キャリフォルニアベース ツィマッド社エリア社長室
「・・・社長、本当に皆に言わなくてもよかったんですか?」
「マリオンちゃん、うすうす分かってるんでしょう。社長が秘密にした理由を」
「それは・・・秘密を知る人が少ない方が都合がいいというのは分かるのですけど・・・」
秘書2人がなにやら話しているが、それをスルーしつつ私はモニターに向かい合っていた。そのモニターは画面が何分割かされており、複数の人物が映し出されていた。
「すみません皆さん、長らくお待たせしてしまって」
「来たようだな、エルトラン。君が一番最後だよ」
「この会議時間は限られているんだ、時間通りにきてくれないと困るよエルトラン」
「まぁVFの会議が長引いたんだろう、大目に見てあげなさい」
「むぅ・・・オレは政治や権力争いには興味が無いんだがな」
「ドズル中将、そういわずに・・・」
モニターにはオーストラリアにいるシャアにガルマ、オーストラリア方面軍司令官のウォルター・カーティス、ソロモンのドズル中将にアクシズの責任者であるマハラジャ・カーンの姿まであった。なおマハラジャはアクシズからの高速レーザー通信衛星網をフル活用しての参加であり、若干のタイムラグは存在していたが。
「さて、皆集まったので会議をはじめよう。エルトラン、君が先程までしていた会議の内容を簡単に説明してくれないか?」
「分かったシャア、それじゃあ説明するよ」
社長説明中
かくかくしかじかしかくいゾック、ツィマッド!
一通りの説明をしたところ、今回の被害報告レポートを初めて見たドズルとマハラジャは驚き、そして苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「そんなに被害が出たのか!?」
「ふむ・・・奇襲でこの損害とは。まぁ連邦も新兵器や新戦術を取り入れているから仕方あるまい」
「ところでエルトラン、新兵器の実戦実証をするならもっと小規模な地域でもよかったのではないか? ケンプファーを中破させたせいで私はあの後ガウの中で説教を・・・いやなんでもない」
「・・・・・・まぁ話を戻すけど、今回の戦闘の資料は可能な限りはやくまわすので、それで勘弁してください」
「可能な限り早く頼むよ。この秘匿回線は機密保持の為に1時間しか使えないのだから」
「では次にいこう、半年前に決まった防衛計画はどうなっている?」
「む? 半年前・・・どの計画だ?」
「ほら兄さん、結果的には政財界の働きかけと父上の判断で実行に移った、各サイドの自主防衛計画ですよ」
「・・・・・・ああ、兄貴や姉貴が渋っていた他サイドの自衛戦力の事か。もう半年にもなるのか・・・旧ザクの件で一時期は大変だったな」
「ええ、あの事件のせいでモビルスーツの配備は認められない事になりましたから。ですがモビルスーツは持って無くてもその戦力はそれなりですから、防衛戦力としてある程度は期待できますよ」
「エルトラン、君のとこが主導で艦船の設計を行ったと聞くが、実際どの程度の性能なのだ? カタログスペックは知っているが、やはり設計・建造元の意見を聞きたいものだ」
「そうですね・・・簡単に説明しましょう。現在各サイドの防衛戦力として許可されたのは新設計の航宙機母艦とミサイル駆逐艦、そして正規軍でも運用されているレダ級小型護衛艦の3つです。航宙機母艦の正式名称はドメル級多層式航宙機母艦、ミサイル駆逐艦はルーベルグ級ミサイル駆逐艦となっています。なおレダ級以外はバズーカの1発でも直撃をもらえば致命傷になりかねません。これは設計ミスではなく、上から要求された仕様です。もしサイド3に反旗を翻しても回避力や耐久力が低ければ、対艦装備のモビルスーツで処理できるだろうとの思惑で設計された為です」
「ふむ・・・それぞれの性能は?」
そういいながら皆は電子端末に記録されたカタログスペックを見ていく。半年前に建造が開始された、それも他サイド向けの艦の事なので、詳細なスペックなどは覚えていないのだ。
