2005年2月11日……町外れの工場 「「「真那様」」」 懐かしき3バカの声が響く、どうやら皆が武御雷と真那に集中しているうちにすぐ側まで近付いて来たようだった。 そして3人は何時もの通り月詠さんに……アレ? 「あれ、真那様……どうしたんですかそんな奇天烈な格好で?」 「そうですね~~、それに~後ろのロボットもです~~。」 「なんかのコスプレですかーー。」 そして行き成り3人で半分しゃがんで円陣を組み話しだす。本人達はヒソヒソ喋っているつもりらしいがハッキリ言って丸聞こえだ。 「しかもなんか何時もより若い?」 「若作りですのね~~。」 〈ブチッッ〉 (やばい……後ろですごい音が……。) その時月詠の方を向いて円陣を組んでいた神代が本物……こちらの世界の月詠に気付いた。 「まったく、真那様もお年を考えないと。」 「四捨五入しないでも~すぐに30歳ですの~~」 〈ブチブチッッッ〉 後ろでは色々とヤバイ状態に成りつつあり、それに気付いてる神代は必死で2人を止めようとしているが、慌てているのか声が出ていない。 「これだから未だに処女なんだよなぁ。」 「というより~~、出会いが~無いんです~~。」 〈ブチブチブチッッッッ〉 もう後ろはデンジャーでダンガーになっています。神代は2人を説得するのを放棄し1人逃亡に入りました。 「やら二十(はた)ならぬ……やら三十路っ?」 「いかず後家ですの~~。」 〈プッッチ~~~~~ン〉 あ……臨界点突破。 「巴……戎……。普段貴方達が私をどう思っているかがよく解りました。」 「「あ゛……真那様が2人???」」 2人はやっと本物の月詠に気付いたようだ、そして本能的に危機を察したのか後退った。 「やだなぁ真那様聞こえていたんですかぁ。」 「今のは~もちろん冗談ですよ~~。」 「そうそう「お黙りなさい!!!」」「あ~ん、なんで私までー。」 物凄い一括に2人は直立不動となる、そして何時の間にか神代も捕獲されていた。ああ……いとあはれなり……。 そして月詠さんの大説教が始まった。 女性は年齢の事を言われると切れるというが……余程腹に据えかねたのだろう、封印せしヤンキー口調が所々で出てしまっている。 ふと横を見ると真那が唖然としてそれを見ていた。 「せ……世界が違うとはいえ……、栄誉ある将軍直属の帝國斯衛軍守護大隊の衛士が……。」 (まあ……、向こうとこっちの人物の本質は基本的には同じ、こいつらも「一応」優秀なんだよなぁ。でもそれ以外の優秀さをこっちの世界では全部「バカ」につぎ込んでるもんな。) 何気に酷い分析の白銀武であった。 そして周囲では月詠の激昂でやっと皆がショックから回復してきたらしい……。 数分後……。皆のショックが抜け切って、月詠の説教が終わると、全員は改めて武と真那の周囲に集合した。 侍従の計らいか何時の間にか椅子が用意されていて全員はそれに腰かける。 「コホンッ……。じゃあ白銀君、きちんと説明してもらうわよ。」 「そうだよタケルちゃん! 私達がこの3年間どんな思いで過ごしたか……キッチリハッキリ全部全て包み隠さず完全に綺麗さっぱり説明してもらうわよ!!!」 (純夏よ、意味が思いっきり重複してるぞ……) 思わず心の中で突っ込んでしまう武。 「そうだな、私も先程からそれが気になって仕方がならぬ。皆が揃ったらと約束した故、今こそ全てを話してもらおうぞ、武。」 「ボクも知りたいよ、あのロボットの事!」 (いや、ロボットの事か? 俺の事はいいのか?) 「白銀の秘密…………教えて……。」 (こっちの世界の彩峰は相変わらず謎だ……本当に知りたいのか?) 「わ……私は、当時の担任として聞く権利があります!!!」 (まりもちゃんはてんぱってるし……) なんかもうシリアスさが台無しだった。 (まあ、それが俺達だもんなぁ……) たとえ3年経ってそれぞれ成長したとしても、変わらないものがあるのは良い事だった。武自身も一時的に昔に戻ったようで心が軽くなっていた。 懐かしき思い出、懐かしき友……。 武は何時の間にか目に涙を浮かべていた。 「た……タケルちゃん、どうしたの!」 純夏の声で気付き涙を指で拭う。 「ああ……みんなに久しぶりに会えたのが嬉しくって、向こうじゃ色々あったからなぁ。」 (武……。そなたは一体何処で何をしていたのだ……?) 冥夜や純夏が心配そうに見詰める中武が弱々しく答える、そんな武を見かねたのか真那が寄ってくる。 「武、そなたにはどんな時も私が付いている、共に2人で支え合って行こうと誓い合ったではないか。」 「そうだな、ありがとう真那……。」 純夏や冥夜達への複雑な思いや自身の想いへの葛藤、そして武の弱々しさに真那は場所もわきまえずに武に縋りついてしまった。 そして恋人以外には鈍感一直線の武も周囲の状況も考えずそれにまともに答えてしまう。 しかし目の前にはみんなが揃っている事からして…… 「「「「「「「「「「「ピキッ」」」」」」」」」」」 色々やばい事になる訳でして……。 「な…な……な、なによタケルちゃん! その女はなんなの、さっきから聞こうと思ってたけどなんなのなんなのよーーー!!! 3年間も私達を心配させておいて自分は恋のアバンチュールしかもそんなに綺麗な月詠さんソックリな人とピンクでラブラブ雰囲気醸し出しちゃってキーーーータケルちゃんのバカバカバカこのムッツリスケベエロ大魔神いーよいーよどうせ私なんか朝目覚まし代わりになるから仕方なく付き合っていた便利な幼馴染で飽きて必要なくなったから路傍の石の如くポッてすてられたのよーそうなんだよーエーーーン。」 「す…純夏……」 最早止められない純夏の暴走、そして 「武!!!」 「ハイッ」 その声に思わず直立不動になってしまう、なんかヒシヒシとヤバイ感じがした。 「その者が月詠とどの様な関係かは分かりかねるが、そなたを案じ心砕いたこの3年間という長き時間……。その間のそなたの所業が色香に迷い溺れ、あまつさえ我らに連絡の1つも出来なかったなどと、よもや言うまいな?」 〈チャキッ〉っと皆琉神威の鯉口を切る音が聞こえた。その後ろでは皆の声が響いている。 「あれはニセモノだーー、真那様じゃないーーーー!!!」 「そうです~、真那様はあんな乙女チックな表情はいたしません~~!!」 「たとえそれが白銀武だろうと恋人がいるのはこの世の不条理だ!!!」 (3バカよ……、懲りていないな。) 冥夜越しに聞こえた3バカの声にピンチにも関わらず思わず突っ込んでしまう。 そしてその話題の人、月詠さんは…… 「…………………」 真っ白になっていた。 「タケルちゃんのバカーーーーーバカバカバカーーーー」 「ムッツリ白銀………」 「いやーー、この惨状を何とかしてーーー。」 「うわ~~、すごいねこのロボット!!」 「フフフフフ、不順異性交遊はダメよ~~、白銀君~~。」 〈チャキッ〉「さあ、武! 返答次第では我が皆琉神威の錆にしてくれよう。」 (ああ……まりもちゃん。何とかして欲しいのは俺の方だよ。) こちらの世界に来てからこっち、段々この世界に居た頃に退行して行ってる情けない武であった。やはり人は周りの環境に引きずられるのであろうか? 「で? あんたはやっぱり並行世界から来たの?」 「はい、因果の道筋によって接続された並列世界と聞いています。」 バカ騒ぎにも関わらず1人平然と横で真那と話をしていた夕呼、その一言で皆の行動が止まった。どうやら耳だけは正常に機能していたらしい。 大人しく席に着く面々、武への追及より知的好奇心……というか夕呼の話を聞く方が手っ取り早いと思ったのかもしれない。 「並行世界……成る程、パラレルね。