3月13日 外人部隊野営地
「ではこれより作戦を説明する。我々VF、外人部隊はジオン軍キャリフォルニアベース攻略部隊の支援にあたる。攻略部隊は北東、東、南東から進軍することになっている。敵航空部隊については常時DFA-07 ジャベリン が上空待機しているので発見次第黙らせることになっている。また航空支援も受けられる予定だ。この航空支援はVF所属の航空隊 第212戦闘飛行隊 ブルーランサー がしてくれるそうだ。我々は連邦軍が攻略部隊に釘付けになっているときに敵の本丸を叩く。敵の司令部があるのは基地中央のこの区画の建物だ。敵は61式戦車と対戦車ヘリが主力だ。油断しなければMSはやられはしない」
「指令、敵司令部までのルートですが、このルートでは敵の前線を突破することになりますが」
「ああ、どうしても前線を突破しないと無理だからな。ユウキ伍長はオルコスから指揮を執ってくれ」
「分かりました。ですがそれだと・・・」
「ああ、司令部代わりに使っているオルコスが落とされれば我が隊は壊滅的打撃をうける。だが空中から指揮すればミノフスキー粒子に関係なく指揮がとれるからな。それにブルーランサーがある程度の護衛をしてくれるから大丈夫だ」
「・・・了解しました。では我々も対空兵器をできるだけ発見・殲滅します」
「頼むぞ。だがもしかしたら必要ないかもしれん」
「なぜです? 対空火器を排除すれば移動司令部の安全も確保できます」
「いや、そうではなくそれらの対空施設は動作不能になるかもしれないということだ。現在VF所属の闇夜のフェンリル隊が地下潜水艦基地を襲撃する為に動いている。その都合で地下にある発電・変電施設を破壊することになっている。その発電所破壊がどれだけ影響を与えるかは分からないがそれが原因で動作不良になるかもしれん。ただこれは希望的観測だから結局は破壊してもらうことになるがな」
「なるほど・・・了解しました」
そんな会話がなされているとき、14歳の少女が入ってきた。
「たいちょ~ MSの整備終わったよ~」
「ああ、ありがとうメイ。どうだった、新型MSの感じは?」
「プロトドムなら今のところ問題ないよ」
そう、外人部隊には3機のプロトドムが配備されていた。武装はジャイアントバズーカに120mmマシンガンを装備している。
「だが本当に大丈夫なんだろうな・・・噂ではホバーの出力が安定せず転倒したとかホバーが使えず歩いたって話があるくらいだ」
「ジェイクってそんな心配しているの? たしかにその事故はあったけど、あれは試作機での話しだよ」
「って本当にあった話なのか!?」
「ええ、それについてはツィマッド社から確認を取ってあります。まぁ一番最初の試作機での出来事ですからすでに解決済みのものなので安心してください」
「コンティ大尉・・・それなら安心ってもんですな」
「もう、ガースキーまで! ガキの整備は不安だっていうの!?」
「落ち着けメイ。さっきの試運転の音を聞く限り何も問題はなさそうだったぞ。いい整備だと思っている」
「・・・ありがとう」
「ところで隊長、プロトドムの乗り心地どうでした?」
「ああ、悪くない。なんでプロトって呼ばれているのか不思議なくらいだ」
「あ、それはね。今正式機が設計中だからだよ」
「正式機が設計中? どういうことだ?」
「つまり、このプロトドムで各種データを取って、その運用データ等を元に設計するのが正式なドムになるらしいの。この機体はいわば雛形っていうことだよ」
「・・・無駄にすごいというべきなのか悩むところだな」
「ですよね、いっそ先行量産型ってことで大量に配備しちまえばいいのに」
「ツィマッド上層部はそれも視野にいれているそうよ。なんでも今回の実戦で得られたデータを元に改修した機体を先行量産型として配備する案があるらしいわ」
「でもジオニック社のグフが先に前線に配備される予定だからドムの開発は若干の余裕があるみたいだよ。それにデータ取りは今回の降下作戦で一旦終了して設計に集中するらしいから先行量産型を作るかはわからないよ」
「まぁ俺たちが言うことじゃないな。そろそろ時間だ。皆、出撃用意をしよう」
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ロッキー山脈上空
