連邦第15艦隊所属第4ピケット艦隊旗艦 ミサイル巡洋艦 ゲルマニア
「・・・艦隊との通信途絶、他のピケット艦隊とも通信不能。恐らく・・・」
「・・・分かった。副長、輸送艦を分離させたのは正解かもしれんぞ」
「ええ、ですが本体の健闘は無駄ではありませんでしたね。時間を稼いでくれたおかげで輸送艦は我々から遠ざかることに成功しました。運がよければ目的地に着くことでしょう」
「ああ・・・でだ、仮装輸送艦のことなんだが・・・」
「ええ、手筈通りに半数は布陣させました。後半数は輸送艦として振る舞いまずが、いつまでばれないことやら・・・」
「まぁ我々は我々にできることをするまでだ。艦隊各艦へ通達、対潜攻撃準備!」
「了解、対潜攻撃準備!」
水中
「隊長、見つけました。護衛艦は8隻です。ですが輸送艦の数が10隻しかいないようですが・・・」
「他に艦隊がいてそれに合流した可能性もあるな・・・近くに反応は・・・無いか、まぁいい。各機へ、この艦隊だけでも殲滅するぞ。できれば輸送艦は鹵獲したい、そのことに気をつけて行動せよ、以上だ」
ゲルマニア
「高速推進音探知! 数は・・・9! 恐らく敵の水中MSです!」
「9機? 確か襲撃してきたのは18機だったはずだが・・・まぁいい、分散しているのか離脱したのかは知らんが各艦全力でこれを撃破せよ!」
「了解! 対潜攻撃開始!」
その命令がだされ、各艦から対潜兵器が発射されるがいかんせん数が少なかった。だが戦力が減っているのはハイゴッグ部隊も同様だった。
「隊長! 魚雷の数が多すぎます!」
「最高速度で振り切るんだ! 相手の魚雷は最高速力はおよそ70ノット、こっちは80ノット以上だせるんだ。相手の燃料切れを誘え!」
「だ・・・だけど数が多くて・・・先の奇襲では空に逃げるという手でなんとか逃げれましたが、これじゃあ・・・」
「くそ、しつこい魚雷だ! こちらブラックパール3、敵フリゲート艦1隻撃沈!」
「逃げながら攻撃か、いい腕だ! こちらブラックパール6、敵駆逐艦大破に成功!」
「しかしうざいくらい多いな、この規模でこんだけの魚雷はただ事じゃないぞ」
「やられたな・・・この艦隊は対潜用の艦隊だったのか・・・対潜ロケットに対潜ミサイル、それに対潜魚雷・・・これでもかってくらいばら撒きやがる」
「こちらブラックパールリーダー。敵魚雷、密集しすぎで誘爆するのがでてるぞ」
「・・・調度いいポイントだ。ディープブルーリーダーより各機へ、もうすぐ敵艦隊の真下に魚雷が到達する。反転しビームカノンを魚雷に撃て、誘爆を誘うぞ!」
そして9機のハイゴッグが反転し、追ってくる魚雷に向かいビームカノンを叩き込んだ。次の瞬間、海水が空に向かって吹き飛んだ。
「ぐお! 各機へ、異常が出た機は報告せよ」
「こちらブラックパール2、機体各部に損傷! 任務続行は不可能、帰還の許可を!」
「許可する、他に損傷を負った機はいるか?」
「こちらブラックパール6、水中衝撃波でモノアイに異常がでた、腕部分ビームカノンも出力が安定しない」
「こちらディープブルー2、スラスターに異常発生! 浮力が低下しつつあります!」
「こちらブラックパール3、バランサーに異常発生、戦闘行為自体は可能」
「こちらブラックパールリーダー、損傷は特に無いが朗報だ! さっきの爆発で護衛艦艇が転覆しやがった。残ってるのは巡洋艦1隻と駆逐艦1隻、フリゲート艦2隻のみだ!」
「わかった、他に損傷した機はいないな? それでは今損傷を報告した機はすみやかに帰還せよ! 特にディープブルー2は危険な状態だ。各機サポートしながら撤退してくれ」
「残った奴らは攻撃を続行ですか?」
「ああ、本来なら撤退すべきところだが残りが4隻ならなんとかなる。こちらは残存機は5機か・・・いけるか?」
「いけますよ、軽い損傷を負っていますが戦闘に支障ありません」
