ジャブロー
「ホワイトベースが落とされた、か・・・」
「仕方ありません。ジオン勢力圏内の真っ只中に降下した時点で、十分予想できた事です」
「如何に新型艦と強力なモビルスーツでも、物量の前には押しつぶされるだけだったか」
「ですが将軍、ルナツー経由である程度の実戦データは入手できております。それに、他の先行量産型モビルスーツを中核とする実験部隊からも、有益な戦闘データは得られております」
「君の特殊部隊もその一つだったな准将」
「はい。RGM-79G先行試作量産型ジム、通称陸戦型ジムからなる独立部隊です。総戦力は1個中隊規模で、この間も第3小隊がジオンの野戦整備基地を襲撃し、ザク3機を含む戦力を壊滅させたとの事です」
「たしか今はオーストラリア戦線で、後方攪乱任務中だったな。 ・・・悪いが、アジアに移動してもらう」
「アジアですか? ですがオーストラリア方面の戦力が低下しますが」
「承知の上だ。アジア戦線ではコジマ大隊を中心に激戦が繰り広げられているが、この方面は今のところ問題はない。RX-78の余剰パーツから組み立てられた陸戦型ガンダムが配置されているから、現在の戦況は一進一退を繰り返しているそうだ。だが、それとは別に東南アジア戦線で不穏な動きがある。君の中隊にはそれに対する押さえとして展開してもらう。オーストラリア戦線には代わりを送る」
「了解しました。ですが代わりの部隊というと・・・」
「君も知っているとおり8月に我々は量産型モビルスーツである、RGM-79の試作1号機を完成させた。その生産ラインを拡大した結果、ある程度まとまった数が配備できるようになった」
「それではその機体を・・・」
「うむ、オーストラリアの主要基地に、最低1個小隊規模のモビルスーツ隊をまわすつもりだ。なおトリントン基地は増加試作型のガンタンクとガンキャノンをそれぞれ1個小隊、チャールビル基地に鹵獲機とRGM-79で構成されたモビルスーツ1個中隊を派遣する」
「・・・トリントン基地に貯蔵しているアレを移すべきでは?」
「移すとして、どこに移送するのだ? ここは頭の固い官僚共が反対するし、ベルファストはDデイに使われると思われかねん。激戦区のインド・アジア戦線は論外だ。新しく保管場所を探すとしても時間も無いし、ルナツーも移送中に狙われんとも限らん。今はただ戦力を固めるだけだ」
「ですが、オーストラリア戦線には例のVFが展開しています。戦力の増強も行われているようなので、万が一奪われたら・・・」
「仕方あるまい。それにホワイトベースが落ちたせいで、かつてのV作戦反対派が盛り上がってきている。今はそちらにも対処せねばならん。莫大な予算を掛けた新型艦とモビルスーツを敵地に降下させ失うとは何事だと言い、わしを追い落とすつもりだろうがそうはいかん。もしあの者達が巻き返せばどうなるかわからんしな」
「はい、反対派には強硬派も少なくなく、例え戦争に勝利しても後にスペースノイドの弾圧に発展する可能性が高いです。そうなれば・・・」
「我々は戦争をしている。だが戦争にもルールがあり、むやみに虐殺することだけは避けねばならん」
「・・・レビル将軍、実はアナハイム社から私宛に通信がきたのですが」
「アナハイムから? 兵器の売り込みというわけではないようだな」
「はい、とある人物と会談を持って欲しいとのことです。そして会談に応じる対価はガンダムの地上戦闘データです」
「・・・会談相手はジオンか」
「はい、正確にはあのVFを運用しているツィマッド社の社長、エルトラン・ヒューラーです。今後について秘密裏に話し合いたいと」
「・・・コーウェン准将、会談に応じると返答したまえ。これも一つの転機なのかも知れんな」
・
・
・
キャリフォルニアベース研究施設
「調子はどうだいニトロ博士?」
「おお、エルトラン社長。中々のデータじゃわい。これがあればわしのメカロー・・・おほん、新型機の設計に役立とう」
「・・・また何か勝手に考えてるのかい? ほどほどにしてくださいよ。この前作られたゴキブリ型のメカが暴走して、余りの嫌悪感に基地がパニックになった事なんて記憶に新しいんですから。ところで、あそこに固めている機体の残骸もデータの固まりかい?」
