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No.19908の一覧
[0] 真・恋姫†無双 一刀立身伝 (真・恋姫†無双)[篠塚リッツ](2016/05/08 03:17)
[1] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二話 荀家逗留編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:48)
[2] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三話 荀家逗留編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[3] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四話 荀家逗留編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[4] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第五話 荀家逗留編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[5] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第六話 とある農村での厄介事編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[6] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第七話 とある農村での厄介事編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[7] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第八話 とある農村での厄介事編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[9] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第九話 とある農村での厄介事編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[10] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十話 とある農村での厄介事編⑤[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[11] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十一話 とある農村での厄介事編⑥[篠塚リッツ](2014/10/10 05:57)
[12] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十二話 反菫卓連合軍編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:58)
[13] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十三話 反菫卓連合軍編②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[17] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十四話 反菫卓連合軍編③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[21] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十五話 反菫卓連合軍編④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[22] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十六話 反菫卓連合軍編⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[23] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十七話 反菫卓連合軍編⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[24] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十八話 戦後処理編IN洛陽①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[25] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十九話 戦後処理編IN洛陽②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[26] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十話 戦後処理編IN洛陽③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:54)
[27] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十一話 戦後処理編IN洛陽④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[28] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十二話 戦後処理編IN洛陽⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[29] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十三話 戦後処理編IN洛陽⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[30] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十四話 并州動乱編 下準備の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[31] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十五話 并州動乱編 下準備の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[32] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十六話 并州動乱編 下準備の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[33] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十七話 并州動乱編 下準備の巻④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[34] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十八話 并州動乱編 下準備の巻⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[35] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十九話 并州動乱編 下克上の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[36] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十話 并州動乱編 下克上の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[37] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十一話 并州動乱編 下克上の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[38] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十二話 并州平定編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[39] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十三話 并州平定編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[40] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十四話 并州平定編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[41] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十五話 并州平定編④[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[42] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十六話 劉備奔走編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[43] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十七話 劉備奔走編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[44] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十八話 劉備奔走編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[45] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十九話 并州会談編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[46] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十話 并州会談編②[篠塚リッツ](2015/03/07 04:17)
[47] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十一話 并州会談編③[篠塚リッツ](2015/04/04 01:26)
[48] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十二話 戦争の準備編①[篠塚リッツ](2015/06/13 08:41)
[49] こいつ誰!? と思った時のオリキャラ辞典[篠塚リッツ](2014/03/12 00:42)
[50] 一刀軍組織図(随時更新)[篠塚リッツ](2014/06/22 05:26)
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[19908] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十八話 戦後処理編IN洛陽①
Name: 篠塚リッツ◆e86a50c0 ID:fd6a643f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/24 04:58
 


 虎牢関攻略戦を乗り越えて甘寧隊副官の地位を得た一刀だったが、待遇自体はそれほど変わらなかった。

 まず、いくら思春直々に召し上げられたと言っても、正規兵と同じ能力を持っている訳ではない。副官としての仕事など一刀はしたこともないし、正規兵扱いになっている北郷隊についても同様だ。

 むしろ、格差については北郷隊の方が酷いと言える。新兵に毛が生えた程度の彼らに正規兵と同じ働きなどできるはずもないが、同じ待遇にすると言った以上、働きについては同じだけの物が求められるのも仕方のないことだ。

 使う側も頭から完遂することを要求している訳ではないが、長いこと思春の部下を務めてきた人間からすれば、色々と足りない北郷隊の面々は頼りなく見えるようで、今も影に日向に怒鳴り声が飛んでいる。

 部下が外で右に左に走っている時、本来彼らを率いるべき一刀が何をしているのかと言えば相変わらずの事務仕事だった。これぞ副官の仕事とばかりに、思春は甘寧隊ほぼ全ての事務仕事を押し付けてきたのだ。戦死者の処理に部隊の再編。しなければならないことは山ほどある。

 自分一人で決められるのならば良いが、資料を元に再編案を作ってもその決済には思春他、千人隊長の承認が必要だった。その彼らがまた捕まらないのである。

 接収した敵施設を使っているだけあって、まだ関全体の把握もすんでいない。安全が保障され自由に使って良いスペースが各軍に割り当てられてはいるが、その中ですらゴミゴミとしている有様だ。関全体について把握している人間は一人もいないという状況で、誰もが事態を把握しようと躍起になっている。

