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No.2215の一覧
[0] 銀凡伝[あ](2006/10/09 21:10)
[1] 銀凡伝(苦痛篇)[あ](2006/10/09 23:26)
[2] 銀凡伝(錯綜篇)[あ](2006/10/11 06:57)
[3] 銀凡伝(呆然篇)[あ](2006/10/20 22:34)
[4] 銀凡伝(逆流篇)[あ](2006/10/25 22:29)
[5] 銀凡伝(悔恨篇)[あ](2006/11/04 00:37)
[6] 銀凡伝(文通篇)[あ](2006/11/05 23:38)
[7] 銀凡伝(決別篇)[あ](2006/11/12 20:26)
[8] 銀凡伝(決断篇)[あ](2006/11/26 21:19)
[9] 銀凡伝(窃盗篇)[あ](2007/01/02 19:14)
[10] 銀凡伝(同衾篇)[あ](2006/12/29 22:27)
[11] 銀凡伝(怠惰篇)[あ](2007/01/02 19:15)
[12] 銀凡伝(帰郷篇)[あ](2007/01/04 20:15)
[13] 銀凡伝(失恋篇)[あ](2007/01/08 18:37)
[14] 銀凡伝(面会篇)[あ](2007/01/28 17:57)
[15] 銀凡伝(日記篇)[あ](2007/01/28 18:04)
[16] 銀凡伝(邂逅篇)[あ](2007/02/24 21:05)
[17] 銀凡伝(密婚篇)[あ](2007/02/25 17:26)
[18] 銀凡伝(会議篇)[あ](2007/03/03 18:47)
[19] 銀凡伝(新婚篇)[あ](2007/03/04 22:45)
[20] 銀凡伝(早弁篇)[あ](2007/03/17 23:28)
[21] 銀凡伝(脱糞篇)[あ](2007/03/21 20:15)
[22] 銀凡伝(決戦篇)[あ](2007/03/25 14:17)
[23] 銀凡伝(惜別篇)[あ](2007/05/06 20:50)
[24] 銀凡伝(誘惑篇)[あ](2007/05/13 23:00)
[25] 銀凡伝(通院篇)[あ](2007/05/27 16:31)
[26] 銀凡伝(激務篇)[あ](2007/06/03 19:49)
[27] 銀凡伝(過労篇)[あ](2007/08/06 21:54)
[28] 銀凡伝(休暇篇)[あ](2007/08/13 23:11)
[29] 銀凡伝(捨石篇)[あ](2007/08/18 23:29)
[30] 銀凡伝(帰還篇)[あ](2007/09/09 21:54)
[31] 銀凡伝(潜入篇)[あ](2007/09/23 22:26)
[32] 銀凡伝(転機篇)[あ](2007/10/14 12:29)
[33] 銀凡伝(借金篇)[あ](2007/10/15 23:43)
[34] 銀凡伝(開幕篇)[あ](2007/10/16 00:07)
[35] 銀凡伝(退屈篇)[あ](2007/10/22 22:24)
[36] 銀凡伝(演説篇)[あ](2007/11/04 11:55)
[37] 銀凡伝(泥酔篇)[あ](2007/11/24 17:30)
[38] 銀凡伝(終幕篇)[あ](2007/12/09 17:32)
[39] 銀凡伝(嫉妬篇)[あ](2007/12/22 20:10)
[40] 銀凡伝(芝居篇)[あ](2007/12/30 13:25)
[41] 銀凡伝(刺客篇)[あ](2008/01/01 22:50)
[42] 銀凡伝(議論篇)[あ](2008/01/05 22:31)
[43] 銀凡伝(親書篇)[あ](2008/02/02 20:51)
[44] 銀凡伝(発狂篇)[あ](2008/02/10 18:46)
[45] 銀凡伝(尋問篇)[あ](2008/02/19 20:52)
[46] 銀凡伝(脱走篇)[あ](2008/02/24 23:06)
[47] 銀凡伝(傍観篇)[あ](2008/03/02 16:49)
[48] 銀凡伝(未還篇)[あ](2008/03/09 15:11)
[49] 銀凡伝(国葬篇)[あ](2008/03/10 20:59)
[50] 銀凡伝(蛇足篇)[あ](2008/03/16 23:57)
[51] 銀凡伝(合婚篇)[あ](2008/03/30 20:17)
[52] 銀凡伝(反動篇)[あ](2008/04/20 17:57)
[53] 銀凡伝(叛乱篇)[あ](2008/04/30 17:25)
[54] 銀凡伝(煽動篇)[あ](2008/05/02 21:51)
[55] 銀凡伝(戴冠篇)[あ](2008/05/25 21:24)
[56] 銀凡伝(梵天篇)[あ](2008/06/08 14:48)
[57] 銀凡伝(詭計篇)[あ](2008/06/22 21:48)
[58] 銀凡伝(師弟篇)[あ](2008/07/05 20:24)
[59] 銀凡伝(退位篇)[あ](2008/07/06 21:31)
[60] 銀凡伝(誕生篇)[あ](2008/07/13 00:25)
[61] 銀凡伝(不安篇)[あ](2008/07/19 21:16)
[62] 銀凡伝(惜日篇)[あ](2008/07/27 21:58)
[63] 銀凡伝(終焉篇)[あ](2008/08/03 11:46)
[64] 銀凡伝(酔狂篇)[あ](2008/08/07 22:24)
[65] 銀凡伝(落夢篇)[あ](2008/08/15 20:16)
[66] 銀凡伝外伝(始動篇)[あ](2010/02/13 18:32)
[67] 銀凡伝外伝(就任篇)[あ](2010/02/10 23:42)
[68] 銀凡伝外伝(欠勤篇)[あ](2010/02/10 21:35)
[69] 銀凡伝外伝(散歩篇)[あ](2010/02/14 18:03)
[70] 銀凡伝外伝(対決篇)[あ](2011/05/22 23:05)
[71] 銀凡伝外伝(完結篇)[あ](2018/11/01 23:29)
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[2215] 銀凡伝(親書篇)
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:ac9866c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/02 20:51