「こちらコバンザメ、給油を終了する」
「こちらエアフィッシャー隊、給油に感謝す」
「武運を祈る。 ・・・・・・ふ~、しかしドップの燃料どうにかならんかな?」
「仕方ないですよ、あの形状ですし格闘戦を重視した結果機体が小型化されたんですから。燃料がすぐ空になるのは仕方がないかと・・・」
「だが限度があるだろ。ニューヤークの航空基地から発進してロッキー山脈で給油っていうのは・・・」
「まぁ燃料タンクをぶらさげれば航続距離は長くはなるらしいですが、その状態で敵と遭遇したら動きが鈍くてカモになりますからね。一応外部燃料タンクは切り離しができますが、つけたままの状態で奇襲されたらバタバタ落とされますよ」
「まぁそのせいで俺達がここにいるんだよなぁ。この機体は働き者だな、輸送に指揮に給油に大忙しだ」
そう、彼らが乗っているのはツィマッド社が新たに開発した新型輸送機「オルコス」だった。この機体は6基のエンジンで飛行し、護身用の4基の20mmバルカン砲と2基の有線型近接対空ミサイル発射機を装備する輸送機だった。外見は連邦軍のミデアに似ており、コンテナ部分に4機のMSを搭載することができた。また、コンテナ部分を改装することで空中給油機、空中指揮機、対潜哨戒機と色々な用途に使える優れた輸送機だった。コバンザメと呼ばれたこの機体は空中給油機仕様の機体だった。ちなみにコバンザメとは空中給油機仕様のオルコスの名称だ。
「機長、ジャベリンが先行します。我々は現空域にて待機せよとのことです」
そういうが早いか、窓の外をドップとは違う戦闘機が飛び去っていった。ツィマッド社製戦闘爆撃機 DFA-07 ジャベリン と呼ばれる機体だった。装備している武装はロケット弾ポッドや大型爆弾、各種ミサイルにクラスター爆弾、果ては偵察ポッドまでつけた機体が飛び駆っていた。これはあらゆる任務に対応することができるジオン期待の新型戦闘爆撃機なのだ。ジャベリンは高度を更に上げ遥か上空へと突き進んでいった。
「しかしツィマッド社はいい装備を前線に送ってくれるな。ドップなんかとは雲泥の差だ」
「ええ、この機体もツィマッド社製ですし・・・ある意味異様とも思えますね」
「異様?」
「だってそう思いませんか? 身近にあるもの多くにツィマッド社がかかわっているんですよ。それにこの機体を宇宙から持ってきたときの方法だって・・・」
「ああ、たしかバリュートシステムだったか? 降下のみの装置だが第一次降下作戦時に補給物資の降下に一役買ったやつだったな。たしかこれも大型のバリュートを使用して運んだんだったな」
「ええ、それの発案もツィマッド社だそうです。まるでツィマッド社があらかじめ準備していたというか、なんか変な感じが自分はするんです」
「・・・考えすぎだろう。それに俺達の役に立ってくれてるなら感謝こそすれ気持ち悪がるってのはお門違いってもんだ」
「・・・機長、もしかして何も考えていません?」
「当たり前だ。そんなこと考えている暇があるなら手を動かせ。もうすぐ最後の給油予定の部隊だ」
「・・・了解」
そしてコバンザメこと給油機仕様のオルコスは次のドップの編隊に給油を開始した。
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「こちらイーグルリーダー、各隊いるな? 衛星軌道上に待機しているアンドロメダからキャリフォルニアベースから敵機が発進を開始したと報告があった。打ち合わせどおり攻撃するぞ!」
「こちら前衛、了解」
「こちら後衛、了解した」
「よし、全機突撃!」
その号令と共にジェベリンの群れはアフターバーナーを吹かし一気に加速した。
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「こちらガーディアンリーダーだ。各機へ、偵察隊からジオン航空隊がこちらに接近中だそうだ。ミノフスキー粒子のせいでレーダーが使えん、警戒を怠るな。特に今日は雲が多い、下方にも警戒しろ」
「こちら先行しているウォッチリーダーだ! ジオン航空隊を確認、すごい速さだ! セイバーフィッシュ並みだぞ!」
「こちらガーディアンリーダー。すぐ援護に向かう、それまで持つか?」