 そんなお祭のような状態が、一週間も続いているのだ。敵を倒すまでが戦ではないのだと思い知る毎日である。

 嵐のような忙しさであるが、最初の三日に比べればこれでも落ち着いてきた方だった。約二万人を越える捕虜の扱いと、敵味方合わせて十万を越える戦死者の処理である。書類についての処理は後でするとしても、伝染病などの元になる死体の処理は急務だった。

 しかも数が数である。関の内外に打ち捨てられた死体は放っておけば放っておくだけ、こちらに害をもたらす。各軍の兵達は共同でこの処理に当たり、全ての死体の大雑把な処理を済ませるのに昼夜兼業で二日かかった。只管穴を掘り、死体を運ぶだけの作業に比べればただ忙しいだけの日々など、天国にも等しいと言える。

 戦争がもうすぐ終わるかもしれない、という思いもそれに拍車をかけていた。

 董卓軍の要所は二つの関と洛陽であり、既に防衛拠点であるところの二つの関は攻略した。残っているのは洛陽であるが、非戦闘員を大勢抱える洛陽まで敵を呼び込んで戦うことはできない。戦うとなれば郊外の平地でということになるが、兵数においては既に互角、しかも勢いのある連合軍を相手に、董卓軍が持ちこたえられるとも思えない。

 どんなに遅くとも半年もあれば、洛陽を落とせるだろうというのは思春の分析である。兵を率いて戦う武将らしく、実に実践的な分析を披露してくれた思春であるが、そんな彼女も今は虎牢関にいた。

 孫策軍本体他、連合軍の主力は既に虎牢関を発ち洛陽に向かっている。

 つまりは、居残り組だ。勇猛果敢な思春はこの扱いが不満であるようだが、誰かがやらねばならないこと、そして位の高さと率いる兵の状況から見て、自分が適当だということで表面上は納得しているようだった。その皺寄せは周囲の人間に来ているが思春の周囲を固める直属兵たちは思春の過激なツッコミをむしろ喜んで受け入れていた。

 それには一刀にも原因がある。先の虎牢関での戦いの最中、一刀は思春に真名を許された訳だが、彼女が真名を許すということは彼女を知る人間にとっては晴天の霹靂であったようで、一刀がその真名を口にした時、孫呉軍に激震が走った。

 中でも直属兵達の反応は凄まじく、主孫策が関を落とした功労者となったことよりもめでたいことだと大騒ぎしたものだった。そんな乱痴気が思春に好かれるはずもなく、目に付くように大騒ぎをする人間は彼女の拳によって静かにさせられたが、その熱気はいまだに留まるところを知らない。

 当事者の一人である一刀にもその熱波はやってきたが、正直、真名がない環境で育ったせいか、真名を許されるということの凄さがどれほど凄いのかというのが、イマイチ実感できていないのである。大きな信頼の証というのは分かるが、それだけだ。

 逆に、真名を許されていないからと言って信頼されていないとも思わない。お互いの真名を知らなくても、信頼しあっている人間は大勢いるだろう。一刀にしても、奉孝や仲徳、士元のことは信用している。真名を許されている人間よりも下に見ているということは断じてない。

 ないのだが、どうも真名というのは一刀の理解よりも大変重要なものであるらしく、先を越された形になった軍師ズたちに大きな衝撃を与えたようだった。奉孝などは変にこちらを意識しているのか対応がギクシャクしていたし、仲徳は普段どおりに見えて言葉の端々に棘が見えるようになった。ちゃんと拗ねてくれた士元などかわいいものだったが、そのかわいさをからかっていられるほど一刀に余裕はなかった。

 真名を預けることが信頼を示す一つの手段であっても、真名を持たない一刀にはそれが使えない。これによる信頼関係の構築については必ず後手に回ることになるのだ。真名を預けるタイミングは人それぞれだろう。本当の本当に最後の手段としている者もいれば、比較的早い段階で預ける人間もいる。

 一刀にとっては灯里や思春は後者で、奉孝たちは前者である。それだけの違いであるのだが、早い段階から行動を共にしている奉孝たちからすれば、先を越された、という思いは強いに違いない。

