帝国と同盟の戦いが一先ず終結し、
双方の戦士達はいつ終わるか分からぬ休息に身を委ねていた
■ 再会 ■
終戦協定の策定に追われる義眼たちを尻目に
ヘインはささっと評議会ビルを抜け出し、
僅かの警備のみを引きつれて要注意人物達との旧交を温めようとしていた
イゼルローンで知り合ったヤン艦隊の面々は要注意人物として
帝国軍によって監視対象とされていたので、比較的簡単に居場所が掴め
多くがハイネセンに一時的に居住していたので再会は容易であった・・・
■■
さて、せっかく同盟まで来たことだしユリアン君達に挨拶に行くかな
しばらく会ってないから、背も伸びてるだろうし、男前になってんだろうね
『ヘインさん!こんなところまでどうしたんですか?』
『けっ、陰険な野郎だな。俺たちが負けたのを笑いに来たんだろう?な?そうだろう?』
いや、アッテン君、そんなに襟絞めたらヘインしんじゃう・・・・
久しぶりに飯でも食おうって誘いに来ただけだって!!!
まったく相変わらずアッテンの野郎は好戦的な奴だ
ユリアン君が止めてくれなかったら、絞め落とされてたぞ
それに、リュッケ!!おまえニヤニヤしてないでさっさと助けに来いよ!!
何のために護衛としてつれて来たかわからんだろう!
『いや、君も大変だね。コイツの護衛なんかど~でもいいからさ
そうだ折角ハイネセンに来たんだから、観光でもしていってくれ』
おいおい、アッテン君!人の護衛を勝手にさぼらせようとってぇええ!?
リュッケ!お前マジで『お言葉に甘えさせてもらいます』じゃないだろう
まったく、仕事をさぼるなんてとんでもない奴だな!
まぁ、いいだろう。今日は友好的に食事をしに来ただけだ
数々の無礼を許してやる度量を見せてあげようじゃないか
『ヘイン、もたもたしてないで行くぞ!おまえさんの奢りなんだろ?』
まったく、よこで申し訳なさそうにしているユリアン君がいなかったら
顔面パンチしてやる所だが、我慢してやる・・・
■
結局、3人で店に入り酒を飲み始めてしばらくすると
アッテンボローの毒舌にカチンと来たヘインが、
かつてのイゼルローン訪問時にボコられたリベンジとばかりに
殴りかかって子供じみた取っ組合いをはじめたり、大騒ぎの宴会になった
仕事が終わって途中参加してきたラオを始め、
ローゼンリッターの面々等、続々と三人がいる店に集結してきた
狂乱の宴はいつ果てることも無く続く・・・
ヘインとヤン・イレギュラーズの間にかつて芽吹いた奇妙な友情は
戦争が帝国軍の勝利に終わっても枯れることは無かったようである。
その証拠にバラートの和約が成立し、帝国に凱旋するヘインの元には
ユリアンを筆頭にイレギュラーズが見送りに勢揃いしていた
大半が二日酔いを友にしての見送りであったが、親しみ易い強敵への好意に溢れていた
その光景を何度も振り向きなが搭乗口に向かうヘインは
今後、彼らと戦う可能性が高いことを知っていることもあり、
その多くの人々の好意は嬉しく思うと同時に切なくも感じていた
彼等の内、何人が再会を果たすことが出来か、そんな思いを胸に・・・
■帰ってきたヘイン■
ヘインが帰ってくる!待ちに待った瞬間がようやく来た
ニュースでバーミリオン会戦の死傷率、ヘインの艦隊生存率が5%って聞いたとき
私の目の前は大げさではなく真っ暗になった
もう、会えないかも知れない・・・死んじゃったかもしれない
最悪な結末しか頭に浮かんでこなくなって
カーセやエリ姉が何か横で話しかけてくれたみたいだけど
全く、耳に入ってこなかった。それだけの衝撃だったんだと思う
ブジン公健在とニュースの続報が入るまでの約15分間
多分、人生で一番長い15分で二度と味わいたくない時間
恥ずかしいけど、ニュースの続報を聞いた後も
腰が抜けちゃってしばらく動けなかったんだよ
つまり!ヘインはこんなかわいい奥さんを心配させちゃったわけだから
いっぱいいっぱい甘えさせ・・じゃなくて、お詫びをしなくちゃいけないの!