そう言ってエルトランが指し示すのは残骸となったガンタンクとプロトガンダムだ。
「当然じゃ。ルナチタニウムにどれだけの防御力があるのかを示す貴重な資料じゃ。戦闘実証、それも対弾性能等で役に立っておるし、こちらの武装の有効射程距離を測るのにも役に立っておる。無駄なものなんぞかけらも無いわ」
「なるほど・・・・・・鹵獲した赤い機体、ガンキャノンはどうでした?」
「ふむ、多くの面でザクキャノンを上回る性能とだけ言っておこう。もっとも、元々対空用に開発されたザクキャノンと、対モビルスーツを目的に開発されたこいつとでは違うのも当たり前じゃがな」
「ガンタンクのほうは?」
「残骸となっているものと中破している機体とでは色々異なっている面もあるが、コアブロックという脱出機能に関して言えば疑問としかいいようが無いわい」
「疑問?」
「そうじゃ、胴体内部はともかく、頭部コックピットには脱出用の装備があまりないんじゃ。大破した機体にはそんな機能は無く、ただの一人乗り用に改修されておったが、こっちのほうが現実的じゃの。腰部が旋回できるのも悪くない」
「そうなのかい?」
「自走砲としても対モビルスーツ用の砲台と考えても優秀じゃ。アウトレンジから一方的に叩くということを前提にされておるから、あまり装甲はいらんように思えるがの」
「似たような兵器でザクタンクがあるけど、あれと比べればどうなんだい?」
「ザクタンクの種類にもよるが、コストではザクタンクじゃろう。砲撃能力では当然ながらガンタンクじゃ」
「それで・・・・・・どのくらいものに出来そうだい?」
「いま少し時間と予算を頂ければ、各種基礎技術に装甲材や武装、教育型コンピューターにインストールされたこれまでの戦闘経験など、物に出来るものは数多いですぞ。木馬の方もミノフスキークラフト技術を始め、多くの技術が参考になると報告がきておるしの」
「木馬の方はどのくらいで戦線投入が可能なレベルまで修理できますか?」
「わしは修理の担当じゃないからわからんが、おおよそでしたら・・・およそ1ヶ月あれば、キャリフォルニアベースで修理完了するじゃろう。ただし兵装は多くが破損しているので、変更する必要はありますがな。それにエンジンも応急修理に過ぎんから、新しく作ったほうがいいですぞ」
「ふむ・・・ありがとう。それと博士、そろそろ会議の時間だから切りのいい所で作業を区切って、会議に遅れないように頼むよ」
・
・
キャリフォルニアベース大会議室
「というわけで、はじめようか」
「では皆さん、手元の資料をご覧になってください」
大会議室には今回の作戦に関わった面子とVFの主要部隊の長が揃っており、そして社長の横にはVFの秘書兼看板娘として、そしてアイドルとしても活躍している『キャサリン・ブリッツェン』が立っていた。
いや~、まさかいるとは思わなかった。VFの秘書兼キャンペーンガール募集した中にこの娘かいたのを見て思わず唖然となっちゃったんだよなぁ・・・迷わず採用して、キャンペーンガールのコスをあの0079版コスチュームに変更させちゃったけど。それ着てキャンペーンガールとして活動させたら、やたら人気が出て、アイドル化しちゃったんだよなぁ。おかげで不純な動機でVFに入隊しようとする志願者も増加したが・・・キャサリンタンは俺の嫁って言う奴自重しろ。
というか既にVFと正規軍の一部で、キャサリン親衛隊が設立されてるからある意味手遅れか。他にも有名なのでコンティ大尉に叱られ隊とかいうのもあるけど・・・そこ、VFオワタって言うな!! ちなみに私は親衛隊から目の敵にされているがな。秘書ということで一緒にいる時間が長いから。ファンから送られてくる、月夜ばかりと思うなよって視線が怖いとです。
でもこうなると他のキャラクターもいそうだし、今度探してみるか。・・・・・・名前殆ど忘れちゃったが(爆
「皆さんの手元にある資料にあるとおり、連邦もモビルスーツの量産化を開始していると判断していいでしょう。木馬のデータから見てもほぼ確実です」
