《Page40 回想》 十五年前のライトが取った行動は、以下のとおりである。 まず、当時の捜査本部にあった本物のデスノートを摩り替え、ミサに手渡す。 しかもこのデスノートは、もともとライトがレムの物だったのを拾って自分の物としたデスノートなのだが、竜崎が死んだ後、彼女に所有権を渡し、何人かそのノートで裁きをさせていたという仕掛けがしてあった。 もちろんその後はすぐに、ライトに所有権が返されている。 ライトが死神の目の取引をしていなかったからこそ、出来た技だ。 二冊以上のデスノートの所有権を得た人間は、一冊の所有権を失うとその失ったノートに憑いていた死神の姿や声を認知できなくなり死神も離れるが、一冊でも所有している限り、関わった全てのデスノートの記憶は消えない。 所有権をなくしたノートの所有権を再び得れば、そのノートに関する記憶が戻る。 万が一、他にも関わったノートがあれば、関わった全てのノートに関する記憶が戻る。 このルールにより、ミサもまたこのデスノートの所有権を得るか、触れているかしていれば、彼女は第二のキラとして復活出来る。 ちなみにデスノートを摩り替えたのは、夜神 総一郎が死んだすぐ後のことで、それはすぐにミサの元に預けてあった。 捜査本部に残した贋物はあらかじめ作成してあった、ニアも作った表紙だけが贋物で、中身は本物のデスノートのページで作られた物である。 そしてミサがもともと所有していたデスノートを魅上の元に送る際に、預けてあった本物のデスノートもとある場所に送ったのである。 さすがのニアも、想像しなかっただろう。 そのデスノートが、ロス土産に紛らせてミサの姉である弥 夏海の元に届けられていたなど。 この策が功を奏し、相沢達がミサとライトの家を家宅捜索しても、デスノートは見つからなかったという訳である。 そして1月28日のあの日にライトが死亡した後、ミサは松田と模木から『ライト君は、キラに殺された。しかしキラも死んだから、これでキラ事件は終わった』と告げられた。 この時のミサには第二のキラとしての記憶はなかったから、心底からキラを憎んだ。 だから哀しみに打ちひしがれるミサはその後行われたライトの葬儀に出席した時、姉から言われた台詞の意味が解らなかった。 『ミサ、貴方から送られてきたノート・・・そのままでいいの?』 『何言ってんの、お姉ちゃん?私ノートなんて送った?』 デスノートに関してただ元の持ち主が死神であり、殺人の能力を持つとしか知らされていなかった夏海は眉をひそめたが、妊娠している上に出産すれば自殺しかねない様子の妹を無理やり京都に連れ戻し、せめてこれが生きる活力になればいいと、預かっていたデスノートを触らせた。 それまであくまで夏見の元に預けられているだけであり、所有権自体はライトにあったデスノートだが、彼が死んだことと梱包したままだったために誰も持っていなかったデスノートの所有権は、ミサのものとなった。 そして同時に、第二のキラとしての記憶が復活したミサはライト・・・すなわちキラが死んだことを、『捜査員の誰かに殺された』と考えた。 のちにライトを撃ったのは松田で、直接殺したのはリュークだと聞いて怒り狂ったミサだが、あながち間違いでもない推理ではあった。 すぐにデスノートに相沢達の名前を書いてやろうと思ったミサだが、その矢先に死んだはずの愛しいキラ・夜神ライトが彼女の元に舞い降りたのである。 『ライト!!生きてたんだね!』 嬉しそうにライトに抱きついたミサだが、その背後から生えている黒い翼が彼を人間以外の存在に変貌させたことに、すぐに気づいた。 彼女はライトから自分は死神になったと教えられ、死神大王からの依頼と新世界創造のために協力して欲しいと頼まれると、二つ返事で引き受けた。 まずは彼女に死神の目を与えて東京近郊に家を買って引越しさせ、妊娠している身体に障らない程度に、キラを崇拝している者達を纏めさせる。 