<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.20025の一覧
[0] 【チラ裏から流出】終末の聖杯戦争 Fate [完結] (Dies irae×Fate/Stay night )[イル=ド=ガリア](2010/08/15 20:56)
[2] Fate 第一話 神に仕える悪と邪なる聖人[イル=ド=ガリア](2010/08/01 15:35)
[3] Fate 第二章 運命の夜[イル=ド=ガリア](2010/07/04 14:50)
[4] Fate 第三章 英雄と影[イル=ド=ガリア](2010/07/04 14:56)
[5] Fate 第四話 白銀の騎士と青い槍兵、そして炎の獅子[イル=ド=ガリア](2010/07/07 20:42)
[6] Fate 第五話 開幕[イル=ド=ガリア](2010/07/08 20:33)
[8] Fate 第六話 狂戦士と雪の少女[イル=ド=ガリア](2010/07/08 21:19)
[9] Fate 第七話 戻らぬ日常[イル=ド=ガリア](2010/07/09 17:19)
[12] Fate 第八話 情報戦[イル=ド=ガリア](2010/07/11 01:39)
[13] Fate 第九話 聖餐杯の策謀[イル=ド=ガリア](2010/08/01 15:45)
[14] Fate 第十話 絞首刑~VSライダー[イル=ド=ガリア](2010/07/12 11:50)
[15] Fate 第十一話 柳洞寺侵攻戦[イル=ド=ガリア](2010/07/13 12:43)
[16] Fate 第十二話 アーチャーの智略[イル=ド=ガリア](2010/07/14 09:49)
[17] Fate 第十三話 混戦[イル=ド=ガリア](2010/07/15 08:08)
[18] Fate 第十四話 鮮血神殿[イル=ド=ガリア](2010/07/16 07:32)
[19] Fate 第十五話 第二開放[イル=ド=ガリア](2010/08/08 20:03)
[20] Fate 第十六話 冬の娘~イリヤ[イル=ド=ガリア](2010/07/18 16:34)
[21] Fate 第十七話 第四次聖杯戦争の残滓[イル=ド=ガリア](2010/07/19 18:12)
[22] Fate 第十八話 戦火に潰える妄執の家[イル=ド=ガリア](2010/07/20 10:04)
[23] Fate 第十九話 中盤戦の戦略[イル=ド=ガリア](2010/07/21 15:19)
[24] Fate 第二十話 交錯する運命[イル=ド=ガリア](2010/07/22 07:45)
[25] Fate 第二十一話 戦略と謀略[イル=ド=ガリア](2010/07/24 12:06)
[26] Fate 第二十二話 英雄と戦争[イル=ド=ガリア](2010/07/24 12:05)
[27] Fate 第二十三話 弓兵と狂戦士[イル=ド=ガリア](2010/07/25 17:00)
[28] Fate 第二十四話 凛の奇策(暴走)[イル=ド=ガリア](2010/07/26 14:56)
[29] Fate 第二十五話 贋作者の戦い[イル=ド=ガリア](2010/07/27 15:33)
[30] Fate 第二十六話 約束された勝利の剣[イル=ド=ガリア](2010/07/28 10:38)