「ふむ、鹵獲機やザニーと呼ばれるザクもどきだけかと思っていたが、既に世界各地で連邦製と思われるモビルスーツが確認されているな」
「ということは新米の訓練プログラム、中でも対モビルスーツ戦闘を今よりも一層強化するべきか」
「それより問題は、こっちの対モビルスーツ戦術と連邦の戦術のあり方だろう」
「連邦の怖いところはその物量だ。たとえ旧式でも、圧倒的な航空戦力と地上戦力を揃えられれば、モビルスーツといえど飲み込まれかねん」
「それから言えることは、通常戦力でも十分モビルスーツは破壊できるということです。その点は連邦のほうが進んでいる」
「多くの犠牲と領土損失の上でな。だがこっちはそんな余裕は全く無いぞ」
様々な意見が飛び交っていたが、とある単語を司会進行役のキャサリン・ブリッツェンが発言した瞬間、喧騒は収まった。
「皆さん落ち着いてください。今後VFが取るべき方針は定まっていますので、これから説明します。北米戦線は守りを固め、オーストラリア戦線は近いうちに大規模な作戦が決行されます。そして、Xデーに備え戦力を整えます」
Xデー、この一言が発言された瞬間、会議室に静寂が降りた。その隙を突いてエルトランが口を挟む。
「皆、キャサリンが言ったとおりXデーが間近だ。調整がまだ済んでいないので正確な日時は未だ未定だが、第1段階を10月半ばから11月半ばと想定している。最終的には今年中に実行するので、そのつもりで行動してもらいたい」
「いよいよですか」
「遂にこの時が・・・」
感慨深い表情で呟く会議に集まったメンバーだったが、その中でダグラス・ローデン大佐が疑問を口にした。
「社長、Xデー実行時の戦力展開はどのようになるのですか?」
「それについては予定に過ぎないが、オーストラリアにはフェンリル隊とあなたの外人部隊を、北米にはソンネン少佐率いるケーニッヒス・パンツァーにスカイキッド、ブラックナイトを展開させる。作戦に参加するサイクロプス隊等の他の部隊は、ルナツー攻略といった名目で宇宙に戻す」
「地上はわかりましたが、カタリナ要塞の防衛は?」
「もちろんカタリナ要塞には防衛部隊を展開するが、それらは1個中隊もないだろう」
「ではカタリナの防衛戦力に不備が出るのでは? 万が一制圧されれば、我々は宇宙での拠点を失います」
そう危惧するダグラス大佐だったが、ここぞとばかりにニトロ博士が立ち上がり説明を始めた。
「心配するでない。こんなこともあろうかと、ギニアス技術少将の開発しているモビルアーマー、アプサラスⅡに搭載されている大型メガ粒子砲を転用した砲台がカタリナに運び込まれる手筈じゃ。衛星ミサイルより一回り大きいサイズの隕石を利用し、そこにメガ粒子砲とジェネレーターを設置したものじゃが、威力は計算上では戦艦の主砲を上回る。本当は拡散誘導型のメガ粒子砲を設置したかったのじゃが、まだ完成していないのでしょうがあるまい。代わりに威力も精度もかなり落ちるが、ザクレロに搭載されているタイプの拡散メガ粒子砲設置型を準備しつつある」
「アプサラスというと・・・たしか日本に拠点を置いているギニアス技術少将のジャブロー攻略用モビルアーマーでしたか」
「そうじゃ。この前わしがあの小僧、ギニアスに通信をしたのじゃが、アプサラスⅡがある程度完成したので、アジア戦線後方の秘匿物資集積基地であるラサ基地に移動し、微調整を行った後に実戦テストを行うそうじゃ」
「ああ、その報告なら私にも来たよ。でも計算ミスでミノフスキークラフトが不調になって、改修しようにも機体容量の問題のせいで不可能、そのせいでアプサラスⅡは完全にデータ収集用の機体にして、新たにドムシリーズのジェネレーター4基とミノフスキークラフト2基を搭載し、精密射撃可能な拡散メガ粒子砲を搭載するアプサラスⅢを開発するとかなんとか」
「・・・バケモンですなそのアプサラスとやらは。話を戻しますが、つまりその砲台は、モビルスーツの母艦を落とすことが主任務であるタイプと、モビルスーツ迎撃用の拡散型の2つがあるわけですか。それで万が一の対処が出来ますかね?」
「砲台自体は隕石に砲とジェネレーター、姿勢制御用のスラスターをくっつけた代物じゃから耐久性は無いに等しいがの」
