ツィマッド社奮闘録32話
時間は少し遡り・・・・・・
10月3日 サイド6
やぁ、皆さん久しぶり。最初に挨拶をするのも久しぶりかな~まぁ色々と忙しかったからあれだったけど。まぁそんなこんなでサイド6に訪れています。キャリフォルニアベースで書類仕事に一段落したから息抜きも兼ねてるんだけど、重要な用事があったからね。マリオンをうち(ツィマッド社)が引き取るという用事がね。
「ではエルトラン社長。約束どおりニュータイプのマリオン・ウェルチを貴社へ引き渡します。今回は彼女だけですので、この書類だけです。ここにサインを」
「はい、確かに彼女は受け取りました。・・・なんか奴隷売買っぽくて嫌ですねこのやり取り」
「・・・言わないでください。必要な事とはいえ、人体実験等の非合法な研究してる為、皆微妙に気にしてるんですから」
「じゃあ改めて・・・マリオンはどの程度できる子ですか?」
「サイコミュの試験ではララァ・スンより劣りますが、試験を行った際にはビットを12機の操作を確認しました。ですが直後の疲労が著しいので、安全を考えると8機程度が無難かと思われます」
「有線型の方は?」
「MS-06Zでテストをした後にタコアシ、MSN-01 サイコミュ高機動試験用ザクで高機動耐性試験を兼ねてテストしましたが、正直な話有線型ではエースクラスの腕前がないと接近された際厳しい物があります。ですのでマリオンを使うのならばビット機体でしょうな。後は高機動耐久テストの結果、高速運用時の疲労が激しいので注意が必要です。ただ、サイコミュとの併用だったので高機動耐久能力は普通のパイロット並にあります」
「ふむ・・・分かりました。ところで今の話の流れから推測するに、今後有線型はオールドタイプのエース向けを目標に?」
「その通りです。有線型ではニュータイプの能力を大幅に制限してしまう。それならば有線型はニュータイプだけでなくエースパイロット、最終目標は一般兵でもアウトレンジ戦闘が可能な有線型を開発したいと思っています。それこそ社長の言ったインコムとやらのようにね」
「あはは・・・あれは酒の話のネタだったんだが(汗」
「いえいえ、酒の席であれほどのアイデアが出るとは、羨ましい限りですよ」
「(やばい、まさかうっかり口が滑ったなんて言えない)と、ところでブラウ・ブロとエルメスの調整はどうです?」
「そうですね・・・MAN-08 エルメスは開発に問題はありません。問題があるのはMAN-03 ブラウ・ブロですね。あの巨体で有線砲台4門・・・実際は連装が2門あるので6基ですが、それだけのメガ粒子砲しか武装が無いというのは問題です。まぁオールドタイプでどの程度サイコミュができるかの実験機でもありますから、仕方ないといえば仕方ないのですがね」
「今は確かシムス技術中尉が実験をしていましたっけ?」
「ええ、彼女はいい技官です。ですが正直、性能を発揮しきれないというのが実情ですね。もちろんニュータイプに比べてという意味で、オールドタイプによるアウトレンジ攻撃という観点ではかなりの成果を出しています」
「ほう・・・っと、そろそろ時間なんで失礼しますね。余り待たせすぎるとマリオンがご機嫌斜めになりかねませんので」
「おお、もうこんな時間ですか。・・・エルトラン社長、マリオンはいい子ですが、手を出すのは犯罪ですよ? 一応シャア大佐とララァ少尉の場合は法律上問題ありませんが、マリオンはまだ14歳なので念のため」
「・・・え~と、ブラックジョークですか? まぁたしかにマリオンは可愛いけど、なんというか・・・兄を慕ってくれる妹って感じですよ」
「・・・はぁ」
なぜにため息? しかもやれやれってポーズまで・・・あ、ちなみにシャアなんだけど、ついこの間一気に昇進したよ。木馬に遭遇する前にしていた通商破壊作戦でマゼラン級含む連邦の小規模な艦隊を撃破した功績で中佐に、その後の木馬関連の功績で大佐に昇進したよ。一度に二階級昇進ってどんだけ~って感じだけどまぁ気にしたら負けだなと思っている。で、今はララァとペアを組んで行動してるわけだ。今はオーストラリア大陸だったかな?