「はい、カタログスペックですがドメル級多層式航宙機母艦は全長200mの空母です。ただし、モビルスーツの搭載が不可能な航宙機専用の母艦です。特筆すべき事は三つの飛行甲板を持ち、その特徴的な外見から三段空母と内外から呼ばれています。最上部及び最下段外部側甲板で航宙機の着艦を行い、最上部及び最下段内部、2段目甲板両面からカタパルトによる発艦を行います。中央甲板は上下に2つのカタパルトを持つ為、同時に発艦できる機体は理論上では8機となっており、最大搭載機体数は60機です。武装は6連装ミサイルランチャー4基の他に連装機銃を16基装備します。ただ、加速性能や運動及び機動性はかなり低く、装甲は紙です」
「・・・パプワ級や連邦のコロンブス級よりも脆弱だな。補給艦に劣る空母というのも珍しい」
「まぁ純粋な空母なら前線まで出てこないだろうし、この艦の目的はコロニー防衛と商船船団の安全確保だろう? それにある程度の妥協は止むを得ない。エルトラン、ミサイル駆逐艦の説明を頼む」
「わかった。ルーベルグ級ミサイル駆逐艦は150m級のレダ級護衛艦を上回る180m級の高速ミサイル艦だ。武装は135mm連装レールガン3基、艦中央部左右に4連装大型対艦ミサイル4基、艦首に145型大型ミサイルランチャー4基及びCクラス小型ミサイル多連装ランチャーが4基、艦後部左右に28連装×2ポッドの多連装対艦ロケット弾発射機を2基、艦前部中央よりの側面の上下にマイクロミサイルポッド発射機を4基、艦橋横に新型ミサイルの18連装発射機を2基、艦橋周辺部に連装機銃を4基装備している。まぁ一目で分かるとおり、主に対艦戦闘を重視した設計となっている」
「エルトラン、マイクロミサイルと新型ミサイルについて詳しく頼む」
「了解。このマイクロミサイルと18連装ミサイル発射機なんだが、マイクロミサイルは射出された後にコンテナの側面が開き、内蔵されている多数の小型ミサイルを乱射する代物で、1ポッドあたり24連×3面の72発を内蔵している。新しい面制圧防御兵器として開発した新兵器だ。更に18連装ミサイル発射機の搭載ミサイルは、ある程度大型化させ先端にマルチシーカーを備え、ミノフスキー粒子散布下でもある程度の誘導を可能な機能を持つのが特徴で、これによって有線誘導ミサイルよりも誘導性は低いものの、高速で敵機を追尾する事が可能となった。まぁ対艦ならともかく小型目標だと、回避運動を取られたらよく回避されるという試験結果があるんだけどね」
「つまり、数撃てば当たるというコンセプトか?」
「そうだね、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるという諺通りの艦だよ。とはいえ、逆に言えば大量のミサイルを持つわけだから、下手すればマシンガンの弾丸1発が当たれば誘爆して瞬時に爆沈する可能性もある。これもドメル級空母同様、ジオンに反旗を翻した際に処理をしやすくする為の処置だ」
「むぅ・・・胸糞悪いな、兵に死ねと言うのか」
「・・・私だって心苦しいよ。だが上は『お飾り』として各サイドの防衛戦力の配備を許可したわけだから、これぐらいしないととてもじゃないが戦闘艦の配備は不可能だった。我が社の設計が通ったのも、この防御がスカスカという点が他社よりも極端だった事が理由だったからね。うちの艦設計部門は嘆いていたよ。しかもそれが量産されてるから、収入という観点ではウハウハだけど、素直に喜べん」
「・・・そうか、すまんな」
「いいさ、防御はあれだが、火力としては十分な艦だ。ちなみに他社の提案した設計は防御はそこそこ、火力はショボショボってのが多かったね。いわば警備艇や巡視船といった代物だったが、サイド側が新たに『せめてムサイ級並の火力を持った艦』という要求を出したせいで、それなりの防御力の艦に火力を強化した結果、ムサイ級クラスとはいかないものの攻防のバランスがそれなりに取れた艦になったが為に、もし敵となったら沈めにくいじゃないかって危険視されて落とされたらしい」
