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No.2193の一覧
[0] 機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)[デルタ・08](2007/12/29 19:02)
[1] 第2話[デルタ・08](2006/08/07 23:26)
[2] 第3話[デルタ・08](2006/08/08 14:00)
[3] 第4話[デルタ・08](2006/09/05 16:19)
[4] 第5話[デルタ・08](2006/08/11 22:36)
[5] 第6話[デルタ・08](2006/08/21 12:27)
[7] 第8話[デルタ・08](2006/09/05 16:16)
[8] 第9話[デルタ・08](2006/10/06 09:53)
[9] 第10話[デルタ・08](2006/10/06 09:54)
[10] 第11話[デルタ・08](2006/11/07 11:50)
[11] 第12話[デルタ・08](2006/12/26 13:42)
[12] 閑話1[デルタ・08](2008/01/01 20:17)
[13] 13話(別名前編)[デルタ・08](2007/07/01 00:29)
[14] 14話(別名中編)[デルタ・08](2007/07/01 00:22)
[15] 15話(別名中編2)[デルタ・08](2007/07/01 00:27)
[16] 16話(別名やっと後編)[デルタ・08](2007/07/01 00:31)
[17] ツィマッド社奮闘録 17話[デルタ・08](2007/07/30 11:55)
[18] ツィマッド社奮闘録18話[デルタ・08](2007/08/16 12:54)
[19] 19話[デルタ・08](2007/08/31 13:26)
[20] 簡単な設定(オリ兵器&人物編) [デルタ・08](2007/08/31 13:47)
[21] 20話[デルタ・08](2007/10/11 19:42)
[22] 21話[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[23] 22話[デルタ・08](2007/12/25 15:59)
[24] 23話[デルタ・08](2007/12/31 18:09)
[25] 閑話2[デルタ・08](2008/01/01 20:15)
[26] 24話[デルタ・08](2008/02/24 17:56)
[27] 閑話3[デルタ・08](2008/05/23 11:31)
[28] 25話[デルタ・08](2008/07/29 14:36)
[29] 26話[デルタ・08](2008/10/18 17:58)
[30] 27話[デルタ・08](2008/10/31 22:50)
[31] 28話[デルタ・08](2009/01/18 12:09)
[32] 29話[デルタ・08](2009/03/18 17:17)
[33] 30話(又は前編)[デルタ・08](2009/04/02 16:07)
[34] 31話(別名後編)[デルタ・08](2009/05/14 22:34)
[35] 閑話4[デルタ・08](2009/06/14 12:33)
[36] 32話[デルタ・08](2009/06/30 23:57)
[37] 33話 オーストラリア戦役1[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[38] 34話前半 オーストラリア戦役2-1[デルタ・08](2010/04/01 01:45)
[39] 34話後半 オーストラリア戦役2-2[デルタ・08](2010/04/01 01:46)
[40] 35話 オーストラリア戦役3[デルタ・08](2010/08/26 00:47)
[41] 36話前半 オーストラリア戦役4-1[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[42] 36話後半 オーストラリア戦役4-2[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[43] 37話[デルタ・08](2010/12/24 23:14)
[44] 38話[デルタ・08](2010/12/26 01:19)
[45] 閑話5[デルタ・08](2011/01/04 12:20)
[47] 39話 前編[デルタ・08](2012/09/30 17:14)
[48] 39話 後編[デルタ・08](2012/09/30 17:23)
[49] お知らせとお詫び[デルタ・08](2015/04/03 01:17)
[50] ツィマッド社奮闘禄 改訂版プロローグ[デルタ・08](2016/03/11 19:09)
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[2193] 39話 後編
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:15261ffd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/30 17:23
ジオン臨時編成核輸送艦隊 前衛部隊旗艦 VF所属ジークフリート級巡洋艦アリアドネ

月面グラナダ基地と地球を結ぶ現状での最短ルート、具体的にはサイド4付近を通過するルートの間には幾つかのデブリ帯が存在していた。安全を優先するならデブリのない宙域を通ればよかったのだが、上からは一刻も早くグラナダに送り届けろという命令が出ているのでデブリ帯を通るルートとなった。このルートならば地球衛星軌道上からグラナダまで、二日もせずに到着できるからだ。
だがデブリ帯では敵の奇襲を許す可能性が高くなる。その為前衛艦隊は警戒を怠らなかったが、前方に哨戒仕様のランツ級シャトルを哨戒に出している為それなりにゆとりはあった。そのため前衛部隊の旗艦となったアリアドネの艦橋もそれなりに緩んだ空気となり、艦橋で談笑する余裕があった。

「艦長、そろそろ第1合流地点ですね。増援部隊来てますかね?」

「さぁな。確かここでの増援部隊の内容は・・・」

「ドズル派のヘッジホッグ級1隻とチベ級1隻、それにムサイ級が2隻にうち(VF)のレダ級護衛艦3隻ですね。後はキシリア派のガニメデ級空母1隻とジークフリート級4隻です。ギレン派の艦艇は第2合流地点からですね。まぁ増援の増強が急に決まったせいで戦力の逐次投入となってしまいますが・・・」

「それは仕方あるまい。むしろ五月雨方式の増援だからこそ、それらの戦力と一足先に合流できると前向きに考えるんだ」

「そうですね・・・まぁ第2合流地点にはソロモンとカタリナからの増援艦隊の他に他派閥の艦艇が合流する手筈ですから、そこまでいけば楽ができそうですね」

「その前に暗礁宙域の側に接近する。合流地点の手前の暗礁地帯、最初の難関だ・・・攻撃を受けるならここの宙域が最も危険だから警戒は怠るなよ?」

「了解です。 ・・・そういえば、先日うち(ツィマッド社)の輸送船が1隻、暗礁宙域で消息を絶ったそうですね。それってここの暗礁宙域の付近じゃありませんでしたっけ?」

「ああ、他の皆もニュースでやっていたから知っているだろうが、今言ったように消息を絶ったのはこの宙域だ。VFの行った捜索にもかかわらずそれらしき残骸が見つからなかったので、連邦か海賊に強奪されたのではというのが公式見解だ。つまりここには敵がいると思って行動してくれ」

「了解です・・・ところで、その輸送船には何が積んであったのですか?」

「・・・そこまで詳しくは知らんな。誰か知ってる者はいるか?」

「いや、幾らなんでも知ってる奴なんていないでsy・・・」

「あ、知ってますよ。あれには衛星軌道上で行う予定の演習に使う物資が満載していたそうですよ。まぁ射撃のターゲットに使うブツらしいですが、ダミーバルーンというそうです。どうもうちらの社長発案のブツらしいです」

艦長がふった疑問に艦橋内で答えれたのは通信士官だった。というかなぜお前は知っている? そんな思いを艦橋にいたほぼ全員が思ったが、情報を取り扱う通信士官だからという事で無理やり納得させた。

「あ~・・・流石は通信士官、目ざといな」

「いえ、それとは余り関係ないかと。たまたま演習を行う部隊が新装備の点検まんどくせぇって愚痴っていたのを聞いただけですかr・・・・・・え、何? それは本当か!?」

話していた情報士官が急にコンソールへと向き直りレシーバーを耳に強く当て、何事かを確認しはじめた。その表情が真剣なものに変わったのを見て、艦長は何か大事が起こったのではと推測した。そしてその推測は大当たりだった。

「どうした?」

「先行しているランツ級シャトル3番から緊急通信、敵艦隊発見とのことです!」

敵艦隊発見という報告が入った瞬間、それまでゆとりがあった空気が一変し艦橋内に緊張が走った。

「敵艦隊だと? 内容は!」

「報告ではマゼラン級戦艦2、サラミス級巡洋艦8、コロンブス級輸送艦8を確認したそうです。敵艦隊は停泊中のようで動く気配は今のところないようですが、敵艦隊付近に敵機の姿が多数あり、3番機はこれより前衛艦隊と合流すべく退避するそうです」

「・・・中々の大艦隊だな。艦載機の姿があるということは、このコロンブス級は輸送艦ではなく空母扱いのアンティータム級か?」

「その可能性が高いです。おそらく情報が漏れていたのでしょう」

「うぅむ、巡洋艦2隻と護衛艦3隻で戦艦と空母を含む大艦隊とやりあいたくはないな。しかもテューリンゲンは小破してるんだ・・・・・・っと、まずは報告だ。本隊へ急ぎ連絡しろ、前方に敵艦隊が・・・」

その言葉の続きは新たに入ってきた緊急通信によってかき消された。そしてその内容も深刻なものだった。

「・・・! 右翼にいるレダ級護衛艦グライフより緊急通信、『本艦前方にて爆発と思われる閃光を確認。なおその方向を哨戒していたランツ級シャトル1番機との通信が取れず、撃墜された可能性があると認む。本艦はこれよりリールの発艦準備を開始する』以上です」

「何? ・・・1番機は確かデブリ付近を通るルートを哨戒していたはずだな。となると確実にデブリに敵がいるか」

「待ち伏せですか・・・まんまと罠に嵌ったということでしょうか?」

「だろうな・・・輸送艦隊旗艦のアドラーと後衛艦隊のコンスコン少将にこの事を至急報告だ。それとデブリ帯への偵察としてリール1個小隊を向かわせるようグライフへ伝えろ。艦隊各艦は第1種戦闘配置、搭載部隊を緊急発進できるよう準備をさせろ! ・・・あ、可能なら艦隊の針路変更をするように本隊とコンスコン少将に具申しろ。それとミノフスキー粒子散布準備をしろ」

「了解、直ちに実行します!」

そして数分後、グライフから発進したリール航宙機3機がランツ級が撃墜されたと思われる宙域に向けて発進し、各艦の艦載機もスクランブル発進していく。その頃には既に本隊に連絡が伝わっており、艦隊は選択を迫られた。





本隊旗艦 チベ級重巡洋艦アドラー

敵艦隊発見の報に艦隊の指揮を取るデラミン准将は悩んでいた。彼の任務は核弾頭をグラナダまで無事に運ぶことで、敵との戦闘は避けたいというのが本音だったからだ。だが、状況は戦闘せざるを得ない状態になりつつあった。

「うぅむ・・・本当に間違いはないのか?」

「間違いありません、画質は粗いですが静止画像が添付されており、それには間違いなく連邦艦隊がうつされています」

「待ち伏せか・・・敵空母はどうしてる?」

「今のところ更なる艦載機の発進は確認されていません。ただ、この艦隊以外にも消息を絶った1番機の事も警戒すべき案件かと愚考しますが」

「そちらはVFの偵察結果次第か・・・・・・チベのコンスコン少将に連絡してくれ。本隊の艦載機は発見された敵艦隊を攻撃する。コンスコン艦隊艦載機は艦隊の直援に当たれとな」

悩んだ末に彼が出した結論は先制攻撃だった。たしかに守るよりも攻める方が自由が利くので間違ってはいなかった。万が一に備え艦隊の護衛を残すのも妥当といっていいだろう。

「VF艦隊はどうなさいますか?」

「偵察結果を踏まえ考えるが、敵艦隊が潜伏しているようなら攻撃をさせる。ただし我々と一緒にいる核輸送艦のスケネクタディの機はこちらの直援をさせろ」

「・・・前衛にいるVF艦隊機動戦力はリックドム6機と航宙機部隊9機と、戦力的には小規模です。ここはコンスコン艦隊の機をまわすか、スケネクタディの艦載機と一緒に行動させたほうがよいのでは?」

副官の問いにデラミン准将は頭を振る。なぜなら彼には違う命令も受けていたからだ。

「キシリア様からなるべくVFを消耗させるように言われているのだ、今回の件はちょうどいい機会ではないか。それにスケネクタディの連中はこちら側だから温存するべきだ」

キシリア様からの命令、その一言に副官は納得した。ここ数ヶ月、ギレン及びキシリア派の将官はVF、そして元締めのツィマッド社に圧力や嫌がらせを行っていたからだ。なぜならVFという企業独自の私兵が増強され、しかもガルマの地球方面軍やドズルの宇宙攻撃軍と密接な関係を持ち、その関係でデギン公王とも関係を持っているのだから、これで面白いわけがない。その結果がこのような嫌がらせであった。そしてそれを知る副官も強力になりすぎているVFを警戒しており、ある程度VFの戦力を削れる機会だと考え直した。