オーディンの宇宙港に、隻腕の提督と凡人が帰還した
多くの人々が新天地へと飛び立つ中、一人は傷ついた体を癒すため
もう一人は、ただ惰眠を貪るために戻ってきたのだ・・・


■帰宅と来客■

おう、ヘインさまと愉快な仲間達のお帰りだぞー!!


『おかえりなさい』『お帰りなさいませ』『おかえり~♪』『ふふ・・おかえりなさい☆』


なんか一人、ゾクッとするオーラがでているが、気にしないキニシナイ・・・
まぁ、色々あるが、やっぱり家が落ち着くし一番だな!!


『そっかぁ~♪うん!!やっぱり、家が一番だよね!』


なんだぁ?このお嬢さんは??また、どっかから電波でも受信したのか?
急にクネクネし始めて・・・まぁ、いいや

とりあえず、馬鹿はほっとこう。そんじゃ、ユリアン君たちも入ってくれ!
そこそこ広いから、五人ぐらい楽に泊まれるぞ



地球教を探る旅路にあったユリアン一行5名は、その情報を持って帰路につくはずであったが
地球制圧部隊の後詰に来ていたヘインと久方ぶりに再会したため、
オ-ディンまでの航路を共にするだけでなく、ヘイン宅に客として泊まる事となった


この際だから、家に泊まって観光でもしてけば?と
名実共に帝国NO2から、そんな提案をされては当然断ることは出来ないし

今後のヤン・イレギュラーズの方針を定めるためにも、
持ち帰る情報が多いほうが良いだろうと考えた一行は、
帝国宰相からの寛容すぎる好意を受容れることにした。


彼らは、ヘインというフリーパスを持て余す事無く活用した
各省は移転した工部省と軍務省を除いて全てを見学し、帝国行政の一端を垣間みた
当然、博物館として開放されている新無憂宮も見学したが、
一般人が入れない地区まで、ヘインの案内で立ち入ることができた。

