歴史的な大勝利は、それを上回る悲劇によって後味の悪い物になった
その結果、歴史の流れはわずかに停滞することと為るが
それは疾風怒涛の季節が到来する前の踊り場に過ぎなかった・・・
■
凶弾によってもたらされた衝撃は大きく、ラインハルトは後悔と自責の念で
一人自室に引きこもって満足に食事も取らない状況に陥り、
ヘインも重症をおって再びベッドの住人となっていった
前面の門閥貴族は斃れたが、依然として帝国宰相の一派は帝都に健在である
いつまでもガイエスブルク要塞で沈黙を続けるわけにはいかなさそうだった
■高級士官クラブ■
『ローエングラム候とヘインの様子は?』『候はあいかわらず自室でヘインはベッドだ』
問う側も応える側も事態の深刻さを思うと声に力がなかった
戦勝式典の惨事はここに集まった提督とこの場にいない
義眼を含む僅かな人間にしか知らされず、厳重な緘口令が敷かれていた
今後の対応について提督たちが協議を連日続けていたが
有効な方策は見いだせずにいた・・・・
トップ3が揃って不在という危機的状況は、
扉をあけた来訪者によって拭い去られることとなった
提督たちにとっては不愉快なことではあるが、
智恵を借りようかと検討していた人物が姿を現したのだ
『測ったようなタイミングで現れたな』
義眼の来訪に対して種無しは好意を著しく欠いた言葉を投げ掛けた
しかし、それに続いた人物をみて彼は180度態度を変えた言葉を投げ掛けた
『ヘイン!!もう傷は大丈夫なのか?』「大丈夫じゃねーよ!めちゃくちゃ痛い!」
凡人の登場によって陰鬱とした討議の場に明るさと楽観が戻ることと為った
■陰謀家ヘイン■
義眼が入った直後に、俺も士官クラブに入れたのは幸運だった
ここでなにもせずに病室で寝ていたら、義眼に宰相の爺共々消されかねない
なんせ、俺は多分奴が憎むべき唯一のNO2為ってしまったのだから・・・
『卿らの討議も長い割には、なかなか結論が出ていないようだな』
『なにしろわが軍はつい先ほどまでトップ3が不在でまとめ役を欠いていたからな』
おいおい、いきなり垂らしと義眼の舌戦ですか、
しかし、見てるだけで胃が痛くなる遣り取りだ
『で、参謀長か副参謀長には良い思案がおありか?』
「ないこともないぜ」『ないでもない』
『ほう?』
「『「アンちゃん」『ロ-エングラム候の姉上』にお願いする』」
『それは、吾等も考えなくもなかったが、それだけで拉致があくか?』
やっぱり、アンちゃんに伝える役はだれもやりたがらないようだった
そりゃそうだ、俺だってそうだし、普通の奴なら誰だって嫌がる役目だ
だから、普通じゃない義眼に任せる事にしました。
「そっちの方は義眼に任せるけど、みんなにはキルヒアイスを襲った犯人を捕まえて欲しい」
『どういうことだヘイン?犯人は眠らせてあるアンスバッハではないか?』
俺は至極まっとうな疑問をもった垂らしに、原作で義眼した説明を行った
要約すると金髪の『赤髪があんな小物にやられるなんてイヤイヤ』という倒錯した心理が
大物の犯人を求めているのを満足させるため真犯人をでっちあげようとって感じだ
これを聞いて垂らしが、門閥貴族が殆ど死に絶えた今誰が候補なのだ?と聞いて来たので
俺は渋かっこよく答えた
『帝国宰相リヒテンラーデ公』
■
ヘインの示した策謀は集まっていた提督を驚愕させる事に成功する。
種無しなどはヘインが本当に味方でよかった。もし敵だったらと感嘆するほどだった
一方、自分とほぼ同じ考えを述べたヘインの指示を受けた義眼は
真犯人のでっち上げに励むこととなる。原作と違い実行犯が生きているため
ガイエスブルク陥落の際に戦死したアンスバッハの部下が宰相の息がかかった者で
アンスバッハに薬物を用いて洗脳し、暗殺者として操ったという事実を苦心の上捏造する
上記の指示に加えて、ヘインは旧赤髪艦隊や金髪艦隊等の数個艦隊を
留守舞台としてガイエスブルク要塞に残し、