これには事情を説明し協力する意思を示した姉の夏海と交代で行っていて、例えば山でキラの復活を祈る集会を開く時などはすべて夏海が取り仕切っていた。 もともと似ていた姉妹だったから、夜の集会だったこともあり入れ替わりに気づかれることはなかった。 同時にミサと夏海に布教活動を複数の国で行わせ、回収対象のデスノートがある国に行くとデスノートで適当な人間を操って持ち出させて手に入れる。 そして長女・ネオンが誕生すると、キラ教団の一員だった谷口 和利の父親に命じ、ネオンがXPであると診断させた。 もちろん偽名を戸籍に載せるように指示したが、これは手段を選ばないニアが、魅上のように名前を書かれて殺されないようにするための防衛線と、もう一つ張らなくてはならない防衛線を築くための策だった。 ただここで、ライトがミサに与えた死神の目がネオンに移っていたことが判明したため、ライトはネオンが成長するまでニアと対決するのを延ばさなければならなくなったので、すぐにライトは計画を修正した。 この時さすがにネオンだけでは無理だと判断したライトは、第二子・キラを生み出すために動いた。 ミサを再び各地で布教活動を複数の国で行わせ、同時にロスに行って冷凍保存していたライトの精子を日本に送らせると、同じく当時キラ教団の一員だった産婦人科の医師・倉井に命じてミサの卵子と人工授精させ、受胎させたのだ。 ちなみに何故精子を冷凍保存していたかと言うと、ライトは自らの血をもっと多く残したいと考えており、優秀な女との間に多くの子供を生み出そうと考えていた。 日本では余り知られていないことだが、アメリカでは優秀な女性に優秀な男性の精子を受精させて天才児を生み出そうと試みる会社があり、科学者や医学博士などをしている女性にIQが高い男性の精子を売る事業をしていたのだ。 もちろん生まれてくる子供が全員天才とは限らないが、何人か天才児が生まれている実績があることを知り、ライトはどうせなら優秀な子供をと思い、自らの精子をその精子バンクに冷凍保存させたのだ。 正直このお遊びに等しい行為が後に大きな成果を生み出すのだから、人生何が役に立つか解らないものである。 この時までにライト側が持っていたデスノートは、全部で四冊である。①ライトが死神になった時に、死神大王から受け取ったノート。②ライトが総一郎が死んだ後に摩り替え、ミサに渡して京都に預けたノート。ミサが所持。③博物館に展示されていて、回収したノート。④ビヨンド・バースディの従兄弟の書斎にあり、回収したノート。 死神大王に返すべきである③と④のノートは、未だにライトが所有していた。 もちろん最終的に死神大王に渡すと確約していたので、苦情など来ていない。 その後無事に出産できるように、そしてミサを死神にするために自分が所有していた③のデスノートに、《弥ミサ 6月15日 子供を産み落とした後、幸せな気分に浸りながら死亡》と書き記した。 そしてそのとおりにミサは安らかに息を引き取り、元から持っていた②のデスノートをそのまま受け取って死神として再びの生を得ることに成功する。 産まれたキラにも偽名を戸籍に載せさせ、こちらは普通の子供として何も知らせずに十歳まで過ごさせるように命じていたから、キラは何も知らずに私生児ではあるが普通の少年として成長していった。 何故ならいつも家にいるネオンと違い、学校と言う世界にいる彼に普通ではない父親がいるとキラが引け目に感じるかもしれないということと、外に出てキラが何か口走ってその情報が流出してしまうことを恐れたからである。 ライトは③のデスノートの所有権をミサに手渡し、ミサはそれをさらに姉に手渡して所有権を持たせたため、ミサは姉たる夏海に憑くこととなった。 一方で死神は人間にデスノートを直接渡す場合、人間界単位で満6歳に満たない人間にノートを渡してはならないため、ライトは④のデスノートも同じように夏海に手渡した。 そして夏海はそのデスノートを赤ん坊だったネオンに手渡し、その状態で所有権を放棄したので、自動的に所有権はネオンに移ったため、彼女には父・ライトが憑いた。 