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No.2193の一覧
[0] 機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)[デルタ・08](2007/12/29 19:02)
[1] 第2話[デルタ・08](2006/08/07 23:26)
[2] 第3話[デルタ・08](2006/08/08 14:00)
[3] 第4話[デルタ・08](2006/09/05 16:19)
[4] 第5話[デルタ・08](2006/08/11 22:36)
[5] 第6話[デルタ・08](2006/08/21 12:27)
[7] 第8話[デルタ・08](2006/09/05 16:16)
[8] 第9話[デルタ・08](2006/10/06 09:53)
[9] 第10話[デルタ・08](2006/10/06 09:54)
[10] 第11話[デルタ・08](2006/11/07 11:50)
[11] 第12話[デルタ・08](2006/12/26 13:42)
[12] 閑話1[デルタ・08](2008/01/01 20:17)
[13] 13話(別名前編)[デルタ・08](2007/07/01 00:29)
[14] 14話(別名中編)[デルタ・08](2007/07/01 00:22)
[15] 15話(別名中編2)[デルタ・08](2007/07/01 00:27)
[16] 16話(別名やっと後編)[デルタ・08](2007/07/01 00:31)
[17] ツィマッド社奮闘録 17話[デルタ・08](2007/07/30 11:55)
[18] ツィマッド社奮闘録18話[デルタ・08](2007/08/16 12:54)
[19] 19話[デルタ・08](2007/08/31 13:26)
[20] 簡単な設定(オリ兵器&人物編) [デルタ・08](2007/08/31 13:47)
[21] 20話[デルタ・08](2007/10/11 19:42)
[22] 21話[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[23] 22話[デルタ・08](2007/12/25 15:59)
[24] 23話[デルタ・08](2007/12/31 18:09)
[25] 閑話2[デルタ・08](2008/01/01 20:15)
[26] 24話[デルタ・08](2008/02/24 17:56)
[27] 閑話3[デルタ・08](2008/05/23 11:31)
[28] 25話[デルタ・08](2008/07/29 14:36)
[29] 26話[デルタ・08](2008/10/18 17:58)
[30] 27話[デルタ・08](2008/10/31 22:50)
[31] 28話[デルタ・08](2009/01/18 12:09)
[32] 29話[デルタ・08](2009/03/18 17:17)
[33] 30話(又は前編)[デルタ・08](2009/04/02 16:07)
[34] 31話(別名後編)[デルタ・08](2009/05/14 22:34)
[35] 閑話4[デルタ・08](2009/06/14 12:33)
[36] 32話[デルタ・08](2009/06/30 23:57)
[37] 33話 オーストラリア戦役1[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[38] 34話前半 オーストラリア戦役2-1[デルタ・08](2010/04/01 01:45)
[39] 34話後半 オーストラリア戦役2-2[デルタ・08](2010/04/01 01:46)
[40] 35話 オーストラリア戦役3[デルタ・08](2010/08/26 00:47)
[41] 36話前半 オーストラリア戦役4-1[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[42] 36話後半 オーストラリア戦役4-2[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[43] 37話[デルタ・08](2010/12/24 23:14)
[44] 38話[デルタ・08](2010/12/26 01:19)
[45] 閑話5[デルタ・08](2011/01/04 12:20)
[47] 39話 前編[デルタ・08](2012/09/30 17:14)
[48] 39話 後編[デルタ・08](2012/09/30 17:23)
[49] お知らせとお詫び[デルタ・08](2015/04/03 01:17)
[50] ツィマッド社奮闘禄 改訂版プロローグ[デルタ・08](2016/03/11 19:09)
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[2193] 36話前半 オーストラリア戦役4-1
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/26 00:40
北部戦線


北部戦線の防衛ライン、その少し後方に多数設置された急造の野戦砲撃陣地。そこかしこに土塁や塹壕が築かれており、そこに設置されていた無人の多連装ロケットランチャーの迷彩シートがはがされていた。
他にも野戦榴弾砲を荷台に搭載したサムソントレーラーの姿もあり、土塁の影にはザクタンクが数両待機していた。それだけに留まらず、塹壕にはザクJ型数機がマゼラトップ砲を構えてその時を待っていた。
そしてこの混合砲撃部隊の指揮車両のサムソンに1つの命令が入ってきた。

「・・・命令きました。『D5・X193・Y755・TN』です」

「うむ、座標入力急げ!」

「・・・砲撃準備完了!」

「キメラ1、撃て」

その言葉と共に1機のザクJ型がマゼラトップ砲をぶっ放した。そして数十秒後、再度通信が入った。

「修正値、E2のN1だそうです」

「分かった、直ちに修正し再度砲撃せよ」

そして再び発砲し、その数十秒後・・・

「・・・全力射撃のオーダー来ました! それとランチャーも全て放てとのことです」

「よ~し、各機砲撃開始! ロケットも全部ブチかませ!」

その命令が各機に伝わった次の瞬間、陣地から一斉に光が解き放たれた。大量に設置された無人の多連装ロケット砲は基本的に使い捨てだが、その分一時的な火力の投射量は洒落にならない。直撃すれば戦車も破壊できるロケット弾が大量に解き放たれていく。そして連続して砲撃をするのはマゼラトップ砲を構えたザクJ型とザクタンクを筆頭とする砲撃部隊だった。撃ち始めて十数分後にはザクタンクの180mmカノン砲が弾切れになり、マゼラトップ砲を構えたザクの予備弾装もそろそろ無くなりかけるまで続行された。

「よ~しよし、いい感じだな。とはいえ弾切れになり始めたし、そろそろ陣地転換するべきか」

「そうですね。向こうもこちらの位置を把握している頃でしょうし、移動すべきかと・・・」

「よし、各機陣地転換するぞ。慌てず速やかに移動せよ」

が、それらは僅かに遅かった。砲撃を終了し移動を開始したこの部隊に、無数の砲弾が降り注いだのだから。それでも自走榴弾砲レベルならまだなんとかなっただろう。問題はそれが明らかに自走榴弾砲レベルではない、戦艦クラスの砲弾が降り注いでいる事だった。

「第3小隊のザクタンクが消し飛びました! 至近弾だったのに全機応答ありません!」

「こ、この砲撃の威力は・・・まさか陸上戦艦の射撃か!? まずい、総員全速でこのエリアを離れろ、急げ!」

そう指揮官が命ずるが、もはや手遅れなのは明らかだった。どう考えてもこの陸上戦艦の艦砲射撃は複数と思われる量で彼らの頭上に降り注いでおり、彼らにとっての地獄の釜の蓋は既に開いていたのだ。そう、この砲撃陣地の命運はもはや尽きていた。数分後、この砲撃陣地の部隊は極僅かな生存者を残し文字通り全滅していた。いかにモビルスーツといえど、戦艦クラスの艦砲射撃では至近弾ですら致命傷なので、簡易陣地しか存在しないただの砲撃拠点では防ぐ事もままならないのだ。
こうして砲撃を仕掛けるジオン陣地はビッグトレーとベヒーモス、そしてミニトレーからの砲撃の前に次々沈黙していく。レーダーが使えないといってもある程度ならば使用可能だし、対砲兵レーダーも使える。そしておおまかな位置を掴んだ後は砲撃によって怪しいポイントを吹き飛ばせばいい。ドラゴンフライ等の偵察機を飛ばし弾着修正をすればより短時間で殲滅できる。

