その時、その場にいた者の全てが、何かの終わりが来る事を予感している。
ただ、その終わりが時代なのか、特定の人物の生命なのかまでは、予知することは出来なかった
■失ったもの■
緒戦の勝利を飾ったヤン・ファミリーであったが、お祭り気分一色という訳にはいかなかった
ハウサー提督の死が、彼が生み出したどのアイデアよりも大きな衝撃を人々に与えていたせいだ。
緒戦においてハウサー提督が回廊の外へ突出せずに、ヘインの率いる艦隊を後退させていなければ
恐らく、ヤン率いる艦隊が要塞へ到達する前に、要塞の周りは帝国軍に埋め尽くされていただろう
その後に待つのは要塞と艦隊を分断させられ、各個撃破の対象となる哀れなヤン一党である。
もちろん、そのような状況になったとしても、
要塞と艦隊の間に挟まれて孤立する帝国軍を屠る方策も、ヤンの頭の中に入っていたが、
それを用いて得た勝利の代償は、確実に今より大きなものになっていただろう
その事実を直接体験した者や、見るか聞かされた人々は少なく
ヤンを始めに、兵士、果てはその家族までと、多くの人々がハウサーの喪に服すこととなる。
■やさしいアイデア■
宇宙に孤立した要塞では当然、兵士達が満足する娯楽も当然なく
そんな状況では、僅かながら存在する兵士の家族、特に子供の娯楽など望むべくもない。
そんな状況を憂慮したハウサーは、仕事の合間を縫って不用品や廃棄品を利用し、
子供の為に手製の玩具を作っては、プレゼントするといった事を繰り返していた。
また、彼は子供達を喜ばそうと、趣味の手品を披露したりすることもあった
残念ながら、腕のほうは良いとは言えず、
よく子供に種を見破られて顔を真っ赤にして怒るハウサーと、
それを大きな声で笑う子供たちといった微笑ましい光景が、
度々、要塞に住む人々に目撃されている。
彼の遺体の無い葬儀には多くの参列者が訪れ、悲しい別れをしていた・・・
■
『閣下、星を見ておいでですか?』
「シューマッハ中将か、少しだけ昔を思い出していた」
『止して下さい閣下、あなたは前だけを向いて進まれる方です
ハウサーも、先に逝った者達もそれを望んでいるはずです・・・』
「手厳しいな、だが、中将の言は正しい。ハウサーや先に逝った者達一人一人の誇り
その全てに対する責任を果たさなければならない。私は黄金樹の誇りを必ず取り戻す」
アルフレッドの歩みは止まらない・・・失った黄金樹の誇りを取り戻すまで
■100万$の笑顔■
緒戦を前に気が昂ぶったカリンに、突っかかられたユリアンは
未熟にも彼女の最も敏感逆鱗である父親について触れてしまい
建設的ではない口論の末別れ、未だ関係の修復を図れないで居た。
そんなユリアンに、ヤンは人生の先輩として戦いの前夜
夜遅くまで色々な事を話した。その内容はユリアンにとって
大切な思い出となるものであった。
しかし、残念な事に色恋については殆ど触れられなかった。
いや、師父の乏しい経験ではアドバイスが出来るはずも無く、
関係修復の糸口は掴めずに、現在に至ってしまった訳である。
尊敬する師父が当てにならないのなら、
少々、安直ではあるが別の師を頼るのが人間というものである。
ユリアンは自分が、ポプランや彼女の父親ほど器用でもないと自覚していたので
彼らよりずっと不器用だけど、一応妻帯者で色んな意味で魅力的な
尊敬する友人の教えに従うことを選択した。
その教えは凡人が考案したこともあり、なんともいえない代物であったが
『いいかユリアン君、女を怒らしたと思ったときはシンプルに謝るんだ
それで許してもらえたら、最高の笑顔でありがとう!これで多分解決する』
だが、その不器用さがユリアンには好ましいように思われ
今の自分に一番あった行動だと本能的に理解し、それを実践することに迷いを感じなかった