[31] Fate 第二十七話 絆の戦い・勝利すべき黄金の剣[イル=ド=ガリア](2010/07/29 10:23)
[32] Fate 第二十八話 槍さんと螢さんと[イル=ド=ガリア](2010/07/30 09:52)
[33] Fate 第二十九話 最後の憩い[イル=ド=ガリア](2010/07/31 10:01)
[35] Fate 第三十話  幕間劇[イル=ド=ガリア](2010/08/01 15:29)
[36] Fate 第三十一話 黄金の殲滅者[イル=ド=ガリア](2010/08/02 09:56)
[37] Fate 第三十二話 姉弟[イル=ド=ガリア](2010/08/03 07:25)
[38] Fate 第三十三話 遠坂邸の戦い[イル=ド=ガリア](2010/08/04 06:30)
[39] Fate 第三十四話 王と騎士[イル=ド=ガリア](2010/08/05 15:41)
[40] Fate 第三十五話 決戦の狼煙[イル=ド=ガリア](2010/08/06 10:01)
[41] Fate 第三十六話 破滅への鎮魂歌[イル=ド=ガリア](2010/08/06 07:28)
[42] Fate 第三十七話 呪いの魔槍[イル=ド=ガリア](2010/08/06 22:43)
[43] Fate 第三十八話 騎士の理ここに在り[イル=ド=ガリア](2010/08/07 16:29)
[44] Fate 第三十九話 終幕へ[イル=ド=ガリア](2010/08/08 17:36)
[45] Fate 第四十話 襲撃者[イル=ド=ガリア](2010/08/09 10:15)
[46] Fate 第四十一話 黄金聖餐杯[イル=ド=ガリア](2010/08/09 10:44)
[47] Fate 第四十二話 決戦は柳洞寺[イル=ド=ガリア](2010/08/09 20:52)
[48] Fate 第四十三話 煉獄の炎[イル=ド=ガリア](2010/08/10 09:41)
[49] Fate 第四十四話 剣の英霊[イル=ド=ガリア](2010/08/10 18:33)
[50] Fate 第四十五話 贋作と真作[イル=ド=ガリア](2010/08/11 07:37)
[51] Fate 第四十六話 黄金の代行[イル=ド=ガリア](2010/08/11 16:34)
[52] Fate 第四十七話 戦友の絆[イル=ド=ガリア](2010/08/11 21:42)
[53] Fate 第四十八話 散り逝く者の祈り[イル=ド=ガリア](2010/08/12 05:55)
[54] Fate 第四十九話 聖杯の奇蹟[イル=ド=ガリア](2010/08/12 16:35)
[55] Fate  True End[イル=ド=ガリア](2010/08/13 19:27)
[56] Fate Good End[イル=ド=ガリア](2010/08/13 21:49)
[57] ネタ集(リリなのDiesパロディ)[GDI](2011/11/28 21:33)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20025] Fate 第四十六話 黄金の代行
Name: イル=ド=ガリア◆ec80f898 ID:cb049988 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/11 16:34
Fate (最終日)