だが陸上戦艦が砲撃陣地を主に攻撃するという事は、ジオン側の防衛ラインに対する砲撃が疎かになるということだ。簡易的なつくりとはいえ、正面から敵の攻撃を受け止める防衛ラインにはザクやグフがマシンガンやバズーカを構え、連邦軍が射程に入るのを待っている。その少し後方にはマゼラトップ砲を構えたザクJが砲撃の合図を今か今かと待ち構えていた。とはいえ、そのJ型は普通のJ型ではなかった。手にマゼラトップ砲を持っているのは別にいい。腰にマゼラトップ砲の予備弾装をしこたま持っているのも特に問題ない。が、右肩のシールドと左肩のスパイクショルダーの上に観測機器と通信機器が、それもとってつけたかのように増設されているのは異様だった。しかも全ての機体が用途は同じだが外見は全く異なったパーツを使っており、機材から機体内部に繋がるコードもむき出しだ。これがザクキャノンならまだある程度は理解できるが、普通のザクにこんなものはいらない。それだけでここのザクJが現地改造機であることが伺える。

現地改造といえば連邦軍の陸戦型ガンダムを現地改造したEz-8やジオンのザクタンクが有名だが、それらは全て機材不足や戦力の足しにするために改造を行われており、このザク達も同様の理由で改造されていたのだ。
そもそもこの北部戦線において支援射撃を専門に行う機体が少なく、特に防空にも対地攻撃にも威力を発揮するザクキャノンの絶対数が不足していたのだ。いや、それどころかそれを補うキャノン砲を装備したザクタンクですら不足していた。オーストラリア戦役の初期、北部戦線の部隊は進攻に失敗した為に慢性的な砲撃部隊の欠乏に悩まされており、その為現地ではこのような砲撃用に改造したザクをでっち上げて戦線に投入していたのだ。流石に性能の向上はスズメの涙程度だったが、機材さえあればそれほど機体を弄らず機材を乗せて固定し、それらの配線を弄る程度なら数時間程度で行えた為、このような簡易急造型ザクキャノンもどきザクは結構な数がでっち上げられた。

このようにそれなりの戦力を整えていたジオン防衛部隊だったが、それと戦う連邦軍もジムや鹵獲モビルスーツを持っており従来兵器もかなりの数を保有していた。が、それでもこれだけだと連邦側の分が悪いのは言うまでも無い。
だがここで忘れてはいけない事が1つだけあった。それは自分達の思惑通りに相手が動いてくれるとは限らないという事だ。
防衛陣地に自走榴弾砲やロケット車両からの砲撃が加えられ、61式戦車が前進してくる。そしてそれに向かってマシンガンやバズーカを放ち、61式戦車を吹き飛ばすザクやグフ。少し後方にいた改造ザクJの一部の機体で、連続砲撃の衝撃で肩に乗せていた機材がずり落ちたというハプニングもあったが、概ね全ての機体が砲撃を続行し、進軍する連邦軍を叩いていた。ただそれだけを見るならば、連邦軍の進撃とそれを防ぐジオンの構図だった。・・・連邦の後方にやたらでかい何かが複数存在する事を除けば。
それに最初に気がついたのは偵察を行っていた強行偵察型ザクだった。

「連邦め、調子に乗りやがって・・・む? なんだあれは?」

「どうしたパパラッチ2、何かあったのか?」

「敵の後方に妙な物が・・・トレーラーに何か乗せている? 大砲かあれは? 画像データを送る、各機で確認されたし」

そう、進撃している連邦軍の遥か後方に巨大な大砲を載せたトレーラーがいたのだ。詳細は各部にシートがかけられていた為に分からなかったが、それが何かの武装だろうという事は容易に想像がついた。

「砲口が四角い・・・レールガンかビームバズーカですかね? それにそれぞれ微妙に異なっている、急造兵器か?」

「ビーム兵器でも、あんな後方に配置するか? ・・・隊長、どうしますか?」

「こちらのバズーカの射程外だ、ほっとけ。曲射すれば届くかもしれんが、まずは目の前の敵から確実に始末するぞ。弾は有限なんだから、あれの脅威度が分からん以上明確な脅威に対処しろ。いざとなれば砲兵に任せればいい」

「了解」

が、ここで無理にでも攻撃しなかった事を彼らは後悔する。なぜなら、そのトレーラーに乗せられた何かから巨大なビームの閃光が迸り、ジオン側の防衛部隊が密集していたところを飲み込んだのだから。この攻撃によってその地点にいたザク4機とグフ2機は大破し、運悪くビームが直撃した機体は跡形も残らなかった。そして続けざまに同様のビームが複数迸り、何箇所かの防衛陣地が文字通り消滅した。

「な・・・今のは何だ!?」

「後方のデカブツがビームを・・・・・・まるで宇宙戦艦の艦砲じゃないか!」

動揺する隊長に対し、宇宙戦闘を経験した熟練のモビルスーツパイロットが思わずそんな感想を言ったが、ある意味でそれは正解だった。なぜなら今ビームを放ったのは連邦軍が誇る対艦戦闘用移動砲台のバストライナーだった。その威力は絶大で、掠っただけでダメージを与えるような代物である。
だが問題も無いわけではない。そもそも、このバストライナーはオーストラリアの倉庫に死蔵されていた、初期型のバストライナーだった。ジェネレーターや廃熱といった多くの問題を抱えていた兵器であり、運用するには色々と制約があった。とはいえジオン側の防衛線を食い破るには十分すぎる物であり、このまま放置してジオンに鹵獲されるくらいなら使い潰してしまおう、という思惑もあって大型トレーラーに搭載して突撃砲扱いしているのだ。
更に言えば、なぜ複数のバストライナーが存在するのかといえば、オーストラリアという土地に理由があった。
元々オーストラリアは人口密度が低い土地で、その人口も沿岸部に集中しており、大陸中央部には軍の演習場に最適な広大な砂漠があった。
つまり、軍の新兵器の実験をするにはうってつけの場所であったのだ。そしてここでバストライナーのテストを行ったのだが、初期型は不安定で多くの故障や暴発、酷い時は小爆発まで起こしたのだ。当然現時点では改良されている物の、その影響で初期型のバストライナーは失敗作扱いされており、テストを終えた複数のバストライナーはそのままオーストラリアの倉庫に埃を被って眠る事となったのだ。もちろんある程度の整備は行われてはいたようだが、上層部からはほとんど存在を忘れ去られた代物だった。
が、オーストラリアでジオンの動きがきな臭くなると話は一変し、連邦軍はあらゆる兵器を整備し出した。そしてその中に倉庫に眠っていた複数の初期型バストライナーが存在しており、それを改造して戦線に投入したのだった。

その効果は抜群だった。たった1撃で防衛ラインの一角が崩壊したのだから、その動揺は隠せない。そこを突破口にすべく連邦軍は突進し、ジオン軍はそこを塞ぎに掛かる。が、その為に再度結集したモビルスーツ隊に向かってバストライナーが光を放ち、モビルスーツ十数機を飲み込んだ。これによりジオン側は突破口の封鎖どころか戦線の維持すら困難になり、戦線の後退をすべく撤退行動へと移行した。そして連邦軍は突撃を敢行し、陣地を食い破っていく。

とはいえ、そんな急造兵器が何度も活躍できるはずも無い。ただでさえ問題を多数抱えている初期型バストライナーである。進軍中のビッグトレーにはバストライナー砲部隊から報告が舞い込んだ。

「ライナ4及び7にトラブルが発生し、機体を放棄するとのことです。既に機体の爆破処理に掛かりました」

「・・・これで砲撃可能なのは5機だけか。最初は9機いたのに1機がトレーラーに砲を載せる時点で壊れ、1機が行軍途中で脱落・・・所詮は急造兵器か」

「ですが使い捨て兵器としてはよく持ってる方では? あれのおかげでこちらの損害が少ないのは事実です」

「まぁいい、予想よりも順調に進攻できているのはいい事だ。偵察機へ通達、敵の砲撃陣地を発見次第座標を送って寄越すように伝えろ! 砲撃陣地は最優先撃破だ!」







オーストラリア北部 ディクシー ジオン補給基地

本来ならばオーストラリア北部から連邦軍領土へと進攻する為に作成された、滑走路すら保有する大規模後方補給基地は、その溜め込まれた物資を載せた多数のトレーラーが移動を行っていた。ただし、南方ではなく北方のウェイパに向けて輸送されていった。

