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No.2193の一覧
[0] 機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)[デルタ・08](2007/12/29 19:02)
[1] 第2話[デルタ・08](2006/08/07 23:26)
[2] 第3話[デルタ・08](2006/08/08 14:00)
[3] 第4話[デルタ・08](2006/09/05 16:19)
[4] 第5話[デルタ・08](2006/08/11 22:36)
[5] 第6話[デルタ・08](2006/08/21 12:27)
[7] 第8話[デルタ・08](2006/09/05 16:16)
[8] 第9話[デルタ・08](2006/10/06 09:53)
[9] 第10話[デルタ・08](2006/10/06 09:54)
[10] 第11話[デルタ・08](2006/11/07 11:50)
[11] 第12話[デルタ・08](2006/12/26 13:42)
[12] 閑話1[デルタ・08](2008/01/01 20:17)
[13] 13話(別名前編)[デルタ・08](2007/07/01 00:29)
[14] 14話(別名中編)[デルタ・08](2007/07/01 00:22)
[15] 15話(別名中編2)[デルタ・08](2007/07/01 00:27)
[16] 16話(別名やっと後編)[デルタ・08](2007/07/01 00:31)
[17] ツィマッド社奮闘録 17話[デルタ・08](2007/07/30 11:55)
[18] ツィマッド社奮闘録18話[デルタ・08](2007/08/16 12:54)
[19] 19話[デルタ・08](2007/08/31 13:26)
[20] 簡単な設定(オリ兵器&人物編) [デルタ・08](2007/08/31 13:47)
[21] 20話[デルタ・08](2007/10/11 19:42)
[22] 21話[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[23] 22話[デルタ・08](2007/12/25 15:59)
[24] 23話[デルタ・08](2007/12/31 18:09)
[25] 閑話2[デルタ・08](2008/01/01 20:15)
[26] 24話[デルタ・08](2008/02/24 17:56)
[27] 閑話3[デルタ・08](2008/05/23 11:31)
[28] 25話[デルタ・08](2008/07/29 14:36)
[29] 26話[デルタ・08](2008/10/18 17:58)
[30] 27話[デルタ・08](2008/10/31 22:50)
[31] 28話[デルタ・08](2009/01/18 12:09)
[32] 29話[デルタ・08](2009/03/18 17:17)
[33] 30話(又は前編)[デルタ・08](2009/04/02 16:07)
[34] 31話(別名後編)[デルタ・08](2009/05/14 22:34)
[35] 閑話4[デルタ・08](2009/06/14 12:33)
[36] 32話[デルタ・08](2009/06/30 23:57)
[37] 33話 オーストラリア戦役1[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[38] 34話前半 オーストラリア戦役2-1[デルタ・08](2010/04/01 01:45)
[39] 34話後半 オーストラリア戦役2-2[デルタ・08](2010/04/01 01:46)
[40] 35話 オーストラリア戦役3[デルタ・08](2010/08/26 00:47)
[41] 36話前半 オーストラリア戦役4-1[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[42] 36話後半 オーストラリア戦役4-2[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[43] 37話[デルタ・08](2010/12/24 23:14)
[44] 38話[デルタ・08](2010/12/26 01:19)
[45] 閑話5[デルタ・08](2011/01/04 12:20)
[47] 39話 前編[デルタ・08](2012/09/30 17:14)
[48] 39話 後編[デルタ・08](2012/09/30 17:23)
[49] お知らせとお詫び[デルタ・08](2015/04/03 01:17)
[50] ツィマッド社奮闘禄 改訂版プロローグ[デルタ・08](2016/03/11 19:09)
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[2193] 39話 前編
Name: デルタ・08◆09f0fd83 ID:15261ffd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/30 17:14
キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室

「・・・私だ、それで結果は?」

『・・・・・・』

「・・・そうか、裏が取れたか・・・・・・この前そちらに送ったプランを発動する。ああ、既に目標は護衛戦力と共にサイド6を出ているから、予定通り細工を仕掛けろ。後調査報告書はこちらにまわしてくれ」

『・・・・・・』

「そうだ、もっとも保険は掛けているがな。万が一にもばれるわけにはいかん。それにこちらも色々と厄介なことになりつつあるからな」

『・・・』

「ああ、よろしく頼むぞ」







10月15日
地球衛星軌道上。すぐ近くに巨大な地球の姿を望め、そして大気圏という地球を包む天然のバリアのすぐ外側。ツィマッド社の大型輸送艦ツァインから補給を受けている偵察機仕様のランツ級高速シャトル3機とコムサイ3機をはさむ形でガニメデ級空母カリスト、ティベ級重巡洋艦アルバトロスが停泊し、そしてその周囲を3隻のレダ級小型護衛艦とコンスコン少将率いるチベ級1隻、ムサイ級3隻、パプワ1隻の艦隊が警護にあたっていた。そしてその更に外周部にはリックドムやザク、リール航宙機が周辺を警戒していた。

ツィマッド社所属輸送艦ツァイン艦橋

「艦長、ランツ級とコムサイの補給作業が完了しました。またコムサイには地上向けの物資の積載を行っており、そちらは後30分で終わりそうです」

「ん、コムサイのパイロットはどうだ?」

「全員が本艦の食堂で休憩中です。アルコールは出していませんが、存分に接待してますので皆ご機嫌ですよ」

「まぁ向こうも忙しかったらしいから無理もない。それでコムサイの大気圏突入予定時間に変更は?」

「はい、このペースなら問題なく1時間後にはコムサイは大気圏降下シークエンスに入れそうです」

「ふむ、今のところは予定通りか。周辺宙域の様子はどうだ?」

「今のところ敵影は見当たりません。万が一の場合に備え、本艦の緊急加速用ブースターはいつでも起動できます」

その言葉に満足そうにうなづく艦長。だがひとつだけ艦長には心配事があった。

「ならいい・・・・・・で、例の核弾頭はどうなった?」

「無事コムサイから本艦の格納庫へと移送完了しました。一般作業員は格納庫内から退避を完了しており、特別作業員がコンテナ詰め作業を行っております。こちらは後数時間はかかります。しばらくこの宙域で本隊が到着するまで待機し、到着次第そちらの輸送艦に封印処置したコンテナごと移送する予定です」

「うむ、頼むぞ・・・・・・・・・・・・しかし社長も厄介ごとを押し付けてくれるなぁ。一時的にとはいえ、本艦に大量の核弾頭を積載するだなんて」

「まぁたしかに。トリントン基地にあった戦略核を含む核弾頭の量が量ですからね。特殊輸送用コンテナ10個分もの核弾頭・・・こんな厄介な代物、はやく核輸送の為に手配された輸送艦に引き渡したいものですよ」

「ああ、そうだな・・・・・・まぁ飛行艇にケーキの宅配を終えるまでの辛抱か」

そう言って艦長は艦橋にあるモニターの1つを見た。そこには格納庫の中で作業を続ける重機と作業員の姿があった。





ツァイン格納庫

地上向けの物資を満載したコムサイが輸送艦から離れ大気圏へと突入した数時間後、ツァインの格納庫では諸々の作業が終わろうとしていた。格納庫内には日用品や各種弾薬の入ったコンテナが多数置かれており、その1区画に核弾頭を搭載した複数のコンテナがあった。そしてそれらのコンテナにノーマルスーツを着込んだ男達や作業用重機としてツァインに配備されているドラケンEが群がり作業を行っていた。
そんな中、作業を監督している男に一人の作業員が報告の為に近寄った。