まったく別の世界ではなく因果によって直結された極々近しい世界。同一人物が存在する……しかしこの世界に無いものがある世界。」 「あの……香月先生?」 「要するにこの月詠そっくりな人物は此処とは違う世界、即ち並列世界からきたって訳よ、そして勿論一緒に来た白銀武もね。そうなんでしょ?」 「ええ、まあ……。確かに俺は別の世界に行ってました。」 「「「「「「「「「「別の世界~~~!!!」」」」」」」」」 夕呼と武のやり取りに驚愕の声を上げる皆、月詠さんは表面上は落ち着いているが目が見開かれている。 「さあ、それじゃ今度こそ全部話してもらいましょうか。」 そんな皆を尻目に夕呼は武に話を促す。後ろでは今度こそ全員静聴する構えだ、それを見て俺はあの日……向こうの世界で目が覚めた時からの話を皆に話し始めた。 途中皆の突っ込みもなく(というか驚愕で声も出ないようだった)クーデター事件の終わりまでの出来事を話し終えた。 「信じられん……、しかし姉上が生きている世界……。」 冥夜は自分の姉の事を考えている様だった。 「あの……タケルちゃん、私が死んでるって本当なの。」 純夏が小さな声で聞いてくる。他の皆がいるのに自分だけが存在しないのが他の世界とはいえ心細いのか、それとも他に思う所があるのか。 「ああ、俺は夕呼先生……じゃなくて香月副指令からそう聞いたぞ。」 (こっちの世界の夕呼先生と分けるために呼び方を変えないと解りづらい)その武の言葉に側で聞いていた真那が付け加えて言った。 「城内省のデータによれば「白銀武」と「鑑純夏」は1998年のBETA本州侵攻の時に生存が確認されず死亡認定されたようだ。」 その言葉に俯く様に考え込む純夏。 「それで、その後オルタネイティブ4とやらを成功させたの?」 「いえ、結局150億個の並列処理コンピューターを手のひらサイズにする理論が完成せずに計画は中止され結局オルタネイティブ5が発動しました。」 「オルタネイティブ5?」 夕呼先生は俺の言葉にまたブツブツ言い出し、代わりに委員長が聞いてくる。 委員長の事だから「信じられない!」とか言いそうだったが、後から聞いたら「証拠を2つも見せられたら信じないわけにはいかないでしょう。」と言われた。 「G弾集中投入によるハイヴ殲滅作戦と他星系移住作戦、通称戦略名「バビロン作戦」」 「他星系移住作戦?」 「そう、全人類で選抜された約10万人を地球から脱出させ、大量のG弾でBETAに最終決戦を挑むという最終作戦。」 「そんな……地球を見捨てたの!」 「それは……酷い。」 委員長が激昂し彩峰が静かに怒る、ああ見えて彩峰は実は結構熱いヤツだ。 「まあ俺も当時はそう思ったけどな。けどその時既に地球の半分以上はBETAに制圧されていてどっちにしても危険な兆候だった、ある意味移住作戦も人類が生き残る手段の1つだったんだよ。」 「そんな……。」 「けど、色々あって計画は変更された。当初はアメリカが計画していてG弾使用作戦が主体で、移住作戦は国連や帝国等に対しての表面上の計画でおまけのようなものだった、だけど……。」 そこで真那が引き継ぐ。 「クーデター事件で将軍職本来の権限が返上された悠陽殿下はその意を汲み親愛なる日本国民の、しいては地球に生きる全ての人々の為にその計画を変更しあそばされた、G弾投下は曲げられなかったが何時か地球を救う手だてが生まれる事を信じて、全面投下と反攻作戦を取り止めにし人類は抵抗継続作戦に専念する事にあいなった。」 「そして移民船団出発から1年、俺達は未だに戦い続けているって訳さ。」 そしてまた続きを話し始める。 「む……、世界が違うとはいえ私は私。やはり武に目を付けるとは流石だな。」 「…………恥ずかしい。二股なんて白銀……鬼畜だね。」 なんてお言葉を貰ったり……。 