帰国の報告を聞いたら羨ましがるだろうヤンのため、
ユリアンは克明な記録と資料を作成しなければならなくなった


敵対する可能性が高い一行を、拘束するどころか厚遇して
帝国の中枢を、大胆に隠すこと無く見せたヘインの応対振りに

両コーネフは『馬鹿なのか、大物なのか・・・いや、両方だな』と
辛口なコーネフ家にしては高評価を与えていた

実際は、遠くから来た友人を得意げに連れまわすみたいなノリであったが



■帝都滞在記■

地球教の調査から、帝国首都の内情を知る旅へと様変わりした親不孝号の冒険譚も
明日、帝都オーディンを発てば、帰路を残すのみだ

ヘインさんの好意で帝国の内情を知ることが出来たのは、
地球教の秘密の一端をヤン提督に持ち帰る以上に大きなことかも知れない

重要機密をお尋ね者に近いぼくらに見せてくれるヘインさんの懐の深さを
ボリス船長やコーネフ中佐も呆れつつ、認めていた。

今日は、ヘインさんと過ごす最後の日だったので、
ぼくは色々な人に、ヘインさんの人となりに聞いてみた
英雄を、人物を知るには多くの人の意見を聞くことは非常に重要なことだから

もちろん、これはヤン提督の受売りだ。
ぼくは、まだまだヤン提督という枠を超えることは出来ていない

ちょっと話がずれて来たので、元に戻してヘイン評(偉そうかな?)を書いていこう


【ボリス評】

まずは、ボリス船長から
ヘインさんについてどう思うかと聞くと
一言で表すならブラックホールみたいな男とのこと

敵であれ味方であれ、どんな人でも引き寄せて飲み込んでしまう
また、飲み込むときは一瞬で、気が付いたら取り込まれているという怖さがあると

『坊やは、取り込まれていないかな?』と逆に聞き返されたけど
多分、手遅れだと思う。もう随分前に取り込まれている筈だから・・・


【ブジン夫人評】

その人を知るには伴侶にまず聞けというし、
ぼくは、サビーネさんとヘインさんについて話をしてみた。

御馳走様です・・・

纏めると、やさしくて、ちょっと抜けているところもかわいい、大好きな人とのこと
ちょっとあてられてしまったが、幸せそうな顔で話す彼女はとても魅力的だった。

【アンスバッハ評】

ヘインさんの参謀兼副官のアンスバッハ大将は、
元々は敵対していたブラウンシュバイク家に代々仕えていたため
ヘインさんとは主君の仇と親友殺しという因縁が深い関係だ


『かつて、私の仕えた主君は彼等に討たれ。そして、私も彼の親友を奪いました。
 私は本来なら自決しているか、処刑されている筈の身だったのですが・・・
 大公は厳しいお方です、死という安易な忠義に逃げる事をお赦しにならなかった』


そんな複雑な関係であるのに、なぜお互い一緒に居られるのか?
彼が少しだけ話してくれた内容から答えを読み取るのは、ぼくにはまだ難しそうだ

だけど、二人の間には単なる主従関係にはない、強い絆がある事を知ることはできた
この事実は、ヘインさんがいかに部下に慕われているかを証明するものだと思う

【コーネフ評】

最後は、コーネフ中佐との話を書こうと思う。
ヘインさんはポプラン中佐と仲が良い。似た物同士気が合うんでしょうか?と
じゃれあう二人を遠目に、コーネフ中佐に尋ねると意外な答えが返ってきた。


『いや、ポプランとは正反対なタイプの人間じゃないかな
彼自身の本質は変化より安定を好む、守成の人だと思うよ』


確かにと、ぼくが納得していると中佐はこうも付け加えた

つまり、皇帝と宰相はことなる価値観を持っているとも言える
門閥貴族に同盟、ヤン・ウェンリーと敵がいる間はいい・・・
だが、その全てが斃れた時にも二人は肩を並べ続けられるかな?と




ヤン提督が斃れると言う仮定はありえないと思うけど
『両雄並び立たず』については一考の価値があるんじゃないだろうか?