さらに③の夏海が所有権を持ち、ミサが死神として憑く資格を持っているデスノートから数枚のページを切り取らせた後、、キラ教団が集会を開いている山に埋めさせたのである。 かくて弥家では、異質な家族が歪な生活を営むようになった。 地下では家から出ることを許されない長女が、死神となった両親から限りない愛情とたった一つの価値観を与えられて過ごし、二階では両親のことなど露知らぬ長男が、伯母から父親に対する賞賛を聞かされて自分を磨いて優等生として暮らしていた。 その合間にも、同じくキラ崇拝者だった神崎とはデスノートのことは知らせないまま、キラ教団の人間としてやり取りしていた。 何故神崎が選ばれたかというと、彼はライトが相沢達に再び監視されたので自分の代行者を選んでいた際、魅上と並んでその候補に上がっていたからである。 彼はキラ王国にこそ出ていなかったが、教育関係を通じて多大な人脈を持ち、自己を厳しく律しているという点では魅上と同じだった。 しかし神崎ではニアに発見されづらく、また彼には別の役目を割り振ることにしたので魅上を代行者に選んだのである。 その役目と言うのが、“キラ世代の養成”であった。 高田がキラへの意見としてテレビで語っていたものは、確かに彼女自身の意見もあったが、殆どはライトが言わせていたものだ。 その中に、こんなものがある。 『義務教育の段階からキラの存在、キラの考えを正しいものとしてしっかりと子供達に教えていく事が大切だと私は考え・・・』 ニアはこれを『馬鹿まるだしのキラ崇拝振り』で片付けたが、裏では神崎がその先駆けとして自分の学校で実行するはずだったのである。 もしニア達があの日にライトに負けていたら、四月から公立ではない私立の神光学園初等部で、キラの教えが授業に組み込まれていたであろう。 そしてすぐにそれに多くの学校が賛同するよう仕向け、公立校にもその動きを連結させる予定だったのだ。 魅上は高田とだけではなく、各地のキラ崇拝者達とも連絡を取り合ってキラ社会の実現に尽力していた。 ライトは決して、ニアにだけかかずらっていた訳ではなかったのだ。 もっともライトが死んだのでキラがいなくなり、その計画は中断されたがそれでも神崎はキラの崇拝者をやめることはなく、教母たるミサと熱心にコンタクトを取っていた。 それが認められた神崎は、ライトの協力者として選ばれたのだ。 駒を揃えたライトは、夏海にデスノートのことを忘れて貰うため、もうじき死ぬ患者を夜勤で働いている市民病院の患者を一人、安楽死させた。 さすがに息を呑んだ夏海だが、その患者はずっと痛みと戦い安楽死を望んでいたから、意を決してその患者の名前を書き、安らかな死を迎えさせた。 病院で人が死ぬことは珍しくないから、さすがのニアもそこから夏海がデスノートを所有していることは割り出せない。 全ての準備が整ったのを確認したライトは、キラ教団の集会が終わった後、神崎にキラ教団が集まる山に埋めておいたデスノートを掘り起こすように指示し、夏海に所有権を放棄させたのである。 その瞬間に夏海はデスノートの記憶をなくし、妹の忘れ形見の姉弟を引き取って暮らしている普通の看護師の女性になったのだ。 もちろん同時にミサは指示通りにデスノートを掘り起こした神崎に憑き、彼にデスノートの使い方とキラ、すなわちライトからの指示を伝え、キラ社会実現に向けて働くように要請すると、彼は感動して了承した。 『教母様、貴女様と再びお会いできるとは、夢にも思いませんでした。 犯罪のない世界は私どもの長年の夢、喜んで協力いたします』 魅上ほど過激ではなかったが、彼も宗教に心酔する人間にありがちな、神のためなら身を惜しまず働くタイプの人間だったし、教育者としてモラルの著しい低下や子供に対する事件が頻発する社会を憂えてもいたのだろう。 