「それに、作戦開始から終了までの時間が数時間以内と予想を立てているから、その間だけ時間を稼ぐだけならそれで充分だと私は判断しました。それ以上長引くことがあれば、それは作戦失敗を意味します」
「その時はプランIですか・・・わかりました」
「後、工兵隊の報告では今回の戦闘で大破したモビルスーツ等の回収作業も順調だそうです」
「大破って、正規軍じゃスクラップ扱いですよね?」
「たしかにそうですが、フェンリル隊のミガキ整備班長の言葉にすれば、修理を開始した瞬間からそれはスクラップから、未来の稼動機に変わる、大事なのは未来ということです」
「まぁ最悪、パーツ取り用としては使えるからな。胴体が全損していても脚部や腕部は無事っていうパターンもあるし」
「機体が大破していても武装は生きていることもありますからね。我々にとっては貴重な物資ですよ」
「今回は大規模な作戦が無いおかげで、回収作業がかなり順調なんだがね。これが激戦区なら簡単に回収なんてできやしない」
「まぁこういう員数外のモンが役に立つこともあるからな。ちゃんと整備すれば使用可能なもんは多い」
そんなこんなで報告は続き、最後に生産ラインの話に入った。
「では、最後に主力モビルスーツであるドムシリーズの生産状況についてです。皆さん赤い冊子をご覧になってください」
「皆も知ってる通り、地球上で運用されるモビルスーツは基本的にここキャリフォルニアベースで少なくない数が製造されている。占領直後からの大規模な工場増設もあって、生産ラインの拡張は順調だ」
「ですが、ここにきて問題が噴出しています。生産ラインを整えつつあるのですが、現在我々の生産ラインに乗っている兵器は、モビルスーツだけでもザク、ヅダ、グフ、イフリート、ドム、ゴッグ、ハイゴッグ等、多岐にわたります。ザク、ゴッグに関しましては生産ラインは今月一杯を持って他のラインに変更されます」
「ザクに関しては各社との協議の末に決まったよ。政治的な事で、今後ザク系の生産や近代化改修はジオニック社の管轄になる」
「まぁその方がこちらにとっても良かったんで妥協したという一面がありますけどね」
「イフリートは12機+α生産しただけで、後はずっと予備パーツのみの生産だったからもう他の生産ラインに切り替えたし、11月までにヅダとグフ、それに前線への配備がある程度完了したハイゴッグのラインをある程度削減することで、ドムシリーズの生産を拡大する予定だ。ただ、問題はそれだけじゃないんだよね~」
「皆さんもご存知の通りドムシリーズは拡張性が高く、多くの派生型が存在します。それゆえに互換性の無いパーツは多く存在します。他の機種のラインを縮小することで賄っていますが、それでも実戦配備は遅くなるでしょう」
「前線での整備も考えると現状でギリギリといったラインだからねぇ。グフやザクの生産から撤退し集中するっていう手もあるけど、デメリットも多いから無理だし」
「ですので、ドムシリーズが正規軍に実戦配備され大々的に普及するのは早くて来月から再来月中にかけてと予想しています」
その言葉に会議に集った一同が唸る。ドムは素早く展開できる機動性が売りなのだ。つまり、これが多ければ多いほど危険な状況に陥った戦場に短時間で増援を送れることになるのだ。連邦がいつ反撃を開始してもおかしくないので、ドムの配備は防御能力の向上という点でも急がれる事案なのだ。
ちなみによく運動性と機動性はごっちゃにされるが、これは全く違う別物である。(作者もよく間違えるが)
機動性は様々な場所に移動し部隊を展開できる性能のことで、巡航速度や航続距離、補給の容易さに大きな影響を受ける。
一方運動性は、攻撃に対する回避行動などの素早さを意味する。これは最大推力、重量 (戦闘重量等)、あるいは機体デザインに大きな影響を受ける。
簡単に言えばグフやイフリートは運動性が高く、ドムは機動力が高いということになる。
ちなみに機動性と運動性の両立は十分可能で、有名な例でいえば長大な航続距離と優秀な格闘戦能力を持つ、ゼロ戦こと零式艦上戦闘機が有名だろう。後は・・・フランカーとかか?
