<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.2193の一覧
[0] 機動戦士ガンダム ツィマッド社奮闘録(現実→UC)[デルタ・08](2007/12/29 19:02)
[1] 第2話[デルタ・08](2006/08/07 23:26)
[2] 第3話[デルタ・08](2006/08/08 14:00)
[3] 第4話[デルタ・08](2006/09/05 16:19)
[4] 第5話[デルタ・08](2006/08/11 22:36)
[5] 第6話[デルタ・08](2006/08/21 12:27)
[7] 第8話[デルタ・08](2006/09/05 16:16)
[8] 第9話[デルタ・08](2006/10/06 09:53)
[9] 第10話[デルタ・08](2006/10/06 09:54)
[10] 第11話[デルタ・08](2006/11/07 11:50)
[11] 第12話[デルタ・08](2006/12/26 13:42)
[12] 閑話1[デルタ・08](2008/01/01 20:17)
[13] 13話(別名前編)[デルタ・08](2007/07/01 00:29)
[14] 14話(別名中編)[デルタ・08](2007/07/01 00:22)
[15] 15話(別名中編2)[デルタ・08](2007/07/01 00:27)
[16] 16話(別名やっと後編)[デルタ・08](2007/07/01 00:31)
[17] ツィマッド社奮闘録 17話[デルタ・08](2007/07/30 11:55)
[18] ツィマッド社奮闘録18話[デルタ・08](2007/08/16 12:54)
[19] 19話[デルタ・08](2007/08/31 13:26)
[20] 簡単な設定(オリ兵器&人物編) [デルタ・08](2007/08/31 13:47)
[21] 20話[デルタ・08](2007/10/11 19:42)
[22] 21話[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[23] 22話[デルタ・08](2007/12/25 15:59)
[24] 23話[デルタ・08](2007/12/31 18:09)
[25] 閑話2[デルタ・08](2008/01/01 20:15)
[26] 24話[デルタ・08](2008/02/24 17:56)
[27] 閑話3[デルタ・08](2008/05/23 11:31)
[28] 25話[デルタ・08](2008/07/29 14:36)
[29] 26話[デルタ・08](2008/10/18 17:58)
[30] 27話[デルタ・08](2008/10/31 22:50)
[31] 28話[デルタ・08](2009/01/18 12:09)
[32] 29話[デルタ・08](2009/03/18 17:17)
[33] 30話(又は前編)[デルタ・08](2009/04/02 16:07)
[34] 31話(別名後編)[デルタ・08](2009/05/14 22:34)
[35] 閑話4[デルタ・08](2009/06/14 12:33)
[36] 32話[デルタ・08](2009/06/30 23:57)
[37] 33話 オーストラリア戦役1[デルタ・08](2010/04/01 01:48)
[38] 34話前半 オーストラリア戦役2-1[デルタ・08](2010/04/01 01:45)
[39] 34話後半 オーストラリア戦役2-2[デルタ・08](2010/04/01 01:46)
[40] 35話 オーストラリア戦役3[デルタ・08](2010/08/26 00:47)
[41] 36話前半 オーストラリア戦役4-1[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[42] 36話後半 オーストラリア戦役4-2[デルタ・08](2010/08/26 00:40)
[43] 37話[デルタ・08](2010/12/24 23:14)
[44] 38話[デルタ・08](2010/12/26 01:19)
[45] 閑話5[デルタ・08](2011/01/04 12:20)
[47] 39話 前編[デルタ・08](2012/09/30 17:14)
[48] 39話 後編[デルタ・08](2012/09/30 17:23)
[49] お知らせとお詫び[デルタ・08](2015/04/03 01:17)
[50] ツィマッド社奮闘禄 改訂版プロローグ[デルタ・08](2016/03/11 19:09)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[2193] 29話
Name: デルタ・08◆83ab29b6 ID:2be1b22a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/18 17:17
インド戦線。
連邦軍マドラス基地及びコロンボ基地を中心に、インド全域に渡ってジオンに抵抗している戦線である。補給ルートはアフリカを抑えられている為に、主にオーストラリア方面に依存しているが、当然ジオン公国オーストラリア方面軍の迎撃を受けている。よって基本的に補給は空輸になり、海路も潜水艦が主力となっていた。

話を戻そう。ゆえにジャブロー等からの補給は少ない。だが、それでも戦線を維持していたのは理由がある。それはインドが連邦軍の大規模軍需工場でもあったからだ。インドは豊富な人的資源があり、工業力も高かった。資源も東南アジア戦線が地の利を活かしたゲリラ戦で連邦有利な状態で膠着している為、そこから資源を輸送し兵器を量産していた。そして次々に工場から吐き出される兵器はインド戦線以外に、アジア戦線・中東戦線にも輸送されていた。そして、そこでジオン相手に戦う兵器は、何も連邦製ばかりとは限らなかった。





インド北部戦線
大インド砂漠と呼ばれる砂漠に面する都市ジョドプル。その近郊に位置し、この戦線の防衛を一手に担っている連邦軍のジョドプル基地では、陸軍及び海兵隊所属の大量の車両が出撃の時を待っていた。その車両の種類は様々で、その中でも最も多いのは太い砲身を2つ突き出している鋼鉄の狼だろう。

61式戦車

150mm連装砲を持つ連邦軍の主力戦車だ。今から18年前に正式採用され、これまでに何度も近代化改修を受けてきた鋼鉄の古強者。そして一度は生産中止になったものの、ジオンの地球降下作戦によって激減した戦力補充の為に再生産が決定された戦車である。
そんな戦車が整然と停車し、数十単位で待機している様は、陸戦の王をモビルスーツに奪われた現在でも力強さを感じる。そしてその中でも一際強そうに見える車両が最前列に並ぶ戦車だった。

61式戦車5型

開戦前から開戦後にかけて大規模な近代化改修を行われた、61式戦車の中でも新しい型である。主砲を155mm滑腔砲に変更し多くの所に手を加えられた結果、従来の61式に比べあらゆる性能が向上している。流石に主砲がレールガンである対モビルスーツ駆逐戦車、XT-79のように真正面からモビルスーツの装甲を貫通することは難しいが、やり方次第では十分モビルスーツを破壊できる戦車だ。そしてその横の群は、そのライバルというべき存在が整備を受けていた。

HT-01B マゼラアタック

言うまでもなくジオン公国の主力戦車である。だがその車体には連邦軍のマーキングが施されていた。
そう、鹵獲兵器である。輸送中に敵に奪われたり、戦場で部隊が降伏して鹵獲された兵器だ。そしてこの戦争において、鹵獲した兵器を使用するのは極一般的なものだった。このマゼラアタックもそういった経緯を持つ兵器だった。
だが、鹵獲兵器というのは整備に時間が掛かるものだ。それも当然、自らの整備体系に元々存在しないパーツを使用しているのだから、これを大規模に整備しようとするとなると自らの整備体系で生産されたパーツを流用するか、使われているパーツを解析してそのパーツを生産するか・・・

