ツィマッド社奮闘録 24話
「いよう、シャア。君らしくもないな、連邦軍の船一隻にてこずって」
「言うなよガルマ。いや、地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐とお呼びすべきかな?」
「士官学校時代と同じガルマでいい」
「あれが木馬だな?」
「うん。赤い彗星と言われるほどの君が仕留められなかった船とはね」
「わざわざ君が出てくることもなかったと言いたいのか?」
「いや、友人として君を迎えに来ただけでもいい、シャア」
「大気圏を突破してきた船であるということをお忘れなく」
「ああ。その点から推測できる戦闘力を今、計算させている。君はゲリラ掃討作戦から引き続きだったんだろ? 休みたまえ」
「お言葉に甘えよう。しかし、ジオン十字勲章ものであることは保証するよ」
「ありがとう。だが私はガウから指揮を取らせてもらうよ。指揮官が出撃しては部隊の統制が取れないからね」
「・・・ふむ、ガルマ、将として成長したか?」
「いや、前に『将は軽々しく戦場に出ず大局を見極め、己の武勇ではなく配下の部隊を持って戦うんだ』と言われてね。私は少し焦っていたのかもしれないと思い自分を見つめなおし、広い視点から物事を見るべきだと考えたんだ」
「ほう・・・ドズル中将もその成長ぶりなら泣いて喜ぶだろう」
「・・・嬉しいんだけど、ドズル兄さんの抱擁は少し遠慮したいな。 ・・・抱きしめる力が強くて痛いんだ」
「・・・諦めろガルマ、君の生まれの不幸を呪うがいい」
「洒落になっていないこと言うなよ!?」
「まぁそれはさておき、木馬に搭載されているモビルスーツは強力だ、注意したまえ」
「分かっている。VFから回ってきた情報では3タイプいるそうじゃないか。急いでいたから回された情報全てに目を通してはいないが推測される運用方法と武装くらいなら知っている」
「特に黒い奴と白い奴は気をつけるんだ。あれは戦艦並のビームライフルを装備している」
「ああ、慎重にやるさ」
「ガルマ大佐、VF航空部隊接近中です。編成はDFA-07、ジャベリン戦闘爆撃機30機に給油機2機、空中指揮管制機が1機だそうです」
「そうか・・・ハンブル、お前達はそのまま前進し追跡しろ。ゲビル隊が前に回ったら攻撃を掛ける、ゲビルゆけい!」
「了解! ゲビル戦隊、行くぞ!」
そしてゲビル隊が出撃してしばらくすると、木馬が降下し始めた。
「山を盾にしようとてそうはさせぬ。地上部隊を前進させろ。敵艦を補足、占拠するぞ」
・
「マザーよりブルーランス各隊へ、異常は無いな? 無ければ敵新型艦への攻撃の準備をせよ」
「こちらブルーランス第二中隊、問題無し」
「同じく第一中隊もいけるぞ。すでにドップが攻撃を開始している、こちらも仕掛ける」
「分かっていると思うが、今回君達の機体に搭載されているのは小型ロケット弾で、敵艦の対空砲火を潰すことが目的だ。敵艦はミノフスキークラフトで飛行しているからレーダーは当てにしすぎるな。攻撃を開始せよ!」
「了解、これより攻撃を開始する!」
既に木馬にはドップが攻撃を仕掛けていた。だがドップのメイン武装はミサイルとバルカンと木馬に損害を与えるには中途半端な代物だった。ミサイルは木馬の発するミノフスキー粒子によって誘導が妨害され、更に近づくと対空砲火の洗礼を受ける羽目になった。ドップという格闘戦に優れている戦闘機にとって木馬のような大気圏内を航行する戦闘艦は苦手な部類だったのだ。せめて爆撃機であるドダイならもっと打撃を与えれただろうが、空の敵=戦闘機で対処という構図が少なからず存在する為用意されてはいなかった。まぁ単純にドダイが出払っていたということもあるのだが。
そして攻撃を避けるかのように低空に下りた木馬からモビルスーツが発進した。史実ならガンタンク1機のみだったのだが、実際に発進したのはガンタンクが3機にガンキャノン1機だった。
「あれが噂の連邦モビルスーツか・・・まぁこっちはこっちの仕事をするか」
「こちら管制機、攻撃目標に変更なし。ブルーランス隊は木馬に攻撃せよ」
「了解、上面の機銃座を狙うぞ。攻撃開始!」
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「申し上げます! あの戦車は報告にあった新型のモビルスーツの一種です。ルナツーでの戦闘で確認されております。こちらがそのデータで、火力が並みの戦車のようでないとのことで、地上部隊に損害が出ております」
