一方が停滞すれば、もう片方が動く
『神々の黄昏』は止まらない・・・
フェザーン回廊に新しき時代を告げる嵐が迫っていた
■援軍■
遅々として進まないイゼルローン要塞攻略に対して
帝国宰相ロ-エングラム公は業を煮やし、更なる増派を宣言し
あらたな『回廊』攻略軍として双璧率いる二個艦隊の出兵を決定した
だが、彼らの目的地はフェザ-ン、フェザ-ンを占領し
同盟侵攻の橋頭堡を確保するのが彼らの本当の任務だった
この任務は彼らの能力から考えれば、さして困難な物ではなったであろう
フェザーンには二個艦隊の警備艦隊が駐留しているとはいえ
一度も実戦を経験したことがない者が殆どで、
奇襲ともいえる今回の侵攻には全くの無警戒だと考えられ、
帝国の双璧に対抗するなど、常識的に考えればまず不可能であったからだ
また、侵攻作戦の実行者達も占領後の統治こそ困難であると考えていた。
彼らの予想の正しさは、そう遠くもない未来に証明される
だが、困難さの度合いは彼らの予想を大きく裏切っていた
歴史の変わり目に、新たな英雄が彗星の如く現れたためだ・・・
■誇りは共に・・・■
銀河正統政府フェザーン弁務官事務所
野心と欲望と活力に満ちた人々で溢れかえりだけでなく、
偉大なる誇りに包まれた場所であった・・・
そして、帝国軍の真の侵攻回廊を陰謀当事者達以外では
最も早く知ることが出来た場所であった
■
『閣下、やはりミンツ中尉の言うとおりの結果になりましたな』
「そのようだな、もう少し時が欲しかったな・・・いや、今更と言うべきだな
ローエングラム公とヘインの迅速さと実行力に我々は敗北したという訳だ」
シューマッハから回廊の入り口に帝国軍が進入したとの報を受けたアルフレッドは
さして、取り乱した様子も無く、大敵を賞賛する余裕すらあった
「さて、敗残者は敗残者らしく、悪足掻きを精々させて貰おうか?」
シューマッハは主君の言葉に頷くと、己の職務を果たすため足早に部屋を出て行った
圧倒的な力を持つロ-エングラム公が目前に迫ってきてはいたが、
彼ら二人には一片の不安もなかった、黄金樹の誇りは揺るがない・・・
■
ヤンはフェザーン中に独立不羈の精神を呼び起すことは叶わなかったが
彼の愛弟子ユリアンとフェザーンの小覇王と呼ばれる男の奇妙な縁によって
三分の一程度のフェザーン人の独立心を擽ることに成功する
偶然か、必然か・・・場違いな男の登場により
歴史は正道から確実に乖離し始めていた・・・・
アルフレッド達が行ったことは単純であった
弁務官事務所に来る人間に虚実を織り交ぜた情報を流し
不安を煽り、時には義侠心を擽り、あらゆる階層に協力者の根を伸ばしていったのだ
アルフレッドのカリスマと、シューマッハの組織力のどちらが欠けていても
上手くはいかなかったであろう難事を、彼らは精力的な行動によって成し遂げた
時が足りず、フェザーン全体を掌握することは叶わなかったが、
最もフェザーン統治能力が低下する『最後の日』なら
一時的にならばフェザーンを掴むことが出来そうであった
■終焉の前夜■
12月24日、驚きという名のプレゼントがサンタではなく
帝国の双璧によってフェザ-ン中にばら撒かれた
帝国軍の侵攻はあっけなさ過ぎる形で半ば成功しようとしていた
警備艦隊は演習のため、母性に駐留していた艦隊は半数程度
その半数も予想外の侵攻に浮き足立つだけで
さして抵抗することなく中央宇宙港の制圧を許してしまっていた。
市中も混乱を極め、自治領主官邸には指示を求める連絡が相次いだが、
ルビンスキーは既に地下に潜っていたため、それに答える者はいなかった
この狂騒と混乱の中、ユリアン・ミンツは己の職務を果たすため
興奮する人々を掻き分けながら弁務官事務所を目指し駆けていた
そんな興奮の渦が最高潮を迎えた中、演劇の主役が舞台に踊り出た
■ゲリラライブ■
『突然ではあるが、フェザーンの全放送局を我々、銀河正統政府が借り受けることととなった
これより、全フェザーン市民に対して軍務省次官ランズベルク伯から重要な宣言を行う・・・・』
事態の推移を見守ろうとTVを食い入るように見つめていた市民の前に
見慣れぬ二人の帝国軍人が全てのチャンネルに姿を映し出された
シューマッハとアルフレッドであった・・・・・
彼らは陸戦部隊の9割以上を投入し、混乱する治安当局を尻目に
放送局を帝国軍よりも早く占拠する事に成功したのだ
「誇り高きフェザーン商人の諸君!歴史の敗残者へと立場を変えつつある今の気分は如何かな?