 誰が悪いと判断できる問題でもないから、その感情は行き場所を見出せないでいる。

 その結果として現在の関係がギクシャクしてしまっている訳だ。結局、真名についてはよく話もできないまま奉孝と士元は孫策について洛陽に向かってしまったし、虎牢関に残っている仲徳も忙しいことを理由に話をする時間をもてていない。

 彼女らを仲間と信用してはいるが、気持ちがすれ違ったままでいるのに平気でいられるほど一刀の心は強くはない。何とかしていつも通りの関係に戻りたいと思いつつも、仕事が忙しいこともあり手を打てないでいた。今まで喧嘩したことはあったが、一週間もこんな状態になったのは初めてのことだった。仕事をしながらも、仲間のことを思う毎日である。

「団長、ただいま戻りました!」

 非常の関係に陥る人間もいれば、全く変わらない人間もいる。子義はいつもと全く変わらない屈託のない笑顔を浮かべて、部屋に飛び込んできた。訓練などがない時は、暇を持て余した彼はいつも一刀の近くにいる。今は難しい話をする面々がいないだけあって、顔を見る機会も多くなった。

 落ち込んでいる時に気を使わない存在というのはありがたい。その天真爛漫さを鬱陶しく思うこともあるが、子義だから仕方がないと諦めてもいる。

「おかえり、子義。ゆっくりして行け……といいたいところだけど、またお使いだ。甘寧将軍を見つけて、これを渡してきてくれ」

 たった今作成の終わった木簡を子義に渡す。部隊について、思春の決済の必要な書類だった。計算がほとんどできず難しいことを考えることの苦手な子義であるが、こういうお使いならば十全にこなす。これだけ広い虎牢関にあっても、何故だか人を見つけるのが上手いのだ。

 木簡を受け取った子義は分かりました! と元気な返事を返し、嵐のように部屋を飛び出していく。良く言うことを聞いてくれるし腕も立つ。周囲においておくのにこれほど安心できる人間もない。

 これでもう少しお勉強に興味を持ってくれれば、と思うものの、あれもこれも要求するのは間違いだと思い直す。灯里のようにどっちもできる人間の方が稀なのだ。既に才能を発揮している面もあるのだから、子義についてはそれを大いに伸ばしてくれれば良い。長所を可能な限り伸ばし、短所は皆で補ええば良いのだ。

 それが一緒にいるということだろう。考えることが苦手ならば、周りの人間が考えて支えてやれば良いのだ。

 仕事に一区切りをつけた一刀は椅子に背中を預けたまま、大きく伸びをする。本当に一人でやっているだけに士元に手伝ってもらった時に比べると非効率的だったが、流石に何度も書類仕事をしていればそれにもなれた。扱う規模と責任は大きくなったが、やっていることに変わりはない。作業効率も最初に比べると格段に上がっているだろう。

 作業量は増えているから疲れてはいるが、今はそういう時だと諦めてもいる。戦にも一区切りつき、留守居の部隊に割り振られたこともあって、虎牢関を前にしていた時ほどの緊張感はない。きちんと食事も取れるし、睡眠も取れる。夜中に敵襲と叩き起こされる可能性も少ない。

 少し前の環境に比べれば、天国だ。

 しかし、天国の中にあっても一刀の表情は晴れなかった。以前よりも仕事の内容や環境は良くなったのに、仕事量が増えたことを差し引いても精神的な疲れが溜まっているのである。

 その原因については嫌というほど分かっていた。

 同時に、それが取り除けない類のものであることが、一刀の頭痛の種となっていた。

「失礼、北郷一刀殿はおられるでしょうか」

 その頭痛の種が、畏まった声で扉を叩いている。陰鬱な気持ちが一刀の心を支配したが、それを吹き飛ばすように大きく息を吐く。自分の役割というものを思い出し、努めて笑顔に。微笑みを作ることには失敗していたが、仏頂面よりは大分マシだと割り切ることにして、声の主に入室の許可を出した。

 失礼します、と絵に描いたような兵の動きで入室してきたのは、銀髪の少女だった。

 日に焼けた浅黒い肌に、肌の上に走る傷。一目で歴戦の戦士と分かる佇まいだったが、その銀色の髪は一刀の記憶を刺激した。どこかであったことがあると思うが、それがどこだったのか思い出せない。こんなに目立つ容貌ならば会話をすれば忘れないと思うだが……