第四十六話    黄金の代行





 柳洞寺山門付近


 一つの闘争が、ここに終わりを迎えようとしていた。


 「贋作者(フェイカー)風情にしては持ったほうか、だが、所詮はこの程度、偽物ではこれが限界か」

 その言葉には嘲るようであり、どこか期待外れのような響きを含む。


 対峙する両者の様相はまさに対極、片や、未だに黄金の鎧に傷一つなく、優雅に立っている英雄王。


 そして片や―――


 「何度も言っているだろうが、この身に限界などない、痴れ者の牙とて、研ぎ続ければ王に届くこともある」


 赤い騎士の外套は破れ、鎧はところどころに亀裂が走り、手や足には無数の裂傷。加え、脇腹には穴が穿たれている。二人の状態はまさに天と地であり、英雄王と錬鉄の英雄の格の差はここに明確に現れていた。


 だがしかし、赤い騎士には状況を悲観する要素は何一つとしてなく―――



 「I am the bone of my sword 体は剣で出来ている」


 この状況にあってなお、その詠唱には微塵の陰りも見受けられない。鍛え上げられた鋼の心と体は、いかなる窮地にあろうとも決して折れることはない。



 「そうか、世迷言はそこまでだ」

 英雄王の腕が振り下ろされ、百にも届く宝具群が抑制のくびきから解き放たれる。満身創痍に近い赤い騎士に防ぎきれる数ではなく、それは断罪を告げる処刑の剣群だった。




 「ロー・アイアス!!! (熾天覆う七つの円環)」


 降り注ぐ星の群れ、だが、展開された盾は投擲に対する絶対の守りとなり、その全てを防ぎきる。



 そしてさらに、赤い騎士の詠唱は止まず、世界を侵食するためのさらなる祝詞を紡いでいく。



 「Steel is my body,and fire is my blood. 血潮は鉄で 心は硝子」


 それは、ある男の人生そのもの



 「I have created over a thousand blades. 幾たびの戦場を越えて不敗」


 駆け抜けた。理想を胸に、ただの一度も道を違えることはなく、愚者の夢を追い続けた。



 「Unknown to Death. ただの一度も敗走なく」


 「Nor known to Life. ただの一度も理解されない」



 その理想は誰もが一度は夢見る崇高なるものであるがため、人間には決して理解されず。



 「Have withstood pain to create many weapons. 彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う」



 常に彼は一人、だがそれでも、諦めることなく走り続けたその姿は―――



 「Yet,those hands will never hold anything. 故に、生涯に意味はなく」



 “正義の味方”と呼ばれるに足る、錬鉄の英雄の生き様だった。







 「So as I pray,"unlimited blade works". その体はきっと剣で出来ていた」

 


 瞬間―――世界が変わった。


 燃えさかる炎は壁となって境界を巡り、世界を根底から作り変える。


 後には荒野。


 無数の剣が乱立した、剣の丘だけが広がっていた。




 「何――――!?」

 驚愕は英雄王のもの。この世界こそが英雄王ギルガメッシュの鬼門、全ての英霊の中において、唯一、英雄王に対してのみ優位性を誇る英霊エミヤの宝具。


 「固有結界だと―――!?」



 「そう、これが私の世界。無限に剣を内包し、直視しただけで剣を複製するこの世界において、存在しない剣などない」


 そこには無限の剣だけが連なり、全てがあり、何もない世界。

 故にその名を、“無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”。生涯を剣として生きてきた男が手に入れた、ただ一つの確かな答え―――



 「偽物は本物に届かない、それが世界の真理だとしても、ここは私の世界だ。この荒野においてならば、偽物は本物を凌駕する。ならば、貴様の持つ千の財、その全てを悉く地に落とそう」


 担い手を認めるかのように、丘に突き刺さった剣は浮き上がり、英雄王目がけて切っ先を向ける。
 



 「往くぞ英雄王―――――武器の貯蔵は十分か!」


 「は―――――思いあがったな、雑種―――――!」



 英雄王もまた“門”を最大に展開し、無数の宝具を顕現させる。



 錬鉄の炎に満ちた荒野、異なる二つの剣群は、ここに最後の激突を開始した。









■■―――――――――――■■




 「Mein lieder Schwan (親愛なる白鳥よ)」


 「dies Horn,dies Schwert, den Ring sollst du ihm geben. (この角笛とこの剣と、指輪を彼に与えたまえ)」



 邪聖の声が響き渡った瞬間、その手には赤黒く輝く剣が握られていた。



 「何、それは―――!?」

 果たして、驚愕はセイバーのものであった、このまま突き進めば自身を待つものは敗北であると瞬時に悟り、白銀の鎧を再び顕現させる。


 その刹那―――



 「怨念もたらす―――報復の剣(ダインスレフ)」


 復讐の呪詛を孕んだ魔剣が、騎士王目がけて振り下ろされた。



 「ぐううううううううう!!」


 それはすなわち、これまで騎士王が積み重ねてきた剣戟、それらが一斉に跳ね返ったに等しい。復讐の剣は容赦なく無限とも思える呪いを彼女目がけて叩きつける。


 だが、彼女は円卓の頂点に君臨せし騎士王、如何に呪いの剣とはいえ、本来の担い手によるものではないそれに屈することはありえない。



 「貴様――――それは」


 「私は運がいい、もしこれが私の文化圏とは遠く離れた武器であれば、使い方など分かりもしなかった」


 ダインスレフ。北欧の英雄シグルドを殺したとされるその宝具、確かに、ドイツ人である彼にとってジークフリートの伝説は馴染み深いものであり、この剣の伝説と内包するその能力を知っているのも道理。