「まぁ裏切った時に容易に沈めれないという点は重要だから仕方ないか・・・だがよくサイドの方が採用したな」
「まぁ火力はあるから案山子としては十分と思ったんじゃないかな?」
「で、空母艦載機のほうはどうなった? 新型のリール航宙機は配備を許可されていないのだから、売り払うのは旧式機だろう? 攻撃機はガトルだと思うが、戦闘機は?」
「ああ、DFA-05 スピアとDFA-06 ピルムを売り払っている。正規軍じゃほとんど訓練機扱いだから丁度いい在庫処分だったよ」
「・・・ああ、外見がセイバーフィッシュに似てるから戦場に投入されなかったあれか。この前本国の練習部隊で演習をしているのを見かけたが、中々の腕前だったな」
「もうスピアは本国に配備されていないはずですので、それは恐らく教導航宙部隊の所属機でしょうな」
「え~と、じゃあ軽く説明するけど、DFA-05 スピアはガトルが戦闘機というよりも攻撃機的な役割を持っていたため、純粋にトリアーエズ等と戦う為に70年代初頭に開発された航宙戦闘機だ。開発にはうち以外にMIP社が参加してて、この頃からMIP社との機動兵器開発協力体制が一層加速していったんだよね~懐かしい。あ、武装は20mm機関銃を4基と2連装ミサイル又は20連装ロケット弾ポッドを2基装備するよ。性能的にはトリアーエズにはある程度勝るという結果となり、採用が決定された」
「たしか・・・その直後だったな。連邦のセイバーフィッシュが登場したのは」
「ああ、セイバーフィッシュが相手だと確実に劣るレベルだから、77年にDFA-06 ピルムが登場してからはコロニー防衛用として配備されたり、航宙練習機や武装を外し偵察機材を搭載した偵察型が運用されてたんだ。知っているとは思うけど形式番号としてはF型が戦闘機、R型が偵察機、T型が練習機となっている。半年前、真っ先に各サイドへ売却されていったのがこの機体だったから、今じゃ正規軍にはもう配備されてないんだよね」
「このスピア、たしかそれなりに扱いやすい機体だが練習機として以外では、ほとんど活躍の場がなかった航宙機という評価だったな」
「ん? いやまて、この機体は以前グラナダに現れた連邦の小規模な艦隊の迎撃作戦で活躍したんじゃないか?」
「む・・・・・・ああ、たしか練習飛行隊が飛行訓練中に偶然連邦艦隊と遭遇し、そのおかげで迎撃部隊の早期展開ができたというあれか」
「ああ、軍の広報が練習機が敵艦隊を食い止めたという宣伝をしていたはずだが・・・」
「いえ、あれの真実は練習飛行隊の多くが敵機に落とされたという結果だったはずです。確かに飛行隊が時間を稼いでくれたおかげで緊急出撃した迎撃部隊が敵艦隊を撃破しましたが、その結果若い訓練生が何人も戦死したと飛行隊の者が言っていた事があります」
「まぁその通りの結果なんだよね。ぶっちゃけ戦闘機としては勿論、偵察機としても色々旧式だし、もう練習機又は簡易攻撃機扱いなんだよね。で、その後継機として開発されたDFA-06 ピルムだけど、これは入手した連邦軍のFF-3 セイバーフィッシュの設計図をベースにスピアと同様にMIP社と共同設計した航宙戦闘機だ。外見はセイバーフィッシュに似ているが、セイバーフィッシュを更に宇宙専用にした感じの改設計をして、各部に姿勢制御用スラスターを装備した結果、性能的には宇宙用のセイバーフィッシュの初期型と互角または若干上回っている。ちなみにブースターパックは機体と一体化されており分離は不可能となっているのも特徴だね」
「まぁとある事情で艦隊には配備されなかった、ある意味悲劇の機体だな」