「急いでくれ! 奴等はまともな航空機を持ってないはずじゃ『ブツ』・・・・・・」
「・・・ウォッチリーダー? 応答しろウォッチリーダー! おい、何が起こったんだ、返事をしろ!」
「こ、こちらヘブンリーダー、敵機発見! 正面上空だ!」
「なに!?」
その言葉で前を向くと、目に飛び込んできたのは数多くの黒い点だった。その近くには多くの黒煙が地上に伸びていた。恐らく先行していたウォッチ隊のTINコッドとフライマンタだろうとガーディアンリーダーは推測した。
「糞! ガーディアンリーダーから各隊へ、先行していたウォッチ隊は全滅した模様。油断するなよ! 各隊散開!」
その命令と共に一斉に連邦軍航空隊は散開しジオン航空隊に向かっていった。それに応じるかのようにジオン航空隊も一斉に高度をとり、次の瞬間連邦軍航空隊目掛けて覆いかぶさるように降下していった。
「ミノフスキー粒子散布下で使えるミサイルは有線くらいだ、糞! やつら太陽を背にして降下しやがる、これじゃ見えにくくてミサイルが使えねぇ!」
そう、ミノフスキー粒子によりレーダーや赤外線誘導が使用不可能になった状態では誘導可能なミサイルは有線誘導くらいのものだ。もちろんミノフスキー粒子があまり多く散布されていなければいくらかの誘導はできるだろう。だがそれでも一番確実なのは有線誘導方式だったのだ。そして実際いくつかの隊がミサイルを放つも、命中した機体はほんの十数機だった。しかもそれは誘導できずに直進して、『下手な鉄砲数うちゃ当たる』の諺通りの結果だったのだ。そして逆にジオン航空隊からは猛烈なお返しがまっていたのだ。
「な、ロケット弾の雨!?」
そう、ジオン側は制空任務を帯びたジャベリンにミサイルではなく大量のロケット弾を放ってきたのだ。その数は1機につき160発。それが連邦軍の頭上に降り注いだのだからたまらなかった。しかもたちの悪いことに1機の航空機に搭載されているロケット弾ポッドは1基ずつ角度を変えて装備されていた為、拡散して放たれたのだ。そして数千発のロケット弾のシャワーを浴びた連邦軍航空隊の中央あたりが根こそぎ撃破された。数発食らって木っ端微塵になる機体もあれば、当たり所がよくかろうじて飛行可能な機体もあったりする。だがこの攻撃で迎撃に出た連邦軍航空隊の約4割が叩き落されることとなった。ただこの攻撃で命中しなかったロケット弾がそのまま地上に落下し、地上を侵攻していたジオン陸上部隊に被害を及ぼしたり、敵機から離散し空中をゆっくりと降下している細かい破片に突っ込んだジャベリンが損傷を受け墜落したりとジオン側でも予測していなかった損害が多数でた。それでも制空任務を持った多くのジャベリンは急降下後そのまま速度を上げ上昇に移った。
「っち、逃がすか! 各機反転上昇し、敵機を迎え撃て!」
連邦軍も攻撃の為反転上昇しようとした矢先、いきなり伏兵に襲われたのだ。
「う、うわああぁぁ! 雲の中から大量の敵機が!」
「撃たれた、落ちる! 助けて母さん! うわああああぁぁぁぁぁ」
「糞! 雲の中から奇襲だと!?」
そう、ジャベリンが高高度から攻撃を仕掛けることによって連邦の目を高高度に移し、反転した時に低高度にいたドップが急上昇し攻撃を加えたのだ。このやり取りは後方にいる複数のオルコスでレーザー通信を中継してジャベリン隊とドップ隊に逐次情報を伝えていたのだ。
だがそんな事情を知らない連邦はたまったものじゃなかった。気がつけば前に上昇反転しこちらに向かってくるジャベリン隊、背後にはドップ隊が迫りつつあったのだ。
その後は詳しく書くまい。挟撃された連邦軍航空隊は一撃離脱のジャベリンと格闘戦に持ち込むドップの攻撃によりかなりの数が撃墜された。そんな中・・・
「糞、こんなところでやられてたまるか! パイレーツ隊各機、聞こえるか!? 状況を知らせろ!」
「こちらパイレーツ2、機体に損傷無し。ミサイル残弾2、戦闘続行可能です」
「こちらパイレーツ3、同じく問題ありません。ミサイル残弾は3発です」
「こちらパイレーツ5、本機は異常ありませんが4が煙をだしてます!」
「こちらパイレーツ4、機体損傷し戦闘は不可能です」
「こちらパイレーツ6、機体損傷、航法装置に異常発生」