「了解しました。ではVFにはそのように命じます。後、本艦隊のパプワ級に搭載している旧ザクは両手にガトリングシールド(ヒートソード未装備)を持たせた迎撃仕様なので、艦隊の護衛をさせるべきかと」

「ならばそうしろ、まぁ最新鋭のザク改が2個小隊もいるのだから大丈夫だろうがな。だが念の為に集結中の増援艦隊にこちらとの合流を急がせろ、戦力はあればあるほどいいからな」

「了解しました」

そしてこの会話から数分後、本隊からヅダB(宇宙用)型6機、ザク改6機、ザクF2型9機という、合計21機のモビルスーツが敵艦隊へ向けて出撃した。
だがこの時点でおかしいと気がつくべきだった。この期に及んで空母から艦載機が発進しない、そして艦載機が停止しているという事に・・・





デブリ内 連邦遊撃部隊旗艦 マゼラン級戦艦改めマゼランT型戦艦 マゼラン

ジオン艦隊の本隊からモビルスーツ隊の発進が開始された頃、偵察仕様のランツ級シャトル1番機が消息を絶ったデブリ帯の中に、ジオン艦隊の様子を伺う4つの艦影があった。

「艦長、前方の宙域に展開されている、我が軍の兵器のダミーに向かって敵艦隊よりモビルスーツの発進を確認しました」

「よし、全艦戦闘態勢に入れ。XBF-1の発進準備は?」

「パイロットは搭乗済みです、いつでもいけます」

そう、連邦の遊撃部隊の4隻だった。その旗艦であるマゼランの艦橋で艦長と副官はチェックを進めていた。そして全てのチェックを終えた副官がふと思ったことを口にした。

「しかしあの艦と機体のダミーはよくできてます、この距離からでは本物かどうか見分けがつきません。工作隊はいい仕事してますね、どこの隊でしょうか?」

「ああ、上層部の言っていた欺瞞工作隊だな・・・その所属は一切不明で、本当に連邦軍なのか疑わしいがな」

何気なく発した質問へ返ってきた答えに、副官は驚きをあらわにする。

「は? 我軍の工作隊でなければ一体どこの部隊ですか? 我軍以外にあのような工作を行うとこなんてありましたか?」

「・・・・・・これはあくまで噂話だ。あのダミーは鹵獲したジオンの輸送船に搭載されていたらしい。が、その輸送艦を鹵獲した部隊やいつ鹵獲したかは不明で、鹵獲した輸送船をルナツーで目撃した人間はおらず、更に言えばジオンの輸送船が係留された記録・・・いや、港に入ったという記録すら存在しない。これは港湾管制官の知り合いから聞いたから信憑性は高い。どうだ、面白い話だろう?」

「そ、それは・・・ちょっと待ってください。まさか艦長は上層部がジオンと・・・」

「滅多なことは言うな、他言無用だ。あくまで噂話だからな。 ・・・まぁ向こうに協力者がいるかもしれんといった噂だが、所詮噂話だからな」

「・・・私は何も聞いていません。艦長、今何かありましたか?」

「いや、何もないな・・・気にするな」

「了解、気にせず職務を遂行します」

その数十秒後、デブリ内部で警戒に当たっていた連邦軍期待の量産型モビルスーツ、RGM-79 ジムの部隊より緊急報告が飛び込んできた。

「警戒中のジム隊より敵機接近との報告。機種は航宙機、リールタイプです。数は3機!」

「慌てるな、敵偵察機を撃墜した時から予想できた事だ。予定とは違うが、プランCに移行する。XBF-1を全て敵前衛に突撃させろ。前衛突破後は本隊へ突入、敵後衛艦隊の注意を引き付けろ! 本艦隊は敵前衛艦隊と砲撃戦に入る。待機中のモビルスーツ隊も順次発進し敵モビルスーツ隊を迎撃、本艦隊に攻撃をさせるな。敵は巡洋艦2隻と駆逐艦3隻、艦隊の砲戦力ならこちらが有利だ!」

「了解! それと後方のアンティータム級空母バカラより入電、『我艦載機の発艦を開始す。24機発艦させ、残り12機は時間を空けて投入し、本艦はその後デブリベルトの奥に後退す』とのことです」

「よし、わかった。作戦計画通りに進めるぞ!」

そして攻撃命令が伝わった後、戦艦2隻巡洋艦2隻からなる連邦軍遊撃部隊はVF艦隊へと突撃を開始した。そしてそれを察知したVF側も迎撃機を出撃させ、戦闘開始の鐘は鳴らされた。







後衛艦隊旗艦 チベ級重巡洋艦チベ 艦橋

「報告、デブリ帯より大型ミサイル5基出げn・・・いえ、敵艦隊も出現! 戦艦2隻に巡洋艦2隻、前衛のVF艦隊に向かっております。どちらもマゼラン、サラミスを改造した艦の模様で。更に連邦のモビルスーツが展開しています。間違いありません、頭と手足があります。それにシルエットも我が方のモビルスーツとは違います! 数は・・・最低でも10機以上、更にその後方から航宙機多数出現!」

「航宙機はともかく艦船の改良型に連邦製のモビルスーツか・・・VF艦隊の様子は?」

「ジークフリート級及びレダ級、有効射程外ですが砲撃を開始。ですがやはり砲戦力が足りません。事前に出撃したリール部隊は敵艦を攻撃しようとしていますが、敵護衛機によって迎撃されています。それとVFはリックドム隊を持っていますが、数の差で苦戦する事は必至かと・・・」

「援護に向かわせたリックドム隊はどうした?」

「現在本隊を抜けて前衛に向かっています。後数分で到着の見込みです」

「しかしよろしかったのですか? 本隊から送られてきた命令は・・・」

「馬鹿もん、あいつが言ってきたのは『艦隊の直援に当たって欲しい』だぞ? つまり前衛も直援の対象だ。それくらいわからんか」

「は、申し訳ございません。ですが1個小隊で大丈夫ですかね?」

「む・・・・・・本隊が動くのならば1個小隊で大丈夫だと思ったが、動かなかったら問題だな。念の為もう少し送るべきか? だが残りのザク9機の内6機が本隊に取られている以上、本艦隊の直援についている3機を送るのは万一の際に不安だな・・・パプワ級のリール6機を派遣すべきか?」

「しかし残念です。先月就役した新型巡洋戦艦がいればよかったのですが・・・」

「ああ、ティベ級をベースに設計したエルベ級か。だがまだまだ慣熟訓練の真っ最中だったな?」

「はい、ですが3連装砲塔4基というあの艦の火力は同航戦ならマゼラン級戦艦2隻分に匹敵します。まぁ建造数が12隻で打ち止めとなったのが我が国の国力を示すようで悲しいですが」

「むしろ12隻もよく建造できたと思うがな。その12隻も派閥争いのせいで分散配置となった。それでは各個撃破されやすくなるというのに・・・まぁないものを嘆いてもしかたあるまい。それよりも敵の動きはどうした?」

「VF艦隊は135㎜レールガンでの対空射撃を開始しました。攻撃隊は・・・時間的にそろそろ接敵したはずですが」

「指揮系統がバラバラだと報告が来るのが遅くなってたまらんな。そのあたりの改善を具申せねばな・・・」

そうコンスコンが思案していると、とんでもない報告が二つ同時に入ってきた。すなわち、敵艦隊への攻撃失敗と新たな敵艦隊の発見である。

「敵艦隊攻撃に向かった本隊の攻撃部隊からの報告が回ってきました! 敵艦隊はバルーンで作られた偽装艦隊で、機雷を内蔵しているタイプも確認。機雷の爆発に巻き込まれ2機損傷するも敵バルーン全てを撃破、これより撤退する。以上です」

「ダミーだと? 一体どういうことだ・・・」

「ん? これは・・・・・・!? ほ、報告! 艦隊後方から急速接近する艦影を多数捕捉しました! 数は13、形状照合した結果、マゼラン級戦艦を3隻含みます!」

「なんだって! どこに潜んでいたんだ!?」

「副長、落ち着かんか! ・・・後方の敵艦隊がこちらを射程に捕らえるまでの時間はどの程度だ?」

「は、彼我の速度差を計算しますと・・・敵戦艦の有効射程距離に入るまで、後5分前後かと」

「空母らしき存在はいるか?」

「・・・・・・コロンブス級と思わしき艦影が1つありますが、敵艦隊の後方なのではっきりとはわかりません。それと敵艦隊ですがおそらく・・・マゼラン級3、サラミス級7、コーラル級2、コロンブス級1のようです」

「むぅ、編成から考えて防空部隊を載せた空母と考えたほうがいいだろうな。直援が必要だが、射程まで5分・・・本隊の攻撃隊はそれまでに戻ってこれるが、消費した弾薬と推進剤を補給する時間は無いか」

「どうしますか少将? こちらは重巡1隻に軽巡洋艦3隻、流石にこの戦力差では・・・」

「・・・通信士、デラミンに伝えろ。攻撃に向かわせた本隊のモビルスーツ隊の半数、弾薬と推進剤に余裕のある機をVF艦隊を攻撃している敵にぶつけ、残りは補給作業を開始。補給が終わり次第こちらのモビルスーツ隊と連携して後方の敵部隊を攻撃する。モビルスーツ隊の攻撃に合わせて後衛艦隊は砲撃戦に移行し敵を撃破する。それが無理なら護衛している本艦隊の部隊を前方の敵艦隊への攻撃にまわし、その隙に本隊のモビルスーツ隊は補給を済ませろとな。それと艦隊各艦へ砲撃戦準備と伝えろ!」

「了解しました」

そして命令が伝達された頃、VF艦隊の迎撃を突破して前衛艦隊に大型ミサイルが突入した。が・・・

「敵大型ミサイル、1機撃墜成功するも残りはVF艦隊に突入・・・これは・・・・・・訂正! 敵大型ミサイルはミサイルではありません。以前から確認されていた対艦戦用の一撃離脱型機動兵器です。レダ級護衛艦ファルシがレールガンと対艦ミサイルの攻撃を受け大破、ジークフリート級アリアドネ、レールガンが命中し小破。敵機、VF艦隊を抜け本隊へ攻撃を仕掛ける模様!」

「あの通称『通り魔』か!」

「そうです。あ、ファルシに退艦命令が発令された模様!」

そう、大型ミサイルと思われていたものは連邦のXBF-1だった。外見が大型ミサイルに似ているため、よく誤認される。それゆえに手痛い損害を受ける事が多々あったのだ。事実、レダ級小型護衛艦のファルシは2機のXBF-1の攻撃を受けて大破し、艦を放棄する事となった。
だが・・・

「慌てるな! 散弾を装填したジャイアントバズーカ装備機とショットガンを持ったザクで迎撃しろ。あれは速度は速いがそれゆえに運動性が悪く狙いをつけやすいはずだ、くれぐれも速度に惑わされるなよ」

実質剛健なドズルの元で鍛えられたコンスコン艦隊の動きは速かった。そのコンスコンの命令がモビルスーツ隊に伝わる前に現場のパイロット達は行動しており、命令が伝達された頃にはすでに1機を撃墜し、1機に損傷を負わせていたところだった。連邦軍砲戦部隊の艦長が危惧したように、このような高速の敵を想定してジオンのパイロットはシミュレーターで訓練していたのだ。特に優秀な成績を出したものには色々と特典がでるので、パイロット達はゲーム感覚で訓練に励んでいた。
・・・・・・その仮想敵だが、訓練難易度に応じてターゲットが変更され、更に攻撃もしてくるので他人との連携がないとクリアが難しい難易度となっていた。例を言うならば難易度ベリーイージーだとセイバーフィッシュ3機とトリアーエズ⑨機、イージーではセイバーフィッシュ3機とザク3機、ノーマルだとザク3機とヅダ3機、ハードだとザクレロと護衛のヅダ3機となっていた。が、ここまではまだよかった。コンピューター側の行動パターンがわかりやすく設定されているから、やりようによっては1機でもクリアできるからだ。が、次のベリーハードでは一気に難易度が高くなり、出てくる仮想敵はビグロとザクレロ、その護衛のヅダイェーガー3機という1機では無理ゲーレベルとなってくる。そして最後の難易度ルナティックの場合、クリアさせる気が全く無いと感じさせるレベルまで上昇する。なぜなら、出てくるターゲットは赤い彗星仕様のヅダイェーガーの6機編隊という、もはや無理ゲーではなく無理のレベルなのだ。これを1機でクリアできるのはニュータイプくらいだろう。なのでこの難易度を選んだ場合、クリア目的が敵機の撃墜ではなく自分が何十秒生き残れるかという目的に変わってしまい、周りでは賭けが行われるほどだ。
まぁこの場でそんな事はどうでもいい事だろう。話を戻すが、肝心なのはXBF-1の速さに対する対策が採られている事だった。速さだけが取り柄のXBF-1の命運は容易に想像できるもので、最後のXBF-1が撃墜されたのはこの2分後の事だった。
そしてその直後、本隊から返信が帰ってきたが、その内容はコンスコンの期待したものではなかった。