 だが―――


 「なぜ、貴様がそれを持っている」


 「いえいえ、これはただの借り物に過ぎません。貴女とて御存知でしょう、山門近くの戦場では全ての宝具の原典を持つ原初の王が戦っている」


 その言葉で、騎士王は全てを理解した。


 先程、聖餐杯が詠唱したあの祝詞、あれはイリヤスフィールを攫う際に用いられたものと同じであり、おそらくは強制転移を可能とする魔術詠唱。


 つまり、


 「英雄王の宝具を、利用したのか」


 「ええ、これこそが私の能力。私は、黄金の代行―――クリストフ・ローエングリーン。こと、黄金の威光を掠め盗ることに関してならば、私の右に出るものはおりますまい」


 狂気と、絶対の信仰が混じりあった声で、聖餐杯は高らかに宣言する。


 己こそが黄金の代行、絶対の力を再現する、もう一人の黄金なのだと。



 「故に、今ここには黄金の王が二人いると理解されるがよろしい。なぜ私がわざわざこの場所を決戦場に選んだとお思いですか?」

 そう、全ては聖餐杯の謀りであり、最終決戦の構図は彼にとって最高の布陣となった。

 如何に彼とて蔵に収められている“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”に手を出すことは出来ないが、英雄王の意思によって現世に顕現した宝具を物質転送するならば造作もない。


 そのための布石として、英雄王が柳洞寺に侵攻する様子を彼は見届けた。対象を実際にその目で確認することが彼の創造位階の応用による強制転移の条件であるが故に。


 つまり、彼が監督役の代行として進めてきた聖杯戦争、それそのものが最後の決戦のための布石。聖餐杯はどこまでも周到に策を練り、必勝の布陣を用意していたのだ。



 「自身の力では戦うことも出来ぬ男がよく吠える」


 「ははははは、褒め言葉と受け取っておきましょう。ええ、この身は凡夫に過ぎません。戦闘の才能はおろか、人としてあるためのあらゆるものが常人並、突き抜けたものなど何もなく、英雄に届きようはずもない。ですが、それ故に成せることもあるのですよ」


 邪なる聖人は嗤う、この世の全てを。


 「“別人になりたい”、それが私の渇望であり、我が能力の根幹そのもの。そして、それは絶対の黄金の力を借り受けることすら可能とする。素晴らしいとは思いませんか! 他者など顧みることすらない英雄王の力が、私のような凡夫に使い捨ての道具とされる。これほど痛快な皮肉があり得ましょうや!」


 その狂気こそが、彼をして黄金の代行たらしめる。

 ヴァレリア・トリファは現行における黒円卓最狂、流石に大隊長のイカレ具合にはやや劣るものの、人としてどこまでも破綻した精神が、この男に歪んだ聖道を歩み続けさせる。



 ≪この男は、もう駄目だ≫



 そして、対峙する騎士王はそのことを理解していた。


 これは、第四次聖杯戦争で戦ったキャスターと同類だ、精神的な同調など出来る筈もなく、話が通じるようで決定的にずれている。


 とはいえ、敵の能力が非常に厄介極まりないことには変わらない。徒手空拳ならばともかく、敵が宝具で武装するならばこちらも相当の覚悟が必要となる。少なくとも、これまでのように鎧を纏わずに踏み込むことは封じられた。


 「まずは一つ、貴女の攻撃力を僅かながら削ぐことに成功した。鎧に回すための魔力を聖剣から外した以上、先程までの威力は望めますまい」


 聖餐杯は、再び手を掲げ、


 「Mein lieder Schwan (親愛なる白鳥よ)」


 「dies Horn,dies Schwert, den Ring sollst du ihm geben. (この角笛とこの剣と、指輪を彼に与えたまえ)」



 黄金の威光を、その身に顕現させるべく、現実の浸食を開始する。



 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 だが、それをさせじと騎士王は流星となって駆ける。敵が宝具を握ろうとも、その戦闘技能が向上するわけではない。仮に英雄王が相手であろうと、純粋な剣技では剣の英霊たる彼女が圧倒的に勝っているのだ。