「新型モビルスーツ? あれがか? 赤いのはともかくあの戦車もどきが連邦の新型モビルスーツだというのか? ・・・ハワイ攻略作戦時にVFが痛い目に合わされたRTX-44のようだが、あれが資料に書かれていた長距離支援機と判断すべきか・・・」
「たしかVFからの報告書に画像データが含まれていたはずですが・・・」
「見ていなかった資料に画像データ等が含まれていたのか・・・そのデータはここにあるか?」
「は、こちらがそのデータと画像ファイルです」
「・・・武装はキャノン砲と腕部にミサイルランチャーか。 ・・・だが機動性は悪そうだな。やはりVFの推測通り長距離運用機を判断すべきだな。ザクを出撃させろ、接近すればおそらく容易いだろう」
「は」
「包囲部隊に告げたまえ、海に逃がしてしまっては連邦軍の制空圏内に飛び込まれるかもしれぬ、これ以上連中を前進させるな、とな。よいな?」
「は、かしこまりました。それとVF航空部隊が木馬に攻撃を開始、ロケット弾で木馬の対空火器を破壊しているようです」
「・・・なるほど、今回は敵の抵抗手段を取り除くということに専念しているということか。たしかに効果的で安全だな、誘導が効かず搭載している数も少ないミサイルではなく最初から撃ちっぱなしで数も多いロケット弾なら」
「ですが木馬の装甲を貫通はしていないようです」
「当然だ、仮にもあれは大気圏突入をした艦だろう。元々威力が低い小型ロケット弾では機銃座やセンサーを破壊するので精一杯なはずだ。艦橋の窓もロケット弾の直撃を受けて無事な物を使っている可能性だってある。だがそれはそれで都合がいい」
「センサーを破壊できれば木馬の行動も大きく低下しますし、機銃座等は言わずもがなですな」
「そうだ、木馬はVF航空隊に任せるとして、ハンブルとゲビル、それに地上部隊にはモビルスーツを狙え。ただし決して無理をするなと言え」
「は、了解しました!」
だがザクがガウから降下すると同時に、ガンタンクの内1機が木馬へと帰還していった。それをガルマは補給又は艦からの砲撃だと判断したが・・・
・
ガウから降下したのはマシンガン装備のザク2機とバズーカ装備のザクであった。ただしザクといっても陸上戦も可能というレベルのノーマルなF型ではなく、陸上用に改修されJ型に匹敵するF型で、脚部には3連ミサイルポッドが装備されていた。また、降下した3機の内マシンガンを装備する2機にはナックルシールド(スパイク付)を装備しており防御力の向上を図っていた。ただ、このスパイクシールドはマシンガンやガンタンクのポップミサイル等ある程度の攻撃は防げるが、表面積が小さく防御できる範囲が狭い為に右肩のシールドと併用して防御を行う必要のある代物だった。それゆえ海兵隊等の一部の将兵には好評だったのだが、さすがに技量の低い一般兵には扱いづらかったらしい。
攻撃を開始したザク3機は最初こそマゼラアタックと連携してガンタンク1機を中破(左肩のキャノン砲を破壊した)させる戦果を上げたが、そこまでだった。なぜなら・・・2機のガンダムが木馬から出撃したからだ。2機のガンダムはビームライフルを撃ちまくり、マゼラアタックやザクを血祭りにあげていく。前衛のザク2機はスパイクシールドと肩についている固定盾でふせごうとしたが、戦艦並みのビーム砲相手じゃ意味が無い。盾ごと機体を貫かれ爆散してしまう。
「ば、バケモンか連邦のモビルスーツは!? う、うわああああああ!!」
そう言って最後のバズーカを構えたザクは白いガンダムのビームサーベルによって真っ二つにされ爆発し、マゼラアタックに至っては蹴飛ばされて破壊される車両もいた。
一方VF航空隊はといえば・・・・・・弾切れになっていた。1機につきロケット弾を160発装備していたのだが、文字通りあっという間になくなったのだ。
「こちらブルーランス第一中隊、全機がロケット弾を撃ちつくした。帰還許可を求む」
「同じく第二中隊、こちらも弾切れだ。30mmガトリングは残っているがあれ相手には役に立たんだろう」
「こちらマザー、了解した。こちらからガウに連絡を入れておくので燃料の少ない機から順次燃料を給油し基地へ帰還せよ」
「了解、これより帰還する」
「しかし・・・話には聞いていたが無茶苦茶だな。どれだけ厚い装甲してるんだ?」
「ザクの装甲を紙のように貫いていたな。あんなのが量産されたらそれこそ気化爆弾を集中投下でもせんと破壊できないんじゃないか?」
「それでも倒せるか不安なとこがあるが・・・まぁいい、俺達は俺達の仕事でベストを尽くすのみ、帰還する」