「デラミン准将から返信きました。ですがこれは・・・・・・」

「どうした、報告ははっきり言え」

「はっ、読みます。本隊は核の輸送を最優先とし、ダミーのいた宙域を突破して敵の追撃を振り切る。貴艦隊は後方の敵を食い止め本隊脱出の時間を稼ぐように。なお本艦隊のモビルスーツ隊はこれより補給に入るので、補給が完了するまで貴艦隊所属のモビルスーツ隊は他部隊の被害を省みずに本隊の直援を続行せよ。以上です」

「は? ・・・・・・・・・・・・み、みっともないと思わんのかぁああ!!」

そのあんまりな返信にコンスコンは唖然とし、次に激怒した。
当然だ、幾ら艦隊の指揮権を握っているといっても、自分の艦隊の事だけを考え、階級が上であるコンスコンの艦隊に死ねと言っている様なものだからだ。
またそれ以外にも、VFの事にまったく触れていない事も問題だった。これは壊滅寸前のVF艦隊を見殺しにすると暗に言っているようなもので、コンスコンからしてみれば職業軍人が民間人(一応VFは元々ツィマッド社の実験部隊なので民間の私兵部隊といってもいい)を見捨てろと言ってるに等しく、コンスコンが激怒するには十分な理由だった。

とはいえ、これはデラミン艦隊から見れば当然の反応だった。キシリア派はVFを快く思っておらず、そのVFと親しいドズル派を疎ましく思っていた。
そして彼らの現在の任務は核を一刻も早く無事にグラナダに届ける事。つまり、コンスコン艦隊やVF艦隊が連邦と潰し合いその隙にグラナダに無事到着できればいいのだ。うまくいけば勝手に連邦もVFもドズル派も戦力を減らしてくれて、キシリア派の1人勝ちになるからだ。

もっともそれはコンスコンも容易に想像が付いた。が、幾らなんでもそんな露骨な事はしないだろうという思いがコンスコンの中にはあった。VF艦隊を見捨てコンスコン艦隊を盾にしたとなれば、確実にコンスコンの上司であるドズルと、VFの運営を行っているツィマッド社とその後ろ盾のガルマとの関係が悪化するのは目に見えていたからだ。
が、デラミンはその選択を取った。核さえ手に入れば多少のデメリットは目をつぶってもいいと判断したのだろう。
そして本隊が進路を変更しようとし、それにコンスコンが激怒している間にも戦況は変わっていく。

「VF艦隊の被害甚大! ジークフリート級テューリンゲン大破、航行不能! 総員退艦命令が出ました。同級アリアドネは中破の模様です。レダ級ファルシ沈没、グライフ及びラトル中破! リックドムとリールも多数撃墜された模様です」

「ランツ級3番、敵モビルスーツに撃墜されました!」

「デラミンの大馬鹿者め。最初っから核輸送船のモビルスーツ隊とVF艦隊をセットにしておけばいいのに、本隊の護衛にVFの数少ないモビルスーツ隊をとってしまうからこの有様だ。かまわん、本隊を護衛しているザクはVF艦隊を支援しろ、本隊の護衛はリール隊を送れ! ここでVF艦隊が文字通り全滅すれば我々は前後から挟撃を受ける事になるぞ! 後デラミンに伝えろ。艦隊が一纏まりで行動せねば伏兵に食われかねん、VF艦隊を支援し敵艦隊撃破後にその宙域を突破するほうがいいと伝えろ」

「了解しました!」

「ふん・・・・・・まぁ既に艦隊針路を変更しているから聞かんだろうがな(ボソ」

そしてその予想通り本隊からの返信はなく、デラミンの率いる本隊は戦場を離脱し始めていた。

「だめです。通信は届いているはずなのに応答がありません。・・・いえ、命令に従って行動せよとの返信が・・・・・・」

「・・・・・・無視しろ。VF艦隊の支援に行かせたリックドム隊はどうした?」

「現在敵機と交戦中。ですが焼け石に水です。敵艦を狙いたいのに敵機に邪魔されているといった感じです。流石に同時に相手にするのは・・・! レダ級護衛艦、1隻爆沈しました!」

「むぅ・・・艦隊各艦へ通達。本艦隊は最大戦速でVF艦隊と交戦している敵艦隊と接触、これを撃滅後パプワ級を残して全艦反転し後方の敵艦隊と交戦する。本艦隊に残っているモビルスーツ隊は直援任務を継続、敵艦載機の襲撃に備えろ! 足の遅いパプワ級はVF艦隊の生存者の救助に当てろ。いいか、1発たりともパプワ級に敵弾を与えるなよ!」

その命令が発令されしばらく後、コンスコンの元に新たな報告が飛び込んできた。それは退艦命令が発せられていたテューリンゲンに敵弾が新たに命中し、臨界点を突破したという報告だった。

「テューリンゲン臨界点突破、爆沈します!」

そしてその直後、テューリンゲンが一際大きな火球となったのを観測した。そしてその直後、チベ級のセンサーはVF艦隊に迫る新たな艦影を捕捉した。

「これは・・・VF艦隊の側面から新たな艦影を複数確認!」

「敵の増援か!?」

「いえ、これは・・・・・・」







VF艦隊 ジークフリート級アリアドネ

「ラトルに命中弾・・・! ば、爆沈。ラトル爆沈しました!」

また1隻小型護衛艦が沈没し、前衛を務めるVF艦隊は既に壊滅状態に陥っていた。前衛艦隊旗艦であるアリアドネも既にその身に多くの傷を負っており、沈没に至る致命的な損害は奇跡的に無かったが、戦闘力はその過半を損失していた。敵のマシンガンや機関砲等で対空銃座は壊滅し、ミサイルも弾切れ状態。今まともに使えるのは比較的装甲が厚かったおかげで機銃弾の貫通を許さなかった主砲2基だけであった。

「艦長、テューリンゲンが沈みました。その際、脱出艇の何隻かが爆発に巻き込まれ沈没したようです」

「わかった・・・・・・くそ、辛うじて生き残っているのは本艦とグライフだけか・・・」

「本艦ももう限界です。グライフもいつ沈没してもおかしくありません」

暗雲が立ち込める中、朗報が飛び込んでくる。それも士気を挙げるには十分なものが。

「! 対艦装備のリール隊、敵巡洋艦1隻撃沈に成功! ジャックポット、轟沈です!」

そう、対艦装備で出撃したリールの生き残りがサラミスK型1隻の格納庫に直撃弾を出し、そのサラミスは艦中央部から真っ二つになって爆沈した。これによってそのサラミスの艦載機だったモビルスーツは動きが鈍り、その隙を逃さず生き残っていたVF艦隊所属のリックドムによって1機のジムが撃墜された。

「敵機1機撃墜、やりました!」

「ん、よくやってくれた・・・・・・現時点での味方機の残存戦力は? どの程度生き残っている?」

「確認します・・・・・・リックドム2機、リールが3機です。それ以外に増援として来てくれたコンスコン艦隊のリックドム1個小隊がいます。こちらは全機生き残ってます」

だが、相手はマゼランK型に中破の損害を与えているとはいえ未だ砲戦力では上回っており、更には相手のモビルスーツ隊も存在しているのだ。このままではVF艦隊の全滅は時間の問題といえた。

「・・・援軍はまだか? 増援艦隊は何をしているんだ、戦闘光を確認してからこちらに向かったとしてもそろそろ合流してもいい頃合なのに・・・」

そう艦長が呟いた瞬間、艦に一際大きな衝撃が走った。それは敵モビルスーツが放ったバズーカが1番砲塔に命中したもので、これによって1番砲塔は壊滅、更にその余波で2番砲塔の砲身が歪み射撃不可能となった。ここにアリアドネはその戦闘力を完全に損失し、そんなアリアドネに追い討ちをかける自体が発生した。

「1番砲塔被弾、また2番砲塔にも損害発生。主砲撃てません! 幸い主砲を撃った直後でしたので、エネルギーの逆流などは起こっておりませんが、本艦の戦闘力は完全にゼロです!」

「か、艦長! 敵機が目の前に!」

その言葉に艦橋にいた者達は一斉に前方を見ると、そこにはバズーカを艦橋に向けようとするジムの姿があった。距離にして300mも離れていない、必中距離である。そしてそれを迎撃しようにも、すでにアリアドネには稼動可能な砲塔は一つもなかった。

「・・・これまでか。皆、すまない」

艦長のその言葉に皆が死ぬ覚悟を決めた。が、その覚悟は無駄足に終わった。横から飛来してきた弾丸によってそのジムは撃ち抜かれ撃破されたからだ。その光景に艦橋の一同が唖然となったが、直後に入ってきた通信によって何が起こったかを理解し、歓声を上げた。

「我、ソロモン所属ヘッジホッグ級防空艦ヴォルケイノ。貴艦を狙っていた敵機の撃墜に成功。これより本艦隊は貴艦隊を支援する」

待ちに待った援軍の到着である。





全滅寸前の前衛VF艦隊に合流したのは第1合流地点に集結した増援艦隊だった。ヘッジホッグ級防空巡洋艦ヴォルケイノが先陣を切り周囲に弾幕を張っていく。それに向かっていくジム1機とトリアーエズ4機だったが・・・相手が悪かった。
ヘッジホッグ級防空艦、それは対モビルスーツ戦闘を重視した艦隊防空を担う艦だ。これまで航宙機や鹵獲機ばかりを相手にしていたヘッジホッグ級だったが、この時初めてその存在意義を発揮した。

「敵機、本艦右舷から複数接近。その方角に味方の機影はありません」

「ふっ、自ら地獄の釜の中に飛び込むとは・・・よろしい、介錯してやろう。ショットキャノン含む全対空火器、撃ち方始め!」

「了解、全砲門撃ち方始め!」

その命令の次の瞬間、ヴォルケイノの右舷が火を噴いた。別に被弾したわけではなく、砲撃を開始しただけだ。が、それは文字通り火を噴いたと形容できる光景だった。ヘッジホッグ級に搭載されている兵装の中でも特徴的な近距離用ショットキャノンはショットガンを何本もバルカン砲のように束ねて連射する凶悪な兵装だ。これはモビルスーツ用の197mmショットガンをベースにしており、破壊力も極めて高い。とはいえ、流石にこれらの弾頭は量産性とコストの都合でルナチタニウムコーティングされていない通常弾だったが、それでもザクやジムレベルなら容易く撃破できる威力を持っている。そして一つのショットキャノン砲座に5銃身の197mmショットガンが4つ設置されており、1つ1つの速射性能は高くないが、数を用意する事により一度火を噴けば絶え間のない弾幕を展開する事が可能となっている。それが速射され鉄の雨を作り上げ、それに加えて135mmレールガンや75mmガトリング砲、ビームガトリング砲に小型有線ミサイル等が火を噴き、襲いかかろうとした連邦軍部隊を襲った。
慌てて盾を構えるジムだったが、速射される弾丸の雨・・・いや、豪雨の前にバランスを崩し被弾し、瞬く間に機体がボロボロとなり爆散していく。もっと悲惨なのはトリアーエズだ。ジムのように盾もないし、そもそもたいした装甲も無いので命中した瞬間にデブリの仲間となっていった。


明らかにオーバーキルです。本当にありがとうございました。


そんな一言が思い浮かぶ光景で、それを見た他の連邦軍機、特にトリアーエズはヴォルケイノから距離をとった。当たり前だ。わざわざ自分から死地に飛び込む物好きはいない。そしてその結果、VF前衛艦隊の生き残りとヴォルケイノの間を塞ぐものは一時的にとはいえなくなった。

「艦長、チベ級ロマーニャより通達きました。『ロマーニャ以下全艦が砲撃にて正面の敵艦を排除する、貴艦はそのまま前進し任務を果たせ。VF艦隊残存戦力にこれ以上傷一つつけさせるな』以上です。またグラナダ艦隊は針路変更、本隊に向かう模様です」

