同盟への宣戦布告を行った帝国は
来るべき同盟領侵攻作戦のための準備に追われ始めていた
それは、終わりの始まりを予感させる慌しさであった
■金策■
さて、9月といえば奴の誕生日だが、プレゼントをやる金がない
ちょいと前にミュラーの快気祝いで金使ったから、正直な所サイフが軽いのだ
その前にも女帝の親父のツケを何故か俺が払わされたし
ワンコイン亭主状態になってしまった。元帥なのに・・・
なんとかこの金欠状態を打破するため
渋ちんの官僚どもに『小遣いをあげろ!前借させろ!金をよこせ!』と
どこぞの特務大佐のように迫ったが、『ワロス!』の一言で粉砕されてしまった
よし!困った時の友人頼みだ!誰でもいいから金を借りよう
「もしもし、食い詰め?ちょっと頼みがあってさぁ~、ヘインのお願い聞いてくれる?」
『ほう、侵攻作戦を前に忙しい中、傘下の艦隊編成をすべて俺に投げておきながら
礼を言うどころか、卿はさらに『何か』を、この俺にお願いしようというのだな?』
「あはっあはは・・・いや君は良くやっているよ!うん、この調子でよろしく~」
やっべ、そういやここ最近の軍務は全部あいつに丸投げだったからな
完全にMK5状態だ・・こんな状況じゃ金かしてなんて言えないな
まぁ、いい・・・俺には皆まで言わなくても分かってくれる
『心の友』がいるのだから・・・・
「ああ、俺!おれだよヘインだ!今日はナッハに頼みがあってさ♪
そうそう、いいにくいんだけどさ、え?遠慮いらないって?
さすが心の友だぜ!黙って金を貸してくれるのはお前だけだな!!」
『・・・・・!!・・・・・!!!!!■×!!○×△!!!!』
くくっく・・・アイゼンはいつものように何も言わない計算どおりだ
このまま押し切れば・・・うん?なんだこれ・・・文字が出てきたぞ?
『ちょっと~ウザインですけど?てゆーか?『心の友』ってナニ?
ハッキリ言ってきもいんですけど?正直ハァ?って感じー
この前、声かけなしで旅行いっておきながら金貸せー?
チョー虫がよくなくない?マジありえないんですけどぉ』
おのれ!デジタルハイビジョンか!!!
なんで半端なギャル調なんだとか、色々と突っ込むべき所はあるが
ちょっとあの無口な顔とギャル文のコラボは見るに耐えんので
思わず回線を切ってしまったぜ!べつに首は吊らないから安心してくれ!
畜生、こうなったら手当たり次第に電話かけてやるぜ!!!!
帝国の重鎮、ヘイン人脈の底力を見せてくれるわ!!!
■
うん、だめだった・・・ブラッケとかブラッケとかが俺に金かすなって言いまくってるみたいで
誰も貸してくれませんでした・・・今、食い詰めの気持ちが非常に分かった気がしました
お金がないのです。別にあいつのことがどうとかじゃなくて
記念日になんも無しってのは、男の沽券に関わるというか
はぁ、ちょっと・・・いや、かなり情けないかもな・・・・・
『はい、紅茶入れたから良かったら飲んで?』
おう、わりぃな・・・なんだかお前が天使に見えてきたぜ・・・
『へっへー♪惚れ直しちゃった?かわいいと思った?』
あぁ、そうだな・・・世知辛さに負けそうになったが
かわいいお嬢さんのために、もう少し頑張ってみようって気になりましたよ
紅茶ありがとさん。煎れるのうまくなったなぁ。旨かったよ・・・
『うん、いっぱい練習したからね。あと、あんま無理しなくてもいいよ?』
■
結局、ヘインはファーレンハイトに泣き付き
ささやかな記念日を演出する事に成功する
その後、精力的に元帥府で事務処理に励むヘインの姿が見られるようになり
つまらない男の意地は、中々高い代償を必要としたようである
まぁ、新しい櫛を握りしめながら鏡の前で、