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「VF航空隊より連絡、『我残弾無し、戦闘続行不可。これより帰還する』以上です!」
「・・・我々も基地へ帰還する」
「このまま帰還するのですか? 大佐」
「見ただろう敵の威力を、現在の戦力では仕留めることはできんよ。可能であればあれを無傷で手に入れたいが・・・無理だろうな。だがあれは今度の大戦の戦略を大きく塗り替える戦力だ。奴らをこの大陸から一歩も出すな、私の監視の目の中に泳がせておけ」
・
一方その頃エルトラン社長はというと・・・
キャリフォルニアベース VF北米方面司令部
VFの北米方面司令部にある大会議室にツィマッド社社長のエルトランはきていた。 ・・・大会議室という比較的大きい空間に十数人の人間は少なく感じてしまうが、ここにいる十数人はVF北米方面軍の主要部隊の人間だった。
「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもない。連邦の新型艦が北米に降下しガルマ大佐が現在討伐に向かっているのは知っているか?」
「おかげでうちの航空隊の連中が出撃しましたからおおまかは」
「たかが1隻の戦闘艦ですよね? 資料を見る限りアルビオン級と似たようなもんだと思いますがそんなに強いのですか?」
「まぁ手ごわいからこそ俺達が集まってるんだろ。で、社長? 実際どうなんです?」
「そうだね。艦自体ではなく搭載しているモビルスーツが脅威的だ。資料の43ページをめくってくれ」
一斉にページをめくる音が響き、めくられたページには写真付で連邦のモビルスーツの推測が書かれていた。
「簡単に説明していくが詳しくは各々見ておいてくれ。見ての通り、通称『黒い奴』及び『白い奴』だが、こいつが手ごわい。正式名称はRX-78ガンダムといい、戦艦並みのビームライフルを携帯し、更に機動力もありビームサーベルを2本も装備しているので接近戦も十分こなせる。頭部にはバルカン砲が搭載されており、ザクでも当たり所によっては撃破される威力を持つ。しかも装甲はルナチタニウム製と思われザクのマシンガンを弾き返す防御力を持っている。次に肩に大砲を持つ赤い機体、RX-77ガンキャノンだ。両肩にキャノン砲、口径は分からないがおそらく200~260mmと推測されるが、それを搭載している。こいつもビームライフルを装備しており、ルナツー付近での戦闘で使用されている。おそらくザクキャノンのような中距離支援型の機体だろう。最後にこのモビルアーマーのようなタンクもどき・・・はっきりいえばモビルスーツの出来損ないの戦車みたいなのがRX-75ガンタンク。おそらくRTX-44 を発展させた機体と思われ、推定100~180mmの長距離砲を装備していることから長距離支援型の機体だろう。腕部はマシンガンのような速度で小型ミサイルを発射するミサイルランチャーでこれは近距離用の武装だろう。以上が諜報部とこれまでの戦闘で判明したものをまとめたものだ」
そう言ったら皆がため息をついた。
「最後二つはともかく・・・そのガンダムっていうのは連邦の試作機ですよね? こんなんが量産されたら洒落になりませんよ」
「おそらく性能実験機ではないか? そうでもないと説明がつかん」
「私もそう思う。モビルスーツ技術に関しては我々の方が上だが、量産を一切考慮しなければこれくらいの性能は連邦にも出せるはずだ」
「皆が言ってくれた通り、私はこの機体が実験用のワンオフ機・・・まぁ2機いるから試験用の少数生産機だと判断している。できれば鹵獲したいが難しいだろう。そこで・・・」
「失礼します!」
そこにいきなりVFの連絡兵が入室してきた。
「ん、どうしたんだい?」
「は、報告します。つい先ほど木馬攻撃の為に出撃させていた空中警戒機から連絡があって、ガルマ様率いる部隊が撤退したそうです。ザク3機とマゼラアタック隊等少なくない数が破壊されたようです」
「出撃した部隊の損害は?」
「未確認ですがザク3機、ドップ8機、マゼラアタック12両が少なくとも破壊されております。なお戦闘に参加したブルーランス隊の損害は軽微とのことです。こちらが戦闘記録です」
「ご苦労さん。それじゃこの映像データを見てどんな風に戦闘になったのか確認しようか」
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戦闘記録閲覧中です、しばらくお待ちください・・・