「よし、ならば本艦はこのまま直進する。全ての火器は対空防御に専念しろ! 特に135mmはVF艦隊周辺の敵機を狙撃してやれ。防空艦の意地を見せろ、弾幕を張って張って張りまくれ!」

その言葉の直後、チベ級の3連装メガ粒子砲、ムサイ級2隻の連装メガ粒子砲、そしてそれに続航している3隻のレダ級の連装メガ粒子砲が正面の敵に対して一斉に火を噴き、合計で15本のメガ粒子砲が敵艦を襲った。







連邦遊撃部隊旗艦 マゼラン

「!? マゼランK型、ダンケルク被弾! 艦首が完全に吹き飛びました! 右舷格納庫も大破、火災発生の模様!」

「敵対艦ミサイル多数接近、迎撃急げ!」

「ダンケルクに航行に支障はあるかどうか確認しろ!」

増援部隊から放たれた15本の閃光の内2本がマゼランK型ダンケルクに命中し、更に遅れて飛来した対艦ミサイルが飛来した。幸い対艦ミサイルはマゼランの艦首付近で撃破された以外は外れたが、連邦軍遊撃部隊に動揺をもたらした。予定ではVF前衛艦隊を蹴散らして本体へ攻撃を仕掛けているはずだったのだが、予想外に粘られた上に逆に1隻撃沈され、更に増援が来た為に彼らは一転して全滅の危機にあった。

「くそ、至近弾か・・・損害を確認しろ!」

「敵艦隊側面から急速接近、敵前衛艦隊の後方からも接近中です! このままでは・・・」

「撤退支援部隊は? 予定ではもう来てる筈だぞ!」

「それが・・・・・・先ほど敵部隊と遭遇し交戦に入ったとの事です。それ以降偽装輸送艦は応答しません」

「新手か?」

「おそらくは敵艦隊と合流する予定だった増援部隊かと・・・」

そしてこの状況下で彼らの撤退支援をするはずだった偽装部隊が壊滅。この推測は彼らにとって最悪に近いものだった。それは本来予定されていた撤退路に敵がいるという事を物語っているのだから。

「ダンケルク、航行だけならば支障なしとのことです」

「報告します。先程の至近弾で艦首に歪みが発生。無理な加速をすると、最悪の場合はそこから折れる可能性があるとの報告です」

「むぅ、至近弾で歪みとは・・・ここまでだな。まぁ敵前衛艦隊を壊滅したんだ、任務は成功と考えていいだろう・・・副長、バカラはどうした?」

「デブリの中から気がつかれないように退避中ですが、逃げ切れるかどうかは・・・それと残りの艦載機12機をこちらの支援に向かわせるとの事です」

「ありがたいな。母艦が丸裸になるのに・・・無事に逃げ切る事を祈るか。各艦、速やかに撤退する。撤退支援部隊は来なくなったので最大戦速で逃げるぞ、主砲は側面の敵増援艦隊に向け砲撃せよ」

「機関部より報告、最大戦速を維持したままでの過度の砲撃はジェネレーター出力が不安定になり危険なので、速度を落とすか砲撃のペースを落としてほしいとのことです」

「ダメコン班より意見具申、最大戦速だとミサイルが1発でも命中すれば艦首がもげる危険があります。現在応急処置中ですが、艦首付近の人員は後部へ移動させることを提案します」

「何? ・・・無理が祟ったか。速度は最大、砲撃は最悪牽制程度でもかまわん。艦首付近の人員は後部に移動させろ」

「ですが艦長、このままでは追撃を受ける可能性が・・・そうなると相手の火力投射力がこちらのそれを上回ります。船足も低下しているので、逃げ切れずに撃沈される可能性が・・・」

副長が言うように、ムサイ級は後方への射線を取れない代わりに前方と側面に対し全砲門を使う事ができる。通常のマゼランはともかく、マゼランK型とサラミスK型はその設計上、後方に向けれる砲門がなかった。しかもモビルスーツ運用能力を持たせた結果、運動性や機動性も通常型よりも低下しているのだ。これでは副長の懸念通り、チベやムサイから逃げ切る事は難しいといえた。

「そうだな、普通に逃げればそうだろう。普通ならな」

「? それはどういう・・・」

「艦隊全艦は敵増援艦隊を正面突破し離脱する。敵が会頭するまえに逃げ切れればこちらの勝ちだ」

「む、無茶な!? それに敵モビルスーツからの攻撃を受ければ・・・」

「だが撤退支援部隊が来ない以上これしか手は無い。ジムは艦隊の直援を行い、トリアーエズは敵艦隊をかく乱させろ」

「りょ、了解」 

「それに、そろそろ時間だ。うまくいけば敵の追撃は無いぞ」

「あ・・・もうそんな時間ですか。なら我々の任務は成功ですね」

「ああ、後は生き残るだけだ・・・・・・あいつを待たせているんだ、こんなとこで死んでたまるか。絶対に生き残って見せるぞ!」

そしてジオン増援艦隊に向かって正面突破を試みた連邦軍。そしてそれを察知し連邦艦隊殲滅よりもVF艦隊の救援を優先し、あえて連邦艦隊の突破を許したジオン増援艦隊。この結果連邦遊撃艦隊は脱出に成功するものの、艦砲射撃と増援艦隊所属のモビルスーツの攻撃によってマゼランが艦首がもげて大破(後に自沈処分)、マゼランK型ダンケルク爆沈、サラミスK型1隻大破、RGM-79 ジム12機中10機撃墜、トリアーエズ36機全機撃墜という壊滅的な損害を出す事となる。一方ジオン増援艦隊も運悪くマゼランの真正面にいたムサイが1隻撃沈されたものの、VF艦隊で辛うじて生き残っていたジークフリート級アリアドネとレダ級グライフの救出に成功した。

そして、この直後状況は更に大きく変わることとなる。キシリア派のジオン本隊に対して連邦軍機動部隊の艦載機が襲撃を開始したのだから・・・







「敵機急速接近、対空砲撃ち方始め」

「直援は何をしている、さっさと迎撃しろ!」

「敵機にFF-X7 コア・ファイターによく似た新型機がいる模様、データにありません」

「敵機ミサイル発射! 回避、回避!!」

本隊旗艦であるチベ級重巡洋艦アドラーの艦橋は喧騒に包まれていた。それも当然だ、敵航空戦力が大挙して襲い掛かってきたのだから慌てるなというほうが無理だろう。
襲い掛かってきたのは連邦軍機動部隊から発進したセイバーフィッシュ60機と新型機12機の編隊。ファイタースイープ(護衛機排除)を目的とした戦闘機部隊だ。特に新型機は連邦期待の航宙機だった。

FF-S5 レイヴン・ソード宇宙戦闘機。

コアファイターに匹敵もしくは上回る総合性能を有するように開発され、30㎜2連バルカン砲4門と各種ミサイルを装備するコンパクトな戦闘機だ。ここにいるのは初期ロットの量産品な為に数は12機と少ないが、その戦闘力は侮れない。
それに立ち向かうのはデラミン艦隊所属のモビルスーツ隊24機・・・いや、既に2機損失しているから22機で、更にその内の何機かは損傷を負っている。しかもまだ補給中の機体が多く、実際に迎撃を行っているのはヅダが4機にザク改2機、ザクF2型4機と両手にガトリングシールド(ヒートソード未装備)を持たせた迎撃仕様の旧ザク3機の計11機であった。これ以外にコンスコン艦隊から派遣されていたリール部隊がいた。
数の上では不利だったが、敵戦力がこれだけならばなんとかなったかもしれない。が、核兵器輸送阻止を行う連邦軍は本気であった。第一波の戦闘機部隊はあくまで護衛機の排除が主任務、第二波からが艦隊攻撃の本命だった。

連邦軍機動部隊所属のアンティータム級(コロンブス級) 補助空母4隻から放たれた機動戦力、それはセイバーフィッシュやパブリク突撃艇、少数ながら投入されたコアファイターにコアブースターをも含む航宙機部隊、アンティータム級以外にも護衛のサラミス級巡洋艦の甲板に露天係留されて運ばれてきたRB-79K 先行量産型ボールやRB-79 ボールといったモビルアーマー(モビルポッド)部隊、更に少数ながらザクⅡCにザクⅠといった鹵獲機や、ザニーの改良型等といったモビルスーツ部隊まで投入していたのだ。その機動兵器(航宙機とモビルスーツ)の総数はおよそ100機以上、連邦の本気具合が良くわかるだろう。特に改良型ザニーは外見こそ大きくは変わっていないが、マニピュレーターを3本指から5本指に換装し、更にこれまでの戦訓を元に機体各部を改修した結果、ザクF型に匹敵するレベルまで性能を向上させる事に成功した機体となっていた。そして肝心の武装だが、頭部60mmバルカン砲2門以外に90mmマシンガン(ブルパップマシンガン)、380mmハイパーバズーカ、ヒートホーク等を用いており、その戦闘力は侮れない。

それらが60機のセイバーフィッシュと12機のレイヴン・ソードと戦闘中だったデラミン艦隊に第二波第三波と波状攻撃を仕掛けてきたのだからたまらない。
しかもこの直後にグラナダからの増援艦隊から救援に駆け付け、リックドムとザクF2型の混成部隊が敵機迎撃に参加した事で戦場は乱戦の坩堝と化した。本隊旗艦のアドラーには乗組員からの報告と混線した通信から聞こえる多くの声のせいで一気に騒々しくなっていた。

『敵機2機撃墜・・・畜生、敵の数が多い。これじゃ弾が足りなくなるぞ!』

『こちらアルトマルク。敵ミサイル回避成功、されど別の敵機が急速接近! ミサイルを撃たれる前に迎撃を急いでくれ、対空砲だけでは手が足りん!』

「パプワ級補給艦ローリダ右舷被弾、火災発生!」

「チベ級重巡洋艦アルトマルク左舷に被弾、対空砲が何基か破壊された模様!」

『よっしゃ、敵モビルスーツ1機撃墜。続けて撃ちま・・・うぁ!?』

「ぐっ・・・右舷3番銃座被弾、応答ありません」

『くそ、このままじゃジリ貧だ! 援軍をよこしてくれ!』

「直援についていたコンスコン艦隊所属のリール部隊、シグナルロスト。全機撃墜されました」

『被弾した、緊急着艦の許可を要請する!』

「今すぐ出撃できる機体は他にないのか!? このままでは磨り潰されるぞ!」

密集隊形を取り弾幕を形成するデラミン艦隊。モビルスーツ隊と重巡洋艦2隻に軽巡洋艦5隻が放つ対空砲火はそれなりの密度があったが、それでも防空網の突破は時間の問題であった。が、それは新たな増援によって防がれる事となった。

「輸送艦スケネクタディから通信! 搭載モビルスーツ4機を出撃させたそうです。実験機だそうですが、戦闘力は極めて高いとのことです」

護衛対象の核輸送艦から出撃した4機のモビルスーツ。たった4機とも思えるが、この4機が出てこなければ艦隊は更に大打撃を受けていただろう。戦闘に加わった4機のモビルスーツの内、頭部が巨大で両肩が赤く染められたプロトケンプファーの75mmガトリング砲が火を噴き、バズーカを構えていた鹵獲ザクⅡCを撃ち抜く。そしてもう片手に持った197mmオートマチックショットガンを連射し、不用意に接近したコアファイターを2機まとめて撃墜する。

「こちらチベ級重巡洋艦アルトマルク、スケネクタディ所属の機体へ告ぐ。優先して脅威度の高い目標、大型ミサイルを抱えたパブリクとモビルスーツを落としてくr「ふははははは! 不甲斐ない友軍に助勢してやろうというのだ、感謝するのだな!!」な!? ふ、不甲斐ないだと!?」