しかもデスノートに書いてあったミサの名前と死の状況を見て、ミサが 『私は子供を産めば死ぬはずだったところを、キラが私を死神にして子供の成長を見届けるようにしてくれた』 と説明すると、彼は感動していっそうの忠誠をライトとミサに誓ったものだ。 命がけでキラに仕える姿勢を貫くミサに傾倒させ、忠実な信徒には慈悲を与えるのがキラだと思わせるために、ライトはわざわざミサを殺したノートを神崎に手渡したのだ。 こうしてライトの手駒となった神崎がライトがキラとネオンとで作った宣戦布告のビデオを投函すると、彼は人前に姿を出すのを極力控えるようになった。 ライトはデスノートの所有者が解るようになる死神の目を捜査員の誰かが持つ可能性があると読んでいたから、写真等も処分させ、なるべく目立たないようにキラ教団をまとめさせたのだ。 一方で谷口夫妻を動かし、そちらにニア達の目を向けさせた。 案の定見事にニア達はそれに引っかかり、人員が足りなかったせいもあって谷口夫妻と弥一家にかかりきりになった。 神崎とは、学校内でキラを介して連絡を取り合っていた。 電話では通話記録から神崎に注目させてしまう可能性があるし、校内に入ってしまえば自由に動ける神崎とキラにとっては、非常に都合がよかった。 それに母・ミサに会うことも出来た。 キラはどちらかといえば神崎にではなく、彼に憑いていたミサに会いに行っていたのだ。 キラを通じてサラを誘拐し、その身柄と引き換えにデスノートを持って来させるようにするため、神崎に体育祭でワルツを踊らせるように命じた。 サラが学校に来なくなる事態にならないよう、サラやリドナーに優しく接するようにし、尾行している捜査員達もあえて無視した。 そして今日の朝に神崎にデスノートの所有権を放棄させ、それを梱包して谷口 和利に夏海の元に運ばせた。 谷口はデスノートのことは知らないが、神崎が自分と同じキラ教団本部の人間であることは知っているし、教母の姉である夏海のことも知っている。 だから神崎の指示通り、梱包したままのデスノートを夏海に手渡した。 夏海はいきなり谷口から渡されたものを見て首を傾げたが、それでも梱包を解いて中のデスノートに触れた瞬間、彼女にキラ教団の教母の姉としての記憶が戻り、同時にデスノートの所有者となった。 これと同時に、神崎に憑いていたミサは姉の元に戻ってきたのである。 あとはキラを通じてライトからの命令が届いていたミサの指示通りに、夏海は動けばいい。 夏海はネオンに記憶が戻ったことを告げ、神光学園にはライトと一緒に来る旨を聞くと谷口と共に家を出た。 この時弥宅付近を見回っていたミサは伊出とジェバンニの姿を発見し、名前は告げずに容姿のみを姉に教え、家から離れて死ぬように書くよう指示した。 ちなみにこの際の映像は、まだ生きていた伊出とジェバンニのカメラを通じて捜査本部に送られて来ていた。 あの時リュークが画像を見ておかしそうに笑っていたのだが、あれはライトの姿が見えたから笑ったのではない。 ミサが死神になったことを知らなかったので、白い翼で空を飛ぶミサが見えたから笑ったのだ。 〔まっさか、こうなるとはな・・・あいつ、やっぱ性格悪っ!〕 という内心の呟きは、そういう意味だったのだ。 無事にサラが体育祭に参加し、リドナーがキラ教団の集会に参加したことを確認すると、彼はリドナーの名前をデスノートに書くよう、夏海に指示した。 《ハル・ブロック (Halle Bullook) 11月18日内に自分が潜入捜査をしている団体の人間から封筒を受け取り、それを自分の上司に手渡して今追っている事件の犯人の要求どおりに動き、犯人にこの世ならぬものになった経緯を尋ね、全ての真相を聞いた後、心臓麻痺で死亡》 つまりリドナーはライトが真相を語り終えればその瞬間に、真相が語られなければ今日の日付が変わった瞬間に、彼女は死ぬ運命にあるのである。 何故そのような状況を書いたのかと言うと、キラ教団本部の人間から手渡された物を、速やかにリドナーが捜査本部に持っていかない可能性があった。 