「連邦め、なんて進軍スピードだ・・・急げ急げ! 敵は待ってはくれんぞ! 持っていけない物は爆破処分するから1箇所にまとめておけ!」

この補給基地の本来の司令官はとっくに後方へ撤退し、指揮を取っているのは整備班のリーダーだった。彼は大量に備蓄された資材を優先順位の高い方から輸送を行っており、各方面に連絡を取り物資の輸送を手伝わせていた。ジオンの輸送機が着陸し、物資を詰め込んでオーストラリア西部に向かって離陸していく。その一方でMS-06W 一般作業用ザクやザクタンク、果ては基地防衛の為に配備された旧ザク3機も手伝わせて物資の運搬作業を行っていた。
そんな彼の元にこの基地の防衛部隊の隊長を勤める男が声をかけた。

「フェブラック、そっちはどうだ?」

「ん? ああ、カフェシグか。見ての通り大忙しだ。そっちの旧ザクやザクタンクに手伝ってもらってるおかげで助かってる。とはいえ今積み込んでいるトレーラーで最後だから、残っている補給物資は爆破処分だな」

そう言って遠くを見ると、モビルスーツ用の補給物資や生活物資が複数の小山となって積まれていた。

「もったいないが仕方ないか・・・ところであの作業用ザクはどうする? さっき部下から聞いたんだが、もうかなりガタがきているらしいじゃないか」

元々一般作業用ザクは使用不能になった機体をリサイクルした機体であり、整備性や稼働率は一般的なザクよりも低めだった。それが今回のオーストラリア攻略作戦に伴い酷使されすぎ、その結果一度オーバーホールが必要な機体ばかりとなったのだった。そしてその機体は当然ながら戦闘力など期待できない。

「その作業用ザクには・・・確か倉庫にスクラップ寸前の120mmマシンガンと105mmマシンガンがあったはずだ、それを持たせてそこらにでも立たせておけ」

「な!? こんなポンコツに廃棄処分前の旧式マシンガンって、パイロットを死なす気か!」

「勘違いするな、俺は立たせておけといったんだ。つまりただの案山子として使えという事だ、もちろんコックピットはぶっ壊してな。他にも簡単な物だが色々と偽装はしている」

余りの発言に防衛部隊隊長が激昂するが、整備班長が言った言葉に怒りを収め周囲を見る。よく見れば戦闘はおろか自走すら不可能なマゼラアタックや装甲車があたかも防衛についているかのように配置され、滑走路でも飛び立てそうに無いドップ戦闘機が滑走路に引っ張り出され、出撃準備を行われているような偽装工作がなされていた。更に基地施設内部の窓側にはどこから調達したのかマネキンが軍服を着て置かれていた。

「・・・基地に戦力が存在すると見せる囮か。勿体無いと思うが仕方ないか」

だが幾らなんでもモビルスーツを案山子にするのはもったいない。そう考えてもいいのだが、案山子にする・・・いや、せざるを得ない事情もまた存在していた。

「ああ、そもそもパイロットも足りないし、ここを出ても恐らくウェイパからの脱出用の機体に載せるスペースは無いだろう。新品ならまだしもあんな使い古しの機体ならばなおさらな。ならここで囮にして少しでも、それこそ数分でもいいから時間を稼ぐのが賢い選択だ。時間があればマシンガンを適当に乱射できる程度の小細工ができるんだが、そんな暇は無いからな」

「そういえばあの作業用を動かしてるのは整備班の人間だったな。防衛部隊のパイロットも足りてない状況だから、仕方ないと言えばそれまでだが・・・」

「何もかも足りない上に初戦の敗北だ。南部や西部は押してるらしいが、その結果こっちに敵さんが集中するんだからなんともはや・・・」

そう、案山子にせざるを得ない理由とは、モビルスーツパイロットが足りないのだ。サイド3以外のスペースコロニーや地球からの義勇兵で賄ってはいるものの、基本的に人員不足はどこも似たようなものなのだ。そこで戦闘行為をしない作業用のモビルスーツには整備兵や工作兵が乗り込んで作業する事も多い。流石に動作の一つ一つは普通のモビルスーツパイロットに比べたら遅いが、それでも従来の重機よりは作業能率は格段に違っていたのだから。
が、撤退になると話は別だ。確かに整備用のパーツを満載したコンテナを運ぶ際には重宝するが、撤退するときには邪魔になる。平時ならば多少の故障なら修理すれば直るが、撤退時は修理する時間すら勿体無い。更に言えば戦闘ができない機体を持っていても邪魔なだけである。1機のモビルスーツを載せるスペースに多くの人員を載せる事ができるからだ。
これが戦闘訓練をきちんと受けた正規兵ならば補給物資の中のマシンガンで武装する事もできるだろうが、あいにく乗っているのはただ動かすだけの整備兵。マシンガンを撃てない事は無いが、命中率は極めて低いことは容易に想像が付く。
撤退の際に物資を積めたコンテナをモビルスーツの手に持って撤退するという方法もあるが、それだとモビルスーツが故障を起こした場合その物資までも廃棄せざるを得ない事になりかねない。よって一番安全なのは動作が怪しい機体はトラップにするということだった。

そして数十分後、ディクシー補給基地は放棄された。そして数時間後、この基地に案山子と化した無人ザクや車両、戦闘機を確認した連邦軍はミノフスキー粒子の影響もあってそれを案山子と見抜けず、戦力が充実した基地と判断し艦砲射撃によりここを砲撃、整備班長の目論見どおり砲撃の行われた十数分間の時間を稼ぐ事に成功する。





連邦軍の北方戦線突破にジオン側も手をこまねいていたわけではない。敵陸上戦艦を含む地上戦力の撃破の為に各地の航空基地からは攻撃隊が発進していった。だが・・・攻撃目標の上空には連邦軍戦闘機部隊が展開していた。しかもジオン及びVF航空隊は波状攻撃を仕掛けたのだが、運悪く到着時刻が微妙にずれて五月雨式に襲撃するハメになり、結果的に各個撃破の対象となっていた。一部肉薄できた部隊もいたが結果は・・・

「こちら茶5、被弾した! 爆弾を投棄し撤退する」

「敵機多数、爆撃機を守り切れない!」

『対空砲弾、撃ち方はじめ! 撃ちもらした敵機は戦闘機隊が始末しろ』

「あのデカブツ、陸上戦艦なのかと思ったら陸上空母兼任かよ! ・・・くそ、敵戦艦の砲撃で爆撃機部隊の損害甚大、援護を!」

「モビルスーツを載せた爆撃仕様のドダイは運動性が悪い。モビルスーツは可能なら降下して攻撃してくれ」

「無茶言うな、降りたらどうやって戻ればいいんだ。俺達に死ねって言うのか!?」

『爆撃機更に多数接近、モビルスーツ隊の降下も確認しました。指示を!』

『モビルスーツを載せている機体は動きが鈍い、対空砲火で撃ち落せ! 降下したモビルスーツにはガンタンク部隊があたれ!』

「敵地上戦力からの対空砲火にも気をつけろ、油断すると喰われるぞ!」

「射程に捕らえた、撃て!」

『ミ、ミサイル接近!』

『慌てるな、弾幕を張り母機もろとも撃墜せよ!』

「だめだ、被弾した・・・うわあああぁぁぁ!?」

上の通信を見たら分かる通り、そのことごとくが壊滅的被害をこうむっていた。とはいえ、少なく無い数の連邦軍戦闘機や地上戦力を破壊しているので次第に連邦軍の戦闘能力は減っていた。が、それ以上にジオン及びVFの航空戦力の枯渇は深刻だった。オーストラリア戦役初期の航空戦を立場を逆にして再現してしまったのだ。ただでさえ北部方面からの進攻に失敗して展開できる航空機数が少なくなったのに、更に航空機を失ったのだから当然だ。ある程度の戦闘機は脱出予定の輸送機の護衛にまわさなければならないのだから、もはや増援がなければ航空攻撃は不可能というレベルだ。
だがそれでも航空隊は役目を果たした。この航空攻撃の影響で連邦軍の進軍速度が遅くなったのだから。そして連邦軍の進撃速度を緩める為に、更なる攻撃が待ち構えていた。