他の艦隊に帝都を制圧してリヒテンラ-デを捕らえるよう指示を出した
最後にヘインは略式の宇宙葬を行って赤髪を埋葬した事実を伝えると
些事については義眼によく確認するようにいって病室に戻った
なにからなにまで、原作での義眼の策のパクリであるため
ヘインの指示は概ね理にかなったものであり、皆それに従ったが
彼に凄惨な陰謀家としての一面をださせるほど
赤髪の存在は大きかったのだと諸提督は再認識することとなる
■帝都急襲■
ルッツ、メックリンガーやオベルシュタインを除く
艦隊提督たちは老獪な帝国宰相の宮廷クーデターを未然に防ぐため
神速をもって帝都オーディンに急行した
その際、大きな功績を挙げた者が三名いた・・・双璧と烈将と呼ばれる男達だ
種無しは宰相府疾風の異名に恥じない速度で制圧し、国璽を手中に収め
垂らしはリヒテンラーデ公の私邸に踏込み公の身柄を拘束する事に成功する
また、食詰めも禁忌をものともせず宮廷内に武装突入し幼帝を確保し
宮廷から宰相派を一掃する事に成功する
こうして、一瞬の喧騒と共にリヒテンラーデと一族の命運はあっけなく尽きることとなった
ヒルダが評したように活気に満ちた時代の幕開けに相応しい変事であった
■続捕虜引見■
艦隊提督が帝都を目指し、義眼が金髪の姉に連絡して金髪と話をさせている中
中断された戦勝式典の捕虜引見とそれに伴う罪状認否を行っていた
最高司令官の代理としてというと大層な仕事のように思えるが
基本的には義眼の作成した脚本を読むメックリンガーに
うむうむと頷くだけの簡単なものでただの残務処理であった
ただ、量刑についての権限は一応ヘインに与えられていたが
本人は判断を下すのがめんどくさいので、権限を振りかざす気はさらさら無かった
だが、ある人物が登場することでそれは変化を来たす事となる・・
変革をもたらしたのは賊軍盟主の娘エリザベート・フォン・ブラウンシュバイク
彼女はガイエスブルク陥落時、真っ先にラインハルト軍に拘禁されたため
暴徒と化した貴族連合軍の一般兵に嬲り殺しされる運命から逃れることが出来たが
だが、目下のところ哀れな少女の寿命は数週間延びただけである
義眼の作成したリストには、彼女の名の横に『死罪』と一言短く書かれていた
彼女が弱弱しい足取りで入場すると列席者は、等しく彼女に目を奪われた
数日の拘禁で化粧や髪を結う余裕もなく、豊かな黒髪はただ重力に従う唯のストレート
化粧も満足な物が無くただ薄紅をさす程度であったが、かえってそれが清清しく
彼女の持つ元来の可憐さが少しも損なわれなかったためである
■ライフカード■
ほんと気だるいわ、鎮痛剤で頭がぼけっとしてるのに口髭メックに頷くだけ
出てくる奴はおっさんバッカリだし、俺はけが人だぞ?少しは休ませろよ
『エリザベート・フォン・ブラウンシュバイク』
ああ、たしか公爵の娘だったな・・・、死罪ってのはかわいそうな気もするが
盟主の娘で皇帝の孫ともなるとどうしようもないか・・・
しかし、この嬢ちゃんも親に似ずかわいい顔してんなぁ
それに自分がどうなるか多分想像がついてるんだろう
ブルブル震えて今にも倒れそうじゃないか?どっかのだれかさんにも
この半分ぐらいの繊細さがあればいいのに、従姉妹でも偉い違いだな
『あっ、はい・・・』
ほんと、声なんか弱弱しくて守ってやりたくなるって感じだし
あいつにこの娘の爪の垢でも耳垢でも何でもいいから煎じて飲ませるかな
『貴女は貴族たる責を果たすどころか、悪戯に民衆から搾取するに止まらず
父親が自領の民衆を虐殺することを阻止することなく見逃したことは
許されざることであり、その罪は帝室の血を持っても贖う事は出来ない』
『お、怖れながらもっ申し上げます・・・わたし・・いえ、わたくしはなにも知りませんでした
おとうさま・・父がしたことはお詫び申し上げます。お願いですどうかご慈悲を・・・』
いや、そんな涙目で見つめられてもヘイン困っちゃうぞ?