「全機一応生きているか・・・こちらパイレーツリーダー、5は4と6を護衛し戦闘空域から離脱しろ! だがキャリフォルニアベースは恐らく無理だ。そのまま南下し第157臨時野戦基地へ撤退しろ。あそこは攻撃をまだ受けていないはずだ、そこまで持ちそうか?」
「なんとか持つと思います。幸いエンジンと燃料は異常ありませんから・・・」
「右に同じ、航法装置が損傷していますが先導してくれるのなら問題ありません」
「よし、なら食われないうちにさっさと行け! 2と3は俺に続け! さっき敵の後方に大型の機影を見た。恐らく空中指揮機か輸送機、給油機の類だと思う。俺達はそれを叩き落すぞ!」
「「了解!」」
そして3機は高度を下げ、東へと向かった。そして数分後・・・
「見えたぞ! 4機いる。外見はミデアに似てなくもないが連邦のでは無いな。気がついてないようだしミサイルを使う。誘導できないといってもまっすぐ飛ぶんだからロケット弾だと思って撃て! 中央は俺が、むかって右は2が、左は3がやれ。先頭を行く奴は最後に食うぞ! GO!」
その号令と共に3機のセイバーフィッシュはオルコスに残っていたミサイルを全て叩き込んだ。その不運なオルコスは第271空中給油部隊所属のでこの空域に展開している3つの給油部隊のうちの1つだった。うかつに前にですぎたといったらそれまでだが、ミサイルの洗礼を受けた3機は機体内部にまだ残っていた航空燃料に引火し大爆発を起こした。先頭を飛行していた残る1機は慌てて雲の中に入ろうとするが、その頃には既に3機のセイバーフィッシュに狙いを定められていた。
「き、機長! 敵はセイバーフィッシュ3機です。逃げ切れません!」
「くそ、迎撃しろ! バルカン砲と有線ミサイルでなんとか時間を稼ぐんだ!」
そして遅れてオルコスから反撃が始まった。だが本来4基あるバルカン砲はこの機体には2基しか装備されておらず、しかも相手が巧みに死角に入る為あまり役にたっていなかった。そして頼みの有線ミサイルはというと、発射した次の瞬間には敵機を通り越しワイヤーが切れてしまうなど、とても実用的ではなかった。最もこの有線ミサイルは航空機の場合、本来敵の背後から発射するものだからある意味当然といえば当然の結果だった。
だがこの時間稼ぎは結果としては成功することになる。なぜならオルコスからの反撃(有線ミサイル)に驚き、3機のセイバーフィッシュは有線ミサイルの死角にはいろうといったん後退し、態勢を整える前にオルコスから放たれた救難信号に応じた戦闘機部隊がやってきたのだった。その数ドップが3機。
「隊長、敵機確認! 旋回能力が高い機体です!」
「ああ、こっちでも確認した・・・3機か、輸送機は後回しだ。2、3へ、例の戦法を使ってみるぞ」
「え? アレですか!?」
「了解しました、隊長、お気をつけて」
「よし、行くぞ」
そういって彼らは2手に分かれた隊長機はまっすぐ敵機へ向かい、残り2機は急上昇をかけ雲に入った。接近してくる敵にドップは隊長機を落とそうとミサイルを発射するが、ばら撒かれたフレアで回避される。そして業を煮やしたのか格闘戦を挑もうとこちらも接近した。
「よしよし・・・食いついてきたか。もうそろそろだな」
そう呟くと隊長機は降下していった。だがそれは急降下ではなくどちらかといえば緩やかな降下だった。それを好機と捉えたドップは一斉に射撃を開始したが、その寸前、絶妙なタイミングでアフターバーナーをしながらセイバーフィッシュは急上昇に移った。だが完全にはかわしきれなかったのか数発の弾が機体に命中した。
不意をつかれ敵機に逃げられたドップは慌てて上昇に移ろうとしたが、そこに背後から機関砲を浴びせられ2機が撃墜された。
彼らの戦法は極めて単純だった。まず囮となる機が敵機を連れてきて、タイミングを見計らって上空から2機が奇襲を仕掛けるというものだったからだ。
残った1機も慌てて回避行動に移ったが、その時にはすでに手遅れとなっていた。急上昇していた隊長機が反転し、上空から機銃弾を浴びせかけたのだから・・・
「やりましたね隊長、敵機は近くには見当たりません」
「隊長、機体は大丈夫ですか?」
「ああ、いくらか食らっているが問題はなさそうだ。それより我々も撤退するぞ。恐らく制空権はジオンに移った」