 ならば、恐るるに足らず。鎧によって防ぎつつ、敵が一の攻撃を行う間にこちらは十の攻撃を見舞うまでのこと。


 騎士王の一撃が聖餐杯に叩き込まれ、息もつかせずさらなる連撃が続こうとした瞬間―――



 「!?」



 放たれた槍による一撃を、彼女は全身全霊をもってして回避する羽目になった。


 「避けましたか、流石に鋭い」

 邪聖が右手にとるはかつて騎士王が戦ったある男が握った槍と同じ気配を纏っている。それはすなわち―――



 「“破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)”だと」


 第四次聖杯戦争において、ランサーとして召喚されたフィオナ騎士団随一の騎士、ディルムッド・オディナが宝具、その特性は魔力殺しにあり、魔力で編まれた彼女の鎧を完全に無効化する力を持つ。



 そして、聖餐杯の左手には―――



 「ではではならば、これは“必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)”ということですね。これは運が良い、今の貴女にとってこれは天敵ともいえる組み合わせでしょう」


 魔力で編まれた防御を無に帰すゲイ・ジャルグと、一度傷を負わせれば持ち主かその槍が在り続ける限り決して傷が癒えることはないゲイ・ボウ。確かに、今の彼女にとってこれほど最悪な組み合わせない。


 だがしかし、聖餐杯はディルムッドではない。如何に彼の槍を振るったところで、その槍技には及びようもないはず。
 


 ≪武器を狙って弾く、奴の身体は衝撃を受け付けないが、宝具は別だ≫

 歴戦の英雄はその事実を既に悟っていた。聖餐杯が衝撃を無と出来るのはあくまで自身の肉体のみであり、こちらの剣を敵の武装に叩きつければ逆にこれまで不可能であった体勢崩しも可能となる。


 そうなれば、彼女の魔力放出も意味が出てくる。聖餐杯は彼女の攻撃を封じたようでありながら逆に戦術の幅を増やしている。


 「はあああああああああ!!」

 そして、呪いの槍に僅かの恐怖も見せず、騎士王は正面から聖餐杯を切り伏せるべく突進し、



 「やはり臆さず来ましたか、本当にキルヒアイゼン卿と似ていらっしゃる」

 その精神傾向を読むことは、聖餐杯にとってはいと容易いことであった。


 瞬時にかき消える二つの槍、彼とて、自分に長物が扱えないことは理解していた。


 ならば―――



 「Mein lieder Schwan (親愛なる白鳥よ)」


 「dies Horn,dies Schwert, den Ring sollst du ihm geben. (この角笛とこの剣と、指輪を彼に与えたまえ)」



 彼でも扱え、かつ、敵の力を奪うような宝具こそが望ましい。


 そして、その手に握られるのは一振りの短剣、それは“魔術破り”の短剣の兄弟であり、“魔力を奪う”このに特化した呪いの棘であった。



 「無駄だ!」

 しかし、それが武器である以上、騎士王の剣からは逃れられない。召喚された短剣に即座に狙いをつけ、まさしく正確無比の斬撃が振り下ろされ。


 「その言葉、そっくりお返ししましょう」


 右手に持った短剣を、生身の左手で防ぐという常識破りによって覆された。


 なまじ、彼女が正統の騎士であることが仇となった。騎士道の具現にして正道を歩む彼女にとって、短剣を素手で庇うなどという行為は考えられることではない。


 それが自身の攻撃に繋げるためにあえて片腕の犠牲とする行為ならば考えられるが、純粋に腕よりも短剣の方が脆いからという理由など、本来あり得ない。そこまで自身の肉体を鍛え上げていたならば、そもそも素手で戦った方が強いに決まっている。


