3月20日、第3次降下作戦展開。目標はアフリカを含む南半球の資源地帯。
アフリカに降下した部隊はオデッサから空中給油機を使用した超長距離飛行をしてきた航空隊の援護もありアフリカ主要部の制圧に成功。これに対し連邦軍はゲリラ戦を仕掛けるべくジャブローから輸送機部隊と輸送船団を発進させ、アフリカへ戦力の増強を図った。
3月20日
アフリカ西海岸近海 連邦軍第1079輸送船団旗艦 ヒマラヤ級対潜空母 ウラル
「こちら第1079輸送船団、第2610輸送船団応答されたし。繰り返す、こちら第1079輸送船団、第2610輸送船団応答されたし・・・」
「・・・だめか?」
「・・・ええ、通じません。予定ではすでに港を出港し我々との通信距離内に入るはずなのですが・・・」
「おかしいな・・・港からなにか通信はきてるか? 電波状況はまだ良かったと思うが」
「いえ、何もありません」
「・・・電光石火の早業で敵に港を制圧したということではないのか?」
「ですが港の周囲には多くのトラップと警戒網が敷かれているはず・・・敵が接近したらすぐに港に設置してある各種通信機で異常発生の報告がはいるはずです」
「ただ単純に通信機の故障とか・・・」
「航海長、そのような楽観的な考えは海に流したほうがいいぞ」
「す、すいません。ですがそれだと第2610輸送船団はどうなったのでしょうか?」
「それがわからんから話してるんだろ?」
「2610は我々1079よりも小規模だがそれでもフリゲート艦5隻を護衛に持つんだ。そう簡単にジオンの航空攻撃にやられるわけがない」
「ひょっとして潜水艦では?」
「ジオンの奴らにまともな潜水艦あるものか。あるとすれば水中用MSだが・・・たしかゴックとかいったのがあるだろ?」
「だがそのゴックとやらは航続距離が短いはず・・・母艦がない以上、沿岸部以外なら気にすることはないのでは?」
「・・・まぁいい、警戒を怠るなよ。最近ジオンの戦闘爆撃機がうろちょろしているからな」
「艦長、連絡機を飛ばしてはどうでしょう? 連絡機の航続距離からみれば港と本船団とを往復できる距離にいますので・・・」
「なにかあれば通信させるということか・・・よし、それでいこう。すみやかに連絡機の・・・!?」
艦長の言葉は最後まで言えなかった。なぜならウラルの船体が激しく揺れて、艦橋にいたものは一人残らず壁に叩きつけられるか転倒するかした。
「な・・・なんだ今の衝撃は!?」
「今海が光ったぞ!」
「か、艦長! 艦が、艦が傾きます! 甲板に駐機しているヘリ等が海に・・・」
「か、甲板に大穴が・・・」
「し、CICより連絡が! 艦体中央右舷喫水線下及び左舷甲板に大穴があいているそうです! 竜骨にも被害がでているだろうということです。ダメコンは不可能、沈没は避けられないので総員退艦を要せ・・・」
そこまで通信士が言ったところで艦の命は終わった。右舷に開いた大穴から大量の海水が浸入し、その重量によってウラルの竜骨が耐え切れずへし折れた。そして次の瞬間には船体自体がへし折れ、船首と船尾が持ち上がり「く」の字のようになって瞬時に沈んでいった。文字通りの轟沈であった。
このような光景は船団のいたるところでみられ、船団に所属していたフリゲート艦や輸送船はことごとく短時間で海の藻屑となっていった。
水中
「・・・さすがハイゴッグ、メガ粒子砲の威力がゴッグより上だ」
「ああ、特に2番機の攻撃がすごかったな。両腕のビームカノンでヒマラヤ級を撃沈だぜ、すごい威力だな」
「違うぞ、ヒマラヤ級を沈めたのには腰部ビームカノンも使っている。腕を含めて4門のビームカノンの集中砲火だ」
「どっちにしろこの機体は使えるってことだろ。それでいいじゃないか」
「そうですね。昨日港を強襲したときもすごい踏破能力を発揮しましたし」
