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No.19908の一覧
[0] 真・恋姫†無双 一刀立身伝 (真・恋姫†無双)[篠塚リッツ](2016/05/08 03:17)
[1] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二話 荀家逗留編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:48)
[2] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三話 荀家逗留編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[3] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四話 荀家逗留編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[4] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第五話 荀家逗留編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[5] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第六話 とある農村での厄介事編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[6] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第七話 とある農村での厄介事編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[7] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第八話 とある農村での厄介事編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[9] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第九話 とある農村での厄介事編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[10] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十話 とある農村での厄介事編⑤[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[11] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十一話 とある農村での厄介事編⑥[篠塚リッツ](2014/10/10 05:57)
[12] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十二話 反菫卓連合軍編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:58)
[13] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十三話 反菫卓連合軍編②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[17] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十四話 反菫卓連合軍編③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[21] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十五話 反菫卓連合軍編④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[22] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十六話 反菫卓連合軍編⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[23] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十七話 反菫卓連合軍編⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[24] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十八話 戦後処理編IN洛陽①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[25] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十九話 戦後処理編IN洛陽②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[26] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十話 戦後処理編IN洛陽③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:54)
[27] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十一話 戦後処理編IN洛陽④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[28] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十二話 戦後処理編IN洛陽⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[29] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十三話 戦後処理編IN洛陽⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[30] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十四話 并州動乱編 下準備の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[31] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十五話 并州動乱編 下準備の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[32] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十六話 并州動乱編 下準備の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[33] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十七話 并州動乱編 下準備の巻④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[34] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十八話 并州動乱編 下準備の巻⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[35] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十九話 并州動乱編 下克上の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[36] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十話 并州動乱編 下克上の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[37] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十一話 并州動乱編 下克上の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[38] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十二話 并州平定編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[39] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十三話 并州平定編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[40] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十四話 并州平定編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[41] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十五話 并州平定編④[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[42] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十六話 劉備奔走編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[43] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十七話 劉備奔走編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[44] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十八話 劉備奔走編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[45] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十九話 并州会談編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[46] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十話 并州会談編②[篠塚リッツ](2015/03/07 04:17)
[47] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十一話 并州会談編③[篠塚リッツ](2015/04/04 01:26)
[48] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十二話 戦争の準備編①[篠塚リッツ](2015/06/13 08:41)
[49] こいつ誰!? と思った時のオリキャラ辞典[篠塚リッツ](2014/03/12 00:42)
[50] 一刀軍組織図(随時更新)[篠塚リッツ](2014/06/22 05:26)
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[19908] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十五話 并州動乱編 下準備の巻②
Name: 篠塚リッツ◆2b84dc29 ID:5ac47c5c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/24 04:59
「ようこそ。程昱さん」

 董卓軍筆頭軍師である賈詡の部屋を一人で訪れた風を迎えたのは、彼女のとってつけたような笑顔だった。無理やり作った感が滲み出ているその笑顔を軽く受け流しながら、風は部屋に足を踏み入れる。

 董卓軍が名実共に解体された今、ここを仕事部屋というのは適切ではないのかもしれないが、資料で溢れたこの部屋はまさしく軍師の仕事場だった。常に情報を集め、分析し、自分のものとしなければ落ち着かない。軍師というのはそういうものだ。都落ちして気落ちでもしているのではないかと同じ軍師として密かに心配していた風だったが、この部屋の有様を見て安心した。やはり、軍師というのはこうでなくてはいけない。

「お願いを聞き届けてもらって恐縮です」

 安心を全く顔に出さずに、風は頭を下げる。立場はこちらが下であるので、礼を失してはいけない。今更多少の礼を失したところで賈詡は気にしないだろうが、こういうことは形が大切なのだといつも稟に口を酸っぱくして言われている風であるから、その辺りの所作は自然と身についていた。