■
後日、ある少女に対して『怒らせるようなことを言ってゴメン!』と
青春ドラマも真っ青な恥ずかしい謝罪を、公衆の面前で行う青年が目撃される。
もう一方の当事者である少女は、突然の出来事に面食らったのと恥ずかしさもあって
『もう、いいわよ』と謝罪を受容れ、早々とその場から立ち去ろうとしたのだが、
青年に最高の笑顔で『ありがとう』と返され、恥ずかしさと色々な感情が入り混じり
少女は茹蛸のように真っ赤な顔をして駆け去る破目になってしまった。
その後、各方面からしばらくの間、青年と少女は冷やかされるようであったが
その関係は周囲の期待に反して、まだまだ始まったばかりと感じられる
微笑ましいものに変化した程度である。物事を進めるにはやはり時間が必要なのだ
『いや~ユリアンの奴も意外とやるじゃないか、それでこそ俺の弟子だぜ!』
『ユリアンはやれば出来る子なんです。それこそ私が心配する必要がないほどにね』
『ふむ、やはり愛は激情!!私もかつて陛下を救出する際に、運命の・・・・』
■ 回廊進入 ■
宇宙暦800年、新帝国暦2年の5月2日
皇帝ラインハルトと合流した帝国軍最高司令官ヘインは
回廊内への侵攻を開始する。このときエル・ファシルは既に無防備宣言を行い
政府首脳陣共々、全ての戦力はイゼルローンに集結させられていた。
こうして、凡人が望まぬ全面対決の幕は切って落とされる・・・
■
大本営情報主任参謀フーセネガー中将は、皇帝に促されて
現在分かりうる情報について、可能な限り正確な説明を始める。
『現在、ヤン一党は回廊中心の要塞に加えて、42,000隻程度の戦力を持っていると
考えられます。また、一部の前衛部隊を除いて、完全に回廊内の奥に潜んでおります』
『つまり、ヤンを討つには予が回廊深くに入らねばならないという訳か』
「いや、戦わずに済むならそっちの方が良くないか?」
『私もブジン大公と同じ考えです。戦わず彼を屈服させる方法はないのでしょうか?』
前者は自らの保身のために、後者は僅かながらある不要な軍事行動に対する
皇帝への批判を心配しての諫言であり、内用は同じだが動機は大きく異なっている
しかし、想いを別にするどちらの諫言も、皇帝の覇気を抑えることはかなわない。
ラインハルトは壮絶な戦いを欲していたのだ。それを知る故にヤンも戦わざるを得なくなる。
一個人の想いが大きな流血を招く、過半の人々がそれに疑問すら抱かずに・・・
これこそがヤンの最も忌避する専制国家の悪癖ではないだろうか?
■■
あ~あ、やっぱヤンと戦うのかよ。
なんか、双璧コンビや食詰めとかが作戦について話込んでるけど
正直なところどうでも良い。とりあえず俺を安全な位置に居させてくれるなら
先鋒になってほんと良かった。最初は食詰めと死ぬ運命か?ってビビッたけど
助かった上に、緒戦の疲れもあるからっていう理由で後の方にして貰えたからな。
『ヘイン、お前の意見を聞かせてくれないか?みな帝国軍最高司令官の言を待っている』
おいおい、金髪のやろういきなり無茶振りか?おれは軍事なんか分からんシロウトだっつ~の!
変なこと抜かすから、周りのお歴々が興味深々で見つめてやがるし、
ヘイン感じちゃう♪なんちゃって・・・・、とりあえず適当に原作通りの安全策でも言っとくか
「え~っと、ヤンよりこっちの方が数は多い、消耗戦を強いて手堅く安全に行こう
無理して罠一杯の回廊内に奥深く入って、ヤン相手に知恵比べするのはやめとこう」
『流石はヘインと言う所か、その用兵は気をてらわず正道で理にかなう。
だが、予はヤンとの決着を望んでいる。ヤンが出て来ぬなら中に入るまで!』
ハイハイ、分かってますよ金髪戦争馬鹿!俺の意見なんか聞きやしないってことはね!