もちろん持って帰らせたのは正真正銘ただのタロットカードだが、念を入れて幾重にも調べてから持っていかれれば、サラの名前を知ったからいつでも殺せる、というメッセージが伝わらない。 だからそれこそ念を入れて、リドナーに確実にメッセージを伝えさせるために書いた。 もう一つ、犯人(ライト)がこの世ならぬもの・・・つまり死神になった経緯を尋ねさせたのも、ニアが死神になることが出来ないようにするためだった。 ことここまで来たらその必要はなかったが、万が一自分達が持つデスノートを燃やされ、ニアがデスノートを使って死神になるための条件を満たし、リュークに殺されでもしたら最悪なので、念のためにその可能性を潰しておこうと思ったのだ。 ついでにレスターがサラを救出し、金庫の中身に触れさせるまでの時間稼ぎにもなる。 ニアとしても時間稼ぎは望むところだったから、その話題に乗ってしまったのだ。 どの道彼女はニアもろとも死んで貰う予定なのだから、少しぐらいは役に立って貰おうではないか。 六年生のワルツが終わり、ミサがサラを襲ってマスクを剥がさせ、キラに彼女を保健室まで連れて行かせて誘拐し、夏海が捜査員にニアが持つデスノートと引き換えだと要求する。 そしてデスノートの所有権を交代させ、偽のデスノートを金庫に入れて本物はライトが所持すれば、迎撃準備は完了である。 八時になってニアが持って来ていたデスノートが贋物であると知りつつもそれが解らないフリをし、ニア達を体育館におびき寄せてデスノートの切れ端を触らせ、ライトの姿を認知させてライトがデスノートを所持していることが解らないようにする。 最後に情報を与えたネオンにサラを監視させてわざと情報を漏洩し、救出に来たレスターと共に保健室を脱走して金庫のある理事長室まで向かわせた。 一方、ミサと共にその様子を警備員室で見ていた神崎は、保健室で泣き叫ぶネオンと合流し、デスノートの切れ端に名前を空欄にした死の状況を書き込んだ。 《今現在相対している少年から、自分が持っているノートについての質問に思わず正直に答えてしまった後、心臓麻痺で死亡》 神崎はこれが初めてのデスノートの殺人となるのだが、キラに対する忠誠心ともはや逃げることは出来ないと腹を括ってもおり、迷いの無い手でペンを取った。 ミサはそれを満足げに確認し、ケープにそれを貼り付けてサラ達が金庫の中身に触れたことを確認してから理事長室に入った。 ミサは昔取った杵柄で金庫の中身が奪われたことに驚き怒る演技をし、レスターに襲い掛かってマスクを剥がしてしまい、ネオンに彼の名前を見せて神崎に伝えさせれば、神崎が名前を書き込む。 そうしてレスターを殺し、彼が持っていたデスノートを奪って燃やして本物のデスノートをニアから奪ったことを確認した後、ニアの名前をデスノートの切れ端に書けば・・・。 「計画通り、と言う訳だ。 捜査本部に本物を置いておいて、こちらのデスノートを燃やしてからそっちも燃やす、という策を取らないのは、解っていた。 もしそうしても、死神界に戻った僕が死神界の穴から捜査本部に残っている二代目ワタリとやらでも見て操作し、デスノートを燃やしてしまえばいいからな。 ならば確実性を取って、全てのデスノートを同時に燃やすほうがいい」 レスターが本物のデスノートを受け取った際、ずっと捜査本部に置いておくほうがいいのでは、と提案したが、ニアは同じことを言ってその策は使わなかった。 完璧にこちらの策を読まれていたことを知った松田だが、ふと気づいた。 「それじゃあ、ニアの作戦通りにっちの捜査員達が全員無事でライト君達が持っているデスノートを燃やしたとしても、死神界に戻ったライト君達に僕達は殺されてしまうってことなんじゃ・・・」 「あ・・・!」 相沢と模木は松田の言葉の意味を悟り、瞬時に顔色が真っ青になった。 ライトを死神界に戻すことばかりに気がいっていたから気づかなかったが、よく考えてみればそのとおりなのである。 