簡単に言えば整備兵泣かせということだ。

現に今マゼラアタックを整備している戦車兵は書類と睨めっこしながら汗だくで整備していた。

「おい軍曹、そいつの具合はどうだ?」

そんな戦車兵に後ろから男が尋ねる。忙しい真っ最中に訊ねられた戦車兵は振り向かず、質問に少し投げやりな感じで返事を返す。

「ああ? 正直、突撃砲か駆逐戦車扱いするしかねぇよ。分離機能のせいで砲塔が旋回しないせいでやりにくいったりゃありゃしねえ!」

「その分離機能はどうだ? 使いこなせそうか?」

「俺は根っからの戦車兵だ、航空機パイロットじゃねえ!」

そう言って振り返って相手を見た途端、彼の顔は凍りつき、直後に最敬礼をした。振り向いた先にいたのはハワイ基地で多大な戦果を上げ昇進した、連邦軍第7海兵隊を率いるハートメン中佐だったからだ。というか階級的にもかなり上位の佐官様だ。間違ってもそんな口調で言っていい人物ではなかった。

「ちゅ、中佐。申し訳ありませんでした!」

「構わん、それくらいの意気がないと宇宙人共に遅れを取ってしまうぞ」

連邦軍第7海兵隊、ハワイ基地を脱出後に各地を転戦し続け、その戦績から人員が大幅に増員され、ここインド方面に派遣された部隊だった。その戦績はずば抜けており、その為多くの戦地から引っ張りダコだった。そんな彼らがインド戦線に配属されたのは理由がある。一つ目は新兵の教育の為に。そして二つ目に・・・これが一番の理由だが、とある作戦の主力として投入する為に、ここインド戦線に仮配置されたのだ。

「俺の海兵隊にも戦時急造の新米が多く配属されているが、軍曹のとこはどんな具合だ?」

「はっ・・・は! 増強された我が陸軍第25戦車中隊の半数近くが新米であり、手の開いている者は新米の特訓に出向いております!」

「ふむ・・・・・・やはり開戦初期の痛手からはそう簡単には治らんか。質の低下は止むを得ないとして、使い物になりそうか?」

「は、使い物になるかどうかではなく、使い物にするのが自分達の役割と考えております!」

「・・・上出来だ軍曹、その調子で頑張りたまえ」

そうハートメン中佐が言った直後、基地に警報が鳴り響く。

「敵襲か・・・お前ら出撃準備急げ!」





「ハートメン中佐、司令部から渡された情報では、こちらにザク7機が先行し、その後方をマゼラアタックを中心とする戦車部隊が凡そ30台接近中です。この基地を落とすには小規模なので、威力偵察と思われます」

帰還した偵察機の報告を受け、司令部は慌てた。本来ならば防御陣地に篭って防御に徹するのだが、それは実行不可能だった。なぜなら敵部隊の侵入してきた方面に設置されていた防御陣地は、つい数日前に敵の大規模な空襲を受け損壊し、未だ修復途中だったからである。
その為、この陸軍基地で最も有力な戦闘力を持つ第7海兵隊に司令部は出撃を命じた。そしてハートメン中佐は部隊を召集し、簡単に作戦を伝える。

「お前達、良いニュースと悪いニュースがあるが、どちらから聞きたい?」

意地悪くハートメンが部下に尋ね、その言葉に一番新米の兵士が口を開く。

「では悪いほうからお願いします」

その言葉を受け、ハートメンは愉快そうに現状を述べた。

「この方面に展開していた自走ロケット砲部隊が先日壊滅して以来、未だに補充されていない。よって支援射撃は無く、陸上戦力は我々だけだ。ついでに言えば対地攻撃機も損傷している機体が多く、修理中で来れんそうだ」

その瞬間部隊の面々、正確には配属されたばかりの新米達が暗い雰囲気になった。だがそれも当然である。
現在連邦軍第7海兵隊に配備されている兵器は鹵獲兵器のマゼラアタックが7台、XT-79駆逐戦車1台、61式戦車が32台で、その内5型が16台である。合計40台もの戦車部隊を持ち、他にもM72LAKOTAといったジープや装輪装甲車といった各種車両が配備されていた。だが、ザク7機を相手するには厳しいものがあった。なぜなら、茂み等を使い至近距離からの砲撃でザクを倒した例は多いが、真正面からの撃ち合いでザクを撃破した例は少数だからだ。しかも相手はモビルスーツだけではなく、マゼラアタックまでもいるのだ。モビルスーツだけに拘れば敵戦車によって蹂躙されかねない。特に砂漠では遮蔽物が砂丘などの起伏しかないのでなおさらだ。特に、今の第7海兵隊は新米が多く配属されており、それの教導も兼ねていたので実際の戦闘力はどの程度なのか全くわからなかった。ついでに言えば、ジープや装輪式の装甲車は砂漠ではキャタピラ式の車両に比べ、満足に性能を発揮できない事も理由の一つだ。

「そんなお前等に良いニュースだ。新しく編成された第1984及び1985混成ヘリ部隊が支援に来てくれる。特に1984はベテランの操縦する重戦闘ヘリが含まれている」

その言葉に先程とは一転して各所から口笛が響く。
重戦闘ヘリ。ミサイルを多数搭載し、対戦車戦闘を重視した戦闘ヘリのことだ。形状としてはかつてのAH-64アパッチに似ている。かつてキャリフォルニアベース防衛戦にも投入され多数の戦闘車両を撃破したが、モビルスーツには敵わずその多くが叩き落されたヘリである。他にも連邦軍には対人戦を重視した武装ヘリというべきものもあるが、対戦車ロケットランチャーを一応装備するにはするが、コストと生産性、それに整備性と操縦性以外はあらゆる面で重戦闘ヘリに負けており、特に火力不足は致命的だった。その為に今では治安維持や偵察以外にはあまり使われなくなった。後はファンファンがあるが、こちらは海軍や海兵隊を中心に配備されている為に、元々陸軍基地であったジョドプル基地には配備されていなかった。
話を戻すが、重戦闘ヘリの最新のタイプは対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』を搭載している為に攻撃力は飛躍的に上昇し、エンジン等にも手を加えられ運動性も向上していた。

話に上がった第1984混成ヘリ部隊には、その重戦闘ヘリが6機、武装ヘリが6機配備されており、重戦闘ヘリのパイロットは皆開戦以来戦い抜いてきたベテラン達だった。ちなみに1985は全て武装ヘリである。

「中佐、質問があります」

そう言って挙手したのは古参の下士官で、ハワイ基地防衛戦でも活躍した兵士だった。

「なんだ軍曹?」

「友軍の戦闘ヘリがくるのはわかりましたが、別に我々だけで獲物を食っちまっていいんでしょ?」

そう言って不敵に笑う軍曹に、新米達はぎょっとした表情をし、ハートメンを初めとする古参連中はにやりと笑う。

「そうだな、ヘリの連中にはデザート1品くらいを残しておけば十分だ。その為にも各員出撃準備を急げ!」

「サーッ!! イエッサー!!」





大インド砂漠、タール砂漠とも呼ばれる砂の海の、遥か遠方からやってくるモビルスーツの姿、正確には上半身をハートメン中佐達は砂丘の陰から確認した。当然車両も待機させている。