 それほど広くない仕事部屋の中から椅子を引っ張り出し、風にはそのうち片方を薦めてから賈詡は腰を下ろす。賈詡が座るのを待ってから、風もそれに倣った。

「さて、僕と内密に話したいことがあるってことだけど、手短にお願いね。こうしてる間にも、月に何かあったら困るから」

 この会談が設けられている間に、董卓にこちらが接触することを確信している物言いである。事実その通りであるのだから、風としては笑うしかない。

「用件は他でもありません。董卓さま達の今後についてです」
「前にも話したと思うけど、この件にそっちが関与する必要はないわ。安全上の問題もあるし、部外者には立ち入ってほしくないの」
「部外者、と言われてしまうと弱いですねー。風はちょっと仲良くなったつもりでいたのですがー」

 少し踏み込んだ物言いをしてみると、明らかな怒りを込めた視線で睨まれた。仲良く、という単語に聊か過剰な反応を示した。一刀のいつの間にか相手の懐に入り込む才能には風も一目置いているが、この賈詡に限って言えばその力も及んでいないらしい。呂布と張遼はあんなにも骨抜きにしたというのに、何という片手落ちか。

「率直に申し上げます。董卓さまと賈詡さん。まとめてこちらに来ませんか?」
「あの男の軍門に降れってこと? 冗談じゃないわ」
「いえいえ滅相もない。今のは言葉通りの意味ですよ? お客様としてしばらくお兄さんの領地に滞在しませんか、という申し出です。もちろん、滞在期間はそちらが自由に決めてくださって構いません」

 風の申し出に、賈詡の雰囲気にも変化が現れた。話を聞く体勢になった、と感じた風はそのまま言葉を続ける。

「連合軍との戦こそ終わりましたが、戦の興奮はいまだ冷めていません。どこに隠れるにしても、そこの土地を管理する人間の助けが必要です。風たちの勢力は弱小ですが、それ故にあまり注目されていません。いざという時の備えには呂布将軍と張遼将軍がおりますし、しばらく身を隠すのにこれほど都合の良い環境はないかと存じます」

 注目されていないというのが、董卓側への売りである。中央で即座に身を立て直す手段がない以上、董卓が取れる手段はどこかに身を隠すか地元に戻るかの二種類しかない。国を二分するほどの権力を一時は手中に収めた董卓であるが、都落ちした今、中央には敵が多く、地方は連合軍に参加した武将たちの領地が点在している。隠れるにしても場所を選ぶ必要があるのだ。諸侯が領地の安定に手を焼いている今は隠れるに絶好の機会であるが、手空きの戯れに兵が差し向けられないとも限らない。

 まして、今は誰もが戦力を欲している。落ち目の董卓の首は誰に売り渡したとしても格好の出世の材料になるだろう。身を落ち着けるのだとしたら、そういう可能性が低いところにしなければならない訳だが、その選定に賈詡は苦慮しているはずだ。誰がどの程度信頼できるのか。その判断材料が賈詡にはほとんどない。今并州にいるのは呂布の家族を受け取る用事の他に、張遼呂布の両将軍の地元というのがどれだけ信用できるのかを探る意味合いもあるのだろう。

 それが駄目となれば、いよいよ多少の危険を冒してでも領地へ戻るという選択が現実味を帯びてくる。これは風たちにとっては面白くない。こちらに合流する意思こそ張遼、呂布の両名は示しているが、即座に移籍が通るほど世の中甘くはないだろう。董卓が地元に戻るという判断をすれば、あの二人はそれについていく公算が高い。こちらに合流するとなればその後ということになる。あの二人が言葉を翻すような無責任な人間には見えないが、合流が遅れることは十分に考えられるし、拠無い事情で合流そのものがなくなることもないとは言えない。

 目立った武将のいない北郷軍にとって、あの二人は喉から手が出るほど欲しい存在である。手に入らなくなる可能性は、可能な限り潰しておきたい。そのためには、厄介者である董卓も受け入れる覚悟である。賈詡と一緒に働いてくれるならば大助かりだが、高望みはしない。彼女らは呂布と張遼のオマケとこの際割り切ることにした。

「あんた達のところに世話になるくらいなら、涼州に戻るって手もある訳だけど?」
「それは色々な意味でお勧めしませんねー。風が曹操さんや孫策さまの立場だったら、洛陽から涼州までに網を張ると思いますし」