毎朝くねくねしている妻の姿を見ることが出来る
代償として考えるならば安い物かもしれない
■いちおくまんにん■
一億人、100万隻体制という言葉が、同盟への宣戦布告後
帝国軍首脳部を中心に広がりつつあった
平民の間でも軍籍にない者から次々と志願兵があつまり
門閥貴族への積年の恨みと、それに結びついた同盟に対する敵愾心の
双方を発散させようという潮流が生まれていた
ローエングラム・ブジン両元帥府の面々が集まった最高会議は
帝国元帥ラインハルト、ヘイン、主席副官のシュトライト少将と次席のリュッケ少佐
副参謀長のオーベルシュタイン上級大将、軍務省官房長官アンスバッハ中将
同省調査局長フェルナー准将に秘書官ヒルダを加えた作戦本部メンバーと
実行部隊メンバーとして双璧の両上級大将に加えて食詰めをいれた3上級大将及び
復帰したミュラーを含めた9名の大将が集められていた
この会議を招集した時点で既に帝国軍の中では、
第一級の出動準備態勢が整えられており、金髪とヘインが一声かければ
12万隻と5万隻の大艦隊がいつでも出動できる状態にあった
『卿らに今日集まって貰ったのは、叛徒どもにたいして武力を持って
懲罰を加える、その具体的な方策について意見を求めるためだ』
ラインハルトは優美な金髪を揺らめかせながら、上段からゆっくり
諸将の中心に歩みを進めながら、前置きをすると一度ヘインに目配せをしてから
淡々とではあるが力強く宣言をした・・・
『私とヘインの腹案を述べるが、過去の例に倣う事無く新たな侵攻路で
フェザーン回廊を侵攻ル-トとすることだ。つまり、フェザーンは
軍事的にも政治的にも中立を放棄し、帝国陣営につくこととなる!!』
ラインハルトから放たれる言葉によって、侵攻作戦の具体案を聴かされていなかった
実行部隊を中心にしてどよめきが広がっていく
それを見やりながら、ラインハルトは静かに手を挙げ、合図を行った
その場に居るものたちは等しく示された扉に目を遣り、
親衛隊長キスリング大佐に伴われたボルテック弁務官に視線を送った
「あそこのボルテックが俺らに協力してくれるわけだ
当然、商人だからボランティアでやってくれるわけじゃない」
あらためてヘインが下手な冗談とも皮肉とも取れる発言をしながら
協力者である弁務官を紹介する。
そして、帝国とボルテックの間で結ばれた密約の内容までは説明しなかったが
ボルテックは帝国のフェザ-ン回廊通過に全面的に協力する代わりに
ルビンスキーの後釜に付けさせてもらう取引をしたのだろうと
その場に居る優秀なメンバーは粗方感づいていた
ただ、それを口に出す者と出さない者に分かれただけである
『つまり、この『商人』は祖国を売るという訳ですか?』
黒猪は普通そこまで言わないだろうと言うぐらい露骨に言い嫌悪の表情を向けた
この発言にボルテックは気付いたような顔を浮かべながら
あくまで自分が売るのは形式的なフェザ-ンの独立であると述べたが
黒猪はなんとでも言える便利な舌を痛烈に揶揄したが
ラインハルトに窘められた。
■
その後、垂らし等にフェザ-ン回廊を用いた侵攻作戦について意見を求めたが
フェザ-ンが裏切った場合に敵中に孤立する危険性が提起され
それに対して、武力によって裏切り者に制裁をすれば事が足るなどと黒猪から
積極策が出たが、垂らしに反転する際に同盟に追撃されたらどうすると返されると
大半の提督は押し黙り、積極策を述べようとしなくなった
『だが、イゼルローン回廊に死屍を重ねる方策を採るよりマシだろう
ロイエンタール提督の懸念は最もだが、両元帥の侵攻案は敵の意表を突く物でもある
どちらかの回廊を使って侵攻するしかないなら、より侵攻が容易になる方を選択すべきだろう』