「報告どおり7機確認、戦車隊はここからでは確認できませんね。マシンガン持ちのザクが3機にバズーカ持ちが2機、片肩にキャノン砲を背負ったザク・・・ザクキャノンと呼ばれる機体ですね。それが1機と・・・やたらでかい、通信用と思われるバックパックを背負っている旧ザクが1機ですかね」

「バルティ少尉、武装の詳細を正確に言いたまえ。最後2機は武装について言ってないぞ」

「あ、申し訳ありません。ザクキャノンは両腕に外付けと思われるロケット砲を確認しました。旧ザクは・・・ライフルらしきものを持っています」

「ライフル? 狙撃用か?」

「おそらく・・・防衛陣地に立てこもる車両を狙い撃つつもりだったのでは?」

「なるほどな。それならば納得できる・・・ヘリ部隊は?」

「我々が基地を出る前に、エンジントラブルで遅れるといってきた以降は何も・・・」

「チッ、ヘリ部隊は当てにせず、我々だけで対処するか」

そう言っている間にもザクは接近してくる。ただし、マシンガンとバズーカを持った機体が先行し、残り2機が結構な距離をとって追従し、更にその後方にマゼラアタック等の車両が追従する形だった。しかも、先行しているザクは武器を構えてもおらず、油断しきっているように見えた。

「やつら、もう勝ったつもりでいるようですね中佐」

「らしいな、では教育してやるか」



「こ、こちらマムルーク5、配置につきました!」

「遅いぞ! マムルーク1より各マムルークへ、戦闘開始! GOGOGO!!」

マムルーク、今回の戦闘の為に割り振り分けられた第7海兵隊内部での呼称である。戦車を8両1組で振り分け、61式戦車5型をマムルーク1及び2、他の61式をマムルーク3から4、そして、最後に鹵獲兵器であるマゼラアタックとXT-79からなるマムルーク5である。他に装甲車やジープと言った車両には5両程度のまとまりでフェイント1~5という呼称を振り分けている。
マゼラアタックはそれなりに優れている戦車である。ただ、若干旧式な為に主砲は175mm砲(最新型は旋回可能な180mm砲)だが、それでも61式戦車よりも攻撃力の点では上回っている。
最大の問題は砲塔が旋回しないという点だろう。よって、マムルーク5各車はそれぞれ砂丘の陰に身を潜めていた。
作戦自体は簡単なものだ。装甲車やジープで構成されるフェイント1~5は遊撃部隊兼派手に動き回るかく乱役。主力であるマムルーク1及び2が陽動を行い、それに反応した敵をマムルーク3と4が攻撃。その間にマムルーク1と2は後退し背後に回り、マムルーク5はその場で予め指定されたエリアに砲撃をしつつ、隙を見せた敵に対して攻撃を加え、後方のザクと前衛のザクを切り離すというものだった。厳密に言えばマムルーク5に配属されているXT-79、コールサインスナイパーだけは単独行動を行い敵の背後に回り込むが。
ここまで言って、なぜマムルーク5が砲兵の役割をしているのか疑問だろう。勿論攻撃力が一番大きいというのもあるが、それよりももっと重大な問題点があったからだ。

XT-79を除くマムルーク5、鹵獲したマゼラアタックを操るのは新兵なのだ。

なんで新兵に鹵獲戦車なんて乗らせるんだというツッコミがあるだろうが、考えて欲しい。熟練の戦車兵にとって、ジオンのマゼラアタックは異質すぎたのだ。扱おうにも61式の時の癖がしみこんでおり、いらぬトラブルを起こしたりする。それならば最初から戦車に馴染んでいない新兵に扱わせた方が部隊として運用度が高くなると判断しこういう編成になっているのだ。

つまり、裏を返せば新兵のマゼラアタック部隊にはあまり期待していないということでもある。それも当然である、これまでチームとして機能していたところに新米を教育目的で編入されたのだから、新米が足を引っ張るのは想像しやすい。ならば下働きとして使いつつ、戦場の空気や雰囲気を感じさせ、その上で成長させるのはあながち間違ったものではない。

・・・・・・本人達の気持ちを考えなければ。

新米達にとって、この措置はひどく自分達を侮辱するものだと思った者もいる。なぜならかれらは短期とはいえ軍事訓練を一通りこなしてきたからだ。そして、口では死ぬ覚悟はできていると言ってきた。なのに後方からただ砲撃をし、隙があれば狙ってもいいぞと言われることは、一部の者達にとって自分達を見下しているように思えたからだ。





戦闘が始まって数分後、辺りには後方のザクキャノンからの砲撃と、ザクの持つバズーカの弾が容赦無く砂を空高く吹き飛ばす。その合間を縫って砂丘の陰から61式戦車が動き回りながら155mmを発砲する。発砲したらすぐに砂丘の陰に移動し、間髪射れず先程までいた場所にザクから放たれたマシンガンが着弾する。そしてそのままマシンガンを放つザクがいきなりバックステップをすると、先程までザクがいた空間を150mm砲弾が飛翔する。

「敵にじっくりと照準させる暇を与えるな、絶えず攻撃を浴びせ掛けろ!」

「よし、ザクに命中・・・ちっ、盾に弾かれた。角度が浅かったか」

「こんだけ乱射して当たっただけでも上等だ! マムルーク1よりスナイパーへ、今こっちは陽動中だ。そっちの調子はどうだ?」

「現在砂丘の陰を移動しているせいで周囲の状況はわからんですが、奴等の進撃速度を考えるとそろそろ後衛の近くに出るはずです」

「OK、キャノン付にはフェイント部隊が向かっている。しばらくしたら後衛はそっちに手一杯になり敵の砲撃は止まる。その時に仕留めろ!」

「アイ、コマンダー!」



「いけいけいけいけ!! 派手に俺達が砂煙を巻き上げたら友軍が気がつかれずに接近できる。ついでに奴等を誰よりも早く食っちまえ!」

砂の海を猛スピードで疾走するのは2両の装甲車と3台のジープだった。荷台に旧式の対戦車ミサイルや対モビルスーツミサイルを搭載したフェイント4の面々だった。時に蛇行し、時に砂丘の陰を走ってザクキャノンに迫る彼らだが、当然ながらその巻き上げる砂は遠くからも視認できる。彼らは見つかることが役割なのだから。少し離れてフェイント5の車両も走行しているので砂煙は一層派手に巻き上がる。
案の定、接近する車両群を確認したザクキャノンは砲撃をこちらにしてくる。運が悪く直撃を受けた装甲車は吹き飛び、至近弾を受けたジープはその速度を保ったまま横転しかけた。

「くそ・・・怯むな! 近くに行けばキャノン砲は撃てん、このまま進め!」

「リジーナがあればもう発射できたんだが、無いものねだりか」

彼らの主力は射程の短い無誘導の対戦車ロケット弾か、旧式の対戦車ミサイルだ。本来なら対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』が用意されるはずだったが、あいにく全てに行き渡るほどの数は無かった。幾ら連邦の物量が凄いといっても限界はある。それにリジーナは多くの部隊で引っ張りだこなのだ。それゆえ優秀な戦績を誇る第7海兵隊でも要求分を満たすだけの量は存在しなかった。