「班長、核コンテナへの作業が完了しました。最終チェックも終わり、現時点で不備はありません。後は引き渡しまで所定の場所に置いておくだけです」

「ご苦労。ところでピンの調子は?」

その言葉に作業員は周囲を軽く見て、近くに人がいない事を確かめた上で報告を続けた。

「今は仮眠してます。ですが予定通り一定時間後に目覚め、目覚まし時計の合図を待ちます」

「よし・・・ではカタリナ向けの日用品コンテナは?」

「コムサイへの搬送があったので一旦このエリアに移してましたが、こちらの作業が完了したので元の区画に戻します。ただ、飛行艇の冷蔵庫にしまうイエローケーキは指示通り別に置いてますが」

その言葉を聞き、班長は厳つい顔を緩め安堵の息を吐いた。そして予定通り進んでいる事に安堵している班長に、作業員が苦笑しつつ両者は会話を続けた。

「分かった・・・つまり万事予定通りだな?」

「はい、計画は予定通り進行中です」

「ん、ならばいい。こっちがこれだけ手間隙かけたんだ、是非受け取ってもらわないと割に合わん」

「しかし上も外道ですよね。こんなビックリ箱を用意するなんて・・・」

「無駄口叩くな。それにその件は他言無用だ、いいな?」

「了解です、私も命は惜しいですので」

そういって二人はそれぞれの作業に戻っていった。格納庫での作業は終わりに近づいていた。







連邦軍本部ジャブロー

高級士官しか入れない区画の中でも更にセキュリティーが硬い区画、その中の一部屋に三人の男が集まっていた。各自の手元には空になった紙パックが複数と多数の書類が雑多においてあり、この部屋で長時間会議が行われていたことを表していた。

「さて、これでおおまかな事は一通り決まったか・・・・・・そういえばコーウェン准将、出撃した艦隊はどうなっている?」

「艦隊といいますと・・・・・・ああ、例の阻止艦隊ですか? それならば先ほど、予定通り全ての艦隊がランデブーポイントに到着したとの連絡がありました。これから艦隊の再編成を行った上で行動を開始するとの事です。また、ルナツーから衛星軌道上へ向けてサラミス2隻からなるパトロール艦隊が出撃したとの事です。こちらには敵艦隊を発見したら牽制程度、それも一撃したら撤退するように命じておきました。最悪の場合、そのまま攻撃せずに撤退する許可も与えました。またペガサス級1番艦のペガサスも遊撃部隊として配置についております」

そうコーウェン准将が述べると、男は満足げに頷いた。それに対し3人目の男が訝しげに男に訊ねた。

「・・・レビル将軍、この情報は信用できるのかな? 御二人は信用されてるようですが、私には信じきれませんな」

「うむ、その懸念は最もだゴップ大将。私達としては十分信じるに値すると判断しているが、万が一のこともある。だからこそ、この情報の確認も兼ねてのサラミス級2隻による威力偵察だ」

そう、この部屋にいるのは連邦軍の総大将であるレビル将軍。連邦軍の縁の下の力持ちというべき事務関連の元締めのゴップ大将。モビルスーツの実験部隊を運用しているコーウェン准将の3人だ。

「もし情報が外れていた場合、出撃させた艦隊はどうされるおつもりですかな?」

「その場合はそのまま通商破壊にシフトさせるつもりだ。少なくともそのまま帰還させるという事はありえん」

「それに各地のまだ稼動している天文台からの情報で、地球衛星軌道上に多数の艦影を確認したそうです。その中にはチベやムサイと思われるシルエットが多数あるとのことです」

ゴップ大将の質問にレビル将軍は答え、それを補足するようにコーウェン准将が発言をする。そしてその答えを聞き、ゴップ大将は満足げに頷き発言を続ける。

「ならいいです。ただでさえ艦隊は金食い虫ですから、何かしらの成果を上げてもらわんと。 ・・・ですが、先ほど入ってきたこちらの情報、大規模な増援艦隊が準備されているというではありませんか。どうするのです? 今回の作戦の為にルナツーに駐留する艦隊戦力の少なくない割合を投入しているのですから、万が一艦隊が壊滅すればルナツーの防衛及び通称護衛任務に支障をきたしますよ?」

「それには手を打ってあります。すでにインドの宇宙基地から新造した戦闘艦の打ち上げを準備しております。これによりマゼラン級戦艦3隻、サラミス級巡洋艦6隻を近日中にルナツーへの増援としてまわせます。それに、ここジャブローにて建造中の艦艇も後1か月半もすれば打ち上げることが可能となります・・・・・・まぁ、乗組員は新兵が多いので即戦力としては微妙ですが」

「練度は仕方あるまい。それに情報提供者によると、こちらが襲撃を仕掛ける時はゴップ君が言った大規模な増援と合流する前になるらしい。つまり、この増援艦隊が想定よりも速く輸送部隊と合流しない限り、こちらは予定通りの作戦行動で問題はないということだ」

「ただ、情報提供者によると五月雨式に増援が合流していくとのことなので、なるべく早期に攻撃をしかけないといけません」

「一歩間違えば艦隊は壊滅しますな・・・まぁ計画で終わったにしろ、コロニーへの核攻撃や毒ガスを使用とした連中にこれ以上核が渡る事は防ぎたいので仕方ありませんか」

「ええ、今はまだ南極条約を守ってはいますが、状況によっては核の封印が解かれる可能性は十分あります。これ以上ジオンに核を渡すわけにはいきません」

そこまで話し合っていた時、場の空気は重くなっていた。なにせ情報提供者からのリークでジオンが開戦初頭にコロニーへの核攻撃や毒ガスの使用、更には確保したコロニーを弾頭に見立てて地球に落下させる、本来のブリティッシュ作戦といった情報を彼らは知っていたのだから。
そんな中、レビル将軍がある案件を思い出した。そして場の雰囲気を変えるためにゴップ大将に告げる。

「・・・それと、話題を変えるようだが今度この情報提供者と会談をする事になった。場所と日時は決まっているのだが、送る人員に悩んでいてね。コーウェン君と後1人を考えているのだが、君の部下でいいのはいるかね?」

「ふむ、私の部下という事は、武官よりも官僚よりといった人材ですかな? 私がその会談を知らないという事は非公式・・・となると、秘密を守れて有能かつ冷静な人物になりますか」

「すまんな、面倒をかける」

「ふむ・・・・・・1つ聞きますが、その会談は必要不可欠なことですか?」

「・・・現状を変える、いや戦争の終結の切欠になるかもしれん」

「ほう? ・・・いいでしょう。近日中にめぼしい人材をリストアップしておきましょう。それでは将軍、失礼しますよ」

そういってゴップ大将は手元にあった書類を機密保持の為に部屋に置かれているシュレッダーにかけ、そのまま退出していった。そして部屋に残ったレビル将軍は書類に目をやると同時にため息をつき、一言呟いた。

「戦争の終結、か・・・・・・戦争を続行させた戦犯である私がいうのも変かもしれんがな」

「将軍、戦犯というのは言い過ぎでは?」

それを聞いてコーウェン准将は反論するも、レビル将軍は顔を横に振った。

「勝てば戦犯ではなく英雄として扱われるだろう。だが、講和となると話は別だ。大量の戦死者を出して勝利ではなく講和となると、遺族は黙っていまい。そうなると政府はガス抜きの為のスケープゴートを求めるだろう。そうなれば私が戦犯として処分される可能性は大いにある」