 数秒思考を巡らせた後に、一刀の脳裏に閃くものがあった。

 確かに彼女を見かけたことはある。

 ただし、会話をしたことはない。会ったのは戦場だ。虎牢関攻略戦、曹操軍の援護に駆けつけた時、彼女はそこで戦っていた。遠目に見ただけだからあの時は性別すら分からなかったが、この銀髪、この雰囲気は一角の将で間違いはないだろう。

 あの時見た旗は『楽』。曹操軍でその姓を持つ将軍は、現在一人しかいない。

 自分よりも立場が上の人間の来訪に、一刀は席を立ち頭を下げた。

「北郷は俺です。曹操軍の楽進将軍とお見受けしますが、相違ありませんか?」
「ご丁寧にどうも。自分は確かに楽進ですが、そこまで畏まらなくともよろしいですよ。此度のことで北郷殿は甘寧将軍の副官に出世されたと聞きました。私も五千の部隊を預かる将ではありますが、まだ新参です。どうか楽になさってください」
「そう言っていただけると助かりますが、私の位は暫定的な物。将軍の職について日が浅いと仰いならば、私こそ暫く前までは百人隊長だった身。将軍に失礼な口は聞けません」

 軍という組織において上下関係が如何に大事かというのは、骨身に沁みて理解している。百人隊長は確かに部隊を預かる身ではあるが、将軍と言えば雲の上の人に等しい。甘寧と大体同じ位と言えば、アホの子の子義でもその凄さは理解できるだろう。所属する組織が違うのだからそれほどまでに敬意を払う必要はないと言う人間もいるだろうが、それでも将軍という位は無視できるものではない。

 それに、出世したと言っても言葉の通り、一刀の位はあくまで暫定的なものだ。仕事こそ副官と同じものが振られているが、あくまでこれは戦中の暫定処理なので、孫策からはまだ正式に認可されていない。従軍する前に奉孝たちが出したらしい条件にも反するから、正式に副官の地位を与えられることは恐らくないだろうと見ている。

 正式な将軍と暫定的な副官。その立場の違いは明らかだったが、楽進は引き下がることに難色を示した。

「しかし、北郷殿はかの飛将軍呂布を相手に一騎打ちを挑まれ、これを退けたとか。武勇について敬意を払うのは武人の常。何もそこまで遠慮されることはありますまい」

 微かな尊敬すら混じった熱い眼差しは、ここ数日見慣れた、そして一刀を悩ませているものでもあった。

 呂布の戟の前に晒された思春を身を挺して庇った。言葉にすればそれだけのことだが、自分で口にするには大分勇気の必要なそれが尾鰭をつけて広まっていた。

 呂布を退けたというのが、何故か事実として広まっているのである。事実に反するのならばこれを収める必要があると思うのだが、孫策陣営はこれを助長してた節すらある。使える物は何でも使おうという魂胆なのだろうが、噂の主人公にされた人間は溜まったものではない。

 自分のしたことが正しく評価されそれで褒められるのならばまだ受け入れることもできるが、恐ろしいまでに誇張されたソレは一刀を苦しめるだけだった。やってくる人間を前に否定することは簡単だが、主筋の人間が否定しなかったそれを立場の弱い人間が否定するのは角が立つ。

 結果、日本人らしいアルカイックスマイルを浮かべてなぁなぁでやり過ごすのが一刀の常となっていたが、それが一刀の精神力をゴリゴリと削っていた。身の丈に合わない嘘をつき続けるというのは、神経をすり減らすものなのである。

「運が良かっただけですよ。それに甘寧将軍の助力もあってのこと。俺一人の力ではありません」
「……」
「何か? 楽進将軍」
「いえ。手柄を上げた人間はそれを誇るものですが、貴方は実に謙虚であられる。それに感心していたところです」
「お褒めいただき恐縮ですが、自分の武はいまだ誇れるものではありません。日々精進。この言葉を痛感する毎日です」

 本心を言っただけだが、楽進はさらに尊敬の念を強くしたようだった。犬気質とでも言うのか、どこか子義に通ずるものを感じる。基本的にこちらの話を聞いてくれるが、根本にあるものは梃子でも動かない。そんな良く言えば芯の強さ、悪く言えば頑固な内面を感じつつ、一刀はポットに手を伸ばした。