■■
まったく、帰ってきた早々に美少女からの熱い抱擁とは喜ぶべき物なんだろうが
公衆の面前でやられるとさすがに恥ずかしいものがある
買ってきた土産をやるからとりあえず離れてくれんか?と提案してみると
『ヤダ!離れない!』
だだっ子みたいなことをいって却下された・・・
誰かに、状況の打破を願いたいが、カーセさんもビデオ撮影に夢中で望み薄だし
食詰めはニヤニヤ見つめるだけで助け舟の一つもよこす気はないみたいだ
まったく、友達甲斐のない奴だ。結局、自分で何とかするしかない訳か
見せてやろう、帝国元帥の名が伊達ではない事を!
■
ヘインは自分から離れようとしないサビーネの両頬を両手でやさしく包み、
抱き上げながら、上向きにさせると自らの顔を近づけ・・・
接吻ではなく豪快な頭突きをかまして半歩下がることに成功する
さすがのサビーネも、公衆の面前でキスをヘインが平然とやってのけると思い込み
そこに痺れるぅう~憧れるぅう~!!状態であったため全くの無防備
一瞬意識を飛ばされ、獲物を取り逃がしてしまう
このまま、ヘインはまんまと逃げきる心算であったが
敵はそれを許さなかった。意識を数瞬で取り戻したサビーネは
泣 い た
赤鬼以上にわんわんと泣いたあと・・・
長い出征期間中、どれだけ待たされた者が心細かったのか
戦死者の多さに、最悪の場合を想像してしまったときの絶望を
ヒクッヒックと咽び泣きつつ言葉を紡ぎだした
感動的な帰還兵と家族の再会が彼方此方で行われる宇宙港エントランスの中心
再会を喜び抱きついたお嬢さんに対するヘインの仕打ちと
泣きながら切々と再会までの不安な日々を告白する少女の姿は
ヘインの地位が高いためか、一際目立って周囲の注目を集める
その光景をみた周囲の第三者の評価と反応は、当然カワイイ少女に傾いていた
どこらどう見てもヘインが悪いと、周りの人々から冷たい視線をヘインに射込み
傍らにいる侍女のハンドカメラもいつのまにかハンドガンにかわっていた
この状況では徹底抗戦を採る事は叶わず、ヘインは膝を屈せざるを得なかった
■ 帰路 ■
『わるかった、恥ずかしかったからつい・・手繋いで帰る位で勘弁してくれよ』
う~んどうしようかな?ちょっと大げさに泣いちゃったのも悪かったし
もうちょっと、いじめちゃおうかなと思ったけど許してあげちゃおう
でも、なんかあやまるヘインって悪戯小僧のしゅんとした感じがしてカワイイかも♪
今度、嘘泣きして困らせてみようかな?だけど、いじわるして嫌われたヤダなぁ
とりあえずは久しぶりのお散歩デートはしてもらおっと・・・♪
■ 念願のアイス ■
遠回りのお散歩に無理やりつき合わせてみてよ~く分かったわ!
やっぱり、私はこの人が横にいないとダメなんだと
照れながら手を繋いでくれる彼がだいすき・・・
寄り道に付き合ってくれるやさしいところがだいすき!
自分だけの・・そう、ヘインの心を全部独占したいぐらい愛してる・・・
ヘイン位の地位があれば、愛人だっていくらでも作れることくらい分かるよ
まして、あたしは憎むべき旧王朝類に連なっている上に
父親は賊軍の副盟主で味方殺し、もちろん評判は最低最悪・・・
あたし自身、ヘインがいなかったら辺境送りは確実だったと思う
それなのに浮気はいやだなんて思うのはワガママなのかもしれない
でも、誰にも渡したくない!いま握っている手を自分だけのものにしたい!
そんな風に想っていることに気付いてほしいんだけどなぁ~?
ねぇ、ヘイン・・・わたしの想い伝わってる?
『なんだ?じっとみてアイスでも食いたいのか?』
うん、大丈夫♪これだけ素敵に鈍感な旦那さんを
捕まえられるのはきっと広い銀河でも私だけ!
もし、他の人がヘインの心を手に入れたりなんかしたら、
殺してでも奪い取っちゃうんだから!!!!!!!!!!