俺は絶対後ろの方で隠れてブルブルしてるだけだからな!どうなっても知らん
■ 開戦 ■
回廊に栓をするように、ヤン艦隊の前面に敷設された機雷群に対し
複数の指向性ゼッフル粒子を持って穴を穿ち、
それを囮に回廊に侵攻を果たす案が、ロイエンタールより具申された。
ラインハルトはそれを諒承し、その作戦はすぐさま実行される。
回廊に先行して突入した部隊は、激しいヤン艦隊の攻撃に晒されながらも
ゼッフル粒子によって開けられた穴から侵攻する部隊の対応に
敵が忙殺されている隙を巧みに突き、回廊へ本隊が侵攻する橋頭堡を確保する事に成功した。
この結果、皇帝及び双璧にビッテンフェルト、シュタインメッツ率いる
約6万隻の兵力が回廊深く侵攻することに成功する。
ヘイン率いる艦隊は後陣として、後方で戦況を見守りつつ待機していた。
■
「どうやら、大魚が網の中に入ってくれたらしい。アッテンボローと
メルカッツ提督なら上手くやってくれるだろう。我々が動くのはその後だ」
回廊に突入してきた帝国軍を待ち受けていたのは、
U字陣形でどっしりと構えながら、反包囲の砲火で
苛烈な攻撃を間断なく、加えるヤン艦隊であった
橋頭堡確保したものの、回廊の中央部に団子状態で布陣した帝国軍は
大軍の利を生かせず、自軍の両横を前進する同盟艦隊によって
後方を遮断され、回廊の出入り口を押さえられかねない状態にあった。
『ミッターマイヤーと同等以上の艦隊運用を、寄せ集めの戦力で見せてくれるとはな
だが、苦労して得た血路を易々と閉じさせる気はない。バルトハウザー敵の左翼を止めろ!』
ロイエンタールは数少ないスペースを即座に見出すと、
熟練のバルトハウザー中将に3500隻の分艦隊を与えて、
側進するアッテンボロー艦隊の中央部分に叩き付けた。
『このまま前進を続ければ艦隊を分断されます!今度は我々が各個撃破の対象に・・』
『心配するな、これ以上の前進は必要ない。ここから帝国軍の腹に切込めれば充分だ!』
不安を声に出した参謀のラオを一笑に付すと、
アッテンボローはバルトハウザー艦隊の横撃を逸らしながら
絶妙な進入角度を維持しながら、帝国軍中央部への突入を果たす。
この間も、メルカッツやアルフレッドが率いる旧帝国・フェザーン軍中心の
右翼艦隊は前進を続け、帝国軍の退路を絶たんと進撃し続けていた
『右翼の対応は後回しでいい。あの程度の戦力では完全に退路を絶つことは出来ん
中央に切込んできた艦隊は無理に止めるな、道を空けて反対へ突き抜けさせろ
通り抜けた後に追撃して討ち果たせ!前衛部隊は敵本隊への対応だけ注意し続けろ!』
崩れかける密集陣形を保ち、ヤン艦隊の連動する両翼に逐次対応するため
ミッターマイヤーは大本営から自らの旗艦へと移り、最前線で艦隊指揮を取っていた
その結果、ラインハルトやロイエンタールの戦局全体を見渡した対応が
ミッターマイヤーの手によって迅速に全軍へと伝わり、
少しずつではあるが、同盟の攻勢が止まり始めていた。
■
戦闘開始から48時間を経て、遂にヤン艦隊本隊が前進を開始する。
それと同時、帝国軍の後方を目指していたメルカッツ艦隊も
帝国軍中央部へと切込むため針路を大きく変える。
帝国軍も急激なメルカッツ艦隊の針路変更の隙を見逃さず
激しい集中砲火を浴びせるが、装甲の熱い戦艦や空母を盾にし
艦隊の被害を最小限に抑える熟練した用兵の前に
期待する以上の戦果をあげることは出来なかった。
そして、U字のそこの部分を紡錘陣形へ、神速ともいえる速さで再編しつつ
帝国軍前衛部隊に襲い掛かるヤン艦隊本隊の攻撃は凄まじい物となる。
その猛攻に対したのが、守戦を得意としないビッテンフェルトと
本隊と前衛の間を繋ぐ大役を任されたシュタインメッツである。
『黒色槍騎兵は守勢には役立たん!仕方がない艦隊を割って前衛を援護する』
シュタインメッツは僚友の弱点を補うため、一隊を切込む敵の両翼への対応に残し
自らはヤン艦隊本隊の猛攻を防がんと前衛部隊の前に躍り出る。
彼の参戦によって前衛部隊は持ち直し、逆に黒色槍騎兵艦隊による反撃を生み出す
だが、この戦況の変化においてもヤンは全く慌てる事は無く
帝国軍の鋭鋒を逸らしつつ前進を続け、遂にその牙でシュタインメッツを切り裂く
シュタインメッツは結ばれることの無かった婚約者の名を最後に呼びながら、
自らの旗艦と運命を共にした・・・
優秀な幕僚総監を永遠に失った事を知ったラインハルトは
その不快感を紛らわすかのように、固辞するヒルダを強引に二代目幕僚総監に任命した。
開戦から既に日付は変わっていたが、未だ終息の予兆すら無く
戦闘はさらなる激化と混迷へと突き進んでいく・・・
■安全地帯■
さてはて、前線のぐちゃぐちゃぶりは原作以上だな、正直いって収集つかんのじゃないか?