ストラスバーン、ディクシー補給基地のあったところから北北西に100km程のところに位置するこの都市はいまや激戦地と化していた。北部を突破しようとする連邦軍と、その猛攻を防ぐジオンVF連合軍の激戦だ。
元々この地には守備部隊としてザクⅡF型6機、グフ3機、ヅダJ型3機、対空防衛用のザクタンク6機とザクキャノン3機が展開しており、それとは別にマゼラアタックが15両、対空戦車型のマゼラフラック12両が存在していた。それに前線から撤退してきたプロトドム4機、ドム1機、ザクJ型5機、マゼラアイン7両が合流した。勿論他にも前線から撤退してきた部隊は多いのだが、それらの多くはここを通過し後方に撤退していき、この場に残り遅延戦闘をする事にした機体だけを合計すると、モビルスーツ31機、戦車34両となる。これだけ見ると結構な数のようだが、問題は連邦軍の規模にあった。ここを攻めている連邦軍は主力部隊ではないが、ここストラスバーンに殺到したのはその数倍の規模なのだから。
ちなみに連邦軍主力はストラスバーンよりも東におよそ70km離れているヤレードンを中心に前進しており、言ってみればストラスバーンを進軍しているのは連邦軍の左翼側に展開する部隊であった。ヤレードンの防衛部隊はザク3個中隊を基幹とする部隊だったが、それも連邦軍の猛攻の前にすり減らされていた。

そしてここストラスバーンに展開している防衛部隊も連邦軍の攻撃によってすり減らされていた。特に連邦軍部隊の後方に展開するMLRSや自走榴弾砲から放たれる攻撃は守備隊に甚大な損害を与えていた。いかにモビルスーツといえどトップアタック、頭上からの攻撃には弱かった。このままいけば守備隊の壊滅は時間の問題だったのは間違いないだろう。
・・・・・・とある増援部隊が来なければ。

突然複数のオルコス輸送機が護衛戦闘機付きで戦場の上空に姿を現し、コンテナから多数のモビルスーツを降下させていった。その多くはグフやドムシリーズだったが、ほぼ全ての機体がなんらかのカスタマイズを施されており、それらの内の何機かは大型の通信センサーが増設されたものもあったが、これらはそんなに印象に残る物ではなかった。いや、それよりももっと特徴的なものが降下した部隊には付いていた。それらは主に2つのマーキングだった。1つは雷神(眼帯をしたドクロマーク)のマークを施されたグフカスタムを中心とした、風神雷神のマークをつけた部隊。そしてもう1つはコウモリをエンブレムとする部隊の姿だった。
そう、戦場に降り立ったのはジオンのエース、荒野の迅雷ことヴィッシュ・ドナヒュー中尉率いる部隊と、エンマ・ライヒ中尉率いる義勇兵部隊だった。
内訳は荒野の迅雷側がグフカスタム6機、ドム3機、ドムアサルト3機、ドム・グロウスバイル3機、ドム・シュトルム3機の計18機。義勇兵側がヅダJ型3機、プロトドム3機、そしてMS-09T ドム・タトゥー6機の計12機。合計30機のモビルスーツ隊であった。

「ライヒ中尉、我々は迂回し敵の後方を叩きつつ増援を絶つ。現在防衛線に攻撃をしている敵前衛部隊を任せてもかまわんか?」

「・・・了解! 私達義勇兵が荒野の迅雷率いる部隊と一緒に戦えるなんてね。皆、義勇兵でも十分戦えるという事を証明するよ」

「中尉、功績を焦って命を落すのは愚か者のすることだ、愚か者にはなるなよ!」

そういって2つの部隊はそれぞれの目標を確認しあった後に降下を開始した。

さて、ここで義勇兵部隊の使っているMS-09T ドム・タトゥーについて説明しておこう。ドム・タトゥーはドム・グロウスバイルよりも更に格闘戦闘に特化したドムであり、ベースはMS-09I ドム・シュトルムとなっている。外見はFM2のヴァンツァーであるタトゥーに似ており、これは完全に社長の趣味のごり押しといえた。
武装は右肩に90mmマシンガン、左肩に8連装ミサイルランチャーを搭載しておりそれなりの火力を持っているが、それ以上に特徴的なのは腕部であった。腕部はいざとなれば丸ごとドム・シュトルムのものと変更可能なようになってはいるが、基本的に対ビームコーティングを施された大型スパイクシールドと一体化した格闘腕となっていた。ちなみに開発当初は社長の提案したこの格闘腕に否定的だった開発グループだが、鹵獲したガンダムのデータを分析し、従来型のM-120A1 120mmザクマシンガンどころか貫通力に優れたMMP-80 90mmマシンガンが全く効かないルナチタニウム装甲に衝撃を受け、どこをどう間違えたのかガンダムを正面から殴って撃破できるだけの格闘戦能力を持つ事を念頭に開発された。
が、当然ながら殴るだけではヒートホーク以下の射程しか確保できない為、ゴッグやハイゴッグで採用されているフレキシブル・ベロウズ・リムと呼ばれる多重関節機構を応用し、史実のMSM-08 ゾゴックのアームパンチのように拳骨を当てる直前に数メートルながら腕部を伸ばし、格闘攻撃の有効射程距離を伸ばす事に成功している。
なお開発終了後しばらくたってから普通にヒートホーク等の格闘兵装を持たせればよかったのではと気がつき、開発者一同が『どうしてこうなった』と頭を抱えたという噂もあるが、割とどうでもよかったりする。
それ以外にドム・シュトルムよりも装甲を強化し、特に機体前面の装甲はマシンガン程度では撃破できないレベルとなっており、更に加速用ロケットブースターをホバーユニット後部に持つ為、瞬発力ではドムシリーズでも屈指の性能を持つ。

さて、ここまで聞けばこれがなぜ正規軍ではなく、正規軍よりも下に見られやすい義勇兵部隊に配備されているか疑問に思うだろう。格闘能力、加速性能、装甲の厚さはドムシリーズでも屈指の物なのにだ。
が、よく考えて欲しい。この機体は汎用のきくマニュピュレーターではなく格闘腕というイロモノ機体である。その余りの玄人向け・・・いや、変態向けにどれほどの人が乗りたがるだろうか? ゲームとかならば使ってみようかなと思う人はいても、実際に命を預けようと思う人間はいるだろうか? そう、このモビルスーツには乗り手がいないという致命的な問題が浮上したのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが義勇兵部隊だった。言い方は悪いが正規軍よりも使いつぶしの利く義勇兵ならば、こんなイロモノを通り越した変態兵器でも使わざるを得ないだろうという思惑もあり、試作された機体が押し付け・・・もとい配備されたのだ。(義勇兵部隊は正規軍で使い古した機体を使っているところが多く、その機体は大抵旧ザクや初期型ザクであった。例外は北米やオーストラリア方面等に代表されるドズル・ガルマ派閥に配属された義勇兵部隊だった。彼らは新兵器の実験という名目で、信頼性もある程度はある新品の兵器を与えられていたからだ。故に外れくじも引きやすいという事でもある)