■
その後、ヘインとサビーネは仲良く並んでアイスを食べながら帰宅した
空港で分かれたはずのカーセはいつものように尾行しながら
その光景を、食詰めが呆れるほど優しい微笑みを浮かべながら見つめていた
ヘインが望む平穏な日常がそこにあった
■ 論功行賞 ■
イゼルローン侵攻からフェザ-ン制圧、同盟領侵攻と続いた激戦の論功行賞が行われ
新しい職責と階級にみな一喜一憂することとなる
まず、元帥に昇進した者は四名いた
全作戦の兵站を支え、参謀チームの長として後方部隊を大過なく運用した手腕と
バラートの和約を纏め上げた行政手腕を高く評価され、
オーベルシュタインは元帥に昇進すると共に軍務尚書としての職責を担うこととなった
フェザーンを制圧するに止まらず、ハイネセンを制圧して同盟を降伏させ
ラインハルの危機を救った双璧の二人も揃って元帥に昇進し、
ロイエンタールは統帥本部総長に任命され、
ミッターマイヤーは宇宙艦隊司令長官に任じられた
前記の二者と同じく、ハイネセンに攻略に功があり、
無血でイゼルローンを攻略したヘイン師団における功績が認められた
ファーレンハイトも元帥に昇進した。
また、帝国軍最高副司令官に任じられ、最高司令官であるヘインの補佐を行うこととなった
更に最高司令部付幕僚総監に任じられ、その職責は三長官に並ぶ物とされた
ヘインは武功第一として帝国宰相だけでなく、帝国軍最高司令官に任じられ
必要があれば帝国軍三長官を指揮下に置くことも認められた。
そのうえ大公の称号まで許される破格の扱いであり、
義眼の脳汁がいつ沸騰してもおかしくない大出世をする事となる
その他の人事では、バーミリオンの窮を救った功績から、
ミュラーが主席、アイゼンナッハが次席と言う上級大将の序列が定められた。
また、アンスバッハもバーミリオンの奮戦が評価され大将に昇進するなど
多くの将官・左官は栄達を果たしていた。
武官以外の人事においては新たに国務尚書に就いたマリーンドルフ伯を除いて
殆どがブジン公領出身の俊英官僚が、尚書として新帝国の閣僚の座を占めた
そのため、新皇帝の元ヘイン政権樹立の見出しが帝国各紙を飾ることとなる
■ 如何わしい宗教 ■
「総大主教猊下、ラインハルト・フォン・ローエングラムが同盟を征し、皇帝の座を得ました」
黒衣の男は自分の上位者に対し、広大な情報網から得た情勢について克明な報告を行っていた
『して、銀河の覇者となった金髪の孺子か宰相のどちらを処する気だ?』
尊大な調子で報告者に今後について尋ねた総大主教に対して報告者は
自信に満ちた顔でどちらを処するにも使える『駒』があると答えた
その悪意と妄執によって繰られた『駒』はハインリッヒという名を持っていた
■
ハインリッヒはキュンメル男爵家の当主であったが
伯父であるマリードルフ伯の後見がなければ
先天的失陥によって、その座に就くことが出来ないほど病弱な体であった
彼は地球教の手によってラインハルトやヘインに対する羨望を
妬みから害意へと巧みに塗り替えられていった
病人が己の命の残り火を使って、生きた証を残す生贄に天才か凡人
そのどちらを選ぶか、その選択権だけはハインリッヒが握っていた
そして、新帝国の産声が治まらぬ新帝国暦元年7月・・・
彼の慕う従姉妹のヒルダによってキュンメル事件の幕は開かれる
■キュンメルの蠢動■
ラインハルトに結婚を薦め敢無く玉砕した国務尚書が、
愛娘の希望したキュンメル邸への行幸を願い出て許されたのは7月の始めの事である
キュンメル邸は新皇帝の初の行幸という栄誉を飾るため、
あわただしい準備による喧騒に包まれていた・・・・
■
目前に皇帝初の行幸が迫ったある日、ヘインの元に珍しい来客が訪れる
皇帝の行幸の前に帝国宰相たる英雄へインに一度会ってみたいという
ハインリッヒの小さな我侭を叶える為、ヒルダがブジン邸に足を運んだのだ
突然の美しい女性の訪問に気を良くしたヘインは
『テンションあがってきた!』と言って依頼内容を聞く前からOKしてしまう