『ならば、お前がでて収集を付けて見てはどうだ?銀河一の英雄の座も夢ではないぞ?』
冗談いうな!俺は身の程をよーく分かってるんだよ。出来もしないことやって
死ぬのは絶対いやだからな!俺は絶対回廊の奥に入らないぞ!絶対だぞ!!
『閣下の申す通りで、この混戦の最中に割って入ったとしても望むような戦果は
挙げられますまい。今は戦力の入れ替えを行い相手の消耗を待つ事が肝要かと
奇しくも閣下が始めに述べた戦略の正しさが、証明される結果となりましたな』
『やっぱヘインさんて凄いんだ~。帝国一のキーマンってのも信じちゃいそうです』
アンスバッハ大将!ナイスよいしょっ!俺がホントの門閥貴族だったら自惚れちゃうぜ
あと、ナカノ上等兵!!ちょっとはラインハルトの従卒見習って
俺を尊敬の目で見るとかないのか?そんなに俺って偉そうに見えないか?
『ごめんなさい、ヘインさんって威厳がまったく感じられないから
でも、私は親しみ易くていいと思いますよ。みんな気が付いたら
ヘインさんのことを好きになってるのも、それが原因だと思います』
へいへい、どうせ俺は威厳なしの小市民ですよ。
ヤンや金髪の中に割って入れるような英雄とは程遠い凡人だよ
だから、後ろの方で大人しく安全に過ごさせてもらうぜ!
少しずつ、機雷源の穴を大きくして、送り込む兵力や入れ替える兵力を増やす!
俺らしく地味にチクチクといくぞぉ~♪
『お前らしいというか・・・』『お~♪』『御意』
■
このヘインの地味なチクチク攻撃もとい後方支援は、
戦闘が長引けば長引くほど効果を上げはじめ、
ヤン達に少しづつではあるが、戦闘継続に対する不安を抱かせ始めていた。
ヤン達には増援は無く、失われた戦力が回復することもない
そろそろ補給物資も限界だとキャゼルヌも注意を喚起している
開戦から二週間が過ぎた今、ヤンは最後の攻勢を決断する
■前へ・・・■
この時点において、帝国軍の陣列は既に破綻していた
守勢に不慣れなビッテンフェルトは、強力では在るが限定的な攻勢に終始し
指揮官を失ったシュタインメッツの艦隊の奮闘は、逆に指揮系統を混乱させる始末であった
最早、ミッターマイヤーの用兵の妙を持ってしても艦列の再編は難しく
ヤン率いる本隊の攻勢には、ラインハルトとロイエンタールが率いる
旗艦艦隊が行うしかなかった。
■
ロイエンタールは目前に迫るヤン艦隊への対応に最善を尽くしつつも
傍らに立つ、宇宙を統べるに相応しい覇気に溢れる美しい皇帝と
後方から自軍の支援せんと、ミュラーやアイゼンナッハ率いる艦隊を
交互に回廊内へとしつこく送り続ける男へ思考を廻らしていた。
このまま、金髪の覇王と共に果てる・・・それもいいだろう
だが、残ったあの男がどう動くのか?