「まぁたしかに港を強襲したときはその性能は十分生かせれましたしね。ゴッグでは陸戦に泣きましたがこいつなら十分陸戦ができます」
「だがこれは今のとこはここにあるので全部だろ? ちゃんとした生産ラインを確立するのはしばらく先の話じゃなかったか?」
「ええ、でも1ヶ月もしないうちに量産態勢に移行するとか聞きましたよ」
水中で会話をしている彼らはVF所属、第1潜水機動艦隊のMSパイロット達だった。そして彼らが乗っているのは完成したばかりの先行生産型のハイゴッグだった。機体に余裕を持たせた設計にした為、各種バージョンアップも可能に仕上がった機体の初期生産型であった。その性能はというと、基本的に史実のハイゴッグと大差なかった。変わっているのは通信・指揮系統の向上と頭部(?)魚雷発射管が無いことくらいだった。これは生産性の向上にも繋がっていた。
そう、連邦軍輸送船団を襲ったのは実戦に投入された水中用MS部隊だったのだ。その編成は先行生産型ハイゴッグ18機といったものだった。
「隊長、これは作戦成功なんですよね? じゃあさっさと帰りませんか?」
「ああ、そうだな。全機へ、任務完了、帰還するぞ」
そういって18機のハイゴッグは母艦との合流地点に向かっていった。そしてしばらく突き進んでいったら前方に3隻の大きな潜水艦が見えてきた。
この3隻こそ、先程輸送船団を襲った先行生産型ハイゴッグ6機を搭載するVFの、ジオン初の潜水艦隊だったのだ。この潜水艦はリヴァイアサン級潜水MS母艦と呼ばれ、ツィマッド社がゴッグを開発するときに平行して開発していたもので、MSを8機搭載可能で水中を30ノットの速さで航行することが可能な大型潜水艦だった。だがその反面静粛性や機動性は連邦のU型よりも悪く(つまりユーコン級よりも下)自衛用の魚雷発射管を6基装備する以外には固有の武装を持たないでいた。そしてここにいるのは建造されたほぼ全ての潜水艦で、艦名はそれぞれ「リヴァイアサン」、「モビーディック」、「クラーケン」と呼ばれていた。
なぜ宇宙で建造されたはずのこの潜水艦がここにあるかといえば、第1次降下作戦でバリュートシステムの有効性・実用性を確認した直後にこの潜水艦のように大型の機材を地球に降下させる為の特大のバリュートシステムを使用し、機材のみ大気圏へ突入させたのだ。ちなみにその大きさはムサイ級やチベ級がすっぽり入るくらいの大きさのバリュートで、迎撃されたらひとたまりもないシロモノだった。(ちなみに4番艦の「オクトパス」は大気圏突入に失敗して損失した為、特大サイズのバリュートシステムはそれ以降使用が控えられている)
「こちらディープブルーリーダー。部隊の着艦許可を要請する」
「こちらリヴァイアサン。ディープブルーリーダーへ、着艦を許可する。これよりポッドを開放する」
その言葉の直後、潜水艦の左右についている円筒形の物体が展開し、そこにハイゴッグが着艦していった。そして全ての機体が着艦したのを確認すると、ハッチは閉まっていき、完全に閉まったのを確認すると円筒形のポッド内の海水を排水しはじめた。そして物の数分で完全に海水は排水され、艦本体とポッドをつなぐゲートが開き、ハイゴッグはその中に設置されているMS格納庫で機動を停止し、その機体目掛けて整備員達がわらわらと集まってくる。そんな中このハイゴッグ部隊(6機×3部隊)の最高指揮官でもあるディープブルーリーダーことアリマ・シュンジ少尉はリヴァイアサンの艦長室に向かった。
「アリマ・シュンジ少尉、ただいま帰還しました」
「よし、入れ」
そう言って部屋の中に入ると、一人の女性が仕事の手を休め、彼に向き直った。
「作戦遂行ご苦労だった。だが戻ったところ悪いがまたすぐに出撃してもらうこととなった。連邦軍の大規模な輸送船団がアフリカに接近中とのことだ。そこで我が艦隊とアフリカに駐留する戦闘機と爆撃機部隊でこの艦隊へ攻撃を仕掛けることとなった。伝えられた作戦目標は敵護衛艦艇の殲滅だそうだ」
