役不足に力不足・・・
明らかに力不足の人間を周囲が役不足と誤解する
みなさん働きすぎには注意しましょう・・・
■過重労働■
一月以降の新たに元帥府を開府したヘインは仕事に追われていた
基本的に軍務は義眼や食詰めに丸投げをしていたが
国政面ではブッラケ等による説明地獄は容赦なく行われ
副宰相府を出るのが深夜になる事も多々あった
それでも家に帰ればサビーネの相手を疎かにすることも出来ない
仕事と家庭の両立は凡人にとって骨が折れる作業であった
そんな状況下にあってはシャフトの動きを抑える余裕はなく
ラインハルトとヘインの軍務を丸受けしたオーベルシュタインによって
無謀なイゼルローン攻略作戦が進められる事となる
ヘインは政務に終われてテンパっていたのと
軍務に関する決済をすべて金髪と義眼に任せていたせいで
要塞ワープ計画の進行を知ったのが、
もう計画の中止が無理な手遅れになった後になってしまった
そして、月日は淡々と流れ
金髪と凡人の両元帥府共同回廊攻略作戦の副指令就任が内定しているミュラーから
ワ-プ実験実施予定日の報告を受け、ようやく事態の深刻さを知ることとなったが
国政面に忙殺され疲労困憊のヘインは特に有効な対策を採る事は出来なかった
■実験どっか~ん■
やっちまったな・・・
すっかり忙しさにかまけてシャフトのこと忘れてた
いまさら義眼が比較的主導してた作戦案を潰すなんて俺には怖ろしくて出来ない
とりあえず、要塞に要塞ぶつけろとミュラーにアドバイスをしたが
『ブジン公はなかなかに過激な方ですね』と笑って取り合ってくれなかった
残念だがエリザと乳繰り合ってる報いだ!死んで来いアホの壁が!!!
鉄壁が駄目なら次だ!次!!!
連続ワープで回廊を飛び越える作戦も提案したが
巨大質量を何度も連続でワープさせるのは危険極まりないと
シャフトの禿に説教された・・・そんなに危険ならやんなよ
もういい、俺があっという間に解決してやるから俺にやらせろ
攻略法が分かっているなら、多分俺でも出来るだろう
『もうよい、ヘイン・・・この実験が終了すれば侵攻作戦は実行される
ここは、ケンプとミュラーに任せてみようではないか、卿が動く事もあるまい』
『御意、ヘイン閣下の懸念は理解できますが、閣下の御身は一つ、今必要とされるのは
国政にて発揮される手腕、遠い前線で振るうのは才の浪費ではないかと?』
くそう、もう勝手にしろ!戦争馬鹿に策謀馬鹿コンビが
失敗したって知らないからな!!ぷんすかぷんだ!
■
諸将のいるなか金髪と義眼に足してヘインがぶつぶつ文句を言っているため
この作戦にヘインが不満を持っていることが公然の事実となった
これに対してヒルダ等の侵攻作戦に疑問を持つ一派は、
ヘインに与して金髪を説得しようと試みたため、
一瞬軍部内に亀裂が走りかけたが、
食詰め元帥が『結果を前にして外野が騒いでは不味かろう』と
決定的な対立構造が出来る前にその場を収めた
これに対し、胸を撫で下ろす親友の横で、瞳に僅かな失望の色を灯した男がいた
幸いな事に、周りの重臣達が彼の不穏な様子に気付くことはなかった・・・
そうこうしているうちに、実験は成功し巨大な要塞がスクリーンに映し出された
その光景を見ると、黒猪ほどではないが皆、驚嘆の声をあげていた
こうして実験に成功したガイエスブルク要塞には、
多数の艦隊と将兵が搭乗し、イゼルローンへ向かうことが正式に決定された
帝国暦489年三月十七日のことだった
■秘書官■
『ヘイン・・・ガイエスブルクへ行こう・・・』
赤髪の青年が斃れた大広間に入ることが許されたのはブジン公だけだった・・・
ラインハルトは彼の横にいる人物と死者にしか心を開かないのだろうか?