「しかし、将軍はV作戦等の功績があります。現在計画中の地球での反攻作戦が成功すれば将軍の功績は極めて高くなり、罰することはできなくなるのでは?」

「いや、その見通しは甘い。コーウェン君、君は連邦政府の腐敗ぶりを甘く見ている。彼らは自らの保身の為には精力的に動く。おそらく私を敵対視する派閥も同調するだろう。それに、君が言ったように反攻作戦が成功すれば確かに私の功績は絶大になるだろう。だが、それによって自らの地位を脅かされると彼らが判断すれば、最悪暗殺という手段を使ってくるかもしれん」

「まさか!?」

コーウェン准将は信じられないという顔をするが、レビル将軍はイスに深くもたれかかり、ため息をついた後に呟いた。

「ふぅ・・・・・・本当に討つべき敵は、腐敗した連邦政府なのかもしれんな」

「将軍、それは・・・」

「わかっておる。だが、これを見てしまうとな・・・どうしてもそんな考えが浮かんでしまうのだよ。権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗するとはよく言ったものだ」

手元の書類、連邦政府の汚職行為や暗殺等を含む秘密工作といった類の事が書かれているそれらを見つめつつ、レビル将軍は今後の事に思いを馳せ、一つの決意を固めつつあった。







地球衛星軌道上 チベ級重巡洋艦チベ

ジオン公国宇宙攻撃軍の派遣した護衛艦隊の旗艦であるチベの艦橋、そこで少将の階級を持つ男は不機嫌そうにしていた。そんな男に副官が先ほどVFからきた通信内容を報告をする。

「少将、報告します。ツィマッド社の輸送艦ツァインから鹵獲コロンブス級輸送艦スケネクタディへの核弾頭コンテナ搬送作業、無事完了しました。これでいつでも出発できます」

「ん・・・予定通りデラミン艦隊の後ろにつくぞ」

副官の報告を受け、不機嫌そうに少将はそう答えた。それに副官は苦笑いを浮かべながら言葉をつづけた。

「・・・やはり怒っておられますか」

「当然だ。派閥争いの結果で艦隊の指揮を取られるのはたまったもんじゃない。指揮系統の乱れは無駄な犠牲を出す可能性が極めて高くなるのは常識だろうに・・・まぁそれは百歩譲ってもだ。階級が上のものに対して挨拶も無く一方的な通信を行うとは・・・全く、みっともないと思わんのかデラミンは!」

そういって少将は苦虫をダース単位で噛み潰したような表情を浮かべた。
男の名前はコンスコン、史実ではガンダム相手に3分もたたずにリックドム部隊を失いボロ負けし、そのせいで無能な軍人と誤解された男だった。

だがここで改めて言うが、コンスコンは無能ではない。むしろ優秀な将である。それは実力主義のドズル中将が艦隊を預ける事からもわかるだろう。史実ではニュータイプに目覚めたアムロのガンダムによってあっけなく敗れたが、そもそもシャアのようなエースパイロットを退けれる相手に一般兵が勝てると思うだろうか? つまり、コンスコンが無能なのではなく、その時のアムロが化け物なだけである。それに単艦のホワイトベースに手持ちの戦力を一気にぶつけたことは戦術的にみても妥当であり、ここを見てもコンスコンが無能ではない証明となるだろう。

話を戻そう。そんなコンスコンの怒りの原因、それはキシリア少将の配下であるデラミン准将の艦隊が合流した時、挨拶も無く艦隊は陣形を組み速やかに行動せよ、という一方的な通信をしてきたからだ。宇宙攻撃軍司令ドズル中将の部隊と突撃機動軍司令キシリア少将の部隊、命令系統が異なっている部隊ゆえにすり合わせは必要な事である。ましてやコンスコンは少将、デラミンは准将である。階級の下のものが上のものに挨拶も無く一方的な通告を行ったのだ。これでいい顔をしろといわれても無理だろう。
とはいえ、向こうにも向こうの事情というものがあった。なんせキシリア派はドズル派が傀儡だったガルマを引き込んだと考えていたからだ。これによってキシリア派は地球での影響力を低下させたのだから、その原因と見なしているドズル派を敵視するのは仕方のないことだといえた。更に階級はドズルが上だが、ザビ家内では次女であるキシリアの方が三男ドズルよりも上となっている。それは派閥としてもその関係を表しており、キシリア派とドズル派の力関係はキシリア派のほうが強かった。これがキシリア派対ガルマ・ドズル派となると逆転するのだが、単体で見た場合はやはりキシリア派の影響力はドズル派よりも強かった。その為キシリア派にとってドズル派は敵と認識されており、この為ジオン内部では派閥同士の争いが多発し、今回のようなことが起きるのも珍しくはなかった。

「VF艦隊が前に出ます。それとティベ級重巡洋艦アルバトロス、ツィマッド社大型輸送艦ツァイン、ガニメデ級空母カリストの3隻はカタリナへ向けて針路を取りました」

「うむ・・・前はVF艦隊が見張ってくれる、我々は後方を警戒せよ。危険なのは増援と合流するまでの間だ、警戒は怠るなよ?」

「了解であります」

そしてコンスコン艦隊が移動し始めたとき、状況に変化が訪れる。

「ん、なんだ? ・・・わかった。少将、本艦から2時の方向に敵部隊発見との報告です。サラミス級2隻、こちらの様子を伺っている模様」

「フン、物好きがいるものだ。迎撃のリック・ドムは?」

「既に向かわせました」





連邦軍パトロール艦隊 サラミス級巡洋艦クリーブランド

「・・・目標を確認しました。空母1、重巡4、軽巡10、駆逐艦3、輸送艦4・・・情報よりも多いですが、空母1、重巡1、輸送艦1は他の艦艇と針路が違います。それと輸送艦の内1隻はコロンブス級ですが、近接防御火器らしき装備が増設されています」

「ふむ・・・3隻は艦隊への物資補給か、地球への物資投下や回収をしていたといったところか? まぁいい、情報はだいたい合っていたわけだ・・・よし、ルナツーに報告しろ。それとメガ粒子砲及びミサイルスタンバイ。主砲3射後にミサイル一斉発射、その後針路を変更し最大戦速で離脱する。インディアナポリスにもそう伝えろ。ルナツーに報告完了と同時に攻撃するぞ!」

「・・・! 敵モビルスーツ急速接近、リックドムです。発見されました!」

「む、発見されたか・・・予定を繰り上げる、加速を開始せよ。攻撃して逃げるぞ!」

「了解。各砲座スタンバイ、警戒中の敵モビルスーツが来るぞ。無理に落そうとしなくてもいい、弾幕を張って牽制し、敵機の有効射程まで近寄らせるな」

2隻のサラミスは加速を開始し、核輸送艦隊に向けて攻撃を開始した。モビルスーツ隊と航宙機部隊が迎撃に向かうが、艦砲の有効射程ギリギリという長距離からの攻撃だ。砲撃とミサイルを発射し、そのまま一目散に逃亡を図るサラミスを撃沈するのは普通なら至難の業だった。が・・・

「!? インディアナポリスが被弾しました、ビームです! 敵モビルスーツはビーム兵器を持っています!」

彼らにとって不幸なことに、コンスコン艦隊のリックドムにはビームライフルが配備されていたのだ。その威力は絶大で、ビームの洗礼を受けたインディアナポリスはたった1撃で中破に陥ってしまった。そしてインディアナポリスの受難は終わらない。

「インディアナポリスはどうなった!」

「主艦橋が破壊された模様です。後、被弾の影響か針路が・・・このままでは、地球に落ちます!」

「ならインディアナポリスの副艦橋につなげろ、進路を変更する事はそこからでも可能なはずだ!」

インディアナポリスは船体そのものは無事だったが、操艦やその指示を出す主艦橋を破壊されてしまった。しかもインディアナポリスは被弾の衝撃でコースが変わり、全速を維持したまま地球へと向かっていた。悪いのは命中したビームの余波で小規模な爆発が甲板で発生している事だ。それによってインディアナポリスの艦内は混乱状態に陥っていた。