 風の言葉に、賈詡が渋面を作る。その可能性は低いと風も思うが、否定することもできない。董卓討つべしと兵を挙げたのに、洛陽で捕縛できなかったのは連合軍にとって大きな痛手だった。袁紹が問題を起して勝手に敗走したことでうやむやになってしまったが、董卓が最大目標であったことに変わりはない。とは言え、大きな戦も終わった今は増えた領地を安定させるのが急務。既に過去の敵となった董卓にばかり構っている訳にもいかない。

 だから捜索のために割かれる兵は、ギリギリの数になるだろう。余裕のあるところでも合計で千人にも満たないはずである。その最大千人で、洛陽から涼州までの主要な道を監視するのだ。いざ董卓が通り、これを捕縛できるようであれば行う。兵を沢山連れていて対応できないようなら、そのまま引き返してくれば良い。元々逃がしてしまった敵である。それをさらに逃したところで連合軍が瓦解してしまった今、それほどの痛手ではない。現在位置を知ることができるだけでも御の字だ。

 そんな博打のような配置であっても、それを突破する董卓軍にとっては大事だ。何しろ寡兵である。呂布、張遼の両将軍がいるとは言え、遠く涼州を目指しながら董卓を守りつつ道を行くのは、難事に違いない。強行に戻ることにもそれなりの危険が伴うのだ。

 さて、と気を引き締めて風は賈詡を見た。

 軍団の最高権力者は董卓であるが、意思決定に一番大きな力を持っているのが眼前の賈詡であるのはある意味周知の事実だ。最終的な意思決定こそ董卓に委ねるだろうが、董卓の意思はふらふらとしている。賈詡が強く主張すればこの問題に関してならば納得するだろう。張遼、呂布は一刀側に大分傾いており、陳宮は呂布に追従する。後は賈詡を抱き込めば詰みなのだ。これを何としても口説き落とすのが、風の役目である。
 
 実際に網を張っているかは解からないが、董卓側にすれば可能性だけでも十分だ。旧連合軍側は当たればいいなくらいの軽い気持ちであるが、董卓側はそれが直撃すればおしまいなのである。涼州までは遠く険しい道が続いている。情勢の緊張している今、そこを寡兵で通り抜けるのは、いかに両将軍を抱えていても危険なことだった。

 安全度を高めるには何か手段を講じる必要があるが、ここから洛陽までの間に信頼のおける仲間がいるとは思えない。それならば賈詡はもっと余裕のある振る舞いをしているだろう。涼州からの援軍を要請するにしても時間が必要だ。強行軍という選択肢を排除する以上、どうしたって援軍がやってくるまでの安全を確保する必要が生まれる。大事な大将の身を任せる訳だから、それは信頼のおける相手でなければならない。一刀はそういう意味では、その条件を満たしているように思える。他に匿ってくれる候補があったとしても、それと秤にかけられる程度には信頼を勝ち得ているはずだ。

 賈詡が腕を組んで沈思黙考する。後一押しだ、と風は確信した。

「涼州に戻る際にはこちらも援助しますよ。涼州までの連絡を待つ間の安全は、風たちの力の及ぶ範囲で保障します」
「それでそちらが得るものはなに?」
「助けられる人は助けるというのが、お兄さんの方針ですから」

 少し偽善的過ぎただろうか、と思いながら風は賈詡の顔を伺う。まさか言葉通りに受け取ったりはしないだろう。風も善意だけでどうにかしようと思っている訳ではないし、賈詡もそれは承知しているはずだ。だが何事にも体面というものがあり、今はそれを使う時でもあった。嘘をつけ! と相手が一言文句を言えば崩れてしまうような危ういお約束ではあるものの、それを踏襲しお互いがお互いの利益を尊重する限り、大抵の話は無難に転がる。

「董卓と相談する時間をもらえるかしら。そっちの出立はいつ?」
「明日にはお暇しようと思っています」
「じゃあ、今晩までに返事するわ。それまで待ってもらえるかしら」
「ええもちろん。お互いにとって、良い結果になることを期待しています」

 椅子から立ち上がった風は、賈詡に握手を求める。賈詡はしばらく風の手を見下ろした後、躊躇いがちにその手を握り返した。























 董卓を口説き落とせと風から指示を受け取った一刀は、その命令を実行しようとした矢先から途方に暮れた。董卓が部屋に引きこもって出てこないのである。会いたい旨を世話係に伝えはしたが、体調が優れないということで取り合ってもらえなかった。伝えるそぶりこそ見せてはいたが、あの分では本当に伝わっているかも怪しい。