ブジン公がいる間はいい・・・・でも、もしもかれが先に逝ってしまったら・・
ラインハルトには戦争や政争で戦う力でなく、
横にいてくれる友人達のほうが何倍も必要なのではないだろうか・・・
これは自分よがりの勝手な考えかもしれない・・・
けれども、ラインハルトの何者をも拒絶するような冷たい表情を見ると、
そう思わずにはいられなかった。
■大広間■
「なんだぁ、俺は男と二人でしけこむ趣味はないぞ?」
『ヘイン・・・少し黙っていろ!まったく、卿には感傷というものはないのか?』
「ケッ、生憎とセンチぶって悲劇の主人公になれる器量は俺にはないんでね」
自らの責で大事な友を喪った場で、罪悪感を片手に
盛大に沈み込もうとしていた金髪であったが
傍らの飄々としているヘインの態度に重い空気は吹き飛ばされ
彼の滑稽さに呆れのため息と笑い声をあげさせられる事となった
そして、その顔からは負の陰影はすっかりと消え去っていた
『ヘイン、そうだな・・俺たちは宇宙を手に入れる・・立止まっている暇はない』
「へいへい、それじゃ帰りますか?かわいいヒルダちゃんもお待ちかねだろうし」
金髪は亡き友との誓いを果たすため、力強い一歩で部屋を後にした
まだ横にいてくれる友の期待を裏切らないようにするため・・・・
■■
まったく、世話が焼けるぼっちゃんだ・・・
叱られて泣きそうな悪がきみたいな顔しやがって
生意気な弟の御守り役なんて俺の柄じゃねーぞ?
こっちはヒルダちゃんと仲良くなるのに忙しいっていうのによ!
まぁ、多少は元気になったみたいだから良しとしますかね?
しかし、冷や冷やしたな・・・こんなところに二人っきりになろう何て言い出すから
『やらないか?』→『あっー!!』のコンボか、色々とマズイ事がばれたかと思ったぜ
■
堅く閉ざされた扉からじゃれ合うように出てきた
二人の若き独裁者の姿を見ると、ヒルダの言い知れぬ不安は消し飛んだ
ブジン公の姿を見ると悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなったのだ
人生は決まってなどいない・・・銀河一悲劇の似合わない男が彼の横にいる
その事実は、ヒルダの沈んだ表情を上気させ輝く笑顔を取り戻した。
そして、その結果を生んだ功労者に彼女は最高の笑顔で労をねぎらった
『お疲れ様でした。ブジン閣下♪』
その笑顔にデレデレになったヘインは上機嫌で舞い上がり・・・
興奮の絶頂を迎えた後に、白目を剥いて泡を吹きながら倒れた・・・
■凡人論■
無謀な出兵を帝国三長官の重責を担っていながら
なんら有効な防止策を講じることも出来なかったヘインを
声高に批判する後世の歴史家は意外なほど少なかった
このときのヘインがあくまで便宜上の三長官兼任者であり、
実際の軍権は帝国軍最高司令官の金髪が握っていたという事実、
また、ヘイン達が主導した国政改革によって救われた臣民の数が
無謀な遠征の犠牲者を遥かに上回っていたためである。
しかし、一部の批判者は軍の重職にいる者が
敗戦の責めを負うのは当然と尚も主張するが、
過労で倒れるほど臣民のため労を惜しまず、
結果をだした為政者に対する贔屓の目は強く
一人にあまりにも多くの事を求めすぎるの酷であり、不可能ごとである
事実、国政の大半を担ったブジン公は過労で倒れたではないか?
と擁護者達に抗弁され黙ることが殆どであった
実際のところは、理解が遅く改革案の説明が長時間になるという
自業自得といった原因や、元気一杯の奥さんの相手が原因で
疲労が溜まり倒れたという余り誇れる物ではなかったのだが・・・
まぁ、真実などはそんなものである
世間の評価は得てして表向きの事実が優先されがちになってしまう物なのだ
■他人の不幸は■
ブジン公不予の報は帝国内に止まらず、フェザーンを経由し
遠く自由惑星同盟にまで届いていた・・・
フェザーン自治領主の補佐官ルパート・ケッセルリンクと
その上司たる自治領主ルビンスキーの策謀に嵌められ
ヤンを査問会に召還した愚劣なる同盟の高位高官の人間達は、
前線から名将を引き抜く危険性に全く気付く事無く
降って湧いた帝国の不幸を無邪気に喜んでいた・・・・
そして、当事者たるヘインは休暇を満喫・・・していなかった・・・
■在宅勤務■
人生は甘くないし、現実は厳しい・・・
ブラッケ、シルヴァーベルヒはお構いなしだった
もちろん、サビーネはもっとお構いなしである
前者はヘインが逃走できないことを喜び、
後者は単純に一緒にいられる時間が増えた事を喜んだ
両者が共通していたのはヘインが疲れていようが、弱っていようが
自己の欲求さえ満たされれば問題ないと考える点であった
『ヘイン様って大人気ですね!サーちゃんも嬉しそう♪』
『旦那様がお嬢様の相手をするのは当然です』
他人事な傍観者に見守られながらヘインの受難の日々は過ぎていく・・・
ヘイン・フォン・ブジン公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~