「ところで楽進殿、お時間はよろしいですか?」
「しばらくは大丈夫です」
「それは良かった。実は休憩をしようと思っていたところなのです。宜しければ付き合っていただけませんか?」

 誤魔化しの言葉を使うまでもなく粗茶であるが、一応、お茶が用意してある。

 将軍さまに振舞えるようなグレードのものではないが、これが用意できる限界なのだから仕方がない。部屋の様相から、お茶がどういうものかくらいの判断は相手にもつくだろう。拒絶するならばそれで良いくらいのつもりで問うてみたが、意外なことに楽進は二つ返事でOKを出した。

「貴方さえよければ、是非に」
「おかけください。今、用意をしますので」

 椅子を勧めて、お茶の準備をする。子義がいれば彼に任せるのだが――決して上手い訳ではなにが、やらせないと怒るのだ――彼は今お使いで席を外している。この部屋で客をもてなすのも初めてだな、と詮無いことを考えながら、自分と楽進の二人分の椀を用意し、楽進の対面に座る。

「どうぞ、粗茶ですが」
「いただきます」

 丁寧に礼を言って、楽進は椀に口をつける。客人が口をつけたのを見て、一刀もそれに倣った。可もなく不可もなくのお茶である。実に今の自分に合ったレベルだと思ったが、果たして楽進の口に合うのかどうか。椀を投げ返されでもしたらどうしようと今更不安になる一刀だったが、楽進は済ました顔で椀をそっと机の上に戻した。

 顔を見る限り、不満はなさそうである。文句が出なかったことに、心中でそっと安堵する。

「北郷殿は――」
「失礼。俺はそれほどの身分ではありません。そこまで畏まらなくても良いですよ?」
「貴方はそう仰りますが、私にとってはそう簡単な話ではありません。まして貴方は他の勢力に所属しておられる。失礼があっては、我が主の沽券にも関わるのです」
「では、個人的に友誼を結びませんか? 友情に乗っ取り、この部屋で起きたことは口外しない。それならばもっとざっくばらんに行けるでしょう?」
「ですが……」
「もっとも、私などと友人になりたくないというのなら、話は別ですが……」

 わざと悲しそうな表情を作ってみせると、楽進はぐぬぬ、と呻いた。隠し事や腹芸のできない性格なのだろう。分かりやすいその反応に一刀は好感を持ち、友達になってみたいという思いを強くした。

「……お前は少し、性格が悪いな」
「最近は持ち上げられてばかりだったからさ、たまには仕返ししてみたくもなるんだ」
「それを何も私にしなくても良いだろう?」
「都合よく俺の前に現れたことを、不幸だと思ってくれ」
「私のことは、文謙と」
「俺のことは一刀で良い」

 笑うと、楽進も一緒になって笑ってくれた。

 それから話したのは、あまり大したことではなかった。お互いの身の上話をしたり、部隊の動かし方について話してみたり。驚いたことに楽進は将軍としてのキャリアが浅いだけでなく、従軍の経験も浅いということだった。兵になってからの期間は一刀とそれほど差がないのである。

 それで将軍というのだから、能力の高さが伺える。奉孝たちの力を借りてようやく百人隊長になった身分からすると、羨ましいことこの上ない。

「虎牢関では手柄も立てたのだろう? そう遠くないうちに領地を貰えるような身分になれると思うがな」
「どうだろう。それについては雲行きが怪しくなってるような気がするよ」

 臨時雇いという契約ではあったが、自分はともかく有能な三人の軍師を孫策が手放したがると思えない。約束を反故にしないまでも、強烈に引き止めるくらいのことはしかねない強引さが孫策にはあった。

 奉孝たちも時代を代表する軍師であるとは言え、今は流浪の身。地盤をしっかりともった孫策に強く出られては、断りきれるかどうか怪しいものだ。

 それをどうにかするのが軍師の腕の見せ所だと奉孝は言っていたが、果たしてその弁論が孫策と周瑜相手にどれだけ通じるものか……頭の回転が遅いと自覚している一刀にさえ、旗色は少々悪いように思えた。