 本音を言えば限界まで粘りたかったが、女性が体調不良を訴えているのにそれに無理やり会わせろというのも男のすることではない。第一、一度体調不良ということで突っぱねてしまったのだから、多少のことではこれを翻したりはしないだろう。男で客人である一刀にこれ以上尽くせる手はなかった。

 お大事に、と幾分力ない言葉で安否を気遣う言葉を残し、屋敷の中をとぼとぼと歩く。風たちと対董卓の作戦会議をしたのが昨日の話。明けて今日、朝食を食べた後の時間は董卓と話すことに費やすつもりでいたのだが、引きこもり作戦によってそれもご破算となった。急ぎの用事は他にない。ならば勉強でもしようかと、割り当てられた部屋に足を向けると、庭で寝転がっている一人の少女が目に入った。

 呂布である。芝生の上に身を投げ出した彼女の周囲に、犬猫が思い思いに群がっている。人間を警戒することの多い動物であるが、呂布の周囲にいる犬猫たちは安心しきっているのが一刀にも理解できた。種族を超えた信頼関係がそこにはあった。犬猫とはここまでの道程を一緒に過ごしてきただけに、一刀も暖かい気持ちになる。

 自然と一刀の足は庭へと向いていた。屋敷を出て呂布の近くまで行くと、ぱたぱたとセキトが駆け寄ってくる。そんなセキトを抱き上げ近くまで行くと、呂布は寝転がったまま視線を向けてきた。ガラス玉のような視線に見つめられ、虎牢関で殺されかけた思い出が一刀の脳裏に蘇る。

 あの時は本当に無謀なことをしたものだと、過去の自分を振り返りながら呂布の隣に腰を下ろした。犬猫たちもそろりそろりと一刀の近くに寄ってくる。

「ここは良いところですね」
「広い庭は必要。みんな、走ったりするから」

 呂布の言葉に、一刀は心中で納得する。確かにこれだけいれば、一緒に過ごす家は広大なものにならざるを得ない。土地が余っている田舎ならば確保もそれほど難しくはないが、それをこの時代最も栄えた都市である洛陽でやるともなれば、そこには色々な困難が伴う。幸い呂布には天賦の武があり、その功績で将軍となり家屋敷を確保するにいたったが、もしそうでなければこれだけの家族を洛陽で養うことは難しかっただろう。食事代だけでもバカにならないだろうし、普通の稼ぎでは一緒に暮らすこともままならないに違いない。

「一刀のところは、この子たちは暮らせる?」
「土地に関しては問題ないのではないかと。遊んでる土地も結構あるみたいですから、手頃な物件がなければ自前で何とかできますし」

 豪奢な造りにすると色々と角が立つだろうが、広いだけならばそれほど目くじらも立てられまい。犬猫たちは呂布の言いつけを良く守る。敷地から出るなと一度彼女が言い含めておけば、しっかりとそれを守るはずである。武人としては相当高い地位にいた呂布であるが、家族と自分の食事に関すること以外は驚くほど質素な生活をしていたらしい。内装には無頓着で最低限の手配しかせず、家に客人を呼ぶこともなかったせいで、屋敷にいたのは家族とその世話をする人間だけ。まさに動物屋敷という有様だったというが、国士無双の武人呂布が動物を愛する心根の優しい少女であると言っても、誰も信じなかっただろう。近所に住んでいた人間の中には、そこが呂布の屋敷であると知っていても、この赤毛の少女が呂布であると知らなかった者も大勢いたに違いない。

「それをきいて安心した。セキトも、皆も、一刀は良くしてくれたって言ってる。これからも仲良くしたいって」
「それは光栄ですね。俺も、セキトたちのことは大好きですよ」

 一刀が言うと、その言葉が理解できるのか、セキトが小さく唸りながら身を寄せてくる。動物を身近に置くことにあまり縁のなかった一刀にとって、甘えてくれる動物というのはまさに天使だった。