話を戻すが、現在ザクキャノンは肩のキャノン砲で攻撃している。開戦後数ヶ月が経った現在までに連邦は多くのジオン製兵器の鹵獲に成功している。そしてその中にはザクキャノンもあり、調査した結果長~中距離用のキャノン砲から近距離用兵装である腰のビッグガンを使用するにはFCS、火器管制システムの切り替えが必要とされることが判明している。つまり、ある程度まで近づけばザクキャノンは攻撃できない時間が生まれることになる。その隙を突けば旧式の兵器といえど十分勝機はあった。

が、そんなことはジオン側も当然知っていた。FCSのアップデートやFCS自体の変更、戦訓を取り入れた戦闘マニュアルの作成等の対策は採っていた。そして、その対策の一つがフェイント4の車両に対して牙をむいた。
ザクキャノンが突如何も持っていない腕をフェイント4と、少し離れて追従するフェイント5に向けたと思ったら、次の瞬間には腕についている3連装ロケット砲らしきものから何かが連続して飛び出した。放たれたそれは車両の頭上で炸裂し、鉄の雨と賞するに相応しい密度で装甲車とジープといった軽装甲車両を襲った。
これはハワイ基地を含め、多くのモビルスーツがゲリラ戦を行う歩兵部隊によって損傷を受けたことに対する一つの答えで、エルデンファウストを搭載した3連装対歩兵用近接散弾ロケット発射機だった。弾頭を小型化した為に威力や範囲は低下したが、それでもその効果は絶大で、直撃を受けた装甲車は穴だらけになり爆発炎上し、もろに食らった歩兵は体をズタズタに引き裂かれた。

「シット! 散開しろ! 不用意に近付くな!」

そういう彼も飛び散った破片で左足を切断され、大量の血を傷口から噴出していた。いや、同じこのジープに乗っている者の多くが何らかの怪我を負っていた。むしろ大きな怪我が足一本だけで、車両が大破しなかったのが不思議なくらいだ。

「畜生ジオンの豚野郎・・・絶対殺す、殺してやる」

そう言って喚くミサイル操作を担当していた曹長が喚くが、彼の利き手は散弾で腕ごと吹き飛ばされていた。そして、しばらく走っていたジープも次第に速度が低下し、ついには停車してしまった。

「おい伍長、なぜ停止する! 止まったら狙い撃ちされるぞ! 聞いてい・・・!」

左足の太ももをきつく縛るといった応急処置を施した少尉が見た時、すでにジープを運転していた伍長は事切れていた。そして先ほどまで喚いていた曹長も、今ではぐったりと背もたれにもたれていた。辺りを見渡すと、フェイント5が走行していた場所には、炎上する塊が5つあった。

「・・・こちらフェイント4。フェイント5共々我々は壊滅した、後は頼む」

まだ生き残っていた無線機にそう言って、彼は運転席で事切れている伍長をどかし、アクセルを残った片足で踏み込む。

「連邦軍人の意地を見ろ!」

そう言って彼はザクキャノンの足にジープを特攻させようとするが、途中で気が付いたザクキャノンに、腰のビッグガンで吹き飛ばされた。だが彼の行動は無駄ではなかった。急接近する彼のジープにザクキャノンの注意が向いた瞬間、砂丘の陰に隠れていたXT-79のレールガンが放たれ、ザクキャノンに命中したからだ。そして幸運なことに、ジオンにとっては不幸なことに、放たれたそれは腰のビッグガンに直撃し弾薬が誘爆、ザクキャノンの上半身が吹き飛んだ。



「命中! 上半身がぶっ飛んだぜ」

「こちらスナイパー、ザクキャノン撃破!」

「フェイント4、5の仇はとったぞ!」

XT-79の車内は沸き立った。照準機越しに、友軍の車両が破壊された瞬間を目撃した砲撃手は特に興奮した。

「報告、フェイント1及び2は敵戦車部隊にミサイルを撃ちつくした為に後退、3はその牽制を行っているようです」

「なら後衛の旧ザクは俺達が頂きだな。後衛を潰せば本体が楽になる」

「それはいいが旧ザクを仕留めてすぐに撤退しないと、ジオンの戦車隊に囲まれてフルボッコにされちまう。急ぐぞ!」

だがXT-79の移動速度は61式に比べるとかなり遅い。攻撃力と限定的ながらも防御力を飛躍的に高めたこの駆逐戦車は機動性を犠牲にしているのだから。だが搭乗員の間に焦りは余り無かった。なぜならこの戦車の特徴として、後退速度が前進速度と同じ速さを誇るからだ。元々XT-79は防御用の車両としての役割が大きい。防御陣地である戦車用塹壕に隠れて敵を待ち伏せるのが最も効果的な使い方だからだ。結果的にそれは迅速な陣地変更ができるように求められ、後退速度が前進速度に匹敵するという戦闘車両が誕生したわけだ。
つまり、マゼラアタックが追ってきても後退しながら主砲を浴びせれば一方的なワンサイドゲームをかもし出すことも不可能ではなかった。が、当然ながら速度はマゼラアタックの方が速い為に限度はあるが・・・

話を戻そう。当然ながらザクキャノンを破壊されたことはすぐにジオンも察知した。砲撃が唐突に止み、何の連絡もなければ当然だ。現時点に留まり続けたら敵が殺到するのは目に見えている。よって速やかな陣地転換を行う必要があった。だが、XT-79はそのまま前進を開始した。その任務は敵後衛モビルスーツの撃破だからだ。誰かがやらねばならないこと故に、彼らは長距離からザクを破壊できるXT-79に搭乗しているのだ。そしてしばらく砂丘の陰沿いに移動をしていると、接近してくるモビルスーツを探知した。

「目標捕捉、こちらにやってくる。間違いない、ライフルを持った旧ザクだ。射撃用意!」

「照準用レーザーの照射は長くするなよ。気付かれる恐れがある」

「一瞬だけの照射だから気付かんよ。旧ザクのセンサーはたかが知れている」

そう、ただの旧ザクならば一瞬しか照射されなかった照準用レーザーを探知できなかっただろう。だが、目の前の機体はただの旧ザクではなかった。

MS-05E ザクⅠ・偵察型

MS-05L ザクI・スナイパータイプ同様、旧式化したザクⅠを改修し、通信・電子戦能力の向上やセンサーを増設させた偵察機である。通常の偵察にはMS-06E 強行偵察型が担当しているが、MS-06E 強行偵察型が単機又は極少数での活動を前提としているのに対し、この機体は部隊と一緒に行動することを前提にされており、必要ならばミノフスキー濃度が薄い時に電子戦闘を行う機体だった。本来ならば設置型のソナーをも搭載するのだが、この機体は今回の作戦用に通信機能を向上させた為に搭載されていなかった。もっとも、電子戦能力は容量の限られたモビルスーツ、しかも旧式機体なので低いが、並みのモビルスーツに比べれば高い。
それゆえ、砂丘の陰から照準用レーザーをほんの一瞬だけ照射したXT-79を即座に探知し、潜伏している場所に持っていた狙撃銃を照準するのは迅速だった。強化されたモノアイには砂丘の陰から狙っているXT-79を捕らえており、お返しといわんばかりに照準用レーザーを照射する。当然それはXT-79にも感知され、車内に警告音が響き渡る。

