束の間の休息・・・・
共に過ごしてくれる人がいるなら
それは、幸せなことだ・・・
■長期休暇■
過労で倒れたヘインは、自宅のベッドの上から逃げることができず
政務に精励する羽目になったが、
優秀な官僚陣のおかげで思いのほか改革は進み、
ヘインはお役御免、もとい長期休暇を得ることになった
ヘインはこの休暇を利用して、内乱後に得た旧リッテンハイム領と
旧ランズベルク領の視察に単身で赴く事にした
官僚やサビーネに四六時中囲まれ、彼は一人になる時間が欲しかったのだ
ヘインは『自分探しの旅に行く』と頭の弱い書置きを残し、
一人、家を出て星の大海へ繰り出そうとしていた・・・・
■孤独な冒険者■
使い古したバックを一つ抱え
未知なる世界への冒険心で飛び出す!
う~ん男のロマンだね!しがらみの無い自由の世界が
そう!いつだって俺の前には広がっているんだ!!
いざゆかん!宇宙の果てイス○ン樽へ!!!
『うんうん!レッツGO~♪』
そうそうレッツGOって~!?
まぁ、いい帝国三長官はこの程度ではうろたえない
『お嬢様、忘れ物は御座いませんか?』
あ、カーセさんそのリュックかわいいですねって
ちがうちがう・・・そういう問題じゃないんだ
『アンスバッハ、申し訳ありませんが留守を頼みますね』
そうそう、留守番はしっかりしないとねって!
三人ともどうみてもお出かけルックです。本当にありがとうございました。
『そろそろ準備もよさそうだな、では行こうか?』
食詰め君も一緒ですか、そうですか?
分かりました分かりましたよ!!!みんなで仲良くいきゃ~いいいんでしょ!
『それじゃ!改めて出発進行~!!』「『おぅ~!』」
■ ?!○ ●= ■
ヘイン漂流記ではなく、ヘインの珍道中へと変更となったが
前線で血を流しあう二つの要塞に篭る兵士よりは十二分にマシな状況であった
ヤンが首都の査問会に呼び出され不在のイゼルローンに
突如として現れた帝国軍の巨大要塞・・・・
「イゼルローンなみの要塞ということか・・・・」
帝国軍要塞出現の報を受けたキャゼルヌはさすがに平静で入られなかった
それだけ色々な意味でとんでもないことであったのだ
どちらかというと、こんなばかげた事をする奴がいるとはの意味で
その後、シェ-ンコップやムライといった首脳部は
ただ座して待つわけには行かず、とりあえずの対応を協議し
直ぐにヤンを戻すよう首都に連絡する事を決定した。
魔術師が帰還するまで何とか持ちこたえなければならない状況が
イゼルローンが陥落すれば同盟領が丸裸の状態になるという事実と合わさり
大きな重圧となって司令部に圧し掛かっていた・・・・
■バカンスが止まらない■
前線で緊迫した状況の最中、ヘインたちは常夏のリゾート地で
危機感ゼロの状態でバカンスを満喫していた
■■
あつい、クーラーの効いたホテルに帰りたい
だいたい海に来たからビーチに来るなんて短絡的だ
そもそも、文明人たる現代人は快適な空調施設の中
極力、体力を消耗しない休暇を過ごすのが本来あるべき姿ではないだろうか?
『じゃーん!水着美女の登場で~す!!』
『なんか、久しぶりの水着だからちょっと恥ずかしいかな?』
『いえ、お嬢様もエリザ様も良くお似合いですよ』
夏 空 ビ ー チ に 乾 杯 !
うんうん、やっぱ海は最高だぜ!!男のロマンだね
やっぱ照りつける太陽で開放的になるのはいいいね!!
『相変わらずというか、卿らしいというか・・・』
いや、おまえは余計なこと言ってないで、少しは金を払ったどうだ?
男に驕ってやる趣味は生憎と俺にはないぞ?
『さて、だれが元帥府開府の実務を取り仕切っていたかな?
