なんというか、帝国じゃなくて同盟に生まれてたらなぁって感じの夢を見たんだ
それはそれで案外楽しいじんせいだったんじゃないかなぁって思ったな
『ふ~ん、ヘインは私のいない同盟での人生の方が良かったんだぁ・・』
いや、お嬢さん何もそんなこと言ってないじゃないですか!!
ちょっと折れる!!うではそっち側には曲がらないから!!
食詰め!!お前もコーヒー優雅に飲んでないで助けろ!!
『タカってばかりの厄介者の助けなどお前には必要ないんじゃないか?』
分かった、デートにだってちゃんと行くし、酒代だって幾らでも驕ってやる!!
『うん♪約束だよ!』『よろしい、本懐である』
■相容れぬ双生児■
すべての職を辞し、無役となったヘインは暇を満喫していた。
可愛い奥さんとお出かけを愉しんだり、娘のオシメを悪戦苦闘しながらかえたり
仕事帰りの食詰めやアンスバッハ達と飲み歩くなど
日々充実した無職生活を送っていた。
唯一苦労したのがオーベルシュタインの犬との散歩であった。
ヘインの頭を齧られている姿は多くの人々の笑いを誘うものであったが・・・
ちなみに、その一匹と一人は彼らの共通の友が眠る場所によく寄っていた
■■
『御一人でしたか、ブジン大公に少しお話したいことがありまして・・・』
俺には話はねぇよ。それに一人じゃないぞ。こいつがいるだろ?
ええっと、また政界に復帰しろって話ならもういいぞ二枚舌・・・
『二枚舌とは些か心外ですな。わたしはただ自分自身の福祉のために
行動してきただけです。そう、大公閣下とされて来たのと同じ様にです
それと今回は閣下に私の推挙や政界復帰をお願いに参った訳ではありません』
それじゃ何しに来たんだ?お前が愁傷に誰かの墓を参るとは思えないしな
地球教や憂国騎士団とかの有象無象奴らとの付き合いがバレそうになって
俺に取り成しでも頼みに来たのか?それならお断りだぞ
『いえいえ、閣下にそのような事を些事を頼む気など毛頭ありません
それに私は彼等の力を利用しただけで、彼らと繋がっている訳ではありません。
事実、帝国のため私は彼等の情報提供を過去に行っています』
でっ結局、潔白の元国家元首のトリューニヒト様は何しに来たんだ
こっちは散歩帰りに特売の鶏肉を買って、こいつに食わせないといけないんだよ
『失礼、本日は閣下と少々世間話をしたくて参っただけです
どうやら心ならずも散歩の邪魔をしてしまったようですね
後の話は、また次の機会にでも、では失礼させて頂きます』
???なんだアイツ?言いたいこといって満足したのか
いったい何がしたかったんだアイツ?
■
唐突に現れたトリューニヒトが、何の意図を持って隠遁したヘインと接触したのか
その答えは永遠に出されることなく終わりを迎える。
ヘインと分かれた直ぐ後、彼が乗る車は地球教の残党によって襲撃され、
爆発の業火によって彼の良く動く舌と唇が失われためである。
その上、彼の死は皮肉な事にヘインを狙った刺客による誤射であった。
ヘインが定期的に行う散歩の途中に現れた高級車を見て
地球教の暗殺者は、ヘインを乗せるために派遣されたものと勘違いしてしまったのだ。
『ロイエンタールの大芝居』『マコの告白』『』『ヘイン戴冠式』・・・
ヘイン造反時前後においてヨブ・トリューニヒトは煽動者として
その才を如何無く発揮し、再び政治の表舞台に舞い戻る事に成功していた。
その矢先でのこの誤認による暗殺劇・・・ある者は運命の皮肉を感じ
他の者はブジン大公や帝国政府による謀殺を疑ったが、
真相は何一つ明らかにならなかった。
ただ、確かなことは様々な憶測が飛び交う中、
それを煽動する者の舌は二度と動かないということだけであった。
時代を武によってでなく弁によって動かそうとした
一人の男は、多くの可能性を内在したままその生涯を終えた。
■ハイネセン視察■
新帝国暦003年12月11日、ハイネセン自治政府の統治状況の視察と
両政府の友好をさらに深めるため、元帝国宰相のヘインは親善大使として
妻サビーネと共に惑星ハイネセンの地を再び踏んでいた。
その日程には、ロムスキー議長や自治政府首脳陣との会談だけでなく、
新たに自治政府軍軍令本部長に就任したヤンとの会談の場も設けられていた
■■
なんか、女性陣の会話って華やかでいいよなぁ
ユリアンもカリンと上手くやってるみたいだな結構、結構
『そんなことないですよ。上手くできずによく喧嘩もしています』
「なに、ちゃんと喧嘩が出来るって事はいいことさ。
相手に自分の気持ちをぶつけることが出来ている証拠だよ」
そうそう、喧嘩するのは仲がいい証拠ってのは定番・お約束って奴だよ
とくにカリンみたいな素直になるのが苦手な娘が相手だとそんなもんだぜ
『そうでしょうか?提督とグリンーヒル少佐が
喧嘩してるところなんて見たこと無いですよ?』
「それは買いかぶりだよユリアン。私やフレデリカも
時には下らないことで意見をぶつけ合うことがあるよ」
■
三人の花を遠めに眺めながら今一決まらない男三人は
パートナーと上手くやっていく秘訣について、うだうだ意見を出し合っていた。
訪問当初はまだギスギスしていたヤンとヘインであったが
ユリアンと言う共通の緩衝材を間に置く事によって
だいぶ打ち解けた関係を築く事が出来ていた。
一方、女性陣のほうは、少々鈍感な男を愛してしまった苦労話に花を咲かせていた。
特にフレデリカの恋の成就までの、長い恋の道のりに
サビーネはものすごい勢いで食いつき感情移入しまくりで大盛り上がりであった。
6人とも結構下らない話に興じていた。
しかし、その特別でない会話がどれほど犠牲の上に成り立っているのか
それを思うとただの惚気話も素晴らしく思える???