閑話休題
そんなわけで、生産ラインの話はまだまだ続く。
「それに他の生産ラインの問題もある、モビルアーマーに関してだ。手元の書類に書いてある通り、10機以上の量産を計画されているモビルアーマーは現時点では少数だ。これはモビルアーマーが高価格かつ生産性がモビルスーツよりも悪いということに起因している」
「最初から量産を前提にされているモビルアーマーに、開発コードTCK、正式名称イーゲルヴィント級モビルアーマーがあります。これは量産型ヒルドルブの生産ラインを流用して生産していますので、ある程度の融通が効きます。その反面、量産型ヒルドルブのラインは一時的に閉鎖します」
それを聞いて一人の佐官が立ち上がった。言わずもがなヒルドルブ隊隊長のソンネン少佐だ。
「社長! ヒルドルブはまだ活躍できます!」
「ソンネン少佐、わかっている。誰もヒルドルブが役に立たないと言っているわけじゃない。それどころか私はヒルドルブを評価している」
「だったらなぜ・・・」
「生産ラインを閉じるといっても、ヒルドルブを廃棄するわけじゃない。それに、ぶっちゃけて言うとヒルドルブはこれ以上の量産は不可能なんだ。ヒルドルブのコストは高くて、量産型といっても容易く量産できる値段じゃない。それにヒルドルブが必要とされる戦場は今のところ北米には存在しない」
「ならば他の戦線に・・・」
「それも一つの手だけど、ケーニッヒス・パンツァーは北米方面軍の力の象徴と言ってもいい。その方向で各地で宣伝してしまったからね。よって政治的な問題で他戦線に投入することも難しい。それに補修用パーツも備蓄があるから、大規模な作戦が無い現状なら一時的な閉鎖を行っても問題無いと判断したんだ」
「・・・・・・」
「その点イーゲルヴィント級はこれから必要になってくる兵器だ。少佐、イーゲルヴィント級の特徴は知っているかな?」
「噂では・・・ライノサラスの小型版で連邦の使っているホバートラックの大型版、ホバー版ヒルドルブと聞いたことがありますが」
「まぁ大まかに言ってしまえばそうなるね。だけどこれはモビルアーマーというか、その実態は前線指揮官機、連邦のミニトレーみたいな物だということだ。一定数の部隊を率い、迅速な戦術行使を可能にする移動指揮所。流動的な戦場を支配する為の切り札といってもいい」
「皆さんもご存知の通り、連邦は我々の後方支援部隊を集中して攻撃する傾向にあります」
「中でも指揮系統の破壊は優先順位がかなり高いみたいでね。自衛能力の低い指揮車両がよく狙われてるんだ」
「・・・重要度はヒルドルブより上ってことですか」
「ああ、そういうことだ。だからといってヒルドルブの重要性は決して低くない。正規軍の戦車乗りはヒルドルブに憧れているという報告もきているからね。ただ、今はこっちを優先しなきゃならないんだ」
「・・・・・・了解しやした、そういうことなら納得しましょう。実際問題、こっちは4号車が修理中ですからね」
「ありがとう。さて、時間も無いから次の案件に行こう。次は・・・・・・」
・
・
・
翌日 キャリフォルニアベース
ジオン公国軍キャリフォルニアベースは一言で言えば都市を含む軍事拠点だ。当然一般人が入れる区域や軍人でも一定以上の者しか立ち入りが許可されていない区域が存在する。そして、その中でも一般人の立ち入りを禁止されている区域を人員輸送用に改造され、しかも窓に目隠しをされたサムソンが何台も通過していく。そして、その乗客は本来この区域に立ち入ることは絶対に許されない存在だった。
そして、高台にある巨大な建物の前に停車し、乗客を降ろしていった。建物の駐車場には多くの車両が駐車しており、それだけでもここにいる人員の数がわかるだろう。
「・・・ここがキャリフォルニアベースか」
未だ連邦軍の服を着ているものの、サイド7の難民扱いされているアムロは複雑な気持ちでキャリフォルニアベースの地を踏んだ。
あの後捕虜となり、エドワード少尉を含む少なく無い数の人を殺したジオンをアムロは憎んだが、ある光景を見たことでその思いは失散した。
ボディバッグ(死体を入れる袋)に入れられる女性パイロットの遺骸にすがり付いて泣く、恋人であったであろう男性兵士の姿だった。
そして周りを見渡すと、少なく無い数のボディバッグが搬送されていた。
今回の戦闘ではアムロはシャアと戦ったが、これまでに彼は少なく無い数の兵器を破壊した。当然それらには兵士が乗って動かしていたのだ。そしてそれを破壊するということは、乗っていた兵士を殺すこと。
『相手がザクなら人間じゃないんだ、僕だって』
そう思って戦っていただけに、アムロにとってその光景は衝撃的だった。当初は精神状態が不安定になるほどだったが、仲間達からの説得や荒治療によってなんとか精神の均衡を保っていた。
そんなアムロだったが、肩を叩かれたことで我に返った。気がつかないうちに思考の海に潜っていたようだ。