「インディアナポリスへ、すぐに進路を変更せよ! そのままだと地球に落ちるぞ!! 聞こえてるのか!?」

「・・・・・・こちらインディアナポリス第2艦橋! 被弾の影響で航法システムにエラーが発生し操艦不能! 繰り返します、我操艦不能! 誰か助けてください!!」

必死に呼びかけを続けた結果通信がつながる事はできたが、インディアナポリスの副艦橋から帰ってくるのは操艦不能という悲鳴だった。通信員は熟練兵なら知っている手動操作に切り替えるよう通信を送るが、帰ってきたのは絶望的な答えだった。

「落ち着け! 慌てず急いで手動操作に切り替えるんだ!」

「手動操作!? 一体どうやるんですか、そんなの我々は学んでいません!」

「な!?」

そう、インディアナポリスは戦時中に就役した艦で、その乗組員は新米が大半を占めていた。数少ない熟練兵は主艦橋に努めており、それが吹き飛ばされた事で手動操作できる者は皆無だった。そしてインディアナポリスはその内部に多くの乗組員を乗せたまま地球の重力に捕らわれた。数分後、摩擦熱で艦体を焼かれながら大気圏に突入、その更に数秒後に爆散し無数の流星となって地球の空に消えていった。

「・・・インディアナポリス、大気圏に突入・・・爆沈しました。脱出ポッドの類は確認できません」

「敵機、更に接近中!」

「くそ・・・本艦はこのまま最大戦速で振り切る。後方に向けてメガ粒子砲を牽制射! 当たらなくてもいい、とにかく距離を離せ!」

その後クリーブランドはビームライフルがかすって副艦橋の1つが破壊される被害を受けたが、追撃するモビルスーツが深追いを禁じられていた為に撤退に成功する。そしてその一方で、ジオン側にも損害が発生していた。
というのも、サラミス級には6連装ミサイルランチャーが2つに艦首部2連大型ミサイル発射管が8基もあるのだ。それが2隻分、大型ミサイル32発と小型ミサイル24発。それに加えメガ粒子砲が単装3基の3連射2隻分、合計18発が艦隊を襲ったのだ。
迎撃の弾幕を張るものの、偵察仕様のランツ級シャトル1隻が運悪く大型ミサイルの直撃を受けて文字通り爆散、鹵獲コロンブス級輸送艦スケネクタディに向かっていた小型ミサイル1発が、護衛をしていたジークフリート級巡洋艦のテューリンゲンが盾となって命中し小破した。

が、損害はそれだけであった。たしかに偵察仕様のシャトル1隻が撃墜されたのは痛い。索敵範囲が低下するからだ。だがジークフリート級のテューリンゲンの損傷は軽いものだった。幸い艦首部分の着弾だった事もあるが、命中したのが小型ミサイルというのがダメージが少なかった理由だ。
元々サラミス級の6連装ミサイルランチャーは航宙機及びミサイル迎撃用のものなのだ。なので艦船などの大型目標に命中しても重要部に命中しない限り致命傷を与える事はできない。

そして艦隊は警戒を強めながら前衛にジークフリート級巡洋艦2隻、レダ級3隻、偵察仕様のランツ級シャトル2隻を展開し、本隊にチベ級2隻、ムサイ5隻、パプワ2隻、鹵獲コロンブス1隻。後衛にチベ級1隻、ムサイ級3隻という編成で増援部隊とのランデブーポイントに向けて移動を開始した。
言うまでもないが、前衛がVF艦隊、本隊がデラミン艦隊+輸送艦、後衛がコンスコン艦隊である。







キャリフォルニアベース 社長室

社長室でエルトランが1人モニター越しに通信を行っていた。サウンドオンリーなので相手が誰かは判らないが、ただ言える事は1つ。この通信は強度の極めて高い秘匿通信を使って行われている事だ。それもボイスチェンジャーを使って声まで偽装する念の入れようだった。

「ああ、私だ」

『ワタシダさんですか?』

「・・・ワタシダさんではない。使い古された旧世紀のギャグはやめろ・・・・・・で、状況は?」

『お客様がピンポンダッシュをし、そのせいで監視カメラが1つ破損、軍馬が1頭軽い怪我をしました。ですが他には問題ありませんし、馬も問題なく行動しています。それと、来賓は予定通りこられると思います』

「荷はどうなった?」

『順調に移送中です。予定通りなら飛行艇に33時間後に到着予定です』

「ホーンテッドとカハホリは?」

『X-4を含む部隊はいつでも出れます。カハホリはバージンロードの位置が変更になったのでクラッカーを鳴らすポイントを修正、現在は再移動が完了したところですね。ですがカハホリは元がポンコツですから、急な移動のせいで体に少なくない悪影響が発生しています。もっとも、作戦終了時にはお役目御免なのでたいした問題ではありませんが』

「ん、ならいい。それよりもカハホリのブツはちゃんと機能するんだろうな? 機能しませんでしたなんてオチは洒落にならんぞ」

『大丈夫です、万が一に備え予備として配備したスカート付きにRBを持たせてます。弾頭はクラッカーと同じものですので、1発でも直撃すればブツは起動します』

「ならいい。こちらも一応は狩人を2人用意してはいるが使わないに越したことはない・・・まぁお客様が始末してくれればそれでいいんだが、おそらく無理だろう」

『・・・星雲を複数有する有力な集団ですよ? その根拠は一体どこから?』

「勘だよ」

『・・・・・・勘、ですか。まぁ貴方の勘は意外と当たりますからね。一応お客様を応援させてもらいますよ、心の中で・・・・・・しかしよろしいのですか? 投入している艦隊はどちらも壊滅する可能性が高いのですが?』

「かまわない。その程度の損失で・・・小規模艦隊の犠牲で作戦目的を達せるなら安いものだよ。たとえ文字通り全滅したとしてもね・・・まぁ犠牲が少ないに越した事はないが」

『そうですが・・・これが所謂、知らぬが仏ってやつですかね』

「さてどうだろうね。まぁそれはいいとして、頼んでたイシュチェルの調査は?」

『申し訳ございません。中々ガードが高く、何人か駒を失いました。調査を継続中ですが、おおまかな事しか分からないかと・・・』

「ふむ、まぁ仕方ない。そう簡単にいくわけないからな。くれぐれもカウンターには気をつけてくれ」

『心得ております・・・・・・ああ、そういえば聖典ですが、やはりこちらも予想した通りガードが硬いようです。ただ、保有しているのは間違いないかと思われます。現在向こうの上と接触するよう工作していますがまだまだ時間がかかりそうです』

「むぅ・・・後一押しだからもう一手何か欲しいというところかな。まぁそれは焦らずいこう。今は目先の事に集中したまえ」

『了解しました、それでは通信を終了します』

「ああ、それではな・・・」

そう言って通信を終えるエルトラン。しばらく手を組んでゲン○ウポーズで思考する。彼が悩んでいるのは核輸送作戦のことだ。あの会議後(38話)に更に横槍が入り、各派閥から大規模な増援が出る事となったのだ。そしてその結果、衛星軌道上からグラナダへ向かう途中にランデブーポイントを複数設置し、そこでそれぞれ増援艦隊が合流した上で行動する事となった。当然ながらその規模が大きいとなると計画の見直しが必要だ。
ちなみに具体的に言うと増援は以下のようになる。