「・・・そうなんだ、優秀な航宙機だったんだけど、外見がベースとなったセイバーフィッシュに似すぎていたんだ。そのせいでミノフスキー粒子散布下では友軍が誤射しかねないと言われ、その多くがコロニー防衛隊に配備されたわけだ。まぁその外見からセイバーフィッシュ代わりとしてアグレッサー部隊に配備され、多くの優秀な戦闘機パイロットを輩出したのは特筆すべき点だね。ただし、機体の拡張性が余り無い、ハードポイントが4箇所しかない為に生じた火力不足、旋回性能はスラスターを使ってもモビルスーツに劣る等といった様々な問題点が浮上したのも忘れちゃいけない。まぁこれらのデータは地上戦用の戦闘爆撃機であるDFA-07 ジャベリンにある程度受け継がれ、その結果ジャベリンはセイバーフィッシュを圧倒する性能を手に入れることとなるんだけどね。肝心の武装は30mmガトリング砲2基の他に、対艦用大型ミサイル、3連装ミサイルポッド、20連装ロケット弾ポッドのどれかを装備するわけだ」
「説明をありがとうエルトラン。それで最初の質問に戻るわけだが、これらの兵器はどの程度活躍できそうなんだ?」
「そうだね・・・各サイドの防衛や船団の護衛としては十分だね、張子の虎的な意味で。だけど本腰を入れた侵攻を受けた場合、時間稼ぎくらいしか無理だよ。基本的に空母はペラペラ、ミサイル駆逐艦は動く弾薬庫、航宙機は旧式機。救いはレダ級小型護衛艦がいることくらいだね。ただ輸出仕様のレダ級はある程度のダウングレードしたタイプだから、正規軍やうちで使ってる奴よりも性能は若干低めになってるよ」
「まぁ仕方あるまい。それでは各サイドの防衛戦力の配備状況はどうなっている?」
「それについてはキャシー、説明頼む」
「はい社長。それでは他サイドの艦艇配備計画ですが、各サイドともそれなりに順調に進んでいるようです。レダ級護衛艦だけでなく、他コロニー向けに建造された航宙機母艦のドメル級多層式航宙機母艦、ミサイル駆逐艦のルーベルグ級ミサイル駆逐艦の引渡しも順調との事です。ただ、先程社長がなされた説明でも言われたとおり、ドメル級空母もルーベルグ級駆逐艦も装甲は紙に等しく、ジャイアントバズーカどころか通常弾頭のザクバズーカ1発、それどころかザクマシンガンでも致命傷になりかねませんので調達数は少なめです」
「まぁさっき言ったように、反旗を翻したら容易に撃破できるようにすること、それが建造の際に上から出た命令だったからな。艦載機も多くは我々のお古の旧式機だし、ミサイル駆逐艦なんて数が無ければ命中率的な意味でも話にならん。唯一まともなのがダウングレード版のレダ級っていうのもあれだけど」
「とはいえそれなりの数が建造されています。サイド1はドメル級空母3隻、ルーベルグ級ミサイル駆逐艦9隻、レダ級護衛艦18隻を就役させる計画で、年内には実戦配備が完了します。この艦隊規模の理由ですが、同じL5にあるソロモン要塞が大きいです。万が一攻撃を受けたらソロモンからの援軍が来るまで時間稼ぎをするのが目当てだからです。これは同じL5にあるサイド4も同様の考えで、サイド4はサイド1と同じペースで軍備の調達を進めており、配備する艦の数も同じです。こちらも年内には実戦配備が完了する見込みです」
「まぁ小規模な艦隊ならなんとか防衛できるだろう」
「次にサイド2ですが、中立を宣言したサイド6が近いので、軍備は各サイドの中で最も低いものとなっています。具体的にはルーベルグ級ミサイル駆逐艦2隻、レダ級護衛艦8隻の計10隻を就役させる計画です。その任務も純粋にコロニー防衛任務となっており、空母が無いのもコロニーから発進する事で対処するつもりのようです」
「ある意味、一番無難な選択だろう。連邦からあまり目をつけられないだろう戦力にしたのは間違いではないな」
「小規模ゆえに警戒をもたれない。だが兵器購入という義理は果たしたといったところか」
「最後に・・・親ジオンサイドであるサイド5ですが、現時点で大規模な軍拡を計画しています。具体的にはドメル級空母6隻、ルーベルグ級ミサイル駆逐艦18隻、レダ級護衛艦42隻となっています。この他にもムサイ級軽巡洋艦やチベ級重巡洋艦の購入も打診しており、水面下ではヘッジホッグ級防空護衛艦やジークフリート級巡洋艦、ガニメデ級高速空母とそれに載せるモビルスーツも購入可能かどうか打診しているそうです」