食詰めが述べた意見にラインハルトは頷き、フェザーン回廊を侵攻ル-トとして
選択する事を宣言し、イゼルローンに大艦隊を派遣して陽動を行い
同盟の眼を引き付けた上で、フェザ-ンを通過して同盟を征服する戦略案を述べた
「基本は俺もそれでいいと思うけど、ヤンが要塞捨てて迎撃に来たらどうする?」
『その時は、ヤン・ウェンリーを主力とイゼルローン方面軍で挟撃すればよい』
「そう、うまくいくか?あのヤンが相手だぞ?」
『うまくいかせるさ、こちらにはこのヘインがいるんだからな』
珍しいラインハルト軽口によって、緊迫した会議の緊張は緩んだ
『一本取られたな』と種無しにヘインは小突かれて不機嫌な顔を浮かべていたが
その後、作戦名を問われた金髪が『神々の黄昏』と答え
ただ独り俺は参加したくない。家にいる方が良いという男を除いて
皆、その壮大な作戦に参加させてくれるように若き主君に求めた
こうして、興奮と高揚に大半が包まれた中、会議は終焉を迎えた
■イゼルローン方面軍■
はい、意味不明・・・なんで作戦に参加したくないって言った次の日に
イゼルローン方面軍の総司令官の内示が下るんだよ!!
たかだか5万隻でヤンとイゼルローン要塞の相手が出来るかって言うんだ!
もし、シェーンコップとかリンツやブル-ムハルトにシェーンコップとかが
原作みたいに旗艦に乗り込んできて白兵戦になったらどうすんだよ
シェーンコップとかシェーンコップみたいなシェーンコップとかが殺しに来るんだぞ!
クソ!くそくそー、ヘインとシェーンコップなんて名前から言って
向こうの方が強そうじゃないか、まぁ実際向こうの方が強いけど
ヘインで勝てそうなのなんてチンネンぐらいだっつーの!!
畜生、俺様をなめやがって超イラつくぜ!!
がたがた体の震えが止まらないぜ。前死にかけたときのトラウマって奴か?
PTSDを訴えて家に引き篭もるか?だめだ、敵前逃亡で金髪に殺されちまう
くそったれー!まじでヤンたちがコワイ!ほんと勘弁して下さいだ
酒だ!そうだなにもいい方が浮かばんなら酒を飲んで気分をかえよう
って、しまった金欠で発泡酒すらもうないんだった・・・
『ヘイン・・・眠れないの?大丈夫?』
ああ、大丈夫だ。ちょいとばかし疲れが溜まっただけだ
今日はささっと寝ますかね・・・ちょっと汗かいたから風呂はいってくるわ
悪いが、先に寝といといてくれ・・・
『うん、おやすみ・・・あんまり無理しないでね』
とりあえず、大丈夫な振りしちゃったけど
全然大丈夫じゃねー!もうママーとか泣き叫んでるトンガリ君状態だ
何とか男のやせ我慢で耐えたが、まずは風呂に入って落ち着こう
確か風呂は命の清算だっけ?なんか違う気がするが
疲れた日にはいいもんに違いないからな、
多分今回も他の誰かが何とかしてくれるだろう。
そうだ、食詰めとか鉄壁や沈黙に期待しよう!うん、それで無問題だ・・多分・・・
■
先回の戦いでヤン艦隊の怖しさを十二分に味わったヘインは
イゼルローン方面軍指令を拝命した直後は
ガクガクブルブル状態に陥っていたが
元来、緊張感が持続しない性格のためか、次の日はケロリとしていた
心配して一晩中、手をにぎり頭を撫でてあげたサビーネは骨折り損だったのだが、
本人は自分の愛の力で元気付けたと勘違いしていたので何ら問題は無かった
■
ユリアン・ミンツが未だフェザーンに着かぬ
帝国暦489年9月の半ば、幼帝が廃位され生後8ヶ月の女帝カザリンが即位した
ゴールデンバウムの終わりが近づき、新時代を迎えるための激流が間近に迫っていた・・・
ヘイン・フォン・ブジン公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~