中佐の言うようにヘインさんと皇帝ラインハルトが間逆の価値観を持っているならば
そこを突く事によって、二人の間、帝国に間隙を生み出すことが出来るかもしれない

地球教やフェザーンの地下組織なら、自らの野望を達成するためなら
無理やり二人の間に亀裂を作り出す陰謀を企てることも辞さないだろう

もし、それが現実の話になったら、その混乱に乗じて民主主義体制の再建を図る・・・・

だめだな仮定が多すぎるし、これは想像というより妄想の域に属するものだ
それに、ヘインさんが易々と陰謀によって窮地に貶められるとは思えない

あまりにも隙のない帝国統治を知ってしまったから、ぼくは焦っているのかもしれない
いま、やるべきことは地球や帝都で手に入れた情報を整理し、
出来るだけ正確な形にしてヤン提督に渡すことだ。


もちろん、その情報の中にはヘインさんからの親書も含まれている
正直、中身が気になってしょうがないけど、ヤン提督以外に見せるなと言われているので
なんとか我慢している。大切な友人との約束を守りきるためにも
ぼくらの帰りを待っていてくれるヤン提督の下へ、一刻も早く帰る必要がある


もう、旅の時間は終わったのだ・・・



■お出かけしませんか?■

行っちまったなぁ、ユリアン君達がいなくなって
なんだか、家が広くなったような気がする

そんな中、フェザーンへの移転は着々と進んでいく
とりあえず留守居役を仰せつかった俺は怠惰を極めんと
家でひたすらごろごろする事に決めたはずだったのだが・・・




    『いっしょに、お散歩しませんか?』


縁側に腰掛けて涼んでいるときに、後ろから掛けられた声に
最初は面倒だな~と思ったが、振り返って見ると

夕焼けのせいか、顔を少しだけ紅くした少女が、柱の横で佇んでいた
不覚にも、かわいいと思ってしまった

さすがに、その更に後ろで鼻血を盛大に噴出しながら
崩れ落ちている人ほどクリーンヒットはしなかったが

カーセさん、そんな姿でも貴方は魅力的な女性ですよ・・・


       『だめかな?』


そんな顔して聞かれたら、断れる奴なんて広い銀河を探しても見つからないだろう
たまには、少しやんちゃなお嬢さんのお供をしますかねぇ


   『うん、ありがとう。すごくうれしい♪』


まったく、こうストレートにこられるとこっちが照れちまう


■ 広場 ■

 『そういや、もうそろそろお前の誕生日だったよな。
  なんか欲しいもんはあるか?奮発してやるから高くても良いぞ』


う~ん、ヘインからならなに貰っても嬉しいけどなぁ・・
でも、せっかくの提案をみすみす逃すのも勿体ないよね
一番ほしいものをちょっと考えてみようかな?


でも、わたしの欲しい物ってなんだろう?
宝石に奇麗なドレスや素敵な歌劇と食事・・・・
そんなものは一昔前に充分過ぎるぐらい経験してるし
まぁ、そういのも確かに好きだけど。でも今の庶民?平民?みたいな生活でも
別に不自由じゃないし、昔の冷たい生活より百倍ましだもん


ってだんだん話がずれてきたわ。今はなにを貰うかを考えないと


『なんだぁ?別にいらないならいらないでいいぞ?そっちのが楽だしな』
 「えい☆『グエェ!!』」


とりあえず、せっかちさんなヘインが居眠りしてる間に考えなくちゃ
でも、ついつい膝枕で居眠りするヘインの寝顔に見惚れちゃうな


ねぇ、ヘイン?やっぱり、わたしなんにも要らないよ
あなたと一緒にいるだけで、こんなに幸せなんだよ?
あっ、でも貴方との赤ちゃんは欲しいかな


うん、わたしが欲しいのはモノなんかじゃない
ヘインと一緒に過ごす日々が一番欲しいんだ


もちろん、そこにはカーセにエリ姉やエルも居るよ
そうだ、わたしはずっと家族が欲しかったんだ・・・


 『で、男の子と女の子どっちが欲しいんだ?』


もちろん両方だよ?タヌキさんは知ってるかな
わたしは欲しいものは何でも手に入れないと気がすまない性格だってこと


 『知ってるよ。そのうえ手段を選ばないってのもな』


うふふ、照れ屋な旦那様はなんでも知ってるね。
ねぇ・・これからもずっと一緒だよね?