「同じく、これくらいでやられるほどやわじゃねえ!」
「機体損傷軽微、まだいけます」
「先輩の仇を討つのにこのくらい損傷のうちにはいりません!」
「・・・ブッシュ、現在の機体損傷率は?」
「・・・・・・約7%です」
(・・・本当に損傷はそれだけなのか? 偽って報告しているんじゃ・・・だがこちらから確かめる術は無い・・・機体の調子が分かるリンクシステムもさっきの衝撃で損傷したみたいだし・・・信じるしかないか)
「分かった。だが無理をするなよ。いくぞ」
ゲルマニア
「艦長、先程の魚雷の誘爆により大破した駆逐艦が完全に沈没しました。後フリゲート艦も3隻転覆、又は沈没しました。残った艦も若干の損傷を受けています」
「・・・やられたな。しかもこの水中騒音じゃどこにいるのか分からないときた。逆に奴らからは丸見えだろうし・・・手詰まりだな」
「ですが何機かにはダメージを与えられたはずです。これだけの炸裂なら水中衝撃波もすさまじいでしょうし」
「楽観はするな。対潜ミサイルを後10秒後に本艦周囲にばら撒く。高度5000mまで上昇させた後に着水させろ」
「・・・なるほど、この水中騒音を利用した時間差攻撃ですか」
「ああ、本艦は発射と同時に回避運動に移る。 ・・・時間だ、VLS発射! 前進急げ」
その言葉の次の瞬間、海中から伸びてきたビーム砲により駆逐艦と1隻のフリゲート艦が貫かれ、爆発と共に沈没した。それとほぼ同時にゲルマニアは前進を開始し、VLSミサイルを上空へと飛翔させた。
「駆逐艦リリー及びフリゲート艦アックス爆沈! 残りは本艦とフリゲート艦アスメイラのみです!」
「・・・通信を送ってくれ、内容は『我第15艦隊、敵の新型MSの襲撃を受け艦隊は壊滅、救助を求む』以上だ。敵の攻撃は本艦から見て4時方向か・・・CICへ、右舷魚雷発射管から対潜魚雷を4時の方向に発射せよ。アクティブモードでだ、急げ!」
「了解! 右舷対潜魚雷発射します!」
そして魚雷が3本発射された。それと同時に上空を舞っていた対潜魚雷が着水、アクティブソナーを発しながら敵を探し始めた。だが彼らの奮闘もここまでだった。なぜなら次の瞬間ハイゴッグから放たれたビームカノンが艦中央を貫通、次の瞬間にはゲルマニアは大爆発を起こしながら針路を海底へと変更していった。そしてフリゲート艦アスメイラも程なくその後を追った。
水中
「敵残存艦撃沈! 敵の護衛艦艇はもういません」
「敵魚雷3本急速接近中・・・ ! 更に真上に魚雷着水、数は8本!」
「く、あらかじめ発射しておいたのか・・・各機へ、迎撃するぞ。真上の魚雷はディープブルー隊が引き受ける、正面から来る3本はブラックパール隊が処理してくれ。撃て!」
「あいよ、撃て!」
結果・・・魚雷は全て迎撃できたが、至近距離で何本か炸裂した為各機ともに損傷が増えていた。そして・・・
仮装護衛艦
「く、全滅か・・・」
「艦長、どうします? 受け取った命令では可能な限り敵の目を欺き、油断したところを一網打尽にしろとのことですが・・・」
「・・・各艦へ、攻撃準備を整えておけ。そろそろ来るはずだ。聞けば本体に降伏勧告をしたらしい。それを逆手に取るぞ、いったん降伏勧告を受理したと見せかけて油断したところを総攻撃する」
「・・・しかし汚い戦争ですな」
「しかたあるまい、これまでの常識を破ったのはジオンのほうだ。隕石落とし等したせいで地球の環境は激変したのだからな。核の冬にはならなかったのがせめてもの救いだ」
「艦長、敵MS浮上! 降伏勧告を出しています」
「受託すると通告せよ。各艦に通達、敵は罠にはまりつつある、いつでも攻撃できるように待機せよ、とな」
・
「こちらブラックパールリーダー、輸送船10隻は降伏勧告を受託したぞ! 完全勝利だぜ!」