 孫策陣営に就職となれば、領地を得て上を目指すというのは難しくなるだろう。奉孝たちはともかく、自分一人で領地を任せられるほどの才覚を示したとは思えない。領地をどうこうというのは、あくまで奉孝たちがセットだからこそ考えられることだ。自分一人では精々部隊長が良いところ。条件が整っていることもあり、このまま甘寧の配下に納まるというのが、一番ありそうな未来に思えた。

 それはそれで良いかな、とも思える自分が悔しい。甘寧はどうも自分のことを信用してくれているみたいだし、それに応えたいと思う自分もいる。怖くて口にできていないが、最悪、孫策陣営に所属するのでも良いとすら一刀は思えていた

 勿論、独立して上を目指すという奉孝の論を軽んじている訳でもないが、今のままではそれも厳しいかもしれない、というのは肌で感じていた。

 およそ自分の関係ないところで、処遇は決定するだろう。ここまでの働きがどう評価されるのか、それは一刀には分からないことだった。

「そろそろお暇する。久し振りに楽しい時間が過ごせた」
「良ければまたきてくれよ。俺も書類仕事ばかりで退屈なんだ」
「時間が作れれば、そうしよう。私も楽しかった」

 差し出された楽進――文謙の右手を、握り返す。徒手を得意とするだけあってゴツゴツとした女の子らしくない手だったが、不思議と暖かい。ぎゅっと握り返すと、照れた表情を浮かべて視線を逸らす。女の子らしい仕草が、実にかわいらしい。

 ではな、と文謙が踵を返しかけたところで、扉を叩く音がした。思わず顔を見合わせる。別に良い、という返事があったので一刀は入室を許可した。

 失礼する、という短い言葉と共に扉を開けた声の主は、まず一刀を見て、隣に立つ文謙を見て、困ったような表情を浮かべた。あー、とかうー、とか意味のない言葉を数秒続けた後に、

「お邪魔だったのなら出直すが……」

 実に申し訳なさそうな口調に、思わず肩をこけさせた。

「お邪魔などとんでもない。お会いできて光栄です、公孫賛殿」

 先に立ち直ったのは文謙だった。彼女はさっと居住いを正すと、軍人らしい所作で声の主――公孫賛を迎え入れる。文謙が将軍ならば公孫賛は一軍の長だ。連合における立場で言えば、文謙の主である曹操と同等の立場である。畏まった態度も当然と言えばそうなのだが、型どおりの文謙の反応に、公孫賛はさらに困惑を深めた。

「別にそこまでしなくても良い。私はただ、噂の北郷一刀の顔を見に来ただけで、部隊の検分をしにきた訳じゃないからな」
「そういう理由でお越しならば、私こそがお邪魔でしょう。一刀のことは存分に。私はこれで、失礼致します」

 ではな、と短く挨拶をして、文謙は脇目も降らずに部屋を出て行った。引き止めるための言葉を出す間もない、見事な引き際だった。

「何だか、本当に邪魔したみたいだな」
「お気になさらず。あれは奴の性分のようなものです」
「アレは確か曹操軍の将軍だったな……友人なのか?」
「はい。と言っても、友人となったのはついさっきのことなのですが」
「その割りには随分と親しそうじゃないか。英雄色を好むというのはこのことか?」
「お戯れを……」

 尾鰭のつきまくった噂については聞き及んでいるようで、静かに抗議の声をあげる一刀を公孫賛は豪快に笑った。

「まぁ冗談はさておき、だ。呂布を退けたという噂の男を一目と思ってきたんだが……私はどうも相当出遅れたらしいな」
「確かに嫌味も賛辞も一通り言われた後ですが、公孫賛殿は忙しくてらっしゃいますから」

 一軍の長であるのに居残り組。そう考えると今の立場を押し付けられたようにも思えるが、虎牢関に残った戦力の指揮を自ら請け負ったのが、この公孫賛なのだった。誰もが手柄を欲する中での立候補である。当然それには裏もあるのだが、諸侯はこれに諸手を挙げて賛成した。

 すんなりと虎牢関の暫定責任者となった公孫賛は様々な勢力の戦力を纏め上げ、一つの組織として見事に運用している。

 目立ったところはないが、実にそつなく仕事をこなすというのは仲徳の弁である。悪く言えば『普通』ということあるが、それは全ての能力が高水準で纏まっているということでもあった。上を目指す一刀としては見習わなければならない人間の一人だ。