「ふっ、航宙機ごときに遅れを取る時点で不甲斐ないのだ! まぁいい、連邦の雑兵どもよ! 我が裁きを受けるがいい!!」

「き、貴様ぁ、ふざけた口を・・・名を名乗れ! このことは上に報告させてもらうぞ!」

「ふぅははは! いいだろう、今の私は気分がいい。EXAM実験小隊隊長、ニムバス・シュターゼン少佐だ」

フラナガン機関EXAM開発チーム所属実験部隊。
それが増援に出た4機のモビルスーツの所属である。その所属機は全てがEXAM実験機であり、MS-09RX[EXAM] EXAM搭載型リックドム2機、MS-08TX[EXAM]Mk-2 EXAM搭載型イフリート改2型(宇宙改修型)、YMS-18TX[EXAM] 試作EXAM搭載型プロトケンプファーの4機だ。
そして先の台詞を言ったのは試作EXAM搭載型プロトケンプファーに搭乗するニムバス・シュターゼン少佐だった。本来なら上官を殺害した罪で降格処分となり大尉となるはずのニムバスだったが、この世界ではEXAMシステムの早期開発をツィマッド社が依頼した結果、上官殺害が起きる前に彼を崇拝する部下数名と共にフラナガン機関EXAM開発チームのテスト部隊に引き抜かれたのだ。

「アブラハム、貴様達は小蠅を潰せ。私はモビルスーツを潰す」

「了解です少佐。グロス少尉、レイバン少尉は航宙機を潰せ。俺はモビルポッドを殺る」

「「了解!」」

そう言って2機のEXAM搭載リックドムはセイバーフィッシュやパブリクといった航宙機へ向かい、アブラハム大尉のイフリート改2型はボールに向かって突進していった。これは各機の兵装から見ても妥当なものだった。
というのも、EXAM搭載型リックドムはMMP-80 90mmマシンガンと30mm3連装機関砲付きグフシールドを持っており、弾幕を張るのが得意な構成となっていた。一方、イフリート改2型の方は6連装脚部ミサイルポッド2基は変わっていなかったが、腕部にあった2連装グレネードランチャー2基は腰部へと移動しており、腕部には30mm機関砲が内蔵され射撃能力の強化が図られていた。
が、元々接近戦を主眼に考えられており、更に言えば機体に余裕がなかった為にどうしても射撃の火力は低く、弾も少ない。つまり弾切れになった後に白兵戦を仕掛けるなら、航宙機よりも運動性の低いモビルポッドを狙うのは理にかなっていた。

一方・・・

「ふん、数だけは多いな。だが、ジオンの騎士たる私の敵ではない!」

3機がそれぞれの獲物に向かっていった時、ニムバス少佐は更に3機のパブリクと6機のセイバーフィッシュを撃墜しており、撃ち尽くしたショットガンの予備弾装を取り出してリロード(弾込め)を行っていた。それを好機とみたセイバーフィッシュ2機とザニー1機が向かっていったが、ニムバス少佐は冷酷な笑みを浮かべた。

「愚かな・・・罪深き者たちよ、我が断罪を受けよ! EXAMシステム起動!」

そう言ってコンソールを操作した途端、サブモニターに赤い文字が表示されると共に無機質な、それでいて幼児のような人口音声が流れた。

『NEW EXAMシステム、スタンバイ』

その音声が流れた直後、プロトケンプファーのモノアイが赤く怪しい光りを燈した。そして次の瞬間には急加速を行い、流れるような動きで2機のセイバーフィッシュを仕留め、急に運動性能が跳ね上がったプロトケンプファーに戸惑ったザニーの背後をとり、ほぼゼロ距離でショットガンの弾丸を叩き込んだ。

「ふははははは! EXAMによって裁かれるがいい!!」

その動きを脅威と判断したのか、2機の鹵獲ザクC型と3機のザニー、4機のボール(50mm機関砲搭載型)がニムバスに向かっていった。それをニムバスは冷笑と共に迎えた。

「ふっ、自ら死にに来たか」

言うが早いか、ニムバスは加速して一気に接近し、2機のボールに向けてショットガンを速射した。幾らボールが耐弾性に優れた球状だとはいえ、大量の散弾を食らっては耐える事は不可能だった。そしてそのままバズーカを構えていたザニーの目の前に現れ、ザニーが行動するよりも早くそのコックピットに残弾数が1発となったショットガンを突きたて、引き金を引いた。コックピットに突き刺さった時点でパイロットは死亡していたのにもかかわらずだ。
その行為にザニーとボールは怖気づくが、それでも怯むことなく2機の鹵獲ザクはヒートホークを構え、マシンガンを乱射しながら突っ込んでいった。この2機はそれなりの錬度で、連携して行動していたがニムバス相手には不足だった。

「身の程知らずが! このワタシが裁いてやる!」

そう言ってそのまま弾切れとなったショットガンを刺したままにして機体を翻し、ヒートホークをAMBAC(アンバック、Active Mass Balance Auto Control = 能動的質量移動による自動姿勢制御)を使って必要最小限の動きでかわし、すれ違い様にビームサーベルで胴体を切り裂いた。それと同時にもう1機の鹵獲ザクには75mmガトリング砲を牽制がてら叩き込んだ。鹵獲ザクはシールドを構えてこれを防ぐが、次の瞬間には勢いを殺さずに接近していたプロトケンプファーが振るったビームサーベルによってシールドごと切断されていた。

僅か1分にも満たない時間で、モビルスーツ3機とボール2機が仕留められたのだ。相対した残存部隊が恐慌状態に陥るには十分だった。ザニー2機はマシンガンを乱射したが、ボール2機はそのまま逃走を図る。が、それをニムバスが許すはずが無かった。

「くくくく・・・・・・無駄な足掻きだ!」

元々ベースとなったプロトケンプファーA型の機動性はヅダを上回る。それから逃げ切るのはボールでは不可能だった。逃亡しようとしたボールを追い、1機を75㎜ガトリング砲で撃破した後、残ったもう1機のボールを蹴り飛ばした。ケンプファーシリーズにはニースパイクと呼ばれる爪が脚部に装備されており、まともに当たればザクやグフのスパイクシールドを上回る威力を持つ。結果は言うまでも無く、蹴り飛ばされた時点でボールは半壊し、その数秒後に爆発して跡形も無く吹き飛んだ。

それを見てマシンガンを乱射していたザニー2機も心が折れたのか、機体を翻して一斉に逃げ始めた。他の友軍がまだ戦っているのに、目先の恐怖だけで目の前の敵から逃げる。立派な敵前逃亡だ。が、それでも逃げなければ確実に死ぬという本能からの警告に従って彼らは逃亡を選択した。
繰り返し言うが、推力ではプロトケンプファーの方が遥に上回っていた。このまま何も無ければザニーは2機とも宇宙の藻屑となっていただろう。
だが、結果だけいえばこのザニー2機はニムバスから逃げ延びる事ができた。なぜなら、ニムバスが新しい獲物を見つけたからだ。

「逃がすか・・・・・・む? どうした、何を感じたと言うのだ?」

『・・・・・・』

「ええぃ、はっきりしろ! ・・・ぬ、複数の脅威があるというのか?」

『・・・・・・』

「はっきりせんな、クルスト博士にはもっと調整するよう言わねば・・・・・・まぁいい、まずはその脅威に当たるか」

そして機体を翻し母艦に戻るニムバスだったが、彼がそこで目にしたのは本隊を襲撃している新手の姿だった。





それを発見したのはチベ級重巡洋艦アドラーの管制官だった。当初はニムバスの物言いに激怒していたが、すぐに割り切り戦場の管制を必死に行っていた。だからこそ、彼は艦隊に接近する4つの光点をレーダーにて発見した。IFF(敵味方識別装置)の表示は味方と出ていたが、増援にしては方角が妙だったことが彼を警戒させた。

「味方? だがどこの機体だ? ・・・接近中の機影に告ぐ、所属を言え。こちらはチベ級重巡洋艦アドラー、現在本艦を含む艦隊は戦闘中である。そちらの所属を明らかにせよ。応答無き場合は敵と判断s・・・」

警告を兼ねた通信を入れると、言い終わる前に正体不明の4機から応答があった。が、その返答に管制官は頭をひねる事となる。

『こちら第2943戦闘部隊、戦闘を確認して急行した。これより援護するが、当方任務中の特殊部隊につきこれ以上は機密保持の為説明できない。すまんな』

無機質な声・・・いや、ボイスチェンジャーでも使っているかのような妙な声に戸惑うが、通信を入れてくるということは味方だと当たりをつけ返答する。そしてその返答が届く頃には、4機は艦隊から視認できる距離に到達していた。

「味方か、援軍に感謝する・・・・・・しかし見たことのない機体だな、新型機か?」

その問いに相手は少しくぐもった笑いをしてから返答を行ってきた。管制官にとって・・・いや、艦隊にとって最悪な行動と共に。

『ああ、ちょっとわけありでね・・・各機、敵に対して攻撃を開始せよ』

その直後、見慣れぬ機体の内2機がシュツルムファウストを2発ずつ、合計4発発射し・・・・・・チベ級重巡洋艦アルトマルクにその全てが直撃した。

「!? 待て、味方を攻撃しているぞ! 攻撃を今すぐやめろ!」

『問題ない。任務通り敵を攻撃しているだけだ・・・各機、敵艦隊へ攻撃を続行せよ、核を敵の手に渡すな』

「な・・・敵か!? 偽装とは卑怯な・・・」

『勝てば官軍という言葉もあるのだよ・・・死人に口無しとはよく言ったものだ。4番機、核輸送艦の護衛をしている艦を集中的に叩け。2番機と3番機は護衛機を潰せ』

「くっ・・・敵機の分析急げ! 准将、敵は味方に偽装した部隊を投入しています! IFFでは友軍と出ていた為誤認しました。最新のIFFデータが敵に漏れているのかもしれません!」

「何!? 一体どこからデータが・・・情報部は何をしていたのだ無能共め! ・・・まぁいい、偽装した敵機は詳細は?」

「見た事もない新型機です。武装は・・・・・・我が軍の武装の他に見た事のない兵装があります。それとヅダ並みに高速で動きもいいです」

「むぅ・・・敵が速いなら散弾持ちとヅダ部隊で奴らを撃墜しろ!」

そこまで言った時、不明機の分析を続けていた情報士官が武装の解析が完了したことを報告してきた。

「敵機の武装の分析、完了しました。不明機4機はそれぞれが異なる武装を持っております。様々な角度からの映像を解析した結果、1機は120mmザクマシンガンと240mmザクバズーカを持ち、1機は197mmショットガンとハンドグレネードを持っております。また1機は両腕にナックルシールドらしきものを持ち、腰に外装式と思われる武装を持っております。外見から判断する限り、おそらくビッグガンと2連ロケット弾ポッドだと推測されます。最後の1機はやたら重武装で90mmライフルとナックルシールド、腰部に105mmザクマシンガンにヒートホーク、更に背部に197mmショットガンを持っております」

「・・・・・・最後のはベンケイ気取りか?」

「最後の機体を狙え、それだけ重装備なら運動性は他の3機に比べ低いはずだ!」

「だめです。連中もそれは承知の上のようで、常に他の機体がサポートを行っている模様です!」

そう指示している間にも状況は変わっていく。奇襲を受けたアルトマルクは艦隊から離れるように針路を変更しており、それに気がついた見張りが報告を入れる。

「アルトマルク、艦隊より脱落します!」

「何!? ・・・・・・くそ、よく見たら艦橋が前後ともに吹き飛んでいるじゃないか。あれでは内部の人間が応対するまで操艦できず漂流するしかない。この乱戦の中、果たして生き残れるかどうか・・・・・・」

「かまうな、あちらに敵の攻撃が集中すればこちらが生き残れる可能性が高くなる。今はこちらの事だけ考えろ! 本艦隊は陣形を維持できる最大船速にて脱出を敢行するぞ」

「りょ、了解しました。それと迎撃機が敵新型機に接触します」

その言葉通り、ヅダ2機とショットガン持ちのザク2機が敵機へと攻撃を開始した。だが・・・

「くそ、なぜ当たらん!?」

「なんて速度だ、このヅダ並どころか上回る速度だと? 悪い冗談だ!」

「おいバカやめろ! 外れた散弾が友軍機に当たりかけたぞ! ちゃんと狙って撃て!」

マシンガンや散弾が何発も放たれるが、それは一向に当たる様子を見せない。それどころか一部では友軍誤射までおきかける始末だった。
それも無理はない。なんせ敵機はヅダを上回る速度で味方を翻弄するのだから。しかも護衛のモビルスーツ隊は他の連邦軍機からも艦隊を守らなければならないのだ。そのプレッシャーは焦りとなり、ほんの僅かだが動きが雑になる。勿論雑にならずに任務を遂行するパイロットもいるが、焦りを覚えるなといっても難しいだろう。
話を戻すが、迎撃機が苦戦してる間も損害は増えていく。今も1機のザクがナックルシールドを両手にもった未確認機にぶっ飛ばされたところだ。しかも追い討ちとばかりに腰部分につけられた外装式バルカン砲を撃ち込まれ撃破された。
そして、ここでザクにのっているパイロットが何かに気づき、同僚に通信を入れた。