ギレン派閥からサイド3本国艦隊のガニメデ級空母1隻、レダ級護衛艦5隻。ア・バオア・クー所属艦隊からチベ級重巡洋艦1隻、ジークフリート級軽巡洋艦4隻。

キシリア派閥からグラナダ所属艦隊のティベ級重巡洋艦1隻、チベ級重巡洋艦1隻、ガニメデ級空母1隻、ジークフリート級軽巡洋艦4隻、ムサイ級軽巡洋艦4隻。

ドズル派閥からソロモン所属艦隊のチベ級重巡洋艦2隻、ムサイ級軽巡洋艦4隻、ヘッジホッグ級防空巡洋艦3隻。

このように、互いに関係がよろしくない3勢力が競い合って大規模な増援を送る事となり、これを受けてガルマ派閥名目で私設軍を拡張したVFも増援を派遣しなければならなくなり、宇宙要塞となったカタリナで訓練中だった艦艇群、具体的にはティベ級重巡洋艦1隻、ジークフリート級軽巡洋艦3隻、ヘッジホッグ級防空巡洋艦2隻、レダ級護衛艦3隻、モビルアーマーを搭載した輸送艦1隻をガルマ派艦隊として急遽出撃させる事となったのだ。

合計で空母2隻、重巡洋艦6隻、防空巡洋艦5隻、軽巡洋艦19隻、護衛艦8隻、輸送艦1隻という合計41隻もの大増援艦隊である。正直核弾頭の輸送の護衛には過剰なほどで、ルナツーにカチコミをかけるといわれても納得してしまう規模だ。
これだけの規模に膨れ上がったのには先に言った3勢力の派閥争い(というか意地の張り合いか?)以外にも理由がある。それはただ単純に、連邦が通商破壊には戦力過多なほどの多数の艦船を出撃させたという情報がマ・クベの情報網に引っかかっただけだ。今の時期に艦隊を出す理由はこの核輸送艦隊しかないと判断され、その結果このような大規模な増援となったわけだ。

そしてこれはエルトランにとって好ましくない事態だった。これらの戦力が集結すれば、核輸送艦を狙って襲撃を仕掛けてくるであろう連邦艦隊を逆に返り討ちに、想定よりも規模が少なければ一方的な殲滅戦闘にもなりかねない。そうなってはキシリア派の戦力を減らす事ができなくなる。
そう、キシリア派がVFの戦力を削ごうとした様に、エルトランもキシリア派の戦力を削ごうと企んでいたのだ。だが状況がどんどん一人歩きしていき、今では当初の計画が実行できるかどうかさえ危うくなっていた。
幸いというべきか、この大規模な増援艦隊と合流する前に連邦が襲撃を仕掛けてくるという情報が入っており、タイミングさえ間違えなければ当初の予定通り事が進むと思われている。だが、物事に絶対という保障はない。もし失敗し事が露見すればツィマッド社は大打撃を受ける。それでもこの計画は行わなければ次のステップに移ることができないというジレンマがあった。
果たしてこの選択が正しかったのだろうかとエルトランは悩む・・・・・・が、数十秒後に悩むのをやめた。

「・・・はぁ、馬鹿馬鹿しい。もう賽は投げられたんだ、今更私が悩んでもなんにもならん。それに万が一に備えてこっちも狩人・・・Cバズ装備のヅダイェーガーという保険も用意しているんだ。使わないに越した事は無いが、備えあれば憂い無しとも言うしな・・・・・・それよりも今は目の前の敵を倒さねばなるまい。この強大な敵を・・・」

既に作戦は実行に移っているのだから、今悩んでも今更過ぎるなと思い直したエルトランだった。そして彼は隣の机の上にある、大量の決裁待ち書類の山を悲壮感を漂わせながら見つめた。他にも電子データとなって処理を待っているのもかなりある。これら書類仕事も社長の大事なお仕事であった。
エルトランは自作ではない、普通の安全な自社製栄養ドリンク片手に強敵(書類)の処理を開始した。
否、開始しようとした。

「社長、入りますね~(マリオンちゃん、ガンバ!)」

「しゃ、社長・・・は、入ります・・・(あうぅ・・・)」

「(ん? なんかマリオンの声が何時もと違うような・・・気のせいか?)ああ、どうぞ。一体どうs・・・・・・」

書類を手に取り最初の案件を見始めた瞬間、秘書2人が部屋に入ってきたからだ。そして入ってきた2人を見てエルトランは持っていた書類を落し硬直する。見事なまでに石化する。ザ・ワールド、社長の時は止まった。
そして社長が固まった原因は2人の姿にあった。
 
 
 
・・・2人は白い競泳水着を着ており、手は白いオーバーグローブ、脚は黒タイツの上に白のオーバーニーソックスという姿だったからだ。
ちなみに今更だが今は10月、北米は北半球だから夏はとっくに過ぎ去り季節は秋である。しかも隕石落としの影響で例年よりも寒くなっているのは言うまでもない。まぁ建物内は空調がきいてるので寒くはないが、そんな時期に二人は水着姿で社長室に入ってきたのだ。不意打ちにもほどがある。むしろ予想するほうが困難・・・というか予想できるほうがおかしい。予想した人間がいるなら即座に精神病棟に隔離するべきだ。
特にマリオンの姿のほうがエルトランには衝撃があった。キャサリンはいつものコスチュームが露出度の高いものだったので免疫はある程度できていたが、マリオンのほうはこれまで普通の秘書服でいた為に、このような体のラインが良くわかる服をエルトランは見た事はなかった。しかも持っているスーツケースを前に出し、両手でボディラインを隠しつつ恥ずかしそうに顔を赤らめてこちらを見ているのだから、エルトランの精神は既に瀕死だった。

「・・・・・・・・・・・・(機能停止中」

「キャ、キャサリンさん。社長が固まってしまったんですけど・・・や、やっぱりこの服はまずかったんじゃ・・・・・・恥ずかしいですし(涙目」

「というか、マリオンちゃんのボディラインを凝視してメロメロになってるという可能性もあるけど・・・急な展開で何が起こったかわからず固まっているっていうのが正解かな? それにしても意外と胸あるのねマリオンちゃん」

「ぎょ、凝視してメロメロって・・・は、恥ずかしいです」

「というか、普段そんな感じで恥ずかしがってるけど、時々大胆になるよねマリオンちゃんって。この前社長に抱きついて寝てた事とか」

「はぅ!? あうぅ・・・・・・」

「あ・・・マリオンちゃんも沈没しちゃったか」

そんな二人のやり取りの間になんとか再起動を果たした社長だったが、それでもまだ混乱しており状況を把握する為に口を開く。まぁそれでも動揺を隠せないのは仕方ない。

「・・・ふ、2人とも。その格好は一体?」

至極当然なエルトランの質問だった。そしてその問いに答えたのは顔を真っ赤に染めて俯いているマリオンではなく、キャサリンのほうだった。

「我が社の傘下の雑誌出版社『ツィツィ』の前線慰安用雑誌、『戦士達の休養』はご存知ですよね? それの来週号に載せる予定の読者サービスです。この社長室の隣にある待機室で着替えてきました」

その言葉を聴いたエルトランの行動は素早かった。即座に机の上にある受話器を手に取り、ある番号を選択し電話をかけた。

「・・・・・・(カチ)私だ、広報部へ通達。今すぐ出版社ツィツィの責任者、特に戦士達の休養の編集部の連中を呼んで来い。来週号の事で話がある(怒」

エルトランが責任者をどんな名目で処罰しようかと考え、マリオンがおろおろとする場面だったが、事態を収束したのはニヤニヤとしながらエルトランの様子を見ていたキャサリンだった。