 だが、言峰綺礼のように、拷問に近い鍛錬の果てに鋼の如き肉体を得たのではなく、聖餐杯の肉体は借り物の器に過ぎない。故に、肉体は堅牢なれど、その戦闘技術は拙いという矛盾がここに発生する。



 そして、その矛盾こそが正統なる騎士であるセイバーの判断を誤らせることとなった。



 「!?」


 短剣は彼女の肉体ではなく、剣そのものに向けられる。“魔力を吸う”ことが目的ならば、肉体を狙う必要などないのだ。彼女の剣が運動エネルギーを伴って叩きつけられたならば魔力を奪う前に弾かれただろうが、聖剣は今、聖餐杯によって止められている。



 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 だが、彼女は騎士王。ほぼ条件反射に近い反応で、彼女は竜の咆哮を叩きつけ、その圧力を利用して聖餐杯から距離をとる。



 「なるほど、賢明な判断です。あのままこの剣に触れるよりはそちらの方が魔力の消耗は少なくて済む。ですが、魔力を無駄に消費したという事実は変わりませんねえ」


 聖餐杯は嗤う。覆りようもない自身の優勢を確信したがために。

 聖餐杯にとって幸運だったことは、英雄王が赤い騎士によって剣の丘に引きずり込まれる前に、この短剣を引き抜いたことだろう。

 時間にしてわずか後に、剣の丘は展開されていたのだから。


 「――――」

 騎士王は無言で戦況を把握する。

 敵が治療不可の能力を持つの宝具を大量に有しているのと同等である以上、鎧の解除は不可能。かといって“魔力殺し”があれば鎧は意味を失う。


 そして、聖餐杯の堅牢さは未だに顕在、短剣であれば自分の手をほとんど変わらぬ挙動で繰り出すことができ、あの男の技量であっても脅威たり得る。



 つまりそれは、特殊発現型の唯一の欠点である己の肉体のみで戦わねばならないという事実が克服されたことを意味している。

黄金の代行は、絶対の黄金の力を借りることにより、不滅の存在へと変生したのだ。



 「こうなっては、是非もなし」

 故に、騎士王は決断する。ことここに至ればやることはただ一つしかなく、危険性はこれまでになく跳ね上がるが、このまま戦ったところで魔力切れによって破れるのは自明の理。



 「ほう、やはりそう来ましたか」

 そしてそれを聖餐杯も予想していた。もし彼女ならば、この状況に至ればやることは一つしかないであろうと確信していたが故に。



 聖剣に魔力が籠る。二撃目など微塵も考慮に入れず、その全てをこの人振りに注ぎ込む。



 “約束された勝利の剣”にも二通りの使い方がある。竜の炉心が作り出す膨大な魔力を込め、斬撃そのものを巨大化して飛ばす“大砲”としての用途、そして、もう一つが―――



 ≪聖剣に込めた魔力をあえて解放せず、直接敵に叩きつける。彼の大英雄ヘラクレスに“勝利すべき黄金の剣”を放った時も、そのような使い方をしていた≫


 令呪の支援を得て放たれた“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”が九度、純粋に剣の魔力のみで放たれた“勝利すべき黄金の剣(カリバーン)”は七度ヘラクレスを殺す威力を秘めていた。


 “約束された勝利の剣”の方が宝具の格としては上のはずだが、令呪のバックアップを考えなければむしろ“勝利すべき黄金の剣”が勝っていた。


 それはすなわち、使い方の違い。直接たたきつけるタイプでは敵に届く前にヘラクレスの斧剣によって担い手が砕かれる危険性が高く、“約束された勝利の剣”は助走をつけながらも相手との距離が離れた状態で放たれた。