「おいアムロ、下見てみろよ。ピラミッドみたいな奴が動いているぜ」
「ピラミッド?」
そう言ってカイが指差した方向には、たしかにピラミッドのような存在が動いていた。ソレがピラミッドと違うのは色が緑で足が4本あるモビルスーツだということだろう。そしてソレはホバー走行しているのか、地面から浮いてゆっくり移動していた。
「なんなんだあれは? ジオンの新型モビルスーツなのはわかるが・・・」
そう言ったのはリュウだ。ソレはどんな運用方法なのか全く見当が付かず、外付けと思われる追加装甲のせいで機体を覆っている為に、機体固有の武装らしきものが見当たらなかった。いや、頭部にメガ粒子砲らしきものがみえるが、どう見ても水平射撃はできそうになかった。
皆の注目を集めるソレはゆっくりと前進していたが、次に行った行動に皆が唖然となった。
ホバーが故障したのか、突然その場で360度回転を行い始めた。しかも勢いが半端ではない。もし昔の遊びを知っている者がいれば、まるでベーゴマ(コマ)みたいだといったはずだ。
「なんだ? ジオンの新兵器もたいしたもんじゃないのか?」
「ホバーの故障のようですね。あれは実験機みたいですが、乗っているパイロットには同情しますよ。リバースしないかとね」
リードと他数名はその光景を馬鹿にするが、実際にはその機体、ゾックのモノアイは全周ターレットを回転する機体の動きとは逆に動き、常に一定の方向を向いていることには気付けなかった。そして、このモビルスーツがヨーロッパで連邦軍相手に大暴れして、暴れた場所からドイツの破壊神と連邦軍に呼ばれることになるとは、誰も想像すらできなかった。
「無駄口言っていないでさっさと動け!」
そう言って銃を持った男が建物内へ入るよう言ってくる。ちなみにサイド7からの避難民には女性兵が当たっているが、こちらは親切に接している。まぁ老人が多めなので当然だが。
建物内に入ったら最初から連邦軍に所属していたリード中尉やブライトさん、リュウさん達と、サイド7でホワイトベースに乗った人とで別けられた。
そして僕達はホールみたいな所に通され、置かれている椅子に座るようにジオンの兵士に指示された。
「おいアムロ、さっきの兵士みたか?」
「何をですカイさん?」
「肩のところに戦乙女の紋章だよ。ありゃ噂に聞くVF、ヴァルキリーフェザーってやつじゃないか?」
サイド7でもVFのことは良く知られている。というより、宣伝放送でよく流れているから多くの者がその存在を知っていた。曰くジオンの特殊精鋭部隊、曰くザビ家直属の私兵部隊、曰く人道的な支援を民衆にする偽善者の集団、曰く連邦軍の作成するブラックリストの最上部、曰く戦乙女ではなく死神、疫病神etcetc・・・・・・突拍子も無いものになると、ジオンを影で操っている組織とか、この戦争はVFによって仕組まれたものでザビ家ですら操り人形に過ぎないというのまである。
そんな事で話していると、護衛をつれて軍人には見えない男性がホールに入ってきた。
「はいはい皆さんこんにちは。皆さんはサイド7の避難民で間違いありませんね?」
「そうだが・・・誰なんだあんたは?」
「っと、これは失礼。私はジオン公国の企業であるツィマッド社の社長、エルトラン・ヒューラーです。VFの元締めもしてますがね」
その言葉にどよめきが走る。まさか社長が出てくるとは誰も思っていなかったのだから当然か。結果、ホールは避難民の話し声でがやがやとうるさくなる。
「VFの元締めって・・・」
「VFって噂どおり一企業の私兵だったのか」
「そうだったの? てっきりサイド3以外のサイドからの義勇軍だと思ってたけど」
「わしの知人の息子がVFに入ったらしいが、元気かわかるかのぉ・・・」
「はいはい、皆さん落ち着いて。とりあえず我々は貴方達をしばらくここに拘束します」
「・・・」
「・・・」
唐突に言われたその一言で場が一斉に静まり返る。そして次の瞬間怒声が辺りを支配した。
「・・・ふざけるな!!」
「わしらをここに連れて来たのはお前達じゃろう!」
「さっさと開放してくれ!」
「静かにしなさい、話はまだ途中です!」
「ヴォク、アァルヴァアイトォォォオオオ!!」
静止の声も聞こえるが一向にざわめきは収まらない。当然だ、ここに連れて来たのはそちらなのになぜ拘束するんだ。それなら最初から連れて来るな、という事である。怒声を発するサイド7の皆さんと、それを静止する兵士達の声がホールに響き、いい感じにカオスになっている。
・
十数分後・・・
「さて、説明したとおり移住先や仕事先を、我々ツィマッド社が紹介することができます。ただ、サイド7は半軍事拠点なので帰ることはかなり難しいといわざるを得ません。よって地球上での移住先はジオン管轄下になります」
その言葉に高齢者の避難民は再び地球に住めるという驚きの表情が、若者は生まれ育ったサイド7に戻れないという悲しみの表情が多かった。だがこれに疑問も出てくる。