「あ、ちなみにこの格好は私が提案したもので、向こうにはまだ何も詳細はいってませんよ。今日が初披露ですし、社長の許可貰ってから向こうに見せる予定ですから」

「・・・先程の通達は取り消す。無かったものとして扱うように、いいね(ガチャ)」

キャサリンの発した言葉を理解したエルトランは通達の訂正をして受話器を下す。当然キャサリンをジト目で見るが、当のキャサリンは気にした様子を見せなかった。

「で、どうですか? とりあえず男性受けする事を考えた結果こんな感じになったのですけど」

「いや、まぁたしかに男性受けはするだろうけど・・・・・・かなり過激すぎる気が・・・・・・」

そういって少し考え込むエルトラン、その中には邪念が渦巻いていた。

(2人ともかわいいよな・・・美少女二人の水着姿、しかもエロスな感じな格好だから、若い兵士にウケる事は間違いないだろう。が、慰安用雑誌に掲載という事はこの二人で賢者タイムになるやつも少なくない数・・・いや、かなりの数が出てくるってことだよな。なんだかんだで『戦士達の休養』は紙媒体と電子データの両方とも売れているからな。キャサリンは・・・別にどっちでもいいか、ファンクラブもあるんだし賢者タイムなんていまさらだな。でも、マリオンで賢者タイム? ・・・なんかやたら不愉快で許せんな)

キャサリンはどっちでもいいとかいまさらとか、キャサリンファンが聞いたら怒りそうな考えをしつつ、エルトランは続きを言った。

「・・・まぁ読者サービスという点では、男性読者によっては好評だろうけどな・・・だが、マリオンはいきなりこの服だと抵抗あるだろう。他にもっと露出度の低いものはなかったのか?」

「マリオンちゃんのほうはもう1つ候補があるんですよ。といっても上に着るだけだからすぐ済むんですが・・・社長、しばらく後向いて目を瞑っていてください」

そういってエルトランに近づくと座っている椅子を180度回転させ、その上で目を瞑った(というかアイマスクをさせた)事を確認したキャサリンはスーツケースを開けて中の服をマリオンに渡した。

そして数十秒後・・・

「社長、もうこちらを見てもいいですよ」

「いや、上に着るだけで私が賛成するとでも・・・・・・」

「じゃじゃ~ん! 社長、どうですかこれは? さっきのと比べて?」

「あぅ・・・社長、ど、どうですか?」

アイマスクを取って振り返ったエルトランが見たのは、上から白い燕尾服を着たマリオンの姿だった。分かりやすく言うなら、細部は違うが初音○クのミラクルペイントのマジシャン風な衣装で色は白バージョンといえばいいだろうか。

「いかがでしょうか社長? これはマリオンちゃんもOKしてくれてますんで、ここらが妥協案ではないでしょうか?」

「むぅ・・・それが妥協案か? マリオンがいいと言うのなら・・・(一応この社長室には万が一に備え監視カメラが動いてるんだが・・・まぁ72時間ごとに記録がリセットされるタイプだが、後で映像データを保存しておくべきかどうするべきか・・・ってそうじゃない)・・・しかし、それ以外には無かったのか? 他にもっと露出を抑えたマシなのは無かっt・・・」

あまり露出度的には変わらない気がするが、燕尾服のおかげでボディラインは結構隠れている。それがエルトランに露出度が減ったという勘違いを誘発させていた。最初に吹っかけて譲歩を引き出すのは基本である。そしてそれでも渋る社長にキャサリンはある事を言ってそれをクリアした。

「じゃあ決まりですね。他にも慰安用なので過激なコスチュームがあるんですが。こう、ハイレグが際どいバニーとかあるんですけど・・・社長見ます?」

その一言でバニー姿のマリオンを想像したエルトランは顔を赤くし、頭を激しく左右に振った。

「い、いや・・・・・・遠慮しておこう。それと、それはマリオンのためにもするなよ。そういうので雑誌掲載されたら羞恥心全開で沈没するだろうから。今でも真っ赤なのに・・・(く、マリオンのハイレグバニー姿とは。見たいのは確かに見たいが・・・いかん、想像したら鼻の奥が・・・・・・えまーじぇんしー、えまーじぇんしー、煩悩退散煩悩退散煩悩退散・・・)」

・・・ちなみにニュータイプであるマリオンはなんとなくエルトランの考えていることがわかり、ますます顔を真っ赤に染めて沈没しているのはご愛嬌とでもいうべきだろうか。そしてそんなマリオンを見て更にエルトランも顔を赤くし、キャサリンは両者を見てニヤニヤしていた。

「わかりました、それじゃあ今回はやめときますね(もう、社長も素直になればいいのに・・・もっとマリオンちゃんを焚き付けないと・・・次は着物や浴衣で攻めるように言ってみるかな。でも、奇を狙って各地の民族衣装でもいいかも・・・ん? そういえば今度のサイド6での会談の会場って確か・・・・・・よし、次の衣装は決まりね。早速手配しないと)」

キャサリンはここに来る前に、おそらくエルトランはマリオンを慰安雑誌に過激な衣装で掲載するのには賛成しないだろうという事を予想しており、その対策として最初に思考停止させ、それでペースを握ろうとしたのだった。そしてそれは成功し撮影許可が下りたわけだったが、キャサリンの真の目的は別にあった。・・・それはエルトランとマリオンをくっつける事だった。キャサリンから見て二人が共に好意を持っているのはわかっていた。そしてそれはライクではなくラブの方だと見てとっていた。

(マリオンちゃんのほうは親に対する好意のようにも感じてるみたいで、社長の方も妹に接する感じで応対してるみたいだけど、どっちもラブの方の好意よね。さっさと引っ付いてくれたほうが私としてももどかしくないからありがたいんだけどな~・・・やっぱりこれからも私が強くアシストしていかないとね)

そんな事を考えているキャサリンだったが、当然ながらそんな事はエルトランとマリオンはわからない。彼女はこれからもエルトランとマリオンを引っ付けようと暗躍する事になるのだった。
そして頭がそれなりに再起動できたエルトランは素朴な疑問を抱いた。

「ところで・・・男性向けの慰安はわかったが女性兵士向けのはちゃんとあるのか?」

あくまで二人の格好は男性向けの慰安である。だがジオンやVF、他サイドの義勇軍には女性兵士が少なくない割合で存在している。その比率は地球連邦軍を遥に上回っているほどだ。特に実戦部隊では地球連邦と比較するのがバカみたいな比率だ。そしてそちらへの慰安はどうなっているのかと疑問に思うのは当然だろう。

「抜かりはありません、占領地各地の低カロリーかつ美味しい食べ物の特集を用意しています。物資の乏しい占領地でも簡単に作れ、なおかつおいしい各地の料理や、低カロリーの料理とかを掲載予定です」

「ああ、確かにそれは魅力的だろうな」

「他にもニホン地区のフンドシスタイルという服装をしたイケメン俳優を複数掲載予定です。バラ的な感じのシーンもあるので、これで腐女s・・・いえ、ソッチ系の子もOKです!」

「まて、色々と待て! なにがどうなってどうしてそうなった!?(滝汗」

そんなどうでもいいやりとりが地球でされていたその時、宇宙ではそれぞれの準備が整いつつあった。







暗礁宙域、それは様々なスペースデブリが密集する危険地帯。それゆえに滅多に人は近寄らず、部隊が秘密裏に集合する場所として最適な場所でもある。そんな宙域に多数の艦船が集結していた。