「ですが部隊は先程の戦闘でのメンテナンスがまだ終了していません。それに隊員達も疲労しております」
「分かっている。だがこれは上からの指示なのだ。作戦自体はマ・クベ司令が提案しているが命令元はキシリアだ。あの女、よほど我らVFが気に食わないようだな。まぁVFの名目上の指揮官であるガルマ殿も姉からの要請では断れんだろう。だが実際には、この作戦の本当の目的は我らVF潜水艦隊の力を削ぐことと見ていいだろう。なぜなら与えられた情報では護衛艦隊はヒマラヤ級1隻と護衛艦9隻となっているがとんでもない。VF情報部が入手した情報ではヒマラヤ級だけでも5隻、他に正規空母1隻、護衛の巡洋艦が9隻、駆逐艦12隻、フリゲート艦15隻という大艦隊だ。しかもこの艦隊の近海にいくつか小規模な艦隊がいる、恐らくこの艦隊のピケット艦隊だろうな。後ヒマラヤ級と正規空母に搭載されているのは艦載機型のセイバーフィッシュとフライマンタ、対潜哨戒機のドン・エスカルゴに高速偵察機のデッシュだ。味方の航空支援はあてにしないほうが賢明だな」
その言葉を聞いたアリマは唖然とした。最新鋭とはいえ18機でその大艦隊と戦えといっているのだから無理もない。
「少尉、この護衛艦隊だけで42隻、本命の輸送船団は20隻だ。護衛艦の数の割りに輸送船の数が少ないと思わないか?」
「そういえばたしかに・・・」
事実彼の部隊が沈めた輸送船団でも護衛艦はヒマラヤ級1隻に巡洋艦1隻、駆逐艦8隻で輸送船10隻近くを護衛していたのだ。この規模の艦隊だと輸送船が40~50隻近くいてもいいはずだった。
「少尉、恐らくこの艦隊は重要な物資を運んでいると私は睨んでいる。できるならば何隻かは鹵獲して欲しい。できるか?」
「それは・・・かなり難しいかと思います」
「だろうな。無理に鹵獲しようと思うな、できればの話だからな。それに簡単な話、護衛の航空母艦を殲滅するだけでもこちらは任務を遂行したことになるのだ。これは名目上航空隊との共同作戦なのだからな。空母がいなくなれば航空隊も輸送船くらい何隻か沈めるだろう・・・航空隊がきたらの話だがな。だが来なければそれはそれでいい。責任は来なかった航空隊に集中するからな。敵艦隊の殲滅はできなくてもかまわん、何かあれば私が対応しよう」
その言葉にアリマ少尉は幾分楽になった。敵艦隊を殲滅しろといわれるとかなり困難だが、敵空母だけでも撃沈すればいいとなると幾分楽になる。そしてその分隊員がやられる危険性も少なくなると思ったからだ。
「それでは少尉、吉報を期待しているぞ」
その言葉にアリマ少尉は敬礼して答えた。
「了解しましたアデナウワー大佐。ディープブルー隊は速やかに任務を遂行します!」
ブリーフィングルーム
「というわけで我々は機体の準備が出来次第出撃する。質問は?」
「・・・一応正規空母とヒマラヤ級を全て沈めたら作戦は成功と見なされるんですよね」
「ああ、そういうことになっている。撃破後残存勢力を殲滅し輸送船を可能なら拿捕する。ただし危険だと判断したら即時撤退するからそのつもりでいてくれ。最も司令に負担をかけたくないからできるだけ殲滅の方向でがんばろう」
「ええ、それはいいのですが・・・キシリア様は何を考えているんでしょうね。我々が消耗することはジオン軍の消耗でもあるのに・・・」
「たしかに・・・現在唯一の潜水艦隊ですからね、我々は・・・」
「大方うざいから消すって感じじゃねーのか? 隊長、戦法としてはさっきので空母は沈めれると思いますが、上空警戒機はどうします? 連邦も馬鹿じゃない、必ず警戒機を上げてるはずです」
「けっ、連邦ごときにハイゴッグが落とされるものか。心配しすぎだよあんたは」
