<ステラ・ルーシェ>
身体が熱い。
頭が痛い。
気持ちが悪い。
吐き気がする。
ステラの身体は毒だらけ。
毒を抜くのに我慢しなくちゃいけない。
そんな事を聞いた。
でも寒いの!
まるで冷凍庫にいれられてるみたい。
身体の芯が寒くて、震えが止まらないよ!
…薬。
ネオから貰った薬をちょうだい!
アレを飲んだらステラは元気になれるから…
…シン。
シンに会いたいよぉ…
目の前の景色がぐにゃぐにゃしてる。
知らない間に涙が出てた。
熱い。
身体が熱いの。
ステラ、このまま死んじゃうのかな?
…だめ。
何も考えられない。
目の前がチカチカする。
変な虫がいっぱい飛んでる。
…キレイ。
シンの瞳ほどじゃないけど。
そう、シン。
シンに会いたい。
シンと一緒に居たい。
だってシンはステラの運命の人。
シン…
「どうかね? 彼女の容態は?」
「これはデュランダル議長、どうにか最大の峠だけは越せたみたいです。
ですが、まだ安心は出来ません。
彼女に使用されている薬品には我々の知らない物が多々含まれています。
研究と平行して薬の投与を行っていますが、長期戦になるのはご了承下さい」
「ああ、すまない。
邪魔したね、引き続きがんばってくれたまえ」
「はいっ!」
話し声が聞こえる。
誰?
誰か近くに居るの?
苦しい。
苦しいの。
胸が、おなかが、頭が、痛いの。
力が入らない。
腕も、足の、指一本だって動かせない。
誰かの話し声が聞こえる。
でも瞼を上げる事もできないの。
会いたい。
会いたいよぉ…
シン、あなたに会いたい。
「………………シ……ン…」
閉じた瞼の隙間から、一筋の涙が零れ落ちた。
■■■
「具合はどうかな? ステラ君」
お昼を少しまわった頃、今日も何時ものお医者さんがステラの部屋にやってきた。
言ってくる事はいつも同じ。
そしてステラが返す言葉も同じ。
「………おなか空いた」
もう何日もステラはごはんを食べてない。
最後に食べたのは何時だったっけ?
いっぱい苦しい思いをする前だったと思う。
「ふむ、もうしばらくの辛抱だ」
「………昨日もそう言った」
「こいつは手厳しいな。
いや、本当にもうしばらくの辛抱なんだ。
このまま経過が順調なら来週から流動食を口に出来る。
リハビリも開始するから今のうちによく休んでおくんだよ」
「………………わかった」
窓の外は良い天気。
でもステラは一人寂しく病室のベッドの上。
右手に繋がれた点滴が邪魔。
注射も数え切れないくらい、いっぱい打たれた。
………寂しい。
一人ぼっちは寂しいよ、シン。
会いたい。
ステラはシンに会いたい。
シンも寂しいのかな?
シンもステラに会いたいって思ってるのかな?
…そうだったら嬉しい。
シンが寂しい思いをしてるかもしれないのにステラは嬉しい。
…ステラは悪い子なのかもしれない。
■■■
「ラ、ラクス様ぁ!?
ど、どうして我が家なんかに起こしに?」
目の前のおじさんはステラの隣の女の人、ラクスを見てびっくりしてる。
確かにピンク色って髪の色は変だとステラも思うし、胸だってステラよりもおっきい。
重くないのかな?
ラクスよりちっさいステラでも重いのに。
ルナやメイリンが羨ましい。
あと、ヘンテコな赤くて煩いロボットが飛び回ってるのもおかしいと思う。
いきなり自分の家にこんな変な人が来たら誰でも驚く。
だけどラクスはそんなおじさんの慌てた様子を面白そうに観察して、
「はじめまして、ホーク様でいらっしゃいますね?
わたくし、ラクス・クラインと申します。
本日はこちらのお嬢さんの件でお願いが会って参りました」
って挨拶をはじめた。
ひょっとして、ラクスって結構性格が悪いのかもしれない。
ステラも今日、病院を退院してからいきなり会わされたんでよく分からないけど。
「え? あ、然様で。
…で、では、どうぞお上がり下さい。
狭い家で申し訳ありませんが」
「いえ、ありがとうございます。
さあ、ステラさん、お邪魔させていただきますわよ」
そんなやりとりが有って、ステラとラクスはホークっておじさんの家に入った。
そう言えばステラは挨拶してないな、どうでも良いけど。
家は洋風の可愛いお家だった。
おじさんは狭いって言ってたけど、嘘吐きだ。
お庭も広いし、お部屋だってたくさんある。
これで狭いんだったら今までステラが住んでた所はどうなるんだろう?
兎小屋みたいなもんかな?
ステラの今までの人生ってなんだったんだろう?