「なぜそこまでしてくれるのです?」
そう、普通はそこまでする義理はないはずなのだ。普通は裏を疑うだろう。
「簡単なことです、皆さんはサイド7に住んでいた。つまりスペースノイドです。同胞を支援するのは当然でしょう。それに、こういう慈善事業をすることで我々ツィマッド社のイメージアップも兼ねてますので」
その言葉に、一同はなるほどといった表情を浮かべる。メリットがあるからやるのであれば納得できる。
「なお、北米とオーストラリアならばツィマッド社が展開しているのでバックアップしやすくなっております。数日後に個人面談を行い希望をそれぞれお聞きしますので、その時までにどうするか決めておいてください。なお、ホワイトベースで戦闘や整備とかに関わった人は残ってください」
そう言ってホワイトベースの運用に関わった若者達がその場に残された。
・
・
さて、名高いホワイトベース隊の面々がいるね~アムロにカイにセイラさんに・・・ってあれ? ハヤトはどこだ? 気になったので隣にいる警護の兵に何人かいないようだと尋ねてみた。
「社長、先日の戦闘の際に負傷して、現在我々の病院に搬送された者もいますので、お探しの者はそれに含まれるのでは?」
納得、そういやガンタンク派手に壊れてたな。まぁいい、そろそろ本題に入るか。
「さて、貴方方は軍人では無いのに我々との戦闘行為を行った。これは本来ならゲリラ扱いで射殺すべきところです」
そう言ったら反応がすぐきたね。まぁ当然か。
「それはあんた達が攻撃してきたから・・・」
「ですが、貴方方が我々に攻撃してきたことは事実です。そして我々は少なくない損害が出た。多くの戦死者もでました。そしてそれをしたのは貴方方だ、違いますか?」
その言葉にアムロの体がびくっと反応する。ってか、そういや報告書にメンタル面で問題が出た者もいるってあったな。ランバ・ラル戦のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が早く発症したのか?
「あえて言いましょう。我々は貴方方を解放して連邦軍にそのまま兵士として採用される事を恐れています。貴方方は実戦を経験した優秀な兵士で、連邦軍にとっては宝石よりも貴重な存在だからです。故に貴方方を解放することはできないと思ってください」
「そんな・・・俺達はただ生き残る為に必死で・・・」
「ええ、それは理解します。ですので、貴方方には次の選択肢が存在します」
そう言って辺りを見渡す。まぁこんなことしたくはないが、こっちも必死なんだ、許してくれよ。
「一つ、監視下の元で戦争が終わるまで不自由な監禁生活を送る事。二つ、我々VFに志願兵として入隊する事。三つ、ジオン軍に志願する事・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください。監禁ってどういうことですか!?」
「言ったとおりです。君達は優秀な兵士ですので、再び敵に回られると洒落にならないのです。本当なら処刑したほうが手っ取り早いのですが、それはさすがに外道すぎるだろうというので私がやめさせました」
「処刑って・・・」
「最初は銃殺刑を真剣に検討してましたよ、ジオンの担当者は。それを我々ツィマッド社が処分を引き受けたのです(半分は本当だけど半分嘘だけどね)」
その言葉に動揺が広がる。だが実際問題、サイド7やルナツーでは正規軍の制服を着ずに戦闘を行った者も多く、戦時条約でも庇いきれないものがあった。ゆえに、捕虜になった際にどう扱うかは運任せといっても良かった。そして、捕虜の人権を守るその戦時条約でさえ守られることは稀であった。酷いところだと降伏勧告し兵が武装解除した後に、戦時条約? ナニソレ、ウマイノ? と言わんばかりに笑いながら処刑するという悪質な者もいる。
「正直三つ目はお勧めできませんね。使い潰されるのが目に見えてますから。ですので実質一つ目か二つ目を選んだ方が無難でしょうね」
「監禁されるか、VFに入ること・・・ですか」
「VFといっても、ツィマッド社に入社という形ですので保険とか福祉とかは正社員と同等ですので安心してください。守秘義務は当然ありますが、戦争が終わったらその時点で退社していただいても結構です。それにVFに入隊しても前線行きとは限りませんよ。モビルスーツに乗っていた人ならテストパイロットとして後方で働くという選択肢もありますよ」
その言葉にまたざわめきが起きる。監禁かツィマッド社で働くか。しかも後者は正社員並の扱いというのだから無理も無い。何時終わるかわからない監禁生活か、ツィマッド社で働いて自由を得るか。
「まぁ結論は今すぐ出さなくて結構です。これから貴方方は我々の用意した施設に他の避難民の方と収容されます。他の避難民の方に希望を聞いたときに回答をお願いします」