連邦艦隊 砲戦部隊旗艦 マゼラン級戦艦セント・ヴィンセント

「艦長、艦隊総旗艦カワチからの通信です。 『ルナツー経由で届いた情報によると、敵艦隊は空母、重巡、輸送艦がそれぞれ1隻追加されている以外は情報どおり。ただしその3隻は他の艦と針路が違うので、艦隊へ補給しに一時的に合流した艦隊の可能性も否定できず。なお、敵モビルスーツはビーム兵器を保有する、警戒せよ』以上です」

「ビーム兵器か・・・厄介だな」

「ええ・・・何隻生きて帰れる事か、これで全く分からなくなりました」

セント・ヴィンセントの艦橋では砲戦部隊の最高責任者となった艦長と副長が話し合っていた。そしてビーム兵器を持つモビルスーツが配備されている事を知り二人とも表情が硬くなっていた。いや、艦橋にいる全員が不安な表情となっていた。
いくら戦艦といえど、ビーム兵器の直撃を受ければただではすまない。当たり所が悪ければビーム1発の直撃で容易く沈没しても全くおかしくないのだから。そしてそんなビーム兵器を持つモビルスーツ部隊を保有する相手にこれから攻撃を行うのだから不安になるのは当然だろう。
そんな暗い雰囲気を消し飛ばそうと、艦長は大きめの声で発言する。

「だがやるしかあるまい。敵機全てが装備しているわけでもないだろうし、そもそもこれ以上核をジオンに渡すわけにはいかん。作戦は変更無しだ、トラップはどうなっている?」

「はい、既に敵艦隊が通るであろうコース上に別働隊所属のRB-79M ボール機雷散布ポッド装備タイプ15機が機雷を散布しております。無人防衛衛星の配置もそろそろ完了する時刻かと」

「うむ、予定通りだな。上から連絡のあった第3勢力とやらはどうなっている?」

「こちらも予定の宙域に例のモノを展開中だそうです」

「ふむ・・・まぁ気休め程度に考えておこう。あくまで主役は我々だ」

「というか、今でも私は不安です。艦隊を3つに分けるのは防空的な意味で危険かと。敵モビルスーツがこちらにこれない状態を作り出せなかったら、我々は・・・」

「まぁそこは新型機を配備された機動部隊に期待するとしよう。それにこの部隊にもアンティータム級空母のセント・ローがいるわけだから、最低限の防空はできる」

「その艦載機はボールですがね。新型をある程度含むとはいってもどの程度期待できるものか・・・」

「前向きに考えろ、増加装甲によって耐久力が増したRB-79Fが15機もいるのだと。フィフティーンキャリバーを・・・・・・・・・・・・フィフティーンキャリバーを搭載しているから接近された時の浮き砲座として期待できる」

前向きに考えろといいながら発言中に少し間が空いたこと、しかも間が空いたのが変な場所であった事が副長に疑問を抱かせた。特に聞かなくても問題なさそうだったが、副長は好奇心で質問をおこなってみた。

「・・・すいません、先程の間は一体なんでしょうか?」

その問いに少し迷った表情を見せて艦長は答えた。

「いや、フィフティーンキャリバーに素朴な疑問を抱いてな」

「疑問ですか?」

「うむ、フィフティーンとは15の事だろう? 言葉のままだと15mm機関砲だが、そんな重機関銃程度の口径には全然見えんし、そもそもその程度のサイズではザクを撃破できんだろう。ではあれのサイズは一体どの程度なのだろうか、とな」

「書類に載ってなかったのですか?」

「私が見た書類には連装式フィフティーンキャリバーとしか書いてなく、たまに見かけるのは127mm連装速射砲やら180mm連装砲とやらだ。流石に大きさ的に180mm連装砲とは信じられんが、127mmというのも違うように思えるのだよ。もしかしたら秘匿名称なのかもしれんが・・・・・・そういえば、君は整備班の連中と親しかったな。フィフティーンキャリバーのサイズを知ってるかね?」

「ああ、ボールの砲は換装できますから、そのような大口径砲を混合しちゃったんですね・・・フィフティーンキャリバーですが、整備班の連中とこの前整備の都合で話しましたから存じております。あれの正体は50mm連装機関砲です」

「50mm連装機関砲? ・・・そういえばコーラル級重巡洋艦の近接防空火器がたしか同じサイズ(※本SSの独自設定です)だったような?」

「ええ、それであっています。そもそもボールは急造兵器で、ルナツーに大量に在庫のあったコーラル級重巡洋艦のCIWSである、50mm連装機関砲を流用してでっち上げたのがRB-79K 先行量産型ボールです。少なくない数のコーラル級が退役し解体又はモスボール化され、その際に取り外された50mm砲弾や砲座が保管品として大量にありましたからね」

「でもなぜ50mmをフィフティーンキャリバーと呼ぶのd・・・・・・まさか」

「たぶん、そのまさかかと。フィフティ(50 fifty)キャリバーを聞き間違えてフィフティーン(15 fifteen)キャリバーと伝わり、それが公式になってしまったのではないかと思われます」

「・・・それでいいのか管理部門」

「後、127mm連装速射砲やら180mm連装砲ですが、おそらく試作された代物だと思います。以前整備班の連中がそんな事を言っていました。私が聞いたのは180mm連装砲ですが、これは陸上用の砲を流用した為反動がきつく、バランスも極めて悪くて同時に撃ったら静止目標にすら当たらず、それどころかその後の姿勢制御ですら一苦労だったらしいですよ。127㎜もおそらく海上艦艇用のを流用したと思いますので、こっちも似たような状況だったんじゃないですかね? 結局バランスと反動の観点から普通のボールには新たに開発された180mm低反動砲が採用されています」

「ふむ・・・つまり、試行錯誤の時の情報が入り乱れて混乱することになったと?」

「そうなりますね・・・・・・あ、そろそろ遊撃艦隊が移動する時間です」

そう言われて艦長が艦橋から外を見ると、そこには移動を開始した5隻の艦船がいた。そしてその5隻のうち3隻にはモビルスーツを運用できるように格納庫が後部に設置されており、1隻はマゼラン級のように見えるが前半分の外見が違っていた。そしてそれら4隻は大型ミサイルのようなものを幾つか牽引していた。そして最後の1隻はコロンブス級輸送艦・・・いや、それをベースに艦載機運用能力を付与したアンティータム級空母が4隻の後をゆっくりと追い始めた。

「む、もうそんな時間か・・・戦艦2隻巡洋艦2隻護衛空母1隻からなる遊撃艦隊、しかもモビルスーツを運用できるマゼランK型1隻にサラミスK型2隻か・・・我が軍待望の量産型モビルスーツを搭載しているとはいえ、どれほどやれるか。しかも実際の任務は遊撃とは名ばかりの囮の為の突撃部隊だ。この5隻とは別に撤退支援部隊としてビーム撹乱幕を搭載したパブリクとセイバーフィッシュを搭載した偽装輸送艦がいるとはいえ、いったい何隻生き残れるか・・・・・・」

「アンティータム級空母1隻がついていますが、その艦載機はトリアーエズが36機。まぁ機動部隊にまともな艦載機を取られているからトリアーエズのような旧式機を配備されるのはしかたないですけど。最新鋭のモビルスーツと旧式の航宙機、とっても差が激しいですね」

「まぁ対艦ミサイルを2発搭載可能なように改造されているが気休めだな。しかもあんなものまで持ち出す羽目になるとは・・・」

そう言って艦長は4隻の艦艇が曳航している大型ミサイルのようなものを冷めた目で見つめた。大型ミサイルのようなもの、それは連邦軍の開発した試作兵器の1つだった。それはかつて期待の眼差しで見られ、今では評価が一変し上層部は見向きもしなくなった兵器の一つであった。