「ジャス! そんなことを言ってると死ぬぞ。だいたいお前は何度命令違反をしてると思っているんだ!」
「だがそれでかなり連邦を撃破してますぜ。心配ありませんよ」
「そうですよ、ジャス先輩の腕なら連邦共なんて鎧袖一触ですよ」
「ブッシュ! お前も危なっかしいんだから無茶するのはやめろ! というかジャスを見習うのはやめろと何度もいってるだろ!」
「落ち着け軍曹。だが軍曹の言うとおり今回の任務はちょっとばかし困難なものだ。これまでのとは違うから油断するとお陀仏だよ」
「やれやれ・・・そういやジャスは元不良だっけ? 最近調子にのってきてるな・・・裏目にでなきゃいいが・・・」
「ああ、あのままだといつか馬鹿なことをやりかねん」
「ってかなんでうちに配属なったんでしたっけ? あの人」
「たしかザビ家のとある人物からうちに対する嫌がらせで強引に配属させられたって聞いたが?」
「紫ババァでしたっけ? それともデコっぴろ?」
「・・・・・・お前危ないことさらっと言うな、場所が場所なら暗殺されるぞ」
「皆、落ち着け! ・・・とりあえず質問は他にはないな? 今回の任務は難しいものだ。だからこの作戦終了後に皆生き残っているように、皆最善を尽くしてくれ。以上だ」
『お~い、隊長さんよ。準備できたぜ、いつでも出撃は可能だ。いつも言ってるが機体にできるだけ傷つけないで帰ってきてくれよ』
「了解した整備班長。最善を尽くします」
『ああ、幸運を祈ってるよ』
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大西洋 連邦軍第15艦隊旗艦 正規空母 バルバドス
「艦長、来ると思うかね?」
「恐らく来るでしょうな。歓迎の準備も万全ですし」
「しかしうちの二重スパイもよくやってくれてる。この海域にいるジオンの水陸両用MS隊を誘い出す為にわざわざ出張ってきた甲斐があるというものだ」
「ええ、ジオンに大規模な輸送船団が出航したという情報を流し、ジオンの狼共がのこのこやってきたところを大火力で叩きのめす・・・下の奴らも手をこまねいているでしょうね・・・」
「全くだ・・・だが1079輸送船団が消滅したのに不安を感じるな・・・あれにはジオンの水陸両用MS・・・たしか名前はゴックだったか? それ対策としてドン・エスカルゴや対潜ヘリを載せていたはずなのだが・・・」
「ええ、ですが指揮官が無能だったのでは?」
「ふむ・・・その可能性もあるか・・・仮装護衛艦はちゃんと偽装してるだろうな?」
「もちろんです。偽装した艦は周囲の輸送船と同化しており、ジオンにばれる可能性は低いはずです」
「ならばよし。そろそろ航空隊の交代機をだすころだな。ピケット艦隊にも十分な警戒をするよう重ねて通告しろ」
「了解! ですがピケット艦隊の位置はこれでいいのでしょうか? この位置では隙間が多く、我々に接近するMSの探知が遅れる可能性が・・・」
「なぁに、四方に展開しているピケット艦隊は保険だよ、保険。この艦隊が全てだと思いたまえ。ソナーは全てピケット艦隊がいないほうへ集中しているし、もしソナーに反応がありキルゾーンに入り込んだ次の瞬間には対潜兵器の雨が降り注ぐ。いかにゴックとやらの装甲が厚くても大量の爆薬を叩き込まれて無事でいられるはずが無いからな」
「ええ、特にゴックとやらは機動性が悪いようなので対潜航空機の前には裸も同然です」
「だが油断は禁物だ。そのゴックで対潜航空隊の追撃を振り切った敵もいるのだからな・・・」
「はい、まぁ何事も無ければ例の荷物を無事に届けれるのですがね」
「ああ・・・例の対MS戦闘車両か。ダカールやキリマンジャロは陥落したがまだまだアフリカは広いということをジオンに教えられるな」
「それを言ったらアメリカもですよ提督。アメリカにはミデアで新兵器を運んでるって噂じゃないですか」