「ともかく、マリオンの事をよろしくお願いします。それと・・・我々が廃棄した子達は今どうしてます?」
「とりあえずうち(ツィマッド社)の直轄の孤児院にいます。そこでリハビリしつつ一般常識等を学ばせ、将来的にはうちに就職してもらうつもりです。まぁ成人するまではこっちが面倒を見るつもりだし、障害の残ってしまう子に関してはこちらが責任を持ってサポートしますよ」
「面倒をおかけしますな。その子達のように強化され、それでいてある程度無事な者達の多くは、戦争の為に引き取られる者も多い。中でもキシリア様貴下のグール隊が有名でしょう」
「グール隊・・・話には聞いてます。彼らが行動を行う地区の部隊からは蛇蝎のごとく忌み嫌われていると」
「ええ、彼らに比べ貴方に引き取られた者達はかなり恵まれています。選べる選択肢が多いのですから。それゆえ引き取られた者達も、そして貴方も注意してください。・・・有力なスポンサーを失うことは我々も避けたいので」
「ええ、警戒は怠らないつもりです。暗殺はもうこりごりですからね」
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待ち合わせ場所である施設のロビーに急いで行ってみると、そこには旅行用バッグ一つを傍らに置き、一人佇むマリオンの姿があった。
「あ、社長」
「久しぶりマリオン、待たせたかな?」
「ううん、そんなに長い時間待ったわけじゃないから」
「と言うことは少し待たせちゃったって事か。ごめんな」
そう言ってマリオンの頭に手を乗せて撫でてみる・・・うん、撫ぜ心地いいね。こういうことしてみたかったんだ~現実世界にいた時は年の離れた兄貴がいただけだから、可愛い妹ってのに憧れてたんだよね。
「あ、あの・・・社長・・・」
ちょっと少し暴走してたようだ。我に返ってみると顔を赤く染めたマリオンが見上げていた。
・・・正直に言おう、グッときた(爆
「ああ、ごめんごめん。そろそろ行こうか?」
そう言ってマリオンの頭を撫ぜていた手をどける。少し名残惜しいが気にしない。
ん? 馴れ馴れし過ぎないかって? いや、マリオンとは手紙のやり取りを結構してるからねぇ。地球産のお土産とかも偶に送るし、サイド6に来たときは一緒に散歩とかもしたりするし、このくらいはスキンシップの内だろ? というかマリオンと一緒にいると癒やされるんだよな~とにかく、一緒にいてマリオンに悪い虫がつくのを阻止しなきゃね。
・・・今シスコンとか言った奴、表出ろ(怒
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サイド6から2機のランツ級高速シャトルが発進する。1機は3機のリックドムを搭載した護衛搭載機で、残り1機に社長とマリオンは搭乗していた。ランツ級高速シャトルはモビルスーツの整備はできないが、搭載するだけならフル装備の機体を3機搭載可能なのだ。そしてそれは万が一の時の保険としては十分なものだった。
「今後のことだけど、これからマリオンはVFの一員として働いてもらうわけだから、キャリフォルニアベースについたら施設の案内だね。マリオンは私の護衛兼秘書兼テストパイロットという形になっているから、施設の見学が終わったらテストパイロットとしてある程度働いてもらうことになるかな」
「テストパイロットと護衛は分かるけど・・・秘書って何するの? やっぱり書類仕事とかお茶入れとか?」
「う~ん、まぁそうなるかな? ただそれは名目だけだし、しばらくは環境の変化に慣れてもらう為に護衛に専念してもらうことになるだろうけど」
常に一定に定められているコロニーの環境とは違い、地球の環境はスペースノイドにとってつらいものだ。季節の変わり目に風邪を引くと言われる程に。しかも今の地球はテンペスト落着によって、常に季節の変わり目と言ってもいい状態なのだ。