ライトが自分達を殺さなかったのは、こちらが持つデスノートを奪うためなだけで、その必要がなくなったのなら自分達を殺すに決まっている。 そして死神界からは自由に人間界を見下ろせる穴が存在するのだから、いつでも自分達の名前を知って殺すことが可能なのだ。 「・・・全く、お前達の思考能力のなさには呆れるな。 それくらいのことも考え付かないようだから、キラの正体も見破れず、それに気づいても何の手も打てないままなんだ」 ライトは心底から呆れた。 竜崎が捜査指揮を執っていた時から思っていたことだが、相沢達は決して無能ではないが、いったんこうだと思い込むと他の思考が働かない。 自分や竜崎が推理を展開して納得すると、自分でも穴がないかとか、他に方法があるのではないかと考えたりはしないのだ。 だから一度ライトが13日の偽ルールによって無実だと思い込むと、まだ疑う竜崎を非難したし、ニアの扇動によって再びライトを疑いだしてもニアの言うとおりに動くのが精一杯で、自分ではせいぜいホテルのメモに爪痕をつけるくらいしか出来なかったのだ。 竜崎を葬ることに成功したライトがデスノートのことを知る相沢達を生かしておいた理由は、父である夜神 総一郎を殺したくなかったこともあるが、操りやすい彼らをわざわざ殺すこともないと判断したからだ。 「ニアに僕を死神界に戻すことが最善だと言われて安心したか? その後の僕が取る行動は何かと、考えなかったのか。 だからお前達は、馬鹿だというんだ」 反論する余地もなく、相沢達は項垂れた。 「だが、安心しろ。お前達を殺す必要はない。 既にキラ社会を形成する準備は整ったし、僕が死神界に戻っても死神界から裁きをするだけで機能するようになっているからな。 殺人(さばき)をしている僕は死神界にいるからお前達に捕まえようがないし、何もしていないキラ教団員はもちろん、それを纏めているだけの夏海さんやキラとネオンを捕まえても、起訴は出来ないから逮捕しても無意味」 今の法律では、罪を犯していない限り信仰の自由は保障されているから、キラ信者を逮捕することは出来ないし、それを組織している人間も右に同じである。 デスノートのことを忘れるために一人の患者を安楽死させた夏海は殺人罪を犯しているが、証拠であるデスノートは既にない以上、それを立証することは出来ない。 同じ理由で、レスターとニアを殺した神崎も、証拠がないから起訴は無理。 自白を狙おうにも、デスノートの所有権を放棄されてしまえばその記憶がなくなるので、無理に拘束しても今度こそ違法捜査だと騒がれるのは目に見えていた。 キラはただ単に言われたとおりメッセンジャーとしての役割をしていただけだし、そもそも未成年なので逮捕出来ない。 ネオンに至っては、生まれ持った人間の顔を見れば名前が解る目を使って犯罪者のリストを作成し、父たる神に手渡していただけだから、何の罪にもならない。 「自分達が後ろ盾がなければ何も出来ない臆病者で、よかったな。 お陰で脅威には思われず、生きていられる。ははははは!」 哄笑するライトを、捜査員達はもはや悔しいとも思わず見つめた。 ここまで準備を整え上げられれば、L(ニア)を失ってなお、動き始めたキラ社会を止められる自信が、彼らにはなかったのだ。 始めから無理だったのだ。 こんなそら恐ろしい人間を捕まえようなど、考えるほうが愚かだった。 絶望に床に崩れ落ちる捜査員を見下ろしながら、ライトは言った。 「さて、そろそろ紹介しようか。僕の妻で、キラ達の母親でもあるミサだ」 ライトがそう言いながら合図を送ると、神崎が小さな紙片を淡々とした動作で相沢に手渡した。 「・・・!ミ、ミサ・・・」 相沢が息を呑んで呟くと、松田と模木も彼の手にある紙片に手を這わせた。 そして、その瞬間に現れたのは。 「ミサミサ・・・」 白い翼を生やし、黒いケープを纏った死神。 それはまぎれもなく、あの日ライトを撃ったことに対する怨念を込めた目で松田を睨みつけているミサだった。