それが気になり生命に執着したくなる。
皇帝と宰相、死を受容させる存在と生に執着させる存在
自身にとってまさに相反する存在ではないか・・・
■
『左舷前方にミュラー艦隊が!アイゼンナッハ艦隊は後退していきます』
副官の報告に頷きながら、ヤンはマリノやシューマッハの分艦隊に指示を出し
自軍の針路に対する新手の侵入を防いでいく。
もちろん、この神業のような芸当が可能なのも
フィッシャーの名人芸ともいえる艦隊運用があるからこそ
ヤン艦隊は両翼のメルカッツ・アッテンボロー艦隊を除く
分艦隊から小規模戦団に至るまで、フィッシャーという怪物が運用を統括しており、
指揮官の命令をダイレクトに反映できる統一された艦隊運用を可能にしていた
これに対して、帝国軍は大本営の指揮の下に動いてはいるものの、
個々の提督によって、艦隊の運用がまかされている面も多々あり
混戦状態に陥り指揮系統が乱されると、個々の裁量で独立した行動を取るなど
ヤン艦隊と比して、どうしても纏まりにかける面があった。
もちろん、帝国軍には優秀な人材が溢れており。
多くの場合においては、その個々の判断による動きが
大きな戦果を生み出す大きな要因となっている。
だが、今回ばかりはその帝国軍の特徴が仇になった。
ラインハルトやロイエンタールが的確な指示を出しても
ヤン艦隊の動きに比べると、どうしても反応が遅く後手にまわってしまう
それでも、普段の彼らならばその先を読んで対応することが可能であった
だが、この狭い回廊内で艦隊行動の自由を奪われた混戦状況では
それも難しく、どうしても遂次的な対応に終始するしかない。
もっとも、それこそがヤンがここを主戦場と定めた理由であったが・・・・
■ 撤退 ■
ミュラーの参戦、黒色槍騎兵の攻勢を遂に跳ね除け、
ヤン率いる艦隊はラインハルトの乗る総旗艦ブリュンヒルトを
その砲火の射程に遂に捕らえようとした・・・
だが、このときヤン艦隊は心臓部に致命傷を負っていた
後退するビッテンフェルトの破れかぶれの一撃が
フィッシャーの乗艦に一撃を加える事に成功し、
彼を負傷させる事に成功したのだ。
これに乗じて、ヘイン率いる艦隊を含めて帝国軍が前面攻勢に出ていたら、
ヤンはイゼルローンへ引き返さざるを得なかっただろう
だが、帝国軍の方でも深刻な問題が発生していたのだ
皇帝ラインハルトの不予である。
この深刻な事実知るのは最高幹部のみで、そのほかの将兵には秘された
ロイエンタールはこの事態を踏まえて、ミッタ-マイヤーやヒルダ等と協議し
回廊からの撤退を決意する。
こうして帝国軍は300万の将兵と38,000隻の艦艇を失って
イゼルローン回廊から離脱することとなった。
■
帝国軍の撤退を知っても、ヤンは追撃しようとはしなかった。
彼の後ろには未だ十分な戦力を有するヘインも健在であり、
艦隊の要であるフィッシャーのも指揮を取れる状況になかったためだ
その凶報を聞いたアッテンボローなどは『二度寝が永眠になるなんてないよな?』と
普段の不敵さも雲散して、下手な軽口を叩くのが精々であった
ヤン艦隊も25,000隻以上の艦艇を失い、総数は20,000隻を割り込み損傷艦も多い
更なる大攻勢に耐えうるかどうか・・・、
帝国軍を一旦は退けたものの、首脳陣が素直に楽観できる状況ではなかった。
■ 停戦へ ■
5月19日、要塞へと帰投しようとするヤン艦隊に
皇帝からの停戦と会談を求める通信文が届く
その通信によって、ヤン艦隊首脳部に驚愕の嵐を呼び起こす
ヤンは驚きと興奮に包まれる部下達を見やりながら、
頭の上に申し訳程度に乗っかっているベレー帽を、黙々と弄んでいた
■
多くの流血は生み出した戦いは、一先ず終幕を迎えようとしていた
前線ではこれを機に、平和な時代を切望する者が大半を占めていたが
これを善しとしない者達も当然存在し、内に秘めた悪意を隠しつつ
自らの目的を達成せんと、影に隠れながら蠢いていた
流血を好む神の渇きは未だ満たされていなかった・・・
ヘイン・フォン・ブジン大公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~