「不安ですか?」

「失敗作の烙印を押された、あの急造欠陥試作不採用兵器を在庫処分といわんばかりに全て持ち出したんだぞ? そのことに不安を覚えずにはいられまい? あれに乗るパイロットが不憫としかいいようがない。まぁトリアーエズのパイロットよりかはましだろうが」

「・・・弾道弾と戦闘機を組み合わせた一撃離脱戦闘機、XBF-1ですか。一応不採用が決まってからもちょくちょく改良は続けられていたそうですが、5機もよく生き残っていたものですね。不採用後は対艦戦闘に重点を置いていたらしいですが、ようは使い方次第では? 投入当初は高機動でしられるヅダすら翻弄した機体ですし(11話参照)」

「限度があるわ限度が。大体速度以外に取り柄が無い機体だから、速度に慣れられたらお終いだ。現に投入当初はそれなりの戦果を出していたが、ジオンが対策をとりはじめてからは、撃墜される機体が続出しているんだ。かつて予備機を除いて30機近く製造されたのに、今や残ってるのはあの5機だけだぞ?」

「・・・パイロットには聞かせられませんが、あれの部品の在庫も生産ラインが閉じてしまったのでほとんど無いらしく、あれらも整備は万全じゃなく応急処置がされているそうです。文字通りの在庫一斉処分としか考えられないと整備班がもらしてました」

「なおさら不安になるな・・・まぁ少しでも遊撃部隊の役に立つならいいか」

「しかし、やけに遊撃部隊を気にかけますね。何か理由でも?」

「・・・同期の友人なんだよ、遊撃艦隊の旗艦の艦長とは。あいつはこの戦争が終わったら婚約者と結婚するらしく、結婚指輪も準備しているらしい。できれば生きて幸せになって欲しいと思ってな。ただ、乗っている艦のせいでやたら不安でな」

「それはおめでたいですね。って、艦のせいで不安? 遊撃部隊の旗艦といえば・・・あぁ、修復されたマゼランでしたね」

「そう、ワッケインが座礁させたマゼランだ・・・ルナツーで座礁した上に艦首を吹き飛ばされ、半分沈没していたような状態だったが・・・まさかたった1ヶ月で復帰するとはな」

「ルナツーのドックがフル稼働してましたからね。ジオンの通商破壊の影響で物資不足でしたが、中立サイドから資材を購入できたおかげで完成したと聞いてます」

「しかもテスト艦としての改修を受けてな。聞いた話だと、何隻か同じタイプを建造するとか・・・どうなんだ、そのあたり知らないか情報屋?」

「誰が情報屋ですか誰が・・・まぁ私の得た情報では艦長のおっしゃるとおり、マゼラン級の改修案の1つとして損傷したマゼラン級の何隻かを改修するみたいです。新たにマゼランT型という型番で正式採用を検討してるらしく、あのマゼランはその為の試験艦扱いだそうですよ」

「他にも複数の異なるタイプが建造されてるらしいな。まぁ実験艦とはいえ、戦力が増えるのは歓迎すべきことなんだろうがな・・・」

マゼランT型、それはルナツーで座礁、大破したマゼランを砲戦力の強化という名目で改修した戦艦だった。この世界ではマゼランはルナツーで座礁しホワイトベースの砲撃で吹き飛ばされた際、艦首は消し飛んだものの艦の後部は比較的損傷が軽微な状態となったのだ。それこそ機関部は無傷に近く、艦首さえ塞げば出航できるほどな状態だった。それをスクラップにするのはもったいないという案がでて、その際にこの改修案が採用されたのだ。
その改修の具体的な内容だが、砲戦力の強化に恥じない内容であった。すなわち、吹き飛ばされた艦首を大気圏突入艇を装備せずに延長し、上部甲板に1番砲塔と2番砲塔の間に1基、下部甲板に2基の連装メガ粒子砲を前後に増設、各部に連装機銃を増設した火力強化型がT型である。
なお、艦首部分や増設された砲塔はルナツーで建造中の艦のものを流用しており、ある意味で継ぎ接ぎの艦ともいえる。
他にもルナツーでは多数の艦を建造しており、その中には史実では出てこなかった艦も多々あった。例えばマゼラン版バーミンガムとでもいうべき、火力を前方に集中させたマゼランL型や、マゼラン2隻を艦底部を引っ付けて双胴にしたような形状をした、リシュリュー型と呼ばれるマゼランN型というものだ。それらをルナツーでは同時に複数建造し、更にリシュリュー型のような打ち上げが無理なタイプ以外はジャブロー等でも建造が行われており、弱体化したとはいえ連邦軍の底力を見せ付ける一場面であった。

「とはいえ、所詮は戦時で突貫工事された艦だ。マゼランは機関を弄っていない、つまりジェネレーター出力は従来のままだ。そんな状態で砲塔を3基も追加したのだから、砲塔1基あたりの速射性能は低下する」

「ですが、砲塔の数から考えれば十分許容範囲内では?」

「ああ、確かに許容範囲内だろう。まともに改修されていればな・・・・・・戦場では何が起こるかわからんし、それに耐久性も疑問が残るし、負荷をかけるジェネレーターも不安だ。果たしてそんな艦でどこまでやってくれるか・・・」

そう、座礁してホワイトベースの主砲で吹き飛ばされ大破してから、僅か1ヶ月でマゼランは改修されたのだ。普通ならどこに不具合があるか分かった物ではない。それに継ぎ接ぎ改修なので、耐久力はカタログスペックよりも遥かに低下している。そんな状態でどれほど活躍できるかは全くの未知数だった。

「・・・まぁ、我々が悩んでいても仕方ないことか。それにあいつは悪運がやたら強いから大丈夫だろうが・・・・・・こちらの状況は?」

「各艦いつでも大丈夫です。退役間際だったコーラル級重巡洋艦はセント・ローの護衛にあて、マゼランとサラミスの後方に配置しました」

「うむ、後は獲物が来るのを待つだけか・・・・・・果たして狩人はどちらになることやら」

そう言って艦長は艦隊の様子を見つめる。果たしてこの戦闘に意味はあるのだろうかという疑問を抱きながら・・・







???

戦争によって生じた大量のデブリが集まる暗礁地帯、サイド4宙域近海にあるデブリ帯もその中の1つだ。そしてここは史実ではZガンダム時代にアーガマが侵入(アニメ7話相当)した魔の空域と呼ばれる場所でもあった。とはいえ、コロニーがあまり破壊されていないこの世界ではデブリベルトの密度は史実よりも遥に薄かった。
そのデブリ帯の中に1隻の漆黒のステルス塗装されたコロンブス級輸送艦の姿があった。そしてその艦橋にいる者達は正規軍の軍人のようにはどうやっても見えなかった。いうならば傭兵や海賊、悪く言えば犯罪者といった風貌をしている者達ばかりだった。

「キャプテン、連邦が動き始めましたぜ。ポイントは予想通りの場所です」

「ん・・・ダミー部隊は?」

「設置完了し、現在こちらに撤退中ですわ。後数十秒後に展開します」

「わかった。設置部隊を回収次第移動するぞ」

「「あいさー」」

数十秒後、このデブリベルトから少し離れた宙域に一斉に複数の艦影が出現した。その艦影は主に3種類、連邦のサラミス級とマゼラン級、そしてコロンブス級のものだった。そしてその周囲にはより小型の、セイバーフィッシュやボールの機影も多数あった。それを見届けたコロンブス級はゆっくりと静かにその場を立ち去っていった。


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