少し凹む。
応接間に通されて、ソファにラクスと並んで座る。
テーブルを挟んだ反対側におじさんが座ると、おばさんが紅茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。
できればこれからのお話に奥様も御一緒していただいても構わないでしょうか?」
「え? あ、私ですか?
はっ、はい、構わないです。 じゃない、御一緒させていただきます、はい」
「こら、緊張しすぎじゃないか、恥ずかしい…」
「だ、だっていきなりだったんですもの!」
おじさんとおばさんがそんなやりとりをしてたから、ステラは
「玄関の時のおじさんとお揃い」
って言ったんだけど、2人とも顔を真っ赤にして、伏せてしまった。
なにか変な事を言ったのかな?
「と、とにかくですわ!
本日は是非、お二方にお願いしたい事がありますの。
お話させていただいても構わないでしょうか?」
「あ、ああ。 是非!」
「え、ええ。 是非!」
「ありがとうございます。
実はわたくしの隣に居ますステラ・ルーシェと言うお嬢さんなんですが、ホーク様のご家庭で預かってはいただけないでしょうか?」
「「ええっ!?」」
ホークさんって夫婦はさっきから息の合った夫婦だと思う。
リアクションがピッタリだ。
きっと仲の良い夫婦なんだと思う。
ステラもシンとあんな風になれるかな?
…あれ?
そう言えば今、ステラの名前が出なかった?
「ど、どうしてまた、突然そのような事を?」
「実はステラ・ルーシェさんなんですが、孤児でいらっしゃいますの。
それに訳有って精神面が幼い為、どちら様かのご家庭で預かっていただけないかと悩んでおりましたところ、ホーク様のご家庭が一番ステラさんとも御縁が深いと言う結論に達したのです」
「こちらのお嬢さんと、我が家がですか?
いったい、どのような御縁で、でしょうか?
お聞かせ願えませんか?」
「はい。 実はステラさんですが、先日よりシン・アスカ様の義妹となられたのです。
ご存知でしょうか? 最近、巷で話題になっておられる【紅蓮の修羅】と呼ばれるお方なのですが」
「ええ、軍事には疎いほうなんですが、流石に娘達と同じ艦に乗っている青年の事ですからね。
同じ職場でパイロットをしている娘を持つ身としては心強い存在ですよ。
でも、それがこの件とどのように関係するのです?」
「はい、実は彼、シン・アスカ様も先の大戦で御家族を亡くし、御親類がいらっしゃらないのです。
その為、本来であればステラさんはシン・アスカ様のご家庭で生活なさるべきなのですが、そう言う訳にはまいりませんですの。
だからこの度、シン・アスカ様と交際なされていらっしゃいますお嬢様の御家庭にお願いに及んだ次第ですの」
「はぁ… えっ!? こ、交際ですか?
だ、誰と!? って、シン・アスカでしたか、彼とうちの娘が付き合っている、と?」
「はい。 わたくしはそのようにうかがっています。
なんでも御宅のお嬢様、ルナマリア・ホークさんとシン・アスカ様はアカデミー時代からの御交際とか」
「き、聞いてないぞ!
この間2人が家に帰った時もそのような話題は一言も出なかった!
な、何かの間違いではないのですか!?」
急におじさんが立ち上がった。
さっきと違った意味で顔が真っ赤。
ドンッ!ってテーブルに手を置いた衝撃で紅茶の入ったティーカップが悲鳴をあげる。
「って、お前、どうして驚かないんだ!?
あのルナマリアが男と付き合ってたって言うんだぞ!
………まさかお前、知ってたのか?」
「………え、ええ。
流石にルナのお付き合いしている男性が【紅蓮の修羅】だとまでは知りませんでしたが。
アカデミーの同級生と付き合ってる、って事はこの前、帰った時に聞いてました」
「だ、だったら! なんで私は知らないんだ!?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………あの娘が、お父さんには内緒だ、って」
絶句。
一言で言うならおじさんの表情はそんな感じ。
シンとルナが付き合ってるのがそんなに驚く事なのかな?
茫然自失って表情を始めて見た気がする。
「………」
「………」
「………」
「………」
「と、と言う訳でですね、是非お願い致したいんですがよろしいでしょうか?」
痛い沈黙が続く中、場を取り持つようにラクスが言葉を紡ぐ。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………つまり、こちらのお嬢さんは娘の彼氏の義妹。
そう言う関係なのですな?」
「ええ、一言で言いますとそうなります」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………ステラ君だったかね?
少し質問しても良いだろうか?」
「? 構わない」
いきなりおじさんがステラに話題を振ったんでちょっとビックリした。
慌てて紅茶と一緒に出されてたクッキーに伸びてた手を元の位置に戻す。
ステラに聞きたい事ってなんなのかな?
「君はシン・アスカ君だったか? 彼の事をどう思ってるのかね?
失礼ながら君達兄妹は、血が繋がってないんだろう?」
「大好き!
だってシンはステラの運命の人だから!」
「………ほう。
だったらルナマリアは君の恋敵って事になるのかな?