「お前、かわいいなぁ……」

 ぐりぐりとお腹を撫でると、セキトも気持ち良さそうな声を挙げる。嫌がらない程度に思い切り撫で回すのが、一刀流の可愛がり方だ。ぐりぐり、なでなで、指で手の平でセキトの体中を触り捲くる。そんなかわいがりをセキトは嫌な顔を一つせずに受け入れ、気持ち良さそうに息を漏らしていた。わふー、という気の抜けたセキトの声が一刀の腕を更に大胆に動かした。もはや二人の世界である。

 そのまま何もなければ飽きるまでセキトを撫で回していたろうが、幸か不幸か、その場にはもう一人人間がいた。そのもう一人の人間――呂布はセキトの体を無造作に掴むと、優しく、しかし問答無用に放り投げた。突然のことにセキトは空中で驚きの表情を浮かべたが、流石に天下の飛将軍の飼い犬。空中で体勢を整えるとその四本足で見事に着地する。

 抗議の視線を向けるセキトと唖然とする一刀を他所に、今まさにセキトを放り投げた呂布は何を言うでもなくそのままごろん、と地面に寝転がった、先ほどまでと同じ体勢である。なら何故セキトを……と一刀が混乱していると、寝転がったまま呂布がじーっと視線を向けてきた。ガラス玉のような視線はいつもと変わらなかったが、そこに僅かな期待の色があるのを、一刀は見てとった。

 元々お腹を出した衣装だが、今は更にそれを見せびらかすようにしている。服従を誓う犬のようなポーズだ。あの呂布がそうしていることに、意味の解からない興奮を覚える一刀だったが、その意図を推察して一応の結論を導き出すに至り、本当にそうして良いものかどうか流石に迷ってしまった。

 犬のようにしているのだから、犬のようにしてほしいに決まっている。しかし犬は序列に厳しい生き物だ。生物としての格付けはどう考えても、呂布が上で一刀が下である。それを覆すことは犬でない一刀であっても、激しい抵抗があった。本来ならばこうして近くにいることも恐れ多い存在であるが、その呂布が完全に弛緩した状態で、無防備な姿をさらしている。

 自分の推察が間違いでないのか。考えに考えた一刀だったが、それ以外の予想はできなかった。ふらふらと呂布に歩み寄る。近くにそっと腰を下ろし、そのお腹に指を伸ばし突付いてみた。しっかりとした筋肉の上にほどよい脂肪がついている。雛里のようなぷにぷにしたお腹と比べると幾分固いが、これがこれで良いものだと思った。呂布が抵抗しないことに調子に乗った一刀は、身を乗り出して本格的にお腹を撫で始める。ん、と呂布が小さく息を漏らすと一刀の興奮も頂点に達した。

 これはもう抱きかかえて触り倒すしかない。普段の一刀ならばあの呂布を抱えるなど考えられなかったろうが、今の一刀は正気ではなかった。興奮に浮かされた目で呂布の体を起そうとする。不思議そうな首を傾げる呂布を見ながら身を乗り出し――その時初めて、その声を聞いた。

「ちんきゅー……」

 陳宮は既に一刀めがけて踏み切っていた。その目には隠しきれないほどの殺意が込められている。こちらを蹴り飛ばすべく必殺の威力を込めて折りたたまれた足を見た時、熱に浮かされた一刀の頭はようやく自分の身が相当にヤバイことを理解した。蹴りを受けることは考えなかった。回避するべく動き出す一刀。しかし、興奮に任せて前のめりになってたせいで、急に動き出すことはできない。本人は全速力で動き出したつもりだったが、実際にはただその場で立ち上がっただけだった。

 せめて横に身を投げ出すくらいの判断ができれば違ったのだろうが、頭に上っていた血は正常な判断を下す思考力を完全に奪い去っていた。結果――

「きーっくっ!!!!!!」

 必殺のキックが一刀の胸部に直撃する。身体ごと吹っ飛んだ一刀はそのまま地面を転がり、木に激突することでようやく止まった。そのままごほごほと咳き込む。心臓の真上に食らったせいで、呼吸が困難になっている。甘寧隊で殴られたり蹴られたりしていた経験がなければ、そのまま気絶でもしていただろう。心中で思春に感謝しながら、痛む身体を堪えつつその場に立ち上がる。