「ああ、例のアラモ作戦か。じきに反撃の態勢は整うだろう。そういえば提督、宇宙でもルナツーでいくつか兵器を量産している話だったし・・・」
「ほう? それは初耳だな、情報源はどこなんだね?」
「ええ、同期の者がこの前までルナツー勤務でして、この前飲んでた時にその兵器の話がでたのです。なんでも作業用ポッドを改造した兵器だとか・・・すでに一部は作戦行動していると聞きました」
「ふむ・・・作業用ポッドの改造とは量産性がいかにもありそうなものだな。だがその話は軍事機密だろう。軽々しく話すのはいただけんな」
「ふむ、そうですな。以後気をつけましょう」
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艦隊近海 水中
「・・・やっとここまでこれたな。しかしこれ以上近づくとソナーで探知されるだろうな・・・しかも連邦の攻撃型潜水艦までいるとは至れり尽くせりだな。各隊へ、準備はいいか?」
「こちらマーメイド隊、準備いいわよ」
「こちらブラックパール隊、いつでもいいぜ。はやく帰って昔の映画を鑑賞したいぜ」
「よし、時間をかけると周囲に展開している艦隊がやってくる、各機ジェットパック噴射!」
その命令の直後、18機のハイゴッグの背中に取り付けられたジェットパックが勢いよく噴出し、水中を猛烈な勢いで加速していった。そしてその騒音は連邦艦隊にすぐに察知されることとなった。
連邦艦隊
「・・・! CICより艦橋へ! 正体不明の音源が本艦隊に急速接近中、数は18!」
「こちら艦橋、正体不明とはどういうことだ、詳しく報告せよ」
「は、今まで聞いたことが無い音源です。しかもこれは・・・速度が80ノットを上回ります、我々の知らないジオンの未知の兵器の可能性があります!」
「く、ジオンめ・・・航空隊の発艦を急がせろ! 各艦へ通達、これより本艦隊は対潜行動に移る、速やかに任務を全うされたし、以上だ。後第1・2ピケット艦隊にも集まるよう連絡を入れろ! 輸送艦と仮装艦は第4ピケット艦隊へ合流を急げ、第3は第4と本艦隊の間に布陣させろ!」
「了解! 各艦対潜攻撃準備! CIC、目標はどうなっている?」
「こ・・・こちらCIC、アクティブソナーにてピンを放ったところ、接近物の大きさはMSクラスであると判明、ジオンの新型水中MSと思われます! 艦隊との距離、1万切りました! 深度は300!」
「なんだと!? これでは対潜ロケットは使えん・・・提督!」
「く・・・全対潜兵器発射せよ!」
「了解! 各艦へ、全対戦兵器発射!」
その命令の直後、有効深度が300mまでの対潜ロケット弾を除く対潜魚雷や対潜ミサイルが艦隊の各艦から発射され、海中では攻撃型潜水艦が魚雷を発射した。対潜ミサイルは発射直後に落下し、弾頭の魚雷を切り離した。
「隊長! 前方から魚雷が無数に接近中です!」
「よし、艦隊との距離5000を切った、各機浮上するぞ!」
その言葉と共に今まで水平に突進していたハイゴッグは急遽姿勢を変え、垂直に近い形で上昇していく。それに焦ったのは連邦艦隊だった。
「こ、こちらCIC! 敵MSが急遽浮上してきます。これは・・・弾道弾のような速さです! 現在深度200を突破・・・まもなく海面に飛び出ます!」
「なんだと!? 一体どういうことだ・・・まぁいい、各艦対潜ロケットを当該海域へ発射せよ!」
「無理です、間に合いません! 目標、海上にでます!」
その言葉の直後、海面が隆起した。そしてそれを目撃した連邦将兵は呆然と口を開いた。
「も、MSが空を飛んだ・・・」
そう、18機のハイゴッグは自身のスラスターと背中のジェットパックを併用し、海面から空へ飛び上がったのだ。そう、無数の迫っていた魚雷を空中に飛び出ることでその全てを回避したのだった。そして飛び上がった直後、腕を伸ばし腕の先についている円筒形の物体を空母へと向けた。その円筒形の物体は先端が3方向に展開し、中から巨大なミサイルが姿を現した。