(まぁマリオンが地球の環境になれるのに1週間くらいと見ておくとして、その間は軽い仕事を任せるべきかな。とりあえず施設見学と周辺に設置した孤児院とかの見学かな? 秘書としての仕事はキャサリンの方からも指導してもらえばいいか。その後はテストパイロットとして・・・・・・ん? 今のとこテストパイロットは足りてたか? 足りないのは実戦部隊だから、試作機の実戦テストか? だけど実戦予定のゾックはパイロット決まっているし、今のところ仕事が無い? ニュータイプ用の機体開発は・・・アレ以外は独自開発してないから今後の小型化待ちってところか。宇宙用モビルアーマーが幾つか開発中だが、それは地球で試験しないから却下。ということはドムシリーズの試作機又は次期主力モビルスーツのテストか? たしかプロトタイプ自体はロールアウト間近だったはずだが・・・新方式を導入したタイプと従来型の2機種を作成したせいでかなり計画よりも遅延したよなぁ)
「社長、大丈夫?」
「ん? ああ、少しボーっとしてたけどモーマンタイ」
いや、今更なんだが隣に座るマリオンの格好が気になってしまう。今のマリオンの姿なんだが・・・蒼色のツインセーターに同じく蒼色の膝上長さのスカート、そして黒タイツとブーツ。
・・・
いや、無重力な宇宙でスカートってわけじゃないんです。シャトルが発進するまでは重力があったわけだし。無重力になる頃は席についてシートベルトしてたわけだし。まぁ結論から言えば眼福なわけだが・・・マリオン可愛いよマリオン。やっぱりマリオンと一緒にいると癒やされるなぁ。
「・・・社長?」
「ん? 何かあったかい?」
「ううん・・・ただ、社長が忙しそうな感じがしたから。社長の仕事ってそんなに忙しいの?」
「・・・まぁ会社の一番トップなわけだから、目を通さなくちゃいけない資料も多いし、私兵集団を持っているからそれの管理運営をしなきゃいけないしね。それに・・・」
「それに?」
「・・・いや、なんでもないよ(さすがにドロドロとした派閥争いとかのことは言わない方がいいな)」
「・・・・・・社長」
そう考えていたら、マリオンに顔を覗き込まれた。
「な、なにかなマリオン(汗」
「・・・何か辛い事隠してる?」
「・・・・・・なんでそう思ったんだい?」
「なんとなく、そう感じたの」
「それはニュータイプとしての感覚?」
「・・・・・・わからない。ただ、そんな気がしたの」
「・・・マリオンにはかなわないな。確かに言ってない事があるけど・・・いや、マリオンも秘書として働くわけだから、知るのは時間の問題か」
正直、マリオンにドロドロとした政治に接しさせるのは気が引けたが、一方でマリオンに協力して欲しい気持ちもあるのは事実。
「・・・エゴかな」
そう思わず呟いてしまった。そしてそのままダムが決壊したかのようにマリオンに愚痴交じりに現状や政治のゴタゴタ、泥沼の派閥争いといった事を吐き出してしまった。正直な所、私は誰かにこの愚痴を聞いて欲しかったのかもしれない。今まで政治や派閥争い等で受けたストレスを発散する為に、史実で実用化された兵器の開発を開発部に命令したり、紅茶を飲みながら気に入った音楽を大音量で聞いたりして発散していたが、愚痴をこぼす相手がいなかったのもまた事実。我に返った時、既にマリオンに溜まっていた愚痴をぶちまけた後だった。しかもその愚痴の中にはザビ家との裏での暗闘や、地球連邦との交渉、連邦軍への内部工作等といった機密レベルの高い物まで含まれていた。
正直、今日まで政治の裏側や派閥争いにあまり関わっていないマリオンに聞かせるのにはきついものだ。心なしマリオンの顔が青ざめているのも無理はない。幸いなのはこのシャトル、客室は防音構造になっており、更に盗聴器等が設置されていないのも確認済みな事だろう。こんなこと外に漏れたらどうなるか分かったもんじゃない。
「・・・すまない。どうも愚痴が溜まっていたみたいで、悪い事をしたね」
そう謝罪するしかなかった。正直内部の強硬派や連邦のスパイに対する行動、暗殺や薬物を使った洗脳は聞いていても胸糞悪い話だ。まともにマリオンの方を見れやしない。
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「・・・すまない。どうも愚痴が溜まっていたみたいで、悪い事をしたね」
そう社長が謝罪する。社長が愚痴交じりに喋ってくれた事は私にとって衝撃的だった。