■■
ヘインさんのハイネセン訪問はあっという間に終わってしまった。
もう少し長く滞在してくれても良かったのにと、ついつい思ってしまうのは
ぼくがまだまだ未熟でわがままなひよっ子という証拠だ。
その点、アッテンボロー提督やポプラン中佐とコーネフ中佐は僕より役者が上だ
3人ともヘインさんとは仲が良いから、分かれるのは寂しい筈なのに
そんな素振りを最後まで見せず、飄々と軽口を叩きあっていました。
きっと何時あっても気兼ねなく話せる悪友というものは
ヘインさんたちみたいな関係のことを言うのだろう。
そんな素晴らしい交友関係をいくつも持てるのは
ヘインさんが地位なんかに固執しない度量と
ほっとけないと思わせる魅力があるからなんだと思う。
いまなら僕にも分かる、ヤン提督がヘインさんを心底怖れた理由が
そう、ヘインという人物が持っている才以上に、
その魅力的過ぎる人間味によって周りが取り込んでいく力が怖ろしいのだ
一体どれほどの人が、20台半ば皇帝や宰相といった地位や権力を捨てられるだろう?
きっとそれにしがみ付こうとする人の方が多いと思う。
でも、ヘインさんは違った・・ただ友のため、国家の安定のために全てをあっさり捨てた
その私心の無さは腹心であった故オーベルシュタイン元帥に通じるものがある。
ぼくは多分、一生かかっても敬愛するヘインさんを超えることが出来ないかもしれない
でも、少しでも近づけるように努力していくつもりだ。
『ユリアン、これからはお前たち若い世代が頑張って俺の年金を稼いでくれよ!』
冗談めかした言葉で励ましてくれたヘインさんの期待に応えて
いつか、胸を張って横に並べるようになるために!!
■ご近所物語!?■
この家はホント朝から騒がしいな『そうか?賑やかなのも悪くないだろう?』
って、食詰め!!一番入り浸ってるお前が言うんじゃねぇ!!
ハイネセンから戻ってきてお前の顔見ない日が無いぞ!
すこしは人様の家だって自覚は無いのかよ
『うぅっ、わたしも毎日来ちゃってます・・・やっぱり遠慮した方が・・』
いやいや、マコちゃんは別だよ別!!俺たちは家族だから全然OKだよ
だけど、エミールの奴には絶対家の敷居は跨がせん!!これだけは譲れないからね
『やれやれ、お前が父親気取りとはなかなか笑えないな』
うるせー!!お前は家の食いもん勝手に食ったり飲んだりしてるんじゃねぇ
なにさも当然の如く家の冷蔵庫空けてるんだ!って俺のクリゴハンガァッー!!!
『旦那様・・それはもう食べないかと思って
私とお嬢様の二人で頂いてしまいました・・』
『ヘインゴメン!また今度作ってあげるから♪』
いやぁ~カーセさんなら良いんですよ。ぜんぜん気にしてませんよ
おう!サビーネまた作ってくれよ。旨かったから楽しみにしてるぜ
『サーちゃん良かったね。お姉ちゃんも教えた甲斐があったかな』
へぇ~やけに旨かったと思ったらエリザ直伝の料理だったのか
ミュラーは果報者だな?可憐な奥さんがいて料理の腕も上手いし、性格も良い
なんか、見てるだけで腹が立ってきちゃうぜ
『ちょっと!!ほっぺたをフォークで突付かないで下さい
閣下の奥様も小官同様に非常に素敵な女性ではないですか』
『はい、ミュラー提督には2点!10点溜まるとエリ姉から素敵なプレゼントが』
サビーネ!!お前も訳の分からんポイントなんか配ってないで
とりあえず食詰めが食おうとしている俺のプリンを守れ!!
『卿も苦労しているようだな。この家で執事を
務めて行くのは相当骨が折れるのではないか?』
『いえいえ、閣下がこれからされる苦労には及びも付きませんよ』
『ほぅ、卿もなかなか言うな。俺のこれからか・・余り考えたくないな・・』
『なに心配なされますな。エル様と閣下なら必ず上手く行きますとも』
なんか遠い目をしたアンスバッハと虚ろな目の垂らしがいるけど
そっとしといた方が良さそうだな。なんか深刻な話をしてるみたいだ
『・・・・・・・・・・・・・・◇・○・・・・・・・・・・・・・・・?!・・・・・』
■
ヘインがハイネセンから戻って以後も、ヘインファミリーの多くは以前と変わらず
ブジン邸を頻繁どころか日参して、賑やかな日々を演出していた。
この関係は彼らが結婚、出産を経て新しい家庭を築いていった後も
新たな家族を加えながら続いていき、その絆は何世代にも渡る事となる。
いつの日も、人々の笑い声交じりの喧騒が無くならないブジン邸は
銀河一楽しい場所の一つとして数えられることとなる。
・・・ヘイン・フォン・ブジン大公・・・銀河の小物の一粒は終わらない・・・・・
~END~