「各機へ、ハンドミサイル発射!」
その命令と共に大型ミサイルは発射された。最もミサイルというよりこれは大型ロケットといったほうがいいような無誘導の代物であったが、その威力は絶大だった。18機のハイゴッグから放たれた36発の大型ミサイルは2発がバルバドスに直撃し、艦橋を吹き飛ばし甲板にあった航空機を根こそぎ吹き飛ばしていった。またヒマラヤ級5隻にも20発近くが殺到し、次の瞬間には艦隊に属する全ての空母が無力化された。だがまだ空母のような大型艦は良かった。沈没まで時間があり、乗組員が退艦する時間があったからだ。これがフリゲート艦や駆逐艦では1発直撃した瞬間に轟沈する艦が続出した。また巡洋艦クラスでも当たり所が悪く轟沈した艦もあった。結局このミサイル攻撃だけで全ての空母が大破ないし沈没し、1隻の巡洋艦が沈没、1隻が大破。駆逐艦3隻とフリゲート艦5隻が沈没、駆逐艦2隻とフリゲート艦1隻が大破した。ハイゴッグはその後ミサイルカバーを完全に投棄し、背中に背負っていたジェットパックも投棄した。
連邦第15艦隊所属巡洋艦 アルハンブラ
「く、ジオンめ・・・なんてMSを作りやがった!」
「艦長、旗艦との通信繋がりません! それどころか旗艦の艦橋がありません!」
「他のヒマラヤ級はどうだ?」
「・・・応答ありません。恐らく・・・」
「そうか・・・全艦へ通達、これより艦隊の指揮は本艦アルハンブラが執る。各艦あらゆる兵器を用いて敵の足を止めろ! 本艦隊は輸送艦の盾になる」
「艦長、ピケット艦隊接近! 目視可能な距離にきました。後第3ピケットもこちらに移動中とのことです」
「よし、全艦へ通達、各艦魚雷を発射せよ! ありったけの対潜兵器を叩き込むんだ!」
その命令によって再び魚雷等が放たれたが、それは最初の攻撃と比べるとあまりにも少なかった。だがこれがゴッグ相手なら何機か大破させることが出来ただろう。だが相手は新型のビームカノンを装備しているハイゴッグだった。迫る魚雷に対し両腕のビームカノンを叩きこみ魚雷を迎撃し、海面下から艦隊に容赦無いビームの攻撃を仕掛けていた。そんな中・・・
「艦長! バルバドスの甲板に敵が上ってビームを乱射しています!」
「糞、ジオンめ・・・好き勝手にはさせんぞ。航空隊は何機いる?」
「はい、襲撃前に離陸したセイバーフィッシュが6機、ドン・エスカルゴが3機、対潜ヘリが2機です」
「よし、セイバーフィッシュ隊は空母の上にあがっている奴の目をひきつけろ! 残りは潜っているのを攻撃するんだ。後周囲の艦に速やかに空母上で暴れているMSを攻撃するように連絡を入れろ! 奴は本艦に向けて背後を見せている、チャンスだ!」
・
「ジャス、何をやっている!」
「見て分かりませんか? 連邦の野郎を始末してるんですが」
「そんなことじゃない! 空母の甲板上等という目立つところで攻撃をするなと言っている!」
「いいじゃありませんか。奴ら攻撃してきませんし」
「そういう問題じゃないだろ! 水陸両用機は隠密性が命なんだ、お前の機体が写真撮影されるだけでも敵に大まかな分析をされることだってあるんだぞ!」
「ですが最初に飛び上がったときにばれてませんか? それならいいじゃないですか」
「そうじゃない、できるだけそのような危険をなくしたいだけだ! それにそこだと攻撃を集中されるぞ!」
「へっ弱腰の連邦の野郎に、アースノイド共に仲間を撃てる勇気なんてありゃ」
そこでジャスからの通信は途切れた。なぜなら・・・
「速射砲、砲撃開始!」
その言葉と同時にバルバドス周囲に展開していた3隻の艦艇から一斉に速射砲が火を噴いた。一定のリズムを刻みながらアルハンブラの速射砲から弾が吐き出されていき、その弾はジャスのハイゴッグの背中に吸い込まれていった。