この発言にサイド5の軍拡情報を知らなかった者は呆然とした。具体的には地球圏にいなかったマハラジャとか。呆然とするのも当然だ。いくら輸出用の低スペック艦とはいえ、それだけの規模だと正規軍の中規模艦隊程度ならやりあえるのだから。しかも現役バリバリの戦闘艦や輸出を禁じられたモビルスーツまで購入打診しているとなると、もはやジョークではないかと思うのも無理は無い。
「・・・・・・本気か?」
「我々も調査しましたが、事実のようです。ただ、ジオン上層部は却下する方針なのは間違いありません、これは裏を取りました」
「とはいえ、もし実現したらコロニーの財政が傾きかねないぞ? 幾らサイド5が親ジオンといえど、これほどの軍拡をする理由はなんだ?」
「この大規模な軍拡の狙いですが、この前サイド5の代表がスペースノイドの独立をうたった強硬派に交代したことが大きな原因と考えられます。彼らはどうやら今後構築されるであろうコロニー国家群の中での地位を考えて軍拡を行っているようです」
「・・・なるほど、武力を持ち貢献すれば発言力が高くなると考えているのか。だがそれほどの出費をサイド5の住民は許容するのか?」
「彼らは巧みな宣伝工作で住民を取り込むことでこの問題をクリアしています。我々が行ったサイド5の世論調査では、スペースノイドの独立の為なら軍拡の出費を許容するという調査結果が出ています」
「だが、戦力として期待できるのか? 船は作れても人材はそう簡単にはつくれんぞ!」
「まぁ新設計の2つとも、ダメコンを割り切ったせいで少数の人員で動かせる設計となってるから・・・不可能ではないっていうレベルではあるね」
その言葉に皆がため息をつく。まぁそれもしょうがないと思うのはしかたないだろう。
「ところでエルトラン、連邦へのリークはどうなったんだ? ちゃんと伝わったのか?」
「ああ、コーウェン准将に伝えておいた。向こうも隕石落しをしたザビ家の二人に核が渡るのを恐れているからな。レビル将軍にも伝えておくという返事が来たよ。十中八九、連邦軍艦隊が輸送艦隊に攻撃を仕掛けてくる、既にそれらしき艦隊の出航も確認されたよ」
「うむ、俺のとこの部隊も確認したぞ。マゼラン級を含む多数の艦が出撃を行ったようだ」
「なら間違いないか・・・そういえばドズル閣下、コンスコン少将にはなんと?」
「ふん、姉貴がでしゃばってくるだろうから、艦隊の指揮とその責任のどちらも預け、率いる艦隊の安全を最優先で考えろと言っておいたわ」
「結構です。無駄に兵を死なせる事もありませんし」
そしてしばらく輸送計画について話し、一区切りついたところでガルマが言った。
「ところでエルトラン、今度サイド6で会談をするんだって?」
「・・・耳が早いね。うちでもまだ幹部しか知らない情報なんだけど」
「ああ、イセリナ経由だよ。なんでもサイド6の中華街でジオニックとツィマッドの社長が参加するパーティーがあるって事で、その筋では結構情報が流れてるらしい」
「うわぁ・・・なんかまた面倒なことになりそうな予感がする」
「まぁ諦めた方がいいな。で、その会議で向こうと話しをするのか?」
向こう、その単語でエルトランの表情が苦笑いしていたものから真剣なものに変わった。
「・・・・・・ああ、武官と文官が2人くるらしい。私と秘書1名の4人で話しをする予定だ」
「予定に変更は? キャンセルされたりしないだろうな」
「大丈夫だろう。前回の情報提供の際、こちらで保護してたテム博士と他一名の身柄引渡しをしたんだ。向こうにとっては無碍にできんだろうさ。それに・・・今回くるのはレビル将軍の命を受けたコーウェン准将らしい」