「げっ!? こっちに気がついたぞ、レーザー照準警報!」

「言われなくともこっちに向けてライフルを構えているのが見えている。くたばれや!」

その直後にXT-79のレールガンが発射され、高速で飛翔した弾丸は135mm狙撃ライフルに直撃・爆発し、旧ザクを中破させた。だがXT-79がレールガンを発射した数瞬後、旧ザクの135mm狙撃ライフルからも弾丸が放たれた。旧ザクの持っていたライフルは貫通力に優れており、放たれた135mm徹甲弾はXT-79の正面装甲を易々と貫通し、XT-79はスクラップとなっていた。



全長11.6mもの巨体の戦車が猛スピードで砂丘の段差を飛び越えたかと思うと、着地した次の瞬間には強引に超信地旋回を行い、進行方向を変えて再び前進する。下手をすればキャタピラが千切れる機動だがそれを躊躇なく実行するあたり、必死さが良くわかる。それも当然だ、旋回し終え前進し始めたのと同時に、その61式の頭上を予測射撃で放たれたザクのマシンガンが通過し、先程までの進行方向付近の砂を空高く舞い上がらせた。マシンガンのお返しとばかりに61式から放たれる155mm砲弾は、ザクがスラスターをふかしながらステップを踏んで回避する。

「スナイパー! 応答しろ、スナイパー! ・・・やられたか」

暑い日ざしの注ぐ砂漠で、ザク相手に止まれば即死亡という死のダンスを踊っている61式5型の中で、ハートメン中佐は溜息をついた。今までにマシンガン持ちのザクを1機側面から砲撃してマシンガンを持つ腕を破壊し中破させ、1機を撃破。更にバズーカ持ちのザク1機を撃破したが、XT-79を含め、多くの車両と連絡が取れなくなっていた。5ついたフェイント部隊も、つい先ほど1つが新たにやられ、残りは2部隊。それすら何両かやられているのだから、合計して10両未満になっている。61式にしても既に何両か破壊され、実際には各マムルーク部隊は平均して残り2~3台となっていた。特にマムルーク5、鹵獲したマゼラアタックは残りが2台まで減ってしまっていた。そして破壊された戦車は、それぞれ共通した事柄があった。

「やっぱり功を焦った新米共がやられているな」

「仕方ありませんよ。走行間射撃で当てるのも難しいですし、回避運動を取りながらならばなおさらです。回避パターンも読まれやすいですし、今も善戦している新米の方がある意味異常ですよ」

「そこは俺達の教えをしっかり守っている奴らと訂正した方がいいな。そいつらは伸びるぞ・・・しかし大半のスモークを使ってこの様か」

そう、積載されているスモーク弾の大多数を使用してかく乱した結果がザク1機中破なのだ。ハートメン中佐の考えでは既にザク4機を撃破している予定だったが、新米の動きが悪いのと、これまでの戦訓を取り入れてきたザク部隊といった不確定要素によって、その予定は大きく崩れていた。それでもザクを2機撃破1機中破させたのは流石というべきか。

「報告します。APFSDSの残弾0、APに切り替えます」

「ちっ、少しばかり景気良く撃ちすぎたか」

「ついでに言えば、この後ジオン機甲部隊も待っています」

「ジオンのマゼラアタックなんぞ、側面から挟撃すれば事足りる。問題はザクだ・・・よし、出し惜しみは無しだ。全車スモーク全弾発射!」

その命令が伝わり、周囲から発煙弾が周囲に展開される。当然ながら視界はなくなり、ザクのパイロット達は煙の隙間から目視で狙うか、当てずっぽうに攻撃するか、赤外線で61式を探知するかの何れかの手段を取る羽目になった。が、ここで問題なのは赤外線である。当然ながら61式戦車よりもザクの方が全高は高い。つまり見下ろす形になる。そして地形は日差しを受けて熱せられた砂漠。つまり、地面全体が熱を放っているせいで61式戦車を確認することが不可能なのだ。更に言えば、先程まで乱射したマシンガンの着弾跡の熱反応も紛らわしく、パッと見では停止している戦車を発見することは困難だった。逆に61式からは見上げる形なので、用意にザクを確認することが可能だった。

「各車、マムルーク1及び2が戦闘機動を行う。敵がその反応を追っていく隙に、砲弾を浴びせろ!」

その言葉と共に複数の61式戦車が再び死のダンスを開始し、同時に砲撃を開始した。その熱源を探知したザクは動き回る赤外線の周辺にマシンガンを叩き込む。そしてそれは正確な照準ができないといえども、脅威なのは違いない。速射されるマシンガンの弾が車体に直撃し、砲等が吹き飛ぶ61式が出たことでそれは証明される。
だがそのザクの命運もそこまでだった。動き回る戦車が敵の全てだと思い込んでしまったザクの背後から、150mmと175mm砲弾が大量に飛んできたからだ。回避しようにも他方向から何発も飛んでくる為に避けきれず、1発当たれば連鎖的に命中していく。そしてランドセルに直撃を受け爆散するまでに、ザクはスクラップになっていた。残りはマシンガンを失いヒートホークを構えるザクと、バズーカ持ちの2機のみ。

「よし、撃破したな。続けて残り2機を狙うぞ!」

「りょうk・・・待ってください、ザクが!」

マシンガンを持ったザクが破壊されたことで、残りの2機はこの場で戦う不利と悟り、勢いよくスラスターを噴かし空高く跳び上がり、一気にスモークの立ち込める戦場から後退したのだ。
モビルスーツが地上で恐れられる理由の一つに、このスラスターを使った跳躍があった。スラスターの消費が激しく多用はできないが、その効果は絶大で戦争初期にたった1個小隊のザクが、1個大隊もの61式戦車を翻弄したという記録も残っているほどだ。故に、この機動を取られたら61式戦車にはなす術は無く、後退するのを見守るくらいしかできなかった。

「糞、もうじきスモークが晴れる。マゼラアタックと一緒にこられたらやばいぞ・・・」

「フェイント部隊のミサイルも打ち止めだそうです。中佐、撤退を進言します」

「・・・・・・そうだな、そろそろ引き際か」

犠牲は多かったものの、7機のザクの内4機(ハートメンはXT-79の通信状況から旧ザクは倒していない、又は相打ちと判断している)までを破壊したのだ。撤退しても十分な戦果だ。ハートメン中佐がそう判断し撤退を全車に通達しようとした瞬間、無線機からいきなり通信が入ってきた。