『なんか、サーちゃんってホントかわいくなちゃったね~』
『いえいえ、お嬢様は昔からカワイイお方でしたよ』
『ふふっ、なんか妬けちゃうなぁ☆』


ブジン家四姉妹の三人は仲良く揃って野次馬をしていた
皆見守られながら、ヘイン夫妻の長い休暇はゆっくりと過ぎていく・・・


■再侵攻■


11月、失意のうちに首吊をしたレンネンカンプの密葬が行われ、
ラインハルトが混乱の極みに達した同盟への侵攻を決意する中
ヘインの珍しく長い休暇は、唐突に終わりを迎える。

帝国宰相府及び帝国軍最高司令部のフェザーン移転が決定したためである
これに伴い、ブジン一家はオーディンからフェザーンへと生活の場をかえる事となった

また、ヘインがオーディンを発って程なくして、同盟政府との和約は破棄された
既に統治能力を無くした同盟政府は、ラインハルトにとって外交をする相手ではなく
過去へと葬り去るものでしかなくなったことを意味していた

ヤンを謀殺しようとして、逆にヤン一党に拉致された後に
解放された同盟元首ジョアン・レベロはその暗い現実の中、
それでも職務に精励し続けていたが・・・・殆ど無駄な作業と化していた


そんななか、一つの良いニュースが同盟に流れていた
同盟軍最古参の老将ビュコックが宇宙艦隊司令長官に再就任したのである

ビュコックは目前に迫る帝国軍の侵攻に対する準備と、
残されたヤン達の為に戦力を残すという矛盾する作業を
参謀長官のチェンと共に精力的に行っていた。


同盟と帝国・・・最後の戦いの舞台は、少しずつ整えられていく・・・・
 


■親書■


祖国から帝国に売られる寸前で、ハイネセンを脱出したヤンは後に
799年の下期を振り返って、人生で最悪の時期だったと語っている


なにせ、ようやく手に入れたにいれた念願の年金生活は、新妻との新居生活に慣れる間もなく
ミスターレンネンの偏見によって奪われることになり、
長年、こき使われてきた同盟政府には暗殺されかけるなど散々な目にあうわ、

かつての部下や同僚が謀殺されかかった自身の救出にあたって
高等弁務官レンネンカンプ、同盟元首ジョアン・レベロを次々と拉致したため
銀河中を騒がせる凶悪犯の一味になってしまったのだからと



『その最悪の時期の中で、もっとも酷い出来事は?』と


ジャーナリストをかつて志した後輩に質問されたヤンは
心底苦々しい顔をしながら、ある人物からの親書を読んだ時だと答えている


当然、その内容に興味を持った後輩は、何と書かれていたのかと、しつこく問い詰めたが
『だめ!』『ぜったい言わない』と子供のような答えを得るだけで
頑として口を割ろうとしない司令官から、望んだ答えを生涯得ることは叶わなかった・・・


その内容についての質問者は、後輩一人に止まらず、
毒舌な先輩や、彼の被保護者に撃墜王と枚挙すればきりが無かったが
その誰もが、内容を聞きだすことは出来なかった


親書の受渡しを行ったユリアン・ミンツは後年、
なぜ自分は誘惑に負け親書の封印を破らなかったのかと
自身の著書の中で悔恨の念を書き記している



■エル・ファシル再び■


ハイネセンを脱し、メルカッツら正統政府軍と合流したヤン不正規隊は、
自由惑星同盟と袂を分かち、分離独立したエル・ファシル星系を目指していた。


その理由は、革命に燃える共和勢力と手を取り合って
帝国の支配から逃れ、民主主義国家を復活させようという積極的な理由ではなく

ランズベルク伯というフェザーンの小覇王の借り入れ限度額が限界に達し
日々、大所帯化する組織を維持するために、確たる根拠地が不可欠となったためである
キャゼルヌなどは『カネがない、借りるアテももうないぞ』と元も子もない表現をしている


とにもかくにも、ヤン不正規隊はあらたな『借りるアテ』と根拠地を得るために
宇宙暦799年12月9日、エル・ファシルに姿を現すこととなったのだ

こうして、司令官ヤン・ウェンリー元帥、参謀長ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ元帥
幕僚長アルフレッド・フォン・ランズベルク上級大将、後方勤務部長アレックス・キャゼルヌ中将、
フェザーン軍参事官長ハウサー大将を最高幹部とした上で、
政府主席ロムスキーが軍事委員長を兼任する形で、混成革命予備軍が誕生した。