特に、暗殺や洗脳を行う用に社長が指示しているということは、ショックを受けた。
だけど・・・その言葉に社長が受けている苦痛を感じた。
それに逆に考えれば、私を信頼してくれているからそんな裏事情を全部喋ってくれたのかもしれない。
・・・私は社長の理想に共感し、それを手伝う事を私は望んだ。なら、社長を支える事が今の私にできるお手伝い。
そう思い私は社長の手を握りしめた。驚いた表情を見せる社長に、私は顔をほころばせる。
「・・・社長、私でいいんなら愚痴を聞きます。ですから、そんなに溜め込まないでください」
私は頭を社長の肩に預け、そう社長に告げた。
「・・・・・・少し弱気になったら、また愚痴を吐くかもしれない。その時は聞いてもらっていいかい?」
「はい・・・いつでも言ってください。あんまり負の意識に囚われすぎないでくださいね」
そのまま穏やかな時は流れ数十分後、シャトルは地球への補給艦隊と合流した。二日ほどかけて地球の衛星軌道上に到達した艦隊から、二人は護衛についていたムサイのコムサイを使い地球へと降り立った。二人がキャリフォルニアベースについた時、空からは綺麗な夕日が目にすることができた。
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翌日、キャリフォルニアベースツィマッド社エリア 社長室
「社長、報告にきまs・・・」
「お、丁度いいとこに。キャサリン、君に頼みたい事ができたんだ」
「私にですか?」
「ああ、今度新しく秘書となったマリオンに施設の案内と、秘書としての役割をレクチャーして欲しいんだ」
「レクチャーはともかく・・・施設の案内ですか?」
「ほら、女性の好きそうな売り物を売っている施設とか、そういうのは知らないからね。そこで君に頼みたいんだ」
「そういうことなら任されますね。で、マリオンさんはどこに?」
「ああ、今はまだマリオンは部屋の整理とかをしてるだろうから、後で迎えに行ってほしい」
「わかりました。でもとりあえず・・・」
そう言って秘書、キャサリン・ブリッツェンは持っていた書類を机の上に置き報告し始めた。
「報告しま~す。予定通り西太平洋方面軍が行動を行います。航空戦力のほぼ全てが出撃する模様です」
「あそこはキシリア派とガルマ派が入り混じったところだから根回しに苦労したなぁ。まぁその甲斐はあったというべきか」
「ええ、これでやっと作戦の第一段階が開始できます。これが成功すれば今後のアドバンテージを握ることができます」
「まぁ展開させた戦力から見ればほぼ成功するだろう作戦だからなぁ」
「後は・・・荒野の迅雷直属の部隊にはドムを配備し、機種転換も完了しました。他にもライノサラスを含むモビルアーマー部隊も展開完了しましたし、切り札もありますからね」
「ああ、後は連邦が戦術核並の威力を持つ大型気化爆弾を使うかどうかってことだが、使ったら使ったで問題は無い。むしろ使ってくれた方が今後を考えるとありがたい」
「使った方がいいって、社長も鬼ですね」
「はっはっは、こういう思考ができないと社長なんてやってけないよ。悲しいけどこれって戦争なのよね~っと、ところでサイクロプス隊は?」
「え~と、予定通りです。外人部隊とフェンリル隊も同様に予定通り行動中です」
「ならよし・・・サイクロプス隊はこれが終わったら宇宙へか・・・まぁ優秀だからこそ引っ張りダコなわけだが」
「ええ・・・ところで、気がかりな報告があります」
そう言ってキャサリンは顔を少し顰める。
「気がかりなこと? 作戦に影響を与える程のかい?」
「ええ、以前からオーストラリアにビッグトレーが配備されていたのは判明していましたが、ヘビィ・フォーク級を確認したという報告が入っています。他にも詳細な情報が入っていないので未確認情報ですが、ビッグトレー級やヘビィ・フォーク級を上回る大きさのホバー戦艦をプリスベーン基地やヒューエンデン基地の哨戒部隊が見たという報告が・・・」
「・・・マジで?」
その報告を聞いた瞬間眩暈がしたよ。というか絶句するしかない。多数の陸上戦艦がいたら洒落にならんぞ。というかそれを上回る陸上戦艦って何?