「よくやってくれた。各機輸送船団を取り囲むように布陣、指示を待て。そろそろ中継機が来る頃だと思うが・・・ディープブルー4、見えるか?」
「いえ、まだなにも・・・あ、隊長。たった今水平線上に中継機らしきものを確認しました。恐らく繋がるはずです」
「分かった・・・こちらディープブルーリーダー、リヴァイアサン応答願います。繰り返す、こちらディープブルーリーダー。リヴァイアサン応答を・・・」
「聞こえているぞ。こちらはアデナウワーだ。少尉、手酷くやられたな」
「は、申し訳ありません」
「まぁいい、報告は聞いた。ジャス軍曹のことは残念だが初期目標は達成できたと見ていい。輸送船の拿捕、成功したのか?」
「はい、半数は取り逃がしてしまいましたが残りの約10隻が降伏しました。現在残存機で警戒に当たっております」
「分かった。現在そちらに向けて移動中だ、困難な任務をよくぞ達成してくれた。我らが到着するまで引き続き警戒を怠るな」
「了解! ・・・ふう、やっぱあの人は苦手だな・・・」
「隊長、ご苦労様です。でも当分は戦力の回復の為に出撃はないかと思いますが?」
「ああ、だが油断しなければ・・・!?」
そこまで言ったところでアリマはソナーから変な音が聞こえたことに気がついた。慌ててソナーの調整をして確認してみると、輸送艦の中から何かに注水するような音が聞こえた。そう、まるで魚雷発射管に注水する音に酷似した・・・
そこまで考えて慌てて彼は指示をだした。
「各機警戒! 輸送艦から魚雷発射管注水音だ!」
その言葉に反応した各機は一斉に輸送艦から距離を取り警戒した。そして・・・
「艦長、どうやら気づかれた様です!」
「チッ・・・魚雷発射管注水音で気がつかれたか? 仕方ない、全艦攻撃開始!」
次の瞬間、10隻の輸送艦に化けた仮装艦は今まで被っていた仮面をはずし、彼らに正体を現した。甲板のコンテナからは対潜ミサイルがいくつも飛翔し、艦底部からは魚雷が次々と発射されていった。
「く、仮装護衛艦だったのか!?」
「隊長、迎撃を開始します!」
「畜生・・・だが考えようによっては不幸中の幸いだぜ、母艦に攻撃されてちゃ大惨事だからな」
「しかし敵輸送艦の正体は実はアーセナル・シップ(武器庫艦)でしたってか!? なんて数の魚雷を吐き出しやがる!」
「だが1発でも当たれば景気よく大爆発していくぞ。ほれ」
その言葉と共に1隻の仮装艦にビームカノンの一撃を見舞うと、その艦は次の瞬間には洋上で噴火する活火山のごとく大爆発を起こした。
「・・・どんだけ弾薬積んでるんだ? まぁいい、各機へ、魚雷を迎撃しつつ敵艦を撃沈せよ!」
そして戦闘は次第にMS隊の防戦から攻勢に転じていった。それもそのはず、魚雷を撃つ艦が沈めばそれだけ撃ち出される魚雷数も減少するからだ。10隻いた仮装艦はその数を徐々に減らしていき、ついに残りは1隻となった。だが撃沈される間際に放ったほかの艦の魚雷が1機のハイゴッグの至近距離で炸裂した。
「く・・・こちらディープブルー6、ビームカノンに異常発生! これよりクローで敵を破壊します」
「な、馬鹿やめろ! すぐに後退するんだ!」
「ブッシュ伍長、すみやかに帰還しろ! これは隊長命令だ!」
「大丈夫ですよ! くらえ連邦、先輩の仇討ちだ!」
そういって制止を聞かずにブッシュ伍長は敵艦にクローを突き立てた。ブッシュ伍長がクローを突き立てたのは機関部と思われるところだった。当然のことだが当たり所が悪ければ爆発する。だがその爆発は思ったほど激しくはなく、彼の乗るハイゴッグにはたいした損害はでなかった。そしてクローの突き刺さった所が致命的だったのか、艦は徐々に傾き、沈み始めていった。
「どうだ! ジャス先輩、仇はとりました!」
「大馬鹿者! さっさと帰還しろ、状況を理解しているのか!?」
「大丈夫ですよ。これでこの海域には敵艦はいないんですから」