「撤退を考えているのなら待ってくれ。第7海兵隊所属の戦車隊は前進し、支援砲撃を頼む」

「誰だ? 所属を述べろ!」

前進しろというその言葉に面食らいながら、若干怒りを込めながら通信機に怒鳴る。その一方で、頭の思考回路の冷静な部分が通信相手を予想させた。恐らくこいつは・・・
そう思い至った瞬間、予想通りの答えが返ってきた。

「陸軍第1984混成ヘリ部隊、コールサインはストームチームだ。私は隊長のストーム1、これより対地攻撃任務を開始する」

そう、空対地攻撃に特化した騎兵隊、混成ヘリ部隊の到着だった。



「遅いぞ! 戦闘開始からどんだけ時間が経過したと思ってるんだ?」

「すまんな、こっちもゴタゴタがあったんだ。遅れた分の仕事はするさ」

「馬車馬のごとく働いてくれ。敵4機は確実に食ったがこっちも犠牲が大きい。支援砲撃はするが当てにはせず、間違っても当たるなよ」

「ふっ、味方の弾に当たる奴はうちの隊にはいないよ。通信終わり」

そう言って地上部隊との通信を一端切る。ほんの数秒目を瞑り、遅れたせいで生じたであろう地上部隊の犠牲者に黙祷する。
バタバタバタというローターが大気を叩く音と振動が心地よい。この音をBGMに、何度敵と死闘を繰り広げたことか・・・
そう思いながら、ヘリ部隊の各機に通信を繋げた。

「こちらストーム1、各員よく聞け。かつて我々戦闘ヘリは陸上戦力にとって死神だった。だが、モビルスーツという二足歩行の玩具に多くの同僚が狩られてしまった」

その言葉に部隊のパイロットが頷いた。オデッサから北米、アフリカ大陸にオセアニア、ハワイといった激戦区で失った戦闘ヘリの数は洒落にならない量で、その穴埋めとして配属される新米は片っ端から叩き落されていく現実があった。
だがその現実を認識させたストーム1は不敵に笑いながら続きを述べた。

「では我々は無力なのか? 否、そんなことはない。今でも我々は地上部隊にとっての死神だ。その事を忘れ、地上を我が物顔でのし歩いている巨人共に思い出させてやれ!」

「ストーム2了解」

「ストーム3から7了解!」

「ストーム7から12了解」

各機からすぐに返事が返ってくる。流石は開戦以来各地で生き残ってきた猛者達だ。俺は改めてそのことを実感した。
この機体には有線誘導式のミサイルが16発搭載されている。他の重戦闘ヘリ5機も合わせれば96発。武装ヘリは全てロケット弾ポッドを満載している。1機当たり38発の小型ロケット弾を搭載し、これらがまともに直撃すれば、例えモビルスーツが相手でも充分破壊できる。特にモビルスーツはトップアタックが有効なのは実証されている。モノアイのある頭部を破壊すれば、後は背後に回ってランドセルを破壊すればいい。

「こちらタイフーンリーダー、我々は車両を叩きます。グッドラック!」

第1985混成ヘリ部隊、コールサイン「タイフーン」の武装ヘリは全て対戦車ロケット弾を搭載している。モビルスーツ相手には打撃力に欠けるので妥当な判断であった。

「ああ、そちらも幸運を! さぁ、狩りの時間だ。武装ヘリ、前へ。景気良く行くぞ!」

その言葉と共に6機の武装ヘリが部隊の前面に進出する。

「ストーム7よりストーム12各機へ、花火を全部ばら撒け。出し惜しみは無しだ!」

突出した武装ヘリが機首をずらしながら小型ロケット弾を大量にばら撒く。こうすることでモビルスーツを中心にロケット弾が降り注ぎ、回避行動をとっても無意味になる。案の定2機のザクは無数のロケット弾の洗礼を受けた。しかもその内の1機は当たり所が悪かったらしく、バランスを崩し転倒した。その隙を我々が見逃すはずがない。

「ぶっ放せ!!」

そう言って本命のミサイル、対モビルスーツ用重誘導弾『リジーナ』のヘリ搭載改良型を発射する。放たれたそれは空に螺旋の機動を描きながらザクの頭部・胴体・腕部間接・脚部間接に命中し、一瞬の間を置いて機体各部から爆炎を上げた。
そしてミサイルを発射した直後に私は機体を横滑りさせ、それと平行しエンジン出力を変動させ高度も変化させる。こうすることで敵の照準を外させるのだ。予想通りもう1機のザクが発砲し、先程までヘリがいた位置にバズーカが飛んでいった。他の機体も同様の回避機動をとっている。

「各機旋回しつつ敵の背後に回れ、絶対に止まるなよ!」

モビルスーツの旋回性能は脅威だが、足元が砂地ではそれもかなり鈍くなる。ヘタに急旋回をさせればバランスを崩し転倒するからだ。しかも持っている獲物はマシンガンよりも大きく重いバズーカだ。ヘタな姿勢で撃てば確実にバランスを崩す。モビルスーツの周囲を旋回しつつ30mm弾を叩き込む。流石に30mm程度でザクの装甲を貫通させることは不可能だが、こちらを注目させるには充分だ。特に間接等のウィークポイントを狙って叩き込んでいるだけに、相手はそれを無視できない。これがFS型と呼ばれる頭部にバルカン砲を装備するタイプだったら、私の戦闘ヘリを比較的楽に撃墜できただろう。だがここにいるのはただのザクJ型だ。こちらを撃墜する手段はその左手に持つバズーカくらいである。

「ふっ、運が悪かったな」

ザクの背後に回ったと同時に私の機体からミサイルが放たれる。ザクは辛うじて回避したようだが、他にも5発のミサイルが周囲から放たれる。だがこのザクのパイロットは只者ではないようで、放たれたミサイルを辛うじてだが全てを回避することに成功した。砂漠という足場の悪い地形で全周囲から放たれたミサイルを回避することなど、普通のパイロットではできやしない。ついでにいえば、回避行動を取りながら私の方にバズーカを向け反撃しようとすることが、目の前のパイロットが凄腕という事を証明している。
だが私はそれを冷静に見ていた。焦る必要などないからだ。
獲物を一人で仕留めようと思うな、協力して確実に仕留めろ。それが私の隊に徹底させている訓示だ。そして、ここには私の隊以外にも友軍がいる。

こちらにバズーカを向けたザクは次の瞬間背中に被弾し、ランドセルを盛大に爆発させながら前のめりに倒れた。
そう、味方の戦車隊からの砲撃だ。私は通信を再度開き、ハートメン中佐に連絡を取った。