■家出息子の帰宅■

慌しい宇宙港で会議を終えたアッテンボローは帰路につく途中
亜麻色の髪をした懐かしい人物の後姿を、偶然発見した。

『よぉ!ユリアン!!ユリアンだろ』

突如、自分を呼ぶ懐かしい声に気付いた少年は振り向くと、
若々しい足取りで声をかけた主に近づき敬礼した。

「アッテンボロー中将!お久しぶりです」


久方ぶりの再会であった。宇宙港に到着したばかりで
親不孝号のボリスやマリーネは船内で事務作業に追われていなかったが

荷物持ちのマシュンゴやナンパに夢中な撃墜王と
逆ナンされる物静かな撃墜王達とは、直ぐに合流することが出来た。


『まったく、せっかくの良いところを邪魔しないで欲しいですな。別にいいでしょう?
 ハイネセンで好き放題やっていた中将と違って、俺たちは陰気な地球行に加えて
 悪の宰相とのやり取りで苦労してるんですから、少々、羽を伸ばしてもバチはあたりませんよ』

もっとも、せっかくのナンパを邪魔されたポプランは不平たらたらで文句を言ったが

これに対して、アッテンボローも負けずに自分の苦労話をしようと思案したが
『悪の宰相』というフレーズに気が付き、ヘインのお気楽馬鹿と遊んでいただけだろうと
的確な口撃を行い、不敵な撃墜王を黙らせることに珍しく成功した。


そんな光景を、横でユリアンが笑いを堪えながら見ている事に気が付いた
アッテンボローは、わざとらしく話題を転じ、ユリアン一行の軌跡について質問するのだった




ひとしきり、お互いの近況を確認しあった一行は
宇宙港を後にし、ヤンが詰める司令部へと地上車で向かった

その車内での話題はもっぱら、同盟と縁を切ったヤンの思い切った決断にたいする批評と
立ち位置が変わっても、変わらぬヤン艦隊の有様についての軽口の応酬であった


五人が司令部に到着すると、颯爽とした歩みで少女が近づき
二人の撃墜王に声をかけて敬礼をした。

それに対して、各々のバラバラな表情と動きで敬礼を返していた。
エレベータ-に乗らず残った二人の撃墜王は
自身の愛弟子であり、知人の娘と遅めの昼食を取ることとなった。


その後、食堂では普段とは違うやわらかな表情を見せる
クロイチェル伍長の姿が目撃されている。

マシュンゴは一人でロッカーに荷物を運び
それを終えると、誰もいない食堂でほんと~に遅めの昼食をとった
『変な時間にくるんじゃないわよ。まったく面倒くさいったらありゃしないわ』と
ウェイトレスに小言を言われたときは流石に泣いたようであった


■親書開封■

ひとしきりエレベータ-内で、カリンや彼女と父親の関係について
アッテンボローと話をし終えると丁度、目的の階に到着した。

『そいじゃ、我らが怠け者の元帥に御対面と行こうか?』

ユリアンはそう促されると、幾分かの緊張感を纏いながら司令室に足を踏み入れた
もしかしたら、もうここには自分の居場所はないのではないか?と不安だったのだ

だが、そんな不安は最高の形で払拭されることとなる。
ヤンやフレデリカは当たり前のように暖かく、彼らの家族を出迎えたのだ


ユリアンは、今回の旅で得た重要事項について報告をする予定であったが、
自分がヤン・ファミリーの欠かせぬ一員である事を実感した嬉しさの余り

遅れてやってきた撃墜王達やアッテンボローを交えた歓談に
ほとんどの時間を費やしてしまった。


もちろん、地球教の実態を詰め込んだ資料を渡し、
ヘインによって見せられた帝国統治の内情についての報告も忘れなかった

嬉々としてヘインの内政官としての優秀さや、
敵国の人間に余す事無く帝国統治の内情を見せた度量の広さと豪胆さを
最大限の賛辞を込めて嬉しそうに話すユリアンを見て
彼の保護者が少し不機嫌な顔をしていたのはご愛嬌だろう