だが彼はひとつ見落としていた。彼の目の前で沈没しかけている艦は、徐々に失いつつあるが未だ火器管制システムは正常で、戦闘行為が可能だということに・・・つまり・・・
「だがブッシュ伍長・・・! ブッシュ、避けろ!」
「え?」
死ぬ間際の艦から放たれた複数の魚雷は、艦が完全に戦力を失ったと判断し艦に背を向けていたブッシュ伍長のハイゴッグに真後ろから突き刺さった。そしてハイゴッグの胴体にめり込んだ次の瞬間、魚雷が炸裂しブッシュ伍長のハイゴッグは爆散した。そして沈みつつある艦はブッシュ伍長のハイゴッグを破壊したことに満足したのか、次の瞬間には搭載していた弾薬が誘爆、爆沈した。
「ブッシュ! ・・・全機へ、これより母艦へ帰還する」
「・・・隊長、ブッシュ伍長の捜索は?」
「無駄だ。たとえ緊急脱出ポッドを装備しているハイゴッグといえど、機体が爆散しては生存は期待できん」
「隊長・・・気に食わない奴らでしたが仲間を失うってのはやっぱつらいですね」
「ああ、これでこの部隊だけでも5人目の戦死者か・・・」
そう、彼らディープブルー隊はこれまでに3人の戦死者をだしているのだ。それらは皆ゴッグに搭乗していたメンバーで、チーム結成から一緒に戦っていた仲間だったのだ。いかにVFといえどもパイロットはなかなか確保・養成することは簡単にはいかず、補充のパイロットは一人しか確保できなかった。その時にザビ家から嫌がらせ同然に派遣されてきたのがジャス軍曹とブッシュ伍長だったのだ。ディープブルーは問題を起こしまくる彼らを疎ましく思っていても他にパイロットがいない為に目をつぶっていたのだ。そしてそんな問題児だった二人ももういなかった。
母艦に戻ったアリマ少尉はすぐに艦長室へと出頭した。アデナウワー大佐に報告する為である。
「・・・以上で報告を終わります。本官は今回の作戦は失敗と思っております。いかなる処置も受けるつもりです」
「・・・なるほど、連邦に一杯食わされたというところだな。ご苦労だった少尉、敵の護衛全てを撃沈したのだから作戦自体は成功したと考えるように。後戦死した二人については残念だがVF作戦司令部から通達があった。正規の補充兵、つまり以前に戦死した者の補充がくるそうだ。ちゃんと訓練も一通り終わったもの達だそうだから今度は問題を起こさないだろう。またそれに関連することだが我らは戦力の再編成の為に一時的に任務を解かれることとなった。用は少しばかりの休暇だな」
そこまで聞いてアリマ少尉は気になっていたことを質問した。
「あの・・・取り逃がした輸送船はどうなったのでしょうか?」
「ああ、どうやらアフリカ大陸に10隻全てが到達したらしい。どうやら友軍の航空隊は出撃すらしてなかったようだな。これに対する責任は我らは考えなくて良い、なんせ我らは出来る限りのことはやったのだからな。責任があるとすれば航空隊かもしくは上層部だ。だが私としては輸送船が何を積んでいたのか非常に気になるな。少尉、貴官も気にならないか? あれだけの艦隊、しかも偽装した艦までもいたのだ。並大抵の物資ではないはずだ」
「たしかにそう思います。敵は何が何でも物資を守り通そうとしていたように感じます。それも必要以上に」
「うむ、そこまで必死に護衛していたものだ。恐らくは・・・対MS用の兵器だと私は考えている」
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数日後 アフリカ西部 ルエナ近郊
ジオンの行った隕石落としは世界各地に色々な被害をもたらした。その破壊は気象の変化に始まって無数の隕石落下によるクレーター等が物語っている。ここルエナはかつて多くの人々が暮らす街だった。だが隕石落としによって生じたテンペストの破片の1つが狙い済ましたかのようにこの街の近くに落下した。幸い大きさはそれほど大きなものではなかったが街1つを吹き飛ばすには十分な大きさだった。そして街の半分はクレーターになり、残った地域も全壊した建造物の残る廃墟となっていた。当然街に住んでいた人達は全滅である。そんな街跡を進む複数の人影があった。だがそれは人間ではなかった。全長18mの高さを誇るMSだったのだ。先頭を進むのはジオンの象徴でもあるMSのザクだがF型やJ型とは少し違っていた。