「なんかヒルドルブ隊をまわすべきだったかなぁと後悔しているんだが?」
「後悔って後で悔やむと書くんですよね」
「orz ・・・・・・とにかく、今分かっているビッグトレークラスの配備情報は?」
「はい、チャールズビル基地にてビッグトレー2隻、ブロークン・ヒル近郊にヘビィ・フォーク級1隻を確認しました。後シンプソンズ・ギャップ基地後バーズビル基地、及びレインボゥ・ヴァレー基地にミニトレーがそれぞれ1隻です。なおチャールズビル基地のビッグトレーの内1隻は昔大破させた物を改修したものらしく、詳細なデータは不明です」
「・・・6隻+α? 本気で頭が痛くなってきた。というかなんだその数は? 予想じゃ多くて4隻だったのに・・・陸上戦艦の大盤振る舞いか?」
「それがどうもオーストラリアの防衛戦力増強の意味があるみたいで、他にもガンタンク等のモビルスーツ部隊が各地に展開しているようです」
「まぁそれは予想の範囲内だからいいけど、陸上戦艦の艦砲射撃は洒落にならん。遠くから大口径砲の斉射は洒落にならないからなぁ・・・まぁ対処策はいくつかあるからいいけど」
「じゃあ報告を続けますね。オーストラリア戦線の話から離れますが、かねてから建造を行っていた実験戦艦ですが、重要ユニット部を除いて順調に建造されています。ですが流石にIフィールドは現時点では小型化が難しく、搭載可能なサイズ及び能力になるには最短でも1年以上必要だそうです」
「・・・まぁ戦艦にIフィールドって一つの夢なんだが、やっぱり難しいか。当面は対ビームコーティング処理と追加装甲でお茶を濁すしかないな」
「え~と・・・技術部は稼働時間が短く、防護エリアを限定すれば不可能ではないのですが、その場合もう片方のユニットが搭載不可能になるとの結論です。でも、どちらにせよ価格が洒落にならない事になりますよ?」
「たしかにね、でもそれは織り込み済みだよ。元々Iフィールド搭載戦艦なんて価格が高くなるから量産なんてできない。だけどそれがワンオフ前提の、その陣営を象徴する旗艦だとしたら? ビームで沈まない旗艦となればシンボルにもなるし、技術力のアピールにもなる」
「まぁ相手から見れば悪夢ですからね。あ、それに付随するものですけど、Iフィールド搭載の要塞攻略用モビルアーマー、機体名称MA-08 ビグ・ザムを兵器局が開発を開始したようです。またアクシズでもAMA-00GR ゼロ・ジ・アールの設計が進んでいます」
「ああ、まぁその手の兵器は今はあちらに任せ、我々は拠点防衛用モビルアーマーの方に集中しますか」
「・・・というか社長のアイデアは無茶無謀な代物が多いと苦情が来てますよ?」
「キニスルナワタシハキニシナイ」
「・・・自覚してるんなら自重してください」
「だが断る! ・・・まぁ善処は一応するよ。しかし。結構非合法な方法で資金を得てきたけど、もう余力もないのが実情だし・・・どこかに大金積んだ連邦側の輸送船団いないかな?」
「海賊行為といえば、先日鹵獲した輸送船団に搭載されていた機体、改修が終わったそうですよ」
「本当に!? 間に合ったか、これでより成功率が上がるな」
「でもどうするんですかあんなもの作って?」
「あんなものって・・・対空に対地に使い勝手がいい兵器だよあれは。コストパフォーマンスがいいから、量産し防衛部隊を中心に配備していくつもりだよ」
「元々連邦軍の兵器なんですけど・・・」
「結果よければ全て良し。・・・しかしオーストラリア戦線、めがっさ連邦部隊増強されてるな」
そう言って手元にある資料に目を通す。そこには少なくない数の部隊がオーストラリアに展開した事を示していた。
「ええ、特に連邦軍基地に配備されている機体の中でも一番厄介なのは量産型ガンタンクですね。平地で遠距離からアウトレンジで撃たれたら、新兵じゃほぼ確実に一方的に破壊されますから」
「あれだ、砲は力なりってやつだな。まぁその為にあの試験段階の兵器を展開させたんだ。うまくいけば脅威は取り除かれる」