「くそ、1機撃墜されたぞ!」

「・・・・・・おい、何かおかしくないか?」

「あぁ? 何がだよ!」

「・・・他の連邦軍機、あの敵機に対して戸惑ってないか?」

怒鳴っていたパイロットもそう指摘されて初めて違和感に気がついた。あの4機が攻撃を開始してから何か挙動がおかしいのだ。まるであの4機が味方ではないかの様に・・・そしてそれは疑問を持っていた彼らの前で起こった。

「撃ってくる奴は敵、それが前線のルールだろ? 気にはなるが変なことを考えてると不覚を・・・何!?」

「な!? なんで奴ら同士討ちをしてるんだ!」

彼らが撃墜せんとしていた敵機めがけて、連邦軍のセイバーフィッシュが攻撃を行ったのだ。もっとも、その攻撃は難なく回避され、そのセイバーフィッシュは他の艦隊護衛についていた友軍のザクによって撃墜されてしまったのだが、その光景を二人はしっかりと目撃した。

「おい、あの不明機4機は連邦軍じゃないのか?」

「・・・いや、もしかしたら一般には知られていない特殊部隊所属の可能性もある。これなら一般兵が誤解してもおかしくない」

「特殊部隊が? 何の為に?」

「核を破壊する事、十分な理由じゃないか? 一般部隊が梃子摺ったら投入する切り札と考えれば、あの不明機体の事もある程度は納得できる」

「そんなもんか・・・」

「・・・ああ、それよりも奴等を早く落とそう。詳しい事は奴の残骸でも回収すればわかるだろう」

「そうだな、よし追うぞ!」

「ああ・・・(もっとも、他の可能性としてはこの艦隊のトップ、あえて言うならキシリア派を嫌う面々の、同じジオン側が雇った傭兵って可能性もあるがな。むしろこちらの方が可能性は高いだろうがな)・・・・・・まぁ疑念は後回し、今は敵機を落として生き残るのが優先か」

だが、彼がこの疑念を晴らす事はなかった。





正体不明機

「くっ・・・手強い」

核輸送艦に襲撃を仕掛けた4機だったが、艦隊の護衛についていた部隊、特に動きの優れているEXAM搭載モビルスーツに手を焼いていた。既に何隻かにダメージを与えてはいるものの、肝心の核輸送艦にはマシンガン数発が命中したくらいのダメージしか負わせていない。
しかも艦隊と接触しているせいで護衛の艦艇からの攻撃も激しい。そんな中護衛部隊の攻撃も凌がなくてはならないのだ。護衛のムサイ級から放たれる弾幕を回避しつつ、マシンガンをこちらに向かって急接近しようとするEXAM搭載型リックドムに向けて連射するが、数発撃ちだしたところで弾切れとなった。が、牽制程度には役に立ち、EXAM搭載型リックドムはいったん距離を取って体勢を立て直そうとする。
既に240㎜ザクバズーカは弾が切れ放棄済み、マシンガンも予備マガジンは使い切っていた。その中での弾切れ。つまり、この機体には兵装がもう残っていないのだ。

「弾切れか・・・各機、状況を報告せよ」

「・・・2番、予備弾及びハンドグレネード消耗。今装填しているマガジンで撃ち止めです。損傷は軽微」

「4番、105㎜マシンガン及び90㎜ライフルを投棄。ナックルシールド損壊。ショットガンは予備弾倉1つ残ってますが、左腕に被弾し肘から先が吹き飛びましたので再装填は無理です」

「3番、外装式武装両方弾切れです。機体各部に被弾しましたが、戦闘行動には特に支障ありません」

既に彼の部下達も戦闘続行は困難なレベルだった。

「ふむ・・・全機、一度集結せよ。後4番、ヒートホークを貸してくれ。こっちは弾切れで武装がない」

「了解、これからそちらに行きます」

そしてマシンガンをリックドムに向けて投げつけ、その隙に一気に機体を加速させ戦場から離脱を開始する。リックドムを含む護衛機は追撃を仕掛けたが、押し寄せる連邦軍攻撃機も無視できず追撃はできなかった。
そして輸送艦隊から少し離れたところで、4機は無事合流した。

「4番、ショットガンと予備弾倉を渡せ。再装填しておくから、その間にヒートホークを準備してくれ」

「了解・・・しかしあまりダメージを与えられませんでしたね」

「仕方あるまい。奇襲で重巡1隻大破させ、他何隻かを損傷させただけでも十分だ・・・よし、装填終わったぞ」

「ありがとうございます。でも、これからどうします? 戦闘続行ですか?」

その言葉に隊長は一瞬迷うものの、きっぱりと言った。

「いや、撤退だ。そもそも弾薬が足りんし、このまま無理に続けては返り討ちに合う。それに・・・そろそろ増援が来る頃だろう」

「・・・こちら2番。隊長、『そろそろ』ではなく、『もう』です」

その言葉と同時に3機が一斉に2番機の方に視線を向ける。2番機の遥か先には、こちらに接近中のスラスター光が多く確認できた。

「モビルスーツ部隊がこちらに接近中です。数は30機、おそらくキシリア派の空母部隊からの増援かと思われます」

「ふむ・・・輸送艦の護衛もある程度叩け攪乱もできたことだ。任務はある程度成功したと見なす。我らはこれより撤退する、撃墜されたり追跡されたりするヘマをするなよ?」

そうして撤退しようとした彼らだったが、ここで彼らは災厄に出会うこととなった。機体を翻そうとした彼らに通信が入ったのだ。そしてその発信源は高速で迫る1機のモビルスーツ。その機体はある程度近づくと止まり、ビームサーベルを4機の方に向けて話してきた。

『そこの機体、騎士である私に裁かれるがいい!』

そう、何かを察知して帰ってきたニムバスに目をつけられたのだ。帰還中に敵機を何機も撃墜した為、ガトリング砲はパージされショットガンも投棄していたが、目立った損傷は見当たらなかった。機体性能に優れ腕もいいパイロットと対峙するという事態であったが、隊長はニムバスに向けてこう言い放った。

「やれやれ、確かに凄腕かつ機体性能も高いようだから脅威だが・・・自己中心的なのは頂けんな。厨二病患者は精神病院に逝け。一度精神鑑定を受けてみろ、まぁ即日隔離されるだろうがな」

時が止まった。そして何を言われたか理解したニムバスは、怒りに顔を赤く染めた。

『き、き、貴様・・・・・・騎士である私を愚弄するとは、絶対に許さん!! そこに直れ、切り刻んでくれる!!』

「んなこと言われてはいそうですかと従う敵機がいるとでも? これだから単細胞は救いようがない。むしろ脳筋ってやつか? かわいそうに、両親が泣いているぞ。というか自らを騎士とか痛すぎて泣けてくるな。あれだ、『自称』騎士(笑)ってやつか?」

『・・・殺す!!!』

さらなる暴言にニムバスの怒りのメーターは振り切れた。目の前の敵機を切り裂くために一気に加速させるが、向こうが身をひるがえしスラスターを噴かせるほうが若干早かった。

「各機、予定通り撤退する。敵機を振り切れ、緊急加速ブースターを起動せよ」

『逃がさん! このワタシを愚弄した罪………その身で贖ってもらうぞ!』

1~2秒間だけ緊急加速できる外付け式の小型ブースターを正体不明機は搭載しており、それによって先手を取って離脱することができたが、ニムバスの試作EXAM搭載型プロトケンプファーは最高速度で正体不明機の最高速度を上回っていた。結果、即座に追いつきはしないが4機の正体不明機とニムバスとの距離を少しずつ、だが確実に詰めてられていた。正体不明機にとって幸運だったのは、これまでの戦闘でニムバスが飛び道具を撃ち尽くしていた事だろう。もし射撃武器が残っていたら確実に何機か食われていた筈だからだ。

「チッ、流石は新型機というところか。こちらの機動についてこれるとは侮れん」

『クククク・・・このスピードの前に敵なぞいないッ!! 我が裁きを受けるがいい!』

「隊長、少しずつですが距離をつめられています。このままでは・・・」

「・・・慌てるな、艦隊から引き離せば向こうはこちらを諦めざるをえん。それまで逃げるのみだ」

『それまでに貴様らを始末すればいいことだ!』

だが、死のレースは唐突に終わりを告げる事となる。当事者ではなく、第三者の手によって。





デブリベルト 不明艦

「目標の輸送艦、確認しました。艦隊の中央ですが、問題ありません」

「よ~し『魚雷』を放つぞ、装填できてるな!? 予定通り発射後にある程度時間を置いてからスリーパーミサイルを3斉射だ。3射ともほぼ同時に目覚めるように設定しておけ! それ以降は通常弾をオートで発射するよう設定しろ。俺らは自爆装置を起動させて逃げるぞ!」

「あいあい。まぁ自爆装置を起動させなくとも、一定の弾を発射したら動力がオーバーヒートして勝手に自爆するんですがね・・・『魚雷』特殊弾頭弾装填完了、目標の予想進路に照準完了・・・回避運動をとってもとらなくても、このコースなら確実に1発は命中しますぜ」

「まぁ他の艦が盾にならなきゃって前提だがな。最も、上は更に保険をかけてるだろうけど・・・っと、時間か。よ~し、ぶっ放せ!!」

「あいさ、ぶっこみいくぜ!」

そういって『魚雷』を発射し、しばらく置いてからミサイルを発射開始する。そしてミサイルを撃ち終えた直後には漆黒のステルス塗料が塗装された小型艇がデブリベルトへと脱出を終えていた。





本隊旗艦 チベ級重巡洋艦アドラー

「友軍増援艦隊接近、ガニメデ級1、ジークフリート級4、合流まであと・・・ん? なんだこれは?」

増援艦隊のモビルスーツ部隊が到着したことでアドラーの艦橋内でレーダーを見ていた管制官が不審な声を上げ、それを聞いたデラミン准将がその管制官に叱責した。

「どうした? 報告はちゃんとしろ、何かあったのか?」

「いえ、今センサーに妙な反応が・・・・・・デブリベルト方面に高速物体らしきものを確認したかと思えば、次の瞬間には反応が消えたんです」

「ゴースト(虚偽標的)又は機器の故障か?」

「いえ、もしかしたら・・・・・・! 10時のデブリベルト方面からミサイル6発高速接近、至近距離です!」

「回避急げ!」

その言葉に艦橋は一気に騒然となった。いや、ミサイルに気が付いた他の部隊もミサイルを回避しようと各個に回避運動を取り始めていた。

「何!? 索敵は何をしていた!」

「恐らくステルス処理をされたスリーパー・・・一定時間後にシーカーと推進器が目覚めるようにされたミサイルかと思われます!」

「まずいです准将。現在ミノフスキー粒子を散布していますがこの宙域のミノフスキー粒子濃度は未だ薄く、ミサイルの誘導能力が生きている可能性があります」

「いかん、迎撃を急げ! それとデブリベルトを調べさせろ、敵艦がいるはずだ!」

「待ってください。新たにミサイル探知、12発! 合計で18発が急速接近!!」

「当てさせるな、迎撃しろ!」

そういってミサイルに対して迎撃が行われるが、ミサイルに目がいっていたせいで彼らが『魚雷』に気が付くことはなかった。

「報告、護衛機がデブリベルト内に敵艦捕捉。これは・・・・・・サラミス級の改造と思われる艦が1隻います」

「改造? どういうことだ」

「外見の多くにサラミス級と同じ特徴を持っているのですが、艦首にレールガンらしきものが6門確認できます。おそらくミサイルを連続射出する為の装備かと・・・ただし、それ以外の武装は見当たりません。また船体もかなり損傷しているようで、おそらく廃船を流用した砲台ではないかと思われます」