責任者は職務を全うせず、ベッドで高いびきだったと聞いているが?』
わかったよ、お前には感謝してるよ!もう、好きなだけ飲み食いしてくれ・・・
■
無邪気に海辺で愉しんだヘインであったが、
夜、ホテルに戻ると新領地に派遣された自領の優秀な官僚達に捕まり
遊びの疲れを癒すどころか、新領土の内政に励む羽目にあった
首都での生活の昼夜を逆転させただけという皮肉な状況であった・・・
まぁ、要塞戦や政府による査問会という精神的リンチに遭っている
不幸な人々から見れば十二分にうらやましい状況であった
■無益な激戦■
帝国軍の要塞攻略部隊はヤン不在によって後手に回る同盟軍に対し
開戦から常に先手先手と攻勢を仕掛けていた
第一撃は要塞砲による大技で同盟の度肝を抜いた・・・
その結果、要塞砲同士の撃ち合いが両者の破滅をもたらすと示し
同盟首脳の思考を一時膠着状態させる事に成功する
そして、同盟軍の方策が定まらぬ撃ちに
第二撃として揚陸艇等を利用した歩兵の降下作戦を実行したが
ローゼンリッターの活躍もあって要塞を陥落させるまでには至らなかった
■
司令室からイゼルローン要塞を見つめながらケンプとミュラーは会話をしていた
『工兵部隊は失敗したか・・・まぁ、良い。何もかもがこちらの思惑通りに
進んでくれるとは限らんからな。さしあたって次の手を考えるだけのことだ』
「しかし、相手はロ-エングラム公が一目を置き、ブジン公ですら恐れる
あのヤンが相手です。生半可な作戦では攻略は難しいかと・・・・」
『ふん、ブジン公が恐れているからといって我々も臆病風に吹かれる必要はない!』
敵を恐れるという言葉が、大敵に当るを良しとする根っからの武人であるケンプに
少なからぬ不快感をもたらし、ケンプは少しばかり語気を荒げることとなった
「しかし、相手は侮れぬ難敵である事には違いません」
『そんなことは卿に言われずとも分かっている!そんなことより例の準備はどうなっている?』
「申し訳ありません、出すぎた事を申しました。準備の方は全て整っております」
『いや、私の方も気が逸っていたようだ。ミュラー例の件は頼んだぞ』
一瞬、ヘインに対する認識の差から、両者の間によからぬ緊張が走ったが
目前の敵への対応が最優先されることを良く弁えており、
両者の関係に亀裂が走るまでには至らなかった
やはり、ヘインは堅物の軍人からは余り好かれていないようであった
■
轟音と共にイゼルローン要塞が一瞬揺動した
ガイエスブルクからの要塞砲による突然の攻撃であった
この唐突な攻撃に同盟首脳陣は共倒れの主砲の撃ち合いを仕掛けてきたかと思ったが
要塞砲が陽動で真の狙いが艦隊と陸戦部隊による攻勢であると
直ぐに気付かされることとなった
幸いな事に一時的に艦隊指揮権をあずかったメルカッツによって
その帝国軍の作戦は阻止されることとなった
これは大きな意味を持つ攻防であった
帝国軍は回廊攻略の最後の好機を逃したという点で
なぜ最後かというと、魔術師の帰還が迫っていたためである
ミュラーのみヤンの不在に気付き、その帰還を阻止しようと考えたが
先の攻防の失敗によって司令官ケンプの信を得られず、
帰還阻止作戦は実行に移されることは無かった
■避暑より美人秘書でしょ!■
海から山の避暑地と場所を変えたが
相変わらず、朝昼は無邪気に遊んで
夜は官僚に内政討議で捕まるという生活を過ごすヘインであったが
『ヘインでも分かる改革案』がほぼ完成していたため
首都にいるときと比べると大分短時間で済んでいた
また、合間合間に紅茶を運んだり、資料の整理等をサビーネが
たどたどしい手つきながら、懸命に手伝った甲斐もあって
帰還予定の一週間前にヘインは全ての公務を終えることができた
■■
やれやれ、二ヶ月は完璧にさぼる予定だったが
完全オフが7日足らずになっちまうとは大誤算だな
まぁ、明日から思い切りダラダラ過ごすかな~
ここはタイダ・ムショク伯ニートの言に倣って
働かない日々をすごそう、そうじゃないと負け?だっていうし
『あの、入ってもいい?』
おう、いいぞ!ようやくブラッケチルドレンが帰ったところだ
『実はたまたまこの星で知り合った女の子に聞いたんだけどね
この星にはすっごいきれいな高原とかがあって乗馬とかもできるんだって』
ほうほう、観光地化されてる場所があるって訳か
そうか、あした惑星観光開発課の奴に広報費の増額でも連絡してやるか
やっぱ多少はメジャーにならないと採算とれずに寂れちゃうからな
『あ、うんそうだよね・・・じゃぁ・・・私先に帰るね・・・』
おう!明日は其処に視察に行くから早めに寝ろよ!!