「まだ生きてやがったのですか、このちんこ県令!」
「そこそこに討たれ強いのが自慢でして……」
「ならばそこに直るのです。今度こそその息の根を止めてやるのです!」

 小さい身体を存分に使って、怒りを表現している陳宮。怒りの根は深そうだ。今の今まで自分のしていたことを振り返れば、彼女の怒りも理解できるだけにかける言葉が見当たらない。興奮の収まってきた頭が、ようやくことの重大さを理解し始めていた。対応に困って呂布の方を見るが、かの飛将軍は小首を傾げるばかりである。その仕草は実にかわいらしかったが、今はその可憐さに見とれている場合ではなかった。色にボケたままの頭では、このまま亡き者になれる公算が高い。

 身体の中の熱を追い払うように、一刀は大きく息を吐いた。気持ちを落ち着ければ何か名案が浮かぶかと思ったが、何も浮かばない。そもそも欲望に負けて女性の腹部を撫で回していたことは事実なのだ。一応合意の上というのが救いではあるのだろうが、そんなものは陳宮の前には関係ない。

「ちんきゅ、待つ」

 気が済むまで蹴られることを半ば覚悟した時、ようやく呂布から助け舟が来た。

「恋殿とめないで下され。このちんこを、今ねねが退治するのです!」
「かずとは悪くない。セキトみたいにお腹触られるの、くすぐったいけどきもちいい」
「恋殿は優しすぎるのですぞ! こうなっては蹴り殺すのも生ぬるいのです。洛陽にいた時の書物を引っ張りだして、このちんこを腐刑にせねば……」

 ちなみに腐刑というのは、ちんこをそぎ落とす刑罰のことである。去勢とも言う。死刑よりも重い刑罰というが、合意の上でお腹を触っただけでそれは流石に重過ぎるのではないか、とは口が裂けても言えない。余計なことを口にすれば、その瞬間に閃光のような蹴りが飛んでくるのは目に見えていたからだ。沈黙は金である。

 がみがみと言い募る陳宮に、淡々と答える呂布という構図が続いた。軍師らしく陳宮の論は実に整然としていたが、呂布は呂布で必要なことだけを端的に口にしてそれに応じた。議論というほどのものではなかったが、その趨勢は徐々に呂布の方に傾きつつあった。陳宮の呂布に対する忠誠というか懐きっぷりは一刀の予想以上だったらしく、彼女は基本的に呂布の言うことを聞くようにできているらしい。怒りこそ収まってはいなかったが、いつの間にか腐刑の危機は過ぎ去っていた。足腰が立たなくなるまで蹴り飛ばされるくらいで済みそうである。

 なんだ、それならよし、と一刀が安心して抱えたセキトを撫で回していると、不意に呂布がこちらを向いた。その視線は一刀の顔から腕の中のセキトに向けられる。

「立て込んでおられるようですし、俺はそろそろ失礼しようかと思うのですが……」

 どうでしょう、と呂布が余計なことを言い出す前にそれを口にした。陳宮としてはまだまだ言い足りないだろうが、視界から邪魔者を消す方が優先とでも判断したのか、仕草だけで『さっさと行け』とやった。腕から降ろすとセキトが名残惜しそうな声をあげる。それに後ろ髪を引かれるような思いはしたが、今はわが身の方が少しだけ可愛い。呂布と陳宮に頭を下げて、その場を後にする。

「恋殿。何をなさるのですか!」

 一刀の背中に、陳宮の悲鳴が届いた。どこか喜んでいるような、期待に満ちたその声音に振り返りたい欲求に駆られたが、今まさにそれで身を滅ぼしかけたのを思い出し泣く泣く自重した。


















「月、お待たせ」

 程昱との小さな会談を終えて戻ってくると、月は椅子から立ち上がりぱたぱたと駆け寄ってきた。

「どうだった? 大丈夫だった?」
「問題ないよ。思ってた以上に普通だった。まぁ、軍師として普通ってことは、あまり良いことでもないんだけど」

 つまりは、打算に満ちた会話をしてきたということでもある。人形のようにふわふわした見た目のくせに程昱は中々の曲者だった。この手の交渉は郭嘉がやると思っていただけに、今日の訪問は詠の意表を突いてもいた。もし最初から交渉役が程昱だったならば、もう少しこちらに踏み込まれていたかもしれない。あの軍師には、見た目に寄らない妙な凄みがあった。あの少女は本当に自分とは相性が悪い。