MS-06D ザク・デザートタイプ
そう、この機体は砂漠戦用に特化した機体で武装は120mmマシンガンとヒートホーク、そして腕に装着された3連有線型ミサイルを装備している機体だった。そしてその背後には2機のMS-06J ザク陸戦型がマシンガンを持ち追従していた。そのうち1機はセンサー系統を強化し索敵性能を向上させたタイプのようだった。
彼らは先日この付近で消息を絶った2機のザクを捜索していたのだ。正確に言えば彼らの任務は途中からザク2機を破壊した敵の正体を探ることに変わっていた。なぜなら消息を絶った2機はここからすぐ近くで発見できた。
戦闘に破れた敗者の姿、残骸として。
すぐに本部へ報告し、返ってきた命令が『ザク2機を破壊した敵の正体を探れ』とのことだったのだ。当然本部もルッグン等の偵察機を索敵に出るよう命じたが、現地に到着するにはまだまだ時間がかかるのだ。そんな訳で3機のMSは付近を警戒しつつ何かないか捜索しているのだった。
「こちらヒュング2、付近にこれといった異常はないみたいだ」
「こちらヒュング1、了解した。引き続き警戒を怠るな」
「こちらヒュング3。隊長、どう思いますか? ザクを殺った犯人。あの残骸では大口径砲の直撃を受けたような感じがします。もう1機のほうは背中から多くのロケット弾か何かで撃破されたような感じでしたし」
「それは私も考えた。恐らく油断して背中を向けていたザクに自走砲とロケット部隊による直接照準射撃をおこなったのではないかと私は考えている。だがそれだと疑問点もでるんだよなぁ」
「ええ、この付近に連邦のめぼしい部隊はいなかったはずです。しかも直接照準したにしろ命中率が高いと言わざるをえません。よほどの熟練兵で無い限りは・・・ですが仮に熟練兵の少数のゲリラだとしてもおかしいんです」
「ああ、なぜ貴重な熟練兵をこんな僻地でゲリラ戦をさせるのかということだな。だいたい少数のゲリラ部隊がMSを2機も相手に戦うということ自体不可思議なものだ。まとまった数のゲリラならMSを襲撃するだろうが最低でも2~3個小隊は必要不可欠だ。かといってそんな規模が動いているんならやられたザクも少しは敵を破壊しているはずだ。だがその痕跡が全く無いときている」
「謎が謎を呼ぶってやつですかね?」
「だがどんな手品でも種はあるもんさ。俺達観客には分からないだけでね」
「さしずめ俺達は探偵ってとこですかね・・・ん?」
「どうしたヒュング2?」
「いえ、何かセンサーに反応が・・・2時の方角です。すぐ消えましたが」
「・・・各機2時の方向にセンサーを集中させろ、戦闘準備」
「もしかすると大当たりですかね、隊長?」
「かもしれん、トリックの正体を拝ませてもらうか」
そうして慎重に3機のMSはセンサーに反応のあった方向へと進んでゆく。そして・・・
「こちらヒュング3。隊長、反応がでました。距離2万です」
「ああ、こちらでも確認した。しかしこいつは・・・!? 未確認のレーザーの照射警報だと!? 全機散開、急げ!」
そういって散開した直後、先程まで3機が立っていた地点を砲弾が通り過ぎていった。そして敵が発射した地点と思われるところをモノアイの倍率を上げて調べていくといくつかの車両が確認できた。だがそれは彼らが見慣れていた61式戦車や自走砲といったものではなく、彼らが初めて見るものだった。
「なんだ? あの戦車と自走砲を合体させたような車両は?」
「腕がある戦車ってありましたっけ?」