「速射砲が命中! 敵MSに多数直撃しています!」
「思ったより脆いのか? まぁいい、攻撃を続けろ!」
「あ、敵MS爆発! バルバドスも・・・」
そう、ジャスが乗っていたハイゴッグは連邦艦隊によって撃破されたのだ。だがその際に砲弾が核融合炉に直撃し、大爆発を起こした。その爆発でバルバドスは轟沈、周囲にいたアルハンブラを含む複数の艦も被害を受けていた。
「く、ジャス軍曹がやられた!」
「なんだって? ジャス先輩が!? 畜生連邦の豚共!」
「落ち着けブッシュ。各機へ、馬鹿な行動を控えるように。確実に仕留めていくぞ」
「了解!」
「なんてこたぁねえ。海面から腕だけを突き出してメガ粒子砲を叩き込めばいいことだ。余計なパフォーマンスは必要ねぇ!」
「敵は海上だけじゃない、空を飛んでいる航空機と海中の潜水艦もだ。ブラックパール隊は海中の潜水艦を沈めにいくぞ!」
アルハンブラ
ハイゴッグとバルバドスの爆発による爆風を受けたアルハンブラの艦橋は凄惨なものだった。艦橋のガラスは全て破れ、爆風を受けた側の通路は跡形も無かった。そして艦橋要員のことごとくが重症、又は死亡していた。運が良かった数名は軽症ですんだが中にはガラス片で生きたままミンチと化した者もいた。
「艦長、ご無事ですか!?」
「ぐ・・・私は大丈夫だ、それより艦はどうなっている?」
「は、CICの報告ではバルバドスの爆発の影響でマストが倒壊、レーダーも損傷しました。艦首速射砲及びCIWSは壊滅です。それより血が・・・」
「何、たいしたことは無い。攻撃を続行する。巡洋艦アーカントスへ発光通信で指揮を移譲すると伝えろ・・・ぐっ」
「艦長! 医務室へ、艦長が負傷されたので至急来てくれ!」
「こちらCIC、敵MS隊は潜行しました。海中の潜水艦ですが、先程1隻の・・・あ、訂正します。ついさきほど2隻の艦の圧潰音を確認しました」
海中
「くらえ!」
その言葉と同時にハイゴッグのバイス・クローが連邦の攻撃型潜水艦に突き刺さる。それは正確に発令所を貫き、艦の指揮系統を破壊した。そしてハイゴッグは周囲にいる潜水艦にビームカノンを浴びせた。当然のことだがビームを浴びて無事な潜水艦等存在しない。直撃を受けた潜水艦はそこから水圧に負けて崩壊し、圧潰していった。
「ヒイラギ隊長、あらかた潜水艦は片付いたようです」
「おっし、ブラックパールリーダーより各機へ、残ってる艦を沈めにいくぞ。航空機はどうなった?」
「さきほどマーメイド隊が殲滅しました。現在降伏勧告中だです」
「降伏勧告中だって? 遅れをとったか。各機急ぐぞ!」
「了解!」
アルハンブラ
「こちらCIC、潜水艦隊の反応無くなりました。全て撃沈された模様です」
「分かった。航空隊も先程全滅したな・・・副長、残存艦は何隻だ?」
「健全な艦は残っていません。見た感じ大破艦は11隻、中破艦は本艦も含めて4隻、小破が1隻の計16隻です。ただ大破した艦で総員退艦命令が出ている艦もいるでしょうから正確な数は・・・後アーカントスも沈没したようです」
「そうか・・・輸送艦はどうなった?」
「撃墜される前にドン・エスカルゴが送ってきた情報が小破した艦を通じてはいっております」
「・・・なんといっている?」
「囮の仮装艦を除き、単艦で各艦港へ向かう、とのことです」
「・・・空襲が無いことを祈っておくか」
「! 敵MS浮上しました。 目が光っている、これは・・・モールス信号です、読みます。『連邦艦隊残存艦へ、降伏されたし。降伏せぬ艦は撃沈す』以上です」
「・・・我々は輸送艦の護衛だ、ここで降伏したら護衛艦の意味が無い。諸君、いいかな?」
「ええ、ジオンの連中に海軍魂をみせてやりましょう」
「死ぬときは海で、と決めているものですから」