まぁ、私も歴史の寵児たるロ-エングラム公に、強かに打ち負かされた同じ敗残者である
だが、敗残者であっても私は誇りを失ってはいない!「黄金樹の誇り」が常に傍らに有る!!
諸君らはどうだ!?賢しくも帝国と同盟の争いの血を啜って肥太るうちに気が付けば
小利口を気取った愚かな敗残者になっているという訳だ!このままで良いのか!!!
己の才覚のみを頼みに宇宙を駆けた独立不羈の誇りはどこへいったのか?消えたのか!?
否!!!!我々と同じだ!諸君らの中にも強大な英雄を相手にしても屈せぬ誇りがある!!
重ねて言おう!我々は敗残者である!!だが「誇り」が残っているではないか?
いまこそ、帝国、フェザーン、同盟の枠を超越し、誇りを共に抱き立たねばならん!!!
フェザーンの誇り高き独立商人よ!いm・×vチュ~ン」
ぶ っ ち ん
同盟弁務官事務所で帝国軍に貴重な情報を利用されないようにするため
自らが責任を取ると啖呵を切って破棄していたユリアンは
五月蝿かったのでTVのリモコンで無造作に切った・・・
そして、ユリアンが『なげーんだよ、馬鹿』とつぶやくのを偶然聞いた
ルイ・マシュンゴは俯きながら「こんなユリアンは嫌だ!」と首を振っていた・・・
多少のイレギュラーを交えながら、フェザーンの終焉は最終楽章を迎えようとしていた
■マリーネ・スーク■
演説を終えたアルフレッド達が味方に引き入れた同士
『急遽決まった』軍事演習のためにフェザーンを『たまたま』離れていた
駐留艦隊と合流するため、地下に潜伏するなか
ユリアンとマシュンゴ達もヤンの元に帰るためフェザーン市街に潜伏していた
おまけに弁務官事務所全職員に見捨てられたヘンスロー弁務官もいた
彼ら三人の当座の目標は同盟に向かう船を調達することであった
アルフレッドの演説の成果か、独立心を刺激された
一部の市民が反帝国的感情を爆発させているため
占領地の治安沈静化に双璧は追われていた。
そのため、帝国郡は船舶の航行には過敏になっており、中々船の調達は進まなかった
そんな、八方塞がりのなか救いの女神が現れる
女神というには少々かわいらしすぎたが
マシュンゴが潜伏先に連れて来た女神は、ボリス・コーネフという男が
船長を勤める船の事務官であり、ユリアンたちを同盟に送り届ける仕事を引き受けたのだ
『マシュンゴ、ぼくは正直焦っている!だから笑えない冗談なら聞きたくない』
『中尉の仰りたいことは分かりますが、彼女は確かに同盟へ行ける船を持っています』
自分より年下の少女が船長代理と聞いたとき、ユリアンは性質の悪い冗談だと思った
しかし、現在の不安定な状況で船を出してくれる人間が
まず存在しないことも事実であった。つまり、最初から選択肢はなかったのだ
ユリアンは観念し、マリーネと名乗った自分より2・3歳若そうな少女に頭を下げた
「ふん!最初から素直にたのめばいいのよ!別ににアンタのために
船をだすんじゃないんだから!!勘違いなんかしないでよね!♪」
『マリーネタンハァハァ・・・・』と突然萌えはじめたヘンスローは
マシュンゴの熱い抱擁で骨を軋ませ、眠りの世界に送られていた
「たまたま、ボリス船長の知り合いの知り合いだから手助けするだけよ!