 だが、騎士王は今その危険をあえて冒し、全ての魔力を一撃に込めようとしている。敵の攻撃を躱しながら千の攻撃を積み重ねるのではなく、ただ一度の攻撃に千回分の魔力を込めることを選んだ。




 「ぐ、ぬううううううううううううううう!!!」

 だがそれは竜の因子を持つ彼女をして、肉体の限界を超える暴挙。猛る魔力は行き場所を求めて暴走するも、それを無理やり抑えて全てを聖剣に収束させる。


 それはまさに、大砲に火薬を圧縮して詰め続けることに等しい。どれだけ強力な大砲であろうと、砲身そのものにまで火薬を詰めるはずはなく、砲身が無事であるためには適量というものがある。


 騎士王は砲身の安全など度外視し、限界を超えて火薬を詰め続ける。いや、火薬を固めて砲弾としようとしているようなものか、いすれにせよ、この一撃で大砲が二度と使い物にならなくなるのは疑いない。



 「無茶をしますねえ」


 「無理を通して道理を覆すのが――――――英雄というものだ」


 耐えきれぬ筈の苦痛の中にありながら、騎士王は壮絶な笑みを返す。


 彼女は、笑っていた。どこまでも豪快に。



 「なるほど、では私も、相応のもので迎撃せねばなりませんね」

 そして、聖餐杯の前に召喚陣のようなものが現れる。



 ≪あれが、空間転移の陣か≫


 それを見て騎士王は確信する。今までのそれは簡略化したものに過ぎず、あれこそが奴の本来の開放なのだと。


 敵が黄金の代行を謳い、騎士王たるこの身を打倒するならば、それが選ぶであろう宝具は自ずと限られる。



 ≪竜殺しの魔剣グラムか、もしくは無毀なる湖光アロンダイト≫


 彼女を滅することに長じた宝具といえばその辺りだが、後者はあり得ない。アロンダイトは“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”と同じく人々の信仰によって形を成した神造兵器。


 対して、“王を選定する岩に刺さった剣”は北欧に伝わる“支配を与える樹に刺された剣”が流れたものであり、魔剣グラムはアーサー王伝説より古い起源を持ち、ある意味で伝説の大元となった剣でもある。



 ならば、あらゆる要素において、グラムはアーサー王の天敵足り得る。英霊には数多くの伝承、文化圏の違い、歴史的な流れなどもその要素となり、何かしらの鬼門が存在する。


 故に、全ての宝具の原典を持つ英雄王ギルガメッシュは最悪の英霊殺しとなる。ありとあらゆる英霊の弱点となる伝承を保有するが故に。



 ≪だが、負けん≫

 自信の天敵たる宝具の顕現を予想してなお、騎士王は怯まない。むしろ、その戦意はなおも燃え盛る。



 「恐れを微塵も見せませんか」



 「騎士の王が、敵の剣に対して恐れを見せるわけがなかろう」



 「なるほど、それは真理。ならば、後は互いの剣を競うのみ」



 「貴様の剣ではなかろう。紛い物の分際で吠えるな」



 「ふ、くくくくくく」



 炸裂する戦意と殺意。




 両者は向き合い、そこに不可視の戦意が渦を巻く。柳洞寺の大地には亀裂が走り、建物全体が荒ぶる闘気に鳴動する。




 決着はここに、激突する刹那を待ち受け二つの戦意が交錯していた。




=============================
 
 今回の聖餐杯の技は、完全オリジナルです。ザミエル卿が、ドーラ列車砲で、パンツァーファウストやシュマイザーを使えたり、ルサルカが拷問器具をモンスター化させてたりしたので、彼にもこういう応用技があってもいいかなとおもって作りました。まあ、早い話が、何もさせなければ戦いが単調になってしまうから、という理由が強いです。
 次回で決着、どうぞお楽しみください。セイバーのエクスカリバーB(ブレイク)は決まるのか、私はエクスカリバーX(クロス)も令呪があればできると信じている。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.042212009429932