史実ではサイド7でガンダムが戦闘を行った際に宇宙へ放り出されたテム博士と他一名だが、ここではツィマッド社の情報部によって回収されていた。とはいえ、彼らの回収は半ば偶然であった。機動戦士ガンダムを知るエルトランはサイド7に常に1~2隻の情報収集艦を展開させており、その動向を見守っていた。そして友軍のザクがコロニーに侵入したのを確認した時、戦闘が行われる可能性があると現場が判断し、黒く塗装された観測艇や観測機器を展開して情報収集を行っていたのだ。そしてコロニーに穴ができ、そこから放り出された人影を偶然捕らえたのだ。この時、放り出されたのは建設に関わっていたコロニー公社の人間だと情報部の面々は勘違いをし、船乗り精神に基づいて救助活動を行った。が、救助したのが連邦兵なのでとりあえず捕虜にしてカタリナに戻るまで所定の任務を遂行、彼らが帰還した頃には社長は地球に下りていたというオチがついた。ちなみにテム博士の復帰は表沙汰にできない事情がありすぎた為に、宇宙に放り出されたものの民間船舶に救出され、酸素欠乏症になりかけていたために治療とリハビリを受け、それが完了したので軍務に復帰した、という形になったらしい。
「で、今度は何を渡すんだ?」
「ホワイトベースの『軍人』を渡するつもりです。捕虜移送中に『偶然』エンジントラブルで輸送機が海に墜落、『偶然』付近にいた連邦潜水艦が回収してしまったというシナリオだよ。交渉結果次第で追加の物資を載せるかもしれないけどね」
「まったく、エルトラン君。その遊び癖は治した方がいいよ」
「ハハッ、まぁ白々しいとは自分でも思いますけどね」
微妙に乾いた笑いをしたエルトランだったが、そんな彼にシャアが警告を発する。
「それはそうとエルトラン、気をつけたまえ。どうもあの2人が動いているみたいだ」
「・・・・・・というと?」
「元脱走兵の海賊と渡りをつけているという噂がある。まぁそうでなくても君はあの2人から嫌われているんだ。警戒するに越した事は無いさ」
「脱走兵・・・とはいえ、モビルスーツ数機程度なら移動中も護衛がいますから対処できるかと思いますが・・・念の為警戒しておきます」
「ああ、君が死んだら計画は狂う。気をつけてくれたまえ」
「そうだな、万が一グール隊やらが出張ってきたら危ないだろう。それに狙撃の場合はかなり危険だ」
「う゛・・・否定できないのが怖い」
そしてその後しばらく話を詰めていったが、秘匿通信の限界時間となったので今回の秘密会議は解散となった。当然秘匿回線での会話時間延長を図る事が満場一致で決議されたのは言うまでも無い。
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キャリフォルニアベース ツィマッド社エリア社長室
その日の深夜、後十数枚の書類決済で仕事が終わるといったレベルにまで仕事を終えたエルトランだったが、そこで限界が来て横長ソファーにもたれかかって休憩するエルトランの姿があった。ここ数日平均睡眠時間が3時間前後の彼には凄まじい睡魔が襲っていた。思わずウトウトと夢の世界にいきかけたエルトランだったが、そこにマリオンが飲み物を持って訪れた。
「失礼します。社長、お茶をお持ちしました・・・あ、お休みでしたか?」
そう言ってマリオンはカップを手渡しつつ、エルトランの横に座った。
「お、ありがとう。少し疲れて休憩してただけだよ。・・・はぁ、いい香りだ。ジャスミンティーのおかげで眠気が少し遠のくよ。もうちょっと頑張れそうだ」
程よい温度のお茶を飲んで一息つくエルトランだったが、そこにマリオンが疑問をぶつけた。
「・・・社長、今日の会議で何を悩んでいたんですか?」
「ん? 何のことだい?」
「今日の簡易会議の最中、ジャック大佐と会話された時です。何か、様子がおかしかったので・・・」
「え・・・ジャック大s・・・」
マリオンにそういわれてエルトランは会議中に悩んでいた事を思い出した。そして、会議中にあれだけ悩んでいたのに、今の今までその悩んでいたという事実そのものを思い出さなかったことに戦慄した。
「(そうだ、なんで忘れていたんだ? 忙しいから・・・いや、それにしては今の今まで、指摘されるまで気がつかなかったというのはおかしい。まるで、記憶を操作されているような・・・)」
「(また悩まれている)なにか・・・ご自身のことで深く悩まれていたようですけど」
エルトランの顔を横から覗き込むマリオン。純粋に心配してくれるマリオンに、ついエルトランは悩みを言ってしまった。
