キャリフォルニアベース
大気圏突入に成功した木馬とガルマ率いる航空部隊が初めて激突している頃、地球に降り立ったエルトラン社長は真っ先にキャリフォルニアベースの開発陣を一つの広い倉庫に集結させていた。ここに集められた開発陣にはある一つの共通点があった。それは後で説明するとして、集められたメンバーの中には徹夜あけでやたらハイテンションな者もいるが特に問題は無いようだった。
「ウニョラー!!」
「トッピロキー!!」
「キロキローッ」
「オァ~~~~~~~~」
「おい、誰かそこの暴走してる第9研究チームを取り押さえろ!」
「というよりなんだそのくどい顔で長く鳴くネコは!? 気が抜けるからさっさと摘み出せ!!」
「はぁ~、さっぱりさっぱり・・・赤色の妖精が見える俺はもう末期か、あはははは」
「うふ、うふふふふ・・・・・・薬剤分が足りない、もっと調合しなきゃ・・・」
「だいこんらんデス、だいこんらんDEATH♪」
「ん? たしかあいつら特殊塗料を開発してた16研チームのメンバーだよな、塗料でラリってるのか?」
「いや、それより落ち着かせろよ。騒々しさが寝不足の頭に響いてつれぇ・・・」
「じゃあ黙らせるか・・・うるせぇぞ糞虫ども!! さっさとそのファッキンマウスを黙らせろタマ落とされてぇか!!」
「・・・まずてめぇが黙ってろ!!」
・・・訂正、疲労やストレス、何かの禁断症状っぽいのが発動しており場は混迷を極めていた。まぁそれは現れたエルトラン社長がどこからか調達してきたショットガンをぶっ放す(当然空砲だったが)ことで落ち着き、それから社長の暴走した演説が始まった。初めはなんだろうと思っていた少数の常人は演説が始まった途端その内容に顔が引きつったがそれは些細な問題だった。
「諸君、私は兵器が好きだ。諸君、私は兵器が好きだ。諸君、私は兵器が大好きだ。
車両が好きだ、携帯装備が好きだ、航空機が好きだ、戦闘艦が好きだ、潜水艦が好きだ、航宙機が好きだ、モビルスーツが好きだ、モビルアーマーが好きだ。
平原で、街道で、塹壕で、草原で、凍土で、砂漠で、海上で、空中で、泥中で、山岳で、湿原で、月面で、暗黒宙域で、衛星軌道上で、要塞で、アステロイドベルトで、この世界で戦う、ありとあらゆる兵器が大好きだ。
新しく開発された兵器が好きだ。
工場から輸送される真新しい兵器の群れを見た時など心がおどる。
熟練兵達の操る戦闘艦の攻撃で 戦艦を撃破するのが好きだ 。
爆発する戦艦から脱出した大気圏突入艇を拿捕した時など胸がすくような気持ちだった。
対艦装備のモビルスーツが敵艦隊を翻弄するのが好きだ。
恐慌状態の新米パイロットが既にスクラップになっている敵艦に執拗に射撃を加える様など感動すら覚える。
旧式化した機体で懸命に戦う様はもうたまらない。
自分達が精鋭だと思い込んでいる敵部隊が、指揮官の下した命令とともに
旧ザクのマシンガンで吹き飛ばされるのも最高だ。
廃墟と化した街に立てこもる連邦軍が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、モビルアーマーの一斉砲撃で都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える 。
連邦軍に滅茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に守るはずだった人々や同僚が蹂躙され殺されていく様は、とてもとても悲しいものだ。
連邦軍の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。
鹵獲された兵器を解析され連邦に利用されるのは屈辱の極みだ。
諸君、前線は兵器を、地獄の様な兵器を望んでいる。
諸君、ツィマッド社の技術開発に関わる諸君。
君達は一体 何を望んでいる?
更なる技術開発を望むか?
情け容赦のない 糞の様な技術革新を望むか?
つい先ほど開発された技術が骨董品になるような嵐の様な技術進歩を望むか?」
ここでいったんエルトラン社長は言葉を区切り辺りを見回した。そして・・・・・・
「「「開発!! 開発!! 開発!!」」」
徹夜明けでハイになっている数人(若干名サクラ有り)からの叫びを始まりに、あっという間に開発コールの大合唱が倉庫を揺るがす。ある意味一種の洗脳だ。そしてそれは巡回中の兵士が何事かと驚くほどの音量だった。
「よろしい、ならば技術開発だ。
我々は技術開発によって新しい兵器を量産する工場だ。
だが、暗い開発部の部屋で研究し続けてきた我々に、ただの技術開発で作る兵器ではもはや足りない!!
大開発を!! 一心不乱の大開発を!!
我らはわずかにツィマッド社1社の開発陣にすぎない。
だが諸君は、一騎当千の古強者だと私は信仰している。
ならば我らは、諸君と私で総兵力100万と1人の技術集団となる。
我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。
髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を 開けさせ思い出させよう。
先のルナツー遭遇戦の報復を我々が諦めていないと思い出させてやる。
連中に恐怖の味を思い出させてやる。
連中に我々の技術力を思い出させてやる。
我々ツィマッド社で木馬を攻略しつくしてやる。
ツィマッド社社長よりここに集まった各技術開発陣へ、第二次対連邦軍新型戦艦改め対木馬兵装開発計画、状況を開始せよ! 予算は用意した!!」
そう言った瞬間、それぞれが一斉に自らの持ち場へと奇声をあげながら走り去って行った。そう、ここにいる技術陣はかつて対木馬兵装開発に携わっていた。正確には連邦軍の開発している大気圏内も飛行できる新型戦艦対策の兵装で、ちなみに第1次で開発された兵器はエルデンファウストだった。今でこそ対地掃討用のMS用使い捨てロケット弾として重宝される兵装だったが元は戦艦のセンサーを破壊するという開発コンセプトの武装だった。が、大気圏内なら航空機搭載型の新型小型ロケット弾ポッドで事足りるということが判明してからはモビルスーツで運用する対歩兵、軽装甲車両用に開発コンセプトが変更され、しかも試作品は連邦軍のゲリラ部隊によって味方に使われる(しかも量産型ヒルドルブ)ということで対戦艦武装としてはある意味失敗であると判断された。
そしてここに来てその連邦の新型艦との戦闘である。しかも既にアルビオンを大破させ搭載していたヅダを撃退した部隊だ。この集まった開発陣にはアルビオンやヅダの開発に関わった人間も多くおり、ここに集められた時は常人だったが今の演説でやばげなスイッチが入った者もいるようで、走り去った者の中には目がギラギラ光っているのもいた。
そしてその後、木馬と戦うVFのパイロット達に技術陣が実践投入待ち、または開発中の兵装を渡して必ず木馬を落とせよと叱咤激励する場面や使い勝手の分からない兵装を持たされ迷惑している実働部隊の姿が見られたがそれは別の話であった。