「・・・試作機か出来損ないか? まぁいい、各機散開しつつ攻撃をするぞ」
そうして彼らは敵との距離をつめていく。敵は3台おり、途中何度か砲撃されたがレーザー照射を感じるとすぐに回避に移った為、砲撃のことごとくが外れていった。その射撃の腕前はお世辞にも上手いとはいえなかった。
「こちらヒュング3。マシンガンの射程内だ、攻撃する」
「こちらヒュング2、センサーにまた何か感じ・・・! 3、回避しろ!」
「え?」
その言葉がヒュング3の最後の言葉となった。彼のJ型は胴体を貫通され、次の瞬間崩れ落ちた。そしてその攻撃は目の前の出来損ないからの攻撃ではなかった。
「な・・・ヒュング2、どこから攻撃したか分かるか!?」
「ちょっと待ってください・・・9時の方向です!」
その方向をみると、巧みにカモフラージュされているが1台の車両が見えた。どうやら位置がばれたと分かるとそれは突然動き出し、その全貌を明らかにした。そしてそれはヒュング1が最近報告書で見たばかりの代物だった。
「何・・・あれはキャリフォルニアベースで確認されたXT-79とかいう駆逐戦車だ!」
「なんですかそれは?」
「言葉の通りだ。MSを駆逐する為に作られたと推測される連邦の試作戦車だ。主砲はレールガンでザクの装甲を簡単に貫通しちまう。おまけに正面と上面の装甲がやたら硬いそうでマシンガンじゃ破壊できんそうだ。後はレーザー照準以外にも光学照準による攻撃が可能な車両だ!」
「げ・・・そんなやつどうすればいいんですか? 幸いこの周囲に敵の反応はこの4台しかいないようですが、こっちがちと分が悪いですよ」
「大丈夫だ、あいつの装甲はたしかにやっかいだが側面とかは紙同然らしい。まず駆逐戦車を潰す。ヒュング2はあの駆逐戦車を破壊しろ、俺はその間出来損ないをやる」
「了解しました、幸運を!」
そう言って2機はそれぞれ分かれていった。このうち隊長の乗るデザートタイプはジグザグに走りながら出来損ないとの距離をつめていった。当然敵は射撃をしてくるものの、フェイントをかましたり遮蔽物を利用したりした為に命中した弾は無かった。そして一定の距離に到達するとデザートザクは腕に装備されていた3連ミサイルを発射した。当然のことながら有線誘導する暇も無かったので有線を切り無誘導での発射だったが、出来損ないは機動力が悪いらしく3発の内1発が1台の出来損ないに直撃した。その出来損ないは破壊できなかったものの、背負っていた2門の砲が損傷し、砲撃ができなくなってしまった。その損傷した機体にデザートザクは急速に接近し、マシンガンを叩き込み破壊した。意外と装甲が厚かったのか多くの弾を叩き込むことになったが残りは2台、だが1台破壊したことで気が緩んだのか隙ができ、次の瞬間彼のデザートザクに激しい衝撃が走った。彼は慌ててモニターに目をやると左腕が肩の部分から下が破壊されていた。幸いマシンガンを持っていたのは右手だったので戦闘に大した支障は無かったが、それでも両手でしっかりと持って撃つのに比べたら若干命中率が悪くなるのは当然のことだった。そして左腕が使えないということは、マシンガンの弾が切れても予備のマガジンに変えることができないということでもあった。幸い残弾はまだ半分近く残っているが、出来損ないを1台破壊するのにマガジン半分を使用したことを考えれば無駄遣いはできない。
そして彼は1台の出来損ないに向かって射撃を開始した。距離があるので破壊はできないだろうが彼の狙いは違うところにあった。
RTX-44 コックピット
「糞! 頭部センサーがやられた! こちら1号車、3号車バックアップしてくれ。こっちは頭部センサーがやられ・・・げ、右肩キャノン砲も損傷した。バルカンで牽制するがこちらは戦力として見なさないでくれ」