「・・・・・・私の個人的な悩みだよ。私は一体何なのかというね」
「社長は・・・エルトランさんはエルトランさん以外の何者でもありません・・・それに、自分が何かなんて、他の誰もがわからないと思います」
「・・・ありがとうマリオン。確かに自分が何者か知ってる人はいないだろうな」
「それに・・・それを言うのなら私は・・・」
「あ・・・すまない。無神経な事を言ってしまったかな」
「いえ、大丈夫です。気になさらないでください。それに、目指す目標があるなら自分が何者かなんて気にしませんし」
「・・・強いんだねマリオンは」
「いえ・・・・・・でも、なぜ急にそんな悩みを?」
「そうだね・・・例えるなら、知ってるはずの記憶を思い出せないんだ。忘れたっていうレベルじゃない、人物像とか特定の情報のみ思い出せないという状況かな。年は取りたくないものだよ」
「・・・社長は若いじゃないですか」
「・・・・・・精神年齢的には50に近いけどね(ボソ」
「え?」
「いや、なんでもないよ。ただ、そのせいで思うんだ。私は一体なんなんだろうって。まるで記憶を操られている人形のような、そんな感じかな。・・・・・・はは、馬鹿馬鹿しい。なんでこんな馬鹿馬鹿しい考えを思いつくんだろうね私は」
ハハハと元気の無い乾いた笑いをあげるエルトランだったが、マリオンの取った行動によって笑いは止まった。というか硬直した。
・・・空元気で笑っているエルトランを励まそうと、マリオンが横から抱きついたからだ。
「マ、マリオン!? 一体何を!?」
「・・・こ、こうすれば男の人は元気が出るって、ハマーンさんが言ってました」
顔を真っ赤にして呟くマリオンを見ながら、エルトランはマリオンに大変な事を吹き込んだハマーンに対し、GJと褒めるべきかなんてことを吹き込むんだと怒るべきか迷いつつ、シャアとララァに対し同情した。シャアにハマーンが抱きついて、それにキレるララァの姿が容易に想像できたからだ。
そして少し現実逃避から帰ってきた時に気がつく。肩、というか腕に何かやわらかい感触があることに。そして現状はマリオンが横からエルトランを抱きしめている。つまり・・・
「(マリオンってロリ巨ny・・・いやまて落ち着け! 煩悩退散煩悩退散煩悩退散! 紳士的に、紳士的に落ち着かねば)マ、マリオン。できるならもう離してくれても大丈夫だYO」
「・・・こうされるのは、嫌でしたか?」
・・・至近距離からのマリオンの困り顔にエルトラン沈没。ついでに言えば一時的に凌いだ睡魔が再度襲ってきて、今にも眠りそうな状態だった。
「いや、嫌いじゃないが・・・睡魔が酷くて眠りそうなんだ」
「じゃあ、眠られたら毛布を持ってきます。社長はこのままお休みください」
普段のエルトランならソファーで寝ずに寝室に戻って寝ていただろう。が、今の彼はただでさえ睡眠時間が少ないのに前日に徹夜をしたので限界を突破していた。彼は深く考えずに睡魔に身をゆだねる事を選択した。
「・・・・・・はぁ、まぁいっか。それじゃすまないけど、ここ(ソファー)で眠らせてもらうよ」
「はい、おやすみなさいエルトランさん」
「ああ、おやすみマリオン・・・(・・・そういえばマリオンから社長ではなく名前で呼ばれたのも久しぶりだな)」
そう思いながらエルトランは眠っていった。僅か数分でいびきをかくあたり、相当疲れていたのだろう。それを見ていたマリオンは隣の寝室(社長用仮眠室)から毛布を取ってきた。そして持って来た毛布をエルトランと自分にかけて座りなおし、自分が思っていた事を口にした。
「・・・私は、社長の事が・・・エルトランさんの事が好き。でも、これが父親に対する好きなのか、愛する方の好きなのか、まだ分かりません。・・・この答えが見つかった時、貴方は私を受け入れてくれますか?」
そう呟き、マリオンは寝ているエルトランの肩に頭をもたれかけ、目を閉じた。
・・・次の日、肩にもたれかかって眠っているマリオンに寝起きのエルトラン社長が仰天したのは言うまでも無い。