だって、義眼に貰った脚本に下手な情けは無用、貴族の横の連帯は絶つべしって
太字で書いてあるんだもん!勝手な事をしてこれ以上睨まれたらヘイン消されちゃう
みるな、みるな!頼むから縋る様な目でみるな~!!おれは悪くない・・悪くない
『エリザベート・フォン・ブラウンシュバイク罪状を申しつける!閣下御裁可を』
ちょっ!?メック!!さっきまで『御裁可を』なんて俺に振ってなかったじゃないか
こいつ嫌な事を俺に振る気か!「ロン毛ちょび髭おやじってインチキ臭いよな?」って
酔った勢いでこのまえ言った事を根に持ってやがったのか・・・?
いや、奴の描いた絵にお決まりの肉とか邪眼を描いたのが不味かったのかな??
くっそ~ちょっとしたお茶目なのになんて執念深い奴なんだ
『あっ・・あのヘイン様、どうかご温情をお願いします・・お願いします・・お願い・・』
おいおい泣きながら懇願なんて勘弁してくれよ!ここで死罪なんて言ったら
いたいけな少女を無慈悲に殺す極悪人じゃないかよ!
『ふむ、閣下・・小官の私見ではありますが、親の罪を子に問うのは悪しき風習
とはいえ、賊軍盟主の家門に連なるものを不問にするのも難しいことではあります
ですが、家門がブジン家のような大功ある名門に変われば・・前例もあるようですし』
メック!!貴様知っているな!!!ってフェルナーの野郎!
面白がってサビーネのこと言いふらしやがったな・・・ルッツの野郎もニヤニヤしてやがるし
『英雄色を好むと古来より言われており、公ほどの権門ならば側女の一人や二人
それに、ご内儀への説明の労も新たな花を愛でる幸に比ぶれば些少なことで御座いましょう』
フェルナーの野郎!メックにサビーネのわんぱく振りまでしゃべりやがったな!
あいつやカーセさんに側室ができましたなんて言ったら殺されてしまう
『どうするよ!俺!』
■
なかなか選択のカードを切ることが出来ないヘインであったが
『ヘイン様、あの微力ながら精一杯にお使え申上げます』と
少女に頬を染めながら言われると、あっさり陥落し助命することを決定してしまう
一応は、妻の従姉妹というブジン家の家門に連なる者を庇護する義務が
家長にはあるという苦しい理由を付けてではあったが
かわいい2号さんを得ることより、凶暴なお嫁さんと美しい侍女に
虐殺されるのを怖れたヘインは庇護者になるという選択肢を選ばざるを得なかった
また、蛇足ではあるが未だ眠りの住人であるアンスバッハの助命と
ヘインの副官任命がこの捕虜引見の際に決定した事を追記する
あくまでもリヒテンラーデに洗脳されて心身喪失であるため罪は問わずという
これまた、滅茶苦茶な論法ではあるがアンスバッハが生きている以上
真犯人を捏造するには止むを得ない処置であったため、義眼も特に異を唱えなかった
また、義眼によって設けられた姉との会談で立ち直った金髪も最初は難色を示したが
ヘインが許すならば自分は何も言うことはないと、それ以上の異は唱えなかった
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ロイエンタールから帝都制圧の報を聞いたラインハルト以下の諸将は
それぞれの想いをもって帝都への帰途に着く、あるものは後悔と悲しみをもって、
また、あるものは新たな花に対する言い訳をどうするかという苦悩を持って
ヘイン・フォン・ブジン公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~