「やりましょう艦長、他の艦は知りませんがせめて我々だけでも!」
「諸君、感謝する・・・後部速射砲、及び対潜魚雷発射せよ!」
その命令の後、一瞬後にアルハンブラは再び咆哮した。それにつられたのか残っているほぼ全ての艦が攻撃を再開した。この攻撃を予期していたハイゴッグは退避するも、何発か至近弾となりダメージを受けた。だがそのお返しは猛烈なもので、たちまち海中からビームカノンが見舞われた。ある艦は竜骨を破壊され轟沈し、ある艦は開けられた穴からの浸水によりじわじわと沈んでいった、そして・・・
アルハンブラ
ビームを受けた次の瞬間すさまじい衝撃が走り、艦橋にいたものは全て倒れこんだ。
「艦長、機関部がやられました。極小規模ながら水蒸気爆発が起きたようです・・・もう本艦は・・・」
「潮時か・・・ダメコンでももう不可能ならばとるべき手段は一つしかないな。しかしこれだけの艦隊が全滅か・・・」
「ええ、ですが敵の新型MSを1機撃破したのです。十分胸をはれますよ」
「・・・そうだな。さて諸君、これまでついてきてくれたことに感謝する。総員退艦せよ! 副長、君も退艦したまえ」
「了解しました。ですが艦長とご一緒に退艦させていただきます。ここにいる皆同じ気持ちです」
「・・・やれやれ、艦と共にと思ったのだがな」
「艦長はこれが終わった後もまだやるべき仕事があります。今回戦った相手から得たことをこれからに反映していかねばなりませんし」
「ふっ・・・違いない。では諸君、急いで退艦しよう。もうこの艦は長くは持たない」
「了解!」
ハイゴッグ隊
「・・・どうやら輸送船団は取り逃がしたようだな。各機、損害を報告せよ」
「こちら2番機、目立った損傷無し」
「3番機。すみません、ドジりました。各部に警告がでてます」
「こちら4番、異常ありません」
「こちら6番・・・異常ありませんが、ジャス先輩が・・・」
「ジャスに関しては諦めろ。いかに脱出機構を備えていてもあの爆発では生存は絶望的だ。それにビーコンもでていない・・・各隊、損害は?」
「こちらマーメイドリーダー、私を含めて6機中4機が損傷を受けたわ」
「こちらブラックパールリーダー、1機損傷している。後は軽微だ」
「こちらディープブルーリーダーだ。1機、ジャスがやられた。他にも1機損傷している。損傷機は母艦へ帰還せよ。護衛はマーメイド隊が引き受けてくれ。残ったもので輸送船団の追撃をするぞ。おおよその針路は判明しているからな。後母艦にレーザー中継機を飛ばすよう頼んでくれ」
「こちらマーメイドリーダー、了解したわ。中継機だけど準備の時間も考えて・・・恐らく今から30分くらいで到着するかしら。でも敵戦力がどのくらい残っているか分からないのでは?」
「それについては大丈夫だ。事前に得た情報を元に分析すると、敵の護衛戦力は恐らく巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、フリゲート艦5隻だ。少しでも機体に不調を感じたら撤退しろ。以上だ」
「こちらディープ2、ブッシュはどうします? 一緒に引きあがらせた方がいいかと思いますが」
「そうしたいが今のままでも普段の戦力の50%の状態で攻撃を仕掛けるんだ。少しでも戦力は多いほうがいい。護衛に割いたマーメイド隊の2機も本当なら攻撃に参加して欲しいが損傷機だけだと何かと不安だからな。まぁ9機もいれば8隻の護衛艦はなんとかなるだろうが・・・」
「残りは8隻ですか・・・一人1隻沈めても一人余りますぜ」
「そうですね、でもここで作戦を終了するっていう手もありますよ。 ・・・最も相手は残り僅かですからこのまま攻撃続行がいいかもしれませんがね」
「ああ、相手の数が予想より多ければそこで作戦を終了する。だがいけるようなら攻撃をする。各機行くぞ」