「あの・・・ブライトさん達は?」
「今は捕虜として収容しています。彼らは正規の軍人ですからね。それじゃあ皆さんには他の避難民の方と同じ場所に移動してもらいます。それと・・・」
そう言って辺りを見渡す。見覚えのある金髪女性がこちらを睨んでいるのが視界に入る。となりにアムロがいるし、パイロットメンバーが一緒にいるのである意味わかりやすかったな。
「この中にセイラ・マスという方がいると思うんですが、どなたですか?」
・
「この中にセイラ・マスという方がいると思うんですが、どなたですか?」
こちらを見ながらそう聞かれた時、私は言いようの無い不安感に襲われた。これはあくまで確認なのだろう、でないとずっとこちらに視線を向けてくるはずが無い。そう思っていたら、
「セイラさん、危険じゃないですか?」
「・・・たぶん大丈夫でしょう。私がセイラです、何の用ですか?」
そう応えると、やたらいい笑顔でとんでもない事を言ってきた。
「じゃあ私の後についてきてください。貴方の知り合いという人がいて、その人に会ってもらうだけですから」
・・・知り合い? 誰? まさか兄さん? いえ、それよりも私の正体がばれた? ジオンの企業の社長にばれたということは、どこまで知られているのか・・・
「それでは他の皆さんは、兵の指示に従って移動してください」
そう言ってその男性はさっさとホールを後にし、私は少し考えてからその後ろを見張り役の兵と共についていった。
・
・
・
うん、後ろからの視線がすごいよ。やっぱ警戒してるなぁ・・・まぁ仕方ないけど。そうそう、この施設はうちの支社で、会議とかによく使われてるんだよ。ここの大会議室でホワイトベース対策の会議を何度もしてるし。まぁもとは連邦の研究施設だったみたいなんだけど、高台にあって見晴らしが良かったから使ってるんだけどね。きちんと『清掃』は済ませてあるから問題ないし。
「私の知り合いと言われましたが、一体誰なのですか?」
と道中聞かれたけど、
「う~ん、今言うのもつまらないし、直接会ってみたらわかると思うよ。それまでは秘密ということで」
と言ってスルーさせてもらった。ぶっちゃけセイラさんがどんなリアクションしてくれるか楽しみだから言わないだけだし・・・そこ、H・E・N・T・A・Iとか言うな! 私はノーマルだ!
まぁそんなこんなで社長室の前まで到着。さっさとドアを開けて中に入る私と、その後に続くセイラさん。っていうか今更だが肝据わっているなセイラさん。そこに痺れr(ry
それはさておき、社長室には私の他にシャアと、壁に背を預けているガルマ、更に木馬攻めの後詰としてわざわざドズルが派遣してきた、ランバ・ラルの姿があった。まぁドアの横に観葉植物を置いてるせいでセイラさんの位置からはガルマは見えにくいわけだが。
入ってきたセイラを見て、まず真っ先に反応したのはランバ・ラル、次にシャアだった。
「おお・・・ひ、姫様! 間違いない、姫様だ」
「・・・アルティシアか」
「え・・・に、兄さん!? キャスバル兄さん!? それに・・・まさか、ラル?」
驚くセイラさんもといアルティシアだが、自分の背後から声を掛けられたことで更に驚いた。
「で、エルトラン。今後について聞かせてもらおうか」
驚いたセイラが振り向いた先には、ザビ家の一員であるガルマが立っていた。シャアとラルを見て驚いていたせいか気が付くのが遅れたようだ。まぁある程度死角だったということもあるんだが。
「とりあえず、ここで話す事は他言無用でお願いするよ。ここには盗聴器とかは無いので安心して欲しい」
「別に君がダイクンの娘としても、危害は加えないよ」
そう私が発言すると同時に、ガルマも紳士的に応える。間違っても変態という名の紳士ではないので安心して欲しい。むしろ変態という名の紳士は仮面をつけているシャ(検閲入りました、強制終了します)
「それにアルティシア、お前は私がザビ家に復讐する為にジオンにいると思っているのだろうが、私はもうザビ家への復讐は望んでいない。いや、これもある意味復讐かもしれんがな」
「に、兄さん。どういうことです!?」
「簡単に言えば、ガルマと共闘し本来のジオンをつくる。アルティシア、手伝ってくれ」
後書き:色々あって文書きたくない病が発症しました(マテ)やっぱ有名すぎる原作キャラをいじくるのは自分にはきついっす(核爆
まぁそんなわけで(どんなわけとか突っ込み禁止)色々リアルで問題が発生し、投稿が遅れた事をお詫びします。ぶっちゃけ毎月風邪にかかって寝込むとかありえん。今はまだ学生の身分だからある程度休めるが、就職したらそんなこと言ってられなくなるんだろうな。というよりも、就職先が未だに決まらない・・・大嫌いだ不況なんてorz
・・・宝くじで1億とか当たらないかなぁ~(超新星爆
うん、現実見ると軽く鬱になりそうだが、初心の気分転換を忘れずに頑張っていくか。