「お見事。流石は名高い第7海兵隊だ」

「ふっ、そちらも流石は開戦から生き残っている猛者だな」

「お褒めの言葉恐悦至極。まぁそれはともかく、我が隊の武装ヘリは弾切れだ。そちらの現状は?」

「キャタピラを酷使しすぎてこれ以上の戦闘機動ができそうにない車両は撤退させた。今いるのは61式7両で、その内5型が3両だ」

「了解した。我々はこれより敵残存戦力の殲滅に・・・」

そこまで話したところで緊急通信が入ってきた。そしてその内容に二人の指揮官は顔色を変えた。

「こちら第1985混成ヘリ部隊、タイフーンリーダー! 敵の逆襲で被害甚大、対空戦車がいます。救援を、救援を!!」





「大変だ! 突出しているあの9両は全て対空車両だ!」

「くそ、事前情報ではアイツはいなかったはずだろ、なんでいるんだ!?」

「見逃したのでは!? ザクを警戒し遠方からの偵察だったら十分起こりえることで・・・うわあぁ!!」

「ああ、ルイ・ジャンがやられた!?」

対地攻撃を主任務とするヘリ部隊にとって、ただの地上部隊は一方的に刈り取られるだけの哀れな獲物。そう考えていた彼らだったが、すぐにその認識は改められた。いきなり叩き落された仲間の機体と、その攻撃をした敵の車両を目撃して。

ジオンの主力戦車であるマゼラアタックはいくつかファミリー化されており、マゼラベース部分をベースに多くの派生型が誕生している。有名どころでは自走迫撃砲「マゼラベルファー」がある。そしてそのファミリーの中でも今現在武装ヘリを攻撃している、航空部隊にとって脅威的な車両、対空戦車に改装された「マゼラフラック」がいた。高初速長射程の機関砲を搭載するこの車両は、これまでに多くの連邦軍航空機を血祭りに上げており、低空を飛行する戦闘ヘリを撃墜することは、この手の対空車両の主任務なのだ。これが重戦闘ヘリならば距離が離れており、かつ運がよければ装甲で防げたかもしれないが、碌な装甲を施していない武装ヘリを撃墜するのは朝飯前だった。

その対空車両が9両もいたのだ。油断していたタイフーン隊の武装ヘリは瞬く間に数を減らしていた。しかも車両と共にザクⅠ・偵察型がいるのが問題を更にややこしくしていた。武装こそXT-79の攻撃で腕部ごと破壊されているものの、その偵察能力は健在だった。ザクⅠ・偵察型からのレーザー通信を用いたデーターリンクにより、マゼラフラックの照準精度が跳ね上がっていたのだ。これによりより正確な対空射撃が可能となり、武装ヘリが初っ端に3機も叩き落されたのだ。

「タイフーン1より各機、超低空飛行で射撃をかわせ! 高度を上げたら的になるだけだ!」

「そんなこと言われても・・・うわあ!」

「タイフーン7被弾、不時着しました!」

超低空飛行、言うのは容易いが行うのは非常に難しい。何故ならタイフーン隊には新米が多く、誤って地表にぶつかるケースもありうるからだ。更に言えば、マゼラアタックからの砲撃も行われ、一層激しい弾幕に襲われていた。
現時点で12機の内5機までもが撃墜又は不時着しており、更に被弾する機体は増加の一途。戦力は一気に壊滅的なダメージを負っていた。

「くそ、各機各自の判断で行動せよ。撤退も許可する、だが生き残る事を最優先に考えろ!」

そう言いつつタイフーンリーダーは機体の真正面に出てきた敵車両、マゼラアタックに対戦車ロケットを発射した。対戦車用のロケット弾は真っ直ぐ飛翔し、狙い違わずマゼラアタックの砲塔部に直撃し大破させた。だが命中させたタイフーン1の表情に命中させた喜びはなく、逆にしかめっ面をしていた。

「マゼラアタックか・・・マゼラフラックだと思ったのに、やはりパッと見じゃあ誤認しちまうな」

そう言いつつ機体を旋回させつつ砂漠ギリギリを飛行する。タイフーン部隊のパイロットは新米に毛が生えたようなレベルだったが、隊長の彼だけは熟練レベルだった。そうでなければ教導することはできないし、部下達も隊長が新米ならば付いていこうとしないだろう。

「タイフーン9より隊長へ! 敵部隊は徐々に後退中、されど対空戦車が殿を勤めているせいで味方の被害甚大! このままでは・・・ぐぉ!? 被弾した、高度が維持できない!」

通信からは部下が被弾する通信ばかりが響いてくる。既に致命的なダメージを負っていない部下は4機程度まで激減していた。

「・・・くそ、このままじゃ一方的な負け戦じゃないか・・・」

そう愚痴をこぼすのも仕方あるまい。ここまで一方的にやられたんなら軍法会議ものかと真剣に考えていた彼だが、援軍が到着したのは正にその時だ。

「こちらストームチーム、援護に入る!」

「マムルーク各車へ、対空戦車を狙え! 戦車前へ、突撃!!」





眼下に見える戦車隊を追い越し、時速200km以上の速度で編隊を組み驀進する。とはいえ、このまま真正面から敵の対空車両と戦えばこちらが明らかに不利だ。タイフーン隊には悪いが、敵の目を引き付ける囮になってもらう。そして敵がタイフーン隊に夢中になっている間に迂回し、後方の車両を潰しながらモビルスーツを叩く。
幸先良く後退中の敵戦車3両と遭遇しこれを撃破した。しかもミサイルはまだ6発も残っている。指揮下の重戦闘ヘリ全体ならもっと多いだろう。
戦闘ヘリの移動速度は地上部隊のそれと比べるまでもなく速い。数分も飛ばずに敵の後退する車両の一群を新たに発見した。数は6両程で、マゼラアタックが4両に装輪装甲車が2両の編成だ。
敵を発見した私はいち早く機体を上昇させ、装甲車目掛けて搭載しているミサイルを発射する。部下達も同様にミサイルを放ち、1両辺り2発近くのミサイルが敵車両を襲った。
だが敵もやられっぱなしでは終わらないようだ。ローター音でこちらの接近には気がついていたようで、こちらがミサイルを放ち誘導している間に装甲車から白煙が上がった。おそらく歩兵携帯用の対空ミサイルだろう。発射母体からの誘導がいらず撃ちっ放しが可能なのが売りなミサイルだが、それはミノフスキー粒子が散布されていないのが大前提。散布下では無誘導のロケット弾と似たような脅威しかこちらには与えない。が、念には念を入れて高度を下げ砂丘の陰に隠れるように移動する。そしてミサイルが放って置いても命中すると思われる距離になり次第ミサイルの誘導コードを切断、一気に高度を地表数メートルまで低下させる。
メインローターが地表に叩きつける風圧で、砂丘の砂が一気に空に巻き上がる。とはいっても機体を隠すには程遠い量でしかないが、私にはコレで十分だ。砂を巻き上げながら一気に横滑りしつつ砂丘の陰に隠れる機動を取る。そして僅かに生きていたミサイルの誘導装置は砂漠で太陽に散々照らされて熱を持っている砂を機体と誤認して、そのまま突進し砂を吹き飛ばすという戦果を上げた。こちらの被害は爆風の影響で皆無とは言い切れないが、損傷としては掠り傷程度だ。
そしてその頃には発射母体の装甲車はこちらのミサイルの直撃を受けて炎上しており、それは他の5両の戦闘車両も同様だった。