「だがレールガンでミサイルを撃つにしても、ミサイルが誤作動を起こすだろ常識的に考えて」

「ミサイルに特殊な加工をしていたのではないでしょうか?」

「まぁいい、デブリベルトの敵艦にミサイルを叩き込め!」

だがそこで直援についていた護衛機の1機が異変に気が付く。輸送艦スケネクタディに高速で接近する複数の漆黒の物体に。そして。

「輸送艦スケネクタディに高速飛翔物複数接近中! 命中します!」

「何!? スケネクタディに回避命令を出せ」

「間に合いません!」

そしてソレらの内2つがスケネクタディの横っ腹に直撃した。が、予想に反してそれは爆発することもなく、突き刺さったままであった。

「ふ、不発か? 2発とも?」

「スケネクタディに被害状況を報告させろ。核に何かあったら洒落にならんぞ!」

だが、彼らがスケネクタディから被害報告を受け取る事はなかった。





輸送艦スケネクタディ 格納庫

格納庫内の1室、そこには様々な装置が設置され、そこをクルスト博士を中心とする白衣の男達がデータの収集と分析を行っていた。

「くくく・・・思いがけずいい実戦データが収集できた。手土産には十分すぎるな」

「ですが博士、ニムバス機の新型EXAMに若干の鈍りが出てきています。おそらくですが、初めての実戦のせいで負担がかかっているのだと予想できます。これ以上の戦闘はやめた方が安全かと思いますが?」

「それにパイロットも敵の挑発によって頭に血がのぼっているようです。幸い援軍が接近中とのことですので、一旦帰還させては如何でしょうか?」

「む? ・・・いや大丈夫だ、この程度なら許容範囲内だ」

EXAM機の後退するべきではという意見が出るが、クルスト博士は却下する。そしてそれに続くように周囲の男達もクルスト博士に賛同し、次々と会話に加わる。

「そうですよ。それにもっと実験部隊は戦果を上げれるはずです。あの機体はそれだけの性能を秘めているのですから」

「それにアレはこの程度の負荷で壊れるわけがありません。もし壊れても次の素体にそのデータを反映すればいいだけです」

「それにグラナダの研究拠点でもモルモットをベースにした素体の製造が開始されていますしね」

「そして戦果を上げれば上げるほどキシリア様はお喜びになられるでしょう。そして我々も予算が増えて万々歳・・・笑いが止まりませんな」

「は、はぁ・・・キシリア様、ですか・・・・・・」

「た、たしかにキシリア様は裏の支援を考えるとツィマッド社を上回るスポンサーですが・・・」

色々と問題のありそうな会話を研究員達はするが、その中の一人が思い出したように呟いた。

「そういえばツィマッド社派の連中、結局研究所に残ったままですね。理由としてEXAMシステムの独自改良型開発とか言ってたけど本当でしょうか?」

「ただ単にグラナダに行きたくなかっただけじゃないのか?」

「だとしたら奴らは馬鹿なのさ。キシリア様につくことで予算が更に増えるというのにそれがわからないだなんてね」

「まぁ彼らは良心とかの下らない感情に捕らわれた愚か者ですよ。なんでモルモットに感情移入するかなぁ?」

「真のEXAMシステム開発の礎になるのだから、モルモットも本望だろうに・・・」

「とはいえ、ツィマッド社からの注文通りのEXAMシステムを構築したのは彼らがメインだ。しばらくは協力しないと、我々の研究も遅滞する。その点もちゃんと頭に留めて置くようにな、諸君」

「わかりました博士」

そんな会話にEXAM機の後退させるべきと述べた二人はため息をつき、他の者と少し距離を取ったうえで二人で話し合った。

「はぁ・・・なぁ、もしかしてこっちの派閥についたのは失敗だった?(ボソ」

「今更過ぎるな。俺達もツィマッド社派に逃げてりゃよかったよ・・・・・・え、通信? 旗艦から? ・・・はい、はい・・・博士、旗艦より通信です。EXAM小隊、特にニムバス機が艦隊を離れて深追いしている件について、速やかに艦隊に合流させるようにとのことです」

「何!? ええい、後もう少しで不明機と交戦するんだぞ! いい実戦データが収集できるだろうというのに・・・ぬぅ!?」

そうクルスト博士が言っている途中、艦に突然衝撃が2度走った。そして数秒後、格納庫は衝撃で不具合が出ていないか機材のチェックをする者や、突然のできごとに戸惑う者といった具合に軽い混乱が発生した。そしてクルスト博士は艦橋に問い合わせの通信を入れていた。

「クルストだ。一体何事だ!」

「わかりませんが、おそらく敵弾が命中したものかと。ですが爆発していないところを見ると、不発弾かと思われます」

「不発弾か。万が一もある、速やかに撤去作業を・・・?」

その中でクルスト博士は異常に気が付く。周囲に甲高い音が鳴っていることに・・・

「む、なんだこの音は・・・一体何が・・・」

そこから先をクルスト博士が言う事はできなかった。なぜなら、響き渡っている高周波が一際高くなったと思った瞬間、膨大なエネルギーによって博士は次の瞬間消滅したからだ。

突如、艦隊中央にいた輸送艦スケネクタディから閃光が迸り、次の瞬間にはデミラン准将のチベ級重巡洋艦アドラーを含む本隊は閃光に飲み込まれて消滅した。
迸る閃光、それはスケネクタディに載せていた1発のMk-82型核弾頭が起爆したものだった。史実ではソロモンで観艦式をしていた連邦艦隊の半数を吹き飛ばした代物が至近距離で起爆したのだから堪らない。距離を開けていた・・・というか置いてけぼりを食らったコンスコン艦隊とVF艦隊は辛うじて無事だったが、核輸送部隊の本体と、その本隊を追撃していた連邦軍艦隊は少なく無い戦力が核に巻き込まれたようだった。





連邦艦隊 砲戦部隊旗艦 マゼラン級戦艦セント・ヴィンセント

「状況は!? 部隊の被害報告急げ!」

突然巨大な閃光が発生しその直後に艦を大きな衝撃が襲った。そしてその揺れが収まると同時に艦長は命令を下す。その数秒後には次々と被害報告が上がってくる。

「ほ、報告します。敵艦隊を追撃していた攻撃隊のシグナル、すべてロスト! 攻撃部隊は・・・ぜ、全滅したものと思われます」

「馬鹿な・・・」

だが、呆然となっている間にも次々と悲報は入ってくる。そしてそれは艦長を現実逃避させかける代物だった。

「先行していた第599戦隊の巡洋艦アリシューザ以下3隻の全艦から応答ありません」

「衝撃波によって戦艦マルテル及び巡洋艦カレドン大破、航行不能。総員退艦命令が発令されました」

「強力な熱と衝撃波、それにガンマ線等の放射線を感知! 爆発規模から推測するに、トリントン基地から奪われたMk-82型核弾頭が爆発したものかと推測されます」

「第593戦隊所属の巡洋艦ホークとアヴローラが衝撃波の影響で衝突、爆沈! またその余波で同戦隊所属巡洋艦マンリーにデブリが直撃し大破しました!」

そこまで報告を聞いて、艦隊総旗艦のカワチから何も言ってこない事に気が付いた艦長は通信士に尋ねる。

「カワチから何か言ってこないか?」

だがそれに答えたのは別の兵からであった。

「艦長・・・カワチのシグナルが随伴艦共々見当たりません。最後に把握していた位置は、巡洋艦アリシューザと戦艦マルテルの中間くらいの位置で、おそらく・・・・・・」

「沈んだ可能性が高い、か・・・・・・全艦に通達。旗艦との連絡がつかないため本艦が臨時に指揮を執る。戦闘可能な艦を殿にしてルナツーに撤退する。なお無事な艦載機は艦隊の護衛につけ」

この命令は通信だけでなく信号弾や発光信号も使って伝達され、連邦艦隊は撤退に入った。それを見送るジオン側だったが、こちらも追撃を仕掛ける余力は残っていなかった。





ジオン艦隊 チベ級重巡洋艦チベ

「しょ、少将。本隊のシグナル全てロスト、通信にも応答ありません。それと電磁パルス等が観測されています。恐らくは・・・・・・」

「・・・核が爆発したか。連邦艦隊はどうしている?」

「少々お待ちください・・・・・・・・・連邦艦隊、確認しました。ですが核の爆発に巻き込まれたらしく、数を減らしています。あ、信号弾確認、発光信号もです。どうやら撤退を開始しているようです」

「連邦の陣形は?」

「・・・・・・損傷の少ない艦を殿にする模様です」

「流石だな。核爆発で混乱しているだろうに、即座に行動できるとは・・・やはり連邦軍は侮れんな」

「少将、これからどうされますか? 連邦艦隊が撤退するのであれば追撃しますか?」

「いや、追撃は必要ないし、そもそもこちらもそんな余裕は無い。敵戦艦部隊との砲戦の被害が馬鹿に出来んしな」

そう、コンスコン率いる後衛艦隊は連邦砲戦部隊との砲撃戦の結果、チベが大破に近い中破、ムサイがそれぞれ1隻沈没、1隻大破航行不能(後に自沈処分)、1隻中破し、パプワ級はミサイルが被弾し小破という損害を受けていた。数で優勢な連邦軍砲戦部隊を相手にこの損害は極めて低いと思えるが、なんてことはない。連邦軍砲戦部隊の大半がコンスコン艦隊を無視して本体を追撃した為、コンスコン艦隊への圧力がかなり減ったからだ。とはいえ、マゼラン級戦艦1隻にサラミス級巡洋艦3隻と砲戦を行い、コーラル級重巡洋艦2隻に護衛されたアンティータム級空母1隻が搭載していた30機以上のボール部隊と交戦した結果でこの損害なら十分奮戦したといえる。しかもボール部隊に少なくない被害を与え、サラミス級1隻撃沈、1隻大破という損害を与えていたのだ。並みの将ならば全滅していてもおかしくはない。
だが、だからといってこの残された戦力で追撃などできるはずがなかった。

「それに核輸送任務は失敗した以上、現時点を持って任務を終了し救助活動に移る。後、増援艦隊と各方面に通信を送れ。敵の攻撃により輸送艦が沈没、核が誘爆し艦隊に甚大な被害が発生、本隊はほぼ消滅したとな」

ほぼ消滅。これは大破して漂流していたチベ級重巡洋艦アルトマルク以外のシグナルが全てロストしていたから発せられた。奇襲攻撃によって艦橋を潰され迷走していたアルトマルクだったが、迷走し艦隊から落伍したが故に核爆発に巻き込まれずに助かったのだ。人生万事塞翁が馬、何が幸いするかわからないとはこのことか。

「了解しました。アルトマルクは通信アンテナも全て全壊しているので、こちらから連絡艇を出し指示に従うように連絡します」

「うむ。敵味方関係なく助けを求めるものを救助せよ。それと損傷を受けた艦は応急処置を急がせろ」

戦闘が終了したと判断し矢継ぎ早に指示を出すコンスコンだったが、内心ではあることを考えていた。

(万が一に備え、戦闘になったら本隊とは可能な限り距離を取るようにとドズル閣下から厳命を受けていなかったら・・・考えるだけで恐ろしい。だが、そんな指示を出されたということはドズル閣下は核が爆発する事を知っていた? いや、まさかな・・・・・・まぁ責任を問われても元々無理のあった混成艦隊だ。あまり強くは追求されまい)

そんな事を考えつつ、コンスコンは指示を出し続けた。この戦闘の結果、連邦は核の奪取又は破壊という目標を達成できたが作戦に投入した機動兵器の大半と多くの艦船を失った。またジオン及びVFも艦船や機動兵器の多くを失い、輸送中の核弾頭を破壊された。
結果から見れば核を破壊した連邦側の辛勝ともいえる今回の戦闘だったが、投入戦力と損失戦力を考えれば連邦軍はジオン及びVFをはるかに上回る戦力を失った事となる。これがこれからの戦況に及ぼす影響は少なくなかった。







少し離れた宙域に、サイド6船籍の輸送艦がゆっくりと航行していた。だが、その船は民間船という割には偽装された各種センサーが多く設置されており、多くの情報を収集していた。

「・・・報告します。通信傍受の結果、輸送艦に積まれていた核が誘爆しキシリア派のデラミン艦隊が壊滅したようです。設置していた監視衛星からの映像と電磁パルス等の観測結果から考えても間違いないかと思われます」

「・・・・・・・ん、待機中のヅダイェーガーに命令。戦闘配置を解除、これより本艦は帰還するとな」

輸送船内部の偽装格納庫にて待機状態だった真っ黒な2機のヅダイェーガー。そしてその内の1機が持っている280mmザクバズーカに装填されている弾頭には、とあるマークが記されていた。
南極条約によって封印された、あのマークが・・・













キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室

「・・・そうです、クルスト博士は護衛していた核兵器の誘爆に巻き込まれて行方不明です・・・・・・乗っていた艦が消滅したようですし、博士は戦死したと判断せざるを得ないでしょう・・・・・・ええ、それですが博士の意思を受け継ぐため、EXAMシステムの開発は今後我々ツィマッド社が引き受けます。その為にもサイド6に残っている人員もこちらにまわしてくれるとありがたいのですが・・・・・・・・・いや、そちらの研究を譲り受けることになるこちらが礼を言わねばならないので・・・・・・彼の研究資料の回収は数日以内にこちらから人員を派遣しますので・・・・・・ええ、ありがとうフラナガン博士。それではまた・・・」

そういって悲しげな表情を浮かべながらエルトランは通信を切った。が、その悲しげな表情は通信を切った次の瞬間には無表情となり、ゆっくりと目を閉じた。そしてそのまま数秒目を瞑っていたかと思うと、大きなため息をしてかぶりを振る。そしてゆっくりと手元の書類に目を向け、残念そうな、それでいてどこか嫌そうな表情で呟いた。一番上の書類にはサラミス級の沈船を再利用した砲台、コールサイン『カハホリ』の隠蔽自爆が無事成功し船員も見つからずに脱出できたという報告書だった。

「・・・クルスト博士、あなたは極めて優秀な科学者でした。ですが恨むなら自分自身を恨んでください。あなたのした行動は我々にとって見れば裏切り行為であり、その結果我々はあなたを暗殺しなければならなくなったのですから。核弾頭と鹵獲輸送船への細工までしてまで・・・いえ、今回の核攻防戦という茶番劇で・・・」

エルトランの手元にはいくつかの報告書があり、それは内容を確認したエルトランを激怒させたほどの内容だった。元々エルトランは情報を外部に漏らさないことを条件の一つとしてフラナガン機関でも冷遇されていたクルスト博士の研究を支援しており、対ニュータイプ部隊の設立や資金・物資の手配等を行っていたのだ。だがエルトランの手元にある報告書はとある場所にクルスト博士が密かに送っていたもののコピーで、言ってみれば外部へ情報を流出させていた証拠といえる代物だった。
そこにはクルスト博士が研究していたEXAMシステムの報告書やEXAMシステム搭載型モビルスーツの詳細な設計データといったものも書き込まれており、これだけでも十分部外秘の極秘情報だった。が、その後に記述されている報告こそ、エルトランを激怒させ結果的にクルスト博士の暗殺を決めた内容だった。

『ツィマッド社宛て 7月5日:EXAMシステムは対ニュータイプ機能を取り除き機体性能を向上させるOSというコンセプトで開発を続けています。つまり、人間の脳波を電磁波として捉え、その中のいわゆる「殺気」を判別し敵パイロットの位置の特定や攻撃の瞬間を察知して回避するという、ソフトウェア的にニュータイプに近い戦闘動作を行わせるものです。ですがそれでもシステムの大型化は避けられず、機体に余裕が無いとバランスよく組み込む事ができません。ツィマッド社から提供されたイフリートに組み込んだ結果、機体に多大な負荷をかけ、起動すると短時間でオーバーヒートしてしまう結果となりました。新たにドム及びリックドムを1機ずつ受け取りましたが、これを2機ともMS-09F ドム・フュンフ(以後ドムと記載)に改造し、それぞれ違うシステムを組み込む事となりました。これによって2機のドムを使い比較検討することでシステムの改良点を洗い出したいと思います。これによって得たデータを用いてシステムを完成させますので、ドムを上回る新型機の提供をよろしくお願いします』

『××××宛て 7月15日:廃棄予定の被験者は表向きは処分されたことになっていますが、実際は極秘にツィマッド社に譲り渡されており、その数は推定で数十人以上と思われます。ツィマッド社はそれらの戦力化を進めており、警戒すべき事態と言えるでしょう。一方我々の手元に残る、文字通り自由に使える素材は本当に廃棄せざるを得ない被験者のみとなっています。いくら我々の研究が被験者を用いないとはいえ、これでは対ニュータイプ用システムの開発に支障が出ます。よって、廃棄予定の被験者のリサイクル案として生体脳コンピューターの開発、およびそれを利用した対ニュータイプ用の新型EXAMシステムの開発を提案します。なにとぞご支援をお願い致します。なお、すでに開発されたEXAMシステム搭載型のイフリート改の設計図を添付しますのでご利用ください。なお、イフリート改は陸戦機ですが、現在宇宙でもテストできるように改修を行っております。完成出来次第その設計図を送らせて頂きます』

『××××宛て 8月15日:ご支援ありがとうございます。各種援助のおかげで他部門の裏と協力関係の構築ができました。これで本格的に生体脳コンピューターの開発を行えます。ただ、協力関係となったマガニー氏の進める、ニュータイプ兵のクローンによる量産計画は正直私としては認めたくありません。将来の脅威を量産するなど唾棄すべき行為です。まぁその為のEXAMシステムなのですが・・・それとツィマッド社側が要求していたEXAMシステムですが、そちらの開発は一応順調であり、以前よりも完成度は高くなっています。ツィマッド社が開発依頼していたEXAMシステムを搭載するドムの設計図を添付します。システムはまだ未完成品ですが、ノーマル機と比べるとある程度の性能向上には成功しているのでご利用ください』

『××××宛て 8月24日:EXAMシステムとは関係ありませんが、私の知人であるレイビット・コジマ博士に支援をしてくださるようお願い申し上げます。博士が開発中の人の神経、脊髄や延髄を経て脳とモビルスーツの統合制御体が直接データをやりとりをする生体機体制御システムは大変興味深い代物です。一般兵士を手術することでモビルスーツを己の体と一体化させ、驚異的な戦闘力を会得する計画だそうです。この計画が成功すれば極めて強大な戦力が手に入ることとなるでしょう。支援の検討をお願い致します』

『××××宛て 9月1日:そちらのご支援のおかげでこの手の研究に詳しい外部の組織との接触ができ、資金及び物資と引き換えに必要なデータを入手しました。このおかげで生体脳コンピューター及びそれを用いた新型EXAMシステムの開発は順調です。この分なら来月中にでも、生体脳コンピューターを用いた新型EXAM搭載機が完成するかもしれません、吉報をお待ちください。それと私の手元から離れたニュータイプのマリオン・ウェルチですが、ツィマッド社社長であるエルトランの秘書兼護衛扱いになっており、彼女をそちらの手駒にするのは強硬手段以外では不可能と思われます。他にも廃棄処分扱いでツィマッド社に引き取られた者達の現住所を含む個人データを添付しました。参考にしてください』

『ツィマッド社宛て 9月8日:宇宙用に改修したイフリート改2型ですが、ある程度ものになりました。性能は満足できませんが宇宙でも地球でも使える機体となったので、ここにイフリートをベースにしたEXAMシステムの開発を終了とします。今後はこのデータを参考にドム及び譲渡予定の新型機であるプロトケンプファーへ乗せるシステム開発を行います。なお、万が一に備え予備のEXAMシステム開発計画をスタートしました。これは現在のEXAMシステムとは異なる方式で性能向上を目指すもので、保険として用意いたしました。ご了承ください』

『××××宛て 9月8日:マガニー氏の進めるクローン兵量産計画ですが、その派生型として誕生した『CTN』という計画に協力して欲しいと、CTN計画責任者のディアス・サイフォ氏から要請されました。どうも遺伝子に手を加えたクローン兵士の量産計画のようですが、今後の為にも協力する事となりました。この計画と私のEXAMを組み合わせることで、将来的には無人モビルスーツが完成することも夢ではありません。後、宇宙用に改修していたイフリート改がある程度ものになりました。システムとスラスターの増設といった改修がメインだった為に燃費は極めて悪いと言わざるを得ませんが、宇宙でも地上でも使用できる機体となりました。このイフリート改2型の設計図を送らせて頂きます』

『××××宛て 9月23日:クローン兵量産計画の一環である、遺伝子に手を加えた上で特殊な培養槽にて体を急成長させる短期培養型クローン兵計画を見学させていただきました。これは私見ですが、この計画は実用的とはいえません。戦力化できるのがおよそ6年前後とニュータイプクローン計画よりは短期間でできますが、外見年齢はそれでも10歳前後、更に寿命は格段に短く計画上では30年も持たないとされ、コストパフォーマンスは最悪と言えるでしょう。事実、マガニー氏はニュータイプクローン計画を優先しており、この研究はあくまで実験レベルと分かります。ニュータイプクローン計画の戦力化がおよそ10年前後、寿命も計画上では最低40年は持つとの事なので、あくまでこのCTN計画は短期間でクローン体を無理なく急成長させる方法、その研究がメインだと思われます』

『ツィマッド社宛て 9月25日:YMS-18A プロトケンプファーの受領、確かに確認しました。現在システムの高性能化を進めており、まだしばらくかかりそうです。遅くとも2週間以内にはある程度の高性能化ができると考えておりますので、吉報をお待ちください』

『××××宛て 9月26日:ツィマッド社から渡されたYMS-18A プロトケンプファーの解析が完了しました。そちらへ送らせていただきます。生体脳コンピューターの開発は他の部門との協力により素材も現時点では不足することはありません。2週間以内に実用に耐えるレベルのものが1つ完成できると思われます。吉報をお待ちください』

『××××宛て 10月9日:生体脳コンピューターの開発は順調であり先日1つ完成、本日明朝に新型EXAMへの組み込みが完了したところです。現在ツィマッド社の新型モビルスーツであるケンプファーに搭載を完了し調整中です。また、ツィマッド社の依頼だったEXAMシステムも完成度の高い物が仕上がり、試験中のドムへの搭載が完了しました。まだ調整が完全ではないので、完成次第両機のデータを送らせていただきます』

『××××宛て 10月13日:新型EXAMの微調整を本日無事終えました。テストパイロットのニムバス・シュターゼン少佐はうまく使いこなせている模様です。本来なら今回この新型EXAM搭載プロトケンプファーとEXAM搭載ドムの設計データを添付したかったのですが、完成した機体を今から地球からグラナダに向かう輸送艦の護衛を兼ねて試験運用する事となり、その準備に追われている為次回の報告時に添付したいと思います。その際今回の模擬戦で得られる各種データを添えて送らせていただきます』

タイトルには「対ニュータイプ用新型EXAMシステム開発案」「廃棄予定被験者リサイクル案」「生体脳コンピューター開発計画 定時報告」「生体脳コンピューター用ニュータイプ製造計画」「対ニュータイプ用強化人間開発計画」等と書かれており、他にも「孤児院等への襲撃事件」といった案件の詳細な報告書を眺めながらエルトランはため息をついた。

「今更ですがクルスト博士、別に貴方の行った研究自体には文句を言いません。研究内容は胸糞悪いですが、必要悪という言葉が存在するように、我々も似たような研究を医療目的で研究していましたからね。ただ3つの点が決定的に問題だった・・・・・・1つ目は貴方が対ニュータイプ戦を意識しすぎて我々をないがしろにしたこと。2つ目、この研究データを送った先が私の敵だという事。そして3つ目はマリオンを含む関係者の情報をばらしたことです。もし仮にこの3点・・・いえ、特に後者が無ければ、我々は貴方の研究を黙認し、貴方は今も研究を続けていた事でしょうね」

エルトランが見ていた報告書、その全ての文面はとある場所に送られていたとの報告があった。
その場所は月の裏側、フラナガン機関のもうひとつのスポンサーのいるところだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
言い訳という名のあとがき

投稿遅くなって申し訳ないですorz
以前生存報告した際、喉風邪を引き投稿が遅れると書き込みましたが……あの後病院逝ったら百日咳との診断を受けました(爆) しかもその数週間後、一向に治らないので更に検査したら、百日咳から進化して軽い喘息になってました(核爆
その後も色々あってモチベーション低下して執筆する気力が激減し、なんとか病気も治り持ち直した頃にはなんて書こうとしていたのかすっかりわからなくなってしまい、手探りで執筆&修正をしてました。
なのでどこか穴があるかもしれません。誤字脱字や矛盾点等を発見した場合は、お手数ですが感想の方に一報お願いいたします。


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