ならば君は、ルナマリアの事をどう思ってるのかな?」
「ルナ? ルナも好き。
ルナはステラのお姉ちゃんになってくれるって言った」
「ル、ルナマリアがそんな事を…
だがルナマリアは君の運命の人の恋人なのだろう?
君のとっては邪魔な存在じゃないのかね?」
?
おじさんは何を言ってるんだろう?
「ルナがシンと好き同士なのと、ステラがシンの事を好きなのと何か関係が有るの?
ステラはシンが大好きだし、ルナも好き。
シンはステラとルナが好きで、ルナはシンとステラが好き。
それっていけない事なの?」
「い、いけなくは無いが… いや、そうだな。
ラクス様のおっしゃる通り、確かに君は精神的に幼い…いや、純粋なのだな、ステラ君は」
眉間に指をあてて揉んでたおじさんが、大きな溜息を一つ吐き出して顔を上げる。
「ラクス様、よろしければこちらのステラ・ルーシェ嬢を我が家で預かりたいと思います。
おまえも構わないな?」
「ええ、あなた。
ルナの事を好きっていってくれる娘なんですもの。
私も娘が増えたみたいで嬉しいです」
「ありがとうございますわ。
それではよろしくお願い致しますわ」
?
結局どうなったんだろう?
って言うか、ステラは此処に何しに来たんだろう?
「ラクス、ステラはどうなるの?」
「ステラさん、あなたは今日からこちらの御家庭で生活なされるのですわ」
「そうなの?」
「ええ、ステラちゃん、これからよろしくね」
「うん? …わかった」
良く分からないけど、ステラは今日からここに住む事になったらしい。
面白いおじさんと優しそうなおばさんと一緒に。
おじさんもおばさんも優しそうに笑ってる。
ラクスも嬉しそうにニコニコ笑ってる。
なんだか分からないけど、ステラも嬉しい。
きっとシンとルナ以外にもステラに家族が増えたって事なんだ。
「ところで、ステラちゃんはルナのどんなところが好きになったの?
おばさんに教えてくれないかしら?」
うん?
ルナの好きなところ…
「ステラと一緒に寝てくれる所。
ルナと一緒に寝ると気持ち良くて幸せ」
「そう、そうだったの」
あの娘にそんな面が有っただなんて、ねえ…
お転婆だと思ってたけど、知らないうちにあの娘も女らしく成長しているのね。
そんな呟きが聞こえた。
「あとね、ルナのおっぱいを吸いながら寝るともっと幸せになれるの!」
―――ピシッ!
あれ?
何やら空気の割れる音が聞こえた気がする。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………じょ、情操教育は必須ですな、ステラ嬢には。
は、はははははは…」
「え、ええ、そうね、女性の嗜みを教えるのは私の役目ですね。
お、おほほほほほ…」
「そ、そのようですわね、TPOって大事ですわ。
ア、アハハハハハ…」
ルナマリアは何をやってるんだ!って叫びが聞こえた気がするけど、よく分からない。
皆楽しそうに笑ってるからステラも嬉しい。
そんな訳で、ステラのホーク家生活は幕を開けたのでした。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅の番外編
おわり。
後書きみたいなもの
これにてステラ番外編はひとまず完結。
ステラ治療シーンは果たして必要だったか疑問です。
コメディなんだから飛ばしても問題無かったかも。
別に彼女を苛める意図は無いんですけども。
表現もいまいちだし修行が必要だと痛切しました。
病後のステラは精神年齢が低下してるっぽい点も微妙ですな。
精進が足りませぬぞよ。 …orz
おまけ(没になった設定)
~もしもホーク姉妹の父親がXXXなら~
アニメ本編には一切登場しないホーク姉妹の父親。
コーディネーターなのに2人の娘を作っちゃう剛の者だと勝手に判断。(ホーク姉妹って第一世代じゃないよね?)
う~ん、あんまり原作で姿形はおろか、名前まで無いキャラってオリキャラ扱いになっちゃうし、本当は入れたくないんだけどなぁ…
どうせなら他の漫画からホークって名前のキャラを引っ張ってきた方がマシかな?
例えば『キャプテン・ホーク』…いや、そんな海賊っぽい名前はあり得ないだろ?
でも他に海賊じゃないホークなんてキャラは居たっけか?
確か【鷹の目】って異名のグランドライン1の剣士が居たな。
彼も海賊な気がしないでもないけど。
…没だ。
こちらに3刀流の剣士が居ねぇ…
他には?
・・・
・・
・
居ました。
物凄いのが。
その名も『ブライアン・ホーク』(はじめの一歩)
orz
ダメだ、シンがルナの両親に紹介された時、それが最終回になっちまう(ぉ
そんな経緯で、誠に遺憾ながらホークさんは普通のおっさんとして登場する事にw
あれを普通って言うのは微妙ですが…w