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「・・・で、結論からいえば木馬の対空能力を低下させることには成功している。更に映像を見る限りドップの攻撃が木馬のエンジンに命中しているから若干パワーダウンしている可能性もあるな」
「というより・・・相手のモビルスーツの被害が戦車もどき1両中破っていうのはなぁ」
「それよりビームの方が脅威ですよ。いくら大気圏内でビーム兵器の威力が落ちるといってもあれではいくら装甲を厚くしても危険です」
「俺のヒルドルブでも接近されると危険だな。幸いスモークディスチャージャーの増設に伴ってビームかく乱幕とチャフ等を装備したから一度なら防げそうだが・・・油断は禁物だ」
「まぁビーム対策にいくつか案を用意しているからこちらに任してほしい。北米方面に展開するVFの中でも最も本作戦に適していると思っているからこそ君達を招集したんだ。これから作戦会議に移ろうと思う。まず第一段階として木馬の進路を見極めねばならない。私の予想では木馬はミノフスキークラフトを最大限に生かすためにグレートキャニオンを通過すると思う。この通過中に嫌がらせをしてミッド湖周辺で片をつけたい」
「ですがそのルートを通ると言う確証はないのでしょう?」
「ああ、その通りだ。まぁ別のルートを取るのであればその都度作戦を変更するが、今はこのルートを通るものだと仮定して話を続けるよ。ミッド湖周辺は草原等が広がっており大部隊の布陣が可能だ。ここにガルマ率いる北米方面軍の正規軍を展開させるが、これは保険だ。勝負をかけるのは木馬がグランドキャニオンにいる間、または出た直後だ」
「ということは・・・グランドキャニオンにいる時に襲撃を繰り返し、痺れを切らしたときに一網打尽ということですかい?」
「そうだ、具体的に言えばグランドキャニオンに武装サムソン、これは牽引しているドーリーに多連装ロケット砲やマゼラトップ砲を装備したものだが、この砲撃部隊を展開し一斉砲撃しては逃げるといった戦術を取る。これが最初の嫌がらせで重要なのは不定期に攻撃することで木馬の疲労を増すということだ。もちろん航空部隊の高高度爆撃も行わせるし戦闘ヘリによる一撃離脱戦法も取る」
「で、いい感じになったところで一気に決めるということか・・・それなら俺のヒルドルブも参加したほうがよくねぇか?」
「いや、少佐の部隊はクライマックスで使うからこの嫌がらせには使用しない」
「それじゃあ社長、本命の作戦について教えてもらえませんか?」
「ああ、それじゃあ話そう。この作戦の流れとしては・・・・・・」
おっと、ここから先詳しい事は申し訳ないが皆には秘密だよ。ワクテカしながら(してくれたらいいな)待っていてくれたまえ。 ・・・間違っても手抜きじゃないし、この先の展開を考えていないなんてことはないからね!!(汗)
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「・・・なるほど、よく分かった。社長の目論見どおりに行けばそうなる可能性は高いな」
「まぁ本当にうまくいけばの話ですけどね。ですがやってみる価値はあると私は思います、木馬を仕留めることはできると思っていますので」
「まぁ社長さんの言う通りやってみましょうか。万が一失敗しても正規軍に押し付ければいいのですからな」
「なお木馬には偵察型コムサイによって高高度から監視を継続しておりますので皆さんの元には定期的に情報が入るので注意してください。本作戦名称はメトロノームです。では社長、この場は解散としますがよろしいでしょうか? 」
「ご苦労さん情報参謀、そういうことで皆がんばってくれ。私はこれから書類という強敵に立ち向かってくるから・・・・・・本社から送られてくる増援の資料の山が来る前に少しでも減らしておきたい・・・」
「・・・・・・自業自得な気もしますが、我々からはがんばってくださいとしか言い様がありません」
「後はイキロですかい?」
「・・・・・・ありがとうというべきかなここは。それじゃあ皆もそれぞれの仕事に精を出してくれ。それでは解散!」
そう言ってその場を後にする各々。なおエルトラン社長は社の高速シャトルでやってきた山のような資料に号泣したとかしなかったとか・・・ただいえることは木馬の運命があと僅かとエルトラン社長が考え、それを裏付けるようにその舞台準備が整えられているということだろう。
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