そう!フェザーン商人は縁を大事にするから・・それだけなんだから!!」
『うん、危険な仕事請けてくれてありがとう、マリーネ』
こうして、顔を真っ赤にした少女とユリアン、マシュンゴに変態を加えた一行は
フェザーンを脱出し、一路ハイネセンを目指す契約を結ぶこととなった
もちろん、代金は失神した変態の財布からギッた金である
■無血占拠■
マリーネが商魂逞しく、その他の乗船者を探す中
大侵攻の一翼を担う凡人は怠惰に過ごしていたが、
その余りの体たらくに方面軍首脳部が業を煮やし、開戦を強く主張し始めていた
このまま無為に過ごし、フェザーン回廊を通過した本隊によって
ハイネセンが落とされ、終戦となったら自分達は大軍を擁しておきながら
いくらヤン艦隊とはいえ、たったの一個艦隊の足止めしか出来なった無能者として
終戦後、オーベルシュタインによって糾弾され栄達から程遠い場所に追いやられる
そんな、方面軍幹部達の危機感と糾弾されても仕方がないヘインの怠惰振りが
開戦の狼煙を無理やりにでも揚げさせようとしていた・・・
■■
『いい加減に働いたらどうだ、お前のことだから途方もない考えがあるんだろう?』
すいません・・『なぁ、いってみろよ』みたいな目で見られても
「わたしなんか・・・ただの凡人なんです!できませんコーチ!」って言いたい状態だ
うわっ、食詰めだけじゃなく鉄壁に沈黙、アンスバッハまで熱い視線を送ってきやがる
俺にどうしろって言うんだ!おれがヤンに勝てるわけがないだろ
向こうが待ってたら勝手に逃げてくんだからここは大人しく・・・・って!?
そうだ!いいことおもいついた♪おまえ俺のケツのry
じゃなくて、そうだったよ!ヤンところには民間人がいる
軍人は民間人には手を出せない!民間人が避難するまで攻撃できないとか
適当なこといって、とにかく誤魔化してその場を凌ごう!!!
「イゼルローンには民間人がいる。軍人が民間人を危険に晒すのは不味い
まずはヤンの奴に攻撃しないから民間人を避難させろって勧告しよう
それだけで敵味方含めて一滴の血も流す事無く、要塞が手に入る筈だ」
たぶんだけどなw、だめだったらまた適当なこといって誤魔化そう!
■会議後■
『なるほど、フェザーンの事を知った今となっては敵も要塞に張り付いている
訳にもいかんということか、先に足の遅い民間人を出して追撃を容易にするか・・・』
・・×・・・・・・・・・・・?
『やはりブジン公は怖ろしい方だ・・・辛辣で狡知を極める策で御座いますな・・・』
・・×××???・・・・・・・・・・・・
『中将もそう思いましたか、小官にはとても思いつくことが』できない策です』
『卿はそのままでよい。誠実で正道を歩む・・・変節家である中将や俺、
そして上に立つヘインには真似をしたくてもできない生き方だ・・・』
・・○◎・・・・・・・・・・・・・・
■
盛大に深読みをしすぎるヘイン元帥府の面々以上に
アイゼンナッハの一人称形式には無理がありすぎた・・・・
まぁ、とにもかくにも首脳陣開戦の進言を何とか退けたヘインは
イゼルローン要塞に向けて民間人退避勧告を行うこととなった
イゼルローン回廊もようやく慌しくなりそうであった・・・
ヘイン・フォン・ブジン公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~