「了解しました・・・ですがさっきとり逃した輸送機はどうします?」
「言っただろ、ここはもう俺達の庭じゃなくなったんだ。まごついているとジオンの航空隊の増援が来るぞ」
「了解しました・・・残念ですね」
「ふぅ・・・有視界戦闘とはWW2時代に逆戻りか・・・しかしサッチ戦法もどきが意外とうまくいったな。戻り次第検討するか・・・」
キャリフォルニアベースを出撃した連邦軍航空隊はジオン航空隊の前に敗北した。戦場を見渡せばこのパイレーツ隊のように善戦した部隊も多数あったが、全体的に見てみればキャリフォルニアベースの制空権はジオンに移った。
連邦軍のインターセプトを突破したジャベリンはキャリフォルニアベースの各所にロケット弾やミサイル、爆弾等を投下していき目ぼしい施設や部隊を攻撃していき、遅れてやっていたドップやドダイ、そして地上から侵攻してきた陸上部隊も戦闘に加わり連邦軍は空と陸からの立体的な攻撃に徐々に戦線を後退させていった。
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VF所属 外人部隊
「激戦ですね」
「ああ、ここを落とされたら連邦はメキシコまで後退せざるを得なくなるからな」
「さて、おしゃべりはここまでだ。戦線を突破するぞ、アローフォーメーション!」
「「了解!」
・・・さすが新型機だな、MSについては素人の俺でさえ楽に動かせる。これが統合整備計画ってやつの恩恵か。
「隊長、2時の方向からヘリが3機向かってきます。後12時の方向に61式戦車多数、11時の方向にトーチカ群があるので気をつけてください」
「了解した。ガースキー、ジェイク分かったな? 分散して攻めるぞ」
「了解しました。じゃあトーチカ群を吹き飛ばしてきます」
「じゃあ俺はヘリを叩き落します」
「よし、各機散開!」
「・・・くそ、ジオンめ。好き勝手やりやがって・・・各車警戒を怠るなよ。目視で敵を探せ!」
「隊長、援護の航空機はどうなっているんですか?」
「知らん! そもそも基地全体が激戦区なんだ、そこまで分かるわけないだろう!」
「ですが・・・! た、隊長! 前、前!」
「あ? 前がどうし・・・」
そういって前を向いた戦車隊の隊長はそのまま意識を失った。プロトドムが放った120mmマシンガンの弾丸によって彼の戦車は吹き飛ばされ、後続の車両に被害を与え大爆発を起こした。
「て、敵真正面! 撃て、撃てぇ~!」
そういって5両の61式戦車は至近距離から主砲を発射したが、プロトドムの機動性の前に全て外れてしまった。その後ドムから放たれた弾丸で4両の戦車が破壊され、1両が中破した。そして敵を殲滅したと判断したプロトドムは前進を再開したが、中破した戦車はまだ戦闘力を失ってはいなかった。
「く、くそ・・・これでも食らえ!」
極至近距離から放たれた61式戦車の主砲弾はそのままプロトドムの胴体に命中した。これがザクやヅダなら恐らく中破したであろう。だがザクやヅダと比べると格段に厚い装甲は砲弾が貫通することを許さず、角度もあったせいか砲弾は弾き飛ばされた。
「そ、そんな・・・無傷だというのか?」
その言葉が彼の最後の言葉となった。
「・・・危なかった。こいつの装甲の厚さに救われたな・・・」
プロトドムのコックピット内でケンは冷や汗を流していた。それもそうだろう、一歩間違っていたら戦死していたのだから。最もドムの正面装甲を61式の攻撃で破壊されることはないのだが・・・
「油断大敵だな・・・ユウキ伍長、付近に敵の反応はあるか?」
「いえ、今のところないようです。この隙に前進しましょう」
「分かった、各機前進」
そして前進を再開して、司令部の付近まであと僅かといった地点で・・・
「隊長、そこから横の森林を通って進んでください」
「ん? なぜだ?」
「そこから少し前に敵の戦車隊がいます。データベースに無い新型のようです。数は30」
「新型の戦車か。確かに61式戦車が採用されてから18年近くも経っているから新型戦車が開発されていてもおかしくは無いな。どんな車両かわかるか?」
「少し待ってください・・・・・・これは、回転砲塔を装備していません。恐らく自走砲、又は駆逐戦車かと思われます」
「駆逐戦車?」
