一時の休息と保身をもとめた逃亡者とそれを許さない追跡者
決着が付く日は近いかもしれない・・・
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ヘインがシャトルで苦悩する中、
もう一方の主役が住む自由惑星同盟内でも
帝国領侵攻作戦の失敗による、大規模な人事刷新が行われていた。
主戦派の評議員は政権を追われ、出兵に反対したトリューニヒトを
首班とする暫定政権が発足した。
一方、軍部でも統合作戦本部議長のシトレ元帥や
宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が引責辞任に追い込まれた。
後任には大将に昇進したクブルスリー、ビュコックが任命される。
また、総参謀長グリンーヒル大将は査閲部長へ左遷
キャゼルヌ少将も辺境地区へ飛ばされることに
そして、もう一方の主役の処遇はというと
次々と辞令が飛び交う中、英雄である魔術師ヤンに対する辞令は
幕僚総監や総参謀長等、引く手数多のため中々出されなかった
最終的にイゼルローン最高司令官に任官されることとなる。
原作通り、最前線を任されるのはヤンしか居ないと言うことだろう。
こうして、同盟軍が再編にいそしむ中、
帝国内部の火種も煙を出し始めていた・・・・
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まったく、人の気も知らずに幸せそうな顔で寝てやがる。
この時期に、俺とこいつが一緒にいる事がどれだけマイナスなのか
正確には分からんが、かなり不味いには違いない。
なんか、嫌になってくるぜ。何のために幼帝擁立を声高に叫んだと思ってるんだ
こいつは人の苦労もしらないで安眠か、
チャンスじゃないか!この隙にリッテンハイムの縁者に連絡して
空港まで迎えに来てもらって強制送還させよう!!
それがいい、今ならまだ間に合うだろう。
これが、お互いのためだ。悪く思うなよ
内乱勝利後、生きていたら助命嘆願位してやるからさ
『ヘイン様、その必要はありませんよ。もう当家の者が・・・』
へっ?カーセさん!?二人とも寝てたんじゃねーの?
『落とせなかったらすぐ帰るって約束してた・・・やっぱりだめだったなぁ・・・
ホント、最後まで迷惑そうな顔してるんだもん♪少しも隠そうとしないし!
でも、嘘やご機嫌とりされるより、嬉しかった・・・・・今までありがとう・・・・』
あの?狸ちゃん展開が急すぎてよく分からんのですが?
なんか汚れちゃった私には、その笑顔は眩しすぎるんですが・・・
っ痛、食詰め・・・・?・・テメェなにすr・・・!・・
『少し、眠っていてやれ。見せたくない顔もあるという訳だ』
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ヘインが肋骨と頭部の痛みで跳ね起きたとき、そこには誰もいなかった
そして、まるで最初からだれもいなかったように錯覚するほど、静かだった・・・
しばらくすると、乗員から突然リッテンハイム家所有の艦に接舷され
その際、三名が下船したと説明された。
彼は『そうか』と興味なさげに一言だけ答え、
こぶを擦りながら、さっさと帰った食詰めに文句を言いつつ
やがて、深い眠りに付いた。
その後、ヘインは時間が来れば食事や睡眠を取り。
暇になれば、新聞やラジオで時間を潰し
領地に着くまで数日間、何事もなく穏やかに過ごした。
■帝都震撼■
『リッテンハイム家令嬢逐電す!?』の報は帝都中を駆け巡っていた
枢軸派と連合側を区別する事無く、まるで疾風の如く
サビーネがブジン公領を目指し逐電した事を聞いた者たちは
異なる感情でその衝撃を受取ったが、
特に動けないという点は共通していた。
ブラウンシュバイクは静観を保ち、一人ほくそえみ
リッテンハイムは今更船首の向きを違える事は叶わず、臍を咬む
そして、リヒテンラーデも戦力減を招く、金髪との離間を策謀する訳には行かず
陰謀家の血が疼いたが、結局動くことは出来なかった。
敢て動きがあったと言えるのは、ラインハルトの元帥府か?
元帥府内で、ある提督は『声高に幼帝擁立を叫んだは、面従腹背が故か!!!』と
周りの諸提督が顔を顰めるほどの怒声をあげる者がいるなど
一律の反応ではないが、みな多かれ少なかれ動揺していた。
そして、怒声などをあげる事に、時間を費やす気が毛頭ない男が
宇宙艦隊司令長官の執務室の門を叩いた・・・
■アタックNO.2■
短い挨拶と共に、執務室に入った義眼の副参謀長は、
一瞬、傍らにいる赤髪の副司令官を見咎めたが、特に気に留めた様子は見せず、
いつものように無感動な声で、己の持論を若き主君に説き始めた・・・
「閣下はブジン公が、リッテンハイム家令嬢と共にあるとの
風説を既に、聞き及んでいるとは思いますが・・・・』
義眼の言いたいことを即座に理解した若き長官は、友人の部下の言葉を遮った
「卿は上官でもあるヘインを讒訴するというわけか?」
『御意』
「卿の率直な物言いは賞賛に値するが、出過ぎるにもほどがるぞ!