「はぁ・・・あ、そういえば開発部の方からの連絡を忘れてました。例の機体、格闘特化型ドムの報告です。MS-09I ドム・シュトルムを発展改良させ、固定武装として肩に75mmガトリング砲を搭載したMS-09T ドム・タトゥーですが、予定通り現地に展開させておきました・・・というかこの機体正気ですか? 両手にスパイクシールドを持たせた突撃戦仕様なんて・・・」
「使い道は十分あるはずだよ。援護射撃の元に瞬発力と正面装甲の厚さを活かして戦線を突破するのがこの機体の役割だから」
「というより、ノーマルドムの面影がないのですけど。モノアイもツインモノアイになって、ジオンらしくないとの声もありますけど?」
「そりゃ対弾性を高める為に形状を変えるのは当然だよ。ツインモノアイは片方のモノアイがやられてもある程度は問題ないからこそ、この突撃型に試験採用したんだ。特に問題はないはずだよ(というかまんまフ○ントミッションのタトゥーっぽいよなぁ。TCKとかも開発させたから後は・・・フロミ繋がりで地上拠点防衛用モビルアーマーでも開発させるかな? 黄色い悪魔ことビスミラーはガチでトラウマ&絶望だったし。あれって育成中途半端にすると涙目なるんだよね~ってか初めて戦闘した時ミサイルとキャノンの乱射っぷりに唖然としたのはいい思い出だな)」
「とりあえず報告は以上です。それじゃあマリオンさんに施設の案内をしてきますね~」
「ああ、流石に男の私では女性の使う施設とかは詳しくないから、よろしく頼むよ」
「では失礼しました」
キャサリンが退室した後、部屋に一人残ったエルトランは溜まっている仕事に手をつけた。本来なら今日は休日のはずだったが何時もの癖で仕事を開始し、マリオン達が戻ってくるまで気付かずに休日出勤していたのはご愛嬌。
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10月8日 社長室
何時ものように栄養ドリンク片手に仕事を片付けているエルトランの元に、通信が入る。
「社長、アジア地区のギニアス技術少将から通信です。回線を回します」
そう通信士が言った後、社長室据え置きのモニターには技術将校のギニアスが映し出された。
「久しぶりだなエルトラン」
「お~、久しぶりギニアス。アプサラスには期待しているよ」
ん? なぜアプサラスの事を話してるかって? 予想は付くんだろうけど、史実では10月に開発がスタートしたアプサラス計画。この世界ではそれよりも早くツィマッド社の支援も受け開発がスタートされていた。やっぱ山一つ吹き飛ばす威力のメガ粒子砲は開発メリット大きすぎるだろう。それに開発が早ければギレンの○望で出る犠牲(ノリスとか)が出ない可能性が高いしね。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、アプサラスⅡは失敗作だ。本命はⅢのほうだが、こちらもまだ未完成だ」
「だが、その攻撃力は失敗作でも十分な威力だろ? ならばこの作戦でそのテストを行えばいいじゃないか・・・ところで、アプサラスが1機しかいないみたいなんだけど、予定じゃⅡも一緒だったんじゃ?」
そう、予定ではアプサラスⅡとⅢの2機をオーストラリア攻略作戦の切り札にする予定なのだが、現在待機している機体は1機のみ。それ言うとギニアスは苦い顔をして呟いた。
「・・・先日連邦に射爆場で待ち伏せされて、アプサラスⅡは大破、爆破処理したよ。しかもそれ以降パイロットをしていたアイナの様子も妙なんだ。心ここにあらずといった感じでな」
・・・あれ? もしかしなくても08イベントスタート? ってことはシロー×アイナフラグもう立っているの? っていうか切り札が1つ潰れた!? というかシロー、おまえ一体何があったんだ!? てっきり家族と一緒に過ごしていると思っていたんだが。たしか当時は特務情報室が忙しく、そのせいで優先順位をかなり低くしたんだっけ? それがまさかこんな形で仇になるとは。後で情報を入手しないと・・・というかなんでこんな優先順位を下げたんだ? 疲れてたのかな?
