ハワイ攻略戦の準備が進められる中、キャリフォルニアベースから出て行く車列があった。それらは北米で多く見られる光景となっていた。
数十台規模のトラックは途中で徐々に別れていき、それぞれの目的地へと行く。
舗装された道路かと思えば次の瞬間には大きく抉り取られたような場所があり、そこを迂回しながら進んでいく。これらは北米降下作戦中連邦軍が破壊したものであり、ジオン地上軍のMSや車両による攻撃の流れ弾等で抉り取られたものでもあった。破壊されてから2ヶ月ほどになるが、やはり北米大陸は広大で未だ修理が手付かずの場所がかなり多く存在した。中には橋等の戦略上優先的に修理を進められたところもあるが全てを直すには物資も人手も圧倒的に足りないのが現状だった。
数時間後、一つの施設の前にキャリフォルニアベースから出発した数台のトラックが停止した。そしてそれは軍事基地ではなく民間の施設だった。
「あー、宅配のおじちゃん達がきたよー」
そんな声がしたかと思うと建物の中から多くの子供達がトラックに駆け寄り、少し遅れてから大人達が近づいてきた。
「お~坊主共、久しぶりだな。元気にしていたか?」
そう声をかけるトラックの運転手。声をかけながらトラックに乗っていた者達は荷台から数多くの箱を降ろし始める。その箱の表面には『小麦粉』『粉末牛乳』『砂糖』『卵』等の文字が書かれていた。他にもスナック菓子等が入った箱もあり、それらは子供達が我先にと中に詰まっているお菓子を取り、大人がそれをたしなめるという光景をかもしだしてはいたが。
そう、このトラックは基地から生活物資を運んできたのだ。そしてここはツィマッド社が北米復興の一貫で設置した孤児院なのだ。他にもツィマッド社は各地に託児所や職業斡旋所、学校といった物を数多く設置している。
なぜツィマッド社がこのような施設を作っているのかというと北米の復興と民衆を味方につける為だった。前者はある程度復興すればツィマッド社等が作った民需物資が大量販売出来る為、後者は連邦軍のスパイ対策&志願兵の募集の為だった。
前者はまぁ分かるだろう、裕福になれば民衆は多くの商品を買ってくれるのだから。そして後者のスパイ対策、これは民衆を味方につけることで連邦のスパイが浸透してきた場合密告してもらいやすくなるからだ。更にもし敵の部隊がやってきても住民からの連絡で敵の位置や編成がわかりこちらが有利になりやすなるからだ。実際北米では連邦のミデア輸送機による小規模なゲリラ部隊が輸送されており、これらのうちいくつかは既に住民からの報告で急行した部隊によって運んできたミデアごと撃墜できた例もあった。そして志願兵の募集、これは人的資源に劣っていたジオン、更には民間企業の私兵集団であるVFの人員補充に無くてはならないものだった。組織上VFは徴兵が出来ない為、人員はジオン軍からの出向&引き抜きの他には民間からの志願兵しか人員の補充ができないからだ。
まぁこういう打算によって北米各地にこのような施設が多く作られ、更にはオーストラリア大陸にも施設を作り始めていた。
このような施設の運用・維持費等は馬鹿にならないが北米ではガルマ・ザビ大佐、オーストラリア大陸ではウォルター・カーティス大佐というそれぞれの大陸の最高指揮官が支援してくれていたおかげであまり負担にはなっておらず、ツィマッド社内部でもこれらは未来への投資と考えられておりあまり反対意見はでていなかった。
またこの政策は戦争で疲弊していた民衆に好評で、更にはモビルスーツまで使った大規模な公共事業(インフラの整備)では作業するVFやジオンの人に現地の人が差し入れを持ってきてくれるほどだった。
だがこの施設の為に食料を中心とした各種物資がVFで一時的に欠乏し、VF内部に不満が溜まったこともあったほどで、これの解決のためにツィマッド社は頭を悩ますことになったのである。ちなみにこれは工場野菜(雑菌が入らないように徹底管理された空間で、養液と人工光を使いながら栽培する方式で、このSSではジオン等宇宙コロニーでは一般的な栽培方式とします)の大規模増産と他サイドからの緊急輸入、VFの人員への特別ボーナスによって一応は解決した。
このような占領地住民への支援活動をした結果、VFが展開している北米とオーストラリア大陸では親ジオン・VFの人間が多くなり、この地域に進出した連邦軍ゲリラ部隊及び連邦軍諜報部は特に目立つ戦果を挙げることは無かった。だがこの政策のせいで後にジオン上層部の数人がツィマッド社とVFに対して一層の敵意を抱くことになるのだが今この時点でそれを知っている人は他にいなかった。
話を戻そう。上の思惑はこのようなものだったが、現地住民とそれに触れ合うジオン・VFの面々はそんなものは関係なかった。施設を各地につくり、物資の運送を開始した当初こそ住民が山賊行為を行うようなことがあった。幸い護衛に出ていた車両が威嚇射撃をしただけで退散していったが、山賊行為に走るほど当初は現地住民は食糧不足に喘いでいた。だがそれから1ヶ月もすると山賊行為に走る住民は極端に減り、職を求めてやってきた人達にツィマッド社の職業斡旋所はインフラの整備等を手配しインフラを徐々に回復させ、孤児達を孤児院に収容することで孤児による強盗等は減っていった。
逆にVFやジオンの者達は自らが行った隕石落としにより多大な被害を受けた現地住民達を見て罪悪感が生じ、復興の為に力を尽くしていた。そしてその過程で見る子供達の笑顔や感謝の言葉を受け一層復興活動に励んでいった。中には自分達の組織が行った行為(隕石落とし)に嫌悪感を抱き軍を退役する者もいたが、その数は少数だった。
そのうち復興が進むにつれ住民と復興作業を行っているジオン・VFの人間は一種の連帯感を感じ、復興した街の住民との交流会を開いている部隊もあるほどだった。
もちろん軍というのは巨大な組織なので中には規律を破り住民への略奪行為を行う者もいたが、大抵はやった次の日あたりには復興事業にかかわっていた他の部隊からつるし上げを食らったりするほど住民と軍との意思の疎通は円滑になっていた。
笑い話になるが、輸送途中だったトラックを襲った連邦軍ゲリラ部隊がおり、この輸送トラックが着くはずだった町の住民がやってきた連邦ゲリラ部隊の面々が自分達の町に来るはずだったトラックを殲滅したと知り、歓待したように見せかけ朝ゲリラ部隊が気がついたときには部隊全員がロープで縛られてジオンに引き渡されたという話まであったほどだ。
そして今日も基地から輸送トラックは出て行く。住民への支援物資を満載し・・・