とはいえ、カタログスペック上では高性能な機体である。8連装ミサイルランチャーをブチかまし、可動式の肩マシンガンを乱射しながら敵陣に突撃後、格闘戦メインの乱戦に持ち込むのがこの機体の基本戦術だった。流石に弾薬を撃ち尽くせば再装填は戦場ではほぼ不可能な為に格闘戦のみになるが、それでもその戦闘能力は侮れない。

「・・・しかし、まさか私達義勇兵にこんな最新の機体が回ってくるなんて、世の中分からないものね」

そうライヒ中尉は呟き、これまでの事を思い出していた。





「キャリフォルニアベースへ行け、か。一体何でこんな命令がきたんだ?」

「さぁな。だがキャリフォルニアベースということは戦闘目的ではないのは確実だ。恐らくは・・・」

「なんらかの実験や訓練、又は装備の受領ってとこかしら? ・・・もっとも、それだけならいいんだけどね(ボソ」

「しかし残念だったなスミス、交際をしているジオン娘さんと離れる事になって」

「ふん、甘く見るなよマクリーン。俺と彼女の仲なら少しの間離れてても問題ない!」

「ふふっ・・・私の考えすぎならいいんだけど(ボソ」

そんな会話をしつつライヒ中尉率いる地球出身の義勇兵部隊はキャリフォルニアベースへ向かうコムサイへと乗り込んでいた。他にもこれまで宇宙で戦っていた他の義勇兵達も乗り込んでいることから、今回のキャリフォルニアベース行きが義勇兵を使った作戦を行う可能性があるとライヒは考えていた。

「(・・・最悪、私達義勇兵を捨て駒にする作戦がなされていると考えた方がよさそうね。・・・とはいえ、こうなることを承知で義勇兵になったのだけど)」

が、彼女の予想は半分当たり、半分外れる事となった。





キャリフォルニアベース シャトル発着場ロビー

「・・・意外と多いわね」

「ああ、これだけ義勇兵が揃うのも珍しいな」

「っていうか、空港のロビー1つを貸しきっているって事が凄いぜ」

そう、地球のキャリフォルニアベースに集められた義勇兵はライヒ達の乗っていたコムサイだけではなかったらしい。少なくとも数十人もの地球出身の義勇兵がおり、その倍の他サイドからの義勇兵達もいたのだから。おかげでシャトル発着場のロビーは大勢の義勇兵達で埋まっていた・・・といってもそれぞれチームを組んでいた部隊ごとに、それぞれ気に入った場所を占領しているだけだったが。
いや、それに違う部隊が合流して交流を深めているせいで喧騒が止まらない。その原因をライヒは見つめていた。

「たしかにこの中で隊長をしてたけど、まさか中隊の隊長をする事になるなんて・・・」

「俺たち5人以外に7人加わった12人編成か。責任重大だな」

「しかも義勇兵扱いから傭兵扱いだし」

そう、それぞれ3~8人規模で形成されていた義勇兵達を12人ごとの中隊に再編しており、その関係で新しく加わった同僚との交流がロビーのあちこちで行われていたのだ。中には馬が合わず殴り合いの喧嘩も勃発しており、中々カオス具合が広がっていた。

数十分後、ようやく一段落したロビーに背広姿の男達が入り、それぞれの中隊に加わっていった。ライヒのチームにも背広を着た男が話しかけてきた。その旨にはツィマッド社の社員章がついていた。

「え~、はじめまして。ツィマッド社営業部のタナカです。はい、確認ですが皆さんはライヒ中尉が隊長の義勇兵部隊で間違いありませんね?」

その言葉で12人が頷くのを確認した後、タナカと言った社員は早速本題に入っていった。

「じゃあ確認もとれたことですし、それではこれから皆さんが乗られるモビルスーツの置いてある格納庫まで案内しますんで、しっかりついてきてくださいね」

そしてタナカについていく事十数分、案内された先は巨大な倉庫群の中の1つだった。

「え~っと、G-6に間違いないな・・・はい、この中に皆さんに乗ってもらうモビルスーツがあります。期待してもらっていいですよ」

そうタナカは言うが、ここに来た義勇兵の多くは旧ザクに乗っていた者達だった。そのせいで少し不安げな表情を浮かべていた。なぜなら彼らが乗る機体はどのような物か、事前に知らされていなかったのだから。

「それでは・・・開けてくださ~い」

微妙に気の抜ける声と同時に格納庫の扉が開放され、そこには黒光りする複数のモビルスーツの姿があった。そして義勇兵達の一番前に鎮座している6機のモビルスーツにはマニュピュレーターが無かった。

「ウォッ、すげぇ! これが俺達の新しいモビルスーツか!?」

「これは・・・実験機か? 武器を持つ為のマニュピュレーターがないじゃないか」

「だけど最新鋭だ! もう誰にもポンコツだなんて言わせねぇよ!!」

「そうよ、私達やっと認められたのよ!」

そう喜び合うエンマ・ライヒ中尉達だったが、ここまで案内していた技術者がわざとらしい咳払いをしたことで、彼の言葉に耳を傾ける事にした。

「これらが貴方方に使っていただくモビルスーツです。奥からヅダJ型3機、プロトドム3機、そして手前の6機がMS-09T ドム・タトゥー、格闘戦特化型のドムです。これら合計12機のモビルスーツが貴方方に配備された機体ですが、誰がどの機体に乗るかはそちらで決めてください。武装ですが、ヅダJ型には135mm狙撃用レールガンとその予備弾薬を、プロトドムにはショットガンとジャイアントバズーカを持たせています。勿論要望があれば武装変更は行いますので遠慮なく申し出てください。ただし、実機に乗るのはまだやめてください。あちらにシミュレーターが調整してあるので、そちらで軽く訓練してからにしてください」

その言葉に再度歓声が上がった。それもそうだ、プロトドムもヅダも正規軍にしか使われていない機体であり、特にヅダは今でもエース用機体としての意味合いを持つ。今まで使い古された旧ザクを使っていた義勇兵からしてみれば、それだけで自分達は認められたのだと思うに十分な事だった。

・・・が、幸せはそこまでだった。次に紹介された人物によって、義勇兵の皆さんは地獄を経験する事になるのだから。

「あと、皆さんのモビルスーツの教官を務めていただく方々を紹介します。中佐、どうぞ!」

その言葉と共に現れたのは屈強な男たちを率いる1人の女性佐官だった。

「あんた達の指導をすることとなった海兵隊のシーマ・ガラハウだ。短期間だから容赦なく鍛えてあげるから覚悟するんだね!」

余談だが、この時キャリフォルニアベースに集められた義勇兵部隊だが、一時的にツィマッド社が地球方面軍から雇った傭兵部隊という立場となった。そして今回の作戦に参加し、かつこれからドズル・ガルマ両名直轄の部隊として活動する報酬として提示されたのが、ガルマ貴下の地球方面軍やドズル貴下の宇宙攻撃軍から正規軍と同様に扱うという保証、そしてツィマッド社から貸し与えられたモビルスーツをそのまま部隊に配備し、配備申請があれば便宜を図るという事。たったそれだけなのに義勇兵達はその条件を受け入れた。
なぜその条件を受け入れたのか、その理由は彼らが受けていた扱いにある。
他のスペースコロニーからの義勇兵ならば待遇はそう酷い物ではないが、史実のライヒ中尉のように地球出身の義勇兵は扱いが他よりも酷かった。とはいえこの戦争では義勇兵によって戦線が大きく助けられているというのもまた事実なので、史実のように整備不良品を与えられるという事は少なかったのだが、それでも地球出身の義勇兵が肩身の狭い思いをしていた事は事実だった。そしてそれは逆に言えば厄介者と軍上層部が見なしているということでもあった。
そこに目をつけたのがツィマッド社だった。ツィマッド社の創設したVFは現在では正規軍の精鋭部隊という間違った認識があるが、元々はツィマッド社特別試験部隊という名前の新型兵器運用試験部隊で、その実態はツィマッド社の私兵であり、基本的にVFの人員はツィマッド社の社員だ。故にVFの人的損害が大きければ各種手当てが必要となり、その金額が馬鹿にならないのだ。死亡したら死亡手当てを払わないといけないし、危険手当もおおきい。それならそういうコストの掛からない義勇兵を借りられれば、それが無理なら軍と交渉して傭兵という形で雇い入れたらいい。そういう判断らしいが、実際は史実を知るエルトランの指示だったのは言うまでも無い。それがツィマッド社にプラス方向に作用しただけである。
そして傭兵となった地球出身の義勇兵達だったが、ここで思いもよらない問題が発生した。