「戦車を専門に攻撃する砲塔を持たない戦車のことです。対戦車ミサイルの発達により廃れていったのですが・・・もしかすると対MS用の駆逐戦車かもしれません。主砲はレールガンの公算大です」
「レールガン搭載のMS駆逐戦車か・・・またとんでもないものを用意しているな」
「だがおかしくありませんか? そんなものがなんでここに配備されているんです? 普通なら前線に配備するものだと思いますが」
「たしかにそうだな、もしかすると試作機なのかもしれん」
「なるほど、運用試験中かもしれないってことですね」
「ユウキ伍長、敵戦車はどちらを向いている?」
「えっと・・・こちら側を向いていますね。付近にこれ以外の敵の反応はありません。この戦車隊を抜ければ基地司令部です」
「・・・ブルーランサーに航空支援を要請してくれ。航空支援によって相手が混乱したところを抜ける」
「ですが隊長、いっそ戦車隊を無視して司令部を攻撃してはどうです? 一撃離脱すれば問題はないかと思いますが」
「いや、司令部は地下にあるらしい。上部構造物に弾を当てて降伏するとは思えん。ならば司令部は敵部隊を殲滅した後に対処すればいいだろう」
「了解しました。ですがブルーランサーは3機編成なので撃破はあまり期待しないでください」
数分後
「こちらブルーランサー1、外人部隊へ。これより支援攻撃を開始する、通常爆弾投下後ガトリングを叩き込む。これが終了次第基地へ帰還する」
「了解した、支援に期待す」
「了解! ブルーランサー各機へ、ダイブ!」
そういったかと思うと3機のジャベリンは急降下し始め、18発の爆弾を投下した。そして・・・
「こちらブルーランサー、スコアはどうだ?」
「こちらVF、外人部隊オペレーターのユウキ伍長です。先程の爆撃で敵駆逐戦車14両の破壊を確認しました。他にも被害を負った車両が多数いるようです」
「分かった、今度は低空からガトリングをお見舞いしてやる。各機突入!」
そしてガトリングが放たれたが、その中の1つの光景に皆が目を奪われた。
「な・・・ガトリングを弾いただと!?」
そう、新型の駆逐戦車に真正面上部から浴びせた30mmガトリング砲の弾丸をことごとく弾き飛ばしたのだ。普通戦車の上面装甲は薄い物と相場が決まっているだけに、これには皆が驚いた。だが弾丸を弾いたのは正面から浴びせられた車両のみで、横や後ろから浴びせられた車両はあっけなく火を噴いた。
「た、隊長。どうやらこいつは正面と上面装甲が分厚いようです。ですが横と後ろからやれば火を吹きます!」
「分かった。各機それを踏まえて攻撃せよ!」
そして3~4回機銃掃射をした時・・・
「こちらブルー2、残弾0。基地へ帰還します」
「こちらブルー3、同じく残弾0。弾がありません」
「分かった。外人部隊へ、全弾撃ちつくした、これより我々は基地へ帰還する」
「了解しました。支援に感謝します」
「了解、貴隊の幸運を祈る」
そういってブルーランサーのジャベリン3機は帰還していった。この航空攻撃で新型戦車30両のうち21両を破壊した。残りの車両も損傷を負っているのが4両なので、健全な車両は5両のみだ。
「! 隊長、こちらに接近する連邦軍を確認しました。61式戦車が数両と装甲車多数です」
「よし、俺とジェイクのバズーカでこの新型を始末する。正面からでもバズーカなら破壊できるはずだ。ガースキーはマシンガンで援軍を始末してくれ」
「こちらガースキー、了解。だがマシンガンの残弾が少ない。バズーカを撃ち尽くしたら増援にきてくれ」
「分かった。ジェイク、遠方からバズーカを発射して撃ち尽くしたらガースキーの援護に回ってくれ」
「了解隊長さんよ。そっちも気をつけて」
「ああ、攻撃開始!」
そういうがはやいかケンとジェイクはバズーカを乱射した。何発かは外れて近くの建物を吹き飛ばしたり大穴を開けたりしたが、その攻撃で3両が吹き飛んだ。ジェイクは弾を撃ちつくしたバズーカを捨て、ガースキーの援護に向かい、ケンはマシンガンを構えて残りの新型戦車に向かっていった。新型の戦車はかなり機動性が悪いらしく、MSを照準に捉えようとしているものの全く捉えることができないようだった。ケンは1両の新型戦車の横に回りこみマシンガンの弾を叩き込んだ。そしてその戦車が炎上したのを確認すると残りの新型戦車に銃口を向け、今まさにトリガーを引こうとしていた。だが結局彼はトリガーを引くことはできなかった。なぜなら・・・