「ごめんね、月。涼州に戻るのはもう少し先のことになると思う」
「謝るのは私の方だよ。わがままを言って脱出を先延ばしにしたのは、私だもん」

 しょぼくれる月の頭を、ぽんぽんと撫でる。あまり無理を言わない月が言い出した、たまの我侭なのだ。軍師として親友として叶えてやらない訳にはいかない。それについて苦労を背負ったことも、詠は何も後悔はしていなかった。月と運命を共にすることが、詠の望みであり喜びなのである。

「しばらくはあの男のところに身を寄せようと思うんだけど、問題ない?」
「詠ちゃんが決めたなら、私はそれに従うよ」
「ありがとう、月」

 事後通告のようになってしまったが、これで方針は決まった。一つの山を越えたことを意識した詠の口から、大きな溜息が漏れる。

 誤算があったとすれば、両将軍はこんなにも早く離脱を表明したことだ。特に霞は北郷たちが全員いる場面でそれを口にした。これでは揉み消すこともできない。思わず頭を抱えたくなった詠だが、既にどうにもならないならばこれを交渉の材料に使おうと頭を切り替えることにした。月が安全に地元に戻るために、そしていざ再起を決意した時に、よりそれがし易いように。そのためならば、利用できるものは何だって利用するべきなのだ。

 その点、北郷は相当にマシな部類と言える。彼個人の能力がそれほどでもないのが寂しいところであるが、連れている三人の軍師は誰も素晴らしい頭脳の持ち主だ。正直、これから県令になろうという人間の元にいて良い人間ではないのだが……それでも、彼に付き従うと決めている辺り、あれらの軍師を引き付けるような何かが北郷にはあるのだろう。彼は男で、軍師たちは女だ。最初はそういう関係なのかと思ったが、郭嘉や鳳統の反応を見るにそれもなさそうだ。懸想くらいはしているようだが、今すぐあの中の誰かが子供を産むような事態にはなりそうにない。

 セキトも妙に懐いているし、そういう魅力があるのだろうと納得することにした。詠にはそれがあまり感じられなかったが……

「月の目から見て、あの北郷はどう?」
「悪い人ではないと思うよ。私達に協力してくれたし、霞さんも恋さんも信用してるみたいだし」

 控えめな月の口調にへー、と淡々と答えながらも、詠は内心で安堵の溜息を漏らしていた。これで月まであの北郷に懐いているようだったら、方針を変えなければならなかったところだ。北郷のことを認めてはいる詠であるが、月を個人的に預けられるかとなれば話は別である。

「私からも聞いていいかな、詠ちゃん。あの北郷さんは、どう?」
「どうと言われると難しいところね……」

 具体性に欠ける問いであるが、その意図するところは理解できた。相国まで上り詰めた公人として、北郷一刀の器のほどが純粋に気になるのだろう。人の論評を好まない月が態々聞いてくるとはよほどのことである。北郷への敵意が無駄に湧き上がるのを感じながら、詠は思考を深めた。

 何かに秀でたものは自然と目に付くものであるが、今まで話してみた限り北郷にそれほど光るものはない。二度の関での戦いで生き残る辺り、百人隊長としての手腕はそこそこのものなのだろうが、詠に言わせればそれだけだ。難しい交渉を最初から軍師がやっているのを見るに、それほど頭が回るようにも思えない。そりゃあ、頭が悪くないことは解かっているが、あれくらいの頭脳ならば洛陽を探せば掃いて捨てるほどいる。成り上がってやろうという野心まで、おまけにつけてだ。

 特筆するとしたらその野心のなさだろうか。北郷からは成り上がってやろうという気概があまり感じられない。かと言って、仕事として日々を淡々と処理しているのとも違う。上を目指してることは間違いないのだが、その根幹にある部分が賈詡には見通せなかった。金のためでもなさそうだ。理想のため、というほど熱意は見えない。探究心や名誉欲というのでもないだろう。能力が大したものではなく気持ちが見通せないほどなのに、今の地位にあってあれだけの仲間に恵まれているのだから運は良い。外馬に乗るとしたら悪くない相手だ。