・・・・・・これまで旧ザクに乗っていた彼女達にヅダやドムの操作は難しく、即戦力化ができなかったという事だ。
改めて言うがこの世界では統合整備計画が民間主導で行われた結果、ヅダやザクⅡといった機体の操縦系統は統一されている。逆に言えば旧ザクはザクやヅダとは操縦系統が違うという点である。
これは違う義勇兵部隊をツィマッド社が雇い、慣熟訓練を行った際に発見された問題点で、旧ザクの時の操縦の癖が治らず、そのせいで撃墜判定を出される義勇兵は少なくなかった。
そこで今回は雇い入れた地球出身の義勇兵達を一箇所にまとめ、再度大規模な軍事訓練を行う事となり、地球出身の義勇兵という事でキャリフォルニアベースに集められたわけだが、その集団戦の訓練を行う際に新たな問題点が発生した。
・・・簡単に言うと実戦を教えられる教官がいないということだ。いや、教官はいるにはいるが他の仕事で手一杯で、とてもじゃないが急遽集められた義勇兵部隊に教える余裕がなかったのだ。
とはいっても訓練をしなければ作戦効率が低下するし、死者が出る可能性は高い。ではどうするか? 答えはツィマッド社内部で解決するのではなく、外部に依頼するという案だった。では誰に訓練の以来をするか? モビルスーツでの連携がうまく、それでいてツィマッド社になるべく不利益を与えないような部隊は?
そこで白羽の矢が立ったのが、たまたまキャリフォルニアベースに補給と休養の為に立ち寄っていたシーマ海兵隊であった。キシリア派に属するシーマ海兵隊だが、史実でも『故あれば寝返るのさ』と言っているので問題ないとエルトランが判断したのが一番の理由だった。

当初は「なんで私らが休暇中にそんな面倒な事をしなきゃならないんだい?」と言っていたシーマ・ガラハウ中佐だったが、ツィマッド社の担当者の「勿論ただではありません。臨時教官手当てとして、新品のドム3機と・・・(電卓を見せながら)これくらいでいかがです?」との声に折れた。ただ、後にシーマ中佐は「安易に引き受けるんじゃなかったよ」とうんざりした顔で語る事になる。

そうやって始まった機種転換訓練だが、数週間の短期間で訓練をするのだからその内容は濃く、更にシーマ海兵隊の訓練は海兵隊らしく罵声を浴びせながらハードな訓練は当たり前、24時間耐久モビルスーツ戦闘という無茶もあったりした。だがその甲斐あって義勇兵の面々は受領した機体に慣れ、熟練兵並の技量を持つ事に成功した。

ここまで書けばいい事尽くめで、なぜシーマ中佐が引き受けなければよかったと言ったかは分からないだろう。
その答えは義勇兵にとある派閥が発生したからだ。

その派閥の名前は『シーマ様に罵倒され隊』という。その発展系に『シーマ様に弄られ隊』もあるが、その活動内容に関してはノーコメントとさせていただく。
これらの発足の原因だが、どうやら特訓の最中に罵声を浴びせられすぎた結果、何かが目覚めた義勇兵が多数発生し、それらが義勇兵の一部でファンクラブ(?)を結成したのだ。
この報告を聞いたシーマ中佐は最初は唖然とし、次に頭痛が発生して頭を抱える事となった。しかもその報告を聞いたのがリリー・マルレーンの艦内だったことも災いした。そう、リリー・マルレーンの艦内にもシーマ中佐のファンは存在し、今まで自重し水面下での活動に押さえていた彼らまでもが活動を活発にしたのだ。その報告を聞いた瞬間シーマ様が・・・

「・・・お仕置きが必要かねぇ?」

「でもあいつらの場合『我々の間ではご褒美です』とか言いかねませんよ?」

「・・・・・・ちょっと病院に逝ってくる、後は任せたよ」

と、余りの事に現実逃避をしてしまったのは余談である。
話を戻そう。シーマ海兵隊のおかげで練度を上げた義勇兵達は、正規軍の熟練兵と互角に戦える技量を持つにいたった。

そのおかげか、空挺降下したばかりなのに義勇兵部隊は着地後すぐに行動を開始した。ドム・タトゥーがミサイルを発射した直後にブースターを吹かし一気に突入、それを迎撃しようとする61式戦車やIFV(歩兵戦闘車)に向かってプロトドムが前進しつつバズーカを放ち、後方で指揮を取るホバートラックをヅダの狙撃銃が撃ち抜いて破壊していく。
懐に飛び込まれた連邦軍部隊は装甲車両からリジーナといった対モビルスーツ用ミサイルを発射するが、それすらもドムシリーズの特徴であるホバーを使った横滑り等で回避される。そして至近距離から放たれるショットガンで装甲車両は穴だらけにされていく。特にタトゥーのナックルで殴られた戦闘車両は悲惨だった。爆散するか潰れた空き缶のようになるかの2択しかなく、当然その状況では生存者など期待できない。
しばらく戦場を縦横無尽に暴れていた義勇兵部隊だったが、それでも回避し損ねた攻撃や流れ弾を受けそれなりのダメージを受ける。それに加え、流石に連邦軍も態勢を立て直しに掛かる。その為に投入されたのは連邦軍の虎の子であった。

「敵の増援を確認しました。これは・・・モビルスーツです!」

そう、この方面に展開する連邦のモビルスーツ隊、今となってはもはや貴重品といえる、ジムの姿だった。ただし、装備しているのは100mmマシンガンとバズーカで、しかも数はたった4機だったが・・・それでもモビルスーツの登場は連邦軍将兵の士気を上げるには十分だった。が・・・今回に限って言えば相手が悪かった、激しく相手が悪かった。

「ジョージ、連邦のモビルスーツって本当か? ・・・ならこの機体の格闘腕がやっと役に立つってことか!」

「マイク、落ち着いて。私とマイク、ヘルベルトの3人で突撃してこれを撃破します、各機援護を!」

対モビルスーツ格闘戦に特化したドム・タトゥーの前ではただの獲物にしか過ぎなかった。
3機のジムは100mmマシンガンを放ってくるが、そんなもので破壊できるほどドム・タトゥーの正面装甲はやわじゃなかった。バズーカに対しては横滑りして回避し、ブースターを用いた急激な接近に慌てて盾を構えつつもマシンガンで弾幕を張る1機に対して両腕の格闘腕による攻撃を振舞った結果・・・・・・まず1撃で腕ごと盾が吹き飛びバランスを盛大に崩し、続くもう1撃を胴体にまともにくらったジムは、命中した胴体が吹き飛び上半身と下半身が分離した。
そして突入したもう2機のドム・タトゥーによって残りの2機のジムも盛大に殴り飛ばされ、ひしゃげたスクラップとなり大地に崩れ落ちた。
そして残った1機のジムは・・・・・・恐慌状態に陥り後退りしながらマシンガンを乱射した。が、それをものともせずホバーを噴かしてゆっくりと、しかし確実に迫り来るドム・タトゥー。確実に命中弾を、それも至近距離から何発も当ててるのに怯んだ様子もなくその腕を振りかぶる。