「隊長! 先程のバズーカの流れ弾が敵司令部の近くに命中したらしく、司令部要員が降伏を申し込んできました」
そう、なんと先程乱射したバズーカ弾が基地司令部の近くに命中し、地下にある司令部をかなり揺らしたらしく、動転した司令部はまだ部隊が戦っているのに降伏を申し出たらしい。
その知らせを聞いたケン少尉がコックピット内でずっこけたかはさておき、ここにキャリフォルニアベースは陥落。ジオン軍は連邦軍次期主力潜水艦U型を含む多くの機材と工廠を手中に収めることに成功した。その中には連邦軍の新型駆逐戦車も含まれていた。
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ジャブロー某所
「いかんな、ジオンに北米を奪われたか・・・」
「だがやつらも北米全てを把握しているわけではない。事実いくつかの拠点が生き残っている。これらの拠点をベースに当面はゲリラ戦を仕掛けるしかあるまい」
「ああ、だが61式ではもはやMSの相手はきつすぎる。新型戦車の調子はどうなっている?」
「XT-79か。一応開発は終了しているがキャリフォルニアベースが陥落したことによって生産計画は大きく狂っている。だが報告によるとXT-79の設計図を含む全てのデータをキャリフォルニアベースから消去できたようだ。これは不幸中の幸いとしか言いようがないな」
「そうだな、あれの工廠も降伏後に爆破処分できたのは僥倖としか言いようが無い。だが生産されていた試作のXT-79が全滅したのは痛かったな」
「うむ。せっかく実戦を経験したのにその情報が全く手にはいらん。惜しいことだ」
「まさかとは思うが・・・ジオンの手には渡っておるまいな?」
「それはないだろう。基地司令部との最後の通信では『敵部隊の攻撃で実験部隊は全滅す』といっていきなり通信が途切れたのだから・・・」
「・・・途中で途切れたのがなんとなく不安だが、問題はないということか・・・まぁそれよりこの状況をなんとかせねばなるまい」
「レビルはMS開発案を進めているようだ、そうなれば我々は日陰者だ」
「いかん、いかんよ。V作戦だったかな? その計画が発動する前に我々の手でジオンのMSを破壊できることを証明せねば・・・」
「今最も実用的なのが高高度からのデプロッグによる絨毯爆撃だ。だが効率が悪すぎる」
「XT-79が量産されればジオンのMSなど・・・そういえばRTX-44はどうだ?」
「ああ、どうやらV作戦に組み込む気らしい。組み込まれる前にある程度完成した機体を前線へ送り、MSを撃破せねば全ての勲功はレビルのものになる」
「試作機でいいから前線に回す準備をさせよう。我らの権益を守らねば・・・」
追加データ
XT-79 新型戦車データ
79式戦車、または79式駆逐戦車とも呼ばれ、コストは61式の5倍もするが、主砲にレールガンを装備している為、MSといえど油断はきない。機動力を犠牲にし、攻撃力と防御力を重視した車両で、上面装甲と正面装甲では120mmザクマシンガンで破壊することは困難である。だが貫通力に優れた新型90mmマシンガン(例:史実のザク改が装備していたマシンガン)なら破壊は可能で、側面や後方の装甲はないようなもの。本来なら開発されることは無かった車両だが、一部技官が旧ザクのデータを見て密かに開発していたのが、開戦初頭にジオンにぼろ負けした結果公式計画となったもので、戦車というより自走砲又は駆逐戦車である。ザクマシンガンを上回る射程を誇り、その砲撃は旧ザクを正面から破壊できる威力を求められたが、一定の条件下ならザクⅡすら破壊できる性能を持つ。だが連射ができず車体に固定式であり、車両自体が高コストかつ汎用性が悪く、生産ラインもほとんど無い為調達数はかなり少ない見込みである。
RTX-44 対MS戦闘車両
ガンタンク系統の外見を持つ車両で、ガンタンクⅡはこの車両をベースにガンタンクを簡略化したものである。初期試作型の武装は左右に対人用の20mmバルカン砲を装備し、上部に試作120mm長砲身キャノン砲を装備する。また左右の武装を対戦車ロケットやミサイルに変更したタイプも存在する。