おれも直ぐ片付けて帰るからな。弁当期待してるぞ?
『うん♪まっかせなさ~い!!』
やれやれ、フラグクラッシャーへの道は遠そうだ
まぁ、女にとってはハネムーンってのは重要な物らしいしな
窓の隙間からボウガンで狙っている佳人に殺されないように
精々、かわいいお嫁さんの相手を頑張らせて貰いましょう・・・
■
一週間後、幸せそうなお嬢さんと凡人は仲良くオーディンに戻ってきた
お互い語りたいことや伝えたいことが山ほどありそうな表情ではあるが
残念な事に銀河の歴史とは別ページでカーセの記録にも残っていないそうだ
彼らの遅めの新婚旅行が語られるためには
二人の日記が墓から発見される日を待たなければならなかった
■要塞戦始末記■
回廊攻略戦の膠着化の対応として、金髪は首都に戻ったヘインを指揮官に任じた
双璧および烈将の三上級大将で構成する総数4万2000隻に及ぶ大軍勢を
イゼルローン回廊に追加派兵する事を決定した
作戦行動については全てへインに一任するとだけ金髪は告げ
回廊攻略の続行および中止といった全ての権限をヘインが持つこととなった
■■
ヘインの発想の大胆さに比する者はこの銀河にはいないかもしれない
なにせ出戦の前から要塞を要塞でぶつけろなどと言っていたのはあいつだけだからな
俺やロイエンタールも気付く事が出来たとしても、
要塞をみすみす二つも宇宙の塵に帰すことに躊躇いを覚え、
最初の段階から実行することはできなかっただろう・・・
■
『今回の出征は面白い事になりそうだな?卿とだけでなく
ヘインの指揮で烈将とも艦首を並べて戦えるのだからな』
ロイエンタールの奴も興奮を抑えられないようだったが
それも、無理からぬことだろう・・・
俺自身もあいつと同じく気が高揚しているのが良く分かる
なにせ、ケンプ達の後始末や尻拭いといった観が強い今回の出征だが
俺たちだけでなくファーレンハイトやヘインまでもが加わった
帝国軍最高と言って良い陣容で編成されているのだからな。
しかし、この人選・・・参加将兵の士気を高揚させるにこれほどの陣容はない
さすがは、宰相閣下といったところか、またブジン公に全権を任せる度量の大きさも
宇宙の覇者として相応しいものだろう。唯一、危惧することがあるとすれば
『あの』オーベルシュタインがヘインを危険視し、排斥を画策しないかという点だけだが
まぁ、ヘインとローエングラム公の絆の深さを考えれば
俺の心配など所詮は杞憂に過ぎんだろうが・・・
■
後に帝国軍随一の勇将はこのときの危惧を
万感の想いをもって振り返ることになるとは
この時点では全く予見することはできなかった・・・
また、彼が予想すべきことは他にあった
ガイエスブルクの爆炎を合図に繰り広げられるであろう
魔術師と凡人による対決の推移である
ヘイン・フォン・ブジン公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~