「こちら3号車、了解しました。ですがこちらも残弾僅か、腕のロケット弾は先日ザクを破壊した時に撃ち尽しまし・・・」
「ああ、腕部ロケットランチャーか・・・弾切れしやすいのを何とかして欲しいよな・・・糞、あたらねぇ! バルカンは多少は当たるが対人用だからセンサーとかに当たらない限り効果は少ない。だいたい支援のXT-79はどうした!?」
「さっきから呼びかけても応答がありません。恐らくは・・・」
「撃破されたってことか・・・3号車、周辺を警戒しろ! 恐らくXT-79を殺った奴がどこかにいるはずだ。挟撃されたらこっちの負けだ、なんとしても探し出せ!」
「了解、しかし支援用のホバートラックがいないのはきついですね・・・本部は何考えてんだか」
「大方正面装備のみに目がいっちまってるんだろ! 糞、また外れた。ジオンは精鋭が多いって聞いたが本当だな糞!」
そうこうしているうちにマシンガンが弾切れになったのか、デザートザクはマシンガンを放棄してヒートホークを構えた。だがただ放棄したわけではなかった。RTX-44に向かってマシンガンを放り投げたのだ。当然ながらそれなりの重量の物をそれなりの速度で投げたら立派な武器となる。RTX-44のパイロットはこの行動に驚いた為回避するのが遅れた。当然だろう、どんな教本にもそんな戦術は書いてないのだから。かくして投げつけられたマシンガンはRTX-44に当たり、パイロットはその衝撃で揺さぶられた。そして衝撃から立ち直った彼が最後に見た光景は、ヒートホークを振りかぶり、勢いよく振り下ろしたデザートザクの姿だった。
「な、隊長! 畜生、落ちろ!」
そう言って3号車は低反動キャノンを連射するが、すぐにデザートザクは死角に入られた。RTX-44の欠点は上半身がある程度しか旋回しないということだ(史実のガンタンクでは全く旋回しない)その為キャタピラを使って旋回しないとすぐに死角にはいられるのだった。そしてデザートザクを再び照準器の中に捕捉した彼は射撃スイッチを押そうとして、そこで背後からザクのマシンガンを受けて絶命した。
「隊長、大丈夫ですか?」
「ああ、左腕を持っていかれたがなんとかな。そっちはどうだ?」
「こっちは無傷です。地形を利用して背後にまわったんですが、割とあっさりと始末できました」
「そうか・・・しかし連邦も無能の集まりではないな、このような兵器を作るとは」
「ええ、ヒュング3がやられるなんて・・・いい奴だったのに、畜生・・・」
「だが連邦もまだまだみたいだ、本来なら指揮車両か何かがいなければならないはずだ。我々にもいえるがMSの指揮をする車両がいれば効率的な戦闘が可能になる。正直なところもし敵に指揮車両がいれば我々が返り討ちになっていた可能性が高い」
「・・・そうですね、その点に関しては幸運でしたね。 ・・・この戦いきつくなりそうですね」
「ああ、そうだな・・・帰還して本部へすぐに連絡しよう。この残骸を回収してもらわないとな」
そういって2機のザクは撤退していった。数日後に回収にきた部隊が目にしたのは若干の戦闘があったという形跡だけで、連邦の新型とヒュング3のザクの残骸は跡形も無く消えうせていた。そしてジオンの手元に残っていたのは交戦したザクの機体に残っていた戦闘データのみだった。
※ 本SSで登場した水中でのビーム兵器の使用についてはギレンの野望等のゲームをベースにしました。(ゲームでズゴックとかガンダムとか水中でビーム乱射しまくってたし量産型グラブロ(プランのみ)では機首にメガ粒子砲を搭載させる計画らしいので)
このことに対する突っ込みは混乱を避ける為にできるだけ無しの方向でお願いしますm(_ _)m
また、対潜ミサイルですが、ウィキ等で書かれている通り『対潜「ミサイル」と呼称されるが、実際には無誘導のロケット弾である場合が多い』(幾分省略)とあるのでミノフスキー粒子散布下でも使用は可能としました。