視野が暗くなる・・意識が混濁する
肉体という名の器が限界に瀕している、そして肉体の限界と共に魂が消え去ろうとしている
言葉を発する事も出来なくなった声帯、動かなくなった唇、もし動くならば笑っていただろう、自身の不様さに嫌気がさして
いや・・・上記には間違いがあった、死にかけているのは肉体ではなく魂、このズタボロで出来損ないじみた肉体は絶対に死なない、例え銃弾が肉を貫こうと・・肉と肉が切り離されようとその度に再生するだろう、忌々しいナノ・マシンの恩恵によって
脳漿をぶちまけられたとしても体内のマシンが分散記憶しているログを元にエミュレート、そして再生された脳内に強制書き込みを行いモノの数週間で再起動した
自分の夢・・復讐を終えた自分には死とは唯一、至高の選択肢だった、死とは終焉を意味している
全ての人に等しく訪れる其れを夢見た俺は自分から活動を停止しようとしている
それが・・今の自分、テンカワ・アキトにとっての唯一の思考だった
・ ・
・
いつのまにか其処にいた
一面真っ白
まるで自分が壁画の一部ではないかと錯覚するほどの白
知覚も白く
認知も白く
全てが白く
歩を進める、天国にしては殺風景だ
だが落ち着く、何も無いと言う事は全てが同時に存在しうると言う事だ、だが此処には自分が存在している、つまりは此処には少なくとも何処かしらの空間、化け物の様にデカイのか、はたまた知覚可能領域を逸脱しているのか
もし此処が無ならば自分という異物を内包した空間は崩壊する、其処には究極の虚無が有るだろう、自己を定義づける事が困難な世界が
だが・・遥か彼方、自分の知覚できたモノが一つだけ有った
点
遠すぎるためにそうとしか言えない
全てが白く、自身の立っている場所すら理解できない世界を歩く
それが自分の存在が発生した歪みの反作用ならば其れを目指す
理由も無く歩く
数分?
数日?
数年かもしれない
歩き続けた
其処には・・・少女がいた
膝を丸め、全身の包帯をまいた少女が
頭部の唯一出ている部分、左目を此方に向ける、其処には何の揺らぎも無かった、アキトをアキトと定義付ける全ての存在を認知していないかのような反応
ゆっくりとその少女の横に腰を下ろす
時が流れた
どのくらいか・・・時間という概念が霞むほど・・と言っておこう
ポツリと少女が喋った
「誰?」
酷くあどけなく、年相応の声で
俺は見返す
「アキト」
簡潔に、必要最低限の言葉を返す、同時に自分が喋れると言う事に初めて気付いた・・そして喋るという行為を思い出した
「君は?」
俺は問うた、同じく簡潔に
「素子」
ポツリと返す、世界に音が生まれた
閉ざされた質問、続かない会話
それがこの世界に響く
二人は喋り続けた、始まりは唐突に、終わりも唐突に
少女が立ち上がった
「行く」
瞳に意識が宿る、言葉に感情が宿る
「何処に?」
「私になりに・・・もう一度生まれに・・・アキトは?」
今までで最も長く言葉を紡ぐ少女
思うアキト、白い世界を見る、此処にあるのは白と少女と俺、それは混ざり合い混在している・・
「白は白く有るべきだ、俺も行こう」
世界は再び白く染まった・・いや、元の騒がしさを取りも出した
何も無いのではない、情報が多すぎたために脳が拒絶したのだ、情報の取得を
其処は広大なネットワークの中だった、人の脳と言う名の世界
広大で・・終わりが霞むほどの広さ
人は其れを『電脳』と呼んでいた
後に残ったクズ情報
やっちまっただ、題名と最後の言葉で判るでしょうが・・・