジン元帥府開設後は、常にその首班たる地位に立ち続け、各地を転戦しながら武功を積む。
その戦才はヤンに並ぶと賞され、ブジン大公の勝利の影に日向に烈将ありと評される。
帝国軍最高副司令官及び帝国軍最高司令府幕僚総監を務め、
一時的にロイエンタールから統帥本部総長の職を引き継ぎ、
戦乱終結後には、オーベルシュタインの後任として軍務尚書も兼務した。
帝国軍最高司令官の職責を固辞したものの、ブジン大公隠遁後の実質的軍部トップとして、
ローエングラム朝を支えた英雄と呼ぶに相応しい人物であった。
私生活では、食うために軍人になったと豪語するだけあって、非情に質素で、よくブジン大公に奢らせていたというが、
彼の職責から生まれる俸禄があれば、一人分の酒代など優に賄えることから、
彼等流の交流の仕方が奢り集られるという形になっていたのであろう。
後に妻であるカーセとの間には一人娘のレンティシアが生まれ、彼女は皇妃ヘーネの親友として彼女を支えることになる。
ファーレンハイト家は、ブジン大公の家系を友人として何代にも渡って補佐する家系として、歴史にその名を刻むことになる。
【ナカノ・マコ → マコ・ゼッレ】
ブジン大公の従卒を務め、彼の被保護者となる。
また、ヴァスターラントの惨劇の遺族でもある。
夫となるエミール・ゼッレと共に医の道に進み、その卓越した医の技術から『女神の手(ヴィーナスハンド)・マコ』の異名で知られる。
ちなみに夫の方の腕はそれなりであったが、善良な人柄であったため、患者が命を笑って託せる良い医者になっていた。
二人の男の子を生み、両者共に医師としての道を歩みことになる。
「ヘイン、ぼ~っとしてないで、何か言ってあげたら?」
「お父さん、変じゃないよね?」
「あぁ…、その何と言うか、凄く綺麗だ」
白のシンプルなウェディングドレスに身を包んだヘーネは、親の贔屓目を抜きにしても非常に魅力的であった。
今更ながら、こんなかわいい子を嫁に出すことを後悔したヘインであったが、
父親の言葉に本当に嬉しそうに微笑む娘を困らせることは、出来そうにも無かった。
ただ、披露宴の合間にアレクの野郎を一発は殴ってやろうとは思っていた。
サビーネはヘイン身支度をテキパキと済ませると、緊張しすぎないようにと一言告げて、式場へ先に向かう。
花嫁の父と花嫁は、最初の主役としてバージンロードを並んで歩かなければならない。
侍従と侍女に刻限が来た事を告げられた父と娘は、多くの列席者と花婿が持つ式場へとゆっくり向かう。
■宴の終わり■
アレクとヘーネの婚儀は全銀河にリアルタイムで放送され、多くの笑いと感動を人々に伝える、暖かい式になった。
カチコチに緊張した二人が仲良く両手両足を揃えて歩く姿は、とても微笑ましい物だったし、
誓いの言葉を述べ、愛を誓い合った若い夫婦の姿はとても愛らしく、多くの少女に溜息を吐かせた。
その後の、乱痴気騒ぎとも言える披露宴と言う名の宴会はカットするべきだったと、
ヒルダは後悔したが、乱痴気騒ぎの首謀者でもあるアッテンボローは、
真実をありのままに伝えることが出来て良かったと、誇らしげに語っている。
それぞれが、家族や恋人に友人と身分を気にせず騒げる新しい王朝の良さが出た、素晴らしい二人の式であった。
「そういえば、お前との結婚式はちゃんとしたの出来なくて、その、悪かったな」
「な~に?ヘインって、そんなこと気にしてたの?」
酔い醒ましにバルコニーで涼むヘインとサビーネは、広場の宴会騒ぎを見下ろしながら、
少しだけ昔の事を思い出していた。
リップシュタット戦役が始まる混乱の中、夫婦二人と立会人のカーセだけで行なった三人だけの結婚式の事を…
女の子で貴族の中の貴族でもある侯爵令嬢のサビーネに、派手な式や披露宴をしてやれなかった事が、
ヘインには少し不憫に思えたのだが、妻の方は全く気にしていない様であった。
「ヘイン、わたしはね。どんな立派な式や披露宴よりも、大好きな人と結婚出来て
大好きな人に祝って貰えたあの日が、最高に幸せな一日だったと断言できるよ♪」
「そっか、そうだな。派手な事は下で騒いでる他の奴等や若いのに任せておけば良いしな!」
「それじゃ、花嫁と花婿の幸せな結婚と…」
「わたし達の、これからの幸せな夫婦生活に…」
『「 プロージット!! 」』
■そして、イチャラブへ■
!!朝起きたら銀英伝へようこそ!!な乗りで、平凡な大学生から
門閥伯爵家の親無し次期当主(7歳)になってしまった後に、
平穏無事とは言えない波乱万丈な人生を送って、良き家族や友人に恵まれて大往生したと思ったら、
再び、平凡な大学生へと後戻りみたいな感じで、
別世界へ旅立つ前に住んでた一人暮らしのアパートで目を覚ますことになった。
ただ、旅立つ前と少し違う事があるとしたら、得意げな顔して俺の横に座っている
結婚した当時の姿のままの、金髪のお嬢さんが居るか、居ないかだろう。
ちなみに、この作品はらいとすたっふルール2004にしたがって作成されています。
・・・ヘーネ・フォン・ブジン・・・銀河の新たな小粒が一粒・・・・・
~THE END OF LOVE~