その直後、ヒルダからキュンメル邸で一緒に従兄弟に会って欲しいと言われ
ヘインは『しまった!』と心の中で呟いたが、
原作で暗殺のターゲットがラインハルトだった事を思い出し安堵
その上、事前にハインリッヒを説得すればヒヤリとするキュンメル事件を
未然に防げるではないか、まさにハインリッヒの法則!と楽天思考に切り替わっていた
慌しく表情をコロコロと変えるヘインを見て面白そうに笑いながら
ヒルダは来訪日と謝意を伝えブジン邸を後にした
■
ヒルダ帰宅後、へインは一応の安全策のため憲兵総監ケスラーに対して
『地球教に皇帝弑逆の陰謀の兆しあり、トリューニヒトと接触し情報を得よ』と命令した
当然、その突然の命令に困惑するケスラーであったが、
ラインハルトの行幸において新皇帝の暗殺を企て秩序を乱そうとする輩が
絶対にいないとは言いきれないので疑問を持ちつつもヘインに従うこととした
このまま原作通りに地球教の皇帝暗殺計画が行われれば
後世においてヘインは偉大な英雄としてではなく、
預言者として名を残すこととなっただろう
しかし、時の歯車は僅かな刃こぼれで別の流れを生み出す
ヘインの予防策は地球教徒を焦らせ、計画の実行を踏みとどまらせる
第一案の皇帝暗殺計画は破棄され、より早い段階に実行時期を定めた第二案を選択させる
第二案 新帝国宰相 ブジン大公 暗殺 計画
そんことになっているとは露知らず、ヘインは手を握りながら謝意を述べた
ヒルダの事を思い出しつつ、握ってもらった手に頬擦りをしながら
うひゃうひゃっと、だらしない顔をしながらニタニタ笑っていた
ドアの影から一部始終を見つめる嫉妬に狂った野獣が近づきつつあることにも気付かず
■お腹と背中がくっついちゃう♪■
いや~ヒルダちゃんはやっぱいいね~♪
なんというかサビーネにはない凛とした可憐さが凄く良い!!
『へぇー、握ってもらった手を洗いたくないぐらい?』
そうそう、しばらく手を洗う気はないな。もう頬擦り何回してもしたりないぜ!
ヒルダちゃんに手握ってお願いなんて言われたらなんでも言うこと聞いちゃうな♪
その上、二人で仲良くお宅訪問なんてある意味デ-ト、否デートにしてみせる!!!
『ふ~ん・・じゃぁ、こんなふうに後ろから抱きつかれたりなんかしたら
嬉しくて私のことなんか忘れちゃうくらいヒルダさんに惹かれてるんだ』
そうそう、ヒルダちゃんにこんなに強くギュッとされたら
サビーネのことなんかって・・・!?☆×!!げぇーーっ!!サビーネ!!
『やっぱり、私なんかのギュッとじゃぁだめなのかな?
ううん、もっとつよ~くギュウギュウと締め上げれば
愛しい旦那様も感じちゃって良い声で啼いてくれるよね?』
やばい、まさに死の抱擁・・・背骨がみしみし言ってるよ!
いかん、また手を振る赤髪が見えてきた・・・なんとかしないとヤラレル!?
だが、その前に確認しなければならないことがある!
サビーネ落ち着いて聞いてくれ・・・、背中にあててるのはワザとか?
『なっ、何言ってるのよエッチ!ちょっとあてて気を惹こうとしただけよ』
よし、焦って手を離したな!というか、やっぱりあててんじゃねーか
だが、真っ赤な顔して照れてるのは、ちょっとかわいいかな・・・
『そっそうかな?でもヘインだって真っ赤になっててかわいいよ♪
でも、ヒルダさんと二人でのお出かけはダメ!私も一緒に付いてく!』
やれやれ、あんまり危ない所につれて行きたくはないんだが
まぁ、多分原作通りの金髪ねらいだから大丈夫だろうし、
偶には心配性なお嬢さんの希望に応えてやるかな・・・
■
絶対バカップルだよねと少し羨ましそうな顔で主張するエリザと
そこがお嬢様のかわいい所と主張するカーセが見守る中
ヘインとサビーネの夫婦喧嘩というよりじゃれあいに近い遣り取りは終わる
なんだかんだで、朝昼晩と仲の良い夫婦であったが
果たして、目前に迫る危機を二人三脚で乗り切ることは出来るだろうか?
ヘイン・フォン・ブジン大公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~