「ストーム2からストーム1へ、ターゲットクリア。次の目標を索敵します」

そう言って前進しかけた部下を私は止めた。今の部隊を見る限り、恐らく敵はある程度の集団ごとに行動しているのだろう。今の隊には対空戦車はいなかったので楽だったが、逆に言えば対空戦車は殿としてモビルスーツと一緒に撤退するだろう。戦車隊が追撃しているとはいえ、ここで対空戦車とモビルスーツを相手にするなら、現状のミサイル残存数ではギリギリといた線だろう。

「いや、そろそろタイフーン隊もやばいだろう。これより我が隊は敵モビルスーツの撃破に向かう。対空戦車に優先してミサイルを叩き込め、以上だ」

「了解!」

そう言って部下を引き連れ、低空でタイフーン隊の交戦しているエリアに向かう。そして彼らがタイフーン隊を確認した時、タイフーン隊の武装ヘリは僅か2機しか飛んでおらず、残りは全て撃墜又は不時着を余儀なくされていた。
私は唖然とした。幾らなんでもやられすぎだ。そう思い、次の瞬間には新米が多いので仕方ないかと思い直す。眼前にいるのは腕の損傷した旧ザクと対空戦車今もなお対空砲火を浴びせている対空戦車2両。時折ノイズ交じりに聞こえる通信で、戦車隊は離れたところで別の対空戦車と戦っているようだ。

「よ~し景気良くいくぞ。全機、対空戦車にミサイルをブチかませ!」

そう言いながら私はミサイルを2発発射する。目標は対空戦車ではなく旧ザクだ。部下の機体からミサイルが1~2発程発射される。たった2両の対空戦車に8発ものミサイルが襲い掛かる計算だ。
こちらがミサイルを発射したことに気がついたのか対空戦車の砲火がこちらに向く。だが狙いは別のようで、片方はミサイルを誘導する母体であるヘリを狙い、もう片方は飛来するミサイルを激激しようとしている。旧ザクはヘリに照準用レーザーを当て射撃精度を高めようとするが、私の放ったミサイルを回避する為に一端レーザーを遮断した。その判断のおかげか、私の放ったミサイルは2発共回避されたが・・・

「その判断は誤りだったな。お前はミサイルを腕に受けるぐらいの意気込みで直前までヘリを狙うべきだった」

旧ザクからの射撃データが送られてこないということは、対空戦車は自前の観測・照準用機器で狙いを定めないといけない。それ単体でも精度はかなりのものだが、やはり武装ヘリとは運動性が違う重戦闘ヘリには中々当てにくいようだ。当然ミサイルの誘導をしなければならないので際立った回避行動はできないが、持ち前の装甲でなんとか致命傷は避けている。一般的に対空機関砲よりもミサイルの方が射程が長く、こちらのミサイルの射程ギリギリに対空機関砲を当てても威力はかなり低下する。無傷とはいかないが、致命傷ではないことに感謝しよう。
ミサイルを迎撃している対空戦車は善戦し、ミサイルを3発も叩き落された。が、彼らの活躍もそこまでだった。放たれたミサイルは対空戦車に命中し、スクラップへと変える。対空機関砲の攻撃で重戦闘ヘリ2機が小破ないし中破したが、撃墜された機体は皆無だ。
眼前に残ったのは旧ザク1機のみ。そしてこちらに残っているミサイルは部隊全体で10発程度。

「各機へ、残っているミサイルを全て叩き込め!」

そう言いながら30mm機関砲弾をばら撒きながら突進し、ある程度接近したところで残ったミサイル2発を連続発射して急上昇する。その後方で残ったミサイルを全て発射する重戦闘ヘリ。10発近いミサイルが旧ザク目掛けて飛翔し、慌てた様子で旧ザクが回避行動に移る。が、改修してあるとはいえ、所詮は旧ザク。回避行動も限界があり、何発か回避することに成功するも、避けそこなった1発のミサイルが命中し、着弾の衝撃で動きが止まった次の瞬間には数発のミサイルが新たに直撃し、命中した場所から激しく炎を噴出しながら崩れ落ちた。
それを確認しストーム1は戦車隊に通信を繋げる。

「ストームリーダーからマムルークへ。こちらはミサイルを使い果たした。機関砲弾はまだ残っているが、そちらは対空車両は全て破壊したか?」

「・・・すまんな、何台か逃げられた。5両はなんとか破壊したが、マゼラアタックに横槍を入れられて残り2両は確認していない」

その言葉にストーム1は顔をしかめる。機関砲のみということは必然的に敵に接近せざるを得ない。その時に対空砲火を食らえば損害が出るのは必至だ。少しの間思考を巡らせ、無理はしないほうが無難という結論を出した私はハートメン中佐
に応えた。

「了解した。では安全策をとって帰還するか?」

「・・・・・・そうだな、そのほうが良かろう。戦闘終了、帰還する」





「・・・こちら観測室。戦闘の終了を確認、こちらの威力偵察部隊の大敗です。観測装置の収容完了しました」

「XT-79を中心とした部隊で篭城戦をすると思ったが、読みが外れたな。まぁいい、その旨本部に連絡するぞ」

「了解、それじゃあ観測員達は順次休憩に入る。後はよろしく」

先程まで戦闘が行なわれていた地表より、遥か高みを飛ぶ物体が存在した。全体的に真っ黒に塗装され、機体を改修し航続距離と偵察能力を飛躍的に高めた、偵察型コムサイ(外見は0083のコムサイ&ブースターに近い)だった。

「ゴースト17より本部へ、友軍の威力偵察部隊の撤退を確認した。帰還許可を求む」

「こちら本部、いいデータはとれたか?」

「いいデータかはともかく、砂漠での戦闘データが収集できた。地上部隊の偵察ザクからも撃破されるまで情報を貰ったから、解析すればそれなりのデータがあるだろう」

「了解した、ゴースト17はすみやかに帰還せよ。その空域付近は確認されていないが、インターセプトに食いつかれないように気をつけろ」

「了解。情報収集完了、これより帰還する」

この機体の任務、それは戦闘が起きている上空を飛行して戦闘データを収集し、確実に帰還することだった。収集されたデータは分析され、様々な分野に反映される。
今回偵察型コムサイは戦闘開始まえからデータ収集を行なっていた。つまり、地上部隊が生き残ろうが全滅しようが、どちらにせよ戦闘データは入手できるようにジオン上層部は手を打っていたのだ。

「そういえばゴースト49が先日ベルファスト上空で撃墜されたらしいですね」

「ああ、話には聞いている。なんでも空中警戒中の魚(セイバーフィッシュのあだ名)と鉢合わせして、逃げ切れずに蜂の巣になったって話だったな」

「他の地域でも魚が空中警戒していることが多くなったそうです。一応護身用の武装はありますけど、鉢合わせしたらヤバいですよ」

「その為に気休め程度とはいえ、見つからないようステルス対策されているんだ。少しはそれの性能を信用しろ」

「目視で確認されたらおわりですよ。・・・コース変更が完了しました。後1時間半後には基地に戻れます」

「よし、偵察機の任務は無事に帰るまでが仕事だ。周辺空域の警戒を怠るなよ」

そんな会話をしつつ、偵察型コムサイは飛行していく。地上で立ち上がる黒煙の届かない超高高度を飛行して。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025538206100464