「よほどのことがない限り、あの男は僕たちを裏切るような差配はしないと思う。軍師が利を優先して動く場合が問題だけど……程昱と話してみた限りしばらくは『同盟』を遵守するつもりみたい。手放しっていうのは問題だけど、今のところは信用しても良いんじゃないかな。月はどう?」
「私も、あの人は信用できると思う」
「月が言うなら、僕も信用することにするよ」

 少なくとも表面上は、という言葉は飲み込んだ。いざという時は寝首をかいてやる覚悟は、今も捨てていない。

「月もあんな男に惚れたりしないでね? そうしたら僕、あの男を刺しちゃうかもしれないから」
「え……」

 軽い冗談のつもりで言った言葉に、月は動きを止めた。真剣な表情でこちらを見つめる親友に、詠も居住まいを正す。もしかするともしかするのだろうか。本当に『そう』であるとしたら、あの男には今すぐこの世から消えてもらうことになるのだが……軍師としての理を越えた熱い感情を滾らせながら、月を見返す。

 月は不自然なまでに挙動不審だった。顔を覗きこむようにしても、目を逸らされてしまう。まるで乙女のような反応に、熱くなった詠の頭は急速に冷えていった。ある男への殺意が心を満たしていくのを感じながら、詠は根気良く月に先を促した。

「怒らない?」

 不安そうな上目遣いで問うてくる月は世界一可愛かった。それを見た瞬間全てがどうでも良くなりかけた詠だったが、寸でのところで自我を取り戻す。この笑顔が他人だけのものになるかもしれないのだ。これが一大事でなくて何だというのか。

「怒らないから言ってごらん」
「うん。その、私は恋って自由な方が良いと思うの。そりゃあ、色々な問題でそうしちゃいけない時っていうのもあると思うけど、本当は好きな人と一緒になるのが一番幸せなんじゃないかって思うんだ」
「…………」

 怒りで自分がどうにかなりそうだったが、それを無理やり押し込んで月の話に耳を傾ける。

「だから、詠ちゃんが北郷さんのことを好きなら応援しようと――」
「ちょっと待って誰が誰を好きだって?」
「え? だって詠ちゃんが」
「まさかそんなのありえないよ。どうして僕があんな男を」
「あんなとか言っちゃ駄目だよ、詠ちゃん」
「いいの、ここには僕と月しかいないんだから。とにかく! 僕は北郷のことを好きでも何でもないんだから、誤解はしないようにね!」
「うんわかったよ詠ちゃん」

 よかったー、とへにゃと微笑む月を見て、どっと疲れが沸いてきた。このまま寝台に飛び込みたい誘惑に駆られるが、北郷たちへの対処が決まった今、霞たちにもう一度話をつけておく必要がある。歩調を合わせることが決まったと伝えれば、彼女らとの距離感も変わってくるだろう。ねねを含めたあの三人を董卓軍に繋ぎ止めて置くことはもはやできないだろうが、連合軍と共に戦った仲間である。良好な関係は可能な限り築いておきたい。

 お茶淹れるね、とぱたぱた動き回る月の背中を何となく見やる。女の自分の目から見ても月は可愛い少女だ。世に渦巻く流れのようなものが彼女をこのような立場に押し込めてしまっているが、本来ならばこうして誰かの世話をしたり、家事をするのが好きな少女なのだ。そういう生活をさせてあげたいという気持ちも勿論ある。しかし、軍師としての自分がそれを押し留めているのも感じていた。天下に覇を唱える。実際、後一歩のところまで行っていただけに、その願望は中々に強い。

 打算的な自分に嫌気が差す。こういう葛藤をしていることを、月に感じ取らせてはいけない。今はただ、軍師ではなく友達であろう。気持ちを強引に切り替えて、詠は月が淹れてくれたお茶を口にした。熱いお茶が、嫌な気持ちを溶かしていく。月の淹れてくれたお茶は、とても美味しかった。













あとがき

お腹には魔力があります。
話もまとまったので次回後半からようやく領地編に突入です。ここまで長かった…




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