「マ、マシンガンがこの距離で効かない!? う、うわぁあああ!?」

最後にこのパイロットが見たのは、凄まじい衝撃と同時に正面のモニターがフレームごと自身に向かって凄まじい勢いで迫ってくる光景だった。
この4機のジムがやられた事で連邦軍の士気は激減した。なにせ至近距離からの100mmマシンガンの直撃を受けても目立った損傷を負っていないドム・タトゥーの姿を見ればそれも納得するだろう。
そして士気が激減した連邦軍がとった行動は、彼らの本隊がいるであろうヤレードン方面に向かっての撤退だった。普通ならここで追撃をして戦果を増すところだったが、追撃はあまり行われなかった。

「よぅし! 追撃に移るぜ」

「待って! 皆、追撃するのはいいけどほどほどにして。こっちも態勢を立て直すわ」

「そうだな、こちらも弾薬が心もとない。補給を受けなければこれ以上の戦闘は危険だろう」

一件ジオン側が優勢なように見えるかもしれないが、彼らの任務はあくまでも時間稼ぎ。敵を殲滅する事ではないし、そもそも手持ちの弾薬の関係上敵の殲滅などできるわけが無い。それに義勇兵部隊の各機は少なからず損傷しており、腕が破壊された機体も見受けられた。
それでも彼らは戦い続ける。義勇兵部隊は派手に前線で暴れ、後方に回り込んだ荒野の迅雷の部隊がこの方面へ新たに向かう増援を撃破し、敵を一時後退又は違う方面から増援を送らせることにある。もちろん敵が一時後退しても、根本的な解決にならない事は分かっているし、増援が来ると今度はこちらがきつくなるのだが、それは織り込み済みだった。ようは最終防衛ラインに部隊が集結する時間を稼ぎ、なおかつそれが受け持つ負担を少しでも軽くすればいいのだから。その為に彼らは過酷な戦いを強いられていたのだ。

そしてそれは後方に回った紺屋の迅雷の部隊にも言えた。そう、増援部隊を撃破する荒野の迅雷の部隊の方も激戦を繰り広げていたのだ。





「隊長、敵部隊の壊滅を確認しました。周囲に敵影は見当たりません」

「このエリアの敵は倒したか・・・各機、次のエリアに向かうぞ。第3小隊(ドム・グロウスバイル3機)を前面に出しその左右を第1小隊(荒野の迅雷率いるグフカスタム3)、第2小隊(グフカスタム3機)でアロー隊形で進軍。第3小隊の後ろに第4小隊(ドム・シュトルム3機)、第1小隊の後ろに第6小隊(ドム3機)第2小隊の後ろに第5小隊(ドムアサルト3機)でブイ隊形にて進軍しろ」

「了解!」

荒野の迅雷率いる18機のモビルスーツは義勇兵部隊が戦っている戦場を迂回し、連邦軍の後方に展開していた部隊を強襲していた。後方といってもその戦力は膨大で、特に前線に向かって砲撃を加えている砲兵部隊の護衛として61式戦車を中心に、携行型ミサイルを搭載したトラックや装甲車、随伴歩兵が展開していた。この携行ミサイルも中々侮れない。特に74式ホバートラックことM353A4 ブラッドハウンド(ブラックハウンドとも言われる)の後部にランチャーや大口径機関砲を搭載した戦闘車両は、たかが通常兵器と侮る事はできない代物だった。ランチャー搭載型の場合、その搭載しているミサイルは高確率で対モビルスーツ用ミサイルのリジーナ又はそれの改良型だからだ。他にも旧ザクの装甲を破壊可能なほど威力を高めた、対モビルスーツ用ともいえるグレネードランチャーを持っていたりするので油断は禁物だった。機関砲搭載型はそれほど脅威ではないが、それでも対戦車ミサイルを搭載しているのが常なのでこれもある程度の脅威があった。

・・・とはいえ、相手がエースクラスが率いる精鋭部隊ではこの護衛部隊も余り意味を成さなかった。
モビルスーツの接近に気が付いた61式戦車が前進しつつ砲撃を開始するものの、それらは余裕を持った回避運動で全て回避される。

「ほう、くるか! 『荒野の迅雷』の戦いを見せてやる!」

荒野の迅雷の戦いは他のジオン軍部隊とは異なり、集団での戦いを重視した戦闘だった。故に連邦軍は1機づつ処理しようと攻撃を集中していると、他の機体から攻撃を受けて撃破されていった。
勿論何かがおかしいとは連邦軍も早々に気が付いてはいたものの、『連携』をとって戦っているという事にはっきりと気がついた時には、既に護衛の61式戦車と護衛すべき自走砲及びロケット車両が全滅し、残りの護衛部隊の戦力が半分まで低下した頃だった。
それに気が付いた連邦軍は動揺し、更に風神雷神のマーキングを見つけて相手がエースだと判明してからは更に士気は低下した。
そこにオープン回線及び外部スピーカーで「無駄死にするだけだ! 引け! 無益な戦いは望まん!」という荒野の迅雷の言葉が戦場に響いたのがトドメとなった。防衛目標が全滅し、自身の戦力も低下した後衛部隊にとってこのまま戦い続けるのは無駄死に、しかも前衛部隊も敗走しつつあるという情報が入った為に後衛部隊もヤレードン方面に撤退を開始していった。
そしてそれを荒野の迅雷は手を出さずに見守った。本当ならここで追撃し戦果を拡大する方がいいのだろうが、こちらも義勇兵部隊と同様に弾薬を節約する為に追撃は行わなかった。彼らは他のエリアの支援も行わなくてはいけないのだから。

「各小隊、弾薬が心もとない機はいるか?」

「いえ、今のところ弾薬不足に陥った機体はいません。まだ戦えます」

「よし、これから付近の敵部隊を撃破しストラスバーンへの圧力を減らす。ソルディスへ、付近の状況はどうなっている?」

部隊の現状を把握したヴィッシュは付近の空域に展開しているオルコス派生機である空中指揮管制機に問い合わせた。

「こちらソルディス。現在貴隊の付近で複数の戦闘が発生中、特に隣接するエリアD-5にて支援要請が出ています。友軍はザク2個小隊を含む1個中隊が撤退戦を行っていますが、敵は2個中隊規模で追撃をしており戦力的に危険です。そちらの援護をお願いします。後はエリアE-8にて敵が進行中とのことですが、こちらはまだ時間に余裕がありますので後回しでもかまいません」

「了解した。各機聞いたな? これより我々はD-5エリアへ・・・」

そう指示を出しかけた荒野の迅雷だったが、その言葉は管制官の驚いた声によってかき消される事となった。

「あ、待ってください。近隣の部隊からの緊急支援要請を確認しました・・・・・・え? 嘘!?」

「どうした、何かあったのか?」

「あ、はい・・・敵モビルスーツ1個小隊の攻撃で友軍のモビルスーツ1個中隊、ザク及びグフの混成部隊が壊滅寸前だそうです。座標はエリアF-8で、援護を求めています。申し訳ないですが、こちらを優先してください」

「・・・1個小隊相手に1個中隊が壊滅寸前? それは本当なのか?」

「はい、どうやら各個撃破をされていったらしく、気がついた時には部隊は壊滅していたとのことです。あ、更に1機撃墜されました! ・・・友軍部隊、残りはモビルスーツが4機のみです」

「なるほど・・・各機聞いたな? 急いで援護に向かうぞ。ただし第2、第3、第4小隊はD-5の友軍の支援に向かえ、連携して戦う事を忘れるなよ。第5、第6小隊は私に続け」

そうして二手に別れた荒野の迅雷の部隊だったが、急いでF-8戦闘エリアに移動した彼らが見たものは、1機のグフがバズーカの直撃を受けて吹き飛ぶ姿だった。そしてそれをなしたのは白く塗装されたジムの姿だった。