「え~と、とにかくアプサラスⅢは予定通り作戦可能なのかい?」
「それは問題ない。アプサラスⅢは色々と問題点を抱えてはいるが、そちらの提示した運用方法上では特に大きな問題ではない。私の恩師であるニトロ博士や、そちらが派遣してくれた技術者が良くやってくれているおかげかな」
「そっか・・・ところで病気はいいのかい?」
そう、ギニアスは病気持ちのはずなんだが、会話が始まってから一度も咳き込んだりしていない。激しく疑問だ。
「いや、ニホンに来てからなぜか比較的楽になってね。水と空気があったのか、それとも開発が順調なおかげで気持ち的にも余裕がある為なのか・・・まぁ良く分からないがありがたいことだ。そうそう、ニホンと言えば現地採用したニホンの技術者達も中々話が分かる者が多いな。会話が弾むとでもいうべきか、アイデアを出した途端それを元にどんどんアイデアが出てくるので中々面白い」
・・・ニホンの技術者は変態か!? 思わずそう思ってしまうと同時に日本人だからなぁ~と納得してしまったのは内緒だ。
「そうそう、グフフライトタイプだがそのおかげもあって完成したぞ」
「マジで!?」
その言葉に驚いた。ギニアスに依頼していたのはMS-07H-4 グフ飛行型の開発・発展改良だった。うち(ツィマッド社)ばかりかジオニック社、そしてMIP社も技術者を派遣していたプロジェクトだ。で、各社のマッド共が集結したせいか爆発事故等は起こらず、その勢いのままグフ飛行型が完成。そしてそれを更に改良したタイプをギニアスに開発依頼したのだ。
しかし正直な話、爆発事故は起きるものと割り切っていたのだが嬉しい誤算だった。
「形式番号MS-07H8 グフフライトタイプだ。ついでに言えばこれを更に発展改良させた、量産を考慮した新型機体も開発中だ。とりあえずMS-07H9 グフフライトカスタムの名前で開発中だ。が、こっちは気長に待っていてくれ。なんせH8のデータを元に開発を行う予定で、フレームからなにから新規開発予定だ。それにアプサラスを優先するので、もしかしたら今年中には無理かもしれないな」
「いや、それでいいよ。で、そのH8フライトタイプは?」
「とりあえずロールアウトした機体6機全てを2機のHLVに搭載している。君の計画ではアプサラスの護衛はH-4だったが、こちらのほうがいいだろう。6機もいれば私のアプサラスの護衛としては十分だ」
「助かるよ。この作戦の成否はアプサラスの働きに掛かっているんだ」
「まぁ期待して待っていたまえ。私のアプサラスの力を・・・」
「ああ、期待して待っておこう。それじゃあ」
そう言って通信が終了し、残ったのは笑みを浮かべるエルトランただ一人。
「おおよそのところで予定通り進んでいる。これなら予定通り行動できそうだ・・・これがうまくいけば、今後の事もやりやすくなる。ふ、ふふふ、ふぅはははははははは!!」
この後、部屋を訪れた秘書二人が暴走中の社長を目撃し、一人はまたかという思ってため息をつき、もう一人はパニックに陥り泣きながら病院に緊急連絡をいれるというハプニングがあったが特に変わりない平常だった。