「ところで公孫賛殿、氾水関ではお世話になりました」
「確かに私は氾水関の戦に参加したが……すまん、お前のことは記憶にない」
「無理もありません。私はただの百人隊長でしたから。味方の合流に遅れて敵に包囲されかかっていた我々を、救ってくださったのが公孫賛殿の白馬陣だったのです」
「すまん。そこまで言われても思い出せない。甘寧隊の近くの通った記憶は何度もあるんだが……」
「無理もありません。俺の部隊は旗も出していませんでしたから」
「百人隊じゃしょうがないかもな。でも、今度のことでお前も自分の旗を立てられるくらいにはなるだろう。それなら、今度すれ違ったとしても絶対に記憶に残るな。北郷なんて姓を戦場で二つも見るとは思えないし」
「旗ですか……」

 考えたこともなかったが、順当に出世を重ねれば立てることになるものだ。自分の姓が旗になって翻っているのを脳裏に描いてみるが……それがあまりにも様になっていなくて、思わず噴出してしまう。

 何より、ただ一文字の旗ばかりの中で北郷と二文字も使うのは座りが悪いように思う。それを素直に口にしようとする一刀だったが、寸前でやめる羽目になった。座りの悪い二文字姓の人間が、目の前にいたからだ。

 何かを言いかけたのを引っ込めた様子の一刀に、公孫賛は怪訝な顔を向ける。一刀は取り繕うように咳払いを一つ、

「お、俺には柄ではないような気がします」
「名誉なことなんだけどなぁ……でも、実感が湧かないというのも良く分かるよ。私も初陣を迎える前まではそうだった」
「姓を堂々と掲げるというのも何だか偉そうな気がするのですよね。それならばもう少し分かりやすい、文字が読めない人間でも俺と分かるようなマークの方が良いと思うんです」
「まーく?」
「あぁ、失礼しました。地元の方言でして何と言いますか、記号のようなものです」
「記号か……それも良いかもしれないな。それを見れば誰もがお前を思い描く、というのもそれはそれで素晴らしいじゃないか」
「何か良いお知恵はありますか?」

 この際だからと聞いてみる。それくらいは自分で、と突っぱねられるかと思ったが、公孫賛は嫌な顔一つすることなく付き合ってくれた。悩むこと数秒、

「十字というのはどうだ? 十字を描いて、それを丸で描こうんだ。難しい記号でもなし、それなら誰でも理解できるだろう?」
「急な時、自分で書くこともできそうですね」
「……まぁ、書きやすいということは偽造されやすいということでもあるから、一長一短なんだがな……だが、理解しやすいという一点に限って言えば、これ以上はないだろう」
「大変参考になりました。いずれ俺がその旗を作った時には、真っ先に公孫賛殿にお見せしますよ」
「その時お前が敵でないことを祈ってるよ。何しろ、呂布を退けた男だ」



「急報でごさいます!」

 ノックもせずに部屋に飛び込んできたのは、見覚えのない男だった。急な来訪に一刀は腰の剣に手を伸ばしかけるが、それを制したのは公孫賛だった。

「私の部下だ」

 静かに言った公孫賛は男の差し出した木簡を受け取った。男の退出を待つでも、一刀に退出を促すでもなく公孫賛はさっと木簡を広げる。素早く目を通した公孫賛の顔に、驚愕の色が浮かんだ。ついで、顔が段々と赤く染まっていく。羞恥ではなく怒りの赤だ。木簡を握り締める手はガタガタと振るえ、今にも木簡を握りつぶしそうだった。

 読み終わった木簡を畳むと、持ってきた男に返す。男は入ってきた時と変わらぬ勢いで部屋を飛び出していった。

 怒りを納めるのに時間をかけている公孫賛の、怒りがおさまるのを辛抱強く待つ。

「良い知らせと悪い知らせ。どっちから知りたい?」
「俺が聞いても良いのですか?」
「誰かに話したい気分なんだ。頼むから聞いてくれ」
「では、良い方から」
「董卓軍は洛陽から撤退したようだ。大きな戦端が開かれることはなく、こちらにはほとんど被害はでなかったらしい」
「では、誰が洛陽に一番乗りを?」