「子供ですってーーーー!!!」 「不順異性交遊はだめよーーー!!!」 なんてって……(まりもちゃん、俺もう20歳過ぎてます……。) 「へ~~、タケルに妹が居たんだーーー。」 という……(どうでもいいが尊人が女性だった事になぜ誰も突っ込まないんだ?) 途中様々な絶叫が響いたが概ね無事に……武は後で色々大変な目にあいそうだが……説明は終了して行った。 あらかた説明が終わった時は皆言葉が無かった。 「タケルちゃん、色々大変な目にあったんだね。」 「そうだな、我らは本当の戦争など経験した事がないので解らぬが……そなたの目を見ればどんな苦難の道を歩いてきたかは窺い知れる。」 既に俺は向こうの世界での出来事を後悔していたりはしない、確かに色々大変だったけど得たものも沢山ある。 それでも2人のこの言葉は嬉しくて心に沁みた、失われた日常の象徴の様なこの2人……。特に向こうの世界には存在しなかった純夏に言われるとその感動も一押しだ。 「それで白銀はこっちの世界の情報が必要なんだ。」 夕呼の突然の言葉に流石の武も目を丸くする、夕呼は何となく得意そうだった。 「あんた既にこっちの世界に帰って来る気なんて無かったんでしょ、それが並列世界の移動なんて事をやってまでこっちに無理矢理帰ってきたって事は何かそうしなければならない事情があったからね。」 「ええそうです、焔博士がどうしても理論が完成できないから向こうの世界の理論が欲しいと言って俺達を飛ばしたんです。」 「焔? ……ひょっとして鳳焔。」 「ええ、知っているんですか? 向こうの世界では知り合いだと聞いていましたが。」 「知り合いと言うか……。」 その時、月詠さんが横から注釈を入れる。 「鳳焔博士は機械工学の天才と呼ばれ我が御剣財閥の援助を受け数々の発明をしているお方です、現在の機械工学……特に宇宙開発関連の新発明の多くは彼女が手掛けておりゆくゆくは我が御剣財閥も他国に劣らない程の宇宙関連のプラットホームを展開できる事でしょう。」 「ああそうそう、あいつは私とは別の意味で反権威主義的でアナ―キーだからね。学会などにはあんまり出てこないのよ。」 向こうの世界では帝国斯衛軍第一技術開発室長だった、こちらの世界では御剣に雇われている……というか協力関係を結んでいるらしい。 「それで……。冥夜と夕呼先生に頼みがあるんだけど。」 武は申し訳なさそうに切り出す、夕呼は既に何を言われるか解っているようで面白そうに冥夜とのやり取りを見ている。 「向こうの世界の技術情報を提供するからさぁ、その技術情報に含まれないこちらの世界の技術情報を調べてくれないか?」 「……それは無論構わぬが。月詠!」 「はっ、可能ですが御剣本家にばれない様に行なうには……。」 「この武御雷の事がばれなければいいですよ、どうせ向こうの世界の技術は提供するし。」 「だそうだ、ならば良いな月詠。」 「冥夜様のご命令とあらば。」 その後みんなと色々話をした後に武は月詠にデータを渡した。 そして一時解散となり、武達はここの工場の仮眠室に泊まることになった。その際武が真那と一緒の部屋に泊まることに色々と波乱が起こったがそれは読者の想像に任せて割愛しておこう。 武達は仮眠を取りその日の朝を迎える事となる。 外伝・EX編1日目へなんか色々てんぱってます。 全然進まない……。 間の会話などは皆さんの脳内妄想に期待します、頑張ったんですが……すいません。 冥夜と純夏で手一杯です、月詠vs真那は後ほど。 そしてEX世界編では会話を多用します。行間補完は皆さんの脳内妄想に頼ってしまいますがなんか永遠に進まなそうなので……。 時間と技術が欲しいよぉ。 追伸)あと設定の感想、良かったらください。なんか変な所とかあったら……、色々頭捻って考えましたがどうも不安です。