ひとしきり、報告を交えた歓談を終えると
ヤンはいつものように彼等に対して、作戦の説明を始めた

作戦の立案途上においてヤンは再検討のため、よくユリアンの意見を聞き
ユリアンにとっても戦略戦術能力を高める最高の学習になっていた

そして、最近は彼らの懸案事項に必ずある人物の名が挙げられている。


『いよいよ、イゼルローンに戻るんですね提督!ですが・・・』
「ユリアン、分かっている。お前が言いたいのは彼が気付いてるのではだろ?」


ユリアンは静かに頷くと、皇帝の再侵攻に直ぐに合流しなかったブジン大公が
イゼルローン方面の防衛について、非常に高い関心を持っていることをヤンに告げた


『ブジン大公は、ヤン提督の仕掛けた罠に多分気が付いています。』
「ユリアンユリアン、重要なのはそこじゃない。仮に彼が気付いていたとして
 我々の仕掛けた罠を防ぐことができるか、出来ないのかが、この際、一番重要なんだ」


たしかに、あのブジン大公ならば自分の奸計にも気付いているかもしれない
だが、彼は要塞から遠く離れたフェザーンに居るのだ。
何かしら、気付いていたとしても全ての事態に即座に対応することは不可能だ

また、逆に彼が気付きなんらかの対策を立てているならば
それを利用することで、より有利な状況を作り出すことが可能かもしれない
もちろん、不確定要素が多すぎて作成立案上の骨子には到底なりえないが・・・



ヤンはそこまで思案し、脳細胞を働かせる事を止めた
どちらにしろ現状の作戦案を超えるものは立案できそうにないし
大前提である要塞攻略を延期することを許すほど、
自分たちを取巻く状況は甘くはないのだから

それに、今までだってなんとかブジン大公と対等以上に渡り合ってきたのだ
今回も、なんとかしてみせるさと、茶目っ気たっぷりに
不安がる被保護者に答えるのだった。




少々、話が重くなってきた場に居心地の悪さを感じたのか
流れをかえるため、唐突にポプランがユリアンに話しかけた。

『そういえば、あいつの手紙を預かってなかったか?』と

彼は場の空気を和まそうという善意八割と、状況の劇的変化を期待する
好奇心二割をもとに発言したのだが、最悪の結果で報われることとなる


『そうでした。ブジン大公から提督だけに見せるように言われた親書です。
 提督以外の者には絶対に見せるなと言われています。また、提督だけが
 その内容に耐えることが出来るかもしれないなと、ブジン大公は仰っていました』


ヤンは静かに、それを受取ると無造作に封を破り、たった一枚の紙切れに目を通した。


     「みんな、すまないが・・・少しだけ一人にして欲しい」




先に述べたように、ヤンから親書の内容を聞き出せたものは居なかった

だが、部屋に戻った彼の妻は、メタクソになった小さな屑篭を
部屋に戻った時に目撃している。

もちろん、聡明な彼女はその事に付いて振れることは無く
物を壊した罰として、その日のブランデーの量を少しだけ減らすのだった


好奇心に負け、壁に耳を立てて隣室の状況を聞いた、革命青年と撃墜王の証言によると


最初、激しく金属容器を叩きつけ、蹴り上げるような音とともに


なんで、こんなことが書いてあるんだよォオオォオオオーーッ
それって納得いくかァ~~~~おい?オレはぜーんぜん納得いかねえ……
なめてんのかァーーーーーッ このオレをッ!
チクショオーーー ムカつくんだよ!コケにしやがって!ボケがッ!
クソッ!ナメやがってクソッ!クソッ!


と聞いてはならない物を聞いてしまったらしい


その話を彼らから聞いた者は、また面白おかしく話を大きくしていると思い
笑って聞いているが、その話をする彼らがらしからぬ深刻な表情で語るため
まさか?と思いつつ。みな笑いを一様に止められるのだった・・・


確かなことは、ヘインから受取った親書によって、
ヤンは多少なりとも感情を乱されたということと

そして、歪な姿に変わり果てた被害者たる屑篭が残されただけで
『親書』自体は、ヤンの手によって焼却処分されてしまったということだ





数世紀後、当事者が全て死に絶えた頃、
『ヘイン親書』の控えが発見されたと宇宙全土を揺るがすニュースが流れたが
その余りな内容によって、贋作であると一笑に付され、
真相は再び、歴史の闇に後戻りすることとなる



     その、発見された控えには、一言だけ記されていた




            m9(^Д^)プギャー



   
     ヘイン・フォン・ブジン大公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・


               ~END~



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