 公孫賛は言葉を切った。忌々しそうに顔を歪め、天を仰ぐ。

「……事実だけを言うのならば袁紹だが、今現在連合軍の誰も洛陽の中に入っていないそうだ。皇帝陛下の命により、連合軍の将兵は全て、洛陽に立ち入ることを禁止されている」
「一体どういうことです?」
「袁紹軍が洛陽の民に手を挙げたそうだ。董卓軍の残党が民の中に紛れて扇動したという情報もあるが、定かではない。結果として袁紹軍は民を相手に乱闘騒ぎを起こし、それが広がり街に火までついたらしい。最終的には禁軍まで出動する騒ぎになったようだ」

 一刀は額を押さえて、大きく溜息をついた。考えうる限り最悪の結果だ。董卓軍の圧政から民を解放するという名目で起こった軍が、その民を害していては何が何だか分からない。

 これから、連合軍はどうするのだろうか。

 まさかその乱闘騒ぎに袁紹自ら加担したとも思えないが、兵がそれに参加したのなら責任者が責任を問われるのは自然の流れである。

 しかもそれが連合軍の盟主であるのだから、付き合って共にここまで来た諸侯たちも立つ背がない。首脳会議はどれだけ重苦しい空気に包まれているのか。想像するのも恐ろしい。

「どういう結果に落ち着くとしても、一度軍は合流することになるだろう。お前の上司の甘寧にも、既にこの情報は行っているはずだ。すぐに召集がかかる。どういう答申をするのか、今から考えておいた方が良いぞ」
「公孫賛殿は、どうするのですか?」
「私は……一足先に領地に帰ることになるかもしれないな。こういう形になったら、あの麗羽もさらになりふり構わなくなるかもしれない」
「袁紹……殿と戦になるということですか?」

 癖で呼び捨てになりそうになったのを、慌てて補足する。一刀の物言いに公孫賛は苦笑を浮かべたが、突っ込んでくるようなことはしなかった。

「元より邪魔な董卓を皆で排除しようと起こったのが連合軍だ。その董卓を排除できたのなら、次はお互いを蹴落とす番だ。間の悪いことに、私の領地は麗羽――袁紹と隣り合っているからな。南下して曹操を叩くよりは組みやすいと見て、真っ先に戦をしかけてくるのは間違いない。準備だけはしてきたが、すぐにでも防備を強化しないと、なし崩しに領地を取られることになるかもしれない」
「黙って聞いておいて何ですが、俺にそこまで話しても良いのですか?」
「聞いてほしいといったのは私だぞ? まぁ、お前に知られたところで、困ることは何もない。袁紹が私の土地を狙っているというのはここに詰めている将兵なら誰でも知っていることだしな」

 曹操と公孫賛。先にどちらと戦うかと考えれば、ほとんどの人間が後者を選択するだろう。

 まして相手はあの袁紹だ。此度の戦で戦力を減らし、不名誉を得た彼女が率先して強敵たる曹操に挑むとも思えない。挑むのならば公孫賛だ。それも、可能な限り早い段階での開戦が予想される。

「御武運をお祈りしています」
「そんな泣きそうな顔をするなよ。私だって負けるつもりで戦をするんじゃない。やる以上は、勝つつもりでやるさ。都合の良いことに今回の戦で袁紹軍は兵を多く失ったし不名誉も負ったが、私は桃香と一緒に名を挙げることができた。案外、あっさりと私が勝つかもしれないだろ?」

 軽く笑ってみせる公孫賛に、一刀も釣られて笑った。
 
 その言葉を一番信じていないのは、当の公孫賛本人だろう。不名誉を負い、兵を多く失ったところで袁紹の最大勢力はいまだ揺るがない。公孫賛も優れた武将であるが、数の力を覆すのは並のことではないのだ。二度の大きな戦で、一刀はそれを嫌というほど思い知ったばかりである。

「じゃあな。次に会う時には、お前の旗を見せてくれよ」
「約束します。重ねて、御武運をお祈り申し上げます」

 ひらひらと手を振って、公孫賛は部屋を出て行った。

 急報、と子義が部屋に駆け込んできたのは、それからしばらくしてのことだった。










 
















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