私は友人をもつ際に、いちいち卿の許可が必要であるという事か!?』
ここで激発しかけた主君を、赤髪が意外(金髪にとって)な事に、
義眼の男を援護するような形で諌めた。
『閣下、副参謀長にも何か考えがあってのことでしょう。
不興を買う覚悟での進言、最後まで聞くべきです。』
まさか、赤髪が義眼側に立つなどと思っていなかった金髪は
虚を突かれると共に、気勢をそがれ義眼の主張を聞く事となる
義眼は赤髪に対する懸念と同じような事を繰り返すだけでなく
門閥貴族が有機的結合する可能性を排除するべきではと説いた
それは、極端すぎかつ短絡的であると反論する金髪であった。
しかし、赤髪に『ヘインを即座に召還し、まずはサビーネと引き離す』
また、『それに応じないようであれば二心ありと判断する』という修正案を
あくまで揺るぎかけた結束を固めるために行う必要があると
普段より若干、積極的に決断を迫られたため、
金髪はその案を渋々ではあるが受容れた・・・
示し合わせた訳ではないが、副副コンビの珍しい連係プレーであった。
残念な事にその成果は、実行される機会を得なかったが・・・
なぜなら、実行前に令嬢をブジン公が即座に送り返したとの報せが
先の報せと、そう変わらぬ速度で帝都中を駆け巡ったからである。
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誰もが動きたくなるようなスキャンダルであったのに、
誰も動くことが出来ない、もしくは動いてもそれほど利がないタイミングで
始まり、そして終わったために、表向きは何事もないように見える
しかし、裏面で巻き起こった歪みは、消して小さくはないだろう
一部の聡い者達は、この茶番を仕掛けた者を探ろうとしたが、
その行動は全て徒労となり、報われることはなかった。
何故かというと、それが権力や利益を求めて行われたのではなく、
また、放火したら影響が出ないように、即鎮火させ終わらすという
奇妙な動機と方針によって為された物だったせいである
簡単に言えば、想い人にかける迷惑は
出来るだけ少なくと言った所だろうか?
■ブジン星系首都星ブジン■
今振り返ってみても、
なんか勝手に盛り上がって勝手に終わって
最後まで、ほんと勝手な奴だったなぁ・・・・
若くてかわいいって所が惜しかった気もするが
酒池肉林の前には些細なことだしな
まぁ、領地についた事だし、だらだらと過ごすか
とりあえずリッテンハイム家とは切れたことだし
一番のピンチが去ったからルンルンだぜ!
後は適当に捕虜交換について行って、
ヤン艦隊の奴らに一度会って手加減とかお願いして見るのも悪くない
亡命なんて事になった場合の顔つなぎにはなるだろう
そうそう、ヒルダちゃんとも会って置くかな
上手く口説けば奥手の金髪に先んじれるかもしれん
内戦時には虐殺かっこ悪いって金髪に言えば赤髪も助かるだろうし
赤髪には前線でがんばって貰わないとな
いや~♪疫病神が消えたせいで夢が広がってきたね~
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ヘインの里帰りは非常に有意義なものとなった
内乱時の懸念材料は失恋少女と共に消え去ったのが大きい
また、小遣い制廃止には至らなかったが、多少の増額にも成功
酒池肉林が却下されたのは不満が残る点ではあったが
そして、領地は十分豊かになり軌道に乗っているようなので、
いちいち口うるさい官僚を追い出す口実として
帝国社会再建計画を立案するように命じ、帝政に関わる準備を進めさせた。
金髪に対しても推挙書を早々に送信し、己の欲望を着々と成就させんとしていた。
しかし、優秀な官僚が集めた後任スタッフ達は能吏揃いである
当然、ヘインの欲望成就を阻む事になるだろう。
彼がその事に気付くのは、もう少し先のことではあるが・・・・
こうして、大過なくヘインの帰郷は終わることとなる
■金髪の女の子■
なんで、追いかけて来ないのよ!?
『押してだめなら引いてみろ作戦』は完璧だったはずなのに!
家も何もかも全て捨てての、決死の求愛!
そこまでしたのに、自分の感情を殺して身を引く
弱弱しさ全開の引きまで見せたのに~
もう、即効で追いかけてきて『自分の気持ちに気付いた!結婚してくれ!!』
な~んて展開になるのが普通なのに!!電話の一本すらないなんて・・・
私が悪いのは分かってる、わがままだってことも
それでも構って欲しいって気持ちは我慢できなかった・・・
でも、もう終わっちゃったかもしれない・・・
あそこまで言ちゃったし、今更会いになんていけないよ・・・
私って、だめだなぁ・・・
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リッテンハイム家別邸では、サビーネが盛大に落ちていた
しかし、侍女は逆に至福の時を過ごす事となった
ヒクヒク泣くサビーネを思い切り抱きしめられ、
寂しがる彼女の手を繋いで一緒に寝るなど
サビーネを思う存分甘やかすことが出来たからである。
年はそう変わらぬが、生まれゆえに不遇な扱いを受けることが多い主人を
カーセは主人であると同時に、守るべき妹と思っていた。
彼女は主人が望むことを、出来るだけ叶えようと決意を新たにしていた。
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笑うヘインに、泣くサビーネ・・・・
策に敗れた哀れな少女に巻き返す手は残されているのだろうか?
ヘイン・フォン・ブジン公・・・銀河の小物がまた一粒・・・・・
~END~