「白いモビルスーツ・・・機体そのものはジムという機体のようだが、塗装が許されているという事はエースか、それとも特殊部隊か・・・どちらにせよ一筋縄ではいかんか」

だがヴィッシュにはまだ余裕があった。敵は各個撃破をしてきたらしいが、彼は自分が鍛え上げてきた部下を信頼していたし、連携をとって戦う事をこれまで教えてきた結果、彼の部下はチーム戦において優秀な成績を残す者ばかりだったからだ。
が、その余裕は管制機から入ってきた通信によって薄れることとなった。

「大変です、E-8エリアの友軍がF-8方面に向かって敗走を開始しました! 敵の追撃部隊がそれを追っています、可能ならば援護してください」

「こんな時に・・・・・・仕方あるまい、この敵は第1小隊が引き受ける。第5、第6小隊はE-8エリアからこちらに向かってきている敵を迎撃しろ」

が、彼はまだ余裕を持っていた。味方が減ったとはいえ、同数になっただけなのだ。特にこちらは格闘戦に優れ、射撃もガトリングシールドを持つことでカバーしたグフカスタム、しかもカスタマイズが施されており、運動性を若干だが向上させた機体なのだ。相手のモビルスーツの詳細な性能は不明だったが、それでもグフに匹敵する性能と考えてもこちらがある程度は優勢と思われたからだ。それに左右に展開する2機のグフカスタムのパイロットもベテランで、その腕前は準エースといっても差し支えないものだった。

が、実際にはそのようには事は運ばなかった。1機に攻撃を集中しようとしたら残り2機が的確に妨害をいれ、こちらが隙を見せようものなら連携してそれを撃破しようとするのだ。敵は3機とも左腕に小型のシールドを固定し、2機の前衛がマシンガンを持ち、残り1機がバズーカを構えマシンガンを予備に持つ後衛だった。
グフカスタム3機を2機のジムが拘束している隙に後衛のジムが仕留めていく戦法だと悟った時、彼は知らずに笑みを浮かべていた。

「各機、一時後退しろ。敵の隊長機は私が引き受ける。お前達は残り2機を引き受けてくれ、できるか?」

「愚問ですよ隊長、久々に1対1の戦闘を楽しませていただきますね」

「スラスター残量にまだ余裕があるので、自分は後衛を引っ掻き回してやります」

「よし・・・・・・今だ、後退しろ!」

その合図と共に3機のグフカスタムは一気に後方へ跳躍した。3機のジムはそれを追うことなく、油断無く警戒している。そんな中、ヴィッシュのグフカスタムはヒートソードを構え、目の前の部隊に通信を入れた。

「連邦のエース聞こえているか、こちらはジオンのヴィッシュ・ドナヒューだ。お前と戦える事を神に感謝する」



「連邦のエース聞こえているか、こちらはジオンのヴィッシュ・ドナヒューだ。お前と戦える事を神に感謝する」

まるで一騎打ちを望んでいるかの通信に、連邦軍特殊遊撃モビルスーツ部隊ホワイト・ディンゴの面々は一瞬だが呆気に取られた。
だが次の瞬間には現実に引き戻された。なんせ剣を構えた機体以外の、2機のグフカスタムがそれぞれマイクとレオン目掛けてスラスター全快で突進してきたのだ。
そしてそこで彼らはジオン側がそれぞれ1対1の構図に持ち込もうとしている事に気がついた。

「ヴィッシュ? ・・・ジオンのエース、荒野の迅雷本人か!」

「どうします隊長? っく、こいつらベテランで気が抜けません」

「アニタ、敵はグフの改良型なのは間違いないんだな?」

「はい。グフカスタムと呼ばれる機体で、通常のグフよりも性能が向上しているタイプです。それに、センサーの反応から判断すれば、3機とも更に強化されている模様です」

「よりにもよってエースにカスタム機か・・・」

「うわっ、後衛だから楽ができると思ったのに・・・」

「マイク、離れていった6機の敵新型機と戦わずに済んだだけよしとしておきなさい。しかし、このままでは危険です隊長」

そう、アニタが言うとおり、状況はこちらが不利といえる。操縦者の技量も機体性能も、恐らく向こうがこちらを上回っている。ならば彼らが取れるのは一か八かの賭けに近い手段だった。

「エースを倒し、残りが動揺した隙を突いて各個撃破するしかないか・・・レオン、マイク。しばらく持たせてくれ」

そして通信を目の前のグフカスタムに入れる。

「こちら連邦軍ホワイト・ディンゴ、貴君と戦える事を感謝する、行くぞ!」



格闘戦に特化したグフカスタムと、陸戦用にカスタマイズされたノーマルジムの一騎打ち、グフカスタムはヒートサーベルのみで戦い、ジムもサーベルだけで戦うそれは、英雄の一騎打ちというのに相応しかった。とはいえ、幾らカスタマイズされているとしてもジムではグフカスタム相手では荷が重すぎた。ジェネレーター出力こそジムの方が上回っていたが、格闘戦に密接な関係を持つ機体重量ではグフカスタムの方が10t以上も重かったのだ。その重さは1撃1撃の攻撃の重さに影響を与え、相手の機体に負荷を与えていく。そして徐々にレイヤー中尉のジムが押され始め、ついには回避が遅れて左腕をヒートサーベルで切り落とされた。が、レイヤー中尉も負けてはいない。ビームサーベルを切り返し、グフカスタムのシールドについているガトリング砲の先端を切り落としたのだ。その後お互いに一歩後退し、グフカスタムはガトリングをパージし、レイヤー中尉も左腕をコントロールから切り離した。
部下のグフカスタムも、手傷は負わしているものの相手のジムを今だ撃破できていない状態だった。
そうして向かえた膠着状態だったが、それを破ったのは当事者達のリアクションではなかった。

「・・・む? 援軍か」

西の方角から戦闘ヘリが複数接近してくるのが分かった。それも従来型の対戦車戦闘をメインとした戦闘ヘリではなく、新型のシュヴァルベ戦闘ヘリ6機とシュッツェ狙撃ヘリが3機だ。それを見たヴィッシュは目の前のジムに再度通信を入れた。

「連邦のパイロット、聞こえるな? 後退するのであれば見逃そう。今戦い続けるのは無駄死にするだけなのは分かっているだろう?」

「・・・・・・分かった、あんたとは戦争が無いところでゆっくり話をしたいもんだ」

そう言ってホワイト・ディンゴの面々は撤退を開始する。そして後退を開始した事を確認したヴィッシュはこちらに向かってきているヘリ部隊へと通信を繋いだ。

「接近中のヘリ部隊へ。こちらは荒野の迅雷ヴィッシュ・ドナヒュー中尉だ、聞こえるか?」

「・・・感度良好、こちら第3臨時混成ヘリ部隊です。司令部から貴隊の援護を行うようにと命令を受けています。これより敵モビルスーツ部隊に対して攻撃を開始します」

「いや、ここはもういい。逃げる敵には攻撃するな。それよりも義勇兵部隊はどうなっている?」

「は、義勇兵部隊と交戦していた連邦軍がヤレードン方面に撤退を開始、ある程度追撃を仕掛けた後は補給に戻るとのことです」

「ふむ・・・ならそちらも問題ないか。では隣のエリアに敵の増援がきているらしい、それを叩くので支援してくれ」

「は、はぁ・・・了解しました」

ヘリ部隊の指揮官は背中を見せる敵を攻撃したい誘惑に駆られるが、著名なエースパイロットのヴィッシュからの要請を無視するわけにはいかず、進路を変更した。そしてヘリ部隊に命令を出したヴィッシュだったが、コックピットで一言呟いた。

「・・・あの敵部隊、いいチームワークだったな。私の部下に欲しいものだ。1対1に持ち込んでも部下